2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
日本工業規格 JIS
X 0131-1995
(ISO/IEC 11411 : 1995)
ソフトウェアの状態遷移の
構成及びその表記方法
Information technology−Representation for human
communication of state transition of software
日本工業規格としてのまえがき
この規格は,1995年に初版として発行されたISO/IEC 11411 (Information technology−Representation for
human communication of state transition of software) を翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更すること
なく作成した日本工業規格である。
0. はじめに ある分野のソフトウェアは,状態遷移図及び状態遷移表で表現することができる。これら
のソフトウェアは,遷移によってその状態を変化させる。ある条件が満足されたときに,状態から状態へ
の該当する遷移が実行される。条件は,データ入力をきっかけに評価される。データは,次に示すいろい
ろな形をとることができる。
(1) 信号
(2) コマンド
(3) メッセージ
(4) トークン,フラグ
(5) 文字,単語
(6) レコード,など
この規格は,ソフトウェアの状態遷移に関して利用者が意思を伝達するための最小限の概念及び記号に
ついて記述する。
この規格では,次の定義を行う。
(a) ソフトウェアの状態遷移を構成する基本構成要素及びその意味概念
(b) 状態遷移の基本構成要素の表記法
(c) 状態遷移の基本構成要素の組合せ方
1. 適用範囲 この規格は,ここで定義する図表及び記号がソフトウェアの機能及び遷移を表現する上で
役立つとともに,利用者間の意思の伝達を改善する上でも役立つという考え方に基づいている。この規格
の適用領域は,ソフトウェアの要求分析及び設計における開発作業,意思の伝達,レビューなどである。
この規格は,次のソフトウェアの分野で役立つ。
(1) 対話型のソフトウェア−画面上での機能及び遷移の表現の記述
(2) データ通信ソフトウェア−通信プロトコル及び通信動作の記述
2
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(3) 言語及びコマンド−構文の記述
2. 定義
2.1
状態 (state) 状態は,ソフトウェアの実行における進行段階を表現する一意な値とする。状態は,
識別子として状態名と呼ぶ一意な名前をもつ。
2.2
遷移 (transition) 遷移は,ある状態から別の状態への又は同じ状態への変化とする。遷移は,条件
が満足されたときに起こる。遷移に伴って動作が実行されることもある。形式的には,遷移は,次の三つ
の部分からなる。
(1) 方向部 (direction part)
(2) 条件部 (condition part)
(3) 動作部 (action part)
方向部は,次の二つの状態識別子からなる。
(1) 遷移元状態を示す遷移元状態識別子 (previous state identifier)
(2) 次の状態を示す遷移先状態識別子 (next state identifier)
条件部は,ある状態からの遷移及びそれに伴う動作が実行されるために満足されなければならない条件
を表す。ある状態から別の状態又は同じ状態への変化に対して,複数の遷移が定義されている場合には,
それらの遷移は,相互に背反でなければならない。
動作部は,条件に応じてソフトウェアが実行する動作を表現する。動作はどのような処理であっても構
わないし,空であってもよい。
3. 仕様
3.1
状態の仕様 状態は,次の四つとする。
(a) 初期状態 (initial state) 初期状態はただ一つとする。ソフトウェアは,その活動を初期状態から開始
する。初期状態は,少なくともどれか一つの遷移の遷移元状態でなければならない。
(b) 終了状態 (final state) 一つ以上の状態を終了状態とすることができる。ソフトウェアは,その活動
を終了状態で終了する。各々の終了状態は,少なくともどれか一つの遷移の遷移先状態でなければな
らない。
(c) 初期・終了状態 (initial/final state) 初期状態を終了状態とすることもできる。この場合,ソフトウェ
アは,その活動を終了した後,活動を即座に再開しても構わないし,また,しなくてもよい。初期・
終了状態は,少なくとも一つ以上の遷移の遷移元状態でなければならない。少なくとも一つ以上の遷
移の遷移先状態でなければならない。
(d) 中間状態 (intermediate state) 初期状態でもなく,終了状態でもなく,又は初期・終了状態でもない
状態を,中間状態と呼ぶ。中間状態は,少なくとも一つ以上の別状態からの遷移の遷移先状態でなけ
ればならない。更に,少なくとも一つ以上の別状態への遷移の遷移元状態でなければならない。
3.2
遷移の仕様 遷移は,次の二つとする。
(a) 別状態への遷移 この遷移は,ある状態から別の状態への変化を示す。このような遷移では方向部の
遷移元状態の識別子と遷移先状態の識別子とは,異なる状態を示す。
(b) 自状態への遷移 この遷移は,ある状態から同じ状態へ戻る変化を示す。このような遷移では方向部
の遷移元状態の識別子と遷移先状態の識別子とは,同じ状態を示す。
3
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3.3
状態及び遷移の用法 ソフトウェアの状態遷移の記述は,次の条件のすべてに従わなければならな
い。
(a) ただ一つの初期状態が存在する。
(b) 0個以上の終了状態が存在する。
(c) 1個以上の遷移が存在する。
(d) 各々の遷移に対して遷移元状態と遷移先状態とが存在する。
4. 状態遷移図
4.1
概念
4.1.1
図 状態遷移図では,状態及び遷移は,記号及び文字列によって表す。状態遷移図は,状態の許さ
れる変化又は定義された変化を表現する。
4.1.2
記号
4.1.2.1
状態 状態は,円及び文字列によって示す。
(a) 初期状態 初期状態の表記法を,次に示す。
(b) 終了状態 終了状態の表記法を,次に示す。
(c) 初期・終了状態 初期状態を同時に終了状態とすることもできる。この場合の表記法を,次に示す。
(d) 中間状態 中間状態の表記法を,次に示す。
4.1.2.2
遷移 遷移は,矢印及び文字列で示す。文字列は,条件部と動作部とをもつ。条件部と動作部と
の間には明確な区切り文字を必要とする。例えば,斜線,水平線などである。
(a) 別状態への遷移 ある状態から別の状態への遷移の表記法を,次に示す。
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
条件部及び動作部は,遷移の矢印の近くに記述しなければならない。
遷移の記述は,矢印の線をさえぎるように書いてもよい。
(b) 自状態への遷移 ある状態から同じ状態への遷移の表記法を,次に示す。
条件部及び動作部は,遷移の矢印の近くに記述しなければならない。
遷移の記述は,矢印の線をさえぎるように書いてもよい。
4.2
規則
図の規則:表記法として許される変形の例を,次に示す。
(a) いろいろな形の状態記号 次に示す形を基本形とするいろいろな状態記号を使用してもよい。
長方形の場合,縦と横との比率は,自由とする。どの基本形の場合も,初期状態,終了状態又は初
期・終了状態を表現する方法は,4.1.2で示したものと同じとする。
(b) 次に示すように,状態記号に,塗りつぶされた矢印又は太字の矢印が出入りするようにしたものを,
初期状態,終了状態又は初期・終了状態の記号として使用してもよい。
(c) 遷移の動作部の省略 遷移の動作部は,遷移に伴って実行する動作がない場合又は動作を示す必要の
ない場合には,省略してもよい。この場合,区切り文字も省略する。
4.3
用法及び制限事項
4.3.1
製図 手書きする場合の記号も,機械によって記述する場合の記号も,4.1.2と同じとする。
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遷移を示す線は,出力結合子又は入力結合子によって切れていてもよい。結合子は,一意な識別子をも
つ。対応する出力結合子と入力結合子とは同じ識別子をもつ。
書き方を次に示す。
出力結合子 (識別子)
入力結合子 (識別子)
4.3.2
様式 この規格は,特別な様式の用紙及び定規を規定しない。
この規格で定義した状態遷移図を,普通の直線定規及び円形定規だけで記述することもできる。
5. 状態遷移表
5.1
概念
5.1.1
表 状態遷移は,表で表現してもよい。
状態及び条件は,行及び列で表現する。
遷移は,対応する行と列との交差部に記述する。
状態遷移表では,状態は,状態番号を状態の付加的な識別子としてもつ。状態番号は,状態の続き番号
などのように一意な番号とする。
5.1.2
記号
5.1.2.1
状態
(a) 初期状態 初期状態の表記法を,次に示す。
備考 この規格の5.では,記号及び記号の集合の任意の回数の繰返しを示すために省略符号(三
つの点…)を使用している。
(b) 終了状態 終了状態の表記法を,次に示す。
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
(c) 初期・終了状態 初期状態は,同時に終了状態になることもできる。この場合の状態の表記法を,次
に示す。
(d) 中間状態 この状態の表記法を,次に示す。
5.1.2.2
遷移 遷移は,交差部分で示す。
動作部及び移先状態番号は,交差部に記述する。
(a) 別状態への遷移 ある状態から別の状態への遷移の表記法を,次に示す。
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X 0131-1995 (ISO/IEC 11411 : 1995)
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状態番号と遷移先状態番号とは,異なる状態を示す。
(b) 自状態への遷移 自状態への遷移の場合,遷移先状態番号は,遷移元状態番号と同じとする。
5.2
規則
表の規則:許されるいろいろな表記法を,次に示す。
(a) 遷移先状態識別子としての状態名の使用 状態遷移表で状態名を使用して状態を探すことが容易なと
きには,交差部に記述する遷移先状態の識別子として,状態番号の代わりに状態名を使用してもよい。
この場合,5.1.2.1で定義している状態番号部分は省略できる。
(b) 遷移における動作部の省略 遷移における動作部は,遷移に伴って実行される動作がない場合又は動
作を示す必要がない場合には,空欄にしてもよい。
5.3
用法と制限事項
5.3.1
製図 手書きする場合の記号も,機械によって記述する場合の記号も,5.1.2と同じとする。
5.3.2
様式 状態の位置と条件の位置とは,交換してもよい。この規格は,特別な様式の用紙を規定しな
い。
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X 0131-1995 (ISO/IEC 11411 : 1995)
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附属書A(参考) 状態遷移図の例
付図A 状態遷移図による対話プロセス
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附属書B(参考) 状態遷移表の例
付図B 状態遷移表による対話プロセス
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附属書C(参考) 参考文献
1. Zohar Manna, Mathematical theory of computation, 1974, McGraw−Hill Inc.
2. Paul T Ward, Stephen J Mellor, Structured development for real-time systems, 1985, Prentice Hall.
3. Edward Yourdon, Modern structured analysis, 1989, Yourdon Press.
4. Wilfried Brauer, Net theory and application, Proceedings of the advanced course on general net theory of
processes and systems, Hamburg, October 1979, Springer.
この規格の利用者は,状態遷移に基づく技術に関連する他の二つの規格を参照することができる。
1. ITU-T Recommendation Z. 100 and Z. 120 ITU-T Specification and Description Language (SDL).
(SDL-GRと呼ばれる図表現をもつ。)
2. ISO 9074 : 1989
Information processing systems−Open Systems Interconnection−Estelle : A formal description technique
based on extended state transition model.
(普通,ESTELLEとして参照される。)
備考 SDL-GRは,主に遠隔通信の分野で使用され,この分野に特化した豊富な機能をもつ。こ
の規格は,より一般的であり,SDL-GRの基礎となるかもしれない。
原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(主査)
宮 本 和 靖
株式会社日立マイクロソフトウェアシステムズ
(幹事)
篠 木 裕 二
株式会社日立製作所
秋 山 義 弘
金沢工業大学
斎 直 人
日本電信電話株式会社
加 藤 潤 三
エレクトロニック・データ・システムズ株式会社
岸 知 二
日本電気株式会社
末 竹 義 郎
沖電気工業株式会社
杉 崎 信 彦
富士通株式会社
高 杉 秀 樹
三菱電機株式会社
俊 成 清 博
エヌ・ティ・ティ・データ通信株式会社
松 本 一 教
株式会社東芝
山 本 喜 一
慶應義塾大学
梅 沢 茂 之
工業技術院標準部
栗 川 正 仁
工業技術院標準部
山 形 薫
財団法人日本規格協会