Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
(1)
目 次
ページ
序文 ··································································································································· 1
1 適用範囲························································································································· 1
2 用語及び定義 ··················································································································· 2
3 人間中心設計を適用する根拠 ······························································································ 4
4 人間中心設計の原則 ·········································································································· 5
4.1 一般 ···························································································································· 5
4.2 ユーザー,タスク及び環境の明確な理解に基づく設計 ··························································· 5
4.3 設計及び開発の全体を通してのユーザーの関与 ···································································· 6
4.4 ユーザー中心の評価に基づく設計方針の決定 ······································································· 6
4.5 プロセスの繰返し ·········································································································· 6
4.6 ユーザーエクスペリエンスを考慮した設計 ·········································································· 7
4.7 設計チームへの様々な専門分野の技能及び視点をもつ人々の参画 ············································ 8
5 人間中心設計の計画 ·········································································································· 8
5.1 一般 ···························································································································· 8
5.2 責務 ···························································································································· 8
5.3 計画の内容 ··················································································································· 9
5.4 プロジェクト計画への統合 ······························································································ 9
5.5 時間及び資源の割当て ···································································································· 9
6 人間中心設計活動 ············································································································ 10
6.1 一般 ··························································································································· 10
6.2 利用状況の把握及び明示 ································································································ 11
6.3 ユーザー要求事項の明示 ································································································ 12
6.4 設計案の作成 ··············································································································· 13
6.5 設計の評価 ·················································································································· 16
7 持続可能性及び人間中心設計 ····························································································· 19
8 適合······························································································································ 19
附属書A(参考)ISO 9241シリーズの概要 ··············································································· 21
附属書B(参考)適用性及び適合を評価するための手順例 ··························································· 22
参考文献 ···························································································································· 30
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(2)
まえがき
この規格は,工業標準化法第14条によって準用する第12条第1項の規定に基づき,一般社団法人日本
人間工学会(JES)及び一般財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規格を改
正すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工業規格であ
る。
これによって,JIS Z 8530:2000は改正され,この規格に置き換えられた。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意
を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実
用新案権に関わる確認について,責任はもたない。
日本工業規格 JIS
Z 8530:2019
(ISO 9241-210:2010)
人間工学−インタラクティブシステムの
人間中心設計
Ergonomics of human-system interaction-
Human-centred design for interactive systems
序文
この規格は,2010年に第1版として発行されたISO 9241-210を基に,技術的内容及び構成を変更する
ことなく作成した日本工業規格である。
なお,この規格で点線の下線を施してある参考事項は,対応国際規格にはない事項である。
1
適用範囲
この規格は,コンピューターを利用したインタラクティブシステムのライフサイクルの初めから終わり
における,人間中心設計の原則及び活動のための要求事項及び推奨事項について規定する。この規格は設
計プロセスの管理者を対象とし,インタラクティブシステムのハードウェア及びソフトウェアの構成要素
によって,人とシステムとのインタラクションを向上させる方法について取り扱う。
注記1 コンピューターを利用したインタラクティブシステムの規模及び複雑さは様々である。イン
タラクティブシステムには,既成ソフトウェア製品,特注の業務システム,プロセス制御シ
ステム,バンキングシステム,ウェブサイト,ウェブアプリケーション及び自動販売機,携
帯電話,テレビといった消費者向け製品などがある。そのようなシステムは,一般に製品,
システム又はサービスといわれるが,この規格では簡潔にするために“システム”と一語で
表現している。
この規格は人間中心設計の概要を示すものであり,人間中心設計に必要な手法及び技術の範囲について
示すものではなく,また健康又は安全について詳細に示すものでもない。この規格は人間中心設計におけ
る計画及び管理について示すものであるが,プロジェクトマネジメントの全ての側面を示すものではない。
この規格に示す情報は,インタラクティブシステムを設計及び開発するプロジェクトを計画及び管理す
る責任者が利用することを意図している。したがって,この規格では人間工学の技術的な課題に対して,
そのような責任者が設計プロセス全体の中で,その関連性及び重要性を理解するのに必要な程度までしか
示していない。また,この規格では人間中心設計に関わる人間工学及びユーザビリティの専門家のための
枠組みを示している。人間工学,ユーザビリティ及びアクセシビリティに関する詳細は,人間工学の広範
な原則を定めたISO 9241シリーズ及びJIS Z 8501:2007を含む多くの規格でより包括的に取り扱われてい
る。
この規格における要求事項及び推奨事項は,人間中心設計及びその開発に関わる人々にとって有用であ
る。この規格に適合していることを主張するために利用できるチェックリストを附属書Bに示す。
注記2 参考文献は,関連規格についての情報を含んでいる。
2
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注記3 この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。
ISO 9241-210:2010,Ergonomics of human-system interaction−Part 210: Human-centred design for
interactive systems(IDT)
なお,対応の程度を表す記号“IDT”は,ISO/IEC Guide 21-1に基づき,“一致している”
ことを示す。
2
用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,次による。
2.1
アクセシビリティ(accessibility)
様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品,サービス,環境又は施設(のインタラクティブシ
ステム)のユーザビリティ(JIS X 8341-6:2013参照)。
2.2
利用状況(context of use)
ユーザー,タスク,装置(ハードウェア,ソフトウェア及び資材),並びに製品が使用される物理的及び
社会的環境(JIS Z 8521:1999参照)。
2.3
有効さ(effectiveness)
ユーザーが,指定された目標を達成する上での正確さ及び完全さ(JIS Z 8521:1999参照)。
2.4
効率(efficiency)
ユーザーが,目標を達成する際に正確さ及び完全さに関連して費やした資源(JIS Z 8521:1999参照)。
2.5
人間工学,ヒューマンファクター(ergonomics, study of human factors)
システムにおける人間とその他の要素との間の相互作用の理解に関する科学の分野,並びに人間の福利
及びシステム全体の遂行能力を最適化するために,理論,原則,データ及び手法を設計に活かす専門分野
(JIS Z 8501:2007参照)。
2.6
目標(goal)
意図している結果(JIS Z 8521:1999参照)。
2.7
人間中心設計(human-centred design)
システムの使用に焦点を当て,人間工学及びユーザビリティの知識と手法とを適用することによって,
インタラクティブシステムをより使えるものにすることを目的としたシステムの設計及び開発へのアプロ
ーチ。
注記1 “ユーザー中心設計”ではなく“人間中心設計”という用語にした理由は,この規格がいわ
ゆるエンドユーザーを重視するだけではなく,複数の利害関係者への影響を強調するためで
ある。しかし実際にはこれらの用語はしばしば同義語として使用される。
注記2 使いやすいシステムは,生産性の改善,ユーザーの福利の向上,ストレスの回避,アクセシ
ビリティの向上及びユーザーに危害が及ぶリスクの低減を含む,多くの利点を提供すること
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ができる。
2.8
インタラクティブシステム(interactive system)
ユーザーからの入力を受信し,出力を送信するハードウェア,ソフトウェア及び/又はサービスの組合
せ。
注記 これは必要に応じて,包装,ブランディング,ユーザーマニュアル,オンラインヘルプ,サポ
ート及び研修を含む。
2.9
プロトタイプ(インタラクティブシステムにおける)(prototype)
完全なものではないが,分析,設計及び評価に使用できるインタラクティブシステムの全て又は一部を
表現したもの。
注記 プロトタイプはスケッチ又は静的なモックアップのように単純なものであっても,又は幾つか
の完全な機能を備え,完全に動作するインタラクティブシステムのように複雑なものであって
も差し支えない。
2.10
満足度(satisfaction)
不快さのないこと及び製品使用に対しての肯定的な態度(JIS Z 8521:1999参照)。
2.11
利害関係者(stakeholder)
システムに,権利,持分,請求権若しくは関心をもっている個人若しくは組織,又はニーズ及び期待に
合致する特性をシステムがもつことに,権利,持分,請求権若しくは関心をもっている個人若しくは組織
(JIS X 0170:2013参照)。
2.12
タスク(task)
目標達成のために必要となる活動(JIS Z 8521:1999参照)。
2.13
ユーザビリティ(usability)
あるシステム,製品又はサービスが,指定されたユーザーによって,指定された利用状況下で,指定さ
れた目標を達成するために用いられる場合の有効さ,効率及びユーザーの満足度の度合い。
注記 JIS Z 8521:1999からの翻案。
2.14
ユーザー(user)
製品とやり取りする人間(JIS Z 8521:1999参照)。
2.15
ユーザーエクスペリエンス(user experience)
製品,システム又はサービスの使用及び/又は使用を想定したことによって生じる個人の知覚及び反応。
注記1 ユーザーエクスペリエンスは,使用前,使用中及び使用後に生じるユーザーの感情,信念,
し好,知覚,身体的及び心理的反応,行動など,その結果の全てを含む。
注記2 ユーザーエクスペリエンスは,ブランドイメージ,提示,機能,システムの性能,インタラ
クティブシステムにおけるインタラクション及び支援機能,事前の経験・態度・技能及び人
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格から生じるユーザーの内的及び身体的な状態,並びに利用状況,これらの要因によって影
響を受ける。
注記3 ユーザビリティは,ユーザーの個人的な目標の観点から解釈されたとき,通常はユーザーエ
クスペリエンスと結び付いた知覚及び感情的側面の類を含めることができる。ユーザビリテ
ィの基準は,ユーザーエクスペリエンスの幾つかの側面を評価するために使用できる。
2.16
ユーザインタフェース(user interface)
インタラクティブシステムを用いて特定のタスクを遂行するユーザーに対して,情報及び制御を提供す
るインタラクティブシステムにおける全ての構成要素(JIS Z 8520:2008参照)。
2.17
妥当性確認(validation)
客観的証拠を提示することによって,特定の意図された用途又は適用に関する要求事項が満たされてい
ることを確認すること(JIS Q 9000:2015参照)。
注記 妥当性確認は,意図された運用環境においてシステムが意図された使用,目標及び目的を達成
することができる(すなわち,利害関係者の要求事項を満たす)という保証及びその確信を得
る一連の活動である。
2.18
検証(verification)
客観的証拠を提示することによって,規定要求事項が満たされていることを確認すること(JIS Q
9000:2015参照)。
注記 検証は要求された特性に対して,システム又はシステムの要素を比較する一連の活動である。
これは指定された要求事項,設計の説明及びシステム自体を含めることができるが,それらに
限定されるものではない。
3
人間中心設計を適用する根拠
設計及び開発に人間中心のアプローチを適用することは,ユーザー,経営者及び供給者に多くの経済的
利益及び社会的利益をもたらす。より使いやすいシステム及び製品は,技術的及び商業的両面において,
より成功しやすい傾向がある。消費者向け製品のような幾つかの分野では,購入者は良く設計された製品
及びシステムに対して割高な価格であっても対価を支払うだろう。ユーザーが追加の支援なしに製品を理
解及び使用できると,サポート及びヘルプデスクの費用は低減する。ほとんどの国では,健康及び安全性
に対するリスクからユーザーを保護するように経営者及び供給者は法的義務を課されており,人間中心設
計の手法はこれらのリスク(例:筋骨格系へのリスク)を削減することができる。人間中心設計の手法で
設計されたシステムは品質が向上する。例えば次による。
a) ユーザーの生産性及び組織の運用効率の向上
b) 理解と使用とを容易化することによる訓練及びサポート費用の削減
c) より幅広い能力をもつ人々のためのユーザビリティの向上,すなわち,アクセシビリティの向上
d) ユーザーエクスペリエンスの改善
e) 不快さ及びストレスの削減
f)
ブランドイメージを向上することによる競争優位性の提供など
g) 持続可能性目標に向けた貢献
5
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人間中心設計による恩恵は,製品,システム又はサービスの構想,設計,実装,サポート,使用,保守,
及び最終的な廃棄を含むシステムのライフサイクル全体の総費用を考慮することによって求めることがで
きる。人間中心設計のアプローチを採用することは,例えば,機能的な要求事項の特定及び定義の改善に
よってシステム設計の他の側面に寄与する。また,人間中心設計の手法を採用することでプロジェクトを
成功裏に,時間どおりに及び予算内で完了させる可能性も高まる。適切な人間中心の手法を用いることで,
利害関係者の要求事項に合わせられない製品又はユーザーに拒まれる製品の危険性を取り除くことができ
る。
人間中心設計活動の成果物の例を表1に示す。
表1−人間中心設計活動による成果物の例
活動
人間中心設計の成果物
利用状況の把握及び明示
利用状況の記述
ユーザー要求事項の明示
利用状況の仕様書
ユーザーニーズの記述
ユーザー要求事項の仕様書
ユーザー要求事項を満たす設計案の作成
ユーザーとシステムとのインタラクションの仕様書
ユーザインタフェースの仕様書
ユーザインタフェースの実装
要求事項に対する設計の評価
評価結果
適合試験結果
長期モニタリング結果
注記 それぞれの成果物のより詳細な情報は,ISO/IEC TR 25060に記載されている。
4
人間中心設計の原則
4.1
一般
この規格は人間中心設計に関する枠組みを示す。この規格は特定の設計プロセスを想定するものではな
く,効果的なシステム設計を保証するために必要となるあらゆる活動を記載するものでもない。この規格
は既存の設計方法論を補うものであり,特定の状況に対して適切な方法で様々な設計及び開発プロセスへ
の統合を可能にする人間中心の考え方を示す。次の6項目で明確にされる全ての人間中心設計活動は,(程
度の差こそあれ)システム開発のいずれの段階においても適用できる。
設計プロセス又は責務及び役割の分担がどのようなものであっても,人間中心のアプローチは次の人間
中心設計の原則(4.2〜4.7を参照)に従うことが望ましい。
a) ユーザー,タスク及び環境の明確な理解に基づいて設計する(4.2参照)。
b) 設計及び開発の全体を通してユーザーが関与する(4.3参照)。
c) ユーザー中心の評価に基づいて設計を方向付け,改良する(4.4参照)。
d) プロセスを繰り返す(4.5参照)。
e) ユーザーエクスペリエンスを考慮して設計する(4.6参照)。
f)
設計チームに様々な専門分野の技能及び視点をもつ人々がいる(4.7参照)。
4.2
ユーザー,タスク及び環境の明確な理解に基づく設計
製品,システム及びサービスは,それらを使用する人々,及びそれらの使用によって(直接的又は間接
的に)影響を受ける可能性のある人達を含む,他の利害関係者グループを考慮して設計されることが望ま
しい。したがって,関係する全てのユーザー及び利害関係者グループを特定することが望ましい。ユーザ
6
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ーニーズの不適切な又は不完全な理解に基づくシステム構築は,システム障害の主な原因の一つである。
製品のユーザビリティ及びアクセシビリティは,ある指定されたユーザーが指定された目標をもち,指
定された環境下で特定のタスクを行う。つまり,状況に依存する(JIS Z 8521:1999参照)。例えば,若者
が携帯電話に楽曲をダウンロードするのに,良いユーザーエクスペリエンスを提供しているようなインタ
フェースをそのままの形でPDA(パーソナルデジタルアシスタント)から企業データにアクセスするため
のインタフェースとして用いても全く不適切な可能性がある。ユーザー,タスク及び環境の特性は“利用
状況”と呼ばれる。関連する情報収集の指針を6.2に記載する。利用状況は要求事項(6.3参照)を確立す
るための主な情報源であり,設計プロセスに不可欠な情報である。
4.3
設計及び開発の全体を通してのユーザーの関与
ユーザーが設計及び開発へ関与することによって,現在の利用状況及びタスクに関する情報,並びに今
後の製品,システム,サービスをどのように使いたいかという情報に関する有益な情報源がもたらされる。
設計過程に参加すること,また関連するデータの情報源となること又は解決策を評価すること,いずれか
にかかわらずユーザーの関与が積極的であることが望ましい。関与する人々は,設計されるシステムのユ
ーザーがもつ幅広い側面を反映した能力,特性及び経験をもった人々であることが望ましい。この関与の
性質及び頻度は,プロジェクトの種別によって設計及び開発全体を通じて変えることができる。開発者と
ユーザーとのやり取りが増えるにつれて,ユーザーの関与の有効さが高まる。
特注のシステムを開発している場合は,想定されたユーザー及び実現すべきタスクを開発プロセスに直
接結び付けることができる。そのシステムを調達しようとしている組織は,設計が始められると直接的に
影響を及ぼすことができる。また,実際にそのシステムで作業する予定の人々は,提案された解決策の評
価に参加することができる。このようなユーザーの関与及び参加は,システムに対するユーザーの受容性
及び責任の度合いを高めることになる。
市販製品及び消費者向けの製品開発では,利用人口が分散したり製品が特別な特性をもったユーザーグ
ループを対象にしていたりする場合がある。それでも,設計案の試験を通してフィードバックを提供する
ことにより,システム仕様に含める必要のあるユーザー及び想定されるユーザーグループに関連するタス
クの要求事項が特定されるよう,ユーザー又は適切な担当者が開発に関与することが重要である。
4.4
ユーザー中心の評価に基づく設計方針の決定
人間中心設計では,ユーザーからのフィードバックが重要な情報源の一つとなる。ユーザーのフィード
バックに基づいた設計の評価及びその改善は,ユーザー及び組織のニーズ(潜在的又は明確に記載するこ
とが難しい要求事項を含む。)にシステムが適合しないリスクを最小限に抑えるための効果的な手法を提供
する。少しずつ改良している設計案に評価結果をフィードバックしていくことで,初期設計案を“現実世
界”のシナリオに対応させた評価が可能になる。ユーザー中心の評価は,設計案を改良するためだけでな
く,要求事項が満たされていることを確認するために製品の最終的な受容性確認の一環としても行われる
ことが望ましい。運用中のユーザーからのフィードバックは,長期的な課題を特定し,将来の設計に向け
た情報を提供する。
注記 “ユーザー中心”という用語は,この評価がユーザーの観点から行われることを強調するため
に使用されている。
4.5
プロセスの繰返し
一般的にプロセスの繰返しなしではインタラクティブシステムの最適な設計は達成できない。
注記1 ここで“繰返し”とは,望ましい結果が達成されるまで一連の段階を繰り返すことを意味す
る。
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注記2 小型開発サイクルから構成される開発手法では,システムの個別部分並びに製品,システム
及びサービス全体に渡る大規模なレベルに対して,それぞれに人間中心設計の活動を繰り返
すことができる。
繰返しは不確実性を着実に排除するために,インタラクティブシステムの開発中に行われることが望ま
しい。繰返しには開発中のシステムのユーザー要求事項を満たしていないリスクを最小限にするため,新
しい情報が得られたときに説明,仕様書及びプロトタイプを改訂及び改良することが含まれる。
ヒューマン・コンピューター・インタラクションの複雑さは,開発の初期においてインタラクションの
あらゆる面のあらゆる細部まで,完全及び正確に指定することは不可能であることを意味する。インタラ
クションの設計に影響を与えるユーザー及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の多くは,開発の過程
でだけ明らかになる。設計者がユーザー及びタスクの理解の精度を高めるにつれ,及びユーザーが発展可
能性のある解決策の反応として自分たちのニーズを表現しやすくなるにつれ,それらは明らかになる。
ユーザー視点のフィードバックを組み込んで解決策の提案を繰り返すことは,リスク低減の手段を提供
する。
例1 ユーザー視点のフィードバックは,想定される利用状況を更新するため,要求事項を改訂する
ため及び提案された設計案を改良するために使用される。
例2 要求仕様は,シナリオ,初期段階のモックアップ及びプロトタイプを用い,ユーザー要求事項
を正しく完全に組み込んでいるかについて,ユーザーからフィードバックを得ることによって
繰り返し改良される。
人間中心設計と設計のほかの側面との調整もまた,繰返しの必要性が生じる。例えば,製品の製造可能
性,生産環境の影響又は市場の変化といった内容への考慮が挙げられる。
4.6
ユーザーエクスペリエンスを考慮した設計
ユーザーエクスペリエンスは,ハードウェア及びソフトウェア両方のインタラクティブシステムの提示,
機能,システムの性能,インタラクション及び支援機能の結果である。それはまた,ユーザーの事前の経
験,態度,技能,習慣及び性格の結果でもある。ユーザビリティは,製品を使いやすくすることだけを意
味するという一般的な誤解がある。しかし,JIS Z 8521におけるユーザビリティの概念は広く,ユーザー
の個人的な目標の観点から解釈するとき,ユーザーエクスペリエンスに典型的に関係する知覚的及び感情
的な側面に関するものだけでなく職務の満足度及び単調さの排除の問題も含んでいる。
ユーザーエクスペリエンスのための設計は,適切な場所,組織的な影響,ユーザーマニュアル,オンラ
インヘルプ,サポート及び保守(ヘルプデスク及び顧客とのコンタクトポイントを含む。),訓練,長期間
の使用並びに商品の包装(“ユーザーが製品を箱から取り出し,使用するまでの経験”を含める。)の考慮
を伴う。従来のシステム又は他のシステムのユーザーの経験,及びブランディング,広告などの問題につ
いても考慮することが望ましい。これらの異なる要素及びその相互依存性を考慮する必要性は,プロジェ
クト計画に示唆を与える(箇条5参照)。
ユーザーによって行われる活動及びテクノロジによって実行される機能を特定するときには,ユーザー
の強み,限界,し好,期待を考慮することが望ましい。
注記1 安全が重大な結果に関わり,かつ,重要な役割を担うシステムでは,ユーザーのし好を満た
すよりもシステムの有効さ又は効率を確保することが重要である。
設計上の意思決定によって,職務,タスク,機能又は責務のどこまでを自動化するか又は人間に割り当
てるか,機能配置が定められる。この決定は様々な要素に基づく。要素には,信頼性,速さ,正確さ,強
度,反応の柔軟性,経費,タスクを成功又はタイムリーに完了させる重要性,安全及びユーザーの満足度
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(短期的なもの,例えば,快適さ及びうれしさ,並びに長期的なもの,例えば,健康,福利及び職務の満
足度)の点での,人間と技術との相対的な能力及び限界を含む。技術的に実行可能な機能だけに基づいて
そのような決定を行い,残りのシステムの機能をユーザーに単純に割り振ることは有効ではない設計とな
る可能性がある。機能の割当てについては6.4.2.2で更に記載する。
通常,ユーザーの代表がこれらの決定に関与することが望ましい。
注記2 この文脈での“代表”とは,対象とするエンドユーザーの母集団に適切に対応することを意
味する。
機能の割当ての結果として,人間の活動はユーザー全体にとって意味のあるタスクのセットを形成する
ことが望ましい。これはシステムの使用によってユーザーの職務の主な要素を支援する組織における特注
のシステムにとって,特に重要である。更なる指針はJIS Z 8512:1995及びJIS Z 8502:1994を参照。
4.7
設計チームへの様々な専門分野の技能及び視点をもつ人々の参画
人間中心設計チームは,大規模である必要はないが適切な時期に設計及び実装のトレードオフの決定を
協力して行う上で十分に多様であることが望ましい。設計及び開発チームでは,次の技能分野及び見地が
必要となる可能性がある。
a) 人間工学,ユーザビリティ,アクセシビリティ,ヒューマン・コンピューター・インタラクション,
ユーザーリサーチ
b) ユーザー及び他の利害関係者グループ(又はその者たちの視点を代行できる者)
c) アプリケーション分野の専門知識,題材に対しての専門知識
d) マーケティング,ブランディング,販売,技術サポート及びメンテナンス,健康及び安全
e) ユーザインタフェース,ビジュアルデザイン,プロダクトデザイン
f)
テクニカルライティング,研修,ユーザー支援
g) ユーザーの管理,サービスの管理及びコーポレートガバナンス
h) ビジネスアナリシス,システムアナリシス
i)
システム工学,ハードウェア及びソフトウェア工学,プログラミング,生産/製造及び保守
j)
人的資源,持続可能性及び他の利害関係者
プロジェクトは,広範囲な技能を備えたチームメンバによる,やり取り及び共同作業から生み出される
創意工夫及びアイデアから成果を得る。多くの専門分野,及び多くの視点からのアプローチの更なる利点
は,チームメンバが他の分野の制約及び現実に,より気が付くようになることである。例えば,技術の専
門家はユーザーの問題に対して敏感になり,ユーザーは技術的な制約に対してより気が付くようになる。
5
人間中心設計の計画
5.1
一般
人間中心設計は,製品ライフサイクルの全ての段階,すなわち,構想,分析,設計,実現,試験,及び
保守の各段階に計画され,組み込まれなければならない。
5.2
責務
プロジェクトを計画する責任者は,プロジェクトにおける人間工学の相対的な重要性を次の観点から考
慮しなければならない。
a) ユーザビリティが製品,システム又はサービスの目的及び利用にどのように関連するか(例:規模,
ユーザー数,他のシステムとの関係,安全及び健康の問題,アクセシビリティ,専門アプリケーショ
ン,極端な環境)
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b) ユーザビリティが低いために生じ得る様々なリスクの度合い(例:経済的なリスク,製品が差別化さ
れないことによるリスク,安全に関するリスク,求められるユーザビリティの度合いを満たせないリ
スク,受容されないリスク)
c) 開発環境の特性(例:プロジェクトの規模,市場投入までの時間,技術の範囲,内製又は外製のプロ
ジェクト,契約形態)
注記1 ユーザーとシステムとのインタラクションの及ぼす影響を過小評価することは,人間中心設
計を適切に計画していないプロジェクトに見られる共通した特徴である。例えば,当初は完
全な自動化を目指したが,最終的にはユーザーがかなりのインタラクションを行うことが必
要になったシステムがある。
一般的に,プロジェクトを計画する責任者がこの箇条を実施する狙いは,人間−システム間のリスクを
特定し軽減するための最も適切な手法及び手順を選択することである。
注記2 人間中心設計活動を実施する方法の説明はISO/TR 16982に記載されている。この規格の指
針の実施のために使用できる人間中心設計プロセスの詳細はISO/TR 18529に記載されてい
る。ISO/TR 18529は,プロセスモデルのためのISO標準フォーマットを使用し,システム
戦略及びインタラクティブシステムの導入及び運用において,人間中心設計の内容を確保す
るためのプロセスを含む。企業がより広い範囲の製品を定義し対処するために用いるプロセ
スと,人間中心のアプローチによって提起される課題の詳細はISO/TS 18152に記載されてい
る。信頼性が決定的であるようなシステムへの人間中心のアプローチに関する更なる指針は
IEC 62508に記載されている。
5.3
計画の内容
人間中心設計の計画には次の内容を含めなければならない。
a) 箇条6に記載されている人間中心設計活動のための適切な手法及び資源の特定
b) 他のシステム開発活動に,これらの活動及び成果物を統合するための手順の定義
c) 人間中心設計活動に責任を負う個人,組織,その技能及び見地の範囲の特定
d) 人間中心設計活動と他の設計活動との間に“トレードオフ”が生じたときに影響を及ぼすように,フ
ィードバック及びコミュニケーションを確立するための有効な手順及びこれらの設計活動を文書化す
るための手法の開発
e) 人間中心設計活動を設計及び開発プロセス全体に統合するための,適切なマイルストーンの設定及び
合意
f)
繰返し,フィードバック及び起こり得る設計変更をプロジェクト日程に組み込むことを見越した適切
な期間設定への合意
5.4
プロジェクト計画への統合
人間中心設計の計画は,プロジェクトの全体計画の一部でなければならない。人間中心設計の計画は,
一貫して運用され効果的に実施することを確実にするために,他の主要な活動と同じプロジェクト規則
(例:責務,変更管理)に添うことが望ましい。プロジェクト計画を構成する人間中心設計は,プロジェ
クトのライフサイクルの初めから終わりまでの間,変更される要求事項に対応して適切にレビュー及び見
直されることが望ましい。
5.5
時間及び資源の割当て
プロジェクト計画では,人間中心設計活動に時間及び資源を割り当てなければならない。繰り返し及び
ユーザーのフィードバックを反映するための時間,並びに設計案がユーザー要求事項を満たすかどうかを
10
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
評価するための時間が含まれていなければならない。
設計チーム関係者間のコミュニケーション,人間とシステム間との問題に関わる潜在的な矛盾,及びト
レードオフの調整に追加の時間を割り当てることが望ましい。ユーザビリティの問題を特定及び解決する
ためにプロジェクトの早期にコミュニケーション及び議論を重ねることは,後段階で変更するよりも大幅
な費用及び時間の節約につながる。
人間中心設計の活動は,プロジェクトの最も早い段階で開始することが望ましい(例:製品又はシステ
ムの初期コンセプトを策定するためのプロセスの一環として)。人間中心設計は,プロジェクトの初めから
終わりまで継続する。
6
人間中心設計活動
6.1
一般
システム,製品又はサービスの開発の必要性が特定され,人間中心設計の開発を行うことを決定した時
点で全てのインタラクティブシステムの設計において,次の四つのつながりのある人間中心設計活動を行
わなければならない。
a) 利用状況の把握及び明示(6.2参照)
b) ユーザー要求事項の明示(6.3参照)
c) 設計案の作成(6.4参照)
d) 設計の評価(6.5参照)
これらの活動は次の課題を考慮して進める。
− 多くの場合,多数のユーザーグループ及び他の利害関係者のニーズを考慮する必要がある。
− 利用状況はユーザーグループごと,異なるタスクごとに多様であり異なることがある。
− プロジェクトの初期には,収集できる要求事項が網羅されていない。
− 幾つかの要求事項は,解決策が提案されて初めて明らかになる。
− ユーザー要求事項は多様であり,要求事項間及び他の利害関係者のものとは相反することがある。
− 初期の設計案がユーザーニーズを全て満たしていることはめったにない。
− システムの各部分を保証しても,統合的に全体が考慮されていることを保証することは困難である。
大局的に見た場合,人間中心設計活動のプロジェクトは要求事項から設計を通して,検証及び妥当性確
認に至る設計及び開発の全ての段階に対応する。しかし,局所的に見た場合,これらの活動は要求事項が
完成する前の初期の設計コンセプトに対するフィードバックを受けるために適用される場合がある。初期
の設計の簡易なプロトタイプ及びモックアップの評価は,設計コンセプトに対する初期のフィードバック
を得るのに加えてユーザーニーズを深く理解する助けになる。これらの活動は,インタラクティブシステ
ムの修正の際及び運用中のシステムの評価に役立つ可能性がある。
注記 人間中心設計活動は,オブジェクト指向,ウォーターフォール,HFI(human factors integration),
アジャイル,ラピッド開発などの多様な設計手法に組み込むことができる。
図1は,人間中心設計活動の相互依存性を示している。これは,厳密な線形プロセスを意味するもので
はなく,人間中心設計の各活動には他の活動からの成果物を使用することを示している。
11
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
図1−人間中心設計活動の相互依存性
6.2
利用状況の把握及び明示
6.2.1
一般
ユーザー及びタスクの特性並びに組織的,技術的及び物理的な環境の特性は,システムを利用する状況
を規定する。将来的にシステムに適用されることになる状況を把握し明示するために,現在の状況に関す
る情報収集及び分析は役に立つ。既存又は類似のシステム(適切であれば手動システムを含む。)の分析は,
それが妥当であれば性能及び満足度が不足していたり最低限の水準であったりしても,状況における事柄
の全範囲に関する情報を提供できる。また,見過ごされていても将来のシステムで満たす必要のあるニー
ズ,問題及び制約を明らかにすることができる。さらに,システムが非常に目新しいものであっても現在
の状況の幾つかの側面は継続する可能性がある。既存のシステムが更新又は改善されるならば,この情報
の幾つかは既に利用可能である。ユーザーからのフィードバック,ヘルプデスクの報告書,及び他のデー
タからの広範囲な結果があれば,これらはシステム改修及び変更の優先順位付けの根拠を提供できる。
注記1 利用状況の記述には,現在の利用状況又は設計のために想定される状況を記述することがあ
る。
注記2 ISO/TR 16982は,この情報の収集及び共有に使うことのできる様々な手法の情報を提供して
いる。
6.2.2
利用状況の記述
利用状況の記述は次を含めなければならない。
a) ユーザー及び利害関係者 重要なニーズをもつ利害関係者のグループと同様に,様々な異なる層のユ
ーザーグループが存在する。関連するグループは特定され,主な目標及び制約の観点から,提案する
開発との関係が記述されなければならない。
人間中心設計プロセスの
計画
利用状況の
把握及び明示
ユーザー要求事項の
明示
要求事項に対する
設計の評価
設計案がユーザー
要求事項を満たす
ユーザー要求事項を満たす
設計案の作成
繰り返す
(適切な活動へ移る)
12
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
b) ユーザー又はユーザーグループの特性 ユーザーに関連した特性は特定されなければならない。特性
には,知識,技能,経験,教育,訓練,身体特性,習慣,し好及び能力を含む。必要に応じて,異な
る種類のユーザーの特性を定義することが望ましい。例えば,経験及び身体的特性の水準の違いであ
る。アクセシビリティを達成するために,製品,システム及びサービスは,想定されるユーザー群の
中で様々な能力をもつ幅広い層の人々によって使用されるよう設計することが望ましい。これは多く
の国における法的な要求事項である。
注記 ISO/IEC TR 29138-1は,障害者に関するアクセシビリティを提供するために考慮するユーザ
ーニーズの範囲を示している。
c) ユーザーの目標及びタスク ユーザーの目標及びシステムの全体的な目標は特定されなければならな
い。ユーザビリティとアクセシビリティとに影響を及ぼすタスクの特性は,記述されなければならな
い。例えば,ユーザーによる典型的なタスク実施方法,作業の頻度及び持続時間,相互依存性及び並
行して実行される活動である。健康及び安全に有害な結果をもたらすおそれがある場合(例:コール
センターでの応対頻度が不適切であることが原因となる過度な作業負担),又はタスクを間違って完了
してしまうリスクがある場合(例:誤って購入する),これらも特定することが望ましい。単に製品,
システムの機能又は特性の観点だけでタスクを記述しないことが望ましい。
d) システムの環境 ハードウェア,ソフトウェア及び資材を含む技術的な環境は特定されなければなら
ない。さらに,物理的,社会的及び文化的な環境に関連した特性も記述されなければならない。物理
的属性には,温度条件,照明,空間のレイアウト及びじゅう(什)器のようなものを含む。環境の社
会的及び文化的な側面は,作業に関する慣習,組織構造及び態度のような要素を含む。
6.2.3
設計を支援するための十分に詳細な記述
システムの利用状況は,要求事項,設計及び評価活動を支援するため十分詳細に記述されることが望ま
しい。
注記 利用状況の記述は,作業書類として作成され記載されるものであり,初めは概要だけが記載さ
れ,続いて設計及び開発のプロセスを通じてレビュー,保守,拡充及び更新される。例えば,
開発の初期においては,タスクの活動の詳細な内容よりもタスクの目標を特定しただけのもの
になるかもしれない。しかし,分析を通じて設計に重要な示唆を示すこともある。
6.2.4
設計のための利用状況の明示
設計のために明示された利用状況(すなわち,システムが利用される状況)は,ユーザー要求事項が適
用される条件を明確に特定するためにユーザー要求仕様書の一部として記すことが望ましい。利用状況の
より詳しい情報及び報告書の見本はJIS Z 8521を参照。日用品の利用状況についての詳細はISO 20282-1
を参照。
6.3
ユーザー要求事項の明示
6.3.1
一般
ほとんどの設計プロジェクトにおいて,ユーザーニーズの特定,製品又はシステムに関する機能及びそ
の他の要求事項を明示することは重要な活動である。人間中心設計では,この活動を拡大し,想定される
利用状況及びシステムのビジネス目標に関係するユーザー要求事項を明確に記述しなければならない。
システムの狙いによって,ユーザー要求事項は組織の変更及び勤務体系の改訂に関する要求事項を含む
ことができ,製品及びサービスを統合する機会を提案できる。提案されたインタラクティブシステムが組
織の慣習に影響を及ぼす可能性がある場合には,組織及びシステムの両方を最適化する目的から組織の利
害関係者を設計プロセスに関与させることが望ましい。
13
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
6.3.2
ユーザー及び他の利害関係者のニーズの特定
ユーザー及び他の利害関係者のニーズは利用状況を考慮して特定されることが望ましい。ニーズの特定
には,どのユーザーニーズを達成するべきか(それをどのように達成するかよりも)及び利用状況によっ
て生じるあらゆる制約を含めることが望ましい。
6.3.3
ユーザー要求事項の導出
ユーザー要求事項の仕様書は次を含めなければならない。
a) 想定される利用状況
b) ユーザーニーズ及び利用状況から導かれる要求事項
例1 屋外で使用される製品に関する要求事項。
c) 関連する人間工学及びユーザインタフェースに関する知識,規格及び指針による要求事項
注記 アクセシビリティの要求事項については,JIS X 8341-1及びJIS X 8341-6に記載されている。
d) 特定の利用状況において測定可能なユーザビリティの達成度及び満足度の基準を含む,ユーザビリテ
ィの要求事項及び目的
例2 想定されるユーザーの90 %が届いた電話をボイスメールに間違いなく転送することができ
る。
例3 ウェブページの審美的デザインが所定のユーザーの満足度の評点を満たす。
e) ユーザーに直接影響する組織の要求事項から導かれる要求事項
例4 コールセンターのシステムは,顧客からの問合せに特定の時間内で応答しなければならない。
ユーザー要求事項は,ユーザーニーズを満たすインタラクティブシステムの設計及び評価の基礎を提供
する。
ユーザー要求事項は,インタラクティブシステムの要求仕様書全体と関連して作成され,その一部を形
成する。
6.3.4
ユーザー要求事項のトレードオフの解決
ユーザー要求事項の間に生じ得る競合は解決することが望ましい。
例 正確さと速さのような競合
トレードオフにおける,このような使用に関わるヒューマン・マシン・システムの問題が生じている理
由,要因及び重み付けは,将来理解できるよう文書化されることが望ましい。
注記 トレードオフが生じた場合は,初期の仮説に立ち戻ること及び利害関係者の関与によって解決
することができる。
6.3.5
ユーザー要求仕様書についての品質保証
ユーザー要求仕様書は次によることが望ましい。
a) 後から試験が実施できるように記載されている。
b) 関係する利害関係者によって検証されている。
c) ユーザー要求事項に矛盾がなく一貫している。
d) プロジェクトのライフサイクルを通じ必要に応じて更新されている。
6.4
設計案の作成
6.4.1
一般
設計の決定はユーザーエクスペリエンスに大きな影響を与える。人間中心設計は,設計プロセスの初め
から終わりまでユーザーエクスペリエンスを十分に考慮することで良いユーザーエクスペリエンスの達成
を目的とする(4.6参照)。
14
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
発展可能性のある設計案は,利用状況の記述,あらゆる基本的な評価の結果,アプリケーション領域に
おいて確立された技術及び設計,並びにユーザビリティの指針及び規格,並びに学際的な設計チームの経
験及び知識に基づき作られる。さらに,設計案が詳細化及び評価されるにつれ,更なるユーザー要求事項
を明らかにすることができる。
設計案の作成は次の活動を含めることが望ましい。
a) ユーザーのタスク,ユーザー要求事項を満たすユーザーシステムインタラクション及びユーザインタ
フェースを設計し,ユーザーエクスペリエンスを考慮する。
b) 設計案をより具体的にする(例えば,利用のシナリオ,シミュレーション,プロトタイプ及びモック
アップを作る。)。
c) ユーザー中心の評価及びフィードバックに応じて設計案を変更する(ユーザーの評価の詳細は,6.5
参照。)。
d) 実装の責任者へ設計案を伝達する。
6.4.2
ユーザーエクスペリエンスを考慮して,ユーザー要求事項を満たす,ユーザータスク,ユーザーシ
ステムインタラクション及びユーザインタフェースの設計
6.4.2.1
設計の原則
ユーザーエクスペリエンスのための設計は,有効さ及び効率と同様にユーザーの満足度(感情的及び審
美的側面を含む。)を考慮する革新のプロセスである。設計は良いユーザーエクスペリエンスを達成するた
めに様々な創造的アプローチを伴う。
インタラクティブシステムを設計するときは,次の原則(JIS Z 8520:2008から引用)を考慮することが
望ましい。
a) タスクへの適合性
b) 自己記述性
c) ユーザーの期待への一致
d) 学習への適合性
e) 可制御性
f)
誤りに対しての許容度
g) 個人化への適合性
注記1 自己記述性[b)]とは,ユーザー自身がどの対話の中にいるか,対話内のどこにいるか,
どの操作を行えるか及びどのように遂行できるのかを明らかにすることを意味する。
注記2 設計活動を支援する指針を提供する他のヒューマンシステムインタラクションの規格に
よる多くの設計の原則がある。参考文献に一覧を示す。
6.4.2.2
ユーザーとシステム間とのタスク及びインタラクションの設計
ユーザーシステムインタラクションの適切な設計は,ユーザーの役割,タスク及び成果を含む,想定さ
れる利用状況の明解な理解に依存する。この理解は目標達成のための機能の適切な配分,例えば,システ
ムのタスクを人による遂行とテクノロジによる遂行とに区分することを可能にする。
例えば,新しい支店の銀行システムのように,システムが特定の組織内での利用を目的に開発されてい
る場合,この活動は職務及び組織の設計も伴う(JIS Z 8512:1995は,職務及びタスクの設計における指針
を提供している。)。
インタラクションの設計は,システムがどのように見えるかよりもユーザーがシステムでどのようにタ
スクを遂行するかを決めることがある。遂行の仕方を決めるようなインタラクションを設計することには,
15
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
例えば,感覚の選択1)(例:聴覚,視覚及び触覚)及び媒体の選択(例:テキストか図表か,ダイアログ
ボックスかウィザードか,機械的制御か電子的制御か)を含むことがある。
インタラクションの設計は次を含めることが望ましい。
a) 設計方針などの上位の意思決定をする(例:初期の設計コンセプト,本質的な成果等)。
注記1 “設計方針などの上位の意思決定”とは,システムの開発の初期段階などにおいて,イン
タラクションの設計の方向性,設計コンセプトなどを決定することをいう。
b) タスク及びサブタスクを特定する。
c) ユーザー及びシステムの他の部分へ,タスク及びサブタスクを割り当てる。
d) タスクの完了に求められるインタラクションの対象を特定する。
e) 適切な対話技法を特定及び選択する(JIS Z 8522,JIS Z 8523,JIS Z 8524,JIS Z 8525,JIS Z 8526及
びJIS Z 8527参照)。
f)
インタラクションの順序及びタイミング(動きの特性)を設計する。
g) インタラクションの対象へ効率的にアクセスできるように,インタラクティブシステムのユーザイン
タフェースの情報アーキテクチャを設計する。
注記2 これらの活動が着手される順序は,設計されたインタラクションの種類に依存し,それ自
身が繰返しの活動である。
注1) ここでいう“感覚の選択”とは,感覚モダリティ又はモダリティを選択することをいう。
6.4.2.3
ユーザインタフェースの設計
ユーザインタフェースの詳細化された設計において,人間工学及びユーザインタフェースの知識,規格
及び指針の体系がハードウェア及びソフトウェアの両方の設計を伝えるために使用されることが望ましい。
これらは,ディスプレイ,入力装置,対話の原則,メニュー,情報の提示,ユーザーの指針,並びに他の
ユーザインタフェース及びアクセシビリティの指針といったJIS X 8341-1及びJIS X 8341-6並びにJIS Z
8511〜JIS Z 8527を含む。多くの組織では,内部のユーザインタフェースのスタイルガイド,製品知識及
びユーザーに関する知識並びにユーザーの期待(JIS Z 8907参照)及び固定概念といった利用状況の他の
側面を保有している。
6.4.3
設計案の一層の具体化
シナリオ,シミュレーション,モデル,モックアップ及びその他の形式のプロトタイプを使うことで,
設計者は想定する設計をユーザー及び他の利害関係者に伝えることができ,フィードバックを得ることが
できる。
この設計手法には次のような利点がある。
a) 設計の提案をより明確にする(これによって,設計チームの人員は,開発プロセスの早い段階からチ
ーム内での及びユーザーとの意思疎通が図れる。)。
b) 設計コンセプトを一つに絞る前に,設計者が幾つかの設計コンセプトを探究することを可能にする。
c) 開発過程の早い段階でユーザーからのフィードバックを設計に取り入れることができる。
d) 設計の複数の繰返し及び代替設計を評価することができる。
e) 機能設計仕様の品質及び完全さを改善する。
簡易なプロトタイプは,初期段階で代替の設計案を探究するときに有効である。設計案をできる限り現
実に近い形で作成することには多くの利点がある一方,具体性及び写実性の度合いは調査が必要な問題に
対して適切であることが望ましい。厳密なプロトタイプを作成するためにあまりに多くの時間及び費用を
投入すると,設計の変更をためらうことの可能性が高くなる。
16
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
6.4.4
ユーザー中心の評価及びフィードバックに基づく設計案の変更
評価からのフィードバックは,システムを改善及び改良するために使われることが望ましい(ユーザー
中心の評価の詳細は,6.5を参照。)。
注記1 フィードバックは設計案の強み及び弱みを明らかにし,ユーザーニーズに関する新たな情報
を提供及び設計の改善できる範囲を示唆することができる。
提案された変更に係る費用及び効果は査定されることが望ましく,何を変更するか決定するときにこの
費用及び効果が用いられることが望ましい。
注記2 再設計の負担は問題の性質に依存する。少ないこともあれば相当の資源が求められることが
あるので再設計の意思決定は問題の重要度に対して判断する。
早期の評価に基づいて提案された変更は,費用対効果が最も高くなる可能性が高い。
プロジェクト計画は,このようなフィードバックの結果による変更を行うため十分な時間を見越してお
くことが望ましい。
6.4.5
実装の責任者への設計案の伝達
設計案をチーム及び実装,又は製造の責任者へ伝達するための方法には様々なものがある。有効な伝達
手段は,改訂したプロトタイプを作成するために適切な文書を提供することから設計開発チームに人間中
心設計の専門家を参加させることまで様々である。
全体のプロジェクトの性質にかかわらず,人間中心設計の責任者とプロジェクトチームの他のメンバと
の間に幾つかの長期的な意思疎通の手段を設けることが望ましい。設計案がやり取りされているとき,特
に駆け引きが必要な場所では設計案に説明及び正当化する理由を付けておくことが望ましい。
伝達は,プロジェクトによる制約,プロジェクトチームの人間工学,ユーザインタフェースの設計に関
する知識及び理解度を考慮することが望ましい。
6.5
設計の評価
6.5.1
一般
ユーザー中心の評価(ユーザー視点に基づく評価)は,人間中心設計における必須の活動である。
プロジェクトの初期段階であっても,ユーザーニーズをより理解するために設計コンセプトを評価する
ことが望ましい。製品,システム又はサービスの実生活での利用が複雑であり,人間工学の設計指針が設
計者に有用な支援を提供できる場合でもユーザー中心の評価は人間中心設計の重要な要素である。しかし,
ユーザーによる評価(6.5.4参照)は,プロジェクトのどの段階でも常に現実的で費用対効果が高いわけで
はない。そのような状況においては,設計案は他の方法,例えば,タスクモデリング及びシミュレーショ
ンを用いて評価することが望ましい。これらの手法は,ユーザー自身が直接参加していないがユーザーが
どのようにシステムを経験するかを中心にしたものである。ユーザー中心の評価を次の目的のために実施
する。
a) ユーザーニーズに関する新しい情報を集める。
b) (設計を改善するために)ユーザー視点から設計案の長所及び短所に関するフィードバックを提供す
る。
c) ユーザー要求事項が達成されているかどうかを確認する(国際,国内,地域,企業又は法定の基準と
の適合の評価を含むことができる。)。
d) 基準値を設定する又は設計案同士を比較する。
6.5.2
ユーザー中心の評価の実施
ユーザー中心の評価は次を含めることが望ましい。
17
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
a) 製品改善のため早期のフィードバック獲得,及び後段階での要求事項が満たされているかの検証,こ
れら両方に資源を割り当てる。
b) プロジェクトのスケジュールに合うようにユーザー中心の評価を計画する。
c) システム全体として意味のある結果を提供するために,十分に網羅的な試験を実施する。
d) 結果を分析し,問題に優先順位を付け,解決策を提案する。
e) 解決策が設計チームに効果的に使用されるよう適切に伝達する。
6.5.3
ユーザー中心の評価手法
設計を評価するために利用可能な様々なユーザー中心の評価手法がある。これらを含めたユーザビリテ
ィ評価手法,並びに最適な手法又は手法の組合せの選び方についての指針はISO/TR 16982に示す。
注記 更なる情報,勧告及び試験,チェックリスト及びその他の人間工学的基準についての適合手段
に関する規格を参考文献に示す。
妥当性のある結果を得るためには,経験豊富な評価者によって評価が実施されること及び適切な手法を
使用することが望ましい。
ユーザー中心の評価は,設計初期の考え方から長期利用に至るまで,プロジェクトの全ての段階で有用
であり,製品,システム又はサービスの将来のバージョンのための情報を提供できる(6.5.6参照)。開発
及び設計の初期段階での変更は比較的安価である。長期にプロセスを進行させるほど,かつ,システムが
より完全に定義されるほど変更の費用は大きくなる。
評価のための資源は,製品改善のための早期のフィードバック獲得,及び後段階でのユーザー要求事項
が満たされているかの検証,これら両方に割り当てることが望ましい。後者(総括評価)の評価は,要求
事項に合わないリスクを考慮した範囲にすることが望ましい。
ユーザー中心の評価には次の二つの広く使用されているアプローチがある。
− ユーザーによる試験
− ユーザビリティ及びアクセシビリティの指針又は要求事項を用いたインスペクション評価(6.5.5参
照)
注記 ソフトウェアに関する幾つかの指針及び規格への適合は,自動的に試験でき,基本的な問題
の特定に有用である。例えば,ソフトウェアのアクセシビリティの幾つかの側面は自動試験
ツールを使用して評価できる。
6.5.4
ユーザーによる試験
ユーザーによる試験は設計のどの段階でも実施できる。
プロジェクトの非常に初期の段階から,ユーザーに設計コンセプトのモデル,シナリオ又はスケッチを
提示し,実際の状況と関連させて評価してもらうことができる。例えば,立体モックアップを用いて新し
い支払方法のコンセプトを評価したり,画面の単純な線画で新しい携帯電話のナビゲーション設計の評価
をすることができる。このような初期の試験は,提案された設計の妥当性について貴重なフィードバック
を提供できる。設計の詳細な側面は多くの場合迅速かつ安価に評価できる。例えば,提案された対話のペ
ーパープロトタイプを使用する。適切な状況での模擬又は実タスクを通じたインタラクションのモックア
ップは常に必要である。
プロトタイプが試験されているとき,単にその設計のデモンストレーション及びプレビューが表示され
るのではなく,ユーザーがプロトタイプを使用してタスクを実行する必要がある。収集された情報は設計
を方向付けるために使用される。
開発の後段階で,ユーザビリティの達成度及び満足度の基準を含めたユーザビリティ目標が,想定され
18
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る状況又は利用状況に合ったものかを査定するためにユーザーによる試験が実施できる。
ユーザーによる試験の一つとして,フィールドにおける妥当性確認,すなわち,実環境における設計又
は設計コンセプトの試験が含まれる。ソフトウェア製品の場合,そのような試験は“ベータ”試験と呼ば
れることがある。これは,ソフトウェアの初期版が使用可能となり,ユーザーは製品が最終版ではなく,
まだ改良されることを認識して行われる。ハードウェア製品の場合は,実環境で同様に試験を行うために
少量を生産して行うことができる。量産品の場合は,将来の開発の情報源とするため実際に使用される条
件において評価することもできる。
フィールドでの妥当性確認からデータを収集するための手法は,ヘルプデスクのデータ,フィールドレ
ポート,インシデントの分析,ニアミスの報告書,ログファイル,不具合の報告書,実ユーザーからのフ
ィードバック,達成度のデータ,満足度調査,健康への影響に関するレポート,設計の改善,ユーザーの
観察及び変更要求事項が含まれる。
6.5.5
インスペクション評価
インスペクション評価は,有益かつ費用対効果に優れユーザーによる試験を補完できる。これはユーザ
ーによる試験の前に主要な問題を解消し,ユーザーによる試験をより費用対効果に優れたものにすること
ができる。
インスペクション評価はユーザビリティの専門家によって適切に実施される。ユーザビリティの専門家
は,ユーザーが直面する問題の事前経験並びに人間工学上の指針及び規格に関する知識に基づき判断でき
るからである。個々人のバイアスを減らすために複数の専門家による評価を組み合わせる。インスペクシ
ョン評価では,評価者が自分自身をシステム,製品又はサービスを扱うユーザーの役割に置く。インスペ
クション評価は,チェックリスト,ユーザー要求事項のリスト,一般的なユーザビリティの指針,業界の
ベストプラクティス,ユーザビリティの経験則,指針又は規格によって支援することができる。ただし,
インスペクション評価の有効さは常に評価者の技能,経験及び知識に依存する。
インスペクション評価は,ユーザーによる試験よりも簡単及び迅速に実施でき,一般にユーザーによる
評価よりも広い範囲のユーザー及びタスクを考慮できる(例えば,ユーザーによる試験で選択されなかっ
た使用状況において,ユーザー要求事項を製品が満たしているかを評価する。)。インスペクション評価は,
ユーザーによる試験で発見される問題を常には発見できない。インスペクション評価は,明らかな問題を
強調する傾向があり,複雑又は斬新なインタフェースに対して適切に問題を見つけられない場合がある。
インスペクション評価実施者と実ユーザーの知識及び経験との違いが大きいほど信頼性は低下する。イン
スペクション評価を適切に行うとき,アプリケーション分野の専門家と連携して実施することがある。
関連する指針及び規格は設計の重要な情報源(6.4.2参照)であり,適合性はインスペクションによって
評価できる。時間及び資源を大量に消費することもあるが,例えばウェブアクセシビリティ指針を用いる
場合のように適合性を確認する必要がある。
6.5.6
長期モニタリング
人間中心設計プロセスは,製品,システム又はサービスの使用の長期モニタリングも含むことが望まし
い。これは期間を通じて様々な方法でユーザーからの情報を収集することを含む。
追跡評価はしばしばシステム評価の正式な一部であり,例えばシステム導入後の6か月間〜1年間とい
った特定の期間内で実施される。追跡評価は多くの場合,システムの性能を試験するとともにユーザーニ
ーズと要求事項とが合っているか及び正しく記述されていたかを判断するデータを収集する。
短期評価と長期モニタリングとには重要な違いがある。インタラクティブな製品,システム又はサービ
スで作業することの影響は一定期間使用されるまで認識されない場合もある。同様に,法律の予期しない
19
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変更といった外的要因によって影響がある可能性がある。このような問題は直ちに対処する必要はないが,
システム又はサービスの将来の変更又は開発に用いることができる情報である。
健康への影響に関する長期間の性能データ及び報告書は貴重な情報を提供する。基準及び測定には,で
きるだけ早くシステム障害又はシステムの問題を特定するために十分に気を配ることが望ましい。
注記 事故を記録することによって危険な行動を特定することの方が明らかに望ましいことであり,
医学的疾患を記録することによって精神的又は生理的な過大負荷を特定することの方が望まし
い。
7
持続可能性及び人間中心設計
現代社会において,持続可能性に配慮した社会的責任設計(socially responsible designs)を促進すること
は重要な問題である。標準化の面では,経済,社会及び環境への配慮を統合し調和させることを伴う。
注記 ISOは“持続可能な世界のための基準”を開発するという誓約をしている。1987年,国連のブ
ルントランド委員会報告書“我々の共通の未来”は,“我々のニーズを満たすために将来の世代
の能力を傷付ける,ということなく,現在のニーズを満たす”として持続可能な開発を定義し
ている。
人間中心設計は持続可能性における次の二つの柱を支える。
a) 経済 設計をユーザーニーズ及び能力へ調和させることは,その使用率,品質及び効率を高め,その
結果,費用対効果の高い解決策を提供し,システム,製品及びサービスが無駄になる又はユーザーに
よって拒否されるという可能性を低減する。
b) 社会 人間中心のアプローチを取ることで,障害をもつユーザーを含むユーザーの健康,福利,及び
ユーザーとシステムとの関わりにとって,結果的により良いシステム,製品及びサービスを実現する
ことになる。
人間中心設計は,ライフサイクル全体に対する設計のアプローチを促進することを通じて環境の構成要
素をも支援している。設計に関わる全員がユーザー及び環境のためにシステムの長期的な影響に配慮する
ことを明確に奨励する。使いやすい製品をもたらすアプローチは維持及び継続的に適用される可能性が高
い。
8
適合
この規格への適合を表明するためには次を達成する。
a) 全ての要求事項を満たす。
b) 該当する推奨事項を特定する。
c) 特定の推奨事項が適用されない理由を明らかにする。
d) 該当する推奨事項に適合しているかどうかを公表する。
製品又はシステムが要求事項に適合していると表明する,及び該当する推奨事項に準拠しているとみな
す場合は,適合又は準拠しているかを判断するために用いられる手順を指定することが望ましい。指定さ
れる手順の詳細は受渡当事者間の協議による。
附属書Bは,推奨事項の適用性の報告と,要求事項及び該当する推奨事項に適合又は準拠していること
の報告の,両方の手段を提供する。
この規格のユーザーは,附属書Bで提供されるいずれかの手順及び書式を利用するか又は特定のニーズ
に合わせた別の手順を開発することになる。
20
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
注記 ISO/TR 18529は,プロジェクト又は組織における人間中心設計の能力を証明するための評価モ
デルを提供する。
21
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
附属書A
(参考)
ISO 9241シリーズの概要
(国際規格に関する規定であるため不採用とした)
22
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
附属書B
(参考)
適用性及び適合を評価するための手順例
B.1
一般事項
この附属書は,この規格の要求事項に適合しているかどうか及び該当の推奨事項に準拠しているかどう
かを判断するために使用するチェックリスト(表B.1参照)の例を示す。
このチェックリストには,この規格の全ての要求事項及び推奨事項が含まれ一連の手順を示す。ただし,
この規格の本文から単独で使用することはできない。
記載した手順は,それ自身が手本として示されたものであること及び規格そのものの代替として使用す
る完全なプロセスではないことに注意することが望ましい。
チェックリストの使用は次の基本を示す。
− どの推奨事項を適用するか特定する。
− 要求事項に適合しているかどうか及び該当する推奨事項に準拠しているかどうか特定する。
− 全ての要求事項に適合していることを示す適合の表明の証拠となるリスト,及び準拠している全ての
該当する推奨事項に体系的なリストを提供する。
この規格における要求事項及び推奨事項の幾つかは複数の構成要素をもつ。これらをチェックリストに
示す。要求事項及び推奨事項の達成は,要求事項及び推奨事項自体ではなく各構成要素の考察による。こ
のリストの各項目は,チェックリストの別の行にそのために示され,要求事項を含む行は灰色の塗り潰し
で示されている。完成したチェックリストは,この規格におけるプロジェクトの適合に関する記述の証拠
として使用することができる。それは適合が達成された要求事項及び推奨事項の全てのリストを提供する。
B.2
チェックリストの使い方
箇条及び細分箇条の番号を表の1列目に示し,2列目には対応する表題及び要求事項又は推奨事項を示
す。3列目はそれぞれの箇条の要求事項又は推奨事項が該当するかしないかを示すために使用する。全て
の要求事項は既に3列目に“Y”(“はい”の場合)として挿入されている。他の全ての箇条は,プロジェ
クトの状況によって照合され,“Y”又は“N”(“いいえ”の場合)を3列目へ適切に入力する必要がある。
各推奨事項については,該当の事柄に関する情報は関連するこの規格の箇条で与えられる。推奨事項が
適用されない場合,これは表の“適用性(Applicability)”欄の3列目で示されることが望ましく,その簡
単な説明を4列目の“適用できない理由(Reason not applicable)”で提供することが望ましい。
要求事項又は推奨事項が満たされているかどうかを照合することには,3列目で該当することが示され
ている全ての項目をレビューし,評価対象のプロジェクトがこれらの要求事項及び推奨事項(該当する)
に準拠しているかどうかを判断することを含む。この判断を行う正確な手法は様々である。
チェックリストの“適合性(Conformance)”欄は,該当する各要求事項又は推奨事項が満たされている
(Y)又は満たされていない(N)という判断を示すために5列目及び6列目に記入欄を提供する。満たさ
れていない箇条は,7列目にその理由を説明する簡単なメモを添付することが望ましい。7列目は使用方法
についての情報を記録するために用いることもできる。
23
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
B.3
チェックリストの複写
この規格のユーザーは,この規格への適合を証明するために,この附属書に含まれる表を自由に複写し
てもよい。
チェックリストの編集可能な版は“ISO 9241 210 表(ISO-9241-210-tables)”と呼ばれる公開情報のフォ
ルダにサブフォルダとして提供されている。
表B.1のリンク先:
<http://isotc.iso.org/livelink/livelink?func=ll&objId=8265864&objAction=browse&sort=name>
24
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
表B.1−この規格の適用性及び適合性を評価するためのチェックリスト
箇条
要求事項又は推奨事項
適用性
適合性
Yes/No
適用できな
い理由
Yes
No
コメント
4
人間中心設計の原則
4.1
設計プロセス又は責務及び役割の分担がどのよ
うなものであれ,人間中心のアプローチは人間中
心設計の原則(4.1)に従うことが望ましい。
4.2
製品,システム及びサービスは,それらを使用す
る人々,及びそれらの使用によって(直接的又は
間接的に)影響を受ける可能性のある人達を含
む,他の利害関係者グループを考慮して設計され
ることが望ましい。
4.2
関係する全てのユーザー及び利害関係者グルー
プを特定することが望ましい[6.2.2a)も参照]。
4.3
ユーザーの関与が積極的であることが望ましい
[6.2.2b)も参照]。
4.3
関与するユーザーは,設計されるシステムのユー
ザーがもつ幅広い側面を反映した能力,特性及び
経験をもった人々であることが望ましい。
4.4
ユーザー中心の評価は,設計案を改良するためだ
けでなく,要求事項が満たされていることを確認
するために製品の最終的な受容性確認の一環と
しても行われることが望ましい。
4.5
繰返しは不確実性を着実に排除するためにイン
タラクティブシステムの開発中に行われること
が望ましい。
4.6
従来のシステム又は他のシステムのユーザーの
経験及びブランディング,広告などの問題につい
ても考慮することが望ましい。
4.6
ユーザーによって行われる活動及びテクノロジ
によって実行される機能を特定するときには,ユ
ーザーの強み,限界,し好,期待を考慮すること
が望ましい。
4.6
通常,ユーザーの代表が機能の割当てに関する決
定に関与することが望ましい。
4.6
機能の割当ての結果として,人間の活動はユーザ
ー全体にとって意味のあるタスクのセットを形
成することが望ましい。
4.7
人間中心設計チームは,大規模である必要はない
が適切な時期に設計と実装とのトレードオフの
決定を協力して行う上で,十分に多様であること
が望ましい。
5
人間中心設計の計画
5.1
人間中心設計は,製品ライフサイクルの全ての段
階に計画され,組み込まれなければならない。
Y
5.2
プロジェクトを計画する責任者は,プロジェクトにおける人間工学の相対的な重要性を次の観点から考
慮しなければならない:
5.2 a)
ユーザビリティが製品,システム又はサービスの
目的及び利用にどのように関連するか
Y
25
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
表B.1−この規格の適用性及び適合性を評価するためのチェックリスト(続き)
箇条
要求事項又は推奨事項
適用性
適合性
Yes/No
適用できな
い理由
Yes
No
コメント
5.2 b)
ユーザビリティが低いために生じ得る様々なリ
スクの度合い
Y
5.2 c)
開発環境の特性
Y
5.3
人間中心設計の計画には次の内容が含まれなければならない:
5.3 a)
箇条6で記載されている人間中心設計の活動の
ための適切な手法及び資源の特定
Y
5.3 b)
他のシステム開発活動に,これらの活動及び成果
物を統合するための手順の定義
Y
5.3 c)
人間中心設計の活動に責任を負う個人,組織,そ
の技能及び見地の範囲の特定
Y
5.3 d)
人間中心設計活動と他の設計活動との間に“トレ
ードオフ”が生じたときに影響を及ぼすように,
フィードバック及びコミュニケーションを確立
するための有効な手順並びにこれらの設計活動
を文書化するための手法の開発
Y
5.3 e)
人間中心設計活動を設計及び開発プロセス全体
に統合するための,適切なマイルストーンの設定
及び合意
Y
5.3 f)
繰返し,フィードバック及び起こり得る設計変更
をプロジェクト日程に組み込むことを見越した
適切な期間設定への合意
Y
5.4
人間中心設計の計画は,プロジェクトの全体計画
の一部でなければならない。
Y
5.4
人間中心設計の計画は,一貫して運用され効果的
に実施することを確実にするために他の主要な
活動と同じプロジェクト規則(例:責務,変更管
理)に添うことが望ましい。
5.4
プロジェクト計画を構成する人間中心設計は,プ
ロジェクトのライフサイクルの初めから終わり
までの間,変更される要求事項に対応して,適切
にレビュー及び見直されることが望ましい。
5.5
プロジェクト計画では,人間中心設計活動に時間
及び資源を割り当てなければならない。
Y
5.5
(計画には)繰り返し及びユーザーのフィードバ
ックを反映するための時間,並びに設計案がユー
ザー要求事項を満たすかどうかを評価するため
の時間が含まれていなければならない。
Y
5.5
設計チーム関係者間のコミュニケーション及び
人間とシステム間との問題に関わる潜在的な矛
盾,及びトレードオフの調整に追加の時間を割り
当てることが望ましい。
5.5
人間中心設計の活動は,プロジェクトの最も早い
段階で開始することが望ましい。
5.5
プロジェクト計画の人間中心設計は,プロジェク
トのライフサイクルの初めから終わりまでレビ
ューされることが望ましい。
26
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
表B.1−この規格の適用性及び適合性を評価するためのチェックリスト(続き)
箇条
要求事項又は推奨事項
適用性
適合性
Yes/No
適用できな
い理由
Yes
No
コメント
6
人間中心設計活動
6.1
全てのインタラクティブシステムの設計において,四つのつながりのある人間中心設計活動を行わなけ
ればならない:
6.1 a)
利用状況の把握及び明示
Y
6.1 b)
ユーザー要求事項の明示
Y
6.1 c)
設計案の作成
Y
6.1 d)
設計の評価
Y
6.2.2
利用状況の記述は次を含めなければならない:
Y
6.2.2 a)
関連するグループは特定され,主な目標と制約と
の観点から提案する開発との関係が記述されな
ければならない。
Y
6.2.2 b)
ユーザーに関連した特性は特定されなければな
らない。
Y
6.2.2 b)
必要に応じて異なる種類のユーザーの特性を定
義することが望ましい。
6.2.2 b)
アクセシビリティを達成するために,製品,シス
テム及びサービスは,想定されるユーザー群の中
で,様々な能力をもつ幅広い層の人々によって使
用されるよう,設計することが望ましい。
6.2.2 c)
ユーザーの目標及びシステムの全体的な目標は
特定されなければならない。
Y
6.2.2 c)
ユーザビリティ及びアクセシビリティに影響を
及ぼすタスクの特性は記述されなければならな
い。
Y
6.2.2 c)
健康及び安全に有害な結果をもたらすおそれが
ある場合を特定することが望ましい。
6.2.2 c)
タスクを間違って完了してしまうリスクがある
場合,これを特定することが望ましい。
6.2.2 c)
単に製品,システムの機能又は特性の観点だけで
タスクを記述しないことが望ましい。
6.2.2 d)
ハードウェア,ソフトウェア,及び資材を含む技
術的な環境は特定されなければならない。
Y
6.2.2 d)
物理的,社会的及び文化的な環境に関連した特性
は,記述されなければならない。
Y
6.2.3
システムの利用状況は,要求事項,設計及び評価
活動を支援するため十分詳細に記述されること
が望ましい。
Y
6.2.4
対象の利用状況はユーザー要求事項が適用され
る条件を明確に特定するために,ユーザー要求仕
様書の一部として記すことが望ましい。
6.3.1
ユーザーニーズの特定,製品又はシステムに関す
る機能,及びその他の要求事項を明示する活動を
拡大して想定される利用状況及びシステムのビ
ジネス目標に関係するユーザー要求事項を明確
に記述しなければならない。
27
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
表B.1−この規格の適用性及び適合性を評価するためのチェックリスト(続き)
箇条
要求事項又は推奨事項
適用性
適合性
Yes/No
適用できな
い理由
Yes
No
コメント
6.3.1
もし,提案されたインタラクティブシステムが組
織の慣習に影響を及ぼす可能性がある場合には,
組織及びシステムの両方を最適化する目的から
組織の利害関係者を設計プロセスに関与させる
ことが望ましい。
6.3.2
ユーザー及び他の利害関係者のニーズは,利用状
況を考慮して特定されることが望ましい。
6.3.2
ユーザー及び他の利害関係者のニーズは,どのユ
ーザーニーズを達成するべきか(それをどのよう
に達成するかよりも)及び利用状況によって生じ
るあらゆる制約を含めることが望ましい。
6.3.3
ユーザー要求事項の仕様書は次を含めなければならない:
6.3.3 a)
想定される利用状況
Y
6.3.3 b)
ユーザーニーズ及び利用状況から導かれる要求
事項
Y
6.3.3 c)
関連する人間工学及びユーザインタフェースに
関する知識,規格及び指針による要求事項
Y
6.3.3 d)
特定の利用状況において測定可能なユーザビリ
ティの達成度及び満足度の基準を含む,ユーザビ
リティの要求事項及び目的
Y
6.3.3 e)
ユーザーに直接影響する組織の要求事項から導
かれる要求事項
Y
6.3.4
ユーザー要求事項の間に生じ得る競合は解決す
ることが望ましい。
6.3.4
トレードオフにおける,このような使用に関わる
ヒューマン・マシン・システムの問題が生じてい
る理由,要因及び重み付けは将来理解できるよう
文書化されることが望ましい。
6.3.5
ユーザー要求仕様書は次であることが望ましい:
6.3.5 a)
後から試験が実施できるように記載されている。
6.3.5 b)
関係する利害関係者によって検証されている。
6.3.5 c)
ユーザー要求事項に矛盾がなく一貫している。
6.3.5 d)
プロジェクトのライフサイクルを通じ必要に応
じて更新されている。
6.4.1
設計案の作成は次の活動を含めることが望ましい:
6.4.1 a)
ユーザーのタスク,ユーザー要求事項を満たすユ
ーザーシステムインタラクション及びユーザイ
ンタフェースを設計し,ユーザーエクスペリエン
スを考慮する。
6.4.1 b)
設計案をより具体的にする。
6.4.1 c)
ユーザー中心の評価及びフィードバックに応じ
て,設計案を変更する。
6.4.1 d)
実装の責任者へ設計案を伝達する。
6.4.2.1
インタラクティブシステムを設計するときは,次の原則(JIS Z 8520:2008から引用)を考慮することが
望ましい:
6.4.2.1 a)
タスクへの適合性
28
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
表B.1−この規格の適用性及び適合性を評価するためのチェックリスト(続き)
箇条
要求事項又は推奨事項
適用性
適合性
Yes/No
適用できな
い理由
Yes
No
コメント
6.4.2.1 b)
自己記述性
6.4.2.1 c)
ユーザーの期待への一致
6.4.2.1 d)
学習への適合性
6.4.2.1 e)
可制御性
6.4.2.1 f)
誤りに対しての許容度
6.4.2.1 g)
個人化への適合性
6.4.2.2
インタラクションの設計は次を含めることが望ましい:
6.4.2.2 a)
設計方針などの上位の意思決定をする。
6.4.2.2 b)
タスク及びサブタスクを特定する。
6.4.2.2 c)
ユーザー及びシステムの他の部分へタスク及び
サブタスクを割り当てる。
6.4.2.2 d)
タスクの完了に求められるインタラクションの
対象を特定する。
6.4.2.2 e)
適切な対話技法を特定及び選択する。
6.4.2.2 f)
インタラクションの順序及びタイミング(動きの
特性)を設計する。
6.4.2.2 g)
インタラクションの対象へ効率的にアクセスで
きるようにインタラクティブシステムのユーザ
インタフェースの情報アーキテクチャを設計す
る。
6.4.2.3
人間工学及びユーザインタフェースの知識,規格
及び指針の体系がハードウェア及びソフトウェ
アの両方の設計を伝えるために使用されること
が望ましい。
6.4.3
(プロトタイプの)具体性及び写実性の度合いは
調査が必要な問題に対して適切であることが望
ましい。
6.4.4
評価からのフィードバックはシステムを改善及
び改良するために使われることが望ましい。
6.4.4
提案された変更に係る費用及び効果が査定され
ることが望ましく,何を変更するか決定するとき
にこの費用及び効果が用いられることが望まし
い。
6.4.4
プロジェクト計画は,このようなフィードバック
の結果による変更を行うため十分な時間を見越
しておくことが望ましい。
6.4.5
人間中心設計の責任者とプロジェクトチームの
他のメンバとの間に幾つかの長期的な意思疎通
の手段を設けることが望ましい。
6.4.5
設計案がやり取りされているとき,特に駆け引き
が必要な場所では設計案に説明及び正当化する
理由を付けておくことが望ましい。
6.4.5
伝達は,プロジェクトによる制約,プロジェクト
チームの人間工学,ユーザインタフェースの設計
に関する知識及び理解度を考慮することが望ま
しい。
29
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
表B.1−この規格の適用性及び適合性を評価するためのチェックリスト(続き)
箇条
要求事項又は推奨事項
適用性
適合性
Yes/No
適用できな
い理由
Yes
No
コメント
6.5.1
ユーザー中心の評価(ユーザー視点に基づく評
価)は,人間中心設計における必須の活動である。
Y
6.5.1
プロジェクトの初期段階であってもユーザーニ
ーズをより理解するために設計コンセプトを評
価することが望ましい。
6.5.1
プロジェクトのその段階においてユーザーによ
る評価が現実的でない又は費用対効果が高い場
合,設計案は他の方法を用いて評価されることが
望ましい。
6.5.2
ユーザー中心の評価は,次を含めることが望ましい:
6.5.2 a)
製品改善のため早期のフィードバックの獲得,及
び後段階での要求事項が満たされているかの検
証,これら両方に資源を割り当てる。
6.5.2 b)
プロジェクトのスケジュールに合うようにユー
ザー中心の評価を計画する。
6.5.2 c)
システム全体として意味のある結果を提供する
ために十分に網羅的試験を実施する。
6.5.2 d)
結果を分析し,問題に優先順位を付け,解決策を
提案する。
6.5.2 e)
解決策が設計チームに効果的に使用されるよう
適切に伝達する。
6.5.3
妥当性のある結果を得るためには経験豊富な評
価者によって評価が実施されることが望ましい。
6.5.3
妥当性のある結果を得るためには適切な手法を
使用することが望ましい。
6.5.3
評価のための資源は製品改善のための早期のフ
ィードバック獲得,及び後段階でのユーザー要求
事項が満たされているかの検証,これら両者に割
り当てることが望ましい。
6.5.3
後者(総括評価)の評価は要求事項に合わないリ
スクを考慮した範囲にすることが望ましい。
6.5.4
プロトタイプが試験されているとき,単にその設
計のデモンストレーション及びプレビューが表
示されるのではなく,ユーザーがプロトタイプを
使用してタスクを実行する必要がある。
6.5.6
人間中心設計プロセスは,製品,システム又はサ
ービスの使用の長期間のモニタリングも含むこ
とが望ましい。
6.5.6
基準及び測定には,できるだけ早くシステム障害
又はシステムの問題を特定するために,十分に気
を配ることが望ましい。
30
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
参考文献
[1] JIS Z 8907 空間的方向性及び運動方向−人間工学的要求事項
注記 原国際規格では,ISO 1503:2008,Spatial orientation and direction of movement−Ergonomic
requirementsと記載している。
[2] JIS Z 8501 人間工学−作業システム設計の原則
注記 原国際規格では,ISO 6385:2004,Ergonomic principles in the design of work systemsと記載して
いる。
[3] JIS Q 9000 品質マネジメントシステム−基本及び用語
注記 原国際規格では,ISO 9000:2005,Quality management systems−Fundamentals and vocabularyと
記載している。
[4] JIS Z 8502 人間工学−精神的作業負荷に関する原則−用語及び定義
JIS Z 8503 人間工学−精神的作業負荷に関する原則−設計の原則
注記 原国際規格では,ISO 10075 (all parts),Ergonomic principles related to mental workloadと記載し
ている。
[5] ISO 11064-1:2000,Ergonomic design of control centres−Part 1: Principles for the design of control centres
注記 JIS Z 8503-1 人間工学−コントロールセンターの設計−第1部:コントロールセンターの設
計原則が,この国際規格に対応している。
[6] ISO 11064-2:2000,Ergonomic design of control centres−Part 2: Principles for the arrangement of control
suites
注記 JIS Z 8503-2 人間工学−コントロールセンターの設計−第2部:コントロールスウィートの
基本配置計画の原則が,この国際規格に対応している。
[7] ISO 14915-1:2002,Software ergonomics for multimedia user interfaces−Part 1: Design principles and
framework
注記 JIS Z 8531-1 人間工学−マルチメディアを用いるユーザインタフェースのソフトウェア−
第1部:設計原則及び枠組みが,この国際規格に対応している。
[8] ISO 14915-2:2003,Software ergonomics for multimedia user interfaces−Part 2: Multimedia navigation and
control
注記 JIS Z 8531-2 人間工学−マルチメディアを用いるユーザインタフェースのソフトウェア−
第2部:マルチメディアナビゲーション及び制御が,この国際規格に対応している。
[9] ISO 14915-3:2002,Software ergonomics for multimedia user interfaces−Part 3: Media selection and
combination
注記 JIS Z 8531-3 人間工学−マルチメディアを用いるユーザインタフェースのソフトウェア−
第3部:メディアの選択及び組合せが,この国際規格に対応している。
[10] JIS X 0170 システムライフサイクルプロセス
注記1 原国際規格では,ISO/IEC 15288:2008,Systems and software engineering−System life cycle
processesと記載している。
注記2 ISO/IEC 15288:2008は廃止され,ISO/IEC/IEEE 15288:2015,Systems and software
engineering−System life cycle processesに置き換わっている。
31
Z 8530:2019 (ISO 9241-210:2010)
[11] ISO/TR 16982:2002,Ergonomics of human-system interaction−Usability methods supporting human-centred
design 2)
[12] ISO/TS 18152:2010,Ergonomics of human-system interaction−Specification for the process assessment of
human-system issues
[13] ISO/TR 18529:2000,Ergonomics−Ergonomics of human-system interaction−Human-centred lifecycle
process descriptions
[14] ISO 20282-1:2006,Ease of operation of everyday products−Part 1: Design requirements for context of use
and user characteristics
[15] ISO/TS 20282-2:2006,Ease of operation of everyday products−Part 2: Test method for walk-up-and-use
products
注記 ISO/TS 20282-2:2006の最新版は,ISO/TS 20282-2:2013,Usability of consumer products and
products for public use−Part 2: Summative test methodである。
[16] ISO/IEC TR 25060:2010,Systems and software engineering−Systems and software product Quality
Requirements and Evaluation (SQuaRE)−Common Industry Format (CIF) for usability−General framework
for usability-related information
[17] ISO/IEC TR 29138-1:2009,Information technology−Accessibility considerations for people with disabilities
−Part 1: User needs summary
[18] IEC 62508:2010,Guidance on human aspects of dependability
注2) ISO 9241-230によって置き換えることが予定されている。