2019年7月1日の法改正により名称が変わりました。まえがきを除き,本規格中の「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えてください。
日本工業規格 JIS
H 0530-1993
復水器用銅合金管分極抵抗測定方法
Measurement methods of polarization resistance
of copper alloy tubes for condenser
1. 適用範囲 この規格は,復水器用黄銅管,復水器用白銅管などの銅合金管の分極抵抗の測定方法につ
いて規定する。
2. 用語の定義 この規格で用いる主な用語の定義は,次のとおりとする。
(1) 分極 外部からの電源によって測定管と溶液の界面に電流を流すことによって測定管の電位を自然電
極電位より変位させること又はその状態。
(2) 分極抵抗 金属材料が腐食されているとき,電位を印加して流れる電流がオームの法則に従っている
状態。
なお,分極抵抗値は式(1)を用いて計算した値。
i
E
Rp
⊿
=
················································································ (1)
ここに,
RP: 測定管の分極抵抗値(Ω・cm2)
⊿E: 測定管に印加される電位,すなわち自然電極電位からの分極
量 (mV)
i: 測定された電流密度 (mA/cm2)
(3) 人工海水 海水とほぼ同じ作用があるように,人工的に調整した塩水溶液。
(4) 比較電極 溶液に浸した銅合金の電位を測定するために用いる銀−塩化銀のような電極。
(5) 対極 測定管に電流を流すために用いる白金板のようなもう1本の電極。
(6) 自然電極電位 測定管を溶液に浸したときに測定管と溶液の界面に生じる電位。
(7) 抜管 分極抵抗測定のため復水器から管を器外へ取り出す操作。
(8) 引抜管 抜管によって器外へ取り出した復水器管。
(9) 測定管 測定のため引抜管から切り出した短管。
(10) 新管 測定管と同じ材質で,内面に汚れなどのない新しい管。
3. 測定管の調製
3.1
実機装着状態における評価のための測定管の調製
3.1.1
概要 循環水ポンプを停止後,速やかに水室ブローをして,対象管に施栓し,抜管まで管内を湿潤
状態に保持する。抜管後,湿潤状態を引き続き維持できるような処置を行った後,施栓し,測定実施場所
へ運搬する。
3.1.2
抜管及び運搬 抜管及び運搬は,次による。
2
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(1) 循環水ポンプを停止後,速やかに水室ブローする。
(2) 水室ブロー後,速やかにマンホールを開放し,管内が湿潤状態であることを確認の上,抜管する管の
両端をゴム栓で施栓する。
(3) 抜管の準備が完了後,ゴム栓を一時はずして抜管する。
(4) 引抜管を短く切る場合には,切り粉が内面に付着しにくい器具を用い切断する。
(5) 引抜管には直ちに両端にゴム栓をする。管内が乾燥するおそれがある場合には,適当量のろ過冷却水
(1)又は3%塩化ナトリウム水溶液で湿らせる。
注(1) 0.47μmのフィルタを用いてろ過した冷却水。
(6) 引抜管には,冷却水の流れた方向,入口からの順序,実機装着時の管の天地など,必要事項を記入す
る。
(7) 引抜管をクッション材で包み,更に,木箱又は断熱性のよい容器に収め,測定実施場所に運搬する。
(8) 引抜管は直射日光に当てたり,温度の急激な変化を与えてはならない。
3.1.3
保管 水室ブロー後,測定までの日数は短いことが望ましい。30日以上経過後の測定は行わない。
また,引抜管は,直射日光に当てたり,温度の急激な変化を与えてはならない。
3.1.4
測定管の切出し 測定管の切り出しは,次による。
(1) 引抜管の施栓を取り外す。
(2) できるだけ多数の測定管を切り出すことが望ましい。1本だけ測定する場合には引抜管の中央部から
測定管を切り出す。もし,それが不可能な場合には,入口端,出口端からそれぞれ2m分を除いた部
分から測定管を切り出す。
(3) 切り出しに当たっては,できるだけ付着物のはく(剥)離がなく,また,乾燥していない部分を選ぶ。
3.2
乾燥後の評価のための測定管の調製 乾燥後の評価のための測定管の調製は,次による。
(1) 測定実施場所に到着後,引抜管から施栓を取り外す。
(2) できるだけ多数の測定管を切り出すことが望ましい。1本だけ測定する場合には引抜管の中央部から
測定管を切り出す。もし,それが不可能な場合には,入口端,出口端からそれぞれ2m分を除いた部
分から測定管を切り出す。
(3) 切り出しに当たっては,できるだけ付着物がはく(剥)離していない部分を選ぶ。
(4) 管内が乾燥していない場合には,直射日光の当たらない,清浄な室内に放置して,十分に乾燥させる。
4. 分極抵抗の測定方法
4.1
概要 測定管外表面の溶液との接液部,切断端面及び管内表面の皮膜の脱落した部分に電気的な絶
縁処理を施した後,測定管を試験溶液中に一定時間浸せきし,管内表面を可能な限り実機使用時の状態に
復元させる。測定管を測定装置に取り付け,所定流速で試験溶液を流しながら測定する。
4.2
測定方法の種類 分極抵抗の測定方法は,次のいずれかによる。
(1) 大分極による方法 測定管を自然電極電位から一定量陰分極させた電位と,その電位における電流値
から分極抵抗を算出する方法。
(2) 小分極による方法 測定管に一定の小電流を流したときの電流値と,その電位から分極抵抗を算出す
る方法。
4.3
大分極による方法
4.3.1
装置装置は,次によることとし,その構成例を図1に示す。
(1) ポテンショスタット 電位の設定及び電流値測定用計器。高精度の測定を行うためには,ポテンショ
3
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スタットの電位測定回路の入力インピーダンスは109Ω以上,応答速度は10-3秒以下であることが望ま
しい。
なお,ポテンショスタットには記録計を接続し,電位及び電流の変化を常時監視すること。
(2) 測定用セル(測定管取付部) ポリ塩化ビニル樹脂,ポリアクリル樹脂,ガラスなどの電気的絶縁体
でできており,比較電極,対極及び測定管を取り付けることができ,更に,試験溶液を所定の流速で
流すことができる構造をもつもの。
測定用セルの一例を図2に示す。
(3) 通水装置 水槽,送水ポンプ,流量計,流量調節バルブ及び通水配管で構成し,次の規定を満足する
もの。
なお,試験溶液と接触する箇所はできる限り電気絶縁体で構成すること。
(a) 流量計 ±1%の誤差で測定可能な流量計を使用すること。
(b) 水槽 測定溶液を一定温度に維持するために十分な容量をもつか,冷却配管,電気ヒータなどの温
度調節装置を備えること。
図1 大分極による測定装置構成図(例)
4
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図2 測定用セル(測定管取付部)(例)
4.3.2
比較電極及び対極 比較電極及び対極は,次による。
(1) 比較電極 3.33mol/lKCl銀−塩化銀電極又は飽和カロメル電極を直接又は塩橋を介して使用する。比
較電極は2本以上準備し,試験溶液中でそれぞれの電極において同一金属の電位を計測し,測定値の
差が3mV以内であることを確認した後,使用する。
備考 比較電極は1mV/℃程度の温度依存性をもつので,分極量が−10mV以下の小さな場合や塩橋を
使用する場合には,測定中に比較電極の温度を変化させないこと。
(2) 対極 白金線,白金板又は白金めっきチタン線を使用する。
4.3.3
薬品 薬品は,次による。
(1) 試験溶液 人工海水又は同等品を使用する。
(2) 絶縁用材料 絶縁用材料は,次のいずれかによる。
(a) マニキュア 市販品を使用する。
(b) 塗料 タールビニル系防食塗料で常乾形で速乾性のものを使用する。
4.3.4
測定管の寸法 測定管の長さは,約10cmとする。
4.3.5
管端及び外面処理 管端及び外面処理は,次による。
(1) 管端のばりは,小刀,やすりなどで除去する。
(2) 測定用のリード線を電気的に接続する。
(3) 管端部,測定時に試験溶液と接する管外面部,皮膜脱落などによって本来の状態が維持されていない
箇所については,マニキュア又は塗料を塗り,電気的な絶縁処理(絶縁塗装)を施す。塗装は2回以
上行う。
(4) 塗装の際に管内の皮膜が乾燥するおそれがある場合には,片端にゴム栓をして試験溶液を満たした測
定管を垂直に立て,片端ずつ順次塗装する。
(5) 塗装終了後,未塗装部が残っていないことを目視で確認する。
4.3.6
測定の準備 測定の準備は,次による。
(1) 測定管は,室温の試験溶液に24〜72時間予備浸せきする。皮膜が硬化した旧管などを測定する際,自
然電極電位の電位変化が2mV/min以下にならない場合には72時間以上浸せきする。
(2) 対極を測定用にセルに取り付ける。
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(3) 測定管を測定装置に取り付け,30℃の試験溶液を管内流速2m/sで流し,安定した通水状態に達したこ
とを確認する。
(4) 比較用の標準管として新管を測定する場合には,同一材質の新管を使用する。製管時又は保管時に形
成された酸化皮膜,付着物などを除去するため,室温の10%HCl水溶液中に約20分浸せきし,十分に
水洗した後直ちに測定する。
4.3.7
測定 測定は,次による。
(1) 測定管に所定の水温 (30℃) ,流速 (2m/s) で試験溶液を流し,電位の変化が2mV/min以下の安定状
態に達した後測定値を読み取り,自然電極電位とする。
(2) ポテンショスタットで自然電極電位を打ち消し,見掛上の電位を0mVにする。
(3) 測定管を自然電極電位より−10〜−100mV離れた適当な電位に分極させ,その電位において定常値に
達した分極電流値を読み取るただし,測定時間は最長30分とする。
4.3.8
計算 計算は,次による。
(1) 測定管の内半径(製造時の管内半径が判明している場合は,それを用いる。)及び絶縁処理を施してい
ない部分の管長の計測を行う。
(2) 測定管の自然電極電位からの陰分極量とそのとき得られた電流値とから式(2)又は式(3)を用いて分極
抵抗値を算出する。
(a) 分極抵抗値が0.07×104(Ω・cm2)より小さい場合
2
3
2
2
=
I
E
a
Rp
⊿
ρ
π
·································································· (2)
ここに,
RP: 分極抵抗値(Ω・cm2)
a: 測定管の内半径 (cm)
ρ: 海水の比抵抗25(Ω・cm)
⊿E: 陰分極量 (mV)
I: 電流値 (mA)
(b) 分極抵抗値が0.07×104(Ω・cm2)より大きい場合
=
L
aR
a
R
I
E
p
p
ρ
π
ρ
2
coth
2
3
2
⊿
··················································· (3)
ここに, ⊿E: 陰分極量 (mV)
I: 電流値 (mA)
ρ: 海水の比抵抗25(Ω・cm)
RP: 分極抵抗値(Ω・cm2)
a: 測定管の内半径 (cm)
L: 絶縁処理を施してない部分の管の長さ (cm)
⊿E/IとRPの関係の一例を参考として図3に示す。
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図3 式(3)から算出した⊿E/IとRpとの関係(例)
4.4
小分極による方法
4.4.1
装置 装置は,次によることとし,その構成例を図4に示す。
(1) ガルバノスタット 電流設定用計器としてガルバノスタットを用いる。自然電極電位を打ち消すため
と変化分だけを拡大して測定するために,エレクトロメータを併せて使用すること。
(2) 測定用セル 4.3.1(2)による。
(3) 通水装置 4.3.1(3)による。
図4 小分極による測定装置構成図(例)
4.4.2
比較電極及び対極 4.3.2による。
4.4.3
薬品 4.3.3による。
7
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4.4.4
測定管の寸法 4.3.4による。
4.4.5
管端及び外面処理 4.3.5による。
4.4.6
測定の準備 4.3.6による。
4.4.7
測定 測定は,次による。
(1) 測定管に所定の水温 (30℃) ,流速 (2m/s) で試験溶液を流し,電位の変化が0.5mV/min以下の安定状
態に達した後測定値を読み取り,自然電極電位とする。
(2) エレクトロメータで自然電極電位を打ち消し,見掛上の電位を0mVにする。
(3) 測定管に対して陰分極電流を徐々に印加し,電位シフトが10mV以下になるように電流値を設定する
通電を一たん(旦)停止し,自然電極電位が通電前の値に戻ることを確認する。
(4) 2分間通電した後,通電を1分間停止する。この操作を2回繰り返し,その際の分極特性を記録する。
4.4.8
計算 計算は,次による。
(1) 測定管の内半径(製造時の管内半径が判明している場合は,それを用いる。)及び絶縁処理を施してな
い部分の管の長の計測を行い,式(4)を用いて測定管内面の有効面積を算出する。
S=2πaL ··················································································· (4)
ここに,
S: 測定管内面の有効表面積 (cm2)
a: 測定管の内半径 (cm)
L: 絶縁処理を施してない部分の管の長さ (cm)
(2) 測定管に流した電流値とそのとき得られた陰分極量とから式(5)を用いて分極抵抗値を算出する。
S
I
E
Rp
=⊿
············································································· (5)
ここに,
RP: 分極抵抗値(Ω・cm2)
⊿E: 陰分極量 (mV) (⊿Eは,測定した2回の相加平均値である。)
I: 電流値 (mA)
S: 測定管内面の有効表面積 (cm2)
5. 報告 分極抵抗は,有効数字が2けたとなるように四捨五入した後,×104を付して報告する。
なお,同時に下記の項目についても報告する。
(1) プラント名,ユニット名,水室名,管番号,管材質,管寸法
(2) 循環水ポンプ停止日時,水室ブロー開始日時,抜管日時
(3) 測定管の長手方向の位置,測定日時
(4) 乾燥の有無,乾燥日数
(5) 試験溶液,流速,水温,予備浸せき時間
(6) 自然電極電位
(7) 測定方法(大分極,小分極の別)
(8) その他,抜管時又は測定管の調製時に乾燥していたり,付着物のはく離があった場合には,その旨記
入する。
(9) 同一条件の管の汚れ測定結果があれば,その汚れ係数,熱貫流率低下率,付着物量などを併記する。
(10) 同一条件の管の付着物分析結果があれば,それも併記する。
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復水器用銅合金分極抵抗測定方法JIS原案作成委員会 構成表
氏名
所属
山 川 宏 二
大阪府立大学工学部
荒 木 道 郎
工業技術院中国工業試験所
川 辺 允 志
電気化学協会海生生物汚損対策懇談会
古 賀 英 宣
通商産業省基礎産業局
服 部 幹 雄
工業技術院標準部
渥 美 哲 郎
住友軽金属工業株式会社技術研究所
稲 垣 修 一
株式会社東芝重電技術研究所
澤 俊 雄
株式会社日立製作所エネルギー研究所
西 島 直 道
古河電気工業株式会社金属事業本部
源 堅 樹
株式会社神戸製鋼所軽合金伸銅事業本部
安 田 龍 馬
三菱重工業株式会社高砂製作所
池 沢 隆
ナカボーテック株式会社
内 堀 利 也
日本防蝕工業株式会社技術研究所
恩 田 勝 弘
中部電力株式会社電力技術研究所
小 松 精 二
株式会社四国総合研究所化学技術部
清 水 正 幸
徳山曹達株式会社徳山製造所
高 浜 健 二
東京電力株式会社
川 辺 宣 子
電気化学協会海生生物汚損対策懇談会