日本工業規格
JIS
T
8161
-1983
防音保護具
Ear Protectors
1.
適用範囲 この規格は,ジェットエンジンの製造(整備を含む。),航空機発着場,製材(チェーンソ
ーを用いて行うものを含む。
)
,造船,製鉄,鉱山坑内,製缶,ずい道工事その他強烈な騒音を発する事業
場において,作業員の聴覚障害を防止するために使用する防音保護具(以下,保護具という。
)について規
定する。
引用規格:
JIS C 1502
普通騒音計
JIS C 1505
精密騒音計
JIS G 3141
冷間圧延鋼板及び鋼帯
JIS G 3522
ピアノ線
JIS T 1201
オージオメータ
2.
用語の意味 この規格で用いる主な用語の意味は,次のとおりとする。
(1)
遮音 音の伝搬を妨げること。
(2)
遮音性能 ランダム入射の
3
1
オクターブバンドノイズに対する保護具の遮音値とその標準偏差。
(3)
音圧レベル ある音の音圧(実効値)pPa と基準の音圧(実効値)20
µPa との比の常用対数の 20 倍,
すなわち,次式により計算したレベル。
5
10
10
2
log
20
−
×
=
p
L
p
ここに, L
p
: 音圧レベル (dB)
なお,試験などに関する音圧レベルは,JIS C 1505(精密騒音計)又は JIS C 1502(普通騒音計)
に規定する騒音計の C 特性で測定した値とする。
(4)
最小可聴値 音の感覚を生じさせる最小音圧の実効値。通常は音圧レベルによって表す。
(5)
上昇法 最小可聴値の測定において,最小可聴値よりも十分に小さい音圧から順次音圧を上げて,初
めて音を感じたときの音圧を最小可聴値とする方法。
(6)
白色雑音 1Hz 幅の周波数帯域の音圧レベルが周波数に無関係に一定で,周波数の広い範囲にわたっ
て連続的に分布し,かつ,定常的である音。
また,これを発生する電気信号についてもこの用語を用いる。
(7)
3
1
オクターブバンドノイズ 1Hz 幅の周波数帯域の音圧レベルが,
3
1
オクターブ帯域にわたり一定で,
かつ,その帯域にわたり連続的に分布している音。白色雑音(電気信号)を
3
1
オクターブバンドフィ
ルタ(
3
1
オクターブ帯域フィルタ)に通して得られる電気入力によりスピーカから発生される。
2
T 8161-1983
3
1
オクターブ帯域の両端の遮断周波数を f
1
,
f
2
,
(f
2
>f
1
)
とすると,
1
2
3
1
2 f
f
=
であり,
1
2
1
6
1
2 f
f
f
f
c
=
=
をその中心周波数といい,その帯域を代表する周波数とする。実用上は,
f
c
=125Hz のとき
f
1
=112Hz
f
2
=140Hz
f
c
=250Hz のとき
f
1
=224Hz
f
2
=280Hz
f
c
=500Hz のとき
f
1
=450Hz
f
2
=560Hz
f
c
=1000Hz のとき
f
1
=900Hz
f
2
=1120Hz
f
c
=2000Hz のとき
f
1
=1800Hz
f
2
=2240Hz
f
c
=4000Hz のとき
f
1
=3550Hz
f
2
=4500Hz
f
c
=8000Hz のとき
f
1
=7100Hz
f
2
=9000Hz
である。
(8)
環境騒音 測定を行う場所で,保護具の遮音性能試験に使用する音(以下,試験音という。)がないと
きの騒音。
(9)
聴力レベル ある周波数について,その最小可聴値と基準の最小可聴値との比をデシベル (dB) で表
したもの。
3.
種類 保護具の種類は,表 1 のとおりとする。
表 1 種類
種類
分類
記号
備考
1
種 EP-1
低音から高温までを遮音するもの。
耳栓
2
種 EP-2
主として高音を遮音するもので,会話域
程度の低音を比較的通すもの。
耳覆い
− EM
−
4.
性能 保護具は,7.に規定する方法により試験したとき,各中心周波数における遮音値が表 2 の遮音
値に適合しなければならない。
表 2 遮音値
遮音値 dB
中心周波数
Hz
EP-1 EP-2 EM
125 10
以上 10 未満
5
以上
250 15
以上 10 未満 10 以上
500 15
以上 10 未満 20 以上
1000 20
以上 20 未満(
1
) 25
以上
2000 25
以上 20 以上 30 以上
4000 25
以上 25 以上 35 以上
8000 20
以上 20 以上 20 以上
注(
1
) EP-2
の中心周波数1000Hz における遮音値は,15dB
未満にすることが望ましい。
5.
構造
5.1
耳栓の構造 耳栓は,外耳道に挿入することにより遮音する構造であって,次の規定に適合しなけ
ればならない(
参考図 1 参照)。
(1)
耳によくなじむこと。
(2)
使用中,著しい不快感がないこと。
(3)
使用中,容易に脱落しないこと。
3
T 8161-1983
5.2
耳覆いの構造 耳覆いは,耳全体を覆うことにより遮音する構造であって,次の規定に適合しなけ
ればならない(
参考図 2 参照)。
(1)
カップは,耳全体を覆う大きさであり,発泡プラスチックなどの吸音材で裏打ちしてあるものである
こと。
(2)
クッションは,発泡プラスチック又は空気若しくは液体を封入したプラスチックチューブなどによっ
て耳の周囲に密着する構造のものであること。
(3)
ヘッドバンド又はサスペンションは,長さを調節できるものとし,スプリングによる場合は適当な弾
性をもち,着用者に圧迫痛又は不快感を与えないものであること。
6.
材料 保護具の各部に使用する材料は,次の規定に適合しなければならない。
(1)
強さ,硬さ,弾性などが用途に対して適当であること。
(2)
皮膚に接触する部分に用いる材料は,皮膚に有害な影響を与えないものであり,かつ,消毒のできる
ものであること。
(3)
金属部は,適当なさび止め処理を施したものであり,かつ,消毒できるものであること。
(4)
ヘッドバンドに用いるスプリング又はサスペンションには,JIS G 3141(冷間圧延鋼板及び鋼帯)若
しくは JIS G 3522(ピアノ線)に適合する材料又はこれらと同等以上の材料を用いること。
7.
試験 試験は,被検者の実耳による遮音性能試験とし,次のとおりとする。
(1)
試験場所 外部の音を十分に遮音した室内で,環境騒音は(2)に,試験音の分布は(3)(b)にそれぞれ規
定する条件を満たす場所とする。
また,被検者が出す騒音をできるだけ小さくできるようにする。
(2)
試験場所の環境騒音 被検者がいないときの環境騒音は,試験のときの被検者の頭の中心位置(両方
の耳を結ぶ線の中点。以下,試験の位置という。
)で測定し,
表 3 の値を超えてはならない。
表 3 試験場所の環境騒音
オクターブバンドの
中心周波数 Hz
周波数範囲 Hz
オクターブバンドレ
ベル(
2
)dB
125 90
〜180 24
250 180
〜355 18
500 355
〜710 16
1000 710
〜1400 16
2000 1400
〜2800 14
4000 2800
〜5600
9
8000 5600
〜11200 30
注(
2
)
オクターブバンドフィルタを通して得られた音圧レベル。
(3)
試験音
(a)
3
1
オクターブバンドノイズとし,その中心周波数は原則として,125Hz,250Hz,500Hz,1000Hz,
2000Hz
,4000Hz 及び 8000Hz とする。
(b)
被検者の頭の位置に周囲からほぼ同じようにランダムに入射するものとし,試験の位置から上下,
左右,前後にそれぞれ 15cm 離れた点における音圧レベルは,試験の位置における音圧レベルに対
して±3dB 以上異なってはならない。
また,左右の 2 点の位置の音圧レベルは,互いに 3dB を超えて異なってはならない。
4
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(c)
試験音を出すためのスピーカと試験の位置との距離は,1m 以上とする。
(d)
試験音は,2.5dB 又はそれ以下の割合で試験に必要なレベルの範囲で変化させることができなけれ
ばならない。
(e)
試験に当たっては,試験音以外の音を出さないようにする。
(4)
被検者
(a)
正常な聴力をもつ者とし,その聴力レベル[JIS T 1201(オージオメータ)による聴力レベルをい
う。
]は,2000Hz 以下の周波数では 15dB 以下,2000Hz を超える周波数では 25dB 以下とし,両方
の耳の聴力がほぼ等しい者とする。
(b)
保護具を正しく着用できる者でなければならない。耳覆いの場合にあっては眼鏡や耳かざりは原則
として使用しない。
(5)
試験の方法
(a)
被検者は,10 人とする。
(b)
被検者は,試験に供する保護具のうち,適切なサイズのものをあらかじめ選定し,保護具の遮音値
の試験の方法について詳細に知らされていなければならない。
(c)
被検者は,試験の少なくとも 1 時間前から大きな騒音にさらされないようにする。
(d)
まず被検者に保護具を着用させないで,裸耳の最小可聴値を(3)(a)の中心周波数をもった
3
1
オクター
ブバンドノイズによって上昇法で測定する。
(e)
次に保護具を着用させてから,試験の位置で音圧レベル 60〜70dB の白色雑音の連続音を出し,被
検者は音が一番小さくなるように頭を上下,左右に数回動かしたり,口を開閉するなどして保護具
の位置を調整する。調整後は,試験中保護具を動かしてはならない。
(f)
(d)
と同じ試験音を使用して,保護具を着用したときの最小可聴値を上昇法で測定する。ただし,あ
る中心周波数の試験音についての測定値が異常な値又は負の値になる場合には,その帯域に隣接す
る
3
1
オクターブバンドノイズについて(d)と(f)の測定を行う。
(g)
試験は,被検者の学習効果や疲労による影響を少なくするように注意して行う。
(h)
(d)
及び(f)の試験は,試験音の各中心周波数ごとに一つの保護具について,3 回,独立して行う。た
だし,保護具は,1 回ごとに着用し直すものとする。
(6)
遮音性能の算出
(a)
試験音の各中心周波数ごとに(5)(f)の測定値の平均値と標準偏差とを求める。
(5)(f)
の測定値の平均値を保護具のその中心周波数における遮音値とし,標準偏差は,次式により
求める。
29
2
d
å
=
σ
ここに,
σ: 標準偏差
d
:
各試験の測定値と平均値との差
(b)
保護具の遮音性能を周波数について図示する場合は,周波数軸上の 10 倍の周波数の間隔が遮音値の
50dB
に等しくなるようにする。
また,遮音値は下向きにとるものとする。
8.
表示
5
T 8161-1983
8.1
包装の表示 保護具の包装には次の事項を表示しなければならない。ただし,(4)については,数字
又は図で示すものとする。
(1)
種類
耳栓にあっては,種類のほか分類又は記号
(2)
製造業者名又はその略号
(3)
製造年月又はその略号
(4)
遮音性能
8.2
製品の表示 耳覆いには,製造業者名又はその略号を容易に消えない方法で表示しなければならな
い。
9.
取扱説明書 保護具には,使用上の注意事項を記載した取扱説明書を添付しなければならない。
参考図 1 耳栓
6
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参考図 2 耳覆い
医療安全用具部会 防音保護具専門委員会 構成表
氏名
所属
(委員会長)
三 浦 豊 彦
財団法人労働科学研究所
大 島 敏
東京都立工業技術センター
恩 地 豊
東京医科歯科大学
小 橋 豊
財団法人小林理学研究所
福 渡 靖
労働省労働基準局
三 輪 俊 輔
労働省産業医学総合研究所
向 井 保
工業技術院標準部
西 川 禎 一
通商産業省生活産業局
青 木 栄 一
株式会社重松製作所
伊 藤 正 治
ミドリ安全株式会社
酒 井 真 一
興研株式会社
志 賀 四 郎
社団法人日本保安用品協会
利 岡 和 人
株式会社シモン
松 浦 尚
リオン株式会社
山 田 郁 夫
MSA
ジャパン株式会社
砂 野 耕 一
川崎重工業株式会社
大 橋 脩 作
日本石炭協会
小 松 宏 次
鉱業労働災害防止協会
谷 村 寿 重
中央労働災害防止協会
冨 永 誠 美
全日本空輸株式会社
佐久間 光 史
日本国有鉄道
二 木 久 之
日本鋼管株式会社
村 門 律
建設業労働災害防止協会
森 肇
日本鉱業株式会社
(事務局)
川 口 廣 美
工業技術院標準部電気規格課