H 9302
:2007
(1)
まえがき
この規格は,工業標準化法第 14 条によって準用する第 12 条第 1 項の規定に基づき,日本溶射協会(JTSS)
/財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規格を改正すべきとの申出があり,日
本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工業規格である。
これによって,JIS H 9302:1994 は改正され,この規格に置き換えられる。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実用新案登録出願に
抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許
権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実用新案登録出願に係る確認について,責任は
もたない。
H 9302
:2007
(2)
目 次
ページ
1.
適用範囲
1
2.
引用規格
1
3.
定義
1
4.
セラミック溶射の分類
1
5.
溶射加工品の特性
2
5.1
構造及び形状
2
5.2
表面状態
2
6.
溶射加工品の仕様書
2
6.1
溶射加工品仕様書
2
6.2
溶射皮膜の試験片
2
6.3
外観限度見本
2
7.
アンダコート材料
2
8.
ブラスト材料
2
8.1
酸化物除去用ブラスト材料
2
8.2
粗面処理用ブラスト材料
2
9.
封孔処理剤
3
10.
脱脂材料
3
11.
溶射設備
3
12.
試験・検査設備
3
13.
溶射作業
3
13.1
前処理
3
13.2
ブラスト粗面処理
4
13.3
溶射
5
13.4
溶射後の処理
6
13.5
屋外溶射作業
7
13.6
安全衛生管理措置
7
14.
溶射加工品の検査
8
日本工業規格
JIS
H
9302
:2007
セラミック溶射作業標準
Recommended practice for ceramic sprayed coatings
1.
適用範囲 この規格は,部品,製品などに対し,耐摩耗性,耐食性,耐熱性,断熱性,電気絶縁性な
どを付与する目的で,セラミックスをプラズマ溶射,粉末式フレーム溶射又は溶棒式フレーム溶射(以下,
セラミック溶射という。
)する場合の作業標準について規定する。
なお,セラミックスは,金属酸化物を主成分としたものに限定する。
2.
引用規格 次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成す
る。これらの引用規格は,その最新版(追補を含む。
)を適用する。
JIS A 5011-1
コンクリート用スラグ骨材−第 1 部:高炉スラグ骨材
JIS B 0601
製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラ
メータ
JIS B 0651
製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−触針式表面粗さ測定機の特性
JIS G 5903
鋳造ショット及びグリット
JIS H 8200
溶射用語
JIS H 8304
セラミック溶射
JIS H 8401
溶射皮膜の厚さ試験方法
JIS H 8402
溶射皮膜の引張密着強さ試験方法
JIS R 6001
研削といし用研磨材の粒度
JIS R 6111
人造研削材
JIS Z 0311
ブラスト処理用金属系研削材
JIS Z 0312
ブラスト処理用非金属系研削材
JIS Z 0313
素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法
3.
定義 この規格で用いる主な用語の定義は,JIS H 8200 による。
4.
セラミック溶射の分類 セラミック溶射の使用目的による分類は,表 1 による。
表 1 セラミック溶射の分類
使用目的
用途(参考)
耐摩耗
シャフト,搬送用ロール,搬送用スクリュー,ポンプ用部品,バルブ類など
耐食
工業薬品貯蔵タンク,化学反応器,石油精製装置,石油化学装置など
耐熱,断熱
加熱機器,燃焼機器類など
電気絶縁
電気・電子機器類など
医療
インプラント,歯など
2
H 9302
:2007
5.
溶射加工品の特性
5.1
構造及び形状 溶射加工を行う製品又は部品の構造及び形状は,溶射を行う場合に,次の a)∼c)
に
示すものであってはならない。
a)
死角による溶射粒子の未達を生じるもの。
b)
変形を生じるもの。
c)
換気不良を生じるもの。
5.2
表面状態 溶射加工を行う製品又は部品は,次の a)
及び b)
に示す表面状態であってはならない。
a)
油脂などの著しい付着状態。
b)
酸化スケール,さび又はきずなどが著しい表面状態。
備考 溶接ビード,端部などへの溶射作業を行う場合の必要な処置は,受渡当事者間の協定による。
6.
溶射加工品の仕様書
6.1
溶射加工品仕様書 溶射加工品仕様書には,規格番号,溶射方式,溶射皮膜の種類又は記号,皮膜
の厚さ,前処理,後処理,溶射皮膜の品質評価のための試験方法及び判定基準などを具体的に記載しなけ
ればならない。
6.2
溶射皮膜の試験片 外観試験,皮膜断面組織試験,熱衝撃試験を行った後の試験片の表面状態の判
定基準は,耐摩耗,耐食,耐熱,断熱,電気絶縁などの使用目的ごとに,溶射皮膜の割れ,はく離,浮き
上がりなどの欠陥の程度の品質限度を,外観限度見本又は写真で示すのがよい。
参考 写真で溶射皮膜の品質限度を示す場合は,明るさが 200 lx の場所で,ISO 写真感度 100 以上で,
通常使用するフイルムを用いて撮影すれば,品質限度の識別が可能である。
6.3
外観限度見本 外観限度見本は,溶射加工品と同一条件で作製し,それに用いる材料は溶射加工品
と同一のものとする。ただし,同一の材料を使用できない場合には,受渡当事者間の協定による。
7.
アンダコート材料 アンダコート材料は,JIS H 8304 の 4.
に規定する溶射材料のうち,溶射加工品の
使用目的に応じて,溶射皮膜の性能が劣化しないものを用いる。
8.
ブラスト材料
8.1
酸化物除去用ブラスト材料 酸化物除去用ブラスト材料は,JIS G 5903 に規定する鋳鉄製グリット
若しくは鋳鋼製グリット,JIS R 6111 に規定するアルミナ質研削材若しくは炭化けい素質研削材,JIS A
5011-1
に規定する高炉スラグ細骨材,又はそれらの相当品とし,材質が酸化物の除去に適するものを用い
る。
8.2
粗面処理用ブラスト材料 粗面処理用ブラスト材料は,次による。
a)
品質は,JIS G 5903 に規定する鋳鉄製グリット若しくは鋳鋼製グリット,JIS R 6111 に規定するアル
ミナ質研削材若しくは炭化けい素質研削材,JIS Z 0311 に規定する高炭素鋳鋼グリット,又はそれら
の相当品とし,硬さが粗面処理用に適切なもので,粒度が
表 2 に示すものを用いる。ただし,ブラス
トしたとき素地に付着しやすい物質を含んではならない。
b)
形状は,角張っていなければならない。
c)
表面は,清浄,かつ,乾燥していて,塩分,油及びその他の異物が付着していてはならない。
3
H 9302
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表 2 ブラスト材料の粒度
種類
粒度
鋳鉄又は鋳鋼製グリット
高炭素鋳鋼グリット
JIS Z 0311
の粒度番号 70∼120 の範囲のもの又はこれら
を混合したもの。
アルミナ質研削材
炭化けい素質研削材
JIS R 6001
の F20∼F180 の範囲のもの又は JIS Z 0312 粒
度範囲 0.2∼1.4 mm のもの又はこれらを混合したもの。
備考 粗面処理用ブラスト材料の粒度は,溶射加工品の材質,厚さ,皮膜厚さなどに
よって適切なものを選択する。
9.
封孔処理剤 封孔処理剤は,溶射皮膜中に十分浸透するものでなければならない。ただし,溶射加工
品の用途が食品容器などの場合は,食品衛生上有害なものであってはならない。
10.
脱脂材料 脱脂材料は,溶射加工品の素地の洗浄に適した無機溶剤,有機溶剤などを用いる。
11.
溶射設備 溶射設備は,次による。
a)
脱脂洗浄設備 基材に付着した油脂が適切に取り除くことができる設備。
b)
機械加工設備(切削及び研削機器) 基材の前処理において,密着性を向上させるために溝を切るな
どの加工ができる機械設備。
c)
酸化物の除去設備 基材の前処理に使用し,酸化物を除去でき,溶射に適切な清浄面を得ることがで
きる設備。
d)
ブラスト設備 基材の最終的な前処理に使用し,酸化物を除去でき,溶射に必要な粗面化ができる設
備。
e)
溶射設備 溶射作業を行う場合,被溶射加工品面(基材)に目的の皮膜を溶射できる設備。
f)
除じん設備 前処理作業及び溶射作業を行う場合,適切に除じんし,労働安全衛生法の基準に沿った
環境を得ることができる設備。
g)
屋外作業設備 酸化物周辺住民に騒音及び粉じん被害を及ぼさない設備。
12.
試験・検査設備 試験・検査設備は,次による。
a)
皮膜断面組織試験機器 JIS H 8304 の 7.2.1(試験装置)に規定する機器を使用する。
b)
皮膜厚さ試験設備・機器 JIS H 8401 の 5.1.2,5.2.2,6.2 及び 7.2 による。
c)
密着強さ試験装置 JIS H 8402 の 5.2(装置)による
d)
皮膜硬さ試験装置 JIS H 8304 の 7.5.2(装置)による。
e)
高電圧放電試験設備 JIS H 8304 の 7.6.2 a)(装置)による。
f)
熱衝撃試験設備 JIS H 8304 の 7.7 a)(装置)による。
g)
耐摩耗試験設備 JIS H 8304 の 7.8.2(装置)による。
h)
表面粗さ測定機 JIS B 0651 の 3.2 による。
13.
溶射作業
13.1
前処理
13.1.1
脱脂洗浄 脱脂洗浄を行う場合,溶射加工品の特性に応じて洗浄方法及び時間を具体的に規定しな
4
H 9302
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ければならない。ただし,有機溶剤の使用に当たっては,必要な防護手段を講じなければならない。
13.1.2
油除去 鋳鉄,多孔質の素材などに油が内部まで浸透しているものに対しては,加熱して,浸透し
た油を除去する。ただし,加熱によって基材の変質・変形が生じてはならない。
13.1.3
酸化物の除去 溶射加工品の素地の酸化物は,通常,機械的方法で除去するものとする。
酸化物除去のためのブラスト処理を行う場合,ブラスト吹き付け角度は,素地に対して 30∼60°がよい。
酸化物除去のためのブラスト処理後の放置時間は,溶射加工品の特性及び環境に応じて,溶射加工品仕様
書に記載しなければならない。
なお,酸化物除去のためのブラスト処理後の酸化物の除去の評価については,JIS Z 0313 の 4.
による。
13.1.4
密着性の向上処理 溶射皮膜の密着性を向上させるための処理は,次による。
a)
基材に不規則な凹凸を付ける処理。
1)
ねじ切り法
2)
溝きり法
3)
ローレット法
4)
スロット法
5)
ブラスト法
b)
ブラスト材料による粗面化ブラスト方法
c)
アンダコートを溶射する方法
13.1.5
結露の可能性の評価 結露の可能性の評価については,JIS Z 0313 の 6.(結露の可能性の評価)に
よる。
13.2
ブラスト粗面処理
13.2.1
ブラスト材料の選定 ブラスト材料は,次の事項を考慮して選定する。
a)
溶射加工品の材質,厚さ及び硬さ
b)
溶射加工品のブラスト処理する部分の構造
c)
溶射加工品の大きさ
d)
溶射皮膜の種類,溶射皮膜と素地との優れた密着力を得る素地の粗さ
e)
溶射皮膜の使用条件
f)
溶射材料の粒子の大きさ
g)
溶射加工品の使用目的
13.2.2
ブラストノズルと素地との距離 ブラストノズルと素地との距離は,素地から 10∼30 cm とする。
13.2.3
ブラスト角度 ブラスト角度は,素地に対して 60∼90°とする。
13.2.4
ブラスト時間 ブラスト時間は,溶射加工品の特性に応じて規定しなければならない。
13.2.5
ブラスト材料の管理 ブラスト材料は,使用回数によってブラスト粒の破砕又は摩耗が生じたり,
異物の混在が発生するため,常に粒度分布及び汚れについて管理を行わなければならない。
13.2.6
ブラスト用圧縮空気の管理 空気圧力は,圧縮比に応じて凝縮水と飽和水蒸気とに変化するため,
適切な空気清浄装置を用いて,乾燥した空気を供給しなければならない。
13.2.7
空気圧力及び吐出量 空気圧力及び研削材料の吐出量は,作業効率に影響するため管理が必要であ
る。ブラスト材の粒子の大きさ,ノズルの内径寸法及びブラストホースの寸法(直径,長さ)などを十分
に考慮して決めなければならない。また,溶射加工品の特性に応じて溶射作業に適したものに調節しなけ
ればならない。
5
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13.2.8
ノズルの交換時期 ノズルは,摩耗によってオリフィス直径が約 25
%増大した場合は,必ず取り
替えなければならない。
13.2.9
遠心式ブラスト 遠心式ブラストには,鋳鉄又は鋳鋼グリットを用い,その粒度,速度及びブラス
トする距離は,要求する粗面が得られるものでなければならない。
13.2.10
粗面比較用標準表面(板)の作製 溶射加工品への粗面処理を行うときは,表面比較用標準面(板)
を作製し,それと比較することによって粗面処理の限度を決定する。表面比較用標準表面(板)の表面粗
さの表示は,JIS B 0601 に規定する Ra とし,清浄度の評価は,JIS Z 0313 に規定する除せい度 Sa 2 又
は Sa 3 とする。
13.3
溶射 溶射の作業条件は,次のとおりとする。
a)
溶射方式を決定する熱源の種類は,要求される溶射皮膜の品質特性によって,プラズマジェット(ア
ルゴン,窒素,水素,ヘリウムなど)
,炭化水素系ガス(アセチレン,プロパンなど)及び水素の燃焼
炎とする。
b)
各種圧力調整器から溶射ガンの間で使用するホースの内径,長さは,過度の圧力低下を起こさないよ
う十分に配慮しなければならない。
c)
プラズマ溶射では,ノズル(陽極)及び電極(陰極)が使用時間とともに消耗してアーク電圧が低下
してくるので,電圧低下量が 5 V 以上にならないように注意をしなければならない。
d)
使用ガスの流量計は,定期的に校正されたものでなければならない。
e)
溶射又は冷却に用いる空気は,清浄で乾燥したものでなければならない。
f)
溶射に用いる空気圧は,溶射装置の使用条件表に示されたものとする。
g)
空気圧は,溶射加工品の特性に応じた溶射作業に適したものとする。
h)
必要があれば,湿度除去及び皮膜の熱応力緩和のための予熱施工を行う。予熱は,プラズマガン又は
他の適切な手段で行うが,予熱,溶射の工程を通じて酸化・変色・変形などを生じない温度とし,素
材及び皮膜組成によって決めるものとする。
i)
溶射ガンは,点火のときに溶射加工品に溶射粒子の飛まつ(沫)がかからないような方向に向けて,
調整を行わなければならない。
j)
溶射距離は,溶射材料,溶射方式によって決めるものとする。
k)
溶射角度は,素地に対してできるだけ直角とし,45°以下にしてはならない。
l)
粗面処理後,4 時間以内に溶射皮膜の一層目を施す溶射をすることが望ましい。
なお,その他特別な要求があるものについては,受渡当事者間の協定による。
m)
各溶射層は,溶射皮膜ができるだけ均一の厚さとなるように適切な幅で重ねるように,行わなければ
ならない。
n)
各溶射層における皮膜形成厚さは,適切な厚さが得られるように溶射ガンの移行速度を調整する。
o)
溶射皮膜表面を,表面温度計を用いて温度を計測し,200
℃以上にならないように溶射を行う。
p)
厚い溶射皮膜を施す場合,又は溶射加工後,研削を施す場合は,皮膜の密着力を増し,浮き上がりを
防ぐため溶射加工品特性に応じてねじ切り,ローレット加工,アンダコートなどを併用して溶射を行
うことが望ましい。
q)
溶射加工をしない部分についてマスキング(金属製ジグ,耐熱テープなど)が必要な場合は,その方
法及び材質の選定は慎重に行わなければならない。
r)
溶射終了時の溶射ガンの位置は,溶射加工品に溶射粒子の飛まつ(沫)がかからない位置で,材料供
給及びガンの作動停止を行わなければならない。
2
1
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13.4
溶射後の処理 溶射加工品の用途目的によって,皮膜機能改善のために封孔処理,加熱処理,機械
処理,化学処理などを行う。
a)
後処理の主な種類を,
表 3 に示す。
b)
後処理は,要求する機能に基づいて,処理方法ごとに定めなければならない。
表 3 後処理の主な種類
処理方法
改善機能
用具
封孔処理
多孔層溶射皮膜に対し,環境遮断,表面平
滑及び色相性のために,無機質又は有機質
封孔剤を浸透充てんさせる。
浸せき槽,刷毛塗り,スプレーエ
アーレス,真空容器など。
加熱拡散処理
表面層の改質硬化,気孔の減少,拡散浸透
及び溶融結合する。耐摩耗性,耐熱性及び
耐酸化性の向上。
電気誘導加熱炉,ガス炉,加熱レ
ーザ真空炉,レーザ,電子ビーム
など。
機械処理
表面を滑らかにし,気孔を減少する。かん
(嵌)合精度及び仕上精度の向上。
湿式研削,湿式研磨,ラップ研削,
液体バレル研磨,ホーニング研磨
など。
化学処理
金属塩水溶液中の金属イオンを浸透析出さ
せる,又は反応させる。密着性及び耐食性
の向上。
化学薬品溶液槽,洗浄槽(りん酸
塩系又はクローム酸塩系など)
,刷
毛塗りなど。
その他の処理
電気的に加速してイオン注入する,又は陽
極酸化する。耐食性,耐摩耗性及び着色性
の向上。
加熱高圧不活性炉,高出力レーザ
イオン注入装置など。
13.4.1
封孔処理 封孔処理が必要なときは,次による。
a)
封孔処理剤の塗布量は,溶射皮膜の品質及び封孔処理剤の組成に応じて適切に定めなければならな
い。
b)
封孔処理剤は,次に適合するものでなければならない。
1)
適正な浸透性能でなければならない。
2)
乾燥又は固化後の封孔処理剤は,化学薬品及び溶剤に溶けにくく,溶射皮膜の保護性に優れ耐熱性
がある。
3)
溶射皮膜に受ける機械的作用に対して耐えられる。
4)
溶射皮膜の使用温度に対して耐久性がある。
5)
食品に関する用途に使用される溶射皮膜に施す場合は,食品衛生上,無害である。
6)
取扱及び封孔処理作業に対して安全である。
7)
溶射皮膜及び素地を劣化させない。
c)
封孔処理剤の主な種類を,
表 4 に示す。
d)
各種タンクなど,密閉された容器内での封孔処理作業は,有機溶剤中毒,一酸化炭素中毒,酸素欠乏
などの予防面から十分な安全衛生対策を講じなければならない。
7
H 9302
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表 4 封孔処理剤の主な種類
封孔剤特性
封孔剤の種類
処理方法
乾燥しない封孔剤
a)
ワックス類(植物性,鉱物性)
b)
潤滑油類 (植物性,鉱物性)
90
℃に溶射皮膜を加熱して
浸透させる。竹,木,金属材
料などの平ごてを用いる。
大気中で自然乾燥する
封孔剤
a)
常温型フェノール樹脂類
b)
常温型エポキシ,フェノール樹脂類
c)
常温型ビニール樹脂類
d)
常温型ポリエステル樹脂類
e)
常温型シリコン樹脂類
f)
常温型ポリウレタン樹脂類
浸せき,刷毛塗り,スプレー
塗布及び真空中含浸。
焼付け型の封孔剤
a)
フェノール樹脂類
b)
エポキシ,フェノール樹脂類
c)
エポキシ樹脂類
d)
ポリエステル樹脂類
e)
シリコン樹脂類
f)
ふっ素樹脂類
g)
フラン樹脂類
浸せき,刷毛塗り,スプレー
塗布,エヤーレス,静電塗装
などで塗布し,焼成炉(加熱
乾燥炉)に入れる。
触媒反応型の封孔処理 a) エポキシ樹脂類
b)
ポリエステル樹脂類
c)
ポリウレタン樹脂類
d)
フラン樹脂類
浸せき,刷毛塗り,エヤーレ
ス塗り,スプレー,竹,木,
金属などの平ごてを 用いる
(加熱炉などを用いない時に
用いる。
)
。
その他の封孔剤
a)
ナトリウムけい酸塩類
b)
エチルけい酸塩類
c)
嫌気性メタクリル酸類
浸せき,刷毛塗りなど。
備考 封孔処理剤は,溶射直後,できる限り速く封孔浸透させることが望ましい。封孔剤成膜を放置すると,
結露の可能性及び汚れた汚染物(ごみ)などが気孔の孔に入りやすい。封孔処理剤には,顔料(染料)
などが含まれている場合があるが,浸透性をよくするために同一溶剤で薄めて使用する。
13.4.2
機械加工による溶射皮膜の仕上げ処理 機械加工による溶射皮膜の仕上げが必要なときは,湿式研
削仕上げとする。
13.5
屋外溶射作業 屋外溶射作業は,次の条件で行わなければならない。
a)
溶射設備,溶射材料などの仮設置場又は仮設電源,仮設休憩場などを設ける。
b)
溶射作業中に発生する粉じん,ヒュームなどの防護のための仮設物を設ける。
c)
屋外作業では,溶射材料,溶射設備など保持状態が天候によって左右され,溶射加工品の皮膜品質へ
悪影響を及ぼすことから,安全な保護シートなどで,風雨にさらされない保護対策を講じる。
d)
飛散するブラスト材料,溶射フレーム,火花などからの防御措置を行う。
e)
溶射に使用したブラスト廃材などは,所定の場所で処置する。
f)
溶射加工品が大形の構造物の場合,仮設足場はブラスト,溶射作業などに支障がない。
13.6
安全衛生管理措置 溶射作業を行う場合の安全衛生対策は,次の条件を整えなければならない。
a)
ブラスト作業及び溶射作業では,粉じん,溶射フレーム,ヒューム,ガスなどが発生するため,これ
らを十分処理することができる集じん設備,防災シートなどを備える。溶射施工場所及び通気性の悪
いところでは,溶射作業中温度上昇,酸素欠乏,一酸化炭素発生などに対応するため,事前にその対
策を講じる。
b)
ブラスト及び溶射作業を行うときは,作業者は,発生する粉じん,溶射フレームから保護するための
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マスク,遮光面,保護めがね,保護手袋,耳栓などを必ず着用する。
c)
プラズマ溶射装置の配電ターミナル及び配線部分は,感電防止のために,電気絶縁物で防護され,外
部に露出してはならず,また,接地も適切に行う。
14.
溶射加工品の検査 溶射加工品の検査は,次による。
a)
溶射加工品の検査は,JIS H 8304 の 8.
による。
b)
受託した溶射加工品は,溶射作業当日を 1 ロットとして,1 ロットごとに抜取検査を行わなければな
らない。ただし,1 ロットごとに異なる種類の受託溶射加工品がある場合には,各加工品ごとに抜取
検査を行う。