日本工業規格
JIS
W
0119
-1996
(ISO
1151-9
: 1993
)
飛行力学−概念,量及び記号−
第 9 部:飛行経路に沿った大気の
動きのモデル
Flight dynamics
−Concepts, quantities and
symbols
−Part 9:Models of atmospheric
motions along the trajectory of the aircraft
日本工業規格としてのまえがき
この規格は,1993 年第 1 版として発行された ISO 1151-9 (Flight dynamics−Concepts, quantities and symbols
−Part 9:Models of atmospheric motions along the trajectory of the aircraft) を翻訳し,技術的内容及び規格票
の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
なお,この規格で下線(点線)を施してある“参考”は,原国際規格にはない事項である。
まえがき
ISO 1151
Flight dynamics−Concepts, quantities and symbols(飛行力学−概念,量及び記号)は,現在,
次の 9 規格から構成されている。
− Part
1:Aircraft motion relative to the air
[JIS W 0111-1991(飛行力学−概念,量及び記号−第 1 部:航空機の対気運動)
]
− Part
2:Motions of the aircraft and the atmosphere relative to the Earth
[JIS W 0112-1992(飛行力学−概念,量及び記号−第 2 部:地球に対する航空機及び大気の運動]
− Part
3:Derivatives of forces, moments and their coefficients
[JIS W 0113-1992(飛行力学−概念,量及び記号−第 3 部:力,モーメント及びそれらの係数の
微係数)
]
− Part
4:Concepts and quantities used in the study of aircraft stability and control
[JIS W 0114-1992(飛行力学−概念,量及び記号−第 4 部:航空機の安定性及び操縦性の研究に
使用するパラメータ)
]
− Part
5:Quantities used in measurements
[JIS W 0115-1992(飛行力学−概念,量及び記号−第 5 部:測定で使用する量)
]
− Part
6:Aircraft geometry
[JIS W 0116-1992(飛行力学−概念,量及び記号−第 6 部:航空機の幾何学的性質)
]
− Part
7:Flight points and flight envelopes
[JIS W 0117-1992(飛行力学−概念,量及び記号−第 7 部:飛行点及び飛行包囲線)
]
2
W 0119-1996 (ISO 1151-9 : 1993)
− Part
8:Concepts and quantities used in the study of the dynamic behaviour of the aircraft
[JIS W 0118-1995(飛行力学−概念,量及び記号−第 8 部:航空機の動的挙動の解析に使用する
概念及び量)
]
− Part
9:Models of atmospheric motions along the trajectory of the aircraft
備考 [ ] 内に示した日本工業規格が,それぞれの国際規格と一致している。
ISO 1151
(及び一致する JIS W)は,理論的及び実験的研究で使用する主要な概念と,比較的重要な用
語について規定し,さらに,できる限り広い範囲にわたり対応記号を与えることを意図するものである。
ISO 1151
(及び一致する JIS W)の各部において,
“航空機”は,大気中又は宇宙の飛行を目的とする輸
送機関を意味する。通常,航空機は,一つの平面に関して本質的に左右の対称性をもっている。この平面
は,航空機の形状特性によって定まる。この平面上に,二つの直交方向(前後及び上下)を定め,この平
面に垂直に,左右方向を定義する。
対称平面が一つある場合には,それを航空機の基準平面とする。対称平面が二つ以上ある場合又は対称
平面がない場合には,基準平面を選ぶ必要がある。前者の場合には,対称平面の一つを基準平面とする。
後者の場合には,基準平面は任意とする。どの場合でも,選択した結果を明記することが必要である。
どの軸の周りの回転角,角速度及びモーメントも,その軸の正方向を見たとき,時計回りを正とする。
座標軸系はすべて,三次元,直交右手系であって,この座標軸系は,x 軸の周りを正方向に
2
π
回転すれば,
前に z 軸がしめていた位置に y 軸がくることとなる。
重力場が均一なときには,重心は,質量中心に一致する。重力場が均一でないときには,重心を ISO 1151
(及び一致する JIS W)の定義による質量中心と置き換えることができ,この場合には,置き換えたこと
を示しておくのがよい。
章及び箇条の番号 この JIS W では,章又は箇条の引用の指示が容易になるように,対応する ISO 1151
の Part の番号を最初の数字にするような 10 進番号方式を採用した。
参考 本文中に例えば 2.2.3 とある場合は JIS W 0112 (ISO 1151-2) の該当箇条を意味する。
9.0
序文
この規格では,航空機の動的挙動に影響を与える空気の動きのモデルを特徴づける概念及び量について
取り扱う。
地球に対して相対的な空気の動きは,航空機の飛行経路 (8.2.1) 上の各点における風の速度 (2.2.3) によ
って規定される。
飛行力学の諸問題においては,風の速度の場及び時間に伴うそれの変化の数学的モデルを使用するのが
一般的である。これらは,実際の空気の動きの図式的表現である。
この規格では,次のモデルを定義する。
− 一定の風 (9.1)
− 風のこう配 (9.2)
− 孤立突風 (9.3)
− 三次元の風のモデル (9.4)
− 渦 (9.5)
他のモデルは,これらのモデルの重ね合わせによって定義できる。
3
W 0119-1996 (ISO 1151-9 : 1993)
9.1
一定の風
番号
用語
定義
記号
対応英語
9.1.1
定常の風
風の速度 (2.2.3) が時間に関して一定である風のモデ
ル。
−
steady wind
9.1.2
一定の風
風の速度 (2.2.3) が時間に関して一定であり,かつ,考
察する空間の各点で等しい風のモデル。
備考 これは,ISO 1151 の他の Part(及び一致する
JIS W
の他の部分)の中で用いる風のモデル
である。
−
constant wind
9.1.3
平均の風の速
度
時間と共に空気の動きが変動するモデルにおいて,便宜
的に定義される一定の風 (9.1.2) の速度。
その速度は,次の式で定義される。
ò
=
T
t
V
T
V
0
w
w
d
1
ρ
ここに,
w
V
ϖ
: 風の速度 (2.2.3)
T: 考察する時間
備考 風の速度が時間だけに従って変動する風の
モデルにおいては,平均の風の速度は,考察
する飛行経路に沿った各点において等しい。
w
V
ρ
mean wind
velocity
9.2
風のこう配
番号
用語
定義
記号
対応英語
9.2.1
風のこう配
風の速度の変動が,次のとおりである風のモデル。
− 時間に関してゼロに等しく,かつ
− 標準地面軸系 (1.1.2) における座標の連続の関数で
ある。
この場合には,これらの座標に関する風の速度の変動
o
w
V
ϖ
∆
は,次の式で与えられる。
÷
÷
÷
ø
ö
ç
ç
ç
è
æ
∆
∆
∆
÷÷
÷
÷
ø
ö
çç
ç
ç
è
æ
÷
÷
÷
÷
ø
ö
ç
ç
ç
ç
è
æ
∆
∆
∆
∆
0
0
0
w
w
w
w
w
w
w
w
w
0
w
0
w
0
w
wo
z
y
x
w
w
w
u
u
u
w
u
V
z
y
x
z
y
x
z
y
x
υ
υ
υ
υ
=
=
ρ
ここに,
0
0
w
x
w
x
u
u
∂
∂
=
,
0
0
w
y
w
y
u
u
∂
∂
=
など,及び
∆x
0
,
∆y
0
,
∆z
0
は,座標の変化量である。
−
wind gradient
9.2.2
一定こう配の
風
風のこう配 (9.2.1) が,考察する空間における各点で同
じである風のモデル。
−
constant wind
gradient
9.3
孤立突風
9.3.1
突風の一般的説明
番号
用語
定義
記号
対応英語
9.3.1.1
突風
風の速度
w
V
ρ
(2.2.3) の確定的 (deterministic) で急激な
変動を特徴とし,航空機の速度
V
ρ
(1.3.1) の変動をもた
らす風のモデル。
−
gust
9.3.1.2
突風速度
突風の速さ
風の速度
w
V
ρ
(2.2.3) の突風 (9.3.1.1) 成分。
突風速度の大きさ。
G
V
ρ
V
G
gust velocity
gust speed
4
W 0119-1996 (ISO 1151-9 : 1993)
番号
用語
定義
記号
対応英語
9.3.1.3
突風の形
突風モデルにおいて突風速度 (9.3.1.2) を特性づけるも
ので,飛行経路 (8.2.1) 上の距離又は時間の関数。
備考 突風の形は,次によって特性づけられる。
− 突風速度の初期値はゼロ
− 突風の代表速さ (9.3.1.4)
− 突風の方向
− 突風速度の最終値
−
gust profile
9.3.1.4
突風の代表速
さ
突風モデルにおける突風の速さ (9.3.1.2) の最大値。
−
characteristic gust
speed
9.3.1.5
突風の代表長
さ
風速 V
w
(2.2.3) の変化が突風の代表速さ (9.3.1.4) と等
しくなる飛行経路 (8.2.1) 上の最短距離。
l
G
characteristic gust
length
9.3.1.6
縦の突風
突風速度 (9.3.1.2) の風軸 x
a
(1.1.6) の成分だけがゼロ
でない突風の形 (9.3.1.3) 。
備考 縦の突風は,前後軸 (1.1.5) の成分を用いて
定義することもできる。
−
longitudinal gust
9.3.1.7
横の突風
突風速度 (9.3.1.2) の横風軸 y
a
(1.1.6) の成分だけがゼ
ロでない突風の形 (9.3.1.3) 。
備考 左右の突風を,左右軸 (1.1.5) の成分を用い
て定義することもできる。
−
lateral gust
9.3.1.8
上下の突風
突風速度 (9.3.1.2) の上下風軸 z
a
(1.1.6) の成分だけが
ゼロでない突風の形 (9.3.1.3) 。
備考 上下の突風は,上下軸 (1.1.5) の成分を用い
て定義することもできる。
−
normal gust
9.3.1.9
垂直突風
突風速度 (9.3.1.2) の鉛直軸 z
0
(1.1.2) の成分だけがゼ
ロでない突風の形 (9.3.1.3)。
−
vertical gust
9.3.1.10
水平突風
突風速度 (9.3.1.2) の水平面 x
0
y
0
(1.1.2) に固定された 1
軸の成分だけがゼロでない突風の形 (9.3.1.3) 。
備考 この場合,標準地面軸系 (1.1.2) の軸の方向
を指定する。
−
horizontal gust
9.3.2
標準突風
大気の乱れに対する航空機の動的応答の解析において,標準となる様々な突風の形 (9.3.1.3) が用いられ
る。他の突風の形は,次にあげる標準突風の形に基づいて定義できる。
ここでは,次の記号を用いる。
a:定数
i:考察する大気の乱れを示す添字
t
0
:大気の乱れの開始時点
∆t:代表時間
すべての標準突風の形は,t<t
0
に対してゼロである。
もし,t
0
=0 ならば,記号を省略してもよい。
代表時間
∆t は,それが明確に定義されるならば,記号を省略してもよい。
5
W 0119-1996 (ISO 1151-9 : 1993)
番号
用語
定義
記号
対応英語
9.3.2.1
ステップ形突
風
考察する軸に沿った突風速度 (9.3.1.2) の成分が,時間
に関するステップ関数 (8.5.1) として変動する突風モ
デル。
î
í
ì
≥
<
=
)
t
t
a(
)
t
t
(
0
)
t
(
Γ
0
0
0
i
G
の場合
の場合
)
(
0
G
t
Γ
i
step gust
9.3.2.2
ランプ形突風
考察する軸に沿った突風速度 (9.3.1.2) の成分が,時間
に関する制限付きランプ関数 (8.5.3) として変動する
突風モデル。
ï
ï
î
ïï
í
ì
∆
+
>
∆
+
≤
≤
∆
−
<
∆
)
(
a
)
(
(
0
)
,
(
0
0
0
0
0
0
G
の場合
の場合
の場合)
=
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
a
t
t
t
t
i
ρ
)
,
(
0
G
t
t
i
∆
ρ
ramp gust
9.3.2.3 (1
−cos) ステ
ップ形突風
考察する軸に沿った突風速度 (9.3.1.2) の成分が,時間
に関して次の法則に従って変動する突風モデル。
ï
ï
î
ïï
í
ì
∆
+
>
∆
+
≤
≤
÷÷ø
ö
ççè
æ
∆
−
−
<
∆
)
(
)
(
)
(
cos
1
2
a
(
0
)
,
(
0
0
0
0
0
0
G
の場合
の場合
の場合)
=
t
t
t
a
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
Ψ
i
π
)
,
(
0
G
t
t
Ψ
i
∆
(1−cos) step gust
9.3.2.4 (1
−cos) パル
ス形突風
考察する軸に沿った突風速度 (9.3.1.2) の成分が,時間
に関して次の法則に従って変動する突風モデル。
ï
ï
î
ïï
í
ì
∆
+
>
∆
+
≤
≤
÷
ø
ö
ç
è
æ
∆
−
−
<
∆
)
(
a
)
(
)
(
2
cos
1
2
a
(
0
)
,
(
0
0
0
0
0
0
G
の場合
の場合
の場合)
=
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
Ω
i
π
)
,
(
0
G
t
t
Ω
i
∆
(1−cos) pulse gust
9.4
三次元の風のモデル
番号
用語
定義
記号
対応英語
9.4.1
不連続なウイ
ンドシア
一つの平面の両側に,その平面に平行で異なる速度ベク
トルをもつ二つの一定の風 (9.1.2) の並置によって定
義される風のモデル。
備考1. この概念は必然的に,分離平面を境にして
不連続性が存在することを意味する。
2.
分離平面を横切るときに,航空機はステッ
プ形突風 (9.3.2.1) と同様な風速の変化を
受ける。
3.
分離平面を,風のこう配 (9.2.1) が大きい
が有限である薄い層によって置き換える
ことができる。
−
discontinuous wind
shear
9.4.2
ダウンバース
ト
次によって特性づけられる三次元の風のモデル。
− 垂直軸に関して円柱対称
− 下向の速い風速
備考 風の速度は必然的に,ダウンバーストの上部
では垂直,地面近くでは水平である。
−
downburst
6
W 0119-1996 (ISO 1151-9 : 1993)
9.5
渦
番号
用語
定義
記号
対応英語
9.5.1
渦
一つの軸回りの空気の回転によって特性づけられる風
のモデル。
−
vortex
9.5.2
ランキン渦モ
デル
局部的な空気の速度の方向が,渦の軸に対して垂直な平
面上にあり,この軸上に中心をおく円に接している渦
(9.5.1) のモデル。渦の軸からの距離が r のところの空気
の速さは,
n
r
r
r
=
ˆ
として
)
1
ˆ
(
ˆ
v
の場合
≤
=
r
r
V
V
n
)
1
ˆ
(
ˆ
v
の場合
≤
=
r
r
V
V
n
ここに,r
n
:渦の中核部の半径
V
n
:r=r
n
のところの接線方向の空気の速
さ
備考 ランキン渦モデルでは,中核部の内側の空気
は,同一の角速度で回転する。
−
Rankine vortex
model
9.5.3
実際的な渦の
モデル
局部的な空気の速度の方向が,渦の軸に対して垂直な平
面上にあり,この軸上に中心をおく円に接している渦
(9.5.1) のモデル。
渦の軸からの距離が r のところの空気の速さは,
n
r
r
=
ˆ
と
して,
2
v
ˆ
1
ˆ
2
r
r
V
V
n
+
=
ここに,r
n
:渦の中核部の半径
V
n
:r=r
n
のところの接線方向の空気の速
さ
−
empirical vortex
model
7
W 0119-1996 (ISO 1151-9 : 1993)
航空規格原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(委員長)
松 木 正 勝
日本工業大学
(副委員長)
渡 辺 正
川崎重工業株式会社航空宇宙事業本部
平 井 敏 文
通商産業省機械情報産業局航空機武器課
根 岸 喜代春
工業技術院標準部機械規格課
平 沢 愛 祥
運輸省航空局技術部航空機安全課
後 藤 忠 司
海上保安庁装備技術部
中 西 忠 雄
防衛庁装備局調達補給室
伊 藤 誠 一
科学技術庁航空宇宙技術研究所
守 田 正 公
社団法人日本航空技術協会
中 込 常 雄
日本工業標準調査会自動車航空部会規格
調整専門委員会
久木田 実 守
株式会社富士キメラ総研
塩 田 克 彦
日本航空株式会社技術研究所
吉 井 正 洋
株式会社日本エアシステム整備本部技術
部
服 部 博
石川島播磨重工業株式会社航空宇宙事業
本部
香 坂 哲 哉
株式会社島津製作所航空機器事業部
藤 井 洋 三
帝人製機株式会社航空機技術部
曽 我 章
日本航空電子工業株式会社航機事業部
渡 辺 晃
日本飛行機株式会社技術本部
(主査)
中 神 雄 三
富士重工業株式会社航空宇宙事業本部
清 田 紀 男
三菱電機株式会社鎌倉製作所
廣 田 和 弘
三菱重工業株式会社名古屋航空宇宙シス
テム製作所
宇田川 知 行
横河電機株式会社航空宇宙特機事業部
播 磨 克 彦
アエロスペック研究会
(事務局)
礒 部 瑛 二
社団法人日本航空宇宙工業会