Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
(1)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
まえがき
この規格は,工業標準化法第12条第1項の規定に基づき,財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準
原案を具して日本工業規格を制定すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大
臣が制定した日本工業規格である。
制定に当たっては,日本工業規格と国際規格との対比,国際規格に一致した日本工業規格の作成及び日
本工業規格を基礎にした国際規格原案の提案を容易にするために,ISO 11843-3:2003,Capability of detection
−Part 3: Methodology for determination of the critical value for the response variable when no calibration data are
usedを基礎として用いた。
この規格の一部が,技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権,又は出願公開後の
実用新案登録出願に抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会
は,このような技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権,又は出願公開後の実用新
案登録出願にかかわる確認について,責任はもたない。
JIS Z 8462-3には,次に示す附属書がある。
附属書A(規定)この規格で用いる記号
附属書B(参考)例
JIS Z 8462の規格群には,次に示す部編成がある。
JIS Z 8462-1 第1部:用語及び定義
JIS Z 8462-2 第2部:検量線が直線である場合の方法
JIS Z 8462-3 第3部:検量線がない場合に応答変数の限界値を求める方法
Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
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目 次
ページ
序文 ··································································································································· 1
1. 適用範囲 ························································································································ 2
2. 引用規格 ························································································································ 2
3. 定義 ······························································································································ 3
4. 実験計画 ························································································································ 3
4.1 一般的事項 ··················································································································· 3
4.2 正味状態変数の値がゼロである参照状態の選択 ···································································· 3
4.3 繰返し ························································································································· 3
5. 応答変数の限界値yc の算出······························································································· 4
5.1 基本的方法 ··················································································································· 4
5.2 実際の計算 ··················································································································· 5
5.3 限界値の報告及びその利用 ······························································································ 6
附属書A(規定)この規格で用いる記号 ··················································································· 7
附属書B(参考)例 ·············································································································· 8
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日本工業規格 JIS
Z 8462-3:2005
(ISO 11843-3:2003)
測定方法の検出能力−第3部:検量線がない場合に
応答変数の限界値を求める方法
Capability of detection-Part 3 : Methodology for determination of the critical
value for the response variable when no calibration data are used
序文 この規格は,2003年に第1版として発行されたISO 11843-3:2003,Capability of detection−Part 3:
Methodology for determination of the critical value for the response variable when no calibration data are usedを翻
訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
なお,この規格で点線の下線を施してある“参考”は,原国際規格にはない事項である。
ある状態変数に関する測定方法の検出能力についての理想的な条件は,観測された各測定対象系の実際
の状態が,基底状態と等しいか又は異なるかということを確実に識別できることである。しかし,実際に
は,系統的及び偶然の誤差のために,次のような理由で,この理想的な条件を満足することはできない。
参考 表現を変えると,“ある目的成分の測定方法の検出能力は,理想的には,測定値がブランクと同
じか違うのかを区別できるかどうかで決められる。しかし,実際には系統誤差及びランダムな
ばらつきがあり,次の理由でそう簡単には決められない。”といえる。
− 基底状態を含むすべての参照状態は,その状態変数については未知であるというのが実情である。し
たがって,すべての状態は基底状態との差,すなわち正味状態変数としてだけ正しく特性付けられる。
参考 同様に“事実,ブランクと種々の既知量の成分を含む標準物質とを測定してもその絶対値は分
からない。したがって,すべての定量値は,ブランクとの差,すなわち正味の定量値としてだ
けその特性値が正しく示せる。”と解釈することができる。
備考 JIS Q 0030及びJIS Z 8461においては,状態変数と正味状態変数とが区別されていない。その
結果,これらの文書においては,特に断わらずに参照状態の状態変数が既知であるとみなして
いる。
− 校正の段階とサンプリング及び試料調製過程において,測定結果にランダムな変動が加わる。
参考 すなわち,“検量線の作成と試料採取及び試料調製過程において,測定値のランダムなばらつき
が増加する”ということを述べている。
この規格では,測定対象系が基底状態にあるとき,これが基底状態にないものと(誤って)判定する確
率をαとする。
参考 表現を変えると,“測定対象のサンプルがブランクの状態にあるときに,これがブランクの状態
ではないと(誤って)判定してしまう確率をα とする”といえる。
また,“応答変数の限界値”は,応答変数がその値を超えると,あらかじめ定めたα 以下の誤
りの確率で,観測した測定対象系が基底状態(ブランク状態)ではないと判定される正味の(ブ
ランクを差し引いた)値である。
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Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
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1. 適用範囲 この規格は,合理的に予想されるほとんどの目的に適合し,正味の状態変数の値がゼロに
なるように選ばれた参照状態に対し,その参照状態で繰り返し測定して得た測定値の平均値及び標準偏差
から,応答変数の限界値について推定する方法(5.1を参照)を規定する。これによって,目的とする実際
の状態(又は試験サンプル)の応答変数の値が,限界値を超えているかどうかを判定することができる。
応答変数の限界値及び正味状態変数の限界値並びに検出可能な最小正味状態変数値を求めるための一般
的な手順は,JIS Z 8462-2に規定されている。これらの手順は,検量線が直線であり,応答変数の残差標
準偏差が一定であるか又は正味状態変数の一次関数になる場合に適用することができる。この規格で規定
する手順は,応答変数の限界値を求めるために,検量線を用いることができない場合に限って適用される
ことが望ましい。ここでは,データの分布が,正規分布,又は正規分布に近い分布であることを仮定して
いる。
この規格で規定する手順は,基底状態で数多くの測定値を得ることはできるが,目的とする実際の状態
では数多くの測定値を得ることが難しい場合に適用することが望ましい。
備考 この規格の対応国際規格を,次に示す。
なお,対応の程度を表す記号は,ISO/IEC Guide 21に基づき,IDT(一致している),MOD
(修正している),NEQ(同等でない)とする。
ISO 11843-3:2003,Capability of detection−Part 3: Methodology for determination of the critical value
for the response variable when no calibration data are used (IDT)
2. 引用規格 次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構
成する。これらの引用規格のうちで,発効年又は発行年を付記してあるものは,記載の年の版だけがこ
の規格の規定を構成するものであって,その後の改正版・追補には適用しない。発効年を付記していない
引用規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。
JIS Q 0030 標準物質に関連して用いられる用語及び定義
備考 ISO Guide 30,Terms and definitions used in connection with reference materialsが,この規格と
一致している。
JIS Z 8101-1 統計−用語と記号−第1部:確率及び一般統計用語
備考 ISO 3534-1,Statistics−Vocabulary and symbols−Part 1 : Probability and general statistical terms
からの引用事項は,この規格の該当事項と同等である。
JIS Z 8101-2 統計−用語と記号−第2部:統計的品質管理用語
備考 ISO 3534-2,Statistics−Vocabulary and symbols−Part 2: Statistical quality controlからの引用事項
は,この規格の該当事項と同等である。
JIS Z 8101-3 統計−用語と記号−第3部:実験計画法
備考 ISO/FDIS 3534-3,Statistics−Vocabulary and symbols−Part 3: Design of experimentsが,この規
格と一致している。
JIS Z 8402-2:1999,測定方法及び測定結果の精確さ(真度及び精度)−第2部:標準測定方法の併行
精度及び再現精度を求めるための基本的方法
備考 ISO 5725-2:1994,Accuracy (trueness and precision) of measurement methods and results−Part 2:
Basic method for the determination of repeatability and reproducibility of a standard measurement
methodが,この規格と一致している。
JIS Z 8461:2001,標準物質を用いた校正(検量線が直線の場合)
3
Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
備考 ISO 11095:1996,Linear calibration using reference materialsが,この規格と一致している。
JIS Z 8462-1:2001,測定方法の検出能力−第1部:用語及び定義
備考 ISO 11843-1:1997,Capability of detection−Part 1: Terms and definitionsが,この規格と一致し
ている。
JIS Z 8462-2:2003,測定方法の検出能力−第2部:検量線が直線である場合の方法
備考 ISO 11843-2:2000,Capability of detection−Part 2: Methodology in the linear calibration caseが,
この規格と一致している。
ISO 5479:1997,Statistical interpretation of data−Tests for departure from the normal distribution
3. 定義 この規格で用いる主な用語の定義は,JIS Z 8101(すべての部),JIS Q 0030,JIS Z 8402-2,JIS
Z 8461,JIS Z 8462-1,及びISO 5479による。
4. 実験計画
4.1
一般的事項 ここでは,対象となっている特定の条件の下で正味状態変数の非常に低いレベルでの
校正が行われていないか,又は不可能である場合を想定しているが,測定方法は標準化され,類似タイプ
の測定に対して校正されていることが分かっているものとする。状態変数の値がゼロである参照状態のす
べての繰返し測定に対しても,応答変数の限界値を求めるために必要な一連の測定での実際の状態(試験
サンプル)に対するのと同じ測定方法全体を用いなければならない。
実際の状態の測定の順序は,基底状態(ブランク状態)の測定の間にランダム化して入れなければなら
ない。
応答変数が負の値となっても,捨てたり変えたりしてはならない。例えば,負の値をゼロに置き換えて
はならない。
4.2
正味状態変数の値がゼロである参照状態の選択 この規格で規定する手順における仮定の一つは,
選択された参照状態における正味状態変数の値がゼロであるということである。このような主張に関して
期待される確実性はJIS Z 8462-2の4.1で次のように規定しているように,実際には,参照状態は,純粋
な状態変数ではなく,(仮定上の)基底状態との差としてだけ知ることができる。この規格では,参照水準
を,使用されている方法によって測定される可能性のある水準よりかなり低くすれば十分である。
基底状態が標準物質の調製によって作成される場合には,その組成は測定される物質の組成にできる限
り近いものでなければならない,すなわち,分析化学では,選択されたブランク物質のマトリックスは,
一連の測定で試験されている目的のサンプルと同じではないとしても,あらゆる面で非常に類似していな
ければならない。他の物質又は成分の存在,若しくはサンプルの物理的状態による影響は,非常に大きい
場合もある。特に溶液を試験する場合,測定方法で一般にみられる溶媒抽出物の代わりに純粋な溶媒を用
いることは認められない。
4.3
繰返し
4.3.1
繰返し回数,J 平均及び標準偏差のよい推定値が得られるように,基底状態で使用される方法に
よる応答変数は,手順全体についての十分な繰返し数(J回)測定されなければならない。応答変数が正
規分布又は正規分布に近い分布に従っているかどうかを知るためには,分布を調べるための十分なデータ
を得ることが重要である。約30個の測定値が得られれば,約95 %の確率で標準偏差の推定値が真の値と
30 %以上違わないことが一般に保証される。
備考 状況によっては,使用できる物質の量の制約又はその他の理由で,上記の測定回数を実施でき
4
Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
ない場合もある。このような場合,求められた標準偏差の推定値は著しく不確かである。標準
偏差の真値σの推定値s(5.2のsb参照)を求める場合は,あらかじめ指定された確率1−αで
σがとると考えられる推定値のsに基づいた区間の範囲として推定することができる。これは,
(正規性の仮定が有効で,sが標本標準偏差である場合は)次の式のσの値の信頼区間を求め
るためのsの推定値のよりどころとなる測定結果の個数にカイ二乗分布を用いることによって
通常は解決される統計的な問題である。
()
)
(
2
2
1
2
2
v
v
s
v
v
s
α
α
χ
σ
χ
<
<
−
ここに,ν=J−1,χ2分布の分位点の値はχ2表から得られ,αは序文で示すとおりである。
コストの制約は慎重に考慮しなければならないが,方法全体を使った実際の状態(試験サンプル)の測
定の繰返し数Kをある程度増加させると,応答変数の限界値をある程度低くすることができる[式(4)
参照]。
4.3.2
繰返しにおけるサンプルの一様性 応答変数を測定するために基底状態のサンプルをサンプリン
グする場合は,方法全体にわたってあらゆる面で定められたサンプリング手順に従うことが本質的に重要
である。
標準物質が利用できる場合には,均質性が慎重に調べられているので標準物質を用いることが望ましい。
表面現象,静電効果,沈殿発生などによって,サンプルの同一性が失われることがあるので,常に留意し
たほうがよい。
4.3.3
影響を及ぼすと考えられる要因 JIS Z 8462-2の4.1で規定しているように,測定中の,影響を及
ぼすと考えられる要因の変動は,最小限にとどめることが望ましい。
5. 応答変数の限界値yc の算出
5.1
基本的方法 JIS Z 8462-1では,応答変数yの限界値ycを“測定値がycを超えたときに当該システ
ムは基底状態にないと判断する”値と定義している。限界値は,本当はシステムが基底状態にあるのに,
“基底状態にない”と判断してしまう誤りが,小さい確率α でしか発生しないように決定される。言い換
えれば,限界値というのは,測定に混入する誤差(バックグラウンド,ノイズ)と真の測定値(シグナル)
とを判別するための,測定値の最小な有意な値である。
“検出された(基底状態にない)”,“検出されない(基底状態にある)”の判断は,目的とする実際の状
態から得られた測定値の算術平均
ayと測定値の分布に応じた限界値ycとを比較することによって得られ
る。基底状態においての測定値の算術平均
ayが,限界値ycを超える確率は,あらかじめ定められた確率α
以下であるべきである。
応答変数の限界値ycは,一般的に次の式(1)で表される。
α
=
>
≦
)0
|
(
c
a
x
y
y
P
································································· (1)
備考
)0
|
(
c
a
=
>
x
y
y
P
は,x = 0という条件のもとで,
c
a
y
y>
となる確率を表す。
この定義式は不等式でなく等式で定めることもできる。不等号がついているのは,ポアソン分布などの
離散分布の場合,α の値を連続的に設定できない場合があることを考慮したためである。
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
もし,次の3条件
a) yが標準偏差σ0の正規分布に従う。
b) 実際の状態でのサンプルが限りなく均質的である。
c) 測定値に偏りがない。
が満たされる場合,応答変数の限界値は,式(1)を単純化した式(2)で与えられる。
K
J
z
y
y
1
1
0
1
b
c
+
±
=
−σ
α
··························································· (2)
ここに,
z1-α 標準正規分布の1−α 分位点
σ0: 帰無仮説(状態変数がゼロレベル)における応答変
数の真の標準偏差
J: 基底状態での応答変数の測定回数
by: 基底状態での応答変数の平均値
K: 実際の状態での応答変数の測定回数
備考 正味状態変数の水準が増加するに伴って応答変数が増加する場合には,記号+を用いる。また,
正味状態変数の水準が増加するに伴って応答変数が減少する場合には,記号−を用いる。
もし,σ0が自由度vのs0によって推定される場合,z1-αを対応するt分布の分位点で置き換える。すなわ
ち
K
J
s
v
t
y
y
1
1
)
(
0
1
b
c
+
±
=
−α
··························································· (3)
となる。
備考 符号は式(2)と同様である。
基底状態での応答変数の値が,予想される正当な目的の範囲内で,ゼロとみなすことができる場合,す
なわち,応答変数の“ベースライン”を誤差なく知ることができる場合,σ0=σbであり,このσbは,基底
状態での応答変数の繰返し測定から得られる標準偏差sbを用いて推定できる。このような状況について,
この規格が扱っている。これは,σ0の実験による推定値を得る方法の一つである。
5.2
実際の計算 基底状態での応答変数の繰返し測定で得られた測定値について,ISO 5479に規定する
手法,その他の手法などを用いて,正規分布からのかい(乖)離を調べるべきである。
この規格の目的に即して行われた,一連の測定における基底状態における応答変数のJ回の繰返し測定
から,
J
y
y
J
j
j
∑
=
=
1
b
で与えられるyの平均値が,yの期待値y0の推定値となり,
1
)
(
1
2
b
b
−
−
=
∑
=
J
y
y
s
J
j
j
で与えられるyの標本標準偏差が,σbの推定値となる。
以上から,応答変数の限界値のよい推定値は
6
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
K
J
s
v
t
y
y
1
1
)
(
b
1
b
c
+
±
=
−α
·························································· (4)
で与えられる。ただし,自由度v = J − 1である。統計的検定は片側検定を行う。α はJIS Z 8462-1で推
奨しているように,通常0.05が用いられる。また,t分布の分位点の値は標準的な数値表から得ることが
できる。
備考 符号は,式(2)と同様である。
式(5)は,測定試料に対して測定が1回だけ行われる場合に,直接適用することができる。
1
1
)
(
b
1
b
c
+
±
=
−
J
s
v
t
y
y
α
························································· (5)
備考 符号は,式(2)と同様である。
5.3
限界値の報告及びその利用 基底状態における応答変数の繰返し測定数Jはそのシリーズでの標準
偏差sbとともに明示しなければならない。目的とする実際の状態における応答変数の繰返し数Kも報告し
なければならない。選ばれたα の値(通常0.05)も明示されるべきである。基底状態及び目的とする実際
の状態におけるそれぞれの応答変数の繰返し数に応じて計算された限界値も明示しなければならない。こ
れらを,分かりやすいように,表1にまとめた。
表 1 応答変数の限界値及び対応する実験パラメータ
基底状態における応答変数の測定回数
実際の状態における応答変数の測定回数
選択したαの値(省略時値:0.05)
基底状態における応答変数の平均値
実際の状態における応答変数の平均値
基底状態における応答変数の標準偏差
この規格の方法に従って計算された応答変数の限界値
J
K
α
by
ay
sb
yc
もし,目的とする実際の状態でのK回の繰返し測定の平均が限界値を超えなかった場合,その実際の状
態及び基底状態には差異が検出されなかったという判断になる。しかしながら,実際の状態の平均値につ
いて判明したとおりに報告しなければならない。これを差異がゼロであると報告してはならない。
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附属書A(規定)この規格で用いる記号
b2
とがり(尖度)検定統計量
J
状態変数の値がゼロ(ブランク物質)である基底状態における応答変数の測定回数
j = 1,2,…J
状態変数の値がゼロ(ブランク物質)である基底状態での試料調製回数の識別変数
K
実際の状態(試験サンプル)での応答変数の測定回数
P
確率
s
応答変数の標準偏差の推定値
sb
状態変数の値がゼロ(ブランク物質)である基底状態の標準偏差の推定値
s0
基底状態で測定された応答変数の標準偏差の推定値
t
スチューデントのt検定統計量
W
シャピロ=ウィルクの検定統計量
x
正味状態変数の値
y
応答変数の値
by
基底状態で測定された応答変数の平均値
ay
実際の状態(試験サンプル)で測定された応答変数の平均値
yc
応答変数の限界値
yj
ある一連の測定の中のある特定レベルにおける(応答の)j番目の測定値
yo
状態変数がゼロである場合の応答変数の期待値
z
分位点に対応する標準正規確率変数
α
有意水準(すなわち,第1種の誤りの確率)
1‒α
信頼率
ν = J ‒ 1
t 統計量又はχ2 統計量の自由度
σ
応答変数の真の標準偏差
σ0
状態変数がゼロレベルのときの応答変数の真の標準偏差
σb
状態変数の値がゼロ(ブランク物質又は対照)の場合の応答変数の真の標準偏差
χ2
カイ二乗確率変数
8
Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
附属書B(参考)例
この附属書は,本体及び附属書(規定)に関連する事柄を補足するもので,規定の一部ではない。
B.1 例1 王水分解,原子発光法(ここではICP-AES)によるBCR土壌試料中カドミウム濃度(質量分率)
の測定
参考 BCR: Community Bureau of Reference [European Commission (Belgium)]の略。次のCRM 142は,
BCR認証標準物質の試料番号である。
CRM 142軽質砂質土壌(light sandy soil)0.5 gのサンプル中のカドミウム分析を行ったが,このカドミ
ウム濃度は,ここで述べる分析方法の限界値を下回るレベル(限界値の約10分の1)であることが他のデ
ータから分かっている。サンプルはバッチ処理で同時に王水分解を行い,ろ過後,25 mLに定容し,発光
分光測定を行った。24チャンネル誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP-AES)を用い,通常のドリフト補
正を行い,226 nmでカドミウムを測定し,一連の測定でJ=30のデータを得た。
表 B.1 CRM 142土壌試料中カドミウムの226 nmにおける原子発光分析
応答
mV
2.170
2.211
2.206
2.229
2.215
2.210
2.191
2.189
2.215
2.186
2.183
2.189
2.145
2.159
2.209
2.169
2.194
2.188
2.203
2.192
2.191
2.203
2.175
2.203
2.174
2.193
2.171
2.182
2.178
2.172
幾つかの,分布の非正規性を調べるための検定(ひずみ,とがり及びシャピロ=ウィルク),並びに外れ
値検定(グラブス片側,グラブス両側)を行ったところ,正規性からの有意な逸脱は見られなかった。
自由度29,α = 0.05でのスチューデントのt値(片側)を標準的な数表から求めると,t1-α(ν) = t0.95(29) =
1.699となる。
これらの応答値の平均値は
by=2.189 8 mV,また,標準偏差はbs= 0.018 6 mVと計算された。
同時に類似の土壌試料について3回の繰返し測定を行ったところ,応答は2.177 mV,2.183 mV,2.161 mV
であった。
本体の式(4)を用いて,実試料の3回の測定についての応答変数の限界値を小数点以下3けたまで計算す
ると,次のようになる。
cy=2.189 8+1.699×0.018 6
3
1
30
1+
×
mV
=2.189 8+0.019 1 mV
=2.209 mV
結果を,表B.2にまとめた。
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Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
表 B.2 CRM 142土壌の226 nmにおける原子発光によるカドミウムの応答変数の限界値
基底状態における応答変数の測定回数
実際の状態における応答変数の測定回数
選択したαの値
基底状態における応答変数の平均値
実際の状態における応答変数の平均値
基底状態における応答変数の標準偏差
この規格に従って計算された応答変数の限界値yc
30
3
0.05
2.189 8 mV
2.173 7 mV
0.0186 mV
2.209 mV
応答変数の限界値を超えるものはなく,基底(ブランク)状態と同時に調べたサンプルとの間に差異は
見られなかった。
備考 得られた限界値は,試薬だけを使用した全プロセスの限界値(0.815 mV)より高く,さらに,カ
ドミウムイオンの“純粋な”水溶液に対し機器製造業者が示している限界値(約0.027 mV)を
はるかに上回っており,サンプルのマトリックスが限界値にかなりの影響を及ぼす可能性があ
ることを示している。
参考 上記のデータは,英国ハートフォードシャー,ハーペンデン,ロザムステッドのIACR土壌学
部から提供を受けた。
B.2 例2 滴定法による水中の化学的酸素要求量
この水中の化学的酸素要求量を測定する手順では,酸素要求量が増加するにつれ,有効酸素量は減少し,
逆滴定に用いられる硫酸アンモニウム鉄(III)溶液量は減少するため,検量線が単調減少となることに留意
すべきである。
参考 用いられた方法の詳細は不明である。化学的酸素要求量(酸素消費量COD)の測定方法に関す
るJIS規格としては,JIS K 0102“工場排水試験方法”に3通りの方法(17.,19.,20.)がある。
このうち,ここで記述されているのは“20二クロム酸カリウムによる酸素消費量(CODCr)”に
記載されたものと同様の方法と思われる。その場合,“硫酸アンモニウム鉄(III)”は“硫酸アン
モニウム鉄(II)”の誤りである。
30個のブランクを測定し,滴定に用いた0.060 mol/Lの硫酸アンモニウム鉄(III)溶液量,ミリリットル,
として水中化学的酸素要求量を求めた(表B.3参照)。
表 B.3 滴定法による水中の化学的酸素要求量
滴定に使用された溶液の量
mL
19.77
19.71
19.77
19.94
19.92
19.84
19.77
19.71
19.77
19.91
19.95
19.88
19.78
19.71
19.85
19.94
19.94
19.77
19.78
19.80
19.85
19.91
19.94
19.76
19.76
19.83
19.78
19.91
19.83
19.80
分布の非正規性を調べるためのいろいろな検定(ひずみ,とがり及びシャピロ=ウィルク),並びに外れ
値検定(グラブス片側,グラブス両側)を行ったところ,とがりの検定はα= 0.01で(b2 = 1.737に対し,
棄却限界値は1.79及び5.12),シャピロ=ウィルク検定はα= 0.05で(W = 0.904 5に対し,棄却限界値はα=
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Z 8462-3:2005 (ISO 11843-3:2003)
2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
0.01で0.900,α= 0.05で0.927) 正規分布といえない,すなわち,正規性からの若干の逸脱が見られた。
これらの検定のうち二つだけが弱い非正規性を示していることから,生データの分布は正規分布に近いと
表現できる。ただし,単純な度数分布プロットでさえ,結果が二つの分布に属する可能性があることを示
している。したがって,実際には,データを提出した試験室に戻り,応答変数データの記録に当たり,何
か規則からの逸脱があったかを確認することが望ましい。データの記録が正確であると判断された場合,
実際のサンプルの1回の測定について応答変数の限界値の計算は,次のとおりである。
応答変数の平均値は
by= 19.829 mL,標準偏差はsb = 0.077 4 mLと計算される。
自由度29,α= 0.05の場合,標準的な数表から求めたスチューデントt値(片側)は,t1 - α(v) = t0.95 (29) = 1.699
である。
本体の式(5)を用いた場合,この検量線の減少性から分散項を基底状態での応答変数の平均値(に加える
のではなく)から差し引く必要があるため,実際の状態の測定に関する応答変数の限界値は小数点以下2
けたまで求めると,次のようになる。
cy=19.829−1.699×0.077 4×
1
30
1+ mL
=19.829−0.133 7 mL
=19.70 mL
結果を,表B.4にまとめた。
表 B.4 滴定法による水中の化学的酸素要求量に関する応答変数の限界値
基底状態における応答変数の測定回数
実際の状態における応答変数の測定回数
選択したαの値
基底状態における応答変数の平均値
基底状態における応答変数の標準偏差
この規格に従って計算された応答変数の限界値yc
30
1
0.05
19.829 mL
0.077 4 mL
19.70 mL
実際の(試験)サンプルでは,0.060 mol/Lの硫酸アンモニウム鉄(III)の滴定量が19.70 mLを下回るこ
とはないため,基底(ブランク)状態と同時に調べたサンプルの間に差異はない。
参考 上記のデータは,ISO/TC 147“水質”の文書から引用した。