日本工業規格
JIS
W
1117-
1995
(I
8077
:
1984
)
航空宇宙−アルミニウム合金の陽極処理
−直流 20 ボルトクロム酸法非染色皮膜
Aerospace process
−Anodic treatment of aluminium alloys−
Chromic acid process 20 V DC undyed coating
日本工業規格としてのまえがき
こ の 規 格 は , 1984 年 第 1 版 と し て 発 行 さ れ た ISO 8077 (Aerospace process − Anodic treatment of
aluminium-alloys Chromic acid process 20 V DC undyed coating)
を翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を変
更することなく作成した日本工業規格である。なお,この規格で点線の下線を施してある“参考”は,原
国際規格にはない事項である。
1.
適用範囲 この規格は,アルミニウム合金への非染色陽極酸化皮膜の生成及び試験に関する要求事項
を規定する。通常高 Zn−Mg−Cu(AA 7XXX シリーズ又は同等品)のアルミニウム合金に適用されるこの
陽極酸化皮膜は,直流 20V を使用するクロム酸法によって生成する。
封孔処理した陽極酸化皮膜は,耐食性を改善するため及び塗装の前処理として,航空宇宙向け製品に適
用する。封孔処理しない陽極酸化皮膜は,構造用接着剤の使用に適した表面になり,またペイントの耐久
性を向上させる。
参考 適用材料の表示は,原規格では“(AA 7XXX シリーズ)”となっているが,ここでは“(AA 7XXX
シリーズ又は同等品)
”とした。理由については解説参照。
2.
引用規格
ISO 2064
Metallic and other non-organic coatings−Definitions and conventions concerning the measurement
of thickness
ISO 2106
Anodizing of aluminium and its alloys−Determination of mass per unit area (surface density) of
anodic oxide coatings
−Gravimetric method
ISO 2360
Non-conductive coatings on non-magnetic basis metals−Measurement of coating thickness−Eddy
current method
ISO 2859
Sampling procedures and tables for inspection by attributes
ISO 3768
Metallic coatings−Neutral salt spray test (NSS test)
3.
技術的要求事項
3.1
被陽極処理材 この方法で陽極処理を施す材料は,通常,種々の熱処理状態の高 Zn−Mg−Cu(AA
7XXX
シリーズ又は同等品)のアルミニウム合金である。
母材は,本質的に金属加工工程又は取扱いによって生じた表面欠陥がなく,更にこの規格の全要求事項
2
W 1117-1995 (ISO 8077 : 1984)
を満足する陽極酸化皮膜の生成に有害なグリース,孔食,腐食,著しいエッチングなどがないものとする。
3.2
工程要求事項 使用する工程は,この規格の要求事項に適合する皮膜を常に生成できるものでなけ
ればならない。
3.3
工程の詳細
3.3.1
電解液 電解液は,全酸濃度が 30∼120g/L である工業級クロム酸(CrO
3
が 99.5 質量%以上)の水
溶液とする。遊離クロム酸分は,30∼50g/L とする。全酸分が 120g/L を超えなければ,クロム酸を追加し
て電解液を再生してもよい。NaCl として測定した塩化物含量は,0.2gNaCl/L を超えてはならない。H
2
SO
4
として測定した硫酸塩含量は,0.5gH
2
SO
4
/L
を超えてはならない。電解液は,イオン交換塔の使用でアル
ミニウム及び三価クロムを除去して維持してもよい。電解液の浴温は,35±2℃に維持する。
3.3.2
封孔剤 封孔処理した皮膜を作るために使用する封孔剤は,初期導電率が 1 000
µS/m 以下の熱水と
する。
全溶解固形物は,最大 4ppm の SiO
2
を含めて 12ppm 以下であることが望ましい(硫酸塩,塩化物など)
。
pH
の値を 5.5∼6.9 に維持する。クロム酸,酢酸又はアンモニアを使用して pH の要求水準を維持してもよ
い。
発注者が承認した場合には,Na
2
Cr
2
O
7
・2H
2
O
又は K
2
Cr
2
O
7
・2H
2
O
を 3∼5 質量%含む重クロム酸ナトリウ
ム又は重クロム酸カリウムの封孔用水溶液が使用できる。pH の値は 5.0∼6.0 に維持する。クロム酸,酢酸
又は水酸化ナトリウムを使用して pH の要求水準を維持してもよい。
3.3.3
陽極処理の準備 実施可能である限り,すべての加工工程を完了させてから陽極処理を施す。発注
者が承認しない限り,電解液が除去できないか,又はくぼみ若しくは接合部などに止まる可能性がある組
立品に,陽極処理を施してはならない。組立品の陽極処理が契約書又は図面で許容されている場合には,
3.3.4
に従ったすすぎを必要なだけ追加して電解液を完全に除く。承認を得ている場合は,電解液の浸入を
防ぐために適切なマスキングを行ってもよい。
3.3.3.1
部品のジグ付け 部品のジグ付け及びつり下げは,電気的接触及び電流分布が良好であり,更に
すべての処理面に電解液が自由に循環できるような方法とする。小物部品は,適切な材料で製作した穴の
開いた容器に入れてもよいが,その容器には,部品と容器との間の電流を維持する手段を取っておくとと
もに,容器内の電解液が十分に循環できるようにしておく。
3.3.3.2
清浄化 使用する清浄化の方法は,水切れがなく,孔食及び摩耗きずを生じない清浄な表面を生
成できるものとする。非エッチング性又は抑制剤入りアルカリ洗浄剤中で洗浄を行ってもよいが,その後
に冷たい水道水ですすぐ。アルカリ洗浄剤がけい酸塩化していれば,陽極酸化皮膜の生成を妨げるけい酸
質残留物を加工品表面に形成しないように,浴の組成及びその後のすすぎを管理する。要求された場合に
は,腐食型アルカリ洗浄剤を 0.015∼0.025mm/min の腐食速度で使用して,押出したまま又は鍛造したまま
の部品の表面金属を除去してもよい。そのアルカリ洗浄剤は,規定範囲を超えた粒界腐食を生じさせたり
寸法変化を生じさせたりするものであってはならない。
3.3.3.3
酸化膜除去 部品は,清浄化後,酸化膜除去剤に浸せきしてから冷たい水道水ですすぐことによ
って,自然酸化物を除去し,軽度にエッチングした表面とする。使用する酸化膜除去剤は,規定範囲を超
えた疲労特性を含めた金属学的特性の劣化,孔食の開始,
寸法変化又は粗さの増加を起こしてはならない。
3
W 1117-1995 (ISO 8077 : 1984)
3.3.4
陽極処理手順 清浄化した部品を,適切なタンクに入れたクロム酸電解液中で陽極にする。電気回
路での陰極は,軟鋼板若しくはステンレス鋼板又はタンク自体でよい。初期電圧を 2V 以下にして直流電
圧を加える。電圧を 20±2V まで高めて,この電圧を 30∼60 分間保持する。電圧上昇速度は 3∼4V/min と
する。陽極処理中は電解液をかくはんして,組成と温度を均一にする。陽極処理後に,すべての部品を冷
たい水道水で完全にすすぐ。この水の品質は,3.3.2 に規定する。
3.3.5
封孔処理 封孔処理した皮膜を作る場合,部品を,97±2℃の封孔剤の浴に 10min 以上浸せきする。
封孔処理後に,部品を,清浄な冷たい水道水で実施可能な限り完全にすすぐが,クロム酸によるわずかな
しみは許容される。封孔処理に熱水だけを使用する場合(3.3.2 参照)
,冷水を使用する最終すすぎは不要
である。この後に続く製造作業が,部品に封孔処理を施さないことを要求する場合(例えば,構造用接着
剤による接着)
,発注者が承認すれば封孔処理を省略する。
3.3.6
温度制御 溶液温度の制御に使用する温度制御装置は,設定温度の±2℃で温度を維持するものと
する。
4.
品質保証条項
4.1
検査の責任 特に協議しない限り,製造者は,この規格の品質保証に関するすべての要求事項を実
施する責任がある。
4.2
定義
この規格のために,次の定義を適用する。
ロット (lot) 同じ浴で同時に処理するすべての部品。
4.3
ロット受入試験 外観検査,皮膜の単位面積当たりの質量及び/又は(発注者が指定した)皮膜の
厚さ,並びに封孔処理の有効性(着色剤しみ試験)に関する要求事項に適合していることを確認するため
の,部品の量産ロットに対する試験を,ロット受入試験として区分する。
4.4
工程認定試験 工程認定試験は,4.3 に規定のロット受入試験及び完成(無塗装)部品の耐食性確認
試験で構成する。
4.5
抜取手順
4.5.1
4.7.1
に従った外観検査を全部品に実施する。
4.5.2
小物部品,すなわちボルト・ワッシャなどの場合の,
(4.7.4 に規定の)皮膜の厚さ及び(4.7.2 に規
定の)封孔処理の有効性は,検査水準 S-3,合格品質水準 (AQL) 1.5 の一回抜取方式(
表 2A)(ISO 2859
参照)に従って,ランダムに選択して判定する(リベットは除く)
。より大形部品では,陽極処理ロット当
たり最低 1 個の部品でこの目的が達せられる。
4.5.3
皮膜の単位面積当たりの質量を,4.7.3 に規定の要求事項に適合させて処理したロットの 10%に対
して,ISO 2106 に従い測定する。表面積を容易に測定できないような寸法及び形状である部品の場合,こ
れと同一熱処理状態で,また同一表面仕上げを施した同一材料から切り取った 3 個の単純試験片について,
単位面積当たりの質量を測定する。この単純試験片は,それが代表している部品と一緒に処理する。この
単純試験片の大きさは,長さ 75mm×幅 75mm 以上,厚さが 0.6∼1.6mm とする。
4.5.4
耐食性は,3 個の代表部品又は 4.7.5 に示す別個の試験パネルについて,ISO 3768 に従って測定す
る。この試験は,工程管理を立証する目的で毎月 1 回実施する。
4.6
溶液の管理
4.6.1
陽極処理浴 陽極処理浴の組成は,その浴の使用中,毎週 1 回以上行う化学分析によって管理する。
4
W 1117-1995 (ISO 8077 : 1984)
4.6.2
封孔処理浴 封孔処理浴は,導電率及び pH について試験し,この試験は毎週又は 3.3.2 を満足す
る頻度で実施する。
4.7
皮膜の検査及び試験
4.7.1
外観検査 陽極酸化皮膜は,滑らかで連続した密着性のものとする。その皮膜には,焼け跡,粉ふ
き部分,はがれやすい皮膜,並びに接触点以外の場所にある切れ目及びすりきずのような不連続は皆無で
なければならない。
不適切な処理には関連しないクロム酸によるしみ(3.3.5 参照)のようなすべての変色部は,合格してい
るものとみなす。部品には有害な目に見える損傷又は欠陥があってはならない。
4.7.2
封孔処理の有効性 この性質は,アントラキノン染料の滴下試験(着色剤しみ試験)を行った場合
の,皮膜の吸収能力の喪失によって測定する。この試験は,封孔処理していないか又は不適切に封孔処理
された皮膜が数滴の着色剤によって容易に永久に着色され,一方十分に封孔処理された皮膜が染料をはじ
くという観察結果に基づいている。陽極処理した試験片の表面を脱脂してから,アントラキノン染料を 1
質量%含むエタノール又はイソプロピルアルコールの溶液数滴を,試験片の約 1cm
2
の範囲に滴下する。こ
の溶液を 5 分間放置して作用させる。次に,表面を,流水下で 2min 綿布でこすって清浄にする。次に,
中性石けん液で洗い,十分にすすいでから乾燥させる。この試験によって生じた,除去不能なしみが残留
していてはならない。
4.7.3
皮膜の単位面積当たり質量 他の規定がなければ,クロム酸で陽極処理した部品の皮膜の単位面積
当たり質量は,2.15g/m
2
以上とする。陽極処理及び封孔処理を施してある部品の皮膜の単位面積当たり質
量は,ISO 2106 に従って測定する。
4.7.4
皮膜の厚さ 他の規定がなければ,ISO 2064 で定義されている皮膜の平均厚さは,渦電流法(ISO
2360
参照)によって測定し,1.0∼1.5
µm とする。
4.7.5
耐食性 公称組成が 5.5 質量%Zn,2.5 質量%Mg,1.5 質量%Cu 及び 0.3 質量%Cr の非クラッドアル
ミニウム合金(例えば,7075 又は同等品)製試験パネルの,面積 200cm
2
以上をこの規格に従って処理(封
孔処理を含む。
)したものは,300h 以上の塩水噴霧(ISO 3768 参照)にさらしても,識別表示から 1.5mm
以内の部分及び処理後に残っている電極跡を除き,腐食したはん点又は孔食を示すことなく耐えなければ
ならない。
4.8
承認
4.8.1
皮膜が生成された部品及び試験パネルのサンプルは,量産部品の供給前に,発注者及び必要であれ
ば責任のある品質保証機関によって承認を受けなければならない。ただし,その承認が免除された場合は
その限りでない。
4.8.2
品質管理手順及び試験のすべてについての完全な文書は,発注者が要請次第利用できるようにして
おかなければならない。
4.8.3
製造者は,承認されたサンプル部品に使用したものと同じ製造手順,工程及び検査方法を,量産部
品に適用する。発注者の再承認がなければ,この手順からの離反は許可されない。
5.
包装及び引渡し
5.1
包装 陽極処理を施した部品は,出荷及び保管中に,取扱い不良,野ざらし又は何らかの偶発事故
による損傷から保護できる方法で包装する。
5
W 1117-1995 (ISO 8077 : 1984)
5.2
引渡し 陽極処理を施した部品は,運送者の受取り及び引渡し地点までの安全輸送を保証するため
に,産業界で広く行われている適正な標準要領に従って,輸送及び引渡しの準備をする。包装は,輸送方
式に対応した運送者の規則及び規定に適合させる。
航空規格原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(委員長)
松 木 正 勝
日本工業大学
(副委員長)
葛 馬 孝
石川島播磨重工業株式会社
平 井 敏 文
通商産業省機械情報産業局
山 村 修 蔵
工業技術院標準部
平 沢 愛 祥
運輸省航空局
寺 川 義 彦
海上保安庁装備技術部
中 西 忠 雄
防衛庁装備局
山 根 晧三郎
科学技術庁航空宇宙技術研究所
守 田 正 公
社団法人日本航空技術協会
中 込 常 雄
日本工業標準調査会自動車・航空部会規格
調整専門委員会
久木田 実 守
株式会社富士キメラ総研
白 浜 洋 海
日本航空株式会社
吉 井 正 洋
株式会社日本エアシステム
渡 辺 正
川崎重工業株式会社
香 坂 哲 哉
株式会社島津製作所
藤 井 洋 三
帝人製機株式会社
曽 我 章
日本航空電子工業株式会社
渡 辺 晃
日本飛行機株式会社
中 神 雄 三
富士重工業株式会社
清 田 紀 男
三菱電機株式会社
廣 田 和 弘
三菱重工業株式会社
宇田川 知 行
横河電機株式会社
播 磨 克 彦
アエロスペック研究会
(事務局)
礒 部 瑛 二
社団法人日本航空宇宙工業会