2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
日本工業規格 JIS
Z 8512-1995
(ISO 9241-2 : 1992)
人間工学−視覚表示装置を
用いるオフィス作業−
仕事の要求事項についての指針
Ergonomics−Office work with visual display terminals
(VDTs)−Guidance on task requirements
日本工業規格としてのまえがき
この規格は,1992年第1版として発行されたISO 9241-2 [Ergonomic requirements for office work with visual
display terminals (VDTs)−Part 2 : Guidance on task requirements] を翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を
変更することなく作成した日本工業規格である。
0. 序文 視覚表示装置(以下,VDTという。)を用いた情報処理システム(以下,VDT情報処理システ
ムという。)の導入は,組織の構造,機能及び物理的環境に影響を及ぼす可能性がある。すなわち,影響し
合う関係が変化し,個人,組織及び技術の相互の依存関係が変化し,また,仕事の内容も変化する可能性
がある。これらの変化は,関与する個人の作業成績,健康及び福利に対して良い影響を与えることが望ま
しい。
VDT情報処理システムに人間工学の原理を適用することは,本質的に,ハードウェア,ソフトウェア及
び作業環境の設計と,仕事の設計とを統合することにほかならない。
1. 適用範囲 この規格は,VDT情報処理システムを使用する際に,その利用者のためにオフィスでの仕
事に関しての指針について規定する。この規格は,システムを具体化する組織と,そのシステムを使用す
る人との両方に関係している。この規格は,地方及び国の条例・法規に従って適用されることが望ましい。
この規格は,実際の経験に基づき人間工学上の知識を仕事の設計に適用することによって,利用者個々
の能率及び福利を向上させることを目的とする。関係する人間工学上の原則は,ISO 6385に規定されてい
る。
視覚表示についての特性,並びに操作,作業場所及び環境についての要求事項に関しては,別の規格と
して規定する。この規格では,ソフトウェア及び対話の設計については取りあげない。
2. 引用規格 次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定を構成する。こ
の原国際規格の発行時点では,この引用規格は,ここに示す年度の版が有効であった。すべての規格は改
正されるものであり,この規格に基づくことに合意した関係者は,この引用規格の最新版を適用する可能
性を調べることに努めるのがよい。
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
ISO 6385 : 1981 Ergonomic principles in the design of work systems
3. 定義 この規格で用いる用語の定義は,ISO 6385による。
4. 仕事の設計
4.1
目的 VDT情報処理システムを利用する際に,その利用者のために,仕事の設計に人間工学の原理
を適用する目的は,技術的及び経済的効率を考慮しながら,人間の福利,安全及び健康に関して最適な作
業条件を規定することである。
適切に設計された仕事は,次のことを可能にする。
− 仕事の遂行を容易にする。
− 利用者の健康及び安全を守る。
− 利用者の福利を増進する。
− 従事する仕事に関して,利用者の技能及び能力を向上する機会を規定する。
特に,次のような事項は,できる限り避けることが望ましい。
− 不必要若しくは過剰な,負担又は疲労をもたらす可能性がある,又は過失を生じさせる可能性がある
過大な若しくは過小な負荷
− 単調感,飽和感及びけん(倦)怠感を呼び起こし,不満を生じさせる可能性がある過度の繰返し
− 過度の時間的な圧迫
− 社会的接触の機会がない単独作業
4.2
適切に設計された仕事の特性 オフィスでの仕事の適切で効率的な設計は,VDT情報処理システム
の主な目的に貢献すると同時に,次のようなものであることが望ましい。
− 利用者層の経験及び能力を確認する。
− 多様な技能,能力及び活動を適切に活用できるようにする。
− 行われる個々の仕事が,部分としてではなく,一つのまとまりとして認識されるようにする。
− 行われる個々の仕事が,システムの全体機能に重要な貢献を果たしていることを,利用者が理解でき
るようにする。
− 優先度,進度及び手順を決定する上で,利用者に適度の自主性を与える。
− 利用者にとって有意義な形で仕事の成果について十分なフィードバックを規定する。
− 従事する仕事に関して既得の技能の向上,及び新しい技能の獲得の機会をもたらす。
4.3
設計要求事項の規定 4.1及び4.2に規定した,適切に設計された仕事の目的及び特性を達成するた
めには,システムの固有の目的及び利用者の特性を考慮しなければならない。こうすることによって,組
織の特定の構成において生じる相互依存性を考慮に入れることが可能となる。
利用者の要求,能率,健康及び福利を考慮した仕事の設計には,これだけが最上の方法といえるものは
ない。システムを具体化する組織は,ある仕事の特性が判定基準を満たすであろうことの実証に適切な活
動であれば,どんなものであれ,それに取り組むことが望ましい。
4.2に示す特性を,仕事の設計の代替案を評価・比較するのに使用するとよい。ある仕事を新たに計画す
る際に,既存の仕事と比較して,その仕事の有用面を維持又は増進することが望ましい。
仕事の要求事項を確立する過程の重要な部分は,利用者から直接に信頼がおける妥当なデータを得るこ
とである。これを可能にする方法は,次に例示するように種々のものがある。
(a) 観察による研究
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(b) 標準化された尺度を用いた計量心理学的評価
(c) 質問紙調査の使用
(d) 面接
(e) 専門家への諮問
VDT情報処理システムでの仕事には,仕事の設計の良否を決める判断基準に与える影響の点で特に重要
な三つの側面がある。これらの側面は,次のとおりである。
(f) システムを操作するのに費やされる時間及びその配分
(g) 自由裁量,すなわち,システムを使うかどうか,及びどのように使うかを選択する際の自主性
(h) 依存性,すなわちVDT情報処理システムが,その仕事を行う上での道具としてどれだけ必す(須)
であるかの度合
これら三つの側面に対しては最適な範囲は異なり,それら相互の依存性は,4.1及び4.2に示す目的及び
特性に特に強い影響をもつことを念頭におくことが望ましい。
特定の仕事を設計する過程において,現時点での条件は,将来の要求事項の予測を視野に入れて決定す
るとよい。行うべき意思決定について,その時点までの経験に基づく十分な情報がない場合には,原型
(prototype),シミュレーション及び予備研究での試験から,必要なデータを集めることが必要となる。
効果的な仕事の設計を確実に進めるためには,システムの選択及び設置に先立って,設計及び評価の計
画を十分に練り上げるのがよい。
4.4
具体化計画
4.4.1
一般 新規にVDT情報処理システムを導入する場合,又は変更する場合には,その前,最中及び
後に,組織環境で起こるであろうと思われる物理的及び心理的変化を予測し,これに取り組むために,適
切な具体化計画を作成することが望ましい。
変化の過程をうまく管理することは,そのシステムが受け入れられ,かつ,生産的に活用されるための
かぎである。
4.4.2
効果的な具体化計画の作成 具体化計画を,最も効果的なものにするためには,システムの調達及
び設置の前に,新システムによって運用に最も影響を受ける組織と協同して具体化計画を作成することが
望ましい。具体化過程における利用者の参加は,システムを効果的に具体化し,かつ,機能を発揮させる
うえで特に重要である。VDT情報処理システムの導入では,次に示す側面を,統合した枠組みの中で扱う
ことが要求される。
(a) 組織上の側面
(1) 機能上の運用及び相互作用(変更が必要か)
(2) 組織構造(再構築が明示されているか)
(3) 職務の内容及び技能の向上(システムを利用する者と利用しない者との両方を考慮すること。)
(b) 作業に用いる装置及び物理的作業条件に関する側面
(1) システムのハードウェア及び/又はソフトウェアの要求事項(使用できる能力,人間工学上の設計
の特性を調べる)
(2) 物理的作業環境の設計(人間工学上の要求事項を考慮に入れているか)
(3) システム支援上の要求事項(信頼性,稼働性,及び支援性の要求が,適切に満たされているか)
(c) 人員に関する側面
(1) 人員計画及び作業規則(変更が明示されているか)
(2) 従業員選任及び配置の基準(現行の手法の変更が明示されているか)
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(3) 訓練計画(計画が,適切に作成され,かつ支援されているか)
設計段階,具体化段階及びそれ以降に起こり得る顕在的及び潜在的な問題点を明確にするように利用者
に促すことが望ましい。このような利用者の関与は,それなしで達成されるよりも良いシステムを生み出
すのが通例である。
5. システムの評価及び整備 設置されたシステムの評価は,設計要求事項中で確立された判定基準につ
いての信頼でき,かつ妥当な尺度を得るために,4.3の(a)〜(e)に示す方法を用いて達成することができる。
比較対照できるデータ及び経験が存在する場合には,確実にこの規格を順守するためにそれらを利用して
もよい。
VDT情報処理システムをうまく維持するには,4.1及び4.2に示す判定基準を監視し続けることが必要
である。利用者にその関与について討議させ,時宜を得た有効な組織の応答を得るためには,有効なコミ
ュニケーションが維持されることが望ましい。次に示す事項に,特に注意を払うことが望ましい。
− 職務上の要求事項及び作業環境に関する,現在使用中のVDT情報処理システムのハードウェア及び
ソフトウェアの人間工学上の設計特性
− 職務満足という点からみた,VDT情報処理システム職務の仕事の内容
− 技能向上の機会
− VDT情報処理システムの利用者に対する教育訓練計画
− VDT情報処理システムの利用者の顕在的又は潜在的な不満を特定し,扱うのに役立つ,コミュニケー
ションの機会
システムが成熟する間に,システム特性に関して利用者の関心及び興味の焦点が変化すると思われる。
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日本人間工学会 JIS Z 8512 原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(委員長)
○ 矢 頭 攸 介
青山学院大学
天 野 徹
工業技術院標準部材料規格課
青 木 和 夫
日本大学
梅 津 直 明
株式会社東芝
○ 大 山 裕
日本電気株式会社
窪 田 悟
成蹊大学
○ 小 泉 直 彦
双葉電子工業株式会社
○ 斉 藤 進
労働省産業医学総合研究所
武 内 徹 二
松下電器産業株式会社
○ 竹 越 敏 夫
株式会社日立製作所
○ 田 中 典 朗
三菱電機株式会社
○ 中 込 常 雄
中込技術士事務所
長 澤 有 恒
日本大学
肝 付 邦 憲
千葉工業大学
○ 中 野 義 彦
沖電気工業株式会社
林 喜 男
武蔵工業大学
○ 福 住 伸 一
日本電気株式会社
○ 堀 野 定 雄
神奈川大学
○ 松 本 啓 太
富士通株式会社
○ 吉 武 良 治
日本アイ・ビー・エム株式会社
(事務局)
○ 梶 山 麻 美
日本人間工学会(株式会社日本総合技術研究所)
備考 ○印は分科会委員を兼ねる
文責 JIS Z 8512 原案作成委員会