K 0605 : 2000
(1)
まえがき
この規格は,工業標準化法第 14 条によって準用する第 12 条第 1 項に規定に基づき,財団法人バイオイ
ンダストリー協会 (JBA) /財団法人日本規格協会 (JSA) から,工業標準原案を具して日本工業規格を改
正すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,通商産業大臣が改正した日本工業規格であ
る。これによって JIS K 0605 : 1992 は改正され,この規格に置き換えられる。
日本工業規格
JIS
K
0605
: 2000
トリプシンの定量方法
Proteins
−Trypsin−Methods for quantitative analysis
1.
適用範囲 この規格は,化学製品又は試薬としてのトリプシンの品質を決定するための定量方法につ
いて規定する。
参考 国際生化学連合 (International Union of Biochemistry) 勧告のトリプシンの酵素番号は,EC
3.4.21.4
である。
2.
引用規格 付表 1 に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構
成する。これらの引用規格は,その最新版(追補を含む。
)を適用する。
3.
定義 この規格で用いる主な用語の定義は,JIS K 0211 及び JIS K 3600 による。
4.
共通事項 化学分析について共通する一般事項は,JIS K 0050 による。ただし,水は,JIS K 0557 の
4.
(種別及び質)の A4 に規定する蒸留水とする。
5.
定量方法の種類 トリプシンの定量方法の種類は,一括定量法の吸光光度法(ローリー法),分別定量
法の高速液体のクロマトグラフ−紫外吸光検出法及び酵素活性法とする。
a)
吸光光度法(ローリー法) たん白質と銅イオンの反応で生じたたん白質銅錯体とたん白質によって
還元されて生じたりんモリブデン青及びりんタングステン青それぞれの吸光度によって定量する。こ
の方法は,100∼1 000mg/
λのたん白質を一括定量することができる。
備考 試料液中に,エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム 2.5mmol/
λ以上,メルカプトエタノ
ール 15mmol/
λ以上,又はドデシル硫酸ナトリウム 0.5mol/λ以上をそれぞれ含むものは定量でき
ない。
b)
高速液体クロマトグラフ−紫外吸光検出法 たん白質を高速液体クロマトグラフ法によって分画し,
220nm
付近の波長を用いて定量する。
この方法は,
含有成分を分子サイズによって分別し,
40
∼200mg/
λ
のトリプシンを定量することができる。
備考 試料液中に,エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム 0.2mol/
λ以上,メルカプトエタノー
ル 50mmol/
λ以上,又はドデシル硫酸ナトリウム 3mmol/λ以上をそれぞれ含むものは定量できな
い。
c)
酵素活性法 定められた温度及び pH 条件のもとで,トリプシンを基質に作用させ,反応生成物の吸
光度を測定することによってトリプシンを定量する。この方法は,2∼20mg/
λのトリプシンを定量す
ることができる。
備考 酵素活性に影響を与える物質を含む場合は,定量できない。
2
K 0605 : 2000
6.
トリプシン溶液 トリプシン溶液は,次による。
6.1
分 析 用 試 料 溶 液 そ れ ぞ れ 定 量 方 法 の 適 用 範 囲 内 に 入 る よ う 試 料 ト リ プ シ ン の 濃 度 を 塩 酸
(1mmol/
λ) で調製する。
6.2
検量線用原液 精製トリプシン(
1
)
を塩酸 (1mmol/
λ) に溶かして,濃度 1.0g/λの溶液を調製する。使
用時に調製する。
注(
1
)
サイズ排除クロマトグラフ法によって純度99.5%以上に精製されたもの。
7.
吸光光度法
7.1
試薬 試薬は,次による。
a)
アルカリ性硫酸銅酒石酸溶液 次に規定する A 液 50 容と B 液 1 容を混合したもの。使用時に調製す
る。
A
液 JIS K 8576 に規定する水酸化ナトリウム 0.43g,JIS K 8625 に規定する炭酸ナトリウム 2.0g
を水に溶かして 100ml としたもの。
B
液 JIS K 8983 に規定する硫酸銅 (II) 五水和物 0.5g を酒石酸カリウム溶液 (10g/
λ) (
2
)
に溶かし,
JIS K 8574
に規定する水酸化カリウムの溶液 (0.5mol/
λ) で pH6.3 に調整して 100ml としたもの。
注(
2
) JIS K 8535
に規定する (+) −酒石酸カリウム−水 (2/1) 1g を水に溶かして100ml としたもの。
JIS K 8540
に規定する (+) −酒石酸ナトリウム二水和物1g を水に溶かして調製したものでも
よい。
b)
フェノール試薬 JIS K 8612 に規定するタングステン (VI) 酸ナトリウム二水和物 100g,JIS K 8906
に規定するモリブデン (VI) 酸ナトリウム 25g を共通すり合わせ丸底フラスコにとり,JIS K 9005 に
規定するりん酸 50ml(約 0.7mol)
,JIS K 8180 に規定する塩酸 100ml(約 1.2mol)及び水 700ml を加
えて,環流冷却下で 10 時間加熱する。これに JIS K 8994 に規定する硫酸リチウム一水和物 150g,水
50ml
及び JIS K 8529 に規定する臭素を数滴加え,15 分間煮沸して過剰の臭素を除き,水を加えて l
λ
としたもの。褐色瓶に保存する。フェノールフタレインを指示薬とし,0.1mol/
λ水酸化ナトリウム溶
液で滴定を行い,酸濃度が 1mol/
λになるように水で調整する(
3
)
。
注(
3
)
約1.9∼2倍の希釈になる。フェノール試薬は,市販品を用いてもよい。
c)
トリプシン溶液 6.による。
7.2
装置及び器具 装置及び器具は,次による。
a)
分光光度計
b)
マイクロピペット JIS K 0970 に規定するもの又はそれと同等以上の性能のものとする。
7.3
操作操作は,次による。
a)
分析用試料溶液 0.1ml を試験管にとり,
アルカリ性硫酸銅酒石酸溶液 2.0ml を加えて 10 分間放置する。
b)
フェノール試薬 0.2ml を加え,よく振り混ぜて室温で 30 分間放置する。
c)
試料を 10mm 吸収セルに移し,波長 750nm でその吸光度を測定する。
d) a)
で分析用試料溶液の代わりに水を用い a)及び b)の操作を行ったものを対照液とする。
e)
f)
によって作成した検量線からトリプシンの量を求める(
4
)
。
注(
4
)
データ処理装置で行う場合は,装置に表示された記録又は指示値による。
備考 操作は,室温で行う。
f)
検量線の作成 検量線原液を用い,0∼1 000mg/
λの範囲で段階的濃度(
5
)
の検量線溶液を調製して,こ
3
K 0605 : 2000
れから 0.1ml をとり,a)及び b)と同様に操作し,トリプシンの量と吸光度との関係線を作成する。
注(
5
) 5
段階程度が一般に用いられる。
7.4
計算 試料中のトリプシンの純度は,次の式によって算出する。
100
10
3
×
×
×
=
m
D
m
A
i
ここに,
A
:
試料中のトリプシンの純度
(%)
m
:
試料の質量
(g)
D
:
試料の希釈倍率
m
i
:
検量線から読み取った質量
(mg)
8.
高速液体クロマトグラフ−紫外吸光検出法
8.1
試薬 試薬は,次による。
a)
溶離液 紫外線吸収,溶離方式などを考慮し,カラムを腐食しないような緩衝液を使用する。
b)
トリプシン溶液 6.による。
8.2
装置及び器具 装置及び器具は,次による。
a)
高速液体クロマトグラフ
1)
検出器 紫外分光光度計
2)
カラム用管 ステンレス鋼製,ガラス製など
3)
カラム充てん剤 サイズ排除クロマトグラフ用多孔性親水性ゲル
b)
マイクロシリンジ 容量
25
µl
又は
50
µl
8.3
操作 操作は,次による。
a)
装置について最適条件を設定する。
次にその一例を示す。
1)
カラム充てん剤 排除限界が分子量
5
×
10
5
程度の多孔性親水性シリカゲル
2)
カラム用管 内径
7.8mm
長さ
30cm
ステンレス鋼製
3)
カラム槽温度 室温
4)
溶離液 JIS K 8986 に規定する硫酸ナトリウム十水和物
48.3g
,JIS K 9009 に規定するりん酸二水素
ナトリウム二水和物
7.8g
を水約
800ml
に溶かし,水酸化ナトリウム溶液
(0.1mol/
λ)
で
pH7.0
に調
整し,水を加えて
1 000ml
とする。
5)
流量
1.0ml/min
6)
試料液量
10
µl
7)
検出波長
220mm
b)
一定量の分析用試料溶液をマイクロシリンジで注入し,クロマトグラムを得る。a)に示した分析条件
例によるクロマトグラムを
図 1 に示す。
4
K 0605 : 2000
図 1 クロマトグラムの一例
c)
クロマトグラムからピーク面積に相当する値を求める。ピーク面積の測定は,JIS K 0124 の 9.3(ピー
ク面積)による。
d)
f)
で作成した検量線からトリプシンの量を求める。
e)
JIS K 0124
の 9.4(絶対検量線法)によって定量する。
f)
検量線原液を用い,
40
∼
200mg/
λ
の範囲で段階的濃度(
5
)
の検量線溶液を調製して,b)及び c)の操作に従
い,トリプシン量とピーク面積との関係線を作成する。
8.4
計算 試料中のトリプシンの純度は,次の式によって算出する。
100
10
3
×
×
×
=
m
D
m
A
i
ここに,
A
:
試料中のトリプシンの純度
(%)
m
:
試料の質量
(g)
D
:
試料の希釈倍率
m
i
:
検量線から読み取った質量
(mg)
9.
酵素活性法
9.1
試薬 試薬は,次による。
a)
りん酸緩衝液 (0.3mol/
λ
,pH8.0)
JIS K 9017 に規定するりん酸水素二カリウム
52g
を水約
800ml
に
溶かし,りん酸
(0.3mol/
λ)
を用いて
pH8.0
に調整した後,水を加えて
1
λ
とする。
b)
基質溶液 N−
α
−ベンゾイル−L−アルギニン−
4
−ニトロアニリド塩酸塩
100mg
を水に溶かして
100ml
としたもの。
c)
塩酸
(1mmol/
λ
)
JIS K 8180 に規定する塩酸
9ml
に水を加えて
100ml
とし,更に
1 000
倍に希釈した
もの。
9.2
装置及び器具 装置及び器具は,次による。
5
K 0605 : 2000
a)
分光光度計
b)
恒温槽
25
±
0.5
℃に保持できるもの。
9.3
操作 操作は,次による。
a)
分析用試料溶液(トリプシン
0.4
∼
4.0mg/
λ
を含む。
)
0.2ml
をとり,りん酸緩衝液
0.3ml
を加える。
b)
基質溶液
2.5ml
を加え,
25
±
0.5
℃に保った恒温槽に
25
分間放置する。
c)
吸収セル
10mm
に移し,トリプシンを含まない試料液を対照として,波長
405nm
でその吸光度を測定
する。
d)
e)
によって作成した検量線からトリプシンの量を求める(
6
)
。
注(
6
)
データ処理装置で行った場合は,装置に表示された記録又は指示値による。
e)
検量線原液を用い,
0
∼
4.0mg/
λ
の範囲で段階的濃度(
5
)
の検量線溶液を調製して,これから
0.2ml
をと
り,a),b),c)の操作に従い,トリプシン量と吸光度との関係線を作成する。
9.4
計算 試料中のトリプシンの純度は,次の式によって算出する。
100
10
3
×
×
×
=
m
D
m
A
i
ここに,
A
:
試料中のトリプシンの純度
(%)
m
:
試料の質量
(g)
D
:
試料の希釈倍率
m
i
:
検量線から読み取った質量
(mg)
10.
定量結果の表示
10.1
表示項目 表示項目は,次による。
a)
試料名及び試料起源
b)
定量方法の種類
c)
定量値
(%)
10.2
定量値の取扱い 同一試料溶液について
2
回行い,その測定値の平均値を求める。
付表 1 引用規格
JIS K 0050
化学分析方法通則
JIS K 0124
高速液体クロマトグラフ分析通則
JIS K 0211
分析化学用語(基礎部門)
JIS K 0557
用水・排水の試験に用いる水
JIS K 0970
プッシュボタン式液体用微量体積計
JIS K 3600
バイオテクノロジー用語
JIS K 8180
塩酸(試薬)
JIS K 8529
臭素(試薬)
JIS K 8535
(
+
)
−酒石酸カリウム−水
(2/1)
(試薬)
JIS K 8540
(
+
)
−酒石酸ナトリウム二水和物(試薬)
JIS K 8574
水酸化カリウム(試薬)
JIS K 8576
水酸化ナトリウム(試薬)
JIS K 8612
タングステン
(VI)
酸ナトリウム二水和物(試薬)
JIS K 8625
炭酸ナトリウム(試薬)
6
K 0605 : 2000
JIS K 8906
モリブデン
(VI)
酸二ナトリウム二水和物(試薬)
JIS K 8983
硫酸銅
(II)
五水和物(試薬)
JIS K 8986
硫酸ナトリウム十水和物(試薬)
JIS K 8994
硫酸リチウム一水和物(試薬)
JIS K 9005
りん酸(試薬)
JIS K 9009
りん酸二水素ナトリウム二水和物(試薬)
JIS K 9017
りん酸水素二カリウム(試薬)
JIS K 0605
(トリプシンの定量方法)改正原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(委員長)
奥 山 典 生
東京都立大学(名誉教授)
(委員)
石 関 忠 一
横浜国立大学(客員教授)
池 本 卯 典
日本獣医畜産大学学長
室 塚 剛 志
日本赤十字社血漿分画センター
鈴 木 正 信
和光純薬工業株式会社品質・環境管理部
田 中 重 則
生化学工業株式会社機能化学品事業部
吉 田 基 子
プロテインテクノスインステイチュート技術部
橋 本 進
財団法人日本規格協会技術部
松 本 保 輔
財団法人化学物質評価研究機構化学標準部
大 歳 明
三光純薬株式会社営業企画二部
立 花 浩 司
シグマアルドリッチジャパン株式会社試薬事業部
田 中 公 和
ナカライテクス株式会社京都工場第二製造部
松 本 一 彦
日本たばこ産業株式会社安全性研究所
(関係者)
川 端 尚 志
通商産業省生物化学産業課
(事務局)
奥 泉 仁 一
財団法人バイオインダストリー協会
青 木 由 佳
財団法人バイオインダストリー協会
大 内 史 子
財団法人バイオインダストリー協会
(文責 立花 浩司)