日本工業規格
JIS
H
1656
-1989
ジルコニウム及びジルコニウム
合金中のクロム定量方法
Methods for Determination of Chromium in Zirconium
and Zirconium Alloys
1.
適用範囲 この規格は,ジルコニウム及びジルコニウム合金中のクロム定量方法について規定する。
引用規格:
JIS H 1650
ジルコニウム及びジルコニウム合金の分析方法通則
JIS H 1654
ジルコニウム及びジルコニウム合金中の鉄定量方法
JIS H 1655
ジルコニウム及びジルコニウム合金中のニッケル定量方法
JIS H 1659
ジルコニウム合金中のすず定量方法
JIS K 8005
容量分析用標準試薬
2.
一般事項 分析方法に共通な一般事項は,JIS H 1650(ジルコニウム及びジルコニウム合金の分析方
法通則)による。
3.
定量方法の区分 クロムの定量方法は,次のいずれかによる。
(1)
ジフェニルカルバジド吸光光度法 この方法は,クロム含有率 0.001wt%以上 0.2wt%未満の試料に適
用する。
(2)
誘導結合プラズマ発光分光法 この方法は,クロム含有率 0.01wt%以上 0.2wt%未満の試料に適用する。
4.
ジフェニルカルバジド吸光光度法
4.1
要旨 試料をふっ化水素酸とほう酸との混酸で分解した後,硫酸及び過マンガン酸カリウムを加え,
加熱してクロムを酸化する。尿素を加え,過剰の過マンガン酸を亜硝酸ナトリウムで分解し,ジフェニル
カルバジドを加えてジフェニルカルバジドクロム錯体を生成させ,光電光度計を用いて,その吸光度を測
定する。
4.2
試薬 試薬は,次による。
(1)
硝酸
(2)
硫酸 (1+5)
(3)
ふっ化水素酸・ほう酸溶液 ふっ化水素酸 100ml にほう酸 50g を少量ずつ加えて溶解した後,ポリエ
チレン瓶に保存する。
(4)
亜硝酸ナトリウム溶液 (100g/l)
(5)
過マンガン酸カリウム溶液 (30g/l)
2
H 1656-1989
(6)
鉄溶液 (50
µgFe/ml) 硫酸アンモニウム鉄 (III) ・12 水 0.432g を水に溶解し,水で液量を 1l とする。
(7)
尿素溶液 (100g/l)
(8)
ジフェニルカルバジド溶液 ジフェニルカルバジド 0.50g をエタノール (95) 100ml に溶解する。この
溶液は,使用の都度調製し,褐色瓶に保存する。
(9)
標準クロム溶液 (5
µgCr/ml) 二クロム酸カリウム[JIS K 8005(容量分析用標準試薬)]を正しく
0.283g
はかり取り,水に溶解し,溶液を 1 000ml の全量フラスコに水を用いて移し入れ,水で標線ま
で薄めて原液 (100
µgCr/ml) とする。この原液を使用の都度必要量だけ水で正しく 20 倍に薄めて標準
クロム溶液とする。
4.3
試料はかり取り量 試料はかり取り量は,2.0g とする。
4.4
操作
4.4.1
試料溶液の調製 試料溶液の調製は,次の手順によって行う。
(1)
試料をはかり取ってポリエチレンビーカー (100ml) に移し入れ,ポリエチレン時計皿で覆い,水 20ml
及びふっ化水素酸・ほう酸溶液 [4.2(3)] 10ml を加えて分解する(
1
)
。不溶性残さがある場合は,硝酸数
滴を加えて分解する。
(2)
常温まで冷却した後,時計皿の下面を水で洗って時計皿を取り除き,溶液を 200ml の全量フラスコに
水を用いて移し入れ,水で標線まで薄める。
注(
1
)
分解の速さは試料の厚さによって異なり,必要がある場合は水浴上で加熱して分解する。
4.4.2
呈色 呈色は,次の手順によって行う。
(1) 4.4.1(2)
で得た溶液の一定量(
2
)
をビーカー (100ml) に分取する。
(2)
硫酸 (1+5) 5ml を加え,水で液量を約 40ml とした後,過マンガン酸カリウム溶液を滴加し,溶液が
赤紫色を呈してから更に 2,3 滴過剰に加える。時計皿で覆い,穏やかに数分間煮沸してクロムを完全
に酸化する。
(3)
室温まで冷却した後,時計皿の下面を水で洗って時計皿を取り除き,尿素溶液 20ml を加えて振り混
ぜる。亜硝酸ナトリウム溶液を滴加して過マンガン酸の赤紫色を消失させ,過剰の亜硝酸と尿素との
反応による泡立ちがやむまで振り混ぜる。
(4)
溶液を 100ml の全量フラスコに水を用いて移し入れ,20℃以下に冷却した後,ジフェニルカルバジド
溶液 [4.2(8)] 5ml を加え,水で標線まで薄め,約 5 分間放置する。
注(
2
)
クロム含有率に応じて適量を取る。特に,ジルコニウム合金管の分析では,クロム量が40∼80
µg
となるように分取することが望ましい。この場合,残りの溶液から鉄及びニッケルを定量する
ことができる。
4.4.3
吸光度の測定 4.4.2(4)で得た溶液の一部を光度計の吸収セル(10mm,ガラス製)に取り,水を対
照液として波長 540nm 付近の吸光度を測定する。
4.5
空試験 試料を用いないで試料と同じ操作を試料と並行して行う。
4.6
検量線の作成 200ml の全量フラスコにふっ化水素酸・ほう酸溶液 [4.2(3)] 10ml を取り,水で標線
まで薄める。この溶液から 4.4.2(1)で分取した量と同量を数個のビーカー (100ml) に取り,標準クロム溶
液 [4.2(9)] 0∼20.0ml(クロムとして 0∼100
µg)を段階的に加える(
3
)
。以下,4.4.2(2)∼4.4.3 の手順に従っ
て操作し,得た吸光度とクロム量との関係線を作成し,その関係線を原点を通るように平行移動して検量
線とする。
注(
3
)
試料中にクロム量の5倍以上の鉄が存在する場合には,4.4.2(1)で分取した溶液中の鉄と同量とな
るように鉄溶液 [4.2(6)] を加える。
3
H 1656-1989
4.7
計算 4.4.3 で得た吸光度から 4.5 で得た吸光度を差し引いて得られる吸光度と,4.6 で作成した検量
線とからクロム量を求め,試料中のクロム含有率を次の式によって算出する。
100
%
wt
×
×
=
B
m
A
クロム
ここに,
A
: 分取した試料溶液中のクロム検出量 (g)
m
: 試料はかり取り量 (g)
B
: 試料溶液及び空試験液の分取比
5.
誘導結合プラズマ発光分光法
5.1
要旨
試料をふっ化水素酸及び塩酸で分解した後,溶液を誘導結合プラズマ(以下,ICP という。
)
発光分光装置のアルゴンプラズマ中に噴霧し,その発光強度を測定する。
5.2
試薬
試薬は,次による。
(1)
塩酸 (1+1)
(2)
硝酸
(3)
ふっ化水素酸 (1+1,1+6)
調製及び保存には,ポリエチレン容器を用いる。
(4)
硫酸
(5)
硫酸 (1+1)
(6)
ジルコニウム(99wt%以上) クロム,すず,鉄及びニッケル含有率が既知のもの
(
4
)
。
(7)
硫酸アンモニウム
(8)
イットリウム溶液 (1mgY/ml)
酸化イットリウム 0.635g を塩酸 10ml で加熱して分解し,常温まで冷
却した後,水で液量を正しく 500ml とする。
(9)
標準すず溶液 (1mgSn/ml)
すず(99.9wt%以上)0.500g をはかり取って白金片を入れたビーカー
(300ml)
に移し入れ,塩酸 (1+1) 100ml を加え,すずと白金片を接触させながら,煮沸しない程度に
加熱して分解する。常温まで冷却した後,溶液を 500ml の全量フラスコに塩酸 (1+5) を用いて移し
入れ,塩酸 (1+5) で標線まで薄める。
(10)
標準鉄溶液 (1mgFe/ml)
鉄(99.5wt%以上)0.200g を硝酸 (1+1) 20ml で加熱して分解し,常温まで
冷却した後,溶液を 200ml の全量フラスコに水を用いて移し入れ,水で標線まで薄める。
(11)
標準ニッケル溶液 (1mgNi/ml)
ニッケル(99.9wt%以上)0.200g を硝酸 (1+1) 10ml で加熱して分解
し,常温まで冷却した後,溶液を 200ml の全量フラスコに水を用いて移し入れ,水で標線まで薄める。
(12)
標準クロム溶液 (1mgCr/ml)
二クロム酸カリウム (
JIS K 8005
)
を正しく 0.283g はかり取り,水に溶
解し,溶液を 100ml の全量フラスコに水を用いて移し入れ,水で標線まで薄める。
(13)
混合標準溶液 (100
µgFe/ml, 50µgNi/ml, 50µgCr/ml) 標準鉄溶液 [
(10)
] 20.0ml
,標準ニッケル溶液
[
(11)
] 10.0ml
及び標準クロム溶液 [
(12)
] 10.0ml
を 200ml の全量フラスコに取り,
水で標線まで薄める。
使用の都度調製する。
注(
4
)
クロムは
4.
のジフェニルカルバジド吸光光度法,すずは
JIS H 1659
(ジルコニウム合金中のす
ず定量方法)の
5.
の8-キノリノール抽出吸光光度法,鉄は
JIS H 1654
(ジルコニウム及びジルコ
ニウム合金中の鉄定量方法)の
4.
の1, 10-フェナントロリン吸光光度法,ニッケルは
JIS H 1655
(ジルコニウム及びジルコニウム合金中のニッケル定量方法)の
4.
のジメチルグリオキシム抽
出吸光光度法によって,それぞれ試料を分取しないで定量して,含有率を求める。
5.3
試料はかり取り量
試料はかり取り量は,0.50g とする。
4
H 1656-1989
5.4
操作
5.4.1
試料の分解
試料の分解は,次のいずれかによる。
(1)
ふっ化水素酸・塩酸分解
(a)
試料をはかり取る。
(b)
はかり取った試料をポリエチレンビーカー (100ml) に移し入れ,ポリエチレン時計皿で覆い,ふっ
化水素酸 (1+6)
[5.2(3)]
5ml
及び塩酸 (1+1) 4ml を加え,しばらく放置した後,水浴上で加熱して
分解する。不溶性残さがある場合は,硝酸数滴を加えて分解する。常温まで冷却した後,時計皿の
下面を水で洗って時計皿を取り除く。
(2)
硫酸・硫酸アンモニウム分解
(a)
試料をはかり取る。
(b)
はかり取った試料をビーカー (100ml) に移し入れ,時計皿で覆い,硫酸 5ml 及び硫酸アンモニウム
4g
を加え,白煙が発生するまで加熱して分解する。放冷した後,硝酸数滴を加え,再び白煙が発生
するまで加熱する。放冷した後,水を加え,加熱して塩類を溶解する
(
5
)
。常温まで冷却した後,時
計皿の下面を水で洗って時計皿を取り除く。
(3)
ふっ化水素酸分解
(a)
試料をはかり取る。
(b)
はかり取った試料を白金皿(75 番)に移し入れ,ポリエチレン時計皿で覆い,水約 10ml を加えた
後,ふっ化水素酸 (1+1)
[5.2(3)]
2ml
を少量ずつ加えて分解する。不溶性残さがある場合は,硝酸
数滴を加えて分解する。放冷した後,時計皿の下面を水で洗って時計皿を取り除き,硫酸 (1+1)
6.0ml
を加え,加熱蒸発して濃厚な白煙を 5 分間発生させる
(
5
)
。放冷した後,少量の水を加え,加
熱して塩類を溶解し,常温まで冷却する。
注(
5
)
残存する硫酸量は発光強度に影響を与えるので,白煙の発生状態に注意する。残存する硫酸量
が一定しないときは,内標準法を用いなければならない。
5.4.2
発光強度の測定
発光強度の測定は,次の手順によって行う。
(1)
5.4.1(1)(b)
,
5.4.1(2)(b)
又は
5.4.1(3)(b)
で得た溶液を 100ml の全量フラスコに水を用いて移し入れ
(
6
)
,水
で標線まで薄める。
(2)
溶液の一部を ICP 発光分光装置のアルゴンプラズマ中に噴霧し,波長 267.72nm (CrII) 又は 205.5nm
(CrII)
の発光強度を測定
(
7
)
,
(
8
)
する。
注(
6
)
2
本以上のスペクトル線の波長による同時測定が可能な装置では,内標準法によることができる。
このときは,イットリウム溶液
[5.2(8)]
5.0ml
を加える。
(
7
)
高次のスペクトル線の測定が可能な装置では,高次のスペクトル線を用いてもよい。
(
8
)
(
6
)
を適用した場合には,内標準法として用いるイットリウムの発光強度を波長 371.03nm (YII)
を用いてクロムの発光強度と同時に測定し,クロムとイットリウムの発光強度比を求める。た
だし,
5.4.1(1)
で
(
6
)
を適用した場合には,
5.4.2(1)
の操作終了後 5 時間以内に測定を行う。
5.5
空試験
空試験は行わない。
5.6
検量線の作成
ジルコニウム [
5.2(6)
] 0.50g
ずつ 4 個はかり取る。
5.4.1(1)(b)
,
5.4.1(2)(b)
又は
5.4.1(3)(b)
に従って分解し,常温まで冷却した後,100ml の全量フラスコに水を用いて移し入れ,標準すず溶液
[5.2(9)
]0
,
5.0
,10.0 及び 15.0ml 並びに混合標準溶液 [
5.2(13)
] 0
,5.0,10.0 及び 15.0ml をそれぞれ正しく加え
(
9
)
,水
で標線まで薄める。以下,
5.4.2(2)
に従って試料と並行して操作し,得た発光強度又は発光強度比
(
10
)
とクロ
ム添加量との関係線を作成して検量線とする。
5
H 1656-1989
注(
9
)
(
6
)
を適用した場合には,イットリウム溶液 [
5.2(8)
] 5.0ml
を加える。
(
10
)
(
8
)
を適用した場合に用いる。
5.7
計算
5.4.2(2)
で得た発光強度又は発光強度比
(
10
)
と
5.6
で作成した検量線とからクロム量を求め,試
料中のクロム含有率を次の式によって算出する。
100
%
wt
2
1
×
+
=
m
A
A
クロム
ここに,
A
1
:
試料溶液中のクロム検出量 (g)
A
2
:
検量線作成に用いたジルコニウム 0.50g 中に含まれるクロム量 (g)
m
:
試料はかり取り量 (g)
ジルコニウム及びジルコニウム合金中のクロム定量方法改正
JIS
原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(委員長)
多 田 格 三
日本原子力研究所
橋 谷 博
島根大学
吉 森 孝 良
東京理科大学
河 面 慶四郎
通商産業省基礎産業局
加 藤 康 弘
工業技術院標準部
大河内 春 乃
科学技術庁金属材料技術研究所
澤 口 健 治
社団法人新金属協会
谷 口 政 行
株式会社神戸製鋼所
中 村 靖
日本鉱業株式会社
仲 山 剛
住友金属工業株式会社
野 村 紘 一
三菱金属株式会社
秋 山 孝 夫
動力炉・核燃料開発事業団
岡 下 弘
日本原子力研究所
石 井 淑 升
日本ニュクリア・フュエル株式会社
束 原 巌
古河電気工業株式会社
池 田 順 一
財団法人日本規格協会
(関係者)
近 藤 弘
工業技術院標準部材料規格課
斉 藤 和 則
工業技術院標準部材料規格課
(事務局)
今 井 康 弘
社団法人新金属協会