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Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

(1) 

2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。 

まえがき 

この規格は,工業標準化法に基づいて,日本工業標準調査会の審議を経て,通商産業大臣が制定した日

本工業規格である。 

JIS Z 8503には,次に示す附属書がある。 

附属書A(参考) 設計における解決策の例 

2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。 

日本工業規格          JIS 

Z 8503 : 1998 

(ISO 10075-2 : 1996) 

人間工学−精神的作業負荷に 

関する原則−設計の原則 

Ergonomic principles related to mental workload−Design principles 

序文 この規格は,1996年に第1版として発行されたISO 10075-2, Ergonomic principles related to mental 

workload−Part2 : Design principlesを翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日

本工業規格である。 

1. 適用範囲 この規格は,JIS Z 8502に示されている精神的作業負荷及びその影響に重点をおいた,作

業及び装置の設計,並びに作業場所及び作業条件を含む作業システム設計の指針であって,JIS Z 8502に

示すような減退的効果をなくすために,過大負荷及び過小負荷を防ぎながら,健康・安全,福利,遂行及

び効用の面で最適な作業条件を作り出すことを意図した作業及び人間の能力の活用についての適切な設計

に適用する。 

精神的作業負荷は,個人的,技術的,組織的及び社会的要因の複雑な相互作用の影響であるので,作業

システムの設計に当たっては,個人的,技術的及び組織的要因並びにそれらの相互作用の影響を考慮に入

れなければならない。しかし,この規格は,技術的及び組織的要因だけを示し,選抜,訓練又は社会的要

因の問題は,この規格の範囲外にあるので考慮しないこととする。 

この規格は,システム設計のための指針を示すものとし,精神的作業負荷の測定又はその影響は扱わな

い。 

この規格は,人間のあらゆる種類の作業活動(JIS Z 8502参照)を対象とし,いわゆる狭義の認知作業,

精神作業だけでなく,身体的負荷を主とする作業にも適用する。 

この規格は,このように,作業システムの設計及び使用に携わるすべての者,例えば,システム・装置

の設計者,雇用者及び被雇用者の代表者に適用する。 

この規格は,新たな作業システムの設計に適用すると同時に,大きな変更を行おうとしている既存のシ

ステムの再設計にも適用する。 

2. 引用規格 次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成す

る。この規格の制定時点では,ここで示す版が有効であった。あらゆる規格は改正されるものであるので,

この規格に基づくことに合意した関係者は,ここに示した規格の最新版を適用することの可能性を調べる

ことに努めるのがよい。 

ISO 6385 : 1981 Ergonomic principles in the design of work systems 

Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。 

ISO 10075 : 1991*) Ergonomic principles related to mental work-load−General terms and definitions 

備考 JIS Z 8502(人間工学−精神的作業負荷に関する原則−用語及び定義)-1994が,この国際規

格と一致している。 

3. 定義 この規格の目的のために,ISO 6385及びJIS Z 8502の定義を適用する。 

4. 設計の原則 

4.1 

一般的な原則 作業システムの設計によって利用者に悪影響が及ばないように,作業システムを利

用者に合わせる。作業システムの設計又は再設計では,人間工学専門家ができる限り早期に設計工程に参

加し,人間,技術及び組織の状態,並びにその相互関係をまず最初から考慮に入れる。システムの再設計

のように,利用者が既に存在しているならば,設計の質の最適水準を達成し,かつ,それを確認するため

に,彼らの経験及び能力を設計又は再設計の工程で統合して生かすことが望ましい。 

参考 この参加という方法によって,設計の質に関した利用者の期待を設計の工程に取り込むことが

できる。この方法によって,作業システムは利用者を指向したものとなり,利用者側に受け入

れられることになって,全体として作業システムの効率の向上に貢献する。 

完全に新しいシステムを設計する場合には,設計者は,想定される利用者層の能力,技能,経験及び期

待を考慮に入れるとよい。訓練は,作業システムの設計を助けるものとみなし,訓練なしではシステムが

最適化しないような,設計上の欠陥を補うものとみなさないほうがよい,ということを記憶しておくこと

が望ましい。 

システムの機能を定めるときには,設計工程の最初から利用者に対して配慮する。システムの機能及び

下位機能を決定したり,作業者と機械との間,及び異なる作業者間の機能配分を決定するときには,そこ

に関与する人間の特性を考慮する。 

作業システムの設計においては,作業は,課業の組合せを含むものとし,特定の作業環境の中で特定の

装置を使い,特定の組織構造の中で遂行されることに留意することが望ましい。 

参考 精神的作業負荷を考慮する場合には,これらのそれぞれの要素が作業システムの設計に影響を

及ぼすことになる。 

それ故に,設計の原則は,設計工程及び結果に次のように各段階で関与できる。 

a) 作業負荷の大きさに影響を与えるためには 

− 課業及び/又は職務の段階 

− 技術的な装置の段階 

− 環境の段階 

− 組織の段階 

b) 作業負荷を受けている時間に影響を与えるためには 

− 作業の時間的な構成 

附属書Aの表1は,設計工程の段階及び精神的負担の影響との関係を示したものとし,設計において適

用できる解決策の例も同時に示す。 

技量,遂行能力,動機付けなどのような,個人内で変動があり,同時に個人差もあるというような個人

的要因が結果的に作業負荷に影響を与えるので,前に述べたような選抜及び訓練を,作業システムの設計

                                                        

*) 改正される際に,この国際規格はISO 10075-1となる。 

Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。 

において適切に考慮する。 

作業システムの設計は,システムの機能分析から始まり,作業者と機械との間の機能配分,課業分析と

続き,最終的には作業者に対する課業の設計及び配分に至るものとする。人間工学専門家は,結果として

与えられる作業者への要求(特に精神的作業負荷に関して)を視点にいれて,これらの段階を遂行できる

ように,最初から必ずこの過程に参加する。 

参考 このような手順によって,システム設計の各段階で考慮されなければならない適切な要求事項

が明らかとなる。 

作業システムの設計においては,更に環境上の要求事項やシステムからの要請,問題への挑戦,及び人

間自身が,技能,能力及び期待の向上によって常に心に留めておくとよい。 

参考 このことは,システム設計はそのような変化に対応し,これらの要求に適応できるようにする

とよいということを意味する。これは,例えば,作業者が自分の状態に合わせて課業を機械に

割り当てたり,作業者自身に割り当てたりすることを許すようなダイナミックな課業配分によ

って実現できる。 

参考 精神的作業負荷は一次元的な概念ではなく,質的に異なった側面をもっており,それが質的に

異なる影響を及ぼす(JIS Z 8502参照)こととなる。したがって,作業負荷を過小負荷から最

適負荷へ,過大負荷へと一次元上に(量的に)並べるというような単純な考え方は適切ではな

い。精神的作業負荷の減退的効果の幾つかには共通の原因があるが,これらの効果が同一であ

ると誤って解釈してはならない。以下に示す指針は,JIS Z 8502に述べられている減退的効果

に従って構成されている。これが,設計者にとって精神的作業の減退的効果を避けるための適

切な方法を用いる助けとなるとよい。原則の幾つかは,これらの効果のうちの複数に適用され

るので,重複は避けられない。 

4.2 

疲労に関する指針 

4.2.1 

一般的な指針 精神的作業負荷は,大きさと時間,及び作業者が受ける作業負荷の大きさの時間配

分によって示すことができるものとする。量的な面のほかに,精神的負荷の質的な差が考慮されなければ

ならない。例えば,認知−動作作業に対する記憶の負荷の大きい作業である。このように,作業者の疲労

を少なくするということを考慮した作業システムの設計に対するアプローチの仕方のなかで最も重要なも

のは,作業負荷の大きさを減らす若しくは最適化する,その負荷を受ける時間を制限する,又は休憩を入

れてその配分を変えることである。しかし,作業能率が低下していないのに,精神的作業負荷を減らすこ

とは,必ずしも最適な方法ではないということを覚えておく必要がある。精神的作業負荷を最適水準より

下げることは,4.3〜4.5に述べるような障害を引き起こす可能性があるからである。 

4.2.2 

精神的作業負荷の大きさ 精神的作業負荷の大きさは,図1に示すように課業の段階から始まり,

認知,行動,環境及び組織の段階に至る次のような特性によって影響を受ける。 

4.2.2.1 

課業の目標のあいまいさ 課業目標のあいまいさは,作業者が課業を解釈し,優先して達成する

べき目標を決めるために必要とする。システム設計においては,明確な課業の目標が与えられ,かつ異な

った目標に対しては優先度が決められていなければならない。例えば,安全システムが機能するように維

持することは,生産効率に優先する。複数の作業者が関与するときには,作業者の間の課業の配分が明確

にされなければならない。 

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Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

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4.2.2.2 

課業の要求事項の複雑さ 複雑すぎるということは,作業者が与えられた時間内に決定するべき

ことが多すぎるということを意味する。想定した作業者層にとって複雑すぎる場合には,意思決定支援シ

ステムを用いるとよい。複雑さが低すぎることは,単調感又は心的飽和を引き起こすことがあるので,避

けるほうがよい。 

4.2.2.3 

処理の順序 複数の要求にこたえなければならないようなシステムでは,それにこたえるための

明確な戦略が与えられなければならない(例えば,先入れ先出しに対する階層的戦略)。先入れ先出し戦略

は,より単純であり,階層的戦略はより複雑であるので,場合によって異なる戦略を採用するのであれば,

どの場合にどの戦略に従うかの条件は,常に明確に理解できるものであることが望ましい。 

図1 精神的作業負荷と設計の各段階との関係 

4.2.2.4 

情報の適切さ 作業者は,不完全な情報をもとに,又は与えられた全情報の中から関連する情報

を選び出して意思決定をしなければならないから,不必要な情報はもちろんのこと,情報の欠落は精神的

作業負荷を増すので,課業を達成するために必要な情報が与えられなければならない。 

4.2.2.5 

情報のあいまいさ 情報のあいまいさは,作業者に情報を解釈することを要求するので,例えば,

表示システムでは範囲の情報(受容可能,受容不可能)を明示するなど,情報はあいまいさのない方法で

提示されることが望ましい。 

4.2.2.6 

信号の判別性 無関係な背景情報に対して信号のもつ情報の判別性が低いときには,作業者は,

信号を抽出するための努力を要する。信号の判別性は,例えば,信号の強さを変える,形,色,間隔,時

間的特性などを用いて異なった表示をする,背景(ノイズ)の強さを低くする,並びに技術的システムに

よってマスキング及びフィルタリングを行うことによって改善する。 

Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

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4.2.2.7 

冗長性 冗長性のある情報の表示によって,作業者が表示された情報をクロスチェックするのを

助けることができ,一方,表示された情報の冗長度が高すぎると作業者を混乱させることになり,精神的

な作業負荷を増大させるので,冗長性は作業の要求に応じて設計されるのがよい。可能な場合には,作業

者が,課業を達成するために最も自分にとって適切であると感じるように,冗長性の程度を選択できるよ

うにするのがよい。 

4.2.2.8 

適合性 情報の表示,制御動作又はシステム応答が一般の利用者の期待と一致しないときには,

情報の混乱を招き,作業者は要求される作業を達成するために,特別の努力を必要とする。例えば,制御

操作器を右に回すと,システムの反応又は表示上の動きは増加の方向になるのがよく,減少の方向になら

ない,又はシステムを停止しないほうがよい。制御とシステムの動特性との適合性には特別の注意を払う

のがよい。例えば,ゼロ次制御システムにはゼロ次制御操作器を用いる。 

4.2.2.9 

情報処理の精度 必要な精度の要求(例えば,人間の能力を超えた)によって起こる精神的作業

負荷の増大は,適切な解答若しくは情報の提示(情報表示装置に対して),又は制御の動特性(入力機器に

対して)による技術的支援を行うことによって,適切な水準まで下げることができる。 

4.2.2.10 並列処理と逐次処理 処理する者への要求の程度から考えて,一般に逐次処理の方が並列処理よ

りも望ましい。異なったところから発生した情報の比較を行わなければならないときには,この情報は,

並列に提示されるほうが望ましい。関係の認識が必要とされる場合には,並列情報提示の方が逐次情報提

示よりも望ましい。 

4.2.2.11 時間分割 もし注意力を必要とする制御を要求される二つ以上の課業が同時に行われなければ

ならないとすると,すぐに処理の限界に達してしまうので,逐次的な課業遂行が望ましい。自動的な情報

処理の誤りによって発生する誤りの結果があまり重大なものでない場合には,注意力を必要とする制御を

減らすことによって作業負荷を減らすために,課業のうち幾つかを定型作業化してもよい。 

4.2.2.12 時間遅れ 応答に時間遅れのあるシステムでは,要求される制御動作を正しく行うために,シス

テムの応答を頭の中で予測することが作業者に要求されるので,時間遅れは避けるほうがよい。もしこれ

が不可能な場合には,クイックニング表示又は予測表示を用いるとよい。 

4.2.2.13 メンタルモデル システムの機能又は工程について頭の中で描いているものが,矛盾していたり,

不完全又は欠損のある場合には,作業者はシステム制御のために特別の努力を払うので,システムの設計

及び配置は,作業者の機能に見合った水準で,作業者がその工程を理解できるように行うのがよい。情報

は,サブシステム間の関係を示すような方法で与えられるべきである。例えば,フローチャートによるか,

時間に関係したシステムの反応の記録によるか,作業者の制御動作に対してシステムがどう応答するかの

経験を築く機会を与える。 

4.2.2.14 絶対的判断と相対的判断 絶対的判断では参照基準を記憶していなければならないが,相対的判

断では,同時に与えられた参照基準をもとに決定する点で遂行するのがより容易であるので,相対的判断

は絶対的判断よりも望ましい。相対的判断では,決定するための情報と比較することができるように参照

基準を表示する。 

4.2.2.15 作業記憶の負荷 作業記憶,すなわち,情報が,後に頭の中で描いた文脈の中で再生するように

長期記憶に保存される前に,あらかじめ,かつ一時的に不安定な形で保存される記憶は,情報が相次いで

出現すると過大負荷になるので,連続的に情報が現れる場合には,作業者が関係する情報を選択して,記

憶するときに,短期記憶が過大負荷にならないように,十分な時間を与えることが望ましい。 

Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。 

4.2.2.16 長期記憶の負荷 適切な情報検索,取出し手段を用意することによって,不必要な長期記憶の負

荷を避けるとよい。例えば,作業者が要求したときに使えるヘルプ機能(いろいろな詳しさでの)を備え

る。これは,作業者が複雑な情報,又は同じ課業若しくは異なった下位の課業に関する異なった形式の情

報を記憶したり再生したりする負担を軽減する。 

4.2.2.17 記憶の再認と再生 記憶された事項の再認は,再生よりも容易で効果的であり,選択肢を表示す

ることは,作業者に関連する事項を思い出させるよりも効果的で要求が少ない。 

4.2.2.18 決定支援 結果を完全には予測できないような意思決定を行う場合には,作業者の負担が増大す

る。特に,その結果が異なる見地から評価を受ける場合,例えば,生産上の損害,人間の安全などの場合

には増大する。このような場合には,作業者の行動の結果を予測することのできる決定支援システムを与

えるとよい。 

4.2.2.19 制御性 ダイナミックなシステムは,作業者が制御可能でなければならない。制御性は制御の次

数,制御の動きの次元,システム応答の時間遅れ,作業者の制御動作のフィードバックとしての情報表示

の時間遅れ,及び表示−制御の適合性に依存するものとする。高次の動特性は,精神的な作業負荷を増加

させるので,二次を超える動特性は避けるのがよい。時間遅れは,動特性にもよるが,作業負荷を増大さ

せるので避けるほうがよい。表示−制御関係の不整合は,特別の努力を要求し,誤操作を引き起こす。し

たがって,表示−制御を適合させなければならない。 

4.2.2.20 制御動作の空間的次元 作業者が制御動作を行う上で,例えば,平行移動と回転を同時に行うな

ど,多数の空間的次元を協応させる必要のある場合,このような次元の数は可能な限り,最小限にするの

がよい。制御動作で空間的次元を組み合わせて用いる場合には,特別の注意を払うのがよい。 

4.2.2.21 制御対象の動特性 作業者の入力に対するシステムの応答が,例えば,応答を時間で積分するな

どの,複雑な動特性の評定を必要とする場合,高次の制御の動特性が必要なところでは,作業者を技術的

システムによって支援するとよい(例えば,積分器,微分器,増幅器)。 

4.2.2.22 トラッキング行動 トラッキング行動が異なれば,作業者は異なった操作を行う必要がある。例

えば,追従動作は,作業者が目標とカーソルの動きとを並列に追うが,補償動作では,作業者が目標とカ

ーソルとの関係を記憶し,自分の応答を調整する。追従トラッキングは,制御の誤差だけでなく実際の位

置を表示するので,一般に追従トラッキングの方が補償トラッキングより望ましい。 

4.2.2.23 誤操作の許容 システムは誤操作を許容するほうがよく,一つの作業者の誤操作が破局的な結果

をもたらさないようにするのがよい。システムは,実行する前に起こり得る結果を指摘しながら,重大な

行動の実行確認を要求しなければならない。可能であれば,作業者の最後の行動は,旧状復帰可能とする

のがよい。 

4.2.2.24 誤操作の影響 人間の起こす誤操作の影響は,例えば,一貫性のチェックや冗長性を付与するな

どのシステム設計によって,最小限にとどめるようにしなければならない。また,作業者の負担軽減には,

システム全体に危機的状況が広がらないようにする安全障壁を設ける。 

4.2.2.25 環境的側面 環境条件を適切に設計し,情報の知覚及び処理のための最適な状態を作る(例えば,

照明,騒音の低減)ことによって,精神的作業負荷の大きさを減少させることができる。 

4.2.2.26 社会的相互関係 社会的な相互関係の機会をもつことは,重大な決定を行うときに周囲の人の支

援を得る助けとなるので,課業及び装置の設計においては,必要な,又は少なくとも最低限の社会的相互

関係を確保しなければならない。 

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4.2.2.27 他人の課業遂行への依存 共同作業者の課業遂行に左右されることは,負担を増大させるので,

避けるほうがよい。例えば,バッファを設けることによって課業遂行の連結を外して,自律性を増すよう

にする。 

4.2.2.28 課業の要求事項の変化 作業負荷を減少させるために,一つの職務の中の課業の要求事項を変化

させ,異なった情報処理の能力を使わせてもよい。 

4.2.2.29 時間の切迫 時間が切迫すると,課業の遂行を急ぐ結果としてエラーを導くので,行っているこ

とが結果に関して大きな影響をもつ場合には,期限に間に合わないかもしれないという時間の切迫によっ

て負担を増加させることは避けることが望ましい。 

4.2.3 

作業負荷の時間的な配分 精神的作業負荷の大きさのほかに,作業負荷の時間的な配分が,作業に

よる疲労にとって重要であり,作業時間と作業による疲労との間には,一般に指数関数の関係があるので,

過大負荷を避けるために,次のような要因に注意を払うとよい。 

4.2.3.1 

作業の持続時間 作業負荷の大きさ及び持続時間は,作業による疲労を指数関数的に増大させる

影響を及ぼすので,作業持続時間は,作業負荷の大きさによって調整されなければならない。作業時間は,

疲労の影響が現れない範囲の時間に限らなければならない。1時間作業時間を延ばしたとしても,疲労及

び順応過程によって生産量は直線的には増加しないということに留意しなければならない。 

4.2.3.2 

連続した作業日又は勤務シフトの間の休日 前の勤務シフトによる疲労を完全に回復するため

に,連続した勤務シフトの間の休日を適切に与えなければならない。 

4.2.3.3 

時刻 人間の能力は,日周リズムの変化によって影響を受け,夜間の能力は昼間の能力よりも劣

るので,夜間での作業能力の要求は,昼間の作業と比較して減少させなければならない。例えば,夜間に

は人員を増やすか,又は休息を多くする。 

4.2.3.4 

交替勤務 交替勤務では,作業者が日周変化に対処して能力的,生理学的及び社会的に同調する

ために特別の努力を必要とする。交替勤務は健康及び福利に対するリスクとなるので,できるだけ避けな

ければならない。交替勤務が避けられないところでは,人間工学的に設計された交替のスケジュールが採

用されなければならない。 

4.2.3.5 

休憩と休息 疲労から回復する機会を与えるために休憩を取り入れる場合には,最初から疲労の

進行を防ぐように休憩を取り入れることが望ましい。休憩のない作業時間と疲労との間には指数関数的な

関係があり,回復も指数関数的であるので,短い作業時間の後に短い休憩をとるほうが,長い作業時間の

後に長い休憩をとるよりも望ましい。例えば,55分間の作業の後に5分間の短い休憩を計6回とるほうが,

6時間の作業の後に1回だけ30分の休憩をとるよりも望ましい。夜間作業の作業と休息とのスケジュール

においては,昼間作業よりも作業時間を短くするほうがよい。 

4.2.3.6 

課業行動における異なった課業要求への変化又は精神的作業負荷の種類の変化 精神的作業負

荷においては,例えば,監視作業から手動制御へ,又は論理的分析から日常的な操作へというように,課

業要求を異なるものに変化させることによって,休憩又は休息と同等の効果を得ることができる。課業行

動におけるこのような変化を,疲労を防ぐために与えるとよい。 

4.3 

単調感に関する指針 JIS Z 8502に定義されている単調感が増大するような状態の主なものの一つ

は,注意領域が狭く制限され,認知的課業の困難度が低度から中等度で,繰り返し行うことが要求され,

かつ課業又は環境条件があまり変化せずに,そして特にこれらが長い時間にわたって行われる課業である

ので,これらの状態は,課業及び作業環境を適切に設計することによって避けるのがよい。技術的又は組

織的な方法で課業の設計を変えることができないときには,次の事項を考慮しなければならない。 

− 課業要求が狭く制限されているときの繰返し要素の機械化又は自動化 

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− 職務ローテーション 

− 職務拡大 

− 職務充実 

単調感は,次の場合に増大する 

− 共同作業者がいない 

− 周囲との接触の機会が少ない 

− 休息がない 

− 身体を動かす機会がない 

− 課業行動の変化する機会がない 

− 一日の時間(午後及び夜の時間は,単調感を引き起こしやすい) 

− 環境条件(例えば,ほどよい暖かさ) 

− 一様な聴覚刺激 

− 作業疲労 

したがって,これらの状態は避けるのがよい。これらは,適切な職務又は作業設計によって,特に次の

ような方法で防ぐべきである。 

− 認知の要素を入れることによる,課業の充実 

− 注意領域の拡大,例えば,より複雑な課業によって 

− 様々な課業を行う機会を設ける 

− 身体を動かす機会を設ける 

− (室内)気候状態の適切な設計 

− 騒音及び一様な聴覚刺激の低減 

− 適切な照明を備える 

− 共同作業者とのコミュニケーションを容易にする 

− 機械的なペースの作業を避け,自分のペースですることを認める 

− 休憩を入れる 

− 交替勤務が避けられない場合には,人間工学的に計画された交替のスケジュール 

4.4 

注意力の低下に関する指針 検出能力の低下を来すような注意力の低下,信号検出及び/又はシス

テム診断を必要とする作業システムの信頼性が低下することを防ぐために,作業組織はもちろんのこと,

適切な課業及び装置の設計を必要とする。 

特に,次の点を考慮しなければならない。 

a) 重要な信号を検出するために持続的な注意を必要とすることは,できる限り避ける。 

b) 長時間にわたる持続的な注意の必要を避ける。許容できる時間は,事象の発生率,信号の判別性,信

号の発生する確率,重要な信号の発生確率,及び無関係な信号の発生確率による。原則として,遂行

能力は,次のような課業で低下する。 

− 信号の発生率が低く,事象の発生率が高い 

− 重要な信号の発生率が低い 

− 信号の判別性が低い 

このような状態下では,極めて早く,例えば,10〜20分後に,遂行能力が低下するので,このよう

な課業は避けるのがよい。もしそれが不可能な場合には,組織的な方法を用いて,連続した課業を比

較的短時間だけ行うのがよい。そのためには,休憩による中断,職務ローテーション,又は課業内容

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の変化という方法をとることができる。 

c) 適切な表示の設計や作業環境(例えば,照明や騒音)の設計によって,適切な信号の判別性(目立ち

やすさ)を確保する。 

d) 参照基準を記憶しなければならない場合には,連続的な識別の要求を避け,適切な表示の設計によっ

て参照基準を与えて同時識別を行う。 

e) 信号の不確実性(時間的,空間的,目立ちやすさの)をできるだけ減らし,検出力を改善する。これ

を実現するために,フィードバック又はフィードフォワードを用いる。 

f) 

遂行能力を評価し改善するための技術的装置を作業者に与える。 

g) 単調感を導くような状態を避ける。 

4.5 

心的飽和に関する指針 作業者が心的飽和状態になるのを避けるために,繰返し作業の遂行は,避

けるのがよい。全く同一の課業要素を避けることによって繰返しを避けるだけでは不十分であり,遂行す

るべき課業又は下位の課業の構造的な類似性を避ける。類似若しくは同一の課業又は下位の課業を遂行し

なければならない場合には,作業者が,自分の課業遂行によって達成された進行の状況を知ることができ

るようにすることが不可欠である。 

これは,次の項目によって達成する。 

− 作業者と機械との間の適切な機能配分,例えば,単純な繰返し課業要素の自動化 

− 異なる作業者間の適切な課業配分,例えば,各作業者に同一の課業だけを配分する代わりに,異

なった課業要素の組合せを与える。 

− 課業を断片としてではなく,一つの単位として認識できるような,また,作業者が課業全体の達

成に関与することを理解できるような,意味のある課業を与える。 

− 個人の向上を考慮に入れた課業,例えば,何かを学習できる,又は学習しなければならないよう

な課業で,技能及び能力の向上の程度によってやり方を変えるように考慮した課業,を与える。 

− 職務充実,すなわち,異なった操作水準の課業要素を組み合わせる。例えば,検査業務と保全業

務との組合せをする。 

− 職務拡大,すなわち同じ操作水準の異なった課業要素を組み合わせる。例えば,異なった部品又

は装置全体を組み立てる。 

− 職務ローテーション,すなわち特定の要求事項をもった異なる職位の間の体系的なローテーショ

ン 

− 休息を入れることによって作業工程の時間的構造を作る。 

− 段階的に課業を完成するために遂行目標を与えること,及び遂行状況のフィードバックによって,

作業工程を定量的に組み立てる。 

− 単調感及び/又は注意力低下を引き起こす状態を避ける。 

利用者の特性,例えば,教育,訓練及び経験は,心的飽和の進展に対して特に重要であることに留意す

るとよい。作業者は認知能力が増すに従って,構造的な類似性をより速く知覚できるようになり,心的飽

和を起こしやすくなる。それ故,心的飽和を避けるために,課業設計では想定される作業者層に特に注意

を払うことが望ましい。 

一般に,心的飽和を避けるためには,課業要求の多様性,及び課業の成績についての情報を必要とする。 

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Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。 

5. 情報及び訓練 この規格で精神的作業負荷に関する作業システムの設計,又は再設計のために推奨す

る一般的な原則に加えて,課業の設計においては,想定される作業者層(例えば,個人差に関して),並び

に課業要求における多様性,及び作業者の課業遂行状況に関する情報の必要性に特別の注意を払わなけれ

ばならない。 

作業者の精神的作業負荷を適切に維持しながら,システムの能力を最大に発揮させるために必要な情報

及び訓練の種類・量・質を,設計者は示さなければならない。 

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Z 8503 : 1998 (ISO 10075-2 : 1996) 

2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。 

附属書A(参考) 設計における解決策の例 

表1 設計の各段階において精神的作業負荷の減退的効果を避けるための, 

設計における解決策の例 

設計工程の
水準 

精神的作業の効果 

疲労 

単調感 

注意力の低下 

心的飽和 

課業及び/
又は職務 

課業配分,時間
分割を避ける 

課業配分,課業の
多様性 

注意の連続を
避ける 

小目標を与える,
職務充実 

作業装置 

あいまいさの
ない情報提示 

機械ペースの作
業を避ける 

信号の目立ち
やすさ 

課業達成におい
て個人のやり方
で行う機会を与
える 

作業者ペースの
作業を与える 

信号提示のモー
ドを変更する 

環境 

照明 

温度,色 

変化のない聴
覚刺激を避け
る 

変化のない環境
状態を避ける 

 
変化を与える 

組織 

時間の切迫を
避ける 

職務ローテーシ
ヨン,共同作業者
の存在 

職務拡大,職務
充実 

職務充実 

時間的構成 

休息 

休息 

交替勤務を避
ける 

休息 

JIS Z 8503原案作成委員会 構成表 

氏名 

所属 

(委員長) 

青 木 和 夫 

日本大学理工学部 

天 野   徹 

工業技術院標準部 

大須賀 美恵子 

三菱電機株式会社先端技術総合研究所 

肝 付 邦 憲 

千葉工業大学 

斉 藤   進 

産業医学総合研究所 

長 澤 有 恒 

日本大学生産工学部 

中 込 常 雄 

中込技術士事務所 

芳 賀   繁 

東和大学工学部 

林   喜 男 

武蔵工業大学 

藤 垣 裕 子 

科学技術庁科学技術政策研究所 

堀 野 定 雄 

神奈川大学工学部 

矢 頭 攸 介 

青山学院大学理工学部 

(事務局) 

梶 山 麻 美 

日本人間工学会(日本総合技術研究所)