H 7305:2010 (IEC 61788-3:2006)
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
目 次
ページ
序文 ··································································································································· 1
1 適用範囲························································································································· 1
2 引用規格························································································································· 2
3 用語及び定義 ··················································································································· 2
4 原理······························································································································· 3
5 試験条件························································································································· 3
6 装置······························································································································· 4
6.1 試料ホルダーの材質 ······································································································· 4
6.2 試料ホルダーの製作 ······································································································· 4
6.3 計測装置 ······················································································································ 4
7 試料準備························································································································· 4
7.1 反応熱処理 ··················································································································· 4
7.2 試料の取付け ················································································································ 5
8 試験手順························································································································· 6
9 試験方法の精度及び精確さ ································································································· 7
9.1 臨界電流 ······················································································································ 7
9.2 温度 ···························································································································· 7
9.3 磁界 ···························································································································· 7
9.4 試料とホルダーの支持構造 ······························································································ 7
9.5 試料の保護 ··················································································································· 7
10 試験結果の計算方法 ········································································································ 8
10.1 臨界電流基準 ··············································································································· 8
10.2 n値(参考値) ············································································································ 8
11 報告事項 ······················································································································· 8
11.1 試料の表示 ·················································································································· 8
11.2 Ic値に関する報告·········································································································· 8
11.3 試験条件の報告 ············································································································ 9
附属書A(参考)箇条1から箇条10までの追加参考事項 ···························································· 10
附属書B(参考)高温酸化物超電導線の臨界電流の磁気ヒステリシス ············································ 15
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まえがき
この規格は,工業標準化法第14条によって準用する第12条第1項の規定に基づき,財団法人国際超電
導産業技術研究センター(ISTEC)及び財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工
業規格を改正すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工
業規格である。
これによって,JIS H 7305:2003は改正され,この規格に置き換えられた。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実用新案登録出願に
抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許
権,出願公開後の特許出願,実用新案権及び出願公開後の実用新案登録出願にかかわる確認について,責
任はもたない。
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日本工業規格 JIS
H 7305:2010
(IEC 61788-3:2006)
超電導−臨界電流の試験方法−
銀シースビスマス2212及びビスマス2223酸化物
超電導線の直流臨界電流
Superconductivity-Part 3:Critical current measurement-DC critical current
of Ag- and/or Ag alloy-sheathed Bi-2212 and Bi-2223 oxide superconductors
序文
この規格は,2006年に第2版として発行されたIEC 61788-3を基に,技術的内容及び構成を変更するこ
となく作成した日本工業規格である。
なお,この規格で点線の下線を施してある参考事項は,対応国際規格にはない事項である。
この規格によって規定される試験方法は,超電導工学分野に従事する技術者に対して,適切で合意でき
る技術基礎を与えることを意図したものである。
銀シースしたビスマス系酸化物超電導線をはじめとする複合超電導線の臨界電流は,多くの変数に依存
して変化する。これらの変数は,超電導線の応用においてだけでなく,超電導線の試験においても十分考
慮する必要がある。磁界,温度,磁界角度などの試験条件は,その線の用途に応じて決定する必要がある。
また,応用によっては独自の判定基準で臨界電流を決定してもよい。試験に不規則性がある場合は,でき
るだけ数多くの試験を行うことが望ましい。
1
適用範囲
この規格は,銀又は銀合金を被覆したビスマス2212及びビスマス2223酸化物超電導線の短尺,直線試
料での直流臨界電流試験方法について規定する。対象とする超電導線はモノリス構造であり,単心又は多
心形の丸線,平角線又はテープである。
この方法は,臨界電流値500 A未満,かつ,n値が5以上である超電導線に適用する。外部磁界の有無
はいずれでもよい。特に,テープ状(平角状)試料の場合は,磁界はテープ幅広面(又は平角面)に対し,
平行又は垂直にかけるものとする。試料は試験中,液体ヘリウム又は液体窒素に浸される。簡略試験で許
容できるこの試験方法からの逸脱範囲,また,その他の特別な制限事項に関しても規定する。
注記 この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。
IEC 61788-3:2006,Superconductivity−Part 3:Critical current measurement−DC critical current of
Ag- and/or Ag alloy-sheathed Bi-2212 and Bi-2223 oxide superconductors(IDT)
なお,対応の程度を表す記号“IDT”は,ISO/IEC Guide 21-1に基づき,“一致している”こ
とを示す。
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2
引用規格
次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。この引用
規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。
JIS H 7005 超電導関連用語
注記 対応国際規格:IEC 60050-815:2000,International Electrotechnical Vocabulary−Part 815:
Superconductivity(MOD)
3
用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS H 7005によるほか,次による。
3.1
臨界電流 Ic(critical current)
抵抗なしで流れるとみなせる最大直流電流値。
注記 Icは磁界強度と温度との関数。
3.2
臨界電流基準(Ic基準)(critical current criterion)
電界強度E又は比抵抗ρを基に臨界電流Icを決める基準。
注記1 電界基準としてはE=10 μV/m又はE=100 μV/mが,比抵抗基準としてはρ= 10−13 Ω・m又
はρ =10−14 Ω・m がよく用いられる。
注記2 短尺の酸化物高温超電導サンプルに対しては,前記の注記1に記載した値よりも,大きな電
界基準値又は比抵抗基準値をIc基準として用いることがある。
3.3
(超電導体の)n値[n-value (of a superconductor)]
電界強度又は比抵抗の特定の範囲で電圧(U)と電流(I)との関係が近似的にU∝I nの式で表されると
きのべき数。
注記 酸化物高温超電導体の場合,広範囲の電圧領域に対してべき乗則での近似を行うことは適切で
はない。電圧領域を限定してべき乗則近似を行う。
3.4
クエンチ(quench)
超電導体又は超電導機器における超電導状態から常電導状態への制御不能,かつ,不可逆な転移(現象)。
注記 通常,超電導マグネットに対して用いられる用語。
3.5
(フラクソンに作用する)ローレンツ力[Lorentz force (on fluxons)]
電流によってフラクソンに働く力。
注記1 電流密度をJ,磁束密度をBとして,単位体積当たりの力はJ×Bとなる。
注記2 “ローレンツ力”は,IEV 121-11-20(Area:Electromagnetism/Electromagnetic concepts and
quantities, Coulomb-Lorentz force)に定義されている。
3.6
(複合超電導線の)カレント・トランスファー[current transfer (of composite superconductor)]
直流電流が複合超電導線内の隣接する超電導フィラメントに移流することによって超電導線に沿って電
圧が発生する現象。
3
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注記 臨界電流測定のときには,電流端子付近では,電流が周囲から内部に流入し,フィラメント間
で電流分布が不均一になるため,この現象が電流端子付近で起こる。
3.7
定速掃引法(constant sweep rate method)
ゼロからIc直上まで一定速度で試料電流を増加させながら,U-I特性データを収集する方法。
3.8
ステップ掃引法(ramp-and-hold method)
試料電流を,ある時間間隔をおいて段階的に逐次増加又は減少させながら,U-I特性データを収集する
方法。
3.9
Bi-2212, Bi-2223 酸化物超電導体(Bi-2212 and Bi-2223 oxide superconductors)
CuO2面を含む層状構造の酸化物超電導体。それぞれの化学式は,Bi2Sr2CaCu2Ox (x〜〜8),
(Bi, Pb)2Sr2Ca2Cu3Ox (x〜〜10)である。
4
原理
複合超電導線の臨界電流は,一定圧力下にある冷媒容器の中で,一定の外部磁界を印加し,かつ,所定
の温度を保持した状態での電圧(U)-電流(I)特性を測定することによって求められる。U-I特性取得のため
には,直流電流を超電導試料に通電し,試料の一定区間に発生する電圧を計測する。臨界電流は,所定の
電界基準(Ec)又は比抵抗基準(ρc)に達したときの電流値で定義する。電界基準(Ec),比抵抗基準(ρc)
いずれの場合にも,電圧端子間距離に応じて,それぞれの基準に相当する電圧基準値(Uc)が設定できる。
5
試験条件
この方法による目標精度は変動係数(標準偏差を平均値で除したものを100倍)として,ゼロ磁界,
4.2 K又は77 K近傍測定に対して,5 %未満とする。
この試験方法では,カレント・トランスファー補正を行わないこととする。また,測定時にカレント・
トランスファーが著しい場合は,その測定を無効とみなす。
この規格の使用に当たっての適切な安全及び衛生上の対策を調査,確定し,規定限界値の適用性を決定
しておくことは,利用者の責任である。特に注意すべき事項を,次に示す。
a) この種の測定には危険性が伴う。大直流電流とはいえ低電圧であるために,人体に損害を与えるよう
なことは必ずしもないが,工具,トランスファーラインなどの別の良導体を介してリード線が不意に
ショートした場合は,大きなエネルギーが放出され,アークが発生しやけど(火傷)を負う危険があ
る。リード線は,ショートしないよう処置する必要がある。
b) 磁界発生用超電導マグネットに蓄えられたエネルギーは同様な大電流・電圧パルスの発生となるか,
急激な沸騰,爆発状態を起こすような大量の熱エネルギーを極低温装置に与えることになるので注意
が必要である。
c) さらに,急激な冷媒の沸騰,爆発は,酸素欠乏状態を周囲にもたらす危険があり,換気の強化も必要
である。超電導体を超電導状態に転移させるため冷却用の冷媒の使用は不可欠であるが,低温液体ト
ランスファーライン,貯蔵容器又は装置と肌とが直接触れると,こぼれた冷媒との接触と同じく,そ
の場で凍りつくことになる。
4
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
d) 誤った使用法を行った場合には,冷媒貯蔵容器に附属する圧力配管中の空気及び水が凍ることもあり,
安全装置の有無にかかわらず,容器の内圧異常及び故障の原因になり得る。冷媒の取扱いには,十分
な注意が必要である。
6
装置
6.1
試料ホルダーの材質
試料ホルダーの材質は,次による。
a) 試料ホルダーの材質は,絶縁材料又は導電性非磁性材料とする。後者の場合,表面を絶縁被覆しても
しなくてもよい。
b) 臨界電流は,試料と試料ホルダーとの熱収縮差によって生じるひずみに強く影響される。
測定温度において試料に生じるひずみは,合計で±0.1 %になるものとする。熱収縮差によるひずみ
がこの値を超える場合は,ホルダーの材質を公表し,臨界電流が過剰なひずみ状態であるとの注釈を
つけることとする。
c) 望ましい試料ホルダーの材質をA.3.1に推奨する。これらの材料のどれを使用してもよい。
絶縁被覆なしで導電性材料を用いる場合,試料電流がIcに達したときの試料ホルダーへの漏れ電流
は全電流の1 %以下となるようにする(9.5参照)。
6.2
試料ホルダーの製作
試料ホルダーの製作は,次による。
a) 試料ホルダーに直接試料を取り付ける面は平面とする。
b) 電流端子は,試料ホルダーと電流端子との境界付近での応力集中を避けるために,試料ホルダーに堅
固に取り付ける。
c) 電流端子上の試料取付面と試料ホルダーの試料支持面とは同じレベルになるようにする。
6.3
計測装置
計測装置は,次による。
a) 超電導線のU-I特性評価装置は,測定用ジグ,試験用クライオスタット,マグネット及びU-I計測シ
ステムで構成される。
b) 計測用ジグは,試料,試料ホルダー及び試料支持部材で構成され,液体冷媒で満たされたクライオス
タットに浸せき(漬)される。クライオスタットには,試料に外部磁界を印加するための超電導マグ
ネット及びその支持部材などが取り付けられる。U-I計測システムには直流電源,記録計及び必要に
応じて,増幅器,ノイズフィルタ,電圧計,又はこれらを組み合わせて構成される。計算機などによ
るデータ取得システムを使用してもよい。
7
試料準備
7.1
反応熱処理
反応熱処理は,次による。
a) 反応熱処理は,線材製造業者の仕様(熱処理温度,時間,雰囲気,酸素分圧,加熱・冷却速度,試料
の機械的ひずみ保護方法,試料の変形及び表面状態の試験,並びにそれらの許容誤差)に基づいて実
施する。
b) 熱処理炉内の温度変動は,これらの許容誤差を超えてはならない。
c) 線材製造業者によって既に熱処理が済んでいる場合は,改めて熱処理する必要はない。
5
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7.2
試料の取付け
試料の取付けは,次による。
a) 熱処理が終わったら,試料ホルダーの寸法に合わせて試料の端部を切りそろえる。
b) 臨界電流を比抵抗値から求める場合には,線材の全断面積Sは誤差5 %以内の精確さで決定しなけれ
ばならない。
c) 試料をホルダー上に置き,両端を電流端子にはんだ付けする(はんだ材料についてはA.5を参照。)。
d) 磁界中で試験を行う場合は,ローレンツ力によって試料が動くのを防ぐために,エポキシ樹脂などの
低温接着剤によって試料をホルダーに固定する。
e) テープ状試料では,幅広面と磁界の方向が垂直である場合には,より強く接着するものとする。
f)
試料の寸法は,次のように規定する。
W
L
L
L
L
×
×
+
+
×
=
5
2
2
3
2
1
≧
······················································· (1)
W
L
L
L
≧
3
2
,
,
············································································ (2)
ここに,
L: 電圧端子間距離(m)
L1: 試料の長さ(m)
L2: 電流端子上のはんだ付けする部分の長さ(m)
L3: 電流端子と電圧端子との最短距離(m)
W: 試料の幅又は直径(m)
g) 電流容量の大きい試料,細いテープ,又は,丸線においてはL2を大きくとる。高感度測定のときはL
を大きくとる。カレント・トランスファー電圧が無視できない場合はL3を大きくとる。
h) 丸線試料の場合,試料の長手方向と磁界の成す角度は(90±9)°とする。角度の正確度は±2°以下
で決定する(図1参照)。
i)
テープ試料の場合,試料の長手方向と磁界の成す角度は丸線と同様(90±9)°とする。テープ広幅面
が磁界に垂直である場合,その垂直からのずれは±7°以下とする。また,テープ広幅面が磁界に平行
である場合,その平行からのずれは±3°以下とする。
j)
はんだ付けはすべて,試料に損傷を与えないようになるべく迅速に行う。電圧リード線には0.21 mm
より細い径を用い,はんだ付け作業前にツイストして使用する。
k) 電圧端子間距離Lは5 %以内の精確さで測定する。
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a) 磁界がテープ幅広面に平行の場合
b) 磁界がテープ幅広面に垂直の場合
図1−テープ試料と磁界との関係
8
試験手順
試験手順は,次による。
a) データ収集段階では,試料は液体冷媒中に浸せき(漬)する。試料は冷媒ガス中で除冷後に冷媒で冷
却するか,冷媒浴中にゆっくりと挿入するか,又は4.2 K付近での測定の場合,最初,液体窒素にゆ
っくり浸した後,液体ヘリウムに浸す。室温から液体ヘリウム(又は液体窒素)温度まで5分間以上
かけて冷却する。
b) 一点以上の測定温度又は磁界角度で測定する場合,所定の温度,及び/又は所定の測定角度で,試料
を,いったん,臨界温度以上に暖めてから再度ゼロ磁界中で所定の測定温度まで冷却する。ゼロ磁界
だけで,温度を単調に上げながら測定する場合,又は磁界中で計測されたIcによる試料の磁気ヒステ
リシス効果が2 %未満と小さいことが,あらかじめ分かっている場合はこの限りではない(附属書B
参照。)。
c) 冷媒浴の温度は,Ic測定ごとに測定する。
d) クエンチ保護回路又はシャント抵抗を用いた試料保護を行わない場合は,常電導状態になった試料が
損傷を受けないように,試料電流を流しすぎないようにする。
e) 試料への通電法として定速掃引法による場合は,ゼロからIcまでの電流掃引時間は30秒間以上とす
る。
f)
ステップ掃引法(試料電流をある時間間隔をおいて段階的に逐次増加させる通電方法)による場合は,
電流設定点間の電流掃引速度は,次の条件を満たすように大きくする。すなわち,電流ゼロからIcま
での時間が3秒間以下とする。各電流設定点における電流のドリフトは,Icの1 %未満とする。
g) 磁界とマグネットに流す電流値との関係は,前もって測定しておく。マグネット電流は,Ic測定ごと
にあらかじめ測定しておく。
h) 磁界が試料ホルダーの表面に平行な場合,印加磁界と電流との相対的な向きは,試料がローレンツ力
によって試料ホルダーの表面に対して押し付けられるような向きにする。印加磁界が試料ホルダーに
対して直角な場合には,磁界と電流との相対的な向きはどちらでもよい。ただし,試料は適切な接着
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剤で試料ホルダーに確実に固定する。
i)
測定は低磁界から順に行い,電流を増加しながらU-I特性を記録する(附属書B参照。)。
j) U-I特性の基線は,ステップ掃引法を用いた場合はゼロ電流で記録した電圧とし,定速掃引法を用い
た場合にはIcの約0.1倍の電流での平均電圧とする。
9
試験方法の精度及び精確さ
9.1
臨界電流
臨界電流は,次による。
a) 電源は,Icでの周期的及びランダムな変動幅が10 Hzから10 MHzまでの帯域幅で,±2 %の直流電流
を供給できるものとする。
b) 試料電流の測定には,少なくとも0.5 %の精確さをもつ4端子標準抵抗器を用いる。
c) 記録計,プリアンプ,フィルタ,電圧計又はそれらを組み合わせた装置でU-I特性を記録する。U-I
特性の記録は基準電圧値Ucが精度10 %で,それに対応する試料電流の精確さが1 %で,かつ,精度
が1 %となるようなものとする。
9.2
温度
温度は,次による。
a) 試験用クライオスタットは,Ic測定に必要な環境を提供するもので,試料は,液体ヘリウム又は液体
窒素に浸して測定する。液体冷媒の温度は圧力センサー又は適切な温度センサーを用いて±0.1 Kの精
確さで記録する。
b) 試料温度と冷媒浴の温度との差は,極力小さくする。
c) クライオスタット内で測定される圧力を温度に換算する場合は,ヘリウム又は窒素の相図(温度と蒸
気圧との関係)から求める。圧力測定は,温度測定で要求される精確さを確保するのに十分な精確さ
で測定する。
9.3
磁界
磁界は,次による。
a) マグネットシステムは,±1 %及び±0.02 Tのうちの大きな値よりも優れた精確さと±0.5 %及び
±0.02 Tのうちの大きな値よりも優れた精度で外部からの磁界を印加できるものとする。
b) マグネットを用いないで試験を行う場合は,±0.000 2 Tの精確さと±0.000 1 Tの精度でバックグラウ
ンド磁界を測定することとする。
c) 試料上の電圧端子間で0.5 %及び0.02 Tのうちの大きな値よりも優れた磁界均一度をもつものとする。
d) 周期的及びランダムな磁界変動は,±1 %及び±0.02 Tのうちの大きな方の値未満でなければならない。
ゼロ磁界又は非常に低い磁界における臨界電流の測定においては,超電導マグネットの残留磁界を極
力小さくする。
9.4
試料とホルダーの支持構造
ホルダー支持構造は,試料を適切に支持し,外部磁界の方向に対して試料の方向を適切に保持するもの
でなければならない。試料の支持具は,Icの繰返し測定において2 %の精度が得られるような適切な構造
とする。
9.5
試料の保護
試料と並列にシャント抵抗又はクエンチ保護回路を用いる場合は,このシャント又は回路に流れる電流
を,Icにおいて全電流の1 %以下とする。
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10 試験結果の計算方法
10.1 臨界電流基準
臨界電流(Ic)は,電界基準Ec又は比抵抗基準ρcを用いて決定する。ここで,比抵抗は複合超電導線の
全断面積Sを用いて算出する(図2及び図3参照)。
a) 電界基準を用いる場合 電界基準を100 μV/m及び500 μV/mとして,それぞれのIc値を決定する。
電界基準を用いた場合のIcは,基線に対する電圧が基準電圧値(Uc)に相当するU-I曲線上の点に
対応する電流として決定する(図2及び図3参照)。
c
c
LE
U=
·················································································· (3)
ここに,
Uc: 基準電圧値(μV)
L: 電圧端子間距離(m)
Ec: 電界基準値(μV/m)
b) 比抵抗基準を用いた場合 比抵抗基準を用いる場合は,比抵抗基準値を2×10−13 Ω・m及び
10−12 Ω・mとしてそれぞれのIcを決定する。
S
L
ρ
I
U
/
c
c
c=
············································································ (4)
ここに,
Uc: 図2に示すU-I曲線と基準線の交わる点での電圧
Ic: 図2に示すU-I曲線と基準線の交わる点での電流
ρc: 比抵抗基準値(Ω・m)
L: 電圧端子間距離(m)
S: 全断面積(m2)
c) 500 μV/mの電界基準値でのIc値を正しく測定するのが困難な場合 500 μV/m以下の電界基準で代用
するか,又は比抵抗基準を用いた測定を行う。
d) カレント・トランスファー線を伴う場合 カレント・トランスファー線は,基線からIcの0.5倍に相
当するU-I曲線上の平均電圧に対して直線を引く(図2及び図3参照)。この直線にこう配がある場合,
それはカレント・トランスファーしたため及び/又は局部的にダメージを受けたためと考えられる。
Icが有効であるためには,そのこう配は,0.3 Uc/Ic未満でなけれなならない。ここで,Uc及びIcは,
100 μV/m又は2×10−13 Ω・mの基準で決定した値とする。
10.2 n値(参考値)
n値は,Icが決定される領域近傍でlog U対log Iをプロットしたこう配とする。
n値を決定するために用いた基準値の範囲は,報告事項とする。
11 報告事項
11.1 試料の表示
試験に用いた試料の識別のために,可能な限り次の事項を表示する。
a) 試料の製造業者名
b) 種類及び/又は記号
c) ロット番号
d) 原材料及びその化学組成
e) 線材の形状,線材の全横断面積,超電導心数,超電導心径,銀及び/又は銀合金のシース材及び線材
の他成分に対する超電導心の体積分率
f)
製造方法
11.2 Ic値に関する報告
Ic値,Icを求めるのに用いた基準及びn値(参考値)は,報告しなければならない。
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11.3 試験条件の報告
a) 試験磁界強度,方向及び磁界の均一度
b) 試験温度及び温度の精確さ
c) 電圧端子間距離及び試料の全長
d) 電流端子から電圧端子までの最短距離
e) 電流端子のはんだ付け部分の長さ
f)
試料固定方法及び固定に用いた材質の名称
g) ローレンツ力の方向
h) 試料に対する磁界掃引の履歴
i)
試料に対する温度変化の履歴
j)
試料に対する電流掃引,保持の履歴
a) 臨界電流と決定する電界基準の適用方法
b) 比抵抗基準の適用方法
図2−正常なU-I特性
a) 電界基準の適用方法
b) 比抵抗基準の適用方法
注記 低電流域で直流領域として示されるカレント・トランスファー成分を伴うU-I特性上でIcを決定する場合の電界
基準の適用方法[図3 a)]と比抵抗基準の適用方法[図3 b)]とを示す。
図3−カレント・トランスファーを伴うU-I特性
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附属書A
(参考)
箇条1から箇条10までの追加参考事項
A.1 適用範囲
銀及び/又は銀合金シースビスマス2212及びビスマス2223酸化物超電導線とテープとにおいて,臨界
電流(Ic)測定値に重大な影響を与える変動因子が数多く存在する。しかし,この規格の主要な部分はニ
オブ3・すず(Nb3Sn)複合超電導線のIc試験方法(JIS H 7302)によっており,これらの変動因子の一部
についてだけここに紹介する。ここで述べていない変動因子については,JIS H 7302を参照。
この規格に特有な事項は,大別して二つある。一つは,機械的もろさ,電磁気的弱結合,冷媒ガスによ
る膨れ現象,経年劣化,磁束フローとクリープ,大きな異方性,磁界掃引による臨界電流のヒステリシス
現象などの酸化物複合超電導線に特徴的な性質によるものである。二つ目は,この規格に用いられる試料
の短尺性からくるものである。短尺試料における臨界電流測定では,熱起電力,誘導電圧,熱的ノイズ,
電流再分配,支持具に対する試料の動きなどからくる異電圧信号の影響を無視できない。また,電圧端子
と電流端子の短い間隔からくるカレント・トランスファー電圧も存在するであろう。
さらに,短い試料であることは,例えば,複合体中での冷媒ガスによる膨れ現象の進行などによって,
ローレンツ力に対する機械的耐性を減ずるおそれもある。
臨界電流値500 A以上の超電導線もこの規格で測定可能であるが,精度及び精確さが低下し,自己磁界
の影響がより顕著になることが予想される。
この試験方法に規定した試験条件に従えば,実際に利用される長い導体の最終的な品質評価に対して
も,必要とされる精度を得ることができる。
この規格は,液体ヘリウム及び液体窒素の両方の測定に適用できる。さらに,液体ヘリウムの気化熱が
他の冷媒に比較して小さいことから,液体ヘリウムの測定が可能であれば,液体ネオン,液体水素などの
他の冷媒での測定にも適用できる。
測定に際し,使用する冷媒(窒素,ヘリウム,ネオン及び水素)は,測定場所の常圧に対応する沸点近
傍の温度のものとする。沸点から外れた温度での冷媒の使用,ガス又は真空中での測定には,この規格を
適用しない。
A.2 要求事項
この試験方法で決定しようとする直流臨界電流は,ある温度及び磁界において,それ以下では超電導体
が抵抗ゼロの状態にあると実用上みなされる最大の直流電流値である。
この試験方法において,試料ホルダーを用意する。
テープ試料の最小全長は,次に示す要素の合計であり,テープ幅(W)の5倍に相当する。
− 電流端子のはんだ付け長さ(2W)
− 電流端子と電圧端子との最短距離(2W)
− 電圧端子間距離(1W)
この規格の目標精度は,試験機関相互の共通試験結果に基づいて設定したものである。過去のVAMAS
共通試験結果(地域並びに全体の共通試験)を用いて,臨界電流測定の精度に影響を及ぼす多くの変数の
公差を定式化し,試験機関相互の比較のための目標精度を4.2 K近傍又は77 K近傍の磁界0 Tにおける測
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定に対して5 %未満の変動係数(標準偏差を平均値で除したものを100倍した値)とした。
試料取付け及び試料冷却手順は,臨界電流測定における総合的な不確かさに対して極めて重要な寄与の
一つになると予想される。
このような試験条件の遵守が難しい簡略化した試験でも,その精度が落ちるとはいえ,この規格を一般
的な試験手順の指針として用いることができる。
この試験方法から外れる銀及び/又は銀合金シースビスマス酸化物超電導線及びテープのIc測定法も将
来の規格には記述されるであろう。
液体水素で測定する場合,ガス爆発の原因となるガス漏れなど付加的な安全対策を講じる必要がある。
A.3 装置
A.3.1 試料ホルダーの材質
この方法において,試料に加わるひずみは最小(0.1 %以下)になるように制御する。0.1 %の熱収縮は,
4.2 K近傍,又は77 K近傍における磁界0 TでのIc値に目立つ影響を及ぼさない。
ひずみの一つの重要な原因は,液体ヘリウム温度又は,液体窒素温度まで冷却するときの試料と試料ホ
ルダーとの間の熱収縮差にある。
表A.1に示す代表的な熱膨張データに基づいて,試料ホルダーの材質を次のように推奨する。代替材質
については簡略試験に先立って適合性を注意深く検討しておく必要がある。
推奨ホルダー材質
− ガラス繊維布の面が試料に平行になるよう配置したガラス繊維エポキシ樹脂複合材料
− セラミックを分散したエポキシ樹脂
− 銀/銀合金材
絶縁層で覆われていない導電性ホルダーを用いたときの漏れ電流は,試験条件下で,試料をホルダーに
付けた場合と付けない場合の測定から推定できる。すなわち,試料を付けない場合の電流端子間の電圧降
下を測定することによって,接触抵抗を含む漏れ電流経路の抵抗が求められる。次に,試料を付けた状態
で,電流端子間の電圧降下を測定することによって,漏れ電流を見積もることができる。
A.3.2 試料ホルダーの構造
試料ホルダーの一例を,図A.1に示す。通常,銅ブロックからなる電流端子は,ホルダー表面と端子表
面とに段差ができないように厚みを設計し,試料ホルダーにしっかりと固定する必要がある。
A.4 試料準備
反応後の試料は,切り出し及び取扱いで損傷を与えないように十分な注意をしなければならない。試料
が動くと,Ic到達前のクエンチ(不可逆熱暴走)及び,電圧ノイズを引き起こし,Icの再現性を低くする
おそれがある。
試料を試料ホルダーにしっかり固定するためには,エポキシ樹脂のような低温接着剤の使用を推奨する。
試料ホルダーの表面は粗く,かつ,清浄であることが,また,試料表面は清浄であることが試料を強固
に固定するのに必要である。
低温接着剤は,はんだ付けからの熱に耐えるものを推奨する。
低温接着剤は,試料と試料ホルダーとの間に薄く塗る。
低温接着剤を塗布後,損傷を与えない程度に試料を試料ホルダーに押さえつける。
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電圧端子間距離は,はんだスポットの大きさに関係なく,はんだ付けされたリード線間の最短距離で定
義する。
A.5 試験方法
試料は,液体ヘリウム又は液体窒素冷媒中に浸し,かつ,マグネットの中央に保持する。電流及び電圧
リード線を室温から測定温度の部分まで配線するため,試料支持具を用いる。
試料に発生する熱起電力を減らすために,冷媒から室温まで継ぎ目がない銅線を用いる。室温における
すべての接合又は接続箇所は一定温度になっていることを要する。冷媒に浸かっているすべての接合又は
接続箇所は一定温度とみなしてよい。
はんだ材料として,通常のPb-60 % Sn及びPb-70 % Snを使ってもよいが,低融点のインジウム,イン
ジウム合金又はビスマス合金が好ましい。
試料の冷却速度は,測定するIcに影響を及ぼす。冷却中に試料と試料ホルダー間に熱収縮差が生じると
固着強度が変化するので,低温接着剤の効果がなくなることがある。
試験用クライオスタットが十分気密でない場合,酸素が不純物となって液体窒素の沸点が変化すること
がある。液体窒素を加圧していないデュワーに数週間保持すると,液体窒素の沸点が変化するほどの量の
酸素が不純物として混入するだろう。
予想される基準電圧値Ucに比較してシステムノイズが大きい場合は,電流をゼロからIcまで増加する掃
引時間を150秒間以上とすることが望ましい。この場合,電流端子の熱容量及び/又は冷却面積を増やし,
長時間の測定による熱の発生を抑えるような配慮が必要になる。電流を段階的に増加させる方法(ステッ
プ掃引法)では,U-I曲線に沿って適切な間隔で取ったデータを平均化する。
試料電流が時間的に変化する場合,電圧端子に正又は負の電圧が誘起される。掃引中のこの望ましくな
い電圧は,電流掃引速度にその電圧が比例することから原因を特定できる。もし,この電圧がUcに比較し
て顕著であるようならば,電流掃引速度を低くするか,電圧端子と試料とによって形成されるループ面積
を減らすようにするか,又はステップ掃引法を利用する。
ステップ掃引法において,ゼロからIcまでの電流掃引速度が3秒間以内でも一致した結果を与える測定
系である場合,電流掃引速度を大きくすることができる。臨界電流が10 A〜200 Aの導体に対して500 A/s
の大きい電流掃引速度にすることも可能である。
試料が動くとスパイクノイズを生じる。支持具は磁界からの力に対して十分耐えられるように固定し,
また,試料ホルダーは支持具に強固に固定していなければならない。
基線電圧には,熱起電力,オフセット電圧,接地ループ電圧,コモンモード電圧などが寄与している。
これらの電圧は,個々のU-I特性を記録している間,比較的安定している。熱起電力電圧及びオフセット
電圧のわずかの変化は,U-I曲線の測定の前後に基線電圧を測り,また,直線的経時変化を仮定すること
によって,大体取り除くことができる。もし,基線電圧の変化がUcに比べて顕著であれば,試験装置の構
成を変更する必要がある。
磁界がゼロ又は十分低い場合の臨界電流試験においては,超電導マグネットの残留磁界は十分に小さく
するか,又は,超電導マグネットの適用を避けなければならない。このことは液体窒素温度近傍での測定
の場合,特に重要である。
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A.6 試験方法の精度及び精確さ
試験機関での臨界電流測定システムの総合的な精度を,部分的にではあるが評価する方法として,米国
ボルダーのNIST(米国標準技術研究所)において開発した図A.2に示すような超電導体シミュレータを入
手して測定する方法がある。
A.7 試験結果の計算法
A.7.1 臨界電流基準
用途によっては,非純銀(又は非銀合金部)断面積が比抵抗基準に用いられる。この断面積は図解求積
法によって決定することができる。
もし,基準電圧に比べて大きな分流による電圧が発生する場合には電流端子と電圧端子間の距離を大き
くする。
A.7.2 n値
Ic近傍における超電導線のU-I特性は,通常,経験的に次のべき乗則で近似できる。
(
)n
I
I
U
U
0
0
/
=
······································································· (A.1)
ここに,
U: 試料電圧(μV)
U0: 参照電圧(μV)
I: 試料電流(A)
I0: 参照電流(A)
べき指数n値(無次元)は,Ic近傍の曲線の形状を反映する。
表A.1−ビスマス系酸化物超電導体及び関係材料の熱膨張データ
熱膨張(%)
材質
温度(K)
273
200
150
100
50
20
10
4
ビスマス2223
銀シーステープ [5]
初回冷却
0
−0.09
−0.14
−0.17
−0.20
−0.20
−0.20
2回目冷却
0
−0.11
−0.18
−0.23
−0.27
−0.27
−0.27
銀[6]
0
−0.135 −0.221 −0.301 −0.360 −0.374 −0.375 −0.375
無酸素銅焼鈍材 [7]
0
−0.118 −0.18
−0.252 −0.288 −0.295 −0.295
G10,織布面方向 [8]
0
−0.09
−0.13
−0.175 −0.205 −0.215 −0.220 −0.225
G10,織布面垂直方向 [8]
0
−0.28
−0.428 −0.54
−0.62
−0.64
−0.65
−0.655
ステンレス鋼
AISI SUS316 [7]
0
−0.111 −0.173 −0.23
−0.262 −0.265 −0.265 −0.265
ステンレス鋼
AISI SUS304 [7]
0
−0.11
−0.172 −0.23
−0.261 −0.264 −0.264 −0.264
注記 熱膨張は,273 Kをゼロとする。
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単位 mm
図A.1−試料ホルダーの例
図A.2−超電導体シミュレータ回路
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附属書B
(参考)
高温酸化物超電導線の臨界電流の磁気ヒステリシス
B.1
磁気ヒステリシス
高温酸化物超電導線の臨界電流(Ic)は,温度,電流,及び印加磁界の強度と角度の履歴に大きく依存
する。ビスマス2223多心超電導線の場合,ある磁界におけるIcは,単調に磁界を上げていったときに比
べ,単調に磁界を下げていったときには100 %も高い値を示すことがある。また,磁界掃引後のゼロ磁界
で測定したIcは,磁界掃引前のゼロ磁界での測定値よりも40 %も低いことがある。ビスマス2212多心超
電導線では,このIcの磁気ヒステリシスはもっと小さく,低磁界では5〜10 %,高磁界では2 %程度であ
る。Icの磁気ヒステリシスは,高温超電導体の中の弱結合に起因するもので,これを取り除くには,超電
導体を臨界温度(Tc)以上の温度に上げればよい[9]。
B.2
測定シーケンス
測定におけるシーケンスは,応用対象の運転シーケンスに倣うことが望ましい。単純なソレノイドコイ
ルの中間面近傍のテープ状線材を例に取ると,線材をまず運転温度まで下げ,次に応用対象マグネットの
負荷曲線に沿って,運転電流又はIcになるまで,磁界(テープ表面に平行な方向)と同時に試料電流を掃
引する。
磁気ヒステリシスが小さい試料の典型的なIcの測定においてはシーケンスを単純化し,磁界及び試料電
流は互いに無関係に掃引できる。すなわち,Icは低い磁界から順に一定磁界中で測定することができる。
高い磁界中に試料をさらした後に磁界を下げて測るとIc値は高くなるが,実際に応用において直面する
ことでない限り,このようなシーケンスは採用するべきではない。一般的に信頼できるシーケンスとは,
a) 試料は,ゼロ磁界においてTcより高い温度から試験温度まで冷やし,
b) 線材と磁界との角度を決め,
c) 低磁界から順にIcを測定する。
もし,他の角度におけるIcが必要ならば,試料をTc以上に加温してから,上記シーケンスを繰り返す。
B.3
磁気ヒステリシスの抑制
磁気ヒステリシスの効果は,磁界を下げる又はゼロにした後,試験する磁界に戻すことによって抑制で
きるかもしれない。この方法を用いると,高磁界(例えば,4.2 K,4 T)におけるビスマス2223多心超電
導線の磁気ヒステリシスを十分小さくできる。この方法が試験線材について有効である場合には,ゼロ磁
界で試料を加温,冷却する過程を省略できる。
Icに及ぼす磁気ヒステリシス効果は,材料プロセス,磁界の強さ,磁界の角度,温度,判定基準並びに
磁界掃引速度など多くの因子に依存する。今後材料が進歩するに従って磁気ヒステリシス効果は小さくな
ると予想される。
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B.4
磁界角度依存性
Icの磁気ヒステリシスは,テープ試料における磁界角度の依存性においても同様に観測される。ビスマ
ス2223多心超電導線の場合,ある磁界角度におけるIcは,磁界のテープ垂直成分が減少するよう角度を
掃引する方が,その逆,すなわち増加するよう掃引するより50 %も高くなることがある。角度掃引では,
磁界掃引の場合と同様に比較的再現性のあるヒステリシスループが得られる。ただし,最初の点(適切な
シーケンス条件で得られた最初の点)は除く。同じ角度依存性であっても,角度を固定して測る(角度を
変えるごとにゼロ磁界中で加温,冷却する。)場合と角度を掃引しながら測る場合とは,おおむね一致する
ものの,磁気ヒステリシスが大きい試料では,幾つかの角度に対して大きく異なり,この違いは20 %にも
及ぶことがある。
参考文献 .JIS H 7302 超電導−第2部:直流臨界電流の試験方法−ニオブ3・すず複合超電導線
注記 対応国際規格:IEC 61788-2,Superconductivity−Part 2: Critical current measurement−DC
critical current of Nb3Sn composite superconductors(IDT)
[1] Bismuth-based high-temperature superconductors. H. Maeda and K. Togano, Editors. Marcel
Dekker, Inc., New York, 1996
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characteristics of a BSCCO-2223 silver sheathed tape coil". Advances in Superconductivity IX,
Springer-Verlag, Tokyo, 1997, p. 957〜960.
[3] OKADA, M., TANAKA, K., FUKUSHIMA, K. SATO, J., KITAGUCHI, H., KUMAKURA, H.,
KIYOSHI, T., INOUE, K. and TOGANO, K. "Bi-2212/Ag superconducting insert magnet for high
field generation over 22 T". Jpn. J. Appl. Phys., vol. 35, 1996, p. L623〜L626
[4] GOODRICH, LF., STRIVASTAVA, AN., and STAUFFER, TC. "Simulators of superconductor
critical current: design, characterization, and construction". J. Res. Natl. Inst. Stand. Technol., vol.
96, 1991, p. 703〜724
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thermal cycle on thermal expansion of silver-sheathed Bi2223 tape at 10 - 310 K". Cryogenics, vol.
38, 1998, p. 397〜399.
[6] Properties of Materials at Low Temperature (Phase 1), edited by V.J. Johnson, Pergamon Press,
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superconducting magnets". IEEE Trans. on Magnetics, vol. MAG-17, 1981, p. 2316〜2319.
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oxide superconductors". J. Res. Natl. Inst. Stand. Technol. vol. 106, 2001, p.657〜690