2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
日本工業規格 JIS
Z 9204-1991
有効エネルギー評価方法通則
General rules for energy evaluation method
by available energy
1. 適用範囲 この規格は,エネルギーに関係する工業設備について有効エネルギー評価を行う場合の原
則について規定する。
備考 この規格の引用規格を,次に示す。
JIS Z 9202 熱勘定方式通則
2. 用語の定義 この規格で用いる主な用語の定義は,次のとおりとする。
(1) 状態 圧力,温度,密度,組成など熱力学的状態量で定まる状態。
(2) 系 物体又は物体の集合体が,その状態の変化に伴い,他の系に対し仕事Lだけを与え(熱の交換は
しない。),周囲環境に対し仕事Lʼ及び熱Qʼを与えるもの(図1)。
図1 系
備考1. 図2(境界線Iの範囲内)に系の具体例を示す。
2. 一般に,一つの系を幾つかの部分系に分けることができる(図1,図2)。この際,部分系と
部分系の間に熱の交換(伝熱)のあるような分割が必要な場合は,これらの部分系をまとめ
て一つの部分系(他の系と熱の交換をしない。)としたものに対して通常の系の法則が適用で
きる。
3. 仕事Lは,機械的仕事,電力,その他一切の力学的仕事をいう。
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図2 系(境界線I内)及び部分系(境界線II〜V内)の具体例
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3) 有効エネルギー ある与えられた状態にある系(物体)のもつ有効エネルギーEとは,その系がその
状態から周囲環境と平衡するまで変化するとき,他の系に与え得る最大の仕事Lmaxをいい,Lmaxは可
逆変化の場合に得られる。
参考
(1) 周囲環境状態を固定すれば,与えられた系の状態から出発して,どのような可逆変化の
経路を経てもLmaxの値はみな同じになる。したがって,与えられた状態にある系(物体)
の有効エネルギーEは,その与えられた状態だけによって定まる。
(2) 周囲環境状態と平衡状態にある系の有効エネルギーEは,常に零である。
(4) 不可逆損失 状態1,2間の不可逆損失Irとは,現実の系が状態1,2の間で不可逆変化を行うときに
生じる損失(利用の可能性のある力学的仕事の損失)をいい,次の,系の基本変化①〜③,及び部分
系の状況例④,⑤に示すようにして定められる。
①
他の系に仕事Lを与える系(状態1→2の変化) 表1-①に示す不可逆変化過程上にある状態1,
2の有効エネルギーE1,E2は,状態1,2を状態0とつなぐ任意の可逆変化を考えて定まり[2.(3)
の参考(2)参照],状態1→2の不可逆変化で系が他の系に仕事Lを与えるとき,常にE1−E2>Lで
あって,不可逆損失Irは
Ir= (E1−E2) −L ······································································· (1)
②
他の系と仕事Lの授受のない系(状態1→2の変化) 表1-②の不可逆変化1→2において,他の
系と仕事Lの授受のない場合は,常にE1−E2>0であって,不可逆損失Irは
Ir=E1−E2 ················································································ (2)
③
他の系から仕事Lを受ける系(状態2→1の変化) 表1-③の不可逆変化2→1においては,常に
E1−E2<Lであって,不可逆損失Irは
Ir=L− (E1−E2) ········································································ (3)
④
他の系と仕事Lの授受のない系内における部分系の状況例 表1-④は,部分系Hと部分系Cから
成る一つの系を示す。ここで部分系Hの状態H1→H2の変化,及び部分系Cの状態C2→C1の変
化に対し,両部分系の間で熱量Qが交換されるとき,不可逆損失Irは,式(2)によって
Ir=E1−E2 ················································································ (4)
ここに,E1, E2は系全体(部分系H+部分系C)の状態1,2の有効エネルギーで
E1=EH1+EC2, E2=EH2+EC1 ·························································· (5)
⑤
他の系に仕事Lを与える系内における部分系の状況例 表1-⑤において,部分系Hの状態H1→
H2の変化,部分系Cの状態C2→C1の変化の間で熱量Qを交換,さらに部分系Cの状態C1→C3
の変化の間で他の系に仕事Lを与えるとき,この系全体の不可逆損失Irは,式(1)によって
Ir= (E1−E2) −L ······································································· (6)
ここに,E1, E2は系(部分系H+部分系C)の状態1,2の有効エネルギーで
E1=EH1+EC2, E2=EH2+EC3 ·························································· (7)
備考1. 表1には,上記の各系①〜⑤について,系の具体例,熱収支と共に式(1)〜(7)などの結果を表
示する。ここで,不可逆損失及び有効エネルギー収支[2.(6)参照]は,同じ内容とする。
2. 表1には,上記の各系①〜⑤について,有効率εをも表示する。有効率εは次のようにして定
める。系の基本変化①〜③では,有効エネルギー入力E1−E2に対する出力仕事L,又は入力
仕事Lに対する有効エネルギー出力E1−E2の比,また④では有効エネルギー入力EH1−EH2
に対する有効エネルギー出力EC1−EC2の比,さらに⑤では,入力と出力の対応がいろいろ取
り得るので,ボイラ伝熱面に対するεb,タービンに対するεt,動力サイクルに対するεなどが
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ある。
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表1 系の基本変化及び部分系の状況例
例
熱収支
不可逆損失
有効エネルギー収支
有効率
①
他
の
系
に
仕
事
L
を
与
え
る
系
(タービン)
H1=H2+L+Q′
Ir= (E1−E2) −L
E1=E2+L+Ir
2
1
E
E
L
−
=
ε
2
1
1
E
E
Ir
−
−
=
(内燃機関)
U1=U2+L+L′+Q′
L′=P0 (V2−V1)
Ir= (E1−E2) −L
E1=E2+L+Ir
2
1
E
E
L
−
=
ε
2
1
1
E
E
Ir
−
−
=
②
他
の
系
と
仕
事
L
の
授
受
の
な
い
系
(管路)
H1=H2+Q′
Ir=E1−E2
E1=E2+Ir
ε=0
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例
熱収支
不可逆損失
有効エネルギー収支
有効率
③
他
の
系
か
ら
仕
事
L
を
受
け
る
系
(ポンプ)
H2+L=H1+Q′
Ir=L− (E1−E2)
E2+L=E1+Ir
L
E
E
2
1−
=
ε
2
1
1
1
E
E
Ir
−
+
=
(空気圧縮機)
U2+L+L′=U1+Q′
L′=P0 (V2−V1)
Ir=L− (E1−E2)
E2+L=E1+Ir
L
E
E
2
1−
=
ε
2
1
1
1
E
E
Ir
−
+
=
④
他
の
系
と
仕
事
(熱交換器)
Q=HH1−HH2
=HC1−HC2
Ir=E1−E2
= (EH1−EH2) − (EC1−EC2)
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
例
熱収支
不可逆損失
有効エネルギー収支
有効率
E1=E2+Ir
(EH1+EC2=EH2+EC1+Ir)
2
1
2
1
H
H
C
C
E
E
E
E
−
−
=
ε
2
1
1
H
H
r
E
E
I
−
−
=
⑤
他
の
系
に
仕
事
L
を
与
え
る
系
内
に
お
け
る
部
分
系
の
状
況
例
(ボイラ伝熱面−タービン系)
ボイラ伝熱面
Q=HH1−HH2=HC1−HC2
タービン
HC1=HC3+L
系全体
HH1+HC2=HH2+HC3+L
ボイラ伝熱面
Irb= (EH1−EH2) − (EC1−EC2)
タービン
Irt= (EC1−EC2) −L
系全体
Ir= (E1−E2) −L
= (EH1−EH2) + (Ec2−Ec3) −L
=Irb+Irt
ボイラ伝熱面
EH1+EC2=EH2+EC1+Irb
タービン
EC1=EC3+L+Irt
系全体
E1=E2+L+Ir
(EH1+EC2=EH2+EC3+L+Ir)
ボイラ伝熱面
H
H
rb
H
H
C
C
E
E
I
E
E
E
E
−
−
=
−
−
=
1
2
1
2
1
1
ε
タービン
3
1
3
1
1
C
C
rt
C
C
t
E
E
I
E
E
L
−
−
=
−
=
ε
動力サイクル
2
1
C
C
E
E
L
−
=
ε
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(5) 定温槽 系を構成する部分系のなかで,熱Qの授受があっても温度一定の状態を保つもの。定温槽の
場合は,これも可逆カルノー機関と組み合わせて系を作るとき,最大の仕事Lmaxを与える。したがっ
て,温度Tの定温槽が熱Qの授受をするとき,温度T0の周囲環境をベースとする定温槽の有効エネ
ルギーERの変化は,次による。
(a) T>T0の定温槽の場合
○放熱(状態R1→R2)変化:
−
=
−
T
T
Q
E
E
R
R
0
2
1
1
··························· (8)
○受熱(状態R2→R1)変化:
(b) T<T0の定温槽の場合
○受熱(状態R1→R2)変化:
−
=
−
1
0
2
1
T
T
Q
E
E
R
R
·························· (9)
○放熱(状態R2→R1)変化:
備考 定温槽は理想化された概念であるが,十分にこれで近似できるときは,計算の簡便化のため使
ってよいものとする。
(6) 有効エネルギー収支 状態1,2における有効エネルギーE1,E2に関し,状態1,2間に出入する仕事
L及び不可逆損失Irを考慮したとき,常に収支がバランスすること。2.(4)の①〜⑤の場合に対し,式
(1),(2),(3),(4),(6)からそれぞれ直ちに
①,⑤の場合:E1=E2+L+Ir ·········································································· (10)
②,④の場合:E1=E2+Ir ··············································································· (11)
③ の場合:E2+L=E1+Ir ·········································································· (12)
備考 系を構成する部分系の有効エネルギーを用いて有効エネルギー収支を書くこともできる。2.(4)
の④の場合は,式(4),(5),また⑤の場合は,式(6),(7)から直ちに
④の場合:EH1+EC2=EH2+EC1+Ir
⑤の場合:EH1+EC2=EH2+EC3+L+Ir
3. 有効エネルギー評価の基準 有効エネルギー評価を行う場合の周囲環境状態については,原則として
外気条件(温度,圧力,湿度など)とする。
備考 外気条件が複数のもの(例えば水と空気の温度が異なる場合)から成り一義的に確定し得ない
場合は,系に対し支配的な作用をもつ方の条件をとるものとする。
4. 有効エネルギー評価を行う系の状態 有効エネルギー評価を行う系の状態は,開いた系については定
常状態の,ある操作を行う閉じた系についてはその操作の,全工程又は工程内の指定された一部の工程に
ついて行う。
備考1. ここにいう開いた系とは,系の入口から物質の流入,系の出口からの物質の流出が連続的に
生じている系をいい,閉じた系とは,それのない系をいう。
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2. 開いた系の場合,系の入口から出口までの間だけが評価の対象となる。したがって,その入
口以前又は出口以降において,作動物質に起こる状態変化(周囲環境との混合なども含む。)
などは,評価の対象にはならない。
5. 有効エネルギー評価の結果の表示 有効エネルギー評価の結果の表示は,次による。
(1) 周囲環境状態その他の条件 有効エネルギー評価に使用した周囲環境状態を明示し,かつ対象とする
設備の熱収支(JIS Z 9202による。)及び物質収支の成立を示したうえで,有効エネルギー評価の結果
を5.(3)の評価表によって表す。
(2) 評価の範囲の設定及び有効エネルギー収支 有効エネルギー評価を行うときは,対象とする設備をフ
ローシート(図2参照)上に区分し,その境界線を流入・流出する有効エネルギー量,仕事量並びに
不可逆損失量を設計値又は計測値に基づいて算定し,流入及び流出の2項目にまとめる。
流入には,有効エネルギー評価を行う設備(又はその一部工程)に外から入る物質がその状態でも
つ有効エネルギーE,外から入る仕事Lをとる。
流出には,有効エネルギー評価を行う設備(又はその一部工程)から外へ出る物質がその状態でも
つ有効エネルギーE,外へ出る仕事L並びに不可逆損失Irをとる。
(3) 有効エネルギー評価表 系を適当な項目に分け,流入及び流出を各項目ごとに数量で示すとともに,
流入項目についてはその合計 (E+L) に対する百分率 (%),流出項目についてはその合計 (E+L+Ir)
に対する百分率 (%) で示し,表にまとめる。ただし,流入合計と流出合計は,常に等しいものとする。
備考1. 一工程内の不可逆損失Irの総量は,有効エネルギーの収支関係から容易に定まるが,なお不
可逆損失を可能な限り細分し,損失の原因ごとに示すこととする。
2. 設備内部で循環する有効エネルギーがある場合は,この循環ぶんを評価表に記入せず,別項
として付記する。
なお,評価表の流入合計(流出合計に等しい)に対する循環ぶんの百分率 (%) を付ける。
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解説表1 有効利用熱エネルギー評価方法通則原案作成委員会
氏名
所属
主査
甲 藤 好 郎
東京大学工学部
幹事
斎 藤 孝 基
東京大学工学部
委員
阿 部 俊 夫
財団法人電力中央研究所
池 田 忠 治
新日本製鉄株式会社
市 川 道 雄
工業技術院公害資源研究所
内 田 幹 和
株式会社日立製作所
大 野 俊
日本セメント株式会社
岡 田 英 武
日本酸素株式会社
甲 斐 貞
旭化成工業株式会社
河 村 友 槌
三菱重工業株式会社
木 村 元 雄
三菱石油株式会社
黒 河 亀千代
工業技術院標準部材料規格課
佐 川 悠 三
日本鋼管株式会社
佐 藤 光 雄
東京芝浦電気株式会社
城 子 克 夫
千代田化工建設株式会社
智 田 喜久二
神奈川大学工学部
千 葉 孝 男
新日本空調株式会社
長 島 昭
慶応義塾大学工学部
西 川 兼 康
九州大学工学部
沼 島 恭 太
日本鉱業株式会社
野 崎 幸 雄
財団法人省エネルギーセンター
服 部 達 雄
東京ガス株式会社
土 方 邦 夫
東京工業大学工学部
森 康 夫
東京工業大学工学部
山 家 譲 二
石川島播磨重工業株式会社
吉 田 研 治
三井東圧化学株式会社
吉 田 邦 夫
東京大学工学部
事務局
武 藤 茂 春
社団法人 日本機械学会