H 7001:2009
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
目 次
ページ
1 適用範囲························································································································· 1
2 用語の分類 ······················································································································ 1
3 用語及び定義 ··················································································································· 1
H 7001:2009
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
まえがき
この規格は,工業標準化法第14条によって準用する第12条第1項の規定に基づき,財団法人大阪科学
技術センター付属ニューマテリアルセンター (OSTEC) 及び財団法人日本規格協会 (JSA) から工業標準
原案を具して日本工業規格を改正すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大
臣が改正した日本工業規格である。
これによって,JIS H 7001:2002は改正され,この規格に置き換えられた。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実用新案登録出願に
抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許
権,出願公開後の特許出願,実用新案権及び出願公開後の実用新案登録出願にかかわる確認について,責
任はもたない。
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日本工業規格
JIS
H 7001:2009
形状記憶合金用語
Glossary of terms used for shape memory alloys
1
適用範囲
この規格は,形状記憶合金に関する主な用語及び定義について規定する。
2
用語の分類
用語の分類は,次のとおりとする。
a) 基礎物性・特性
b) 形状記憶特性・超弾性特性
c) 熱処理及びその他の処理
3
用語及び定義
用語及び定義は,次による。
なお,参考のために対応英語を示す。
注記 定義の説明の中で( )を付けてあるものは,同義及び略号の場合,又は前の用語を置き換え
る場合の二通りがある。
a) 基礎物性・特性
番号
用語
定義
対応英語(参考)
1001
形状記憶効果
ある形状の合金を低温相(マルテンサイト)の状態で異なる
形状に変形させても,高温で安定な相(オーステナイト)に
なる温度に加熱するとマルテンサイト逆変態が起こること
で,変形前の形状に戻る現象。
shape memory effect
1002
形状記憶合金
形状記憶効果を示す合金。
注記 Ti-Ni合金,Ti-Ni-Cu合金,Cu-Zn-Al合金,Fe-Mn-Si
合金などがある。
shape memory alloys
1003
磁性形状記憶合金
形状記憶合金としての性質及び磁性材料としての性質を併せ
もつ合金。
注記 Ni-Mn-Ga合金,Fe-Pd合金などの強磁性形状記憶合金
では,マルテンサイトに磁場を負荷することで大きな
ひずみを発生することができる。
magnetic shape memory
alloys
2
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番号
用語
定義
対応英語(参考)
1004
マルテンサイト変態
固体間の相変態の一種で,高温で安定な相(オーステナイト)
を冷却したとき,ある温度で,原子が拡散を伴わずにせん断
変形的に連携移動して,異なる結晶構造の低温相(マルテン
サイト)に変化する相変態。
注記 マルテンサイト変態の特徴を,次に示す。
a) 無拡散変態である。
b) 表面起伏(形状変化)を伴う。
c) 母相とマルテンサイトの結晶格子との間に特定の
格子対応及び方位関係がある。
d) 晶へき面をもつ。
martensitic
transformation
1005
マルテンサイト
マルテンサイト変態によって生じる低温相の名称。
注記 マルテンサイトは,母相からの冷却だけで生じるので
はなく,母相状態で応力,静水圧又は磁場を加えるこ
とによっても生じることがある。
martensite
1006
オーステナイト
マルテンサイト変態に関与する相で,高温側で安定に存在す
る相。
注記 母相又は高温相ともいう。
austenite
1007
B2相
Ti-Ni系形状記憶合金のオーステナイト相。
B2 phase
1008
B19ʼ相
Ti-Ni系形状記憶合金で生成する単斜晶のマルテンサイト。
B19ʼ phase
1009
B19相
Ti-Ni-Cuなどで生成する斜方晶のマルテンサイト。
注記 B19相へのマルテンサイト変態は,変態ひずみが約5 %
ありながら温度ヒステリシスが小さいため,アクチュ
エータとしての応用に適している。
B19 phase
1010
R相
Ti-Ni系形状記憶合金で,母相とB19ʼ相との中間の温度域で生
成する三方晶のマルテンサイト。
注記 R相が出現するかどうかは組成又は内部組織によって
異なり,相変態がB2→R→B19ʼの二段になる場合と,
B2→B19ʼの一段になる場合とがある。Ti-Ni合金では,
転位などの加工組織又は析出物が存在するときにR相
が生成しやすくなる。B2相からR相へのマルテンサイ
ト変態は,B2相からB19ʼ相へのマルテンサイト変態と
比較して変態ひずみ,温度ヒステリシス及び応力ヒス
テリシスが小さい。
R phase
1011
R相変態
Ti-Ni系形状記憶合金でR相を生じるマルテンサイト変態。
R phase transformation
1012
熱弾性形マルテンサ
イト変態
変態による化学自由エネルギーの変化と変態に伴う弾性ひず
みエネルギーの変化とが,平衡を保ちながら起きるようなマ
ルテンサイト変態。
注記 この種の変態が起こる合金では,マルテンサイトとオ
ーステナイトとの界面の整合性が良いため,その移動
が容易に起こる。そのためマルテンサイトは,温度の
変化に対応して成長又は縮小し,変態の可逆性に優れ,
温度ヒステリシスも小さい。形状記憶合金のマルテン
サイト変態は,ほとんどの合金で熱弾性形である。
thermo-elastic
martensitic
transformation
1013
応力誘起マルテンサ
イト変態
母相の安定な温度領域で,負荷応力によって誘起されるマル
テンサイト変態。
stress-induced
martensitic
transformation
1014
磁場誘起マルテンサ
イト変態
外部磁場によって誘起されるマルテンサイト変態。
magnetic field induced
martensitic
transformation
3
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番号
用語
定義
対応英語(参考)
1015
多段変態
マルテンサイト相を冷却したり,応力,磁場などの外場を負
荷することで異なった構造のマルテンサイト相へと変態する
こと。
multistep
transformation,
successive
transformation
1016
擬弾性
原子間隔の変化に起因する弾性以外の機構で生じる,見かけ
の弾性の総称。
pseudoelasticity
1017
超弾性
負荷時に応力誘起マルテンサイト変態によって生じた変形
が,除荷時の逆変態によって回復する性質。
注記 このようなマルテンサイト変態に伴う超弾性を,変態
擬弾性ともいう。また,マルテンサイトの双晶界面の
可逆的な運動によって生じるものは,双晶擬弾性とい
って区別する。
超弾性,双晶擬弾性では,弾性ひずみの数倍〜数十
倍のひずみが除荷時に回復する。
superelasticity
1018
逆変態
冷却又は負荷に伴って生じた相変態が,加熱又は除荷に伴っ
て母相に逆戻りする変態。
注記 加熱の場合には,マルテンサイトからオーステナイト
へ,R相からオーステナイトへ,又はマルテンサイト
からR相への変態がある。
応力誘起マルテンサイト変態の場合には,マルテン
サイトから構造の異なるマルテンサイトへの逆変態も
ある。
reverse transformation
4
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
番号
用語
定義
対応英語(参考)
1019
変態温度
相変態が起こる温度。
注記 マルテンサイト変態の場合には,次のような記号が用
いられる。
Ms:冷却時に,オーステナイトからマルテンサイトへ
の変態が開始する温度。
Mp:冷却時の,オーステナイトからマルテンサイトへ
の変態の発熱ピーク温度。
Mf:冷却時に,オーステナイトからマルテンサイトへ
の変態が終了する温度。
As:加熱時に,マルテンサイトからオーステナイトへの
逆変態が開始する温度。
Ap:加熱時の,マルテンサイトからオーステナイトへ
の逆変態の吸熱ピーク温度。
Af:加熱時に,マルテンサイトからオーステナイトへの
逆変態が終了する温度。
R相変態の場合にも上記に準じた記号を用いることが
ある。
なお,これらの記号の後に温度又は点を付けて表示
する場合もある(例えば,Af温度,Af点など)。
図1−DSC(示差走査熱量測定)曲線におけるマルテンサイ
ト変態温度及び逆変態温度の求め方
transformation
temperature
1020
生体適合性
細胞,血液,結合組織などの生きた生体組織に直接的に接触
して利用され,長期間にわたって生体に悪影響も強い刺激も
与えず,本来の機能を果たしながら生体と共存できる性質
(JIS K 3600参照)。
biocompatibility
5
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b) 形状記憶特性・超弾性特性
番号
用語
定義
対応英語(参考)
2001
形状回復力
形状記憶効果によって,形状が元へ戻るときに発生する力。
注記 発生力ともいう。
shape recovery force
2002
形状回復ひずみ
形状記憶効果によって,回復可能なひずみ。
注記 形状回復量ともいう。
shape recovery strain
2003
形状回復温度
形状記憶効果によって,形状回復が終了する温度。
注記 逆変態が終了する温度Afで代用する場合がある。
shape recovery
temperature
2004
一方向形状記憶効果
高温相における形状だけを記憶しており,加熱時には形状回
復するが,冷却時には形状変化しない形状記憶効果。
注記 不可逆形状記憶効果ともいう。
one-way shape memory
effect,
irreversible shape
memory effect
2005
二方向形状記憶効果
高温相と低温相との両方の形状を記憶しており,外部応力を
加えなくても加熱時ばかりでなく冷却時にも形状変化する形
状記憶効果。
注記 可逆形状記憶効果ともいう。また,拘束時効処理した
Ni過剰なTi-Ni合金に現れる二方向形状記憶効果を特
に全方位形状記憶効果といい,トレーニング,拘束加
熱又は強変形の二方向形状記憶処理で生じた二方向形
状記憶効果よりも低温での形状回復力及び形状回復量
が大きい。
two-way shape memory
effect,
reversible shape
memory effect
2006
温度ヒステリシス
加熱時と冷却時における変態温度の差。
注記 通常Af温度とMs温度との差を指す。熱ヒステリシスと
もいう。
thermal hysteresis
2007
応力ヒステリシス
応力誘起マルテンサイト変態において,負荷時にマルテンサ
イト変態を誘起するために必要な応力と,除荷時にマルテン
サイトが母相に逆変態する応力との差。
stress hysteresis
2008
形状記憶素子
形状記憶処理によって,一定の形状を記憶した形状記憶効果
を機能とする素子。
shape memory element
2009
超弾性素子
超弾性処理によって,所定の形状への超弾性復元を機能とす
る素子。
superelastic element
2010
形状記憶ばね
形状記憶合金で製造され,形状記憶効果を示すばね。
注記 通常のばねが弾性によって形状回復するのに対して,
このばねでは,温度変化によって形状回復する。
圧縮コイルばね,引張コイルばね,薄板ばね,皿ば
ねなどがあり,圧縮コイルばねでは,形状回復時に伸
張し,引張コイルばねでは,形状回復時に収縮する。
shape memory alloy
spring
2011
超弾性ばね
形状記憶合金で製造され,超弾性による復元を示す特殊なば
ね。
注記 形状記憶ばねと異なり,直線,アーチなどの単純形状
用途が多い。
superelastic spring
2012
バイアス法
形状記憶素子において,コイルばね,板ばねなどを用いて形
状記憶素子の駆動部に外部応力を負荷して,二方向動作を繰
り返し行わせる方法。
bias method
2013
バイアスばね
バイアス法において,外部応力を負荷するために用いるばね。
bias spring
6
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2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
番号
用語
定義
対応英語(参考)
2014
残留伸び
超弾性においては,応力を負荷して変形した後,除荷時に残
留する伸び。形状記憶効果においては,マルテンサイト相状
態で変形し,形状回復温度以上に加熱した後に残留する伸び。
注記 残留ひずみという場合もある。
図2−超弾性における残留伸び
注記 破線は加熱による形状回復を示す。
図3−形状記憶効果における残留伸び
residual elongation
c) 熱処理及びその他の処理
番号
用語
定義
対応英語(参考)
3001
溶体化処理
合金を高温側の固溶体領域まで加熱して,その温度に適切な
時間保持して焼き入れし,固溶体化する処理。
solution heat treatment
3002
均質化処理
Ti-Ni系形状記憶合金などの規則合金を規則化温度以下の高
温で保持することで,組成むら及び加工組織のない単相状態
とする処理。
homogenization
treatment
3003
時効処理
焼入れ又は加工によって生じた欠陥を除去したり,析出物を
生じさせる目的で行われる熱処理の総称。
注記 Ti-Ni合金では析出を促進し,銅系合金では母相を安定
化させるために行う。
aging treatment
3004
形状記憶処理
形状を記憶させるために所定の形状に拘束して,オーステナ
イト状態の一定温度に加熱する処理。
注記 一方向形状記憶処理ともいう。
shape memory treatment
3005
二方向形状記憶処理
二方向形状記憶効果を付与するために,オーステナイトに内
部応力場を導入するための処理。
注記 トレーニング,強変形,拘束時効処理などがある。
two-way shape memory
treatment
7
H 7001:2009
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番号
用語
定義
対応英語(参考)
3006
トレーニング
形状記憶効果,二方向形状記憶効果を発現させ,又は特性を
改善するために,応力と温度との両方の効果を与えてマルテ
ンサイト変態と逆変態とを繰り返す操作。
注記 次のような操作がよく知られている。
1) 応力下又はひずみ下で,Mf点以下の温度とAf点以
上の温度との間で冷却・加熱の操作を繰り返す。
2) Ms点又はMf点以下の温度に冷却して変形し,次い
で外力を除いてAf点以上の温度に加熱するという
操作を繰り返す(形状記憶効果トレーニング)。
3) Af点以上の温度で応力誘起マルテンサイト変態を
起こさせ,次いで荷重を除くという操作を繰り返
す(応力誘起トレーニング)。
training
3007
拘束時効処理
変形した形状に拘束したままで時効処理すること。
注記 主にTi-Ni合金でB2相中に微細な析出物を析出させ,
二方向形状記憶効果を導き出すための方法の一つとな
っている。
constrained aging
treatment
3008
超弾性処理
所定の形状への超弾性復元性を付与するために行う熱処理。
注記 熱処理温度は,形状記憶処理に比べ低く,ランニング
炉での短時間処理の場合もある。
superelastic treatment
参考文献 JIS K 3600 バイオテクノロジー用語