日本工業規格
JIS
K
0601
-1995
工業用リパーゼの活性度測定方法
Determination of lipolytic activity of lipase for industrial use
1.
適用範囲 この規格は,工業用リパーゼ(以下,リパーゼという。)の油脂加水分解活性度の測定方法
について規定する。
備考1. この規格の引用規格を,次に示す。
JIS K 0050
化学分析方法通則
JIS K 0211
分析化学用語(基礎部門)
JIS K 8005
容量分析用標準物質
JIS K 8034
アセトン(試薬)
JIS K 8101
エタノール (99.5) (試薬)
JIS K 8102
エタノール (95) (試薬)
JIS K 8180
塩酸(試薬)
JIS K 8576
水酸化ナトリウム(試薬)
JIS K 8799
フェノールフタレイン(試薬)
JIS K 8842
ブロモチモールブルー(試薬)
JIS K 8896
メチルレッド(試薬)
JIS K 9007
りん酸二水素カリウム(試薬)
JIS K 9020
りん酸水素二ナトリウム(試薬)
2.
この規格の中で{ }を付けて示してある単位及び数値は,従来単位によるものであって,
参考として併記したものである。
2.
共通事項 化学分析について共通する一般事項は,JIS K 0050 による。
3.
用語の意味 この規格で用いる主な用語の意味は,JIS K 0211 によるほか,次のとおりとする。
(1)
酵素単位 (unit) 定められた条件下で,1 分間に 1
µmol の脂肪酸を生成する酵素量。
(2)
加水分解活性度(unit/g 又は unit/ml) 1g 又は 1ml の試料が有する酵素単位。
(3)
基質 (substrate) 酵素の作用を受ける物質。
4.
測定方法の種類 リパーゼの加水分解活性度の測定方法は,乳化剤無添加法(A 法)及び乳化剤添加
法(B 法)とする。
(1)
乳化剤無添加法(A 法) 定められた条件のもとで,乳化剤を加えることなくかき混ぜながら基質に
試料リパーゼを作用させ,生成する遊離脂肪酸を定量することによって,試料リパーゼの加水分解活
性度を測定する方法である。
2
K 0601-1995
(2)
乳化剤添加法(B 法) 定められた条件のもとで,乳化した基質に試料リパーゼをかき混ぜないで作
用させ,生成する遊離脂肪酸を定量することによって,試料リパーゼの加水分解活性度を測定する方
法である。
5.
測定用試料の調製
5.1
試薬 試薬は,次のとおりとする。
0.1mol/l
りん酸塩緩衝液 JIS K 9020 に規定するもの(
1
)14.196g
を水に溶かして 1l としたもの(A 液)と,
JIS K 9007
に規定するもの(
2
)13.069g
を水に溶かして 1l としたもの(B 液)とを
表 1 に従い所定の pH にな
るように混合したもの。
注(
1
) 110
℃で3時間乾燥したものを用いる。
(
2
) 110
℃で 1 時間乾燥したものを用いる。
表 1 0.1mol/l りん酸塩緩衝液の組成及び pH 値
A
液 (ml)
B
液 (ml)
pH
値 (25℃)
0 10 4.52
0.25 9.75
5.28
0.5 9.5
5.56
1.0 9.0
5.88
2.0 8.0
6.22
3.0 7.0
6.45
4.0 6.0
6.63
5.0 5.0
6.80
6.0 4.0
6.97
7.0 3.0
7.15
8.0 2.0
7.38
9.0 1.0
7.73
9.5 0.5
8.06
10 0
9.20
5.2
調製方法 調製方法は,次のとおりとする。
(1)
試料を正しくはかり,リパーゼの至適反応 pH に近い 0.1mol/l りん酸塩緩衝液に溶かし(
3
)
,全量フラ
スコに移し入れ,定量とし,試料溶液とする。
(2)
試料溶液が濃厚な場合は 0.1mol/l りん酸塩緩衝液で薄める。
注(
3
)
必要に応じて15℃以下の温度で溶かす。
6.
乳化剤無添加法による測定方法(A 法)
6.1
試薬
(1) 0.1mol/l
りん酸塩緩衝液 5.1 と同じ。
(2)
オリーブ油 日本薬局方に規定するもの(
4
)
。
(3)
トリオレイン 含量が 99%以上のもの(
5
)
。
(4)
アセトン・エタノール混合液 JIS K 8034 に規定するもの 1 容と JIS K 8101 に規定するもの 1 容とを
混合したもの。
(5)
フェノールフタレイン溶液 JIS K 8799 に規定する 1.0g を JIS K 8102 に規定するもの 90ml に溶かし,
水を加えて 100ml としたもの。
(6) 0.05mol/l
水酸化ナトリウム溶液 0.05mol/l 水酸化ナトリウム溶液の調製及び標定は,次のとおりとす
3
K 0601-1995
る。
(a)
調製 JIS K 8576 に規定するもの 2.0g を新たに煮沸し冷却した水に溶かして 1l とする(
6
)
。
(b)
標定 JIS K 8005 に規定するアミド硫酸を過塩素酸マグネシウムを入れたデシケーター中で約 48
時間乾燥した後,その 2.4∼2.5g を 0.1mg のけたまではかり採り,水に溶かし,全量フラスコ 500ml
に入れ,水を標線まで加える。
この溶液 25ml を全量ピペットを用いて三角フラスコ 200ml にとり,指示薬としてブロモチモー
ルブルー溶液(
7
)3
滴を加えた後,0.05mol/l 水酸化ナトリウム溶液で滴定する。液の色が黄から青
(pH6.0
∼7.6) に変わり,青色が 30 秒間持続する点を終点とする。
次の式によってファクター (f) を計算する。
855
004
.
0
1
500
25
100
×
×
×
×
x
b
a
f
=
ここに,
a
:
アミド硫酸の採取量 (g)
b
:
アミド硫酸の含量 (%)
x
:
滴定に要した 0.05mol/l 水酸化ナトリウム溶液 (ml)
0.004 855
:
0.05mol/l
水酸化ナトリウム溶液 1ml に相当するアミド硫
酸の量 (g)
注(
4
)
オリーブ油はロットによって構成脂肪酸及びその他の成分が変動するので,ロットが変わると
きは,前ロットと同じ酵素活性を示すものを選ぶ。
(
5
)
経時変化による純度の低下を来す場合があるので,使用時に精製して用いる。
(
6
)
密栓したポリエチレン瓶又は二酸化炭素吸収管を付けたポリエチレン瓶に保存する。
(
7
)
ブロモチモールブルー溶液
JIS K 8842
に規定するブロモチモールブルー0.10g を
JIS K 8102
に規定するエタノール (95) 50ml に溶かし,水を加えて 100ml としたもの。
6.2
器具
器具は,次のとおりとする。
(1)
シリンジ
容量が 2ml で,最小目盛が 0.1ml 以下のもの。
(2)
反応容器
反応容器を
図 1
に示す。
(3)
反応装置
マグネチックスターラーの回転数を表示できるもので反応容器を複数個並列に装着できる
もの。
図 2
に示す。
4
K 0601-1995
図 1 反応容器(一例)
図 2 反応装置(一例)
6.3
操作
操作は,次のとおりとする。
(1)
反応容器にオリーブ油 1.5ml 又はトリオレイン 1.5ml をシリンジを用いてとり,リパーゼの至適反応
pH
に近い 0.1mol/l りん酸塩緩衝液 4.0ml 及び水 3.5ml を加える。
5
K 0601-1995
(2)
これを 37
(
8
)
±0.1℃の反応装置に入れ,マグネチックスターラーで 500min
−
1
{500rpm}
でかき混ぜな
がら 10 分間保った後試料溶液 1.0ml を加えて更に 20 分間保つ。
(3)
アセトンエタノール混合液 20.0ml を加える。
(4)
フェノールフタレイン溶液 1∼2 滴を加え,窒素ガスを吹き込みながら,0.05mol/l 水酸化ナトリウム
溶液で滴定する。液の色がうすい紅色になり 30 秒間持続する点を終点とする。
(5)
空試験として試料溶液に代えてリパーゼの至適反応 pH に近い 0.1mol/l りん酸塩緩衝液 1.0ml をとり,
(1)
∼
(4)
の操作を行う。
注(
8
)
リパーゼの至適温度がこの温度から大きく外れる場合は,製造者が指示する温度とする。
6.4
計算
試料の加水分解活性度(unit/g 又は unit/ml)は,次の式によって算出する。
(
)
S
V
f
b
a
A
×
×
×
×
20
1
50
−
=
ここに,
A
: 加水分解活性度(unit/g 又は unit/ml)
a
: 試料溶液の滴定に要した 0.05mol/l 水酸化ナトリウム溶液
(ml)
b
: 空試験に要した 0.05mol/l 水酸化ナトリウム溶液 (ml)
f
: 0.05mol/l 水酸化ナトリウム溶液のファクター
S
: 試料の量(g 又は ml)
V
: 調製した試料溶液の全量 (ml)
50
: 0.05mol/l 水酸化ナトリウム溶液 1ml に相当する脂肪酸の量
(
µmol)
20
: 反応時間 (min)
7.
乳化剤添加法による測定方法(B 法)
7.1
試薬 試薬は,次のとおりとする。
(1)
0.1mol/l
りん酸塩緩衝液 5.1 と同じ。
(2)
オリーブ油 6.1(2)と同じ。
(3)
ポリビニルアルコール溶液 ポリビニルアルコール(平均分子量 80 000,けん化度 98.5±0.5)18.5g
及びポリビニルアルコール(平均分子量 27 000,けん化度 88.0±1.5)1.5g を約 850ml の水に加えてか
き混ぜながら 70∼80℃に 1 時間保った後,放冷し,必要に応じてろ過し,水を加えて 1 000ml とした
もの。
(4)
アセトンエタノール混合液 6.1(4)と同じ。
(5)
フェノールフタレイン溶液 6.1(5)と同じ。
(6)
0.05mol/l
水酸化ナトリウム溶液 JIS K 8576 に規定する水酸化ナトリウム 2.0g を新たに煮沸し冷却し
た水に溶かして 1 000ml としたもの(
9
)
。
(7)
0.05mol/l
塩酸 0.05mol 塩酸の調製及び標定は,次のとおりとする。
(a)
調製 JIS K 8180 に規定する塩酸 4.5ml に水を加えて 1 000ml とする。
(b)
標定 JIS K 8005 に規定する炭酸ナトリウムをあらかじめ 500∼650℃で 40∼50 分間加熱し,デシ
ケーター中で放冷した後,その 2.5∼2.6g を 0.1mg のけたまではかりとり,水に溶かして全量フラ
スコ 1 000ml に入れ,水を標線まで加える。
この溶液 25ml を全量ピペットを用いて三角フラスコ 200ml にとり,指示薬としてメチルレッド
溶液(
10
)
3
滴を加えた後 0.05mol/l 塩酸で滴定する。液の色が黄から赤味の濃いだいだい赤 (pH4.6∼
4.8)
に変わったとき,緩やかに振り動かしながら 2∼3 分間弱く煮沸し二酸化炭素を除く。冷却後,
6
K 0601-1995
だいだい色からだいだい赤色を呈するまで滴定を続ける。
次の式によってファクター (f) を計算する。
650
002
.
0
1
000
1
25
100
×
×
×
×
x
b
a
f
=
ここに,
a
:
炭酸ナトリウムの採取量 (g)
b
:
炭酸ナトリウムの含量 (%)
x
:
滴定に要した 0.05mol/l 塩酸 (ml)
0.002 650
:
0.05mol/l
塩酸 1ml に相当する炭酸ナトリウムの量 (g)
注(
9
)
密栓したポリエチレン瓶又は二酸化炭素吸収管を付けたポリエチレン瓶に保存する。
(
10
)
メチルレッド溶液 JIS K 8896 に規定するメチルレッド 0.1g をエタノール (95) 100ml に溶かし
たもの。
7.2
器具 器具は,次のとおりとする。
(1)
乳化容器 内容積 500ml のもの。
(2)
乳化ホモジナイザー 回転数を表示できるもの。
(3)
恒温水槽
7.3
操作 操作は,次のとおりとする。
(1)
乳化容器にポリビニルアルコール溶液 225ml をとり,オリーブ油 68.7g を加え,5∼10℃に冷却しなが
ら乳化ホモジナイザーで回転数 12 000∼16 000min
−
1
{12 000
∼16 000rpm} で 5 分間かき混ぜ,5 分間
休止し,再び 5 分間かき混ぜる。5∼10℃に 1 時間放置し,基質乳化液とする(
11
)
。
(2)
反応容器に基質乳化液 5.0ml をとり,リパーゼの至適反応 pH に近い 0.1mol/l りん酸塩緩衝液 4.0ml を
加える。
(3)
これを 37(
8
)
±0.1℃の恒温水槽に入れ,約 5 分間保った後,試料溶液 1.0ml を加え,直ちに振り混ぜる。
これを 20 分間静置して保温する。
(4)
アセトンエタノール混合液 10ml を加える。
(5)
0.05mol/l
水酸化ナトリウム溶液 10ml,アセトン・エタノール混合液 10ml 及びフェノールフタレイン
溶液 1∼2 滴を加え,窒素ガスを吹き込みながら,0.05mol/l 塩酸で逆滴定し,液の色の紅色が消える
点を終点とする。
(6)
空試験として試料溶液に代えてリパーゼの至適反応 pH に近い 0.1mol/l りん酸塩緩衝液 1.0ml をとり(1)
∼(5)の操作を行う。
注(
11
)
この基質乳化液は,調製後2日以上経過したものを使用してはならない。
7.4
計算 試料の加水分解活性度(unit/g 又は unit/ml)は,次の式によって算出する。
(
)
S
V
f
a
b
A
×
×
×
×
20
1
50
−
=
ここに,
A
: 加水分解活性度(unit/g 又は unit/ml)
a
: 試料溶液の滴定に要した 0.05mol/l 塩酸 (ml)
b
: 空試験に要した 0.05mol/l 塩酸 (ml)
f
: 0.05mol/l 塩酸のファクター
S
: 試料の量(g 又は ml)
V
: 調製した試料溶液の全量 (ml)
50
: 0.05mol/l 塩酸 1ml に相当する脂肪酸の量 (
µmol)
20
: 反応時間 (min)
7
K 0601-1995
8.
測定結果の表示
8.1
表示項目 表示項目は,次のとおりとする。
(1)
試料名及び試料給源
(2)
測定方法,pH,温度及び基質名
(3)
加水分解活性度(unit/g 又は unit/ml)
8.2
測定値の取扱い 同一試料溶液 3 個について繰返し測定を行い,これら測定値の平均値を有効数字 2
けたに丸める。
化学分析部会 バイオテクノロジー専門委員会 構成表(昭和 63 年 3 月 1 日制定のとき)
氏名
所属
(委員会長)
鈴 木 周 一
埼玉工業大学
太 田 隆 久
東京大学
遠 藤 勲
理化学研究所
川 瀬 晃
工業技術院化学技術研究所
山 内 愛 造
工業技術院繊維高分子材料研究所
前 田 英 勝
工業技術院微生物工業技術研究所
岡 林 哲 夫
通商産業省基礎産業局
阿 部 英 郎
東洋エンジニアリング株式会社
冨 田 房 男
協和発酵工業株式会社
三 木 敬三郎
東亜燃料工業株式会社
池 永 裕
キリンビール株式会社
安 田 武 夫
ライフエンジニアリング株式会社
西 野 賢 貴
東レ株式会社
坂 田 衞
株式会社島津製作所
島 田 光太郎
合同酒精株式会社
仲 恭 寛
天野製薬株式会社
古 川 敬一郎
宝酒造株式会社
倉 林 肇
住友ベークライト株式会社
大 熊 道 雄
株式会社日立製作所
吉 崎 健 一
財団法人バイオインダストリー協会
桜 井 俊 彦
工業技術院標準部
(事務局)
和 田 靖 也
工業技術院標準部標準課
浦 野 四 郎
工業技術院標準部繊維化学規格課
飯 嶋 啓 子
工業技術院標準部繊維化学規格課
(事務局)
阪 本 公 昭
工業技術院標準部繊維化学規格課(平成 7 年 7 月 1 日改正の
とき)
小 川 和 雄
工業技術院標準部繊維化学規格課(平成 7 年 7 月 1 日改正の
とき)