Z 8830:2013 (ISO 9277:2010)
(1)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
目 次
ページ
序文 ··································································································································· 1
1 適用範囲 ························································································································· 1
2 引用規格 ························································································································· 1
3 用語及び定義 ··················································································································· 2
4 記号及び単位 ··················································································································· 3
5 原理······························································································································· 4
6 手順······························································································································· 6
6.1 試料調製 ······················································································································ 6
6.2 実験条件 ······················································································································ 9
6.3 吸着ガス量の測定方法 ···································································································· 9
7 吸着データの解析 ············································································································ 12
7.1 概要 ··························································································································· 12
7.2 多点法 ························································································································ 12
7.3 一点法 ························································································································ 14
8 測定記録 ························································································································ 14
9 標準物質の使用 ··············································································································· 15
附属書A(参考)よく使用される吸着質の分子断面積(占有断面積) ············································ 16
附属書B(参考)BET(比表面積測定)法の認証標準物質 ··························································· 17
附属書C(参考)ミクロ細孔性物質の表面積 ············································································ 19
参考文献 ···························································································································· 23
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まえがき
この規格は,工業標準化法第14条によって準用する第12条第1項の規定に基づき,一般社団法人日本
粉体工業技術協会(APPIE)及び一般財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業
規格を改正すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工業
規格である。
これによって,JIS Z 8830:2001は改正され,この規格に置き換えられた。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意
を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実
用新案権に関わる確認について,責任はもたない。
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日本工業規格 JIS
Z 8830:2013
(ISO 9277:2010)
ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法
Determination of the specific surface area of powders (solids) by
gas adsorption-BET method
序文
この規格は,2010年に第2版として発行されたISO 9277を基に,技術的内容及び構成を変更すること
なく作成した日本工業規格である。
なお,この規格で点線の下線を施してある参考事項は,対応国際規格にはない事項である。
1
適用範囲
この規格は,ブルナウアー,エメット及びテラーの方法(BET法)[1]に基づき,物理吸着したガスの量
を測定することによって,粉体状(例えば,ナノ粉体)又は細孔をもつ固体の外部及び内部の全ての比表
面積を決定する方法について規定する。
BET法は,II型(粉体,無孔性固体又はマクロ細孔をもつ固体)及びIV型(細孔直径2〜50 nmのメソ
細孔をもつ固体)の吸着等温線にだけ適用できる(図1参照)。吸着に有効でない細孔は測定されない。
BET法は,測定ガスを吸収する固体には適用できない。
化学的に不均一な表面をもつ粉体,例えば,金属担持触媒に対してもBET法で全ての比表面積が測定さ
れる。一方,金属部分が占める比表面積は化学吸着法によって測定される。
注記1 これは,1984年及び1994年の国際純正応用化学連合(IUPAC)の推奨[7][8]を考慮している。
ミクロ細孔をもつ物質(I型の吸着等温線)の比表面積測定方法は,附属書Cを参照。
注記2 この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。
ISO 9277:2010,Determination of the specific surface area of solids by gas adsorption−BET method
(IDT)
なお,対応の程度を表す記号“IDT”は,ISO/IEC Guide 21-1に基づき,“一致している”
ことを示す。
2
引用規格
次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。この引用
規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。
JIS Z 8833 粒子特性を評価するための粉体材料の縮分
注記 対応国際規格:ISO 14488:2007,Particulate materials−Sampling and sample splitting for the
determination of particulate properties(MOD)
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用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,次による。
3.1
吸着(adsorption)
固体の外部表面及び吸着可能な内部表面上での吸着質ガスの濃縮現象(JIS Z 8831-2:2010[2]の3.4参照)。
3.2
物理吸着(physisorption)
圧力又は温度の小さな変化に対して可逆的である,弱い結合(ファンデルワールス力)による吸着(JIS
Z 8831-3:2010[3]の3.12参照)。
3.3
吸着質(adsorbate)
吸着した状態の物質(adsorbate)(JIS Z 8831-2:2010[2]の3.1参照)。
3.4
吸着質(adsorptive)
吸着されるガス又は蒸気(adsorptive)(JIS Z 8831-2:2010[2]の3.1参照)。
注記 英語ではadsorbateとadsorptiveとが区別されているが,日本語では両者を吸着質としている。
3.5
吸着材(adsorbent)
その上で吸着が起こる固体物質(JIS Z 8831-2:2010[2]の3.3参照)。
注記 吸着剤ともいう。
3.6
等温線(isotherm)
一定温度における吸着量と吸着質ガス(adsorptive)の平衡圧力との関係(JIS Z 8831-2:2010[2]の3.9参
照)。
3.7
体積吸着量(volume adsorbed)
標準状態の温度及び圧力(STP)での,ガスとして表現される吸着量の体積相当量(JIS Z 8831-2:2010[2]
の3.21参照)。
3.8
吸着量(adsorbed amount)
ある圧力p及び温度Tにおいて吸着したガスの量(JIS Z 8831-3:2010[3]の3.5参照)。
注記 吸着量は物質量(モル)で表現する。
3.9
単分子層吸着量(monolayer amount)
吸着材表面上に単分子の層を形成するときの,吸着質の物質量(モル)(JIS Z 8831-3:2010[3]の3.7参照)。
3.10
表面積(surface area)
規定の方法及び記載した条件で決定された有効表面積の大きさ(ISO 15901-1:2006[1]の3.25参照)。
注記 この規格では,表面積は,固体の外部表面,及び吸着可能なマクロ,メソ及びミクロ細孔の内
部表面を含む。
3
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3.11
比表面積(specific surface area)
試料の絶対表面積を試料質量で除したもの。
3.12
分子断面積(molecular cross-sectional area)
単分子層で吸着した状態にある吸着質が占有する面積。
3.13
マクロ細孔(macropore)
50 nmよりも大きな径をもつ細孔(JIS Z 8831-2:2010[2]の3.10参照)。
注記 マクロ孔又はマクロポアともいう。
3.14
メソ細孔(mesopore)
2〜50 nmの間の径をもつ細孔(JIS Z 8831-3:2010[3]の3.10参照)。
注記 メソ孔又はメソポアともいう。
3.15
ミクロ細孔(micropore)
2 nm以下の径をもつ細孔(JIS Z 8831-3:2010[3]の3.11参照)。
3.16
相対圧(relative pressure)
測定温度での,飽和蒸気圧力p0に対する平衡吸着圧力pの比(JIS Z 8831-3:2010[3]の3.14参照)。
3.17
平衡吸着圧力(equilibrium adsorption pressure)
吸着した状態の吸着質(adsorbate)と平衡にある気相中の吸着質ガス(adsorptive)の圧力(JIS Z
8831-2:2010[2]の3.6参照)。
3.18
飽和蒸気圧(saturation vapour pressure)
吸着温度で液化する吸着質ガスの蒸気圧(JIS Z 8831-2:2010[2]の3.19参照)。
3.19
フリースペース(free space,head space,dead space,dead volume)
試料管及び配管がもつ容積から吸着材が占める体積を除いた空間。
注記 ヘッドスペース,デッドスペース,死容積ともいう。
4
記号及び単位
この規格で使われる記号,意味及びそのSI単位は,表1による。単位量当たり(比)で示される量の全
ては,単位グラム当たりで表示される。
4
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表1−記号
IUPAC記号
意味
単位
am
分子断面積
nm2
as
比表面積
m2 g−1
C
BETパラメータ
1 a)
L
アボガドロ定数(=6.022×1023)
mol−1
m
固体試料の質量
g
ma
比吸着質量
1 a)
na
比吸着量
mol g−1
nm
単分子層比吸着量(吸着材単位質量当たりの単分子層吸着量)
mol g−1
nm, mp
多点法から得られた単分子層比吸着量
mol g−1
nm, sp
一点法から得られた単分子層比吸着量
mol g−1
p
吸着した状態の吸着質と平衡にある吸着質ガスの圧力
Pa
p0
吸着質ガスの飽和蒸気圧
Pa
p/p0
吸着質ガスの相対圧
1 a)
R
気体定数
J mol−1 K−1
rs
均質な無孔性球体の半径
nm
t
時間
min
T
温度
K
Va
体積比吸着量
cm3 g−1
Vp, micro
吸着材単位質量当たりのミクロ細孔容積
cm3 g−1
ρ
密度
g cm−3
uc
BET標準物質の認証された比表面積における合成標準不確かさ
m2 g−1
k
合成標準不確かさの包含係数
1 a)
U
BET標準物質の認証された比表面積における拡張不確かさ(=k uc)
m2 g−1
注a) ISO 80000-1:2009 [4],3.8の注3に基づき,次元1の量に対する単位は,記号1で表現される。
5
原理
BET法は,II型(粉体,無孔性固体又はマクロ細孔をもつ固体)及びIV型(細孔直径2〜50 nmのメソ
細孔をもつ固体)の吸着等温線にだけ適用できる(図1参照)。吸着に有効でない細孔は測定されない。
BET法は,測定ガスを吸収する固体には適用できない。ミクロ細孔をもつ物質(I型の吸着等温線)の比
表面積測定方法は,附属書Cに記載した。
この規格に明示された方法は,固体の外部表面及び吸着可能な内部細孔表面を,吸着質の単分子層で完
全に覆うために必要な吸着質の量を決定する方法である(図2参照)。この単分子層吸着量はBET式(1)を
用いて吸着等温線から計算される(7.1参照)。固体表面上に弱い結合(ファンデルワールス力)で物理吸
着し,同温度での圧力減少によって脱着可能なガスであれば,どのようなガスを用いてもよい。
沸点(約77.3 K)での窒素は一般に最も適した吸着質ガスである。アルゴンと窒素の分極率はほとんど
同じであるが,アルゴンは窒素とは異なる対称の電子殻構造をもち,化学的に不活性な単原子ガスという
理由から,液体アルゴン温度(87.27 K)でのアルゴンは,比表面積決定のためのよい代替吸着質ガスであ
り,特に黒鉛化炭素及びヒドロキシル化された酸化物表面の場合にしばしば用いられている(表A.1の注
a) を参照)。
5
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na :比吸着量
p/p0 :相対圧
(II型及びIV型における典型的なBET範囲を斜線部で示す。)
図1−吸着等温線のIUPAC分類
図2−吸着法で測定される粒子表面(点線)及びその断面の概念図
試料の比表面積が1 m2 g−1又はそれより小さく,窒素を用いた場合の装置の感度が不十分であるときは,
比表面積測定のために液体窒素温度でのクリプトン吸着を適用することが推奨される。クリプトンは77.3
Kで0.35 kPaという低い飽和蒸気圧p0をもつため,吸着しなかったガスに対するフリースペース補正(3.19
参照)が同一温度における窒素の場合より顕著に抑えられ(300分の1),許容できる正確さで吸着質ガス
の少ない取込み(吸着)量を容量的に測定することを可能としている。77.3 Kはクリプトンの三重点温度
より38.5 K程度低いが,BET領域では吸着した状態の吸着質が液体状態であることが,微小熱量測定及び
中性子線回折の研究で示されており,それゆえ過冷却液体の値がBETプロットのための有効p0として推
奨されている。
6
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異なった吸着質ガスでの測定は,分子断面積,吸着質が入り得る細孔径の大きさ,及び測定温度の違い
によって,異なった結果を与える可能性がある。さらに,非常に多孔性の,又は広い粒子径分布をもつ試
料のように不規則で複雑な構造をもつ場合に,長さ及び面積に対する測定結果は絶対的でなく,測定に用
いる物差し(吸着の場合は分子断面積)に依存するということが,フラクタル解析からよく知られている。
これは,より大きな吸着質分子が小さな面積を与えることを意味する。
吸着質ガスは,一定温度に保持された試料容器に導入される。吸着量は,吸着質ガス圧力pとの平衡状
態で測定され,吸着等温線を得るために相対圧p/p0に対してプロットされる。吸着等温線は,容量法,重
量法,熱量法,分光法,又はキャリヤガス法で求められる(6.3参照)。これらには連続的操作又は非連続
的操作の場合がある。
6
手順
6.1
試料調製
サンプリングはJIS Z 8833に従って行う。吸着等温線の測定を行う前に,表面の不可逆的変性を避けつ
つ,物理吸着した物質を脱ガス処理によって試料表面から取り除く。熱重量分析(図3参照),分光法,又
は時間と温度の異なる脱ガス条件を用いる予備実験によって,試料が影響を受けない最大温度を確かめる。
真空排気する場合は約1 Pa又はそれ以下の残留圧力まで脱ガスすれば通常十分である。試料の脱ガス処理
は,加熱下で不活性ガス(例えばヘリウム)を流すことでも行われる。脱ガス成分の残留圧力p,又は試
料質量が安定した値になれば,脱ガスは完了である。
注記 キャリヤガス法の場合は,加熱後の検出器の信号がほぼベースライン上で安定すれば脱ガスは
完了である。
真空装置を用いて加熱脱ガスされた試料容器をポンプ及びトラップの系から切り離す(図4のti)。15
分から30分以上の間,試料容器系内の圧力がほぼ一定であるなら,脱ガス処理は完了である。また,圧力
がほとんど変化しないことによって,リークのないことも確認できる。比表面積は,脱ガス処理後の試料
質量を用いて求める。
脱ガス処理後,試料容器を測定温度まで冷却する。ガス圧が低いとサンプルセル内の熱伝導が下がるた
め,試料の温度が平衡に達するまでに時間がかかることに注意する必要がある。
少しの温度変化で脱ガスが急に起こる試料については,圧力に応じた加熱方法が推奨される(図5参照)。
この手順では,真空条件下での脱ガスの間,多孔質物質からの離脱によるガス圧力の増加に対応しながら
加熱速度を変化させる。試料表面から離脱した物質によって,所定の圧力限界値pL(通常7 Pa〜10 Pa)以
上に圧力が上がったら,温度上昇を止め,圧力が限界値以下になるまで温度を一定に保つ。その後システ
ムは温度上昇を続ける。急速な加熱は活発な蒸気離脱を生じ,壊れやすい構造にダメージを与えるので,
ミクロ細孔性物質の構造変化を避けるのにこの手順は特に最適である。さらに,微粉物質の細孔から水又
は他の蒸気が離脱する際の試料の飛散を避けるのにこの方法はとてもよい。
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m 試料質量
t
脱ガス時間
T1 脱ガス温度が低く,長時間の脱ガスが必要
T2 適切な脱ガス温度
T3 脱ガス温度が高く,試料の分解でガスが発生
1
試料
2
真空ポンプ
3
天びん
4
電気炉
図3−熱天びんによる脱ガス温度の設定
8
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p
真空排気圧力
ti
減圧脱気を止め,系を閉じた時間
p1(t) 脱ガス完了
p2(t) 脱ガス不完全
p3(t) リーク箇所の存在
1
試料
2
真空ポンプ
3
圧力計
4
電気炉
図4−圧力変化による脱ガス処理確認
pE 真空排気圧力
T
脱ガス温度
t
時間
pL 所定の圧力限界値
1
圧力曲線
2
温度曲線
図5−圧力によって制御された加熱方法の例
9
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6.2
実験条件
測定精度は,次の条件の制御に依存している。
a) 吸着質ガスの温度又は飽和蒸気圧p0を分析の間測定することが望ましい。
b) 容積の校正又はキャリヤガスに使用するヘリウムガス及び吸着質の純度は,体積比率99.99 %以上が
望ましい。必要に応じて,窒素ガス中の酸素を除去するなど,それらのガスを乾燥及び精製すること
が望ましい。
c) 測定温度での吸着質の飽和蒸気圧p0は,窒素蒸気圧温度計で直接決定するか,冷却槽温度の測定によ
って決定される。
d) 結果の正確さは注意深いサンプリング及び試料調製方法に依存する。
非連続静的法では,BET式が適用できる相対圧範囲(一般的に0.05〜0.3)で,4点以上の平衡点を測定
することが望ましい。連続測定法の場合,ガスの供給をしばしば中断させるか,又は非連続法を用いた対
照実験を行うことで,平衡からのずれを確認しなければならない。
6.3
吸着ガス量の測定方法
6.3.1
静的容量法
静的容量法では,吸着温度に制御された試料容器に所定量のガスを導入する(図6参照)。試料表面にガ
スの吸着が起こり,吸着平衡に達するまで試料容器の圧力は降下する。平衡圧力での吸着量は,導入した
量とガスとして残っている量との差である。系内の圧力は温度及び体積とともに測定する。系内の容積は
ヘリウムのような不活性ガスの膨張によって最も容易に決定できる。フリースペース容積は,吸着等温線
測定前又は後に測定される。系内の容積の校正は,測定温度でヘリウムを用いて行われる。物質によって
はヘリウムを吸着又は吸収する可能性があるので注意することが望ましい。この場合,吸着等温線の測定
後に補正することができる。フリースペース容積の測定を吸着の測定と分けて行うことができるなら,ヘ
リウムの使用を避けることができる。試料導入前の空の試料容器の容積は窒素を用いて周囲温度(室温)
で測定される。その後,ブランク実験(空の試料セルを含む)は吸着測定と同じ実験条件(温度及び相対
圧)で行われる。この場合は試料体積の補正が必要で試料密度を入力するか,又は(窒素の吸着効果が無
視できるとき)吸着測定開始時の周囲温度での窒素を用いた密度測定結果から試料体積を補正する。同一
形状で同一体積をもつ参照容器と試料容器とを差圧計で接続するなど,フリースペース容積の測定を省略
できる方法もある。吸着量測定及びフリースペース容積の測定で,特に補償手段が確立されていない場合,
冷却槽の液面は試料の上方15 mm以上であり液面の変動範囲を1 mm以内に保持することを推奨する。
10
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Va
体積比吸着量
p/p0 相対圧
1
試料
2
冷却槽
3
真空ポンプ
4
真空計
5
容積既知のガスだめ
6
飽和蒸気圧管
7
吸着質
8
フリースペース容積測定用ガス(例 ヘリウムガス)
図6−静的容量法
6.3.2
連続容量法
連続容量法(フロー容量法とも呼ぶ。)は静的容量法と似ているが,その違いは,一連のバッチ式のガス
導入ではなく,相対的に低流量でガスが連続的に供給されることである。この方法では,セルの圧力は流
量制御下で測定される。吸着量は,キャリブレーションで使用されるヘリウムのような非吸着性ガスと,
用いた吸着質ガスとの圧力上昇速度の比較によって決定する。吸着したガスの量を直接決定する他の方法
は,吸着質ガスが導入された同体積の参照及び試料容器の圧力差を測定することである。所定体積の吸着
質ガス容器が流量制御弁を介して試料容器に接続され,もう一つの吸着質ガス容器はサンプルなしの参照
容器に接続される。ガスが連続的に導入されるため,ある条件下では,静的容量法よりも短い時間で分析
が完了する。しかし,吸着が常に平衡に近い状態となるように流量を十分に低くするように特に注意する。
フリースペース容積の決定と冷却槽の液面制御とについては,6.3.1と同じように実施することを推奨する。
6.3.3
重量法
連続重量法では,ミクロ天びん(図7参照)を用い,試料保持部のガス圧力の関数として吸着したガス
の質量を測定する。吸着等温線の測定の前に,室温下,吸着質中での天びん及び試料の浮力を測定してお
くことが望ましい。等比天びんを用いれば,天びんの浮力は相殺され,試料と同じ密度でかさばらない小
形のおもりを用いることで試料の浮力も補償される。試料が温度計と接していないので,試料温度が測定
温度であることを保証する必要がある。試料温度をモニタすることが望ましい。
約1 Paで熱気体流による揺動が最大となるので,等温線のゼロ点は,10−2 Pa以上の真空度で測定する
ことを推奨する。非連続重量法では,吸着質は段階的に導入され,試料質量が一定値に達するまで,吸着
質圧力が保持される。
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ma
比吸着質量
p/p0 相対圧
1
試料
2
冷却槽
3
真空ポンプ
4
圧力計
5
天びん
6
吸着質
図7−重量法
6.3.4
キャリヤガス法
キャリヤガス法(流動法,動的流動法とも呼ぶ。)では,非吸着性ガス(ヘリウム)中に既知濃度[窒素
の場合,BET式適応範囲である5〜30 %(体積分率)]の吸着質ガスの入った一連の混合ガスを,試料容器
に入れた試料表面へ一定流量で流す(図8参照)。試料容器を冷媒(液体窒素など)の入った冷却槽で冷却
すると,吸着質が試料に吸着した結果,混合ガス中の吸着質濃度が減少する。試料容器の前後でガス濃度
検出器(通常は,熱伝導セル)によって時間関数として記録すると,吸着前後の混合気ガス濃度の差に応
じて検出器の信号にピークを生じる(図8参照)。試料表面の吸着が平衡状態に達すると,検出器の信号は
ベースラインに戻り安定する。検出器の信号がベースラインに戻ったことを確かめた後,試料容器から冷
却槽を外すと脱離ピークが記録される。脱離ピークの方がシャープで正確に積分でき,最初に吸着したガ
ス量の評価に適している。測定時の熱拡散によって信号に乱れが生じないように注意しなければならない。
測定の前又は後で,既知容積の純粋な吸着質を注入して検出器を校正することが必要である。検出器のピ
ーク積算値と吸着量との関係から線形補正するか,又は測定ピークと検量ピークとが同程度の大きさにな
るように検量ガス容積を選択することが望ましい。
12
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
y
検出器信号
t
時間
A 吸着
B 脱着
C ベースライン
1
試料
2
冷却槽
3
ガス濃度検出器
4
ガス混合器
図8−キャリヤガス法
7
吸着データの解析
7.1
概要
ガス吸着量naは,mol g−1表記が推奨され,これを縦軸にプロットし,横軸に相対圧p/p0を取ってグラ
フ化することで吸着等温線が得られる。単分子層比吸着量nmはBET式(1)によって計算される。
(
)
(
)
0
m
m
0
a
0
1
1
1
p
p
C
n
C
C
n
p
p
n
p
p
−
+
=
−
·················································· (1)
注記 改良式は,BETパラメータCのほかに,表面上の層数を限定する追加パラメータを含む(参考
文献[10])。IUPACが推奨する2-パラメータのBET式(1)は吸着層数が無制限であるが(参考文
献[11]),メソ細孔材料に関しては同程度の結果を与える。
7.2
多点法
BETプロットのグラフでは,横軸p/p0に対して(
)
0
a
0
1
p
p
n
p
p
−
を縦軸としてプロットする(図9参照)。こ
のプロットは相対圧0.05〜0.3の範囲でy=a+bxの直線を与えることが望ましく,切片aは正でなければ
ならない。傾き
C
n
C
x
y
b
m
1
−
=
∆
∆
=
,切片
C
n
a
m
1
=
は直線回帰によって決定される。単分子層比吸着量nmは式
(2)から,BETパラメータCは式(3)から得られる。
13
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b
a
n
+
=
1
m
················································································ (2)
1
+
=ab
C
················································································· (3)
(
)
0
a
0
1
p
p
n
p
p
y
−
=
BET式の左辺
p/p0 吸着質ガスの相対圧
a
縦軸切片
Δx
横軸変化量(傾き計算用)
Δy
縦軸変化量(傾き計算用)
1
多点法BETフィッティング
2
一点法BET線
3
実験データ点
4
一点法用に選択したデータ点
図9−BETプロット
比表面積asは,m2 g−1で表され,完成単分子層内における分子断面積を与えることで,その単分子層比
吸着量から計算される。
L
a
n
a
m
m
18
s
10−
=
········································································· (4)
注記 対応国際規格の式は,as=nmamLであるが,表1の記号で示される単位を各量に対して用いる
ときには,それらの数値部分の間には上記の関係が成り立つために,asの数値部分の算出に当
たってこの係数を用いるべきことを明記した。
77.3 Kの窒素の分子断面積,すなわち,占有断面積はam=0.162 nm2が推奨され,式(4)は式(5)となる。
m
4
s
10
76
.9
n
a
×
=
········································································ (5)
ここに,
nm: mol g−1
無孔性球状試料に関して,比表面積asは式(6)で表される。
s
3
s
10
3
r
a
ρ
×
=
·············································································· (6)
rsは球状試料の平均半径,ρは密度である。
注記 対応国際規格の式は,
s
s
3
r
a
ρ
=
であるが,表1の記号で示される単位を各量に対して用いると
きには,それらの数値部分の間には上記の関係が成り立つために,asの数値部分の算出に当た
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
ってこの係数を用いるべきことを明記した。
他の吸着質の分子占有断面積の値は,文献[12],[16]に見出すことができる。一般的に使用されている分
子占有断面積を附属書Aに示す。
幾つかの材料(主にミクロ細孔性吸着材,附属書C参照)及び吸着質に関しては,より低相対圧領域で
BETプロットが直線関係を示す。BETの直線性だけでは測定の正確性を証明したことにはならず,na/nm
=1付近の直線性が重要である。BET法は,直線性が得られない又は切片が負の場合には適用されない。
C値が100〜200の範囲では,単分子層の完成はp/p0=1近辺での屈曲点によって確認でき,BET法がよく
フィットする。
C値が200以上の場合はミクロ細孔の存在を示している可能性がある。C値は吸着材と吸着質間との相
互作用を示すが,吸着エンタルピーを定量的に計算することはできない。測定値又は直線回帰の不確定性
から生じる誤差は全ての基本的な誤差を含んでいるとは限らない。むしろ結果の再現性は,毎回新しいサ
ンプルを使用した繰返し測定,並びに,報告された平均値及び標準偏差によって検証されることが望まし
い。
7.3
一点法
ある特定の物質に対してBETプロットが直線であることの確証が得られるならば,相対圧0.2〜0.3の範
囲で等温線上の1点だけを測定する簡便法を用いることが可能である。C>>1のとき,BETプロットの縦
軸切片1/(nmC)は小さいため,式(7)は次のように簡略化される。
(
)
0
a
sp
m,
1
p
p
n
n
−
=
····································································· (7)
単分子層比吸着量nm, spは多点法によって得られるnm, mpより小さいか,又は等しくなる。類似物質の試
料測定においては,あらかじめ多点法による測定で次の項目を決定することで,一点法における誤差を補
正することができる。
− 一つは適切な切片の値であり,引続き一点法解析で使用できる。
− 一つは適切なBETパラメータCの値であり,これは次の式(8)を用いて,一点法のnm, sp値を補正する
ことができる。
(
)
(
)(
)1
1
1
0
0
mp
m,
sp
m,
mp
m,
−
+
−
=
−
C
p
p
p
p
n
n
n
······················································ (8)
8
測定記録
測定記録は少なくとも次の内容を含まなければならない。
a) JIS Z 8830:2013(又は国際規格ISO 9277:2010)を参考にしている旨の表示
b) 測定機関,装置の型式,測定者,測定日
c) 試料の特性。例えば,試料の由来,化学分類,純度,サンプリング方法,試料縮分方法
d) 前処理条件及び脱ガス処理条件。例えば,真空排気による脱ガス又は不活性ガス流通による脱ガス,
温度及び脱ガス処理時間
e) 脱ガス処理後の試料質量
f)
吸着等温線の決定方法。例えば,容量法,重量法,非連続又は連続ガス注入法,一点法,フリースペ
ース容積決定法又は浮力校正法
g) 吸着質(化学的性質,純度)
h) 吸着等温線(相対圧p/p0に対するnaのプロット),測定温度
i)
パラメータの算出:多点法又は一点法,BETプロット又はその直線範囲,単分子層比吸着量nm,C値,
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分子占有断面積
j)
比表面積
k) 機器の性能試験及びバリデーションに使用された認証標準物質又は機関内標準物質
9
標準物質の使用
適切な操作条件及び正確なデータ評価を確実にするために,認証標準物質又は品質管理用物質を用いて
装置性能を定期的に監視調整することが望ましい。自家調整された2次標準物質は認証標準物質によって
評価することが望ましい。国内外の研究所及び機関が認証標準物質を提供している。BET法に現在有用な
認証標準物質を表B.1に示す。
16
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附属書A
(参考)
よく使用される吸着質の分子断面積(占有断面積)
表A.1−分子断面積
吸着質
吸着温度
K
分子断面積(推奨値)
nm2
窒素
77.35
0.162 a)
アルゴン
77.35
0.138 b)
アルゴン
87.27
0.142
クリプトン
77.35
0.202
キセノン
77.35
0.168
二酸化炭素
195
0.195
二酸化炭素
273.15
0.210
酸素
77.35
0.141
水
298.15
0.125
n-ブタン
273.15
0.444
n-ヘプタン
278.15
0.631
n-オクタン
278.15
0.646
ベンゼン
293.15
0.430
注a) 黒鉛化炭素及びヒドロキシル化された酸化物表面の場合には,窒素分子は表面水酸基と垂直に相互
作用する傾向があるため,窒素四重極の向きは水酸基の表面密度に依存する。これは窒素の分子断
面積値の減少につながる。このような表面のBET表面積の測定には,液体アルゴン(87.3 K)の温
度でアルゴンガスを使用することを推奨する。
b) 87.3 Kのアルゴン吸着に対して,77.3 Kでのアルゴンの使用は(これはバルク体アルゴンの三重点
を6.5 K下回っている),窒素よりも信頼性が低いと考えられている。77.3 Kでの非多孔性吸着材上
の全ての窒素等温線はII型であり,一方,幾つかのアルゴン等温線はII型であるが,他はVI型で
ある。このような違いは,77.3 Kでは,アルゴン単分子層の構造が吸着材表面の化学的性質に大き
く依存し得ることを示している。77.3 Kでのアルゴンの吸着断面積は十分に定義されていない。
0.138 nm2として表に示した値は,最密充塡した液体単分子層の仮定に基づいており,また,慣習的
な値であると考えることができる。ただし,0.166 nm2を使用した文献も見出される。
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附属書B
(参考)
BET(比表面積測定)法の認証標準物質
認証標準物質は,現在ドイツのBAM 1),ベルギーのIRMM 1),米国のNIST 1),及び日本のAPPIE 1)(表
B.1及び文献[17]を参照)から入手可能である。また,他の新しい認証標準物質は,COMAR国際データベ
ース(www.comar.bam.de)から検索することができる。
Bundesanstalt für Materialforschung und ‒prüfung (BAM)
Department I. Analytical Chemistry; Reference Materials
Richard-Willstätter-Straße 11,
D-12489 BERLIN
Germany
http://www.bam.de/
European Commission−Joint Research Centre
Institute for Reference Materials and Measurements (IRMM)
Reference Materials Unit, attn. reference materials sales
Retieseweg 111,
B-2440 GEEL
Belgium
http://www.irmm.jrc.be/
Standard Reference Materials Program
National Institute of Standards and Technology (NIST)
100 Bureau Drive, Stop 2322
GAITHERSBURG,
MD 20899-2322
USA
http://www.nist.gov/
The Association of Powder Process Industry and Engineering Japan (APPIE Japan)
No.5 Kyoto Bldg., 181 Kitamachi,
Karasuma-dori, Rokujo-agaru, Shimogyo-ku,
KYOTO 600-8176
Japan
http://www.appie.or.jp/
注1) 市販されている認証標準物質の提供機関の例。この情報は,この規格の使用者に便宜を与える
ものであって,提供される製品をJISが保証するものではない。
18
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表B.1−BET(比表面積)認証標準物質
物質
SRM/CRM番号
製造元/販売元
測定法
比表面積
m2 g−1
認証値の不確かさ
シリカ
BAM-PM-101
BAM
Kr吸着
0.177
0.008 a)
α-アルミナ
BAM-PM-102
BAM
N2吸着
5.41
0.09 a)
アルミナ
BAM-PM-103
BAM
N2吸着
156.0
2.7 a)
アルミナ
BAM-PM-104
BAM
N2吸着
79.8
0.8 a)
多孔質ガラス
BAM-P105
BAM
N2吸着
198.5
1.6 b)
活性炭
BAM-P108
BAM
N2吸着
550
5 b)
α-アルミナ
BCR-169
IRMM
N2吸着
0.104
0.012 a)
α-アルミナ
BCR-170
IRMM
N2吸着
1.05
0.05 a)
アルミナ
BCR-171
IRMM
N2吸着
2.95
0.13 a)
石英
BCR-172
IRMM
N2吸着
2.56
0.10 a)
二酸化チタン
BCR-173
IRMM
N2吸着
8.23
0.21 a)
タングステン
BCR-175
IRMM
N2吸着
0.18
0.04 a)
シリカ/アルミナ
SRM 1897
NIST
N2吸着
258.32
5.29 b)
窒化けい素
SRM 1899
NIST
N2吸着
10.52
0.19 b)
窒化けい素
SRM 1900
NIST
N2吸着
2.85
0.09 b)
酸化チタン
SAP11-05 Class 1
APPIE
N2吸着
8.88
0.55 b)
カーボンブラック
SAP11-05 Class 2
APPIE
N2吸着
23.8
1.10 b)
カーボンブラック
SAP11-05 Class 3
APPIE
N2吸着
111.7
8.62 b)
注a) 認定研究室間の試験結果から求めたラボ平均値の平均の95%信頼区間,単位はm2 g−1
b) 拡張不確かさU=k uc(約95 %信頼レベルに対応するカバレージ係数k=2による),単位はm2 g−1
ここで,ucは,ISO/IEC Guide 98-3[5]に基づいて計算された平均値の合成標準不確かさ
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附属書C
(参考)
ミクロ細孔性物質の表面積
比表面積は,メソ細孔性物質(メソ細孔をもつ物質)及びマクロ細孔性物質(マクロ細孔をもつ物質)
だけでなく,ミクロ細孔性物質(ミクロ細孔をもつ物質)を多くの分野で最適に利用する際の極めて重要
なパラメータである。しかしながら,細孔性物質の複雑な性質のために,どんな方法を用いても単独の測
定方法だけで表面積の絶対的な値を評価することは困難である。表面積の値は,一連の手順に従って定義
されており,常に実験で使用される測定方法,条件,吸着質ガス(プローブ分子)に関係するべきもので
ある。その制約についてはよく分かっているはずなのに,1938年のブルナウアー-エメット-テラー
(Brunauer-Emmett-Teller: BET)法は,細孔性物質の比表面積を評価するのに広く使われ続けている(文献
[6]参照)。
箇条7で指摘したように,通常BET比表面積の評価には二つの段階が含まれる。最初に物理吸着等温線
をBETプロットに変換し,そのプロットからBET単分子層比吸着量nmを得る。2番目に分子断面積の値
とnmとから比表面積asを計算する。
文献[6]では,種々の吸着材のII型窒素吸着等温線が,BETプロットにおいて約0.05〜0.35のp/p0の範囲
で直線を与えることを示している。
表面の化学的及び幾何学的不均一性から生じる問題に加えて,細孔(すなわち,マクロ細孔,メソ細孔,
又はミクロ細孔の存在)の種類がBET式の適用性に対して重要な役割を果たす。BET式は,無孔性物質
及び広い細孔径をもつ細孔からなるマクロ細孔性物質及びメソ細孔性物質の比表面積解析に適用可能であ
るが,厳密な意味ではミクロ細孔性吸着材には適用できない(BET法に関する批判的な評価が,細孔分布
測定を記述した様々な教科書に示されている:文献[13]〜[16]参照)。単分子層吸着過程とミクロポアフィ
リングとを区別できないし,ミクロポアフィリングは通常相対圧0.1以下で完了してしまう。ミクロ細孔
が存在すると直線領域(BET領域)は,通常より著しく低い相対圧にシフトする。また,4 nmより小さな
細孔径をもつメソ細孔性分子ふるい物質の比表面積を見積もるのにも,BET法の適用は問題がある。なぜ
ならば,細孔凝縮は,単分子層形成から多分子層形成が細孔壁で起こる圧力領域に大変近い圧力で観測さ
れるからである。このことはBET解析する際に,単分子層吸着量を著しく過大評価させる可能性がある。
もう一つの問題は,吸着質分子の大きさ及び形状(すなわち,表面積を評価するのに用いた実効的な物差
し)に関係するものである。非常に狭いシリンダー状ミクロ細孔性吸着材(約0.5 nm〜0.7 nmの細孔入口
をもつもの)では,吸着質分子(通常窒素又はアルゴン)によって覆われる面積は得られるべき総面積よ
りも非常に小さい。これは細孔入口の曲率が極端に小さく,プローブ分子が比較的大きいためである(ゼ
オライト粒子の比表面積の正しい評価に関係する問題が,最近文献[18]で議論されている。)。しかしなが
ら,より大きいスーパーミクロ細孔(>0.7 nm)では,細孔の中心に幾つもの分子が位置し,表面に接触
していない(すなわち,このことは比表面積を過大評価することにつながる。)。
したがって,ミクロ細孔性物質の吸着等温線にBET法を適用することによって得られる比表面積は,真
の内部面積を反映しておらず,ある種の特性的BET表面積又は等価BET表面積として捉えるべきである。
この場合,BETプロットの直線領域について述べておかなければならない。単分子層吸着量を見積もるた
めにいかなる主観性をも排除して,ミクロ細孔性物質のBETプロットの直線領域をいかに見出すかという
ことは当然問題となる。文献[19]は主に二つの基準に基づく手順を提案している。
20
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a) Cは正になるはずである(すなわち,BETプロットの縦軸の切片が負であることは,BET式の範囲外
であることを意味する。)。
b) BET式の適用は,項na(p0−p)又はna(1−p/p0)がp/p0とともに連続的に増加する圧力範囲に限るべきで
ある。
フォージャサイト型ゼオライトへの87.3 Kにおけるアルゴン吸着等温線(図C.1の吸着等温線データ)
に対する直線BET範囲を決定するためにこの手順が適応された例が,図C.2に示してある。この基準に基
づくと,相対圧が0.053より大きい全てのデータ点はBET計算の適用から排除されるべきであることがは
っきりと分かる。その結果得られるプロットは,図C.3に示してある。すなわち,BET式は相対圧が約0.053
から,それより下の0.01にかけて適用可能であり,正のCを与える直線が得られる。
y=na 比吸着量
p/p0 吸着質の相対圧
図C.1−フォージャサイト型ゼオライトへの87.3 Kにおけるアルゴン吸着等温線の片対数プロット
21
Z 8830:2013 (ISO 9277:2010)
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y=na(1−p/p0) BET式の左辺の分母
p/p0 吸着質の相対圧
1
BET限界範囲
図C.2−図C.1のアルゴン吸着等温線に対する項na(1−p/p0)対p/p0プロット
(
)
0
a
0
1
p
p
n
p
p
y
−
=
BET式の左辺
p/p0 吸着質の相対圧
1
BET回帰直線
2
測定データ点
3
測定データ点の逸脱開始点
4
BET限界範囲
図C.3−図C.1のアルゴン吸着等温線に対するBETプロット
ミクロ細孔性物質に対して得られる吸着等温線へのBET式適用に関連する問題に取り組むために,文献
[20]ではミクロ細孔容積Vp, microを含む修正BET式を用いて,窒素物理吸着等温線データを扱うことが提案
されている。文献[20]の解析法は,吸着データからのVp, microの抽出,及び結果として固体物質の非ミクロ
細孔性部分のC及び比表面積の決定を可能とする。
既に指摘したように,付加的な問題として多くの表面がもつ不均一的性質の問題がある。もちろんこれ
は担持触媒及び他の多成分系触媒を含むものである。例えば,窒素の四重極モーメントが表面の水酸基と
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特異的に相互作用し,吸着窒素分子の配向効果を誘起することが知られている(文献[21]〜[23])。したが
って,実効的な分子断面積は通常用いられる値0.162 nm2より小さくなる。完全に水酸化された表面に対
しては,窒素の分子断面積は0.135 nm2が提案されている。この値は既知の直径をもつシリカ球に吸着し
た窒素ガスの体積の測定から得られたものである(文献[21])。したがって,87.3 Kにおけるアルゴン吸着
が比表面積測定法に対するもう一つの吸着質となりそうである。なぜならば,アルゴン分子は単原子気体
であり,四重極子モーメントをもつような2原子分子である窒素より不活性だからである。四重極モーメ
ントがなく,窒素の沸点より高い温度なので,アルゴンの分子断面積(87.3 Kで0.142 nm2)は,吸着剤表
面の構造の違いに対してそれほど敏感ではない。しかしながら,表A.1の注b) に示したように,77.3 K
におけるアルゴンは,主にアルゴン単分子層の構造及び吸着等温線の型が吸着材の表面化学に大きく依存
するために,あまり信頼性が高くない。
ガス吸着から比表面積を得るための他の方法は,標準等温線の応用に基づいている。例えば,t-プロッ
ト及びαs-プロットである(JIS Z 8831-3又はISO 15901-3[3]を参照)。これらは特に外部比表面積(すなわ
ち,非ミクロ細孔性部分の比表面積)を与える。見かけのBET比表面積(総比表面積)から外部比表面積
を引き去ることで見かけのミクロ細孔表面積を決定できる。
非局所密度汎関数理論(NLDFT,JIS Z 8831-3又はISO 15901-3[3]を参照)と分子シミュレーションと
を適用すると,細孔性固体の比表面積を決定でき,ミクロ細孔表面積,メソ細孔表面積,及び外部表面積
の間の区別を可能とする。しかしながら,これらの先端的方法の適用は,実験で用いられた吸着質−吸着
材系が手に入るNLDFTカーネルに合致するときにだけ正確な結果を与えるものである。
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参考文献
[1]
ISO 15901-1,Pore size distribution and porosity of solid materials by mercury porosimetry and gas adsorption
−Part 1: Mercury porosimetry
[2]
JIS Z 8831-2:2010 粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第2部:ガス吸着によるメソ細孔及び
マクロ細孔の測定方法
注記 対応国際規格:ISO 15901-2,Pore size distribution and porosity of solid materials by mercury
porosimetry and gas adsorption−Part 2: Analysis of mesopores and macropores by gas adsorption
(MOD)
[3]
JIS Z 8831-3:2010 粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第3部:ガス吸着によるミクロ細孔の
測定方法
注記 対応国際規格:ISO 15901-3,Pore size distribution and porosity of solid materials by mercury
porosimetry and gas adsorption−Part 3: Analysis of micropores by gas adsorption(IDT)
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ISO 80000-1:2009,Quantities and units−Part 1: General
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Z 8830:2013 (ISO 9277:2010)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
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