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目 次 

ページ 

1 適用範囲························································································································· 1 

2 用語及び定義 ··················································································································· 1 

3 測定原理························································································································· 1 

4 試料······························································································································· 2 

5 化学発光測定装置 ············································································································· 2 

5.1 装置本体の構成 ············································································································· 2 

5.2 試料室の構成 ················································································································ 3 

5.3 装置の設置環境 ············································································································· 3 

6 測定方法························································································································· 3 

6.1 装置準備 ······················································································································ 3 

6.2 装置の正常動作確認 ······································································································· 4 

6.3 測定手順 ······················································································································ 4 

7 測定結果の表示 ················································································································ 5 

7.1 一般事項 ······················································································································ 5 

7.2 不活性ガス雰囲気測定の場合 ··························································································· 5 

7.3 酸化促進雰囲気で測定する場合 ························································································ 6 

8 測定結果の記録 ················································································································ 7 

附属書A(参考)化学発光測定による酸化劣化検出 ···································································· 8 

附属書B(参考)加熱酸化させたポリエチレン(PE)の酸化劣化度測定 ········································ 10 

附属書C(参考)平衡化学発光強度の測定及び酸化防止能の評価·················································· 11 

附属書D(参考)押出回数が異なる各種プラスチックの酸化劣化度測定 ········································· 13 

附属書E(参考)酸化誘導時間(OIT)の評価 ·········································································· 14 

附属書F(参考)酸化誘導時間(OIT)測定による寿命推定 ························································ 15 

附属書G(参考)プラスチック以外の物質の酸化劣化度測定の参考事例 ········································ 16 

参考文献 ···························································································································· 18 

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(2) 

まえがき 

この規格は,工業標準化法に基づき,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日本

工業規格である。 

この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。 

この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意

を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実

用新案権に関わる確認について,責任はもたない。 

  

日本工業規格          JIS 

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プラスチックに含まれる過酸化物の微弱発光の 

高感度測定方法 

Sensitive measurement method of peroxide in plastics by detecting 

ultra-weak photon emission 

適用範囲 

この規格は,物質の酸化による劣化程度を評価するために,プラスチックの酸化反応によって生成した

過酸化物からの微弱な発光を高感度で検出する測定方法について規定する。 

この規格の測定方法は,プラスチック以外の有機材料に含まれる過酸化物の測定にも準用できる。有機

材料とは,例えば,ゴム,エラストマーなどの高分子材料ほか,食品,油,薬などをいう。 

用語及び定義 

この規格で用いる主な用語及び定義は,次による。 

2.1 

化学発光,CL(chemiluminescence) 

化学反応によって生じるエネルギーによって,電子が一段階以上高いエネルギー準位に励起され,それ

らのエネルギー準位から基底状態へ失活するときに放出される発光現象。 

2.2 

暗電流値 

検出素子自体に光が当たらない状態で計測される数値データ。 

2.3 

バックグラウンド 

試料容器に試料を入れない状態で計測される数値データ。 

2.4 

酸化誘導時間,OIT(oxidation induction time) 

プラスチック内で生じた過酸化物の生成速度と消滅速度の平衡が崩れて,発光強度が急激に増大する時

間。 

注記 酸化誘導時間は,抗酸化剤の種類,添加量,測定温度などによって変化する。 

測定原理 

酸素原子を二つ以上もつ過酸化物を熱によって分解したときの微弱な発光(CL)を,高感度な光検出素

子(光電子増倍管,CCDカメラなど)を用いた装置によって測定する。発光量の経時変化を測定ピーク高

さ,傾き,時間,ピーク面積,発光画像などで表示し,光エネルギーを発した物質の酸化による劣化程度

を測定する。物質の発光量の測定及び酸化劣化の考え方についての詳細を附属書Aに示す。一般的な化学

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反応における発光種の発光波長範囲として,表1に示した値が報告されている。 

表1−一般的な化学反応における発光種(化学物質種)の発光波長範囲及びピーク波長(例)[1] 

単位 nm 

発光種 

発光波長a) 

3-アミノフタール酸 

350〜550(425) 

N-メチルアクリドン 

400〜600(470) 

ジベンゾイルベンゾアミド 

520〜590(530) 

1O2 

420〜720(478,634) 

励起カルボニル 

420〜450,530 

HCHO 

300〜600(435) 

NO2 

540〜3 000(1 200) 

SO2 

250〜400(312) 

注a) 括弧内の数値は,ピーク波長(極大波長)を示す。 

試料 

試料は,1 mgまで測定できるひょう(秤)量器で10 mg〜20 gをはかりとる。試料は全て同じ組成のプ

ラスチックで,いずれか一つの条件が異なるもの(例えば,劣化度,添加剤種類,添加量)をそれぞれ同

じ質量はかりとる。固体試料の場合は試料面積もそろえる。試料の形状・寸法,質量は受渡当事者間の協

定による。試料は素手では触らず,手袋を着用して扱う。測定前には,試料の汚れを十分落とす。 

注記 化学発光強度は,原理的に試料の表面積に比例するため,同一形状の場合は絶対値を比較でき

るが,異なる形状のものの比較はできない。 

化学発光測定装置 

5.1 

装置本体の構成 

化学発光測定装置(以下,CL装置という。)本体は,試料への加熱制御が可能で,雰囲気の選択ができ

るものとする。温度は,等温測定及び/又は昇温測定が可能な構造とする。試料からのCLを検出する受

光部は,高感度な検出素子(例えば,光電子増倍管,高感度CCDカメラなど)を用いる。検出素子は,

対象とする過酸化物の発光を検出できるものとする。検出素子は冷却することで感度が向上するため,0 ℃

以下の温度まで冷却することが望ましい。試料室は検出素子の直下に位置し,加熱によって試料中に存在

する過酸化物を分解してCLを発生させる。図1にCL装置本体の構成の例を示す。データ処理装置は発

光量を数値データ(発光カウント値など)として計測し,モニタ画面に経時変化を表示できるものが望ま

しい。 

また,ある一定以上の強い光が検出素子に入射した場合は,検出素子保護のために自動的にシャッター

を閉じるなどして,測定を中止する機能をもつ。検出素子の測定限界値(上限)は,CL装置又は検出素

子製造業者の設定による。 

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1  光電子増倍管(PMT)
2  電子冷却
3  冷却水
4  試料室
5  試料容器
6  試料
7  窓板付き内蓋
8  加熱部
9  ガス導入管

10 ガス排出管
11 データ処理
12 シャッター

1

2

3

4

5

8

9

6

7

10

11

12

図1−CL装置本体の構成(例) 

5.2 

試料室の構成 

試料室の構成は,ガス出入口及び加熱部から成り,試料室内は窓板付きの内蓋によって密閉する。窓板

は,発光を阻害しない透過性のよい材質を使用し,通常は石英ガラスとする。 

試料容器は,底面が平らで,開口面積が一定であるものとする。試料容器の材質は,熱伝導性が高く,

測定温度で発光を示さないもの又は発光量が少ないもの,例えばステンレス製,アルミニウム製とする。

測定目的によっては,ガラス製,セラミック製などの耐食性をもつ容器を用いてもよい。 

試料室は,窒素などの不活性ガス及び/又は酸素などの酸化促進ガスを導入及び排出できる機能をもつ

ものとする。 

5.3 

装置の設置環境 

装置の設置環境は,次による。 

a) 直射日光の当たらない場所(暗幕設置環境を推奨) 

b) 強い紫外線,電磁波及び振動のない場所 

c) 化学物質を含む粉じん(塵),ばい(煤)煙などの影響を受けない場所 

d) 室内温度をほぼ一定に維持できる場所(20〜25 ℃程度を推奨) 

e) 室内湿度をほぼ一定に維持できる場所(45〜65 %程度を推奨) 

f) 

エアコンの吹き出し口から遠方に設置できる場所 

g) 一般精密分析機器などの設置環境と同等な場所 

測定方法 

6.1 

装置準備 

a) CL装置に冷却機能が付いている場合は,その機能を有効にする。例えば,冷却水循環装置の場合は,

冷却水の循環が適切に行われていることを確認する。 

b) 装置を起動させて,検出素子が安定するまで待つ。 

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6.2 

装置の正常動作確認 

暗電流値を測定し,製造業者が指定する正常範囲にあることを確認する。 

6.3 

測定手順 

6.3.1 

測定条件の設定 

次によって,測定に最適な雰囲気,温度,露光時間及び測定時間を決める。 

a) 測定雰囲気 不活性ガス1) 又は酸化促進ガス2) の雰囲気を選定する。 

注記1 目的に応じて測定中に雰囲気を変更することがある。雰囲気ガスの種類によっては,試料

室の加熱制御に影響を及ぼす場合がある。 

注1) 不活性ガスとしては,窒素,アルゴンなどがある。不活性ガス雰囲気での測定では,測定中

に試料が酸化しないため,試料に含まれる過酸化物に応じた酸化状態の検出ができる。 

2) 酸化促進ガスとしては,酸素,空気,オゾンガスなどがある。酸化促進ガス雰囲気での測定

では,測定中に試料の酸化を促進させ,その酸化のしにくさなどが評価できる。 

b) 測定温度 試料の物理情報(ガラス転移点,融点,分解温度など)を考慮して,測定目的に応じた最

適な温度を設定する。温度制御方法は,次の二つの方法とし,これらを組み合わせて適用することが

できる。 

1) 等温測定 あらかじめ試料室を所定の温度にして,測定開始から終了まで所定温度で測定を行う。 

2) 昇温測定 低温度(室温付近)から所定の温度まで一定速度(1〜150 ℃/min程度)で昇温しながら

測定を行う。 

c) 露光時間 通常,1秒〜10秒の積算値とする。発光強度が低い場合は数分間(1分〜5分)の積算値と

する場合もある。 

d) 測定時間 化学発光測定開始から終了までの時間とする。 

注記2 不活性ガス雰囲気で測定する場合,5分から1時間程度で発光ピークが得られる場合が多

い。 

注記3 酸化促進雰囲気で測定する場合,数時間から数日間となる場合が多い。 

6.3.2 

バックグラウンドの測定 

バックグラウンドの測定は,次による。 

a) 測定雰囲気にガスを使う場合は,あらかじめ試料室にガスを流しておく。流量は,試料室の容量に応

じて変化させる。例として,50〜150 mL/minが望ましい。 

b) 等温測定の場合は,試料室を測定温度に設定し,設定温度に安定するまで待つ。昇温測定の場合は,

測定開始温度,昇温速度及び目標温度を設定し,測定開始温度に安定するまで待つ。 

c) 露光時間及び測定時間を設定する。測定時間は,実試料測定と同じ時間が望ましい。 

d) 温度が安定したら試料室に空の試料容器を入れ,窓板付きの内蓋を閉じ,内部を密閉する。測定雰囲

気にガスを使う場合は,ガス排出口に接続した配管類にガス排出モニタを接続することが望ましい。 

e) 測定を開始する。 

f) 

測定前の発光量に比較して異常に高い発光が観測された場合は,試料容器などに汚れなどが付着して

いる可能性があるため試料室周りの洗浄,試料容器の交換などを行う。 

6.3.3 

試料測定 

a) バックグラウンド測定と同じ測定条件を設定する。 

b) 試料容器に試料を入れ,試料容器を試料室内にセットし,窓板付きの内蓋を取り付ける。 

c) 測定雰囲気にガスを使う場合は,ガスが確実に排出されていることを確認する。 

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d) 測定を開始する。 

e) 測定終了後,耐熱手袋などを用いて窓板付きの内蓋を開け,試料を取り出す。試料室内及び窓板付き

の内蓋に汚れがある場合は,洗浄する。 

f) 

それぞれの試料の測定データ(発光カウント値,ピーク値,積算値,一定時間後の発光など)を確認

する。 

g) 測定データの確認によって目的とする酸化劣化度の評価ができていない場合は,再度,温度条件及び

雰囲気条件を検討し直し,測定を最初から繰り返す。 

注記1 測定された化学発光強度は,バックグラウンドを含んでいる。したがって,試料からの化

学発光強度は,化学発光強度の測定値からバックグラウンドを差し引いた強度である。特

に,昇温測定の場合は,温度ごとのバックグラウンドを差し引いた方がよいこともある。 

注記2 試料が光を吸収する場合は,未酸化試料の結果をバックグラウンドデータとする場合もあ

る。 

測定結果の表示 

7.1 

一般事項 

測定温度条件(等温測定又は昇温測定)及び試料室内の雰囲気条件(不活性ガス雰囲気又は酸化促進雰

囲気)を設定して発光強度を測定し,測定結果を表示する。7.2及び7.3に発光強度の経時変化挙動を例示

する。 

なお,各種プラスチック材のCL測定の例を附属書B及び附属書Dに,プラスチック以外の物質のCL

測定の例を附属書Gに示す。また,酸化防止剤の濃度が異なるプラスチック材のCL測定の例を附属書C

に示す。さらに,酸化防止剤の濃度及び設定温度が異なるプラスチック材のOITの測定例を附属書E及び

附属書Fにそれぞれ示す。 

7.2 

不活性ガス雰囲気測定の場合 

a) 等温測定 一般的には図2のような発光強度の経時変化を示す。発光量は試料中に存在する過酸化物

由来であり,測定開始時点での酸化劣化度に相当する。発光量はピークに達した後,減少していく。

試料が薄膜などの熱伝導速度が早いものは,発光ピークが測定前に現れてしまうこともあるので,こ

の場合は,測定温度を下げるなど測定温度の再検討が必要である。 

図2−不活性ガス雰囲気・等温測定時の発光強度経時変化(例) 

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b) 昇温測定 一般的には図3のような発光強度の経時変化を示す。試料中の過酸化物などの成分が反応

する温度に達したときに発光する。 

注記 反応温度が異なる成分が複数含まれる場合,また,試料の結晶化,融解,相分離などの相変

化,粘度変化などによって二つ以上のピークが現れることもある。 

時間

発光強度

試料室温度

図3−不活性ガス雰囲気・昇温測定時の発光強度経時変化(例) 

7.3 

酸化促進雰囲気で測定する場合 

a) 等温測定 一般的には図4のような発光強度の経時変化を示す。最初の発光ピークは不活性ガス雰囲

気測定と同じ要因である。その後,試料内で生じた過酸化物の生成速度と消滅速度の平衡状態を一定

時間示した後,平衡が崩れて,発光強度が急激に増大する。平衡状態の発光強度は,材料の安定性及

び添加した安定剤の性能を表す。 

注記1 OITは,試料の酸化のしやすさや安定剤の効果を表し,熱劣化による寿命予測の指標とし

て用いられる。試料によっては明確な平衡状態を示す前に発光が上昇し始め,その強度が

増大し続けるような場合もある。 

図4−酸化促進雰囲気・等温測定時の発光強度経時変化(例) 

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b) 昇温測定 一般的には,酸化開始温度を測定するケースが多く,図5のような発光強度の経時変化を

示す。 

注記2 反応温度が異なる成分が複数含まれる場合や,試料の結晶化,融解,相分離などの相変化

及び粘度変化によって二つ以上のピークが現れることもある。 

図5−酸化促進雰囲気・昇温測定時の発光強度経時変化(例) 

測定結果の記録 

測定時は,次の項目を記録しておくことが望ましい。 

a) この規格の番号 

b) 試験年月日 

c) 試験装置(型番など) 

d) 試験条件(温度条件,雰囲気など) 

e) 試料の情報(例えば,試料種類,添加剤,形状,質量,試料の酸化・熱履歴など) 

f) 

試料容器の情報(例えば,大きさ,開口面積,材質など) 

g) 発光強度の経時変化データ又はグラフ 

h) 試料室温度の経時変化データ又はグラフ 

i) 

その他受渡当事者間で協定した事項 

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附属書A 

(参考) 

化学発光測定による酸化劣化検出 

A.1 酸化劣化及び化学発光の原理 

図A.1に様々な発光現象を示す。肉眼で星,蛍などの光を検知することはできるが,光が粒子(フォト

ン)としての挙動を示す微弱発光は検知できない。食品,油,プラスチック,ゴムなどの有機物が酸化及

び/又は劣化の化学反応によって発光する現象を化学発光(CL:Chemiluminescence)と呼ぶ。CL検出法

は材料品質管理,製造工程管理,添加剤効果,製品寿命予測及びリユース・リサイクル品質管理のそれぞ

れのステージにおいて極微量の酸化反応を捉えることができる。 

図A.1−様々な物質の発光現象 

CL法は光源を必要とせず,真っ暗な試料室中にセットした試料からの光を高感度に捉える方法である。

そのため,その他の光検出装置(例えば,可視紫外分光光度計,赤外分光光度計,蛍光分光光度計など)

と比較して光源による迷光又はバックグラウンド上昇がなく,S/N(シグナル/ノイズ)比が高く高感度

検出が可能となる。 

CLの発生要因として,そのほとんどが有機物の酸化反応によって生成される過酸化物由来だと考えら

れている。この有機物が“酸化すると発光する”というメカニズムは,古くから自動酸化機構の一部とし

て知られている。図A.2に自動酸化機構における主要な化学反応部分を示す。 

未酸化ポリマー(RH)は,光,熱などの刺激によってアルキルラジカルを生じる。このラジカルは,酸

素と反応して速やかにペルオキシラジカル(ROO・)を生じ,その後過酸化物(ROOH)となる。ROOH

は分解して再びROO・となり,この2分子反応によって高いエネルギー状態の励起カルボニルと活性酸素

の一つである一重項酸素を生じる。これらは励起状態から基底状態に戻るときにエネルギーの差分を光と

して放出するが,これをCLと定義している(反応1)。自動酸化機構におけるこの過程をラッセル機構と

も呼ぶ。このCLを検出することでROOHの生成量,すなわち酸化劣化度を測定する。これがCL法であ

り,測定値は発光量として表される。通常は,試料を加熱することでROOHを分解し,試料内に生成し蓄

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積している極微量のROOHを検出する。酸化が進行すれば反応2に示すように分子鎖が切断されて分子量

が低下する。 

図A.2−自動酸化機構 

A.2 酸化劣化ステージ及び評価法 

酸化劣化を評価する各種測定法が,自動酸化機構による劣化のステージにおいてどのステージを検知・

評価しているのかを図A.3に簡便に示す。赤外分光光度計(IR),核磁気共鳴(NMR)などの構造変化を

調べる評価方法では,カルボニルなどの酸化による官能基がある程度蓄積した段階で初めて検出できる。

また,引張試験,衝撃試験などの物理的評価法は,分子量がかなり低下するまで劣化が進行した後半のス

テージを評価している。これらに対して,CL法は酸化反応の中間生成物であるROOHを高感度に直接検

出するため,酸化劣化の極初期の変化を捉えることが可能である。 

図A.3−酸化劣化のステージ 

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附属書B 

(参考) 

加熱酸化させたポリエチレン(PE)の酸化劣化度測定 

B.1 

試料準備 

試料準備は,次による。 

a) 直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のペレットから熱プレスによって,3 cm×3 cm,厚み1 mmの

シートを成形し,測定試料とする。 

b) このシートを200 ℃のオーブン(空気雰囲気)に入れ,それぞれ,1時間,2時間及び3時間加熱した

シートを化学発光測定に供す。 

B.2 

測定条件 

a) 温度は90 ℃の一定とする。 

b) 雰囲気はアルゴンとし,流量は50 mL/minとする。露光時間は1秒とし,測定時間は150分間とする。 

B.3 

測定結果 

図B.1に示すように,LLDPEを熱プレスしただけの試料(その後,空気中で加熱しないもの)は,90 ℃

のアルゴン中ではほとんど発光を示さない。それに対し,空気中で200 ℃で加熱した試料は発光を示し,

発光強度(ピーク強度,面積強度)は加熱時間の増大とともに増大する。このことから,空気中での加熱

によってLLDPEの酸化が進み,試料内に過酸化物が生成し,その濃度は加熱時間が長いほど高いことが

分かる。 

このように試料の不活性ガス中での化学発光測定によって,試料がそれまでに受けた酸化劣化の程度を

相対比較することが可能である。 

図B.1−熱酸化ポリエチレンの化学発光測定例 

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附属書C 
(参考) 

平衡化学発光強度の測定及び酸化防止能の評価 

C.1 試料準備 

試料準備は,次による。 

a) 所定濃度の酸化防止剤を含むPP試料(ペレット又はシート)を数点準備する。 

b) 試料を,φ20〜30 mmのアルミニウム製試料容器に一定量はかりとる。 

C.2 測定条件 

a) 温度は,150 ℃一定とする。 

b) 雰囲気は,空気又は酸素とし,流量は50 mL/minとする。 

c) 露光時間は,1秒とし,測定時間は2〜8時間とする。 

C.3 測定結果 

高分子材料において,ラジカル捕捉剤として機能する安定剤の酸化防止能を化学発光法によって評価す

る。空気中で加熱時に平衡に達したときの化学発光強度Isは,ラジカル生成速度に比例する。したがって,

Isは安定剤の種類とその濃度の影響を受けることになり,酸化防止能の指標となる。 

図C.1に示すように,酸化防止剤の濃度及び種類によって平衡発光強度に差が生じる。図C.2は,平衡

化学発光強度に及ぼすフェノール系酸化防止剤の濃度依存性を示している。図C.3にはフェノール系酸化

防止剤を配合したポリプロピレン樹脂(PP)のIsと熱老化試験(ギアオーブン寿命:τG.O.)との関係を示

す。 

酸化防止剤濃度 1) PH-1,250 ppm 
 

2) PH-1,1 000 ppm 

3) PH-2,1 000 ppm 

測定温度 

150 ℃ 

雰囲気 

空気中 

酸化防止剤種類 a) PH-1 
 

b) PH-2 

測定温度 

150 ℃ 

雰囲気 

空気中 

図C.1−フェノール系酸化防止剤を含む 

PPの平衡発光強度 

図C.2−PPの平衡発光強度の 

酸化防止剤濃度依存性 

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着色,割れなど外観の変化から判定したτとIsとがよい相関をもっていることが分かる。化学発光法に

よって数時間の測定で得られるIsが,数十〜数百時間で得られる老化試験寿命と対応することになり,こ

の方法によって短時間で劣化度判定が可能であることを示している。 

図C.3−PPの熱老化試験寿命(ギアオーブン寿命τG.O.)と平衡発光強度との関係 

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附属書D 
(参考) 

押出回数が異なる各種プラスチックの酸化劣化度測定 

D.1 試料準備 

試料の準備は,箇条4による。 

D.2 測定条件 

測定方法は,箇条6による。押出成形回数を変更することによって異なる酸化劣化度になるように調製

したポリプロピレン(PP),ポリカーボネート(PC)及びポリアミド6(PA6)の測定条件は6.3.1によっ

て選定し,その例を表D.1に示す。 

表D.1−各種プラスチックの酸化度測定条件(例) 

試料 

試料負荷 

測定パラメータ 

押出温度 

℃ 

測定温度 

℃ 

雰囲気・流量 

mL/min 

露光時間 

測定時間 

min 

備考 

ポリプロピレン(PP) 

300 

150昇温 

N2 50 

10 

30 

押出成形 

ポリカーボネート(PC) 

310 

140昇温 

N2 50 

10 

60 

押出成形 

ポリアミド6(PA6) 

250 

150昇温 

N2 50 

 1 

10 

押出成形 

D.3 測定結果 

PP,PC及びPAの酸化度を測定した例を,それぞれ図D.1〜図D.3に示す。 

図D.1−PPの発光強度実測例 

図D.2−PCの発光強度実測例 

図D.3−PA6の発光強度実測例 

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附属書E 

(参考) 

酸化誘導時間(OIT)の評価 

E.1 

試料準備 

試料準備は,次による。 

a) 市販のPPペレット単体及びそのPPペレットに酸化防止剤を,質量分率0.5及び質量分率1.0で追加

で添加・混練し,PP板(7 mm径×1 mm厚)に射出成形した計3試料を準備する。 

b) 試料を,φ20〜30 mmのアルミニウム製試料容器に一定量はかりとる。 

E.2 

測定条件 

a) 温度は,200 ℃一定とする。 

b) 雰囲気は,酸素とし,流量は50 mL/minとする。 

c) 露光時間は1秒とし,測定時間は7時間とする。 

E.3 

測定結果 

酸化防止剤の添加量が異なるPPペレットの酸化誘導時間の変化を,図E.1に示す。 

図E.1−酸化防止剤の添加量が異なるPPペレットの酸化誘導時間(OIT)の変化(例) 

PP中の安定剤添加量に相関してOITが伸びており,安定剤の酸化抑制効果を確認できる。このように

OITは,試料の酸化のしやすさ,安定剤の効果,又は熱老化による寿命予測の指標として用いることがで

きる。 

なお,OIT評価は数時間から数日規模の評価期間を必要とし,PP又はPEのようなポリオレフィン系の

樹脂以外ではOITそのものが現れない場合もある。 

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附属書F 

(参考) 

酸化誘導時間(OIT)測定による寿命推定 

F.1 

試料準備 

寿命推定の対象となる製品について,寿命推定を行いたい試料と同一条件,同一形状の試料を数点準備

する。 

注記 OIT測定による寿命推定は,酸化反応速度が温度に依存することを利用して,実環境温度より

も高い温度条件で促進劣化させたときのOITから,実時間のOITを予測する手法である。同一

成分で酸化防止剤などの添加物成分が異なる試料について同様の評価を行うことで,添加物の

効果を確認することもできる。 

なお,ここでは実環境温度におけるOITを寿命と定義している。 

F.2 

測定手順 

OIT測定による寿命推定する手順は,次による。 

a) 推定を行いたい試料について,融点などの状態変化を起こさない温度範囲で,数点測定温度T1〜Txを

選択する。 

b) 化学発光測定方法に従い,試料を装置に静置した後,a) で設定した温度T1まで窒素気流中で加熱す

る。温度が設定温度において平衡状態に達した後,流通ガスを酸素に切り替え,化学発光測定を開始

する。このガス切替え時点を,ゼロ時(t0)とする。 

c) 化学発光による酸化反応の様子を記録し,設定温度におけるOITを測定する。測定例を図F.1に示す。 

d) t0からのベースラインを延長し,化学発光曲線の最も急激な勾配を外挿した直線とベースラインの交

点をT1におけるOIT(t1)とする。 

e) 設定温度を変えてT1〜TxにおけるOIT(t1〜tx)を測定する。Txの逆数に対してLn(tx)をプロットし

て求めた近似直線から環境温度におけるOITを推定する(図F.2参照)。図F.2の回帰式によれば,T

=25 ℃のOITは約500日と推定することができる。 

図F.1−PP(酸化防止剤無)のOIT測定結果 

図F.2−温度とOITとの関係 

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附属書G 
(参考) 

プラスチック以外の物質の酸化劣化度測定の参考事例 

G.1 

試料準備 

プラスチック以外の酸化劣化度測定の参考事例として食用調合油,天然ゴム及びビスケットの試料を,

箇条4によって準備する。 

G.2 

測定手順 

測定方法は,箇条6による。それぞれの測定条件は,6.3.1によって選定し,その例を表G.1に示す。 

ビスケットについてはCCDカメラで撮影した。画像データは発光量が大きい順番で白→黒と示される。 

画像データ内の任意の場所を数値化して比較することも可能である。 

表G.1−プラスチック以外の酸化度測定条件(例) 

試料 

検出
素子 

試料負荷 

測定温度 

℃ 

雰囲気・流量 

mL/min 

露光時間 

測定時間 

min 

食用調合油 

(大豆油,菜種油) 

PMT 180 ℃加熱 0〜2時間 

180 ℃等温 

N2 50 

 1 

10 

天然ゴム 

(カーボンブラック入り) 

PMT 100 ℃加熱 0〜240時間 

160 ℃等温 

O2 50 

 1 

30 

ビスケット 

(小麦粉 揚げ菓子) 

CCD 光(254 nm)照射 0〜1時間 100 ℃等温 

N2 50 

60 

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G.3 

測定結果 

食用調合油,天然ゴム及びビスケットの酸化度を測定した例を,それぞれ図G.1〜図G.4に示す。 

図G.1−食用調合油の測定結果 

図G.2−天然ゴムの測定結果 

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図G.3−ビスケットの測定画像図 

(測定開始5分後) 

図G.4−ビスケットの発光輝度結果 

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参考文献 

[1] 今井一洋編,“生物発光と化学発光 基礎と実験”p.110(廣川書店,1989年) 

[2] 平成25年度戦略的基盤技術高度化支援事業 研究開発成果等報告書(平成26年3月)“高感度微少酸

化計測技術を用いた自動車・情報家電向けエンジニアリングプラスチック材の高効率な再生材利用技

術の開発” 

[3] S. Hosoda, H. Kihara, ANTEC, ʼ88, 941 (1988) 

[4] H. Kihara, S. Hosoda, Polymer J., 22, 763 (1990) 

[5] 清水,マテリアルライフ学会誌,Vol.29, No.1, p.6-11 

[6] 東北電子産業株式会社,ホームページ技術資料集 

[7] 山田,ポリファイル,51,602 (2014) 

[8] 山田,佐藤,熊谷,佐藤,今野,推野,守,科学と工業,88, 250 (2014) 

[9] 山田,佐藤,プラスチック成形加工学会誌,27, 518 (2015) 

[10] 豊永,プラスチックエージ,Vol.62, 64 (2016) 

[11] 山田,“ポリプロピレンの構造制御と複合化,成形加工技術”技術情報協会,169 (2016)