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K 0155:2018  

(1) 

目 次 

ページ 

序文 ··································································································································· 1 

1 適用範囲························································································································· 2 

2 記号及び略語 ··················································································································· 2 

2.1 略語 ···························································································································· 3 

2.2 記号 ···························································································································· 3 

3 方法の概要 ······················································································································ 4 

4 強度の線形性を評価するための手順 ····················································································· 6 

4.1 標準試料の入手 ············································································································· 6 

4.2 試料の取付け準備 ·········································································································· 6 

4.3 試料の取付け ················································································································ 6 

4.4 装置操作 ······················································································································ 6 

4.5 データの取得 ················································································································ 9 

4.6 線形性の確認 ··············································································································· 12 

5 測定を繰り返す間隔 ········································································································· 18 

附属書A(規定)ラスターサイズ,イオンビーム電流値,分析するフレーム数及びカウント数の計算 ·· 19 

附属書B(参考)帯電中和の設定 ··························································································· 21 

附属書C(参考)イオン検出器の設定 ····················································································· 23 

附属書D(参考)直線性に影響を及ぼす装置因子 ······································································ 25 

参考文献 ···························································································································· 27 

附属書JA(参考)JISと対応国際規格との対比表 ······································································ 28 

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(2) 

まえがき 

この規格は,工業標準化法第12条第1項の規定に基づき,表面化学分析技術国際標準化委員会(JSCA)

及び一般財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規格を制定すべきとの申出

があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日本工業規格である。 

この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。 

この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意

を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実

用新案権に関わる確認について,責任はもたない。 

日本工業規格          JIS 

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表面化学分析−二次イオン質量分析法− 

単一イオン計数飛行時間形質量分析器における 

強度軸の線形性 

Surface chemical analysis-Secondary ion mass spectrometry- 

Linearity of intensity scale in single ion counting time-flight mass analysers 

序文 

この規格は,2013年に第1版として発行されたISO 17862を基とし,技術的内容を変更して作成した日

本工業規格である。 

なお,この規格で点線の下線を施してある箇所は,対応国際規格を変更している事項である。変更の一

覧表にその説明を付けて,附属書JAに示す。 

二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた材料の定量分析では,スペクトル強度を測定する。装置の強度

軸には非線形性が存在するため,この非線形性を補正しない限り,表面分析及び深さ方向分析によって求

められた物質の相対量は,強度軸の非線形に由来する誤差を伴う。一般的には,極低計数率,又はより正

確には,パルス当たりのカウントが低い場合には,強度軸は線形であるが,計数率が高くなるのに伴って

非線形性が増加する。強度の測定は,測定対象である強度に比例するように強度信号を出力する測定シス

テムに依存する。計数システムでは,この比例係数は1であることが求められる。この比例係数が信号強

度又は計数率によって変化する場合,計測システムは非線形であるという。1 %未満の非線形性が重要で

あると考えられることはあまりない。低計数率が最大許容計数率の5 %を超える程度においてさえ,強度

軸の非線形性が1 %を超えることもある[1]。多くの装置において検出システムが正しく設定されていれば,

非線形性の振る舞いが月ごとに大きく変わることはない。このような装置では適切な関係式を用いて計数

率を補正でき,補正された強度が線形性を示す最大の計数率を大幅に拡張することができる。この強度軸

に対する補正は,装置のデータ取得又はデータ処理に用いるコンピュータに既に導入されている場合もあ

れば,そうでない場合もある。この規格では,時間デジタル変換器へ接続されたマイクロチャンネルプレ

ート(MCP),又はシンチレータと光電子増倍管とで構成される検出器で二次イオンを検出するシステム

において起きる強度の数え落としに対する簡易な線形性の試験方法について規定している。この試験方法

が適切な装置に対して妥当である場合は,補正することで線形性をもつ強度軸の範囲を最大で50倍以上に

まで拡張できる。装置の中には,非線形性を予測できない,又は単純な関係で記載できないものがある。

このような装置に関しては,この規格を適用することで,測定時の非線形性の程度,及び線形性から外れ

る設定許容限界に達する最大計数率を求めることができる。場合によっては,装置の設定を調整すること

で状態が改善され,必要な補正を適用できることがある。ユーザーは,線形性からのかい(乖)離量の管

理基準を,補正を適用する分析に対して適切となるよう設定する。 

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TOF-SIMS装置における非線形性の原因は多いが,最も顕著なものは検出システムの有効不感時間によ

る強度の飽和である。これは,実際に検出器に到達する二次イオン数に関わらず,不感時間τの間に検出

できる二次イオン数が一次イオンパルス当たり一つであることに由来する。非線形性は,スペクトルに含

まれる不要なバックグラウンドによっても大きくなる。 

この規格では,比較的理想系に近い場合に対する不感時間由来の非線形性の補正法について規定してお

り,全ての場合に適用できるわけではない。しかしながら,ダイナミックレンジ又は稼働率を著しく向上

できることは非常に重要である。最適な装置の状態を実現するように装置を最適化するとともに,例えば,

検出効率の低下,又は単一イオン検出ができないような検出器の不良である単純な装置の故障診断方法も

提案している。また,分析者が設定した制限内で,カウント数の測定値を補正するための不感時間に対す

るポアソン分布を仮定した補正法についても規定する。この手法では,補正を行う前後いずれかのパルス

当たりの計測カウントcMの上限値を決める。この上限値は,強度が時間変化せず空間分布も一定であり,

TOFスペクトルにおいて不感時間内にピークが一つしか存在せず,バックグラウンド強度が無視できるピ

ークに対して,一般に適用できる。この点に関する検証及び説明については参考文献[1]において詳細に示

されている。この規格では,ピーク強度を求めるためにピーク中央から±不感時間という広い範囲で積分

を行い,理想的な系を仮定して式(1)を基本とする補正を行い線形性が保証されるcMの上限値を求める。

現実の系ではこのような広い範囲の積分が実用的でない場合もあり,そのよう場合のcMは理想的な系に比

べて低くなる。このような場合には,不感時間に対するより高度な補正手順を考えることが望ましく,そ

の場合,新たに考えられた手順の有効性をこの規格で採用した方法論を用いて検証できる。 

この規格は,新しい質量分析器の特性を把握して適切な強度範囲で使用するために用いることが望まし

い。また,この規格に規定された手順は,検出系の回路に大きな改良が加えられたとき,MCPの交換後又

はおよそ6か月ごとに繰り返すことが望ましい。 

適用範囲 

この規格は,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に対するスペクトルから求めた同位体比を用いた試

験によって,単一イオン計数飛行時間形質量分析器における強度軸の線形性からのずれを許容限界内に抑

えるために最大計数率を決定する方法について規定する。また,時間デジタル変換器(TDC)に接続され

たマイクロチャンネルプレート(MCP),又はシンチレータ若しくは光電子増倍管で構成される検出系に

おいて,二次イオンが不感時間内に検出器へ到達することで起きる強度の数え落としに起因する強度軸の

非線形性の補正方法について規定する。この補正によって95 %の線形性が保たれる強度範囲が50倍以上

に拡張できる可能性がある。補正によって線形性の拡張を確認した質量分析器は,更に高い最大計数率ま

で用いることができる。また,この規格は,不感時間に対する補正が既に行われている装置に対して,計

数率を更に高く設定できるかどうか検証する場合にも用いることができる。 

注記 この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。 

ISO 17862:2013,Surface chemical analysis−Secondary ion mass spectrometry−Linearity of intensity 

scale in single ion counting time-of-flight mass analysers(MOD) 

なお,対応の程度を表す記号“MOD”は,ISO/IEC Guide 21-1に基づき,“修正している”

ことを示す。 

記号及び略語 

この規格で用いる主な記号及び略号は,次による。 

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2.1 

略語 

MCP 

マイクロチャンネルプレート 

PTFE 

ポリテトラフルオロエチレン 

SIMS 

二次イオン質量分析法 

TDC 

時間デジタル変換器 

TOF 

飛行時間 

2.2 

記号 

cM 

パルス当たりの計測カウント値 

cP 

パルス当たりの補正されたカウント値 

FM 

FM(i,j)の略語 

FM(i,j) 

表1に示すi番目の12CxFy+と13C12Cx−1Fy+二次イオンとの測定強度比 

FP 

FP(i,j)の略語 

FP(i,j) 

表1に示す補正されたi番目の12CxFy+と13C12Cx−1Fy+二次イオンとの測定強度の比 

表1に示す同位体イオン対のインデックス番号 

imax 

飽和した測定での最も高い一次イオン電流値 

IM 

指定したSIMSピークの二次イオンの積算測定強度  

IM(x) 

SIMSフラグメントxの二次イオンの積算測定強度 

IP 

指定したSIMSピークの補正された二次イオンの積算測定強度  

IP(x) 

SIMSフラグメントxの補正された二次イオン積算強度 

測定したスペクトルのインデックス番号  

異なる一次イオン電流設定のためのインデックス番号  

LP 

LP(i,j)の略語 

LP(i,j) 

α(i)とβ(i)との積に対するFP(i,j)の比 

LM 

LM(i,j)の略語 

LM(i,j) 

α(i)とβ(i)との積に対するFM(i,j)の比 

T

M

1パルス当たりの測定強度と補正強度との理論的比 

各SIMSの二次イオン強度を測定するために使用するラスターフレーム数 

各SIMSスペクトルを測定するために用いる一次パルスの総数 

各SIMSの二次イオン強度を測定するために用いるラスターの一辺の長さ(正方形を想定) 

VE 

リフレクトロン形質量分析器に取り込むエネルギー(eV) 

VR 

試料電位を基準とするリフレクトロン形質量分析器の反射電圧 

VT 

試料電位を基準としたリフレクトロン形質量分析器の反射電圧で二次イオン強度が最大強度の

半分になるときの値 

α(i) 

表1に示すi番目の12CxFy+と13C12Cx−1Fy+二次イオンピークとで想定される同位体比 

β(i) 

LMをに対して最小自乗フィッティングするときに測定ピークのα(i)を補正するための係数 

τ 

検出システムの不感時間 

PTFE二次イオンに含まれる13C又は12C原子の数 

PTFE二次イオンに含まれるF原子の数 

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方法の概要 

方法の概要を,図1にフローチャートとして示す。この方法では,4.1〜4.3で示すように清浄化及び前

処理を一切行わないそのままの状態のPTFEテープに対して二次イオンスペクトルを測定する。分析条件

は,パルス当たりの二次イオン強度が,検出器のイオン計数が線形性及び非線形性を示す範囲になるよう

に,4.4で規定する手順で分析者が設定する。一次イオンビーム電流の範囲を正しく設定するために,PTFE

試料に対して16本のテストスペクトルを測定して決定する。次に非線形性を補正するために,PTFE試料

に対して16本のデータスペクトルを測定する。イオンビーム,質量分析器,帯電補正及びイオン検出シス

テムの設定条件について,線形性が得られる最適な装置動作条件であることを確認するための事項を4.5.2

〜4.5.5に示す。 

なお,PTFEはバルクの絶縁体であるため,帯電中和が必要である。 

質量分析器は,性能が最も安定する条件下で動作させることが望ましい。分析者はJIS K 0153に従って

装置の安定性を確認することが望ましい。この規格で示している手順はJIS K 0153に準拠している。 

データ取得については4.5に示し,測定するピークの詳細を表1に示す。得られた強度に対して予想さ

れる挙動については,4.6に関連する式とともに示す。補正を行っていない生データ,又は装置付随のデー

タ処理用コンピュータによって補正された後のデータの線形性が十分な場合は,この規格の適用は不要で

ある。線形性が不十分で,かつ,装置の挙動が想定どおりの場合は,4.6.5に示す手順に従って補正を行う。

この補正によって,線形性が保たれる範囲を50倍以上に拡張できる。その後,装置の変化又は経時変化に

よってこの規格に規定されている手順の実施が必要となるまで再実施する必要はない。線形性が不十分で

装置が想定どおりの挙動を示さない場合には,その問題の改善方法を附属書に示した。附属書に示した方

法を用いることで,使用中の装置で実現できる程度内で線形性を保つ範囲を拡張することができる。ただ

し,理想的な装置に対して予想される範囲まで拡張できない場合もある。 

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注記 番号は,参照する関連の箇条 

図1−この規格のフローチャート 

 cMの最大値は十分か?

 4.6.5 強度補正及び確認

 直線性は十分か?

 4.6.5.1 強度の補正

附属書D 直線性に影
響する因子 

 開始

 4.1 標準試料の入手 

 4.2 試料の取付け準備

はい

いいえ

 4.3 試料の取付け

はい

 4.4 装置操作

いいえ

 4.4.2 イオンビームの設定

 4.4.3 質量分析計の設定 

 4.4.4 帯電中和の設定

 4.4.5 イオン検出器の設定

 4.5 データの取得

 4.6.4 強度補正のある場合,ない場合での線形性領域の評価

 箇条5 測定を繰り返す間隔 

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強度の線形性を評価するための手順 

4.1 

標準試料の入手 

スタティックSIMSの分析計の校正には,屋内配管のシールに使われるPTFEテープの新しい一巻を用

いる。この一巻に識別のための印を付け,標準試料として保管する。 

注記 PTFEは長さ12 m,幅12 mm,厚さ約0.075 mmのテープ一巻として,屋内配管用として販売さ

れている。 

4.2 試料の取付け準備 

試料は,接着防止の粉を使用していないポリエチレン製手袋をし,コーティングされていない洗浄され

たステンレス製のピンセットで取り扱う。クリーンルームで使用されるビニル手袋は,成形時の離型剤が

表面を覆っているため使用してはならない。離型剤は,非常に可動的で,瞬時に試料を汚染する。この影

響で,測定の繰返し性が低下し,質の低下したデータとなる。 

注記 この規格は,12Cと13Cとの天然同位体の強度比を用いて線形性を決定する。同位体比法を成功

させるためには,同位体ピークと干渉するバックグラウンドがない状態で測定することが重要

である。ほとんどのTOF-SIMS装置は,13Cのフラグメント及び12CHの妨害ピークを完全に分

離するのに十分な質量分解能をもっていないため,炭化水素汚染が最小限に抑えられるように,

標準物質は水素を含まず,低い表面エネルギーであることが重要である。PTFEは,これらの

重要な特性をもち,かつ,簡便に入手し使用できる。 

手袋を選ぶときは,タルク,シリコーン化合物又は類似の汚染物質を避けるよう注意する必要がある。

“パウダーフリー”手袋は,タルクを含んでいない。コーティングされたステンレス又はステンレス製以

外のピンセットは不要な汚染を引き起こす可能性がある。 

4.3 

試料の取付け 

4.3.1 

試料の取扱時には,手袋をしてピンセットを持ち,手袋で直接試料を触ってはならない。試料を扱

うために使用する拭取り材は,試料表面を不要に汚染する可能性があるため使用してはならない。試料と

手袋との不必要な接触は避ける。試料を固定するために使用する試料ホルダー,その他の器具は,試料間

の相互汚染の可能性がある場合は定期的に洗浄しなければならない。シリコーン及び他の可動性成分を含

むテープの使用は避ける[3]。 

4.3.2 

4.1に示すPTFEテープから最初の20 cmを取り除いて廃棄し,その次の部分から清浄なはさみで

適度な大きさの試料を切り取る。一巻の最初の部分を取り除くことでPTFEの清浄な表面を露出させ,分

析に用いる。試料を洗浄してはならない。試料を表面が平たん(坦)になるよう,洗浄したねじ,マスク

などを利用して試料ホルダーに固定する。試料の固定に粘着テープは使用しない。試料の裏面は,試料ホ

ルダーと導通をもった導電性の面に確実に密着させる。PTFEを試料ホルダーの穴の上に置いてはならな

い。 

注記1 一般的な試料ホルダーは,様々な径の穴のあいた金属板及び金属グリッドをもつ。激しいチ

ャージアップが生じる試料では,金属グリッドが有効な場合がある。 

注記2 試料の下に穴があると,飛行時間形,磁場セクター形などの高い引出し電場を使用する装置

では,質量分解能及び繰返し性が悪くなる。箇条5で規定する繰返し評価の際には,清浄な

試料面が必要であり,一貫性を確保するために,試料を同じ一巻から採取する必要がある。 

4.4 

装置操作 

4.4.1 

一般 

装置は,装置の製造業者の取扱説明書又はその他文書化された手順に従って操作しなければならない。

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装置は,ベーキング後に十分に冷却されていなければならない。測定は,イオンビーム電流,計数率,分

析計の走査速度,その他装置の製造業者によって指定されたパラメータが装置の製造業者の推奨の範囲と

なる条件で行う。検出器の増倍管の設定が正しく調整されていることを確認する(4.4.5参照)。装置によ

っては計数率の非線形性の問題の対処として,計数率を一定の上限値以下に収めるように警告表示する。

これによって計数率を,一例として0.1カウント/パルス以下など,低い値に制限することができる。こ

の規格によって,高ダイナミックレンジが可能となり,かなり高い計数率まで非線形性を修正することが

できる。また,短い分析時間における信頼性の高い測定が可能となる。この場合は上記の警告表示を無視

することとなる。警告を無視する場合は,装置に関する取扱書又は装置の製造業者への確認によって安全

性を確保する。 

4.4.2 

イオンビームの設定 

4.4.2.1 

この規格において,一次イオン電流によって,線形領域から非線形領域まで,一次イオンパルス

当たりの二次イオン強度が変わる。12Cと13Cとの同位体比を用いた確認を行うために,イオンビーム電流

の計測は必要ない。複数のイオン源が利用可能であれば,PTFEにおける12CF3+ピークが最も高強度とな

るものを用いる。4.5.4で詳細に規定するように,ビーム電流が二次イオン強度及び検出器飽和の程度につ

いて広範囲の値となるように調整できれば,一次イオンは原子イオンでもクラスターイオンでもよい。 

4.4.2.2 分析試料上で,電流値が4.4.2.1の範囲の値になるように一次イオンビームの設定を行う場合には,

次の状況を満たすことが重要である。 

a) パルス幅及びピーク形状が,電流値に依存しない。 

b) ピーク幅が,検出器の不感時間(4.5.10にて決定し,通常 50 nsとする。)より十分に狭い。 

c) 表1から選択したCxFyピークが,質量干渉の影響を受けない。 

一次イオン電流は,偏向電圧を変えて,イオン銃の内部アパーチャーをイオンビームが断続的に通過さ

せることによって,容易に調整できる。他の方法では,パルスタイミング又は質量校正に変化を引き起こ

すことがある。 

4.4.2.3 

イオンビームは,可能な限り質量分析計のアクセプタンス領域の中心を向くようにする。これを

行うためには,質量分析計の全ての項目について位置合わせを行う。その後,質量分析計のアクセプタン

ス領域全体をイメージングするためにイオンビームの照射範囲を広げ,質量分析計のアクセプタンス領域

をイメージング領域の中心に合わせる。場合によっては,アクセプタンス領域全体に対して最大視野を十

分に大きくできないことがある。ソフトウェアによって制限されている場合は,ラスターエリアがより大

きくなるように倍率校正係数を変えた状態で中心合わせを行った後,倍率校正を適切な条件に戻すことで,

実施できることがある。 

4.4.2.4 

最大イオンドーズ量の推奨値は,1×1016個/m2である。典型的なイオンビームラスターエリアは

200 μm×200 μmであるが,ラスター一辺の長さをRとして式(A.2)によって求められるイオンドーズ量が

スタティック限界の要件を満たすように400 μm×400 μmまで増やすことができる。例えば,0.5 pAのパ

ルスビームでの200 μm角照射では,128 secの照射時間がスタティック限界の要件となる。200 μm角照射

の場合,128×128でのピクセル表示ではビーム径を3.1 μm以上に広げる必要がある。1 μmまでしか広げ

られない場合は,256×256でのピクセル表示を使わなければならない。そうしなければ,個々のピクセル

上での照射量が1×1016 ions/m2のスタティック限界の2倍を超える。過度に収束したイオンビームを用い

ると,デジタルラスタースキャン中に微小なダメージ領域が格子状にできる。このためビーム径を十分に

広げることが必要となる。正確な値は使用装置に依存するが,附属書Aに示すように,最小ビーム径は式

(A.1)によって評価できる。 

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4.4.2.5 

最終フレームが不完全な場合は,データに対する寄与が小さくなるように,式(A.4)に示す測定フ

レーム数nを20以上とするのがよい。 

可能であれば,部分的な試料帯電を軽減するために,ランダムラスター測定を用いるのがよい。 

4.4.2.6 

統計上良好なデータを得るには,分析領域全体のスペクトルが必要である。 

4.4.3 

質量分析計の設定 

4.4.3.1 

線形性が保たれ,かつ,高強度となるような分析計の条件を選択する。正二次イオンの測定条件

を選択する。 

注記 検出強度の再現性は,設定条件の組合せによって異なる。一般には,質量分析計のエネルギー

アクセプタンスの値を50 eV以上に設定した場合に,再現性が最も良くなる。 

4.4.3.2 

質量分析計は,高質量域における感度が高く,安定かつ再現性が良好となるように設定する。分

析計の偏向調整手順を,次に示す。イオンビームの位置をPTFE試料上の分析領域に合わせ,ラスターエ

リアを50 μm×50 μmまで小さくする。分析計の偏向調整は質量分解能が最大となるように,1か所ずつ順

番に調整する。この調整手順は,分析計の偏向ペアの数だけ繰り返すことが必要である。この過程で試料

上の分析領域が移動した場合には,一次イオン制御系を用いて,イメージの中心合わせを再度実施する。 

4.4.3.3 

リフレクトロン形装置では,リフレクタ電圧を設定するために,表面電位を求める手順が必要と

なる。リフレクタ電圧を変更した場合の,PTFE由来のCF2+イオンのピーク強度への影響を図2に示す。

リフレクタ電圧をより大きな正の値とすると,リフレクタ前段でイオンが反射し飛行時間が短くなるため,

見掛けの質量軸上においてピークは低質量側に移動する。イオン強度が急速に増加し始めるリフレクタ電

位の値は,試料の表面電位とほぼ一致した値となる。図2の例では試料の表面電位は約−79 Vであり,サ

ンプルの厚さと誘電率とに依存する。リフレクタ電圧をより大きな正の値とすると,二次イオンエネルギ

ー分布のより広い範囲が検出器へと反射され,信号強度はプラトー領域まで増加する。ピーク強度最大値

の半分の強度となるリフレクタ電圧(VT)は,精密かつ高速に計測される。測定時のリフレクタ電圧(VR)

としては,エネルギー受容値として望ましい値(VE)をVTに加え,再現可能な手順で設定する。ここでは,

−75 Vでピーク強度最大値の半分の強度となっている。エネルギー受容値を20 eVとして,−55 Vのリフ

レクタ電圧が効果的である。 

4.4.3.4 

4.4.3.3の手順にてリフレクタ電位を設定した後,表1に示す強度の弱い13C同位体ピークに,強

度の強い準安定イオンが重ならないように微調整実施が必要な場合がある。 

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X 見掛け上の質量(m/z) 
Y 強度(counts) 

図2−PTFE由来のCF2+ピーク強度に対するリフレクタ電圧の効果 

4.4.4 

帯電中和の設定 

帯電中和は,良好な測定を得るために不可欠である。電子中和銃の電流値を電子照射ダメージがない程

度に十分低く,効果的に中和できる程度に十分高く設定するための推奨手順を,電子ビームによるダメー

ジに関する詳細な研究[4]に基づき附属書Bに示す。 

注記 帯電中和が不十分である場合には,附属書Dに示すように線形性に影響を及ぼし得る。 

4.4.5 

イオン検出器の設定 

マイクロチャンネルプレートによるイオン検出効率の詳細な研究[5]に基づき,附属書Cに推奨条件を示

す。良好な分析を行うためには,通常,検出器後段加速を用いる。手順書に従い,マイクロチャンネルプ

レート電圧を調整する。更に詳細なガイダンスを,附属書C及び参考文献[5]に示す。 

注記 不適切な検出器効率は,附属書Dに示すように線形性に影響を及ぼし得る。 

4.5 

データの取得 

4.5.1 

図3に示された16個の測定箇所のアレイのように,総ドーズ量1×1016 ions/m2 (1×1012 ions/cm2) 未

満で毎回材料の新しい領域を分析できるように準備する。ここに示す例は,8 mm×8 mm角の穴をもつ試

料ホルダーである。全ての分析領域は,試料ホルダーの端から1.5 mm以上離されている。ラスター1辺の

Rに対して,推奨される隣り合う測定箇所の距離(中心から中心まで)は,2.5Rである。推奨されるラス

ターエリアがR=200 μmのとき,互いのラスターエリアの最小間隔は300 μm(中心から中心までの距離は

500 μm)となる。これらの設定条件を記録する。 

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

2000

2200

Y

-51 V

-63 V

-72 V

-78 V

49.6

49.8

50

50.2

50.4

50.6

X

  49.6    49.8     50    50.2    50.4    50.6 

2 200

2 000

1 800

1 600

1 400

1 200

1 000

800

600

400

200

0

background image

10 

K 0155:2018  

-4

-3

0

1

2

3

4

X

Y

-4

-3

-1

-4

-2

0

2

4

-4

-3

-2

1

2

3

X 位置(mm) 
Y 位置(mm) 

測定箇所の格子の例 

試料固定用板の穴 

周囲1.5 mmの領域(網掛けされた領域)は,測定してはならない領域 

図3−8 mm角の穴をもつ試料固定用板における4×4の測定箇所の格子の概略図 

4.5.2 

4.3に示すように,二つのPTFE試料を取り付ける。一つは,一次イオン電流の範囲を設定するた

めの“試験試料”とし,もう一つは,これらの設定条件を使って分析するための“分析試料”とする。 

4.5.3 

帯電中和のスイッチをオンにする。帯電中和機構は,電子銃又は電子銃と低エネルギーイオン銃と

の組合せで構成してもよい。装置の製造業者又は装置附属の取扱説明書によって推奨される機構を用いる。 

4.5.4 

“試験試料”から,通常の分析条件で使っている一次イオン電流値を用いて,正イオンスペクトル

を取得する。次に,検出器が強い飽和を起こすときの一次イオン電流値を最大電流値(imax)とし,imaxを

含むimax以下の一次イオン電流の設定を16条件作る。imax以外の残りの15個の電流値は,k=1〜15とし

て,それぞれおよそ(k/16)imaxとなるように設定する。この範囲を満たしているCF3+ピークのうち三つのス

ペクトル例を,図4に示す。示されたスペクトルは,13CF3+ピーク強度で規格化されている。 

background image

11 

K 0155:2018  

68.5

69.0

69.5

70.0

70.5

100

102

104

106

X

Y

12CF3+

t= 65.6 ns

cM= 0.894

cM= 0.233

cM= 0.998

13CF3+

X 質量(u) 
Y 強度(対数軸) 

注記 図中の指示線は,それぞれのcMにて測定された12CF3+ピークの積分強度を示す。最も飽和している(cM

が最高値となる)スペクトルの強度は,対数強度スケール上に測定カウント数で表されており,それ以外
のスペクトルは,同じ13CF3+強度で規格化されている。飽和ピークの不感時間τ=65.6 nsが示されている。 

図4−ある一次イオン電流値範囲で得たスペクトルの12CF3+ピーク及び13CF3+ピークの詳細 

4.5.5 

記録する二次イオンピーク強度を,表1に示す。低い一次イオンビーム電流の場合,最も弱いピー

ク(すなわち,13C同位体を含むピーク)が,1 000カウントを超えるように取得時間を増すことが必要と

なる場合がある。最も弱いピークは,13C12CF5+ピークであると予想される。 

表1−測定する特徴的なPTFE同位体二次イオン強度,及びそれらの精密質量並びに13Cの 

天然存在比率を用いた計算による推定同位体比α (i) 

12CxFy+イオン 

精密質量 

13C12Cx−1Fy+イオ

ン 

精密質量 

推定同位体比 

α(i) 

12CF+ 

 30.998 4 

13CF+ 

 32.001 8 

90 

12CF3+ 

 68.995 2 

13CF3+ 

 69.998 6 

90 

(12C)3F3+ 

 92.995 2 

13C(12C)2F3+ 

 93.998 6 

30 

(12C)2F5+ 

118.992 0 

13C12CF5+ 

119.995 4 

45 

(12C)3F5+ 

130.992 0 

13C(12C)2F5+ 

131.995 2 

30 

注記 推定同位体比は,二次イオンフラグメント中の炭素原子数で変わる。天然に存在する13Cは,天然に存在す

る12Cの約1.1 %である。 

4.5.6 

この規格の後で示す強度スケールの線形性分析では,総イオンカウント数よりもむしろcMの方が

重要である。式(A.5)又は式(A.6)を使って,選択した一次イオン電流によってCF3+ピークに対するcM値の

範囲がパルス当たりのカウント数としておよそ0.1〜0.99であることを確認する。これを満たさない場合は,

一次イオンビーム電流を調整し,条件を満たすまで4.5.4を繰り返す。 

4.5.7 

主な準安定ピークが,表1のピークと重ならないことを確認する。重なる場合は,それらを除くた

12 

K 0155:2018  

めにリフレクタ電圧を調整する。 

4.5.8 

分析試料へ移動する。4.5.4で決めた一次イオン電流の16個の設定条件のそれぞれに対して,試料

の新しい領域から正イオンスペクトルを取得する。13C(12C)F5+ピークのカウント数が1 000を超えて,か

つ,最大ドーズ量が1×1016 ions/m2未満となるように取得時間を設定する。 

4.5.9 

装置附属の校正機能又はISO 13084に従って,各スペクトルの質量軸を校正する。 

4.5.10 

12CF3+ピークの重ね合わせ描画から,質量分析器の不感時間(τ)を測定する。使用するソフトウ

ェアで可能なら,13CF3+のピーク高さでスペクトルを規格化することが有効である。図4にcM=0.894と

示されたようなスペクトルであることを確認する。すなわち,ピークトップ後に信号が減少するが0まで

は強度が落ちず,ある時間τ後に信号が回復するスペクトルである。τの値を測定する。通常,質量軸,時

間軸,また,ときにはチャンネル数に切り替えることがソフトウェア上で可能である。チャンネル数から

時間に変換するには,チャンネル数にチャンネル幅(通常は約200 ps)を単純に乗じればよい。この例で

は,τ=65.6 nsとなる。τの値を記録する。 

4.5.11 装置によっては,バックグラウンド信号が非常に低いために,4.5.10の方法を使って検出器のτを

決めることができない。この場合は,装置の製造業者によって指定されたτの値を使う。 

4.5.12 次に,ピーク強度の測定に対して,積分範囲を設定する。通常は,装置附属のソフトウェアのピー

クリストの作成で設定する。表1の各ピークに対して,ピークを中心前後でそれぞれτ s分の質量範囲を確

保する。これらをピークの積算範囲として設定する。幾つかの弱い準安定ピーク及び準安定バックグラウ

ンド強度が積分に含まれる。これら強度が比較的弱い場合,一般的に問題とならない。ピーク右側の少な

くともτ s分の範囲で強度が積分されていることが重要である。 

4.5.13 ソフトウェアによる不感時間補正をしていない16個のスペクトルに対して,表1に示す10個のピ

ークの強度を算出する。 

4.5.14 装置附属の解析ソフトウェアに不感時間補正があれば,それを用いて不感時間を補正した10個の

ピークの強度を算出する。 

4.6 

線形性の確認 

4.6.1 

測定されたカウントと補正されたカウントとの関係 

ピーク幅が不感時間τより小さく(通常,約30 ns〜70 ns),時間τ内で別のピークが入力しない単一の

SIMSピークに対して強度補正を式(1)のように単純化する[7]。 

=

N

I

N

I

M

P

1

ln

 ······································································· (1) 

又は 

(

)

M

P

1

ln

c

c

=

 ········································································· (2) 

ここに, 

IM: 測定したSIMSピークの積分強度 

IP: 補正後の強度 

N: スペクトルを測定するために用いた一次イオンパルス

の全数 

cM=IM/N: パルス強度当たりの測定したカウント 

cP=IP/N: パルス強度当たりの補正したカウント 

これらの仮定では,cMは1の最大値をもつことに注意する。 

式(1)は不感時間τの関数ではないので,適切には“ポアソン補正”というのがよい。ただし,一般的な

用法と一致するように,この規格では“不感時間補正”という。式(1)はポアソン分布から導かれ,IMは測

13 

K 0155:2018  

定された強度,及びIPは真の強度である。cMを測定し,cPが検出器に衝突する二次イオンの実際の数に比

例するようにする。これはSIMSデータに日常的に適用されており,多くのデータセットで実証されてい

る[7][8][9]。式(1)から,cMの値が0.1を超えるとき,測定強度と真の(補正)強度との間に95 %の線形性

を維持するために不感時間補正が必要である。 

注記 式(1)は,カウントが純粋なポアソン統計に従う定常状態の条件下で測定された強度に関するも

のである。ビームがラスターされる間に強度が合計されるか平均化される場合,信号の不変性

に影響を及ぼす多くの装置的又は試料に関連する因子の一つから偏差が生じる可能性がある。

例としては,試料の不均一性,帯電,ラスター内の位置による装置感度の変動,ビーム電流の

変動,試料の損傷などがあり,附属書Dで示す。 

4.6.2 

同位体に対する計測比 

次のように強度軸の線形性を計算する。下付き文字Mは,測定強度を用いて計算した量を示し,下付き

文字Pは,不感時間補正された強度を用いて計算した量を示す。線形性Lは,Lが飽和していないスペク

トルに対して正確に1であり,かつ,より強い12CxFy+ピークがはるかに弱い13C12Cx−1Fy+ピークに対して

飽和し始めるスペクトルではL<1であるように定義する。不感時間補正を伴わない測定ピーク強度に対

しては式(1)から,単一イオンカウント理論[7]を仮定した理論的な直線性

T

M

Lは,式(3)によって求める。 

(

)

M

M

P

M

T

M

1

ln

c

c

I

I

L

=

=

 ································································ (3) 

次いで,測定された強度の同位体比FM及び補正した強度の同位体比FPをそれぞれ,式(4)及び式(5)に定

義する。 

(

)

(

)

y

x

y

x

F

C

C

I

F

C

I

F

1

12

13

M

12

M

M

=

 ··································································· (4) 

(

)

(

)

y

x

y

x

F

C

C

I

F

C

I

F

1

12

13

P

12

P

P

=

 ··································································· (5) 

ここで,それぞれの同位体イオンの組合せ(表1に示したインデックスi)及び測定した各スペクトル

(インデックスj)について,不感時間補正の前後における直線性LM及びLPは,FM及びFPからそれぞれ

式(6)及び式(7)によって計算する。 

()

()

()()i

i

j

i

F

j

i

L

β

α

,

,

M

M

=

 ······································································· (6) 

()

()

()()i

i

j

i

F

j

i

L

β

α

,

,

P

P

=

 ······································································· (7) 

ここに, 

i: 各同位体対 

α(i): 推定同位体比 

β(i): フィッティングによって決定する係数 

注記1 試料の真の同位体比は,どのような差も係数βに含まれるので既知である必要はない。 

注記2 実験で得られるSIMS強度は,三つの理由で推定同位体比αを正確に反映しない可能性があ

るため,係数βが必要である。まず,αは炭素源によって自然に変化する。第二に,準安定

イオン又は汚染によって生じるバックグラウンド強度の存在は,異なる同位体ピークに対し

て異なる影響を与える。最後に,スパッタリング及びイオン化効率は,一般的に同じ元素の

14 

K 0155:2018  

異なる同位体について一定ではなく,実験条件によって変化する可能性がある。 

4.6.3 

データのフィッティング 

同位体イオンの各対iについて,β(i)は理論比に対するLMの最小自乗フィッティングによって計算する。

図5のa)に示すように,式(6)のLM及び式(3)の

T

M

LをcMに対してプロットする。フィッティングはデータ

が理論とよく一致するcMの範囲にわたって実施されるので,非常に低いcMのデータは,低い信号対ノイ

ズ比のために除外することが多く,cMが1に近づくデータは,理論から逸脱し始める可能性があるため,

しばしば除外する。β(i)を計算するために使用されるcMの範囲は,装置条件(複数を検討している場合)

ごとに別々に決定するが,この範囲はフラグメントiに関係なく同じである。一貫性のために,β(i)の同じ

値を,図5のb)に示す不感時間補正を行った線形性LPの計算に使用する。 

注記1 β(i)の一定値を用いる場合,バックグラウンド強度の寄与は各ピークiについて異なるが,同

じピークiについては,スペクトルjにかかわらず同じであると仮定する。 

注記2 機関間試験[1]では,β(i)は平均して1.06であり,全ての参加者については0.9と1.2との間で

あった。 

4.6.4 

強度補正のある場合,及び強度補正のない場合での線形性領域の評価 

4.6.4.1 

装置に強度補正機能のない場合の式(6)によるcMに対するLMのプロット,及び式(3)によるcMに

対する

T

M

Lのプロットに,線形性の公差を表す水平境界線を引く。この公差内で受け入れられるcMの範囲

に注意する。 

注記 図5のa)に,95 %の公差を設定したプロット例を示す。許容範囲は,cM=0.098までである。 

4.6.4.2 

装置に強度補正機能がある場合は,cMに対するLPの値をプロットし,直線性公差を表す水平線

を引く。この公差内で受け入れられるcMの範囲に注意する。 

注記 図5のb)に,95 %の直線性及び許容範囲cM=0.999 8を示す線を挿入したプロット例を示す。

しかし,補正されていない状態では,cMの最大値は,この線形性では0.098までである。 

background image

15 

K 0155:2018  

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

X

Y

CF
CF3

C3F3

C2F5

C3F5

LMT

X パルス当たりの計測カウント cM 
Y 線形性 LM 

a) 測定した強度を用いて計算した強度の線形性 

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

X

Y

CF
CF3

C3F3

C2F5

C3F5

X パルス当たりの計測カウント cM 
Y 線形性 LP 

b) 不感時間補正を実施した強度を用いて計算した強度の線形性 

注記1 単一イオン計数統計を用いた理論直線性

T

M

Lは,実線でプロットされている。 

注記2 破線は,補正された強度の95 %直線性の限界を示す。 

図5−12CxFy+ピークのパルス当たりの計測カウントcMに対する線形性のプロット例 

16 

K 0155:2018  

4.6.4.3 

4.6.4.1又は4.6.4.2のcMの値が適切である場合は,箇条5に進む。そうでない場合,又は装置の

補正ソフトウェアをこの規格での補正と比較して検証する場合は,4.6.5に進む。 

4.6.5 

強度補正及び装置における補正の有効性の確認 

4.6.5.1 

強度は式(1)を用いて補正され,LMと

T

M

Lとが一致する範囲内で有効である。図5のa)は,95 %の

線形性を保つようなcMは10倍増大することを示している。その結果,補正された強度の上限値はパルス

当たり8.5カウントで,補正されてない結果に対して85倍の改善を示す。LMと

T

M

Lとは,図6に示すよう

に一致しないことが多い。その場合は,95 %の線形性をもつパルス当たりの有効測定カウントは,4倍ま

でしか増大しない。その結果,補正強度上限値はパルス当たり0.5カウントであり,補正されていない結

果に対して5倍だけの改善を示す。附属書Dは,線形性に影響を及ぼし,更に装置の有効操作範囲を十分

に広げることが可能な因子のうちの幾つかを示す。 

4.6.5.2 

調整するときは,新しいPTFE試料を準備し,十分な線形性に到達するか,それ以上の改善が得

られなくなるまで4.5.2〜4.6.5.1を繰り返す。 

4.6.5.3 

装置が補正ソフトウェアをもつ場合,その有効性を検証するためにこの規格による補正と比較す

るのがよい。図5のb)の様式を用いて両者の一連の結果をプロットし,それぞれのcMの上限値,求めら

れた線形性が妥当かに注目する。二つの値が同等か,又は装置ソフトウェアの値がこの規格から得られる

値を超える場合は,装置ソフトウェアは有効である。 

4.6.5.4 

装置ソフトウェアを用いるのは便利であるが,定量的なデータが要求されている場合は,この規

格による確認が必要である。 

background image

17 

K 0155:2018  

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

X

Y

CF
CF3

C3F3

C2F5

C3F5

LMT

X パルス当たりの計測カウント cM 
Y 線形性 LM 

a) 測定した強度を用いて計算した強度の線形性 

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

X

Y

CF
CF3

C3F3

C2F5

C3F5

X パルス当たりの計測カウント cM 
Y 線形性 LP 

b) 不感時間補正を実施した強度を用いて計算した強度の線形性 

図6−附属書Dに示すような調整が不十分な装置の場合の12CxFy+ピークのパルス当たりの計測カウント 

cMに対する線形性のプロット例 

18 

K 0155:2018  

測定を繰り返す間隔 

この規定は,検出回路に何らかの実質的な改良が加えられた場合,MCP,シンチレータ,光電子増倍管

若しくは他の検出器部品の交換後,又はおよそ6か月ごとに繰り返さなければならない。 

19 

K 0155:2018  

附属書A 

(規定) 

ラスターサイズ,イオンビーム電流値,分析するフレーム数 

及びカウント数の計算 

A.1 記号 

ラスターサイズ,イオンビーム電流値,分析するフレーム数及びカウント数の計算に関する記号を,次

に示す。 

選択したピークのピーク強度(counts) 

一次イオンパルス当たりの二次イオンカウント数(counts) 

ビーム径(m) 

電子の電荷(C) 

パルス繰返しレート又は周波数(s−1) 

iP 

パルスイオンビーム電流値(A)(すなわち,パルス化中の時間平均電流値) 

直流イオンビーム電流値(ions/s)(すなわち,非パルス化中の電流値) 

イオンフルエンス(ions/m2) 

M ラスター中の1走査線当たりのピクセル数 

取得時間 Tにおける全一次イオンパルス数(無単位) 

全入射イオン数 

ラスターサイズ(m) 

全スペクトル取得時間(s) 

パルス幅(s) 

A.2 計算 

計算は,次による。 

a) ビームの焦点を十分にぼかした条件においては,ビーム径dは,式(A.1)によって求める。 

d>2R/M ··············································································· (A.1) 

b) イオンフルエンスJは,式(A.2)によって求める。 

2

P

eR

T

i

J=

 ················································································ (A.2) 

装置によっては,iPは未知のため,代わりに直流電流値Iを記録し,Jは,式(A.3)によって求める。 

2

eR

FIwT

J=

 ············································································· (A.3) 

磁場セクター形及び四重極形のような非パルス化の装置では,式(A.2)を用いるが,パルス電流値iPに非

パルス化電流値Iを代入する。 

c) データ取得中にラスターを完了したフレーム数nは,式(A.4)で求める。 

20 

K 0155:2018  

2

P

2

M

i

F

JeR

n=

 ············································································ (A.4) 

イオンビーム電流値及び/又は取得時間はn>20となるように調節することが望ましい。 

d) 一次イオンパルス当たりのカウント数は,式(A.5)によって求める。 

P

A

c=

 ·················································································· (A.5) 

全パルス数が装置ソフトウェアによって与えられない場合は,式(A.6)を使う。 

FT

A

c=

 ················································································· (A.6) 

A.3 スタティックSIMSにおける値の例 

十分に高品質なスペクトルを得るには,Q=4×108入射イオンが必要である。イオンフルエンスJが1016 

ion/m2未満であれば,式(A.2)から,式(A.7)のように表される。 

R≧200 μm ············································································· (A.7) 

質量分解能が低くなり過ぎないためには,R=200 μmであることが望ましい。よりよい計数統計が要求

された場合は,Rを増大させる必要がある。これには,質量分解能の低下という代償が伴う。128×128ピ

クセルのラスターに対して,式(A.1)から,式(A.8)のように表される。 

d≧3.1 μm ·············································································· (A.8) 

ビームの焦点をこれほどぼかすことができないときは,Mを増大するのがよい。典型的には多くの装置

で,パルスイオンビーム電流値(iP)0.5 pA,繰返しレート 10 kHz,128ピクセルの正方形ラスター(M)

を用いる。すると,推奨条件であるJ=1016 ions/m2及びR=200 μmでは, 

T=128 s················································································ (A.9) 

かつ 

n=78 ··················································································(A.10) 

である。 

21 

K 0155:2018  

附属書B 

(参考) 

帯電中和の設定 

一般に,飛行時間形(TOF)SIMSの実験は,分析する試料に損傷を与えないと考えられている。高分子

におけるイオンビーム損傷のフルエンス限界は参考文献[10]に報告があり,最近の装置のほとんどはこれ

らの指針値より低い値で容易に動作する。この限界の典型的な値は1×1016 ions/m2である。しかしながら,

帯電の安定化のために用いられる中和銃からの低エネルギー電子が引き起こす損傷はしばしば見落とされ

ている。絶縁物の所定のスタティックSIMSのスペクトルでは,おおよそ2×1020 electrons/m2の電子フル

エンスが供給される。これらの電子は,通常,エネルギーが低く,損傷の断面積も小さい一方で,単位面

積当たりの各々のイオンに対しては104個ほどの電子になる。 

スタティックSIMSにおいて帯電の安定化のために用いられる中和銃からの低エネルギー電子が有機物

及び高分子に及ぼす損傷の効果に関する詳細な研究が,参考文献[4]及び[11]に報告されている。ポリスチ

レン,ポリ塩化ビニル,ポリメチルメタクリレート及びPTFEの一連の高分子の分子断片化の解析による

と,イオン強度の真のレベルからのずれを1 %以内に保つ電子フルエンスの上限値として6×1018 

electrons/m2が定められている。電子フルエンス7.5×1020 electrons/m2では,高分子によっては相対信号強

度が4倍を超えて変動した。スタティックSIMSスペクトルの高い繰返し性と一定性とを確保するための

推奨値が規定されており,それらはまた,有効なG-SIMS [12] [13] スペクトルの計算にも使うことができ

る。これらの結果は,図B.1にまとめられている。網掛けされた領域は,顕著な帯電又は損傷があるスペ

クトルが得られる動作範囲を示している。 

注記 電子フルエンスの上限は顕著な損傷を生じない最大フルエンスによって定義され,下限値は適

正な電荷中和に必要な値によって定義される。フルエンスのスケール及び正方形ラスターの一

辺の長さは,イオンビーム電流値1 pAで取得時間100 sに対して計算したものである。 

background image

22 

K 0155:2018  

X1 イオン電流密度(mA/m2) 
X2 イオンラスターサイズ(μm) 
Y1 電子電流密度(mA/m2) 
Y2 電子フルエンス(electrons/m2) 

図B.1−低エネルギー電子による帯電及び損傷がないスペクトルを取得するための条件を明示する 

パラメータのマップ 

100

X1

Y

2

Y

1

10-1

10-2

10-1

100

101

1023x102

102

4x101

X2

1017

1018

1019

Electron damage zone

upper electron limit

Workin
g zone

動作 

領域 

電子損傷領域 

電子上限 

電子下限 

帯電領域 

23 

K 0155:2018  

附属書C 
(参考) 

イオン検出器の設定 

MCPの検出効率に及ぼす二次イオンの入射エネルギー,質量及び組成の効果は,飛行時間形質量分析計

を用いて詳細に研究されている[5]。この質量分析計は,スタティックSIMSに用いられるが,データはあ

らゆるイオン検出システムにも関連している。質量の増加及びMCPへ入射するイオン衝突エネルギーの

減少に伴い検出効率がどのように低下するかを示す理論的モデルが開発されている。20 keVの衝撃エネル

ギーにおいて,質量10 000ダルトンのカチオン化ポリ(スチレン)オリゴマーの検出効率は約80 %であ

るのに対し,5 keVでは約5 %に低下した。この理論モデルは,二次イオンの組成が検出効率に与える影響

を評価するために拡張されている。 

図C.1は,高い水素含有率の二次イオンが,高原子数の原子からなる二次イオンよりも低い検出効率で

あることを示している。二次イオンの組成と質量との両方の効果から生じる検出効率の広がりは,二次イ

オン衝撃エネルギー(ポストアクセラレーション電圧)を増加させることによって減少させることができ,

4 000ダルトンの質量までは,5 keVのイオン衝撃の場合に観察される検出効率が100 %に広がるが,20 keV

の衝撃エネルギーの二次イオンに対しては,無視できるほどの広がりに低減され,検出効率は二次イオン

の組成とは無関係でほぼ単一である。特定の検出効率でMCPを動作させるための正しい電圧を決定する

簡単な方法が開発されている。検出器のプラトー効率の50 %に当たるトランジション電圧[14](VT)は,

急しゅん(峻)な検出効率の勾配のため,迅速かつ正確に決定することができる。VTに対比した98 %の

プラトー効率となる電圧VNの値を,図C.2に示す。動作電圧Vは,1.3(VN−VT)+VTと定義される。図

C.2の値の場合,動作電圧Vは,式(C.1)によって求める。 

m

V

V

2

057

.0

1.

29

T

+

+

=

 ···························································· (C.1) 

この動作電圧Vは,要求される範囲の最高質量数のイオンに対して決定することが望ましい。 

 
 

background image

24 

K 0155:2018  

X イオン質量(u) 
Y 効率 

図C.1−2〜20 kVのポストアクセラレーション電圧でのCrクラスターイオン(上の曲線) 

及び炭化水素(下の曲線)の推定検出効率[5] 

X イオン質量(u) 
Y MCP電圧(V) 

動作電圧 

プラトーの98 %(VN) 

プラトーの50 %(VT) 

図C.2−MCPの動作電圧,VT及びVN 

X

Y

3

2

600

650

700

750

800

850

900

0

500

1000 1500 2000 2500

0     500  1 000  1 500  2 000  2 500 

X

Y

20 kV

10

2

5

0

2000

4000

6000

800010000

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0    2 000  4 000   6 000  8 000  10 000 

25 

K 0155:2018  

附属書D 
(参考) 

直線性に影響を及ぼす装置因子 

D.1 概要 

多くの装置は,補正を行うと強度スケールにおいて良い直線性を達成している。しかしながら,このこ

とはいずれの装置も一様に当てはまるとは限らない。同じ設計の装置を同じ測定条件で使用した場合にも,

著しく直線性が失われることもある。研究機関同士の検討では,12CH3+ピークとの相対強度を計測する限

りにおいては,強度スケールの直線性に次の項目に対する顕著な依存性は見られなかった[1]。それは,装

置の形式,測定条件(一次イオン種,一次イオン照射エネルギー及び一次イオンドーズ量),スペクトルの

再現性,カーボン系の汚染量などである。強度スケールの直線性に偏差が生じる幾つかの原因が確認され

ている。そして,それらはD.2以下に概要が示されている。これらは分析者が装置の強度スケールの直線

性が失われた場合に,その原因を調べる手助けとなるもので,直線性の失われる一般的な原因であり,網

羅的なリストとはなっていない。より詳細については参考文献[1]を参照。 

D.2 信号の不均一性 

式(1)を使った不感時間補正はcMの非線形関数であるために,二次イオン強度が空間的に変動する(例

えば,不均一な試料),時間的に変動する(例えば,試料が損傷を受ける,又は一次ビーム電流の変動)場

合には単純な補正に改良を加えなければならない[7]。5 %の一次イオンビーム電流の変動は,補正された

信号強度において最大で2 %程度の誤差を生むことになる。二次イオン強度が異なる画素で桁違いに変動

するような不均一な試料においては,その誤差が一次イオンビーム電流の変化と比較して大変に大きなも

のとなり得る。時間的に安定した二次イオン強度であるが空間的に不均一な試料においては,特定の二次

イオンに対する不感時間補正された強度を計算する適切な方法としては,各測定画素ごとに式(1)を適用し,

全ての結果を合算する方法である。式(1)の関数形式のために,このピクセルごとの補正法で得られる強度

は,場所による変動を無視した,全体で計測された二次イオン強度を式(1)に当てはめる一般的な方式(し

かし,正確性に欠ける。)よりも大きな値となる。 

参照試料のPTFEにおいて信号不均一性のよくある原因の一つは,電子銃の調整不良に起因して帯電中

和が有効に動作していないことである[1]。測定している領域(この部位は帯電している。)とその外側の

境界で試料の表面電位が違っていることに起因した帯電中和の不良は,一次イオンビームを走査している

周辺領域での強度低下を引き起こすことになる。そのことは引出し電場をゆがめることになり,一次イオ

ンビームを走査している周辺領域からの二次イオンを偏向させ,分析管への飛行を妨げている[15]。この

ような現象のために,二次イオン強度が場所的な不均一性に強く依存する要因となる。表面帯電が蓄積す

るにつれて,二次イオン強度も時間依存性をもつことになる。それゆえ,より大きな一次イオンビーム電

流で帯電中和が不十分になり始めると,図6に計算した12CxFy+/13C12Cx−1Fy+同位体比は,各ピクセル又は

各スキャンごとに不感時間補正した値ではなく全測定強度に不感時間補正することによって低くなる。こ

れは,より大きな一次イオンビームでの測定では直線性がより低下する一つの例である。性能を最適化す

るためには,装置の製造業者が提供する手順書に従って帯電中和用の電子銃の調整などをすることである。

その後,新たにデータを測定し,式(1)に従って全体で不感時間補正を行った数値の直線性を計算した。電

子銃の調整前は95 %の直線性に対して一つのパルス当たり0.5カウント以下と直線性が劣っていたが,一

26 

K 0155:2018  

方,調整の後はパルス当たり0.9カウントと,非常に改善した結果となった。一次イオンビームの走査領

域の中央25 %からの信号に制限し,試料表面の僅かな帯電の影響がある一次イオンビームを走査している

周辺領域を除いて解析を行うと,その線形性は98 %以上に改善した。 

D.3 検出器の暗カウント 

検出器の飽和がそれほど影響を受けない領域の小さなcM値においても,線形性から逸脱する装置がある。

これらの逸脱は,一般には,LMのより低い値の方向となっている。この現象は測定時間が長くかかる一次

イオンビーム電流を小さく設定した条件の下でスペクトルを測定するときに発生する場合が多い。これら

のスペクトルはS/N比が低下,一次イオンビーム電流の変動,バックグラウンド強度が増加したときなど

の場合に生じやすい。最初の二つの項は,12CxFy+/13C12Cx−1Fy+同位体比に対して無作為に影響する(それ

ゆえ,測定結果の直線性には寄与しない。)が,一方,後者の効果(両方のピークのバックグラウンド強度

を増加させる。)はLMをより小さな計算値に導き,ピーク比率を系統的に低下させる原因となる。例えば,

ディスクリミネータの電圧の設定が低過ぎると,MCP検出器における散発的な暗カウントの発生によって

バックグラウンド強度の増加が発生し得る。 

D.4 検出器の効率 

検出器の効率は,SIMSにおいては直線性に影響する。分析管透過率を一定と仮定したイオン検出の確

率は,二次イオンの質量及び試料の組成に依存する。そして,検出器の設定に強く依存する。これらのパ

ラメータとしては,MCPの印加電圧,ポストアクセラレーション電圧,そして,ディスクリミネータ電圧

の設定などである[5]。しかしながら,検出確率に由来する二次イオン強度への影響は詳しく調べられてい

ない。例えば,多数の二次イオンがMCPに連続的に入射する場合は,一つの二次イオンが検出器に入射

する場合と比べるとパルスハイトが高くなる。ディスクリミネータ電圧が高過ぎる場合,一つの二次イオ

ン入射では多数の二次イオン入射よりも検出効率は低くなる。また,一次イオンパルスに励起された特定

の二次イオンの数はポアソン分布に従い,相対的に弱いピークは相対的に強いピークと比較すると,単一

イオンとして検出器に入射する現象の割合がより多くなる。それゆえ,ディスクリミネータ電圧がうまく

調整されていない装置では,信号強度はイオン強度の関数にはなっているが,その検出器効率は非直線性

を示すことになる。 

例えば,MCP印加電圧が低く,かつ,ディスクリミネータ電圧が高い場合には,検出器効率が最も低く

なる。そして,より弱い13C12Cx−1Fy+ピークはより低い二次イオン強度で検出されるために,厳密に調整

されたシステムと比較すると同位体比率は大幅に増加する。この効果はディスクリミネータ電圧を高くし

過ぎた場合の電子分光で観察された信号強度の非直線性に類似している[16]。この効果は重要な問題では

あるが,幸いなことに,頻繁に見かける事象ではない。表1に与えられた推定同位体比に対して,測定さ

れた同位体比を比較することによって,この問題を効果的に診断できる。 

最適な検出効率,そして,弱いピークに対する線形性の強度を維持していることを確信するには,MCP

印加電圧,ディスクリミネータ電圧が装置の製造業者のハンドブック,又は参照文献[5]の調整手順に従い

正しく設定することが望ましい。ディスクリミネータ電圧は重大な検出器の暗カウントが発生しない最低

の電圧で操作するのがよい。これらのカウントは一次イオンビームを切った状態でのマススペクトル中の

バックグラウンド強度を測定することで計測可能である。 

27 

K 0155:2018  

参考文献 

[1] Lee J.L.S., Gilmore I.S., Seah M.P. Linearity of the instrumental intensity scale in TOF-SIMS−A VAMAS 

interlaboratory study. Surf. Interface Anal. 2012 Jan, 44 (1) pp. 1-14 

[2] JIS K 0153 表面化学分析−二次イオン質量分析法−スタティック二次イオン質量分析法における相

対イオン強度目盛の繰返し性,再現性及び一定性の確認方法 

注記 対応国際規格:ISO 23830,Surface chemical analysis−Secondary-ion mass spectrometry−

Repeatability and constancy of the relative-intensity scale in static secondary-ion mass spectrometry 

[3] JIS K 0154 表面化学分析−分析試料の準備及び取付けに関する指針 

注記 対応国際規格:ISO 18116,Surface chemical analysis−Guidelines for preparation and mounting of 

specimens for analysis 

[4] Gilmore I.S., & Seah M.P. Electron flood gun damage in the analysis of polymers and organics in time of flight 

SIMS. Appl. Surf. Sci. 2002 Feb, 187 (1-2) pp. 89-100 

[5] Gilmore I.S., & Seah M.P. Ion detection efficiency in SIMS: energy, mass and composition dependencies for 

microchannel plates used in mass spectrometers. Int. J. Mass Spectrom. 2000 Oct, 202 (1-3) pp. 217-229 

[6] ISO 13084,Surface chemical analysis−Secondary-ion mass spectrometry−Calibration of the mass scale for a 

time-of-flight secondary-ion mass spectrometer 

[7] Stephan T., Zehnpfenning J., Benninghoven A. Correction of dead time effects in time-of-flight mass 

spectrometry. J. Vac. Sci. Technol. A. 1994 Mar-Apr, 12 (2) pp. 405-410 

[8] Keenan M.R., Smentkowski V.S., Ohlhausen J.A., Kotula P.G. Mitigating dead-time effects during multivariate 

analysis of TOF-SIMS spectral images. Surf. Interface Anal. 2008 Feb, 40 (2) pp. 97-106 

[9] Lee J.L.S., Gilmore I.S., Fletcher I.W., Seah M.P. Multivariate image analysis strategies for TOF-SIMS images 

with topography. Surf. Interface Anal. 2009 Aug, 41 (8) pp. 653-665 

[10] Gilmore I.S., & Seah M.P. Static SIMS: A Study of Damage using Polymers. Surf. Interface Anal. 1996 Oct, 24 

(11) pp. 746-762 

[11] Gilmore I.S., & Seah M.P. Investigating the Difficulty of Eliminating Flood Gun Damage in TOF-SIMS. Appl. 

Surf. Sci. 2003 Jan, 203-204 pp. 600-604 

[12] Gilmore I.S., & Seah M.P. Static SIMS: Towards Unfragmented Mass Spectra−The G-SIMS Procedure. Appl. 

Surf. Sci. 2000 July, 161 (3-4) pp. 465-480 

[13] Gilmore I.S., & Seah M.P. G-SIMS of Crystallisable Organics. Appl. Surf. Sci. 2003 Jan, 203-204 pp. 551-555 

[14] Seah M.P. Quantitative Analysis−Detectors, Repeatability and Reproducibility. VAM Bulletin. 1993, 10 pp. 

23-25 

[15] Shard A.G., Lee J.L.S., Gilmore I.S., Jerome S. Lateral Charging Effects in SIMS Imaging, presented at the 6th 

European Workshop on Secondary Ion Mass Spectrometry, Muenster, Germany, September 2008 

[16] Seah M.P., Gilmore I.S., Spencer S.J. Signal Linearity in XPS counting systems. Journal of Electron 

Spectroscopy. 1999 July, 104 (1-3) pp. 73-89 

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28 

K 0155:2018  

附属書JA 

(参考) 

JISと対応国際規格との対比表 

JIS K 0155:2018 表面化学分析−二次イオン質量分析法−単一イオン計数飛行
時間形質量分析器における強度軸の線形性 

ISO 17862:2013,Surface chemical analysis−Secondary ion mass spectrometry−
Linearity of intensity scale in single ion counting time-of-flight mass analysers 

(I)JISの規定 

(II)国際 
規格番号 

(III)国際規格の規定 

(IV)JISと国際規格との技術的差異の箇条ごと
の評価及びその内容 

(V)JISと国際規格との技術的差
異の理由及び今後の対策 

箇条番号 
及び題名 

内容 

箇条番号 

内容 

箇条ごと 
の評価 

技術的差異の内容 

附属書B 
(参考) 

帯電中和の設定 

附属書B 

帯電中和の設定につ
いて規定 

変更 

ISO規格では規定となっているが,
JISでは内容から参考とした。 

ISO規格改訂時に提案する。 

附属書C 
(参考) 

イオン検出器の設
定 

附属書C 

イオン検出器の設定
について規定 

変更 

ISO規格では規定となっているが,
JISでは内容から参考とした。 

ISO規格改訂時に提案する。 

JISと国際規格との対応の程度の全体評価:ISO 17862:2013,MOD 

注記1 箇条ごとの評価欄の用語の意味は,次による。 

− 変更 ················ 国際規格の規定内容を変更している。 

注記2 JISと国際規格との対応の程度の全体評価欄の記号の意味は,次による。 

− MOD ··············· 国際規格を修正している。 

7

K

 0

1

5

5

2

0

1

8