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目 次
ページ
序文 ··································································································································· 1
1 適用範囲························································································································· 2
2 引用規格························································································································· 2
3 用語及び定義 ··················································································································· 2
4 傷害リスク曲線 ················································································································ 3
4.1 一般 ···························································································································· 3
4.2 過去の交通事故データの種類 ··························································································· 3
4.3 統計解析手法 ················································································································ 3
4.4 自動車計測情報 ············································································································· 4
4.5 傷害リスク曲線の作成方法 ······························································································ 4
4.6 傷害リスク曲線の評価方法 ······························································································ 5
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まえがき
この規格は,産業標準化法に基づき,日本産業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日本
産業規格である。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意
を喚起する。経済産業大臣及び日本産業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実
用新案権に関わる確認について,責任はもたない。
日本産業規格 JIS
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先進事故自動通報−
救急自動通報システム(D-Call Net)−
傷害リスク曲線の作成方法及び評価方法
Advanced automatic collision notification-
Emergency/automatic collision notification (D-Call Net)-
Production and evaluation methods of injury risk curve
序文
内閣府中央交通安全対策会議が立案した第10次交通安全基本計画(平成28年3月)では,“世界一安全
な道路交通の実現”に向けて,令和2年までに交通事故による24時間死者数を2 500人以下にすることが
目標とされた。近年では,高齢者人口の増加などによって,交通事故死者数の減少幅が縮小する傾向にあ
ると言われている。この目標達成に向けて,大きな役割が期待されているのは,先行研究で年間約280人
の死者数低減効果が試算されている先進事故自動通報システムである。
この規格は,交通事故が発生した場合に,自動車に搭載されたイベントデータレコーダー(EDR)など
に記録された情報を通信事業者が受信し,事故に関与した負傷者の傷害程度を予測し,早急に消防などの
搬送機関及び/又は第3次救急病院へ通報する先進事故自動通報システムの一つである救急自動通報シス
テム(D-Call Net)で用いられる傷害リスク曲線の作成方法及び評価方法について定めた日本産業規格であ
る。
交通事故が発生し,負傷者が発生した場合には,消防へ早急に通報し,医師による治療を適切に施すこ
とで,救命率が向上すると言われているが,軽症も含む交通事故に対し,搬送機関及び/又は第3次救急
病院へ通報し,第3次救急病院の医師による治療を受けることは,現在の医療システムにおいては難しい
場合がある。負傷者の傷害程度を傷害リスク曲線を用いて的確に予測し,その結果を搬送機関及び/又は
第3次救急病院へ通報し,重篤な負傷者に優先的に早期の治療を施すことが現在の医療システムの中では
重要である。
現在,複数の自動車製造業者及び通信事業者が存在する中で,製造業者若しくは車種によって,又は通
信事業者によって,伝達する情報に差異が生じてしまうと,通報を受ける搬送機関及び/又は第3次救急
病院では判断に混乱を招いてしまうため,この規格を定める必要がある。
なお,この規格は,現在の技術を基に定めたものであり,将来の技術革新によって傷害程度の予測方法
に変更が生じた場合には改正を行う。
注記1 救急自動通報システム(D-Call Net)は,2018年4月から本格運用が開始された先進事故自
動通報システムである。
注記2 D-Call Netは,特定非営利活動法人救急ヘリ病院ネットワークが提供する役務の商標名であ
る。
2
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この規格に規定する傷害リスク曲線は当該役務に使用されるものであるが,傷害リスク曲
線を標準化することによる上記の利点を鑑みて制定するものであって,当該役務を推奨する
ものではない。
1
適用範囲
この規格は,先進事故自動通報システムの一つである救急自動通報システム(D-Call Net)に使用される
傷害リスク曲線の作成方法及び評価方法について規定する。交通事故時には,この規格による傷害リスク
曲線を用いて,自動車乗員,二輪車(モペット・モーターサイクル)乗員,歩行者,及び自転車乗員の負
傷者の傷害程度を予測し,救命救急活動に利用することができる。
2
引用規格
この規格には,引用規格はない。
3
用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,次による。
3.1
イベントデータレコーダー(EDR)
自動車に搭載された,エアバッグの展開を伴う衝突などの事象の前後の時間において,車両速度などの
車両状態に関わる計測データを時系列で記録する装置又は機能。
3.2
自動車計測情報
自動車内部に計測器を搭載し,走行速度及び加速度,シートベルト着用の有無などを計測し,イベント
データレコーダー(EDR)に記録された情報。
注記 製造業者及び車種によって,計測項目は異なる。
3.3
通信事業者
自動車計測情報を受信し,搬送機関及び/又は病院へ通報する事業者。
3.4
先進事故自動通報システム
交通事故の発生を自動的に通報する機能に加えて,自動車計測情報及びそれらを活用した付加情報を通
報する機能をもつ事故自動通報システム。
3.5
救急自動通報システム,D-Call Net
自動車計測情報から傷害リスク曲線を用いて負傷者の傷害程度を判定し,判定結果,事故の発生場所,
時刻などの通信事業者から通報された情報を基に,消防及び救命医が救急車,ドクターヘリ,ドクターカ
ーなどによって現場へ出場する先進事故自動通報システム。
3.6
傷害リスク曲線
交通事故が発生した際の負傷者の傷害の程度を判定する曲線。
3
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3.7
交通事故データ
調査項目別に交通事故をまとめたデータセット。
注記 日本国内では,公益財団法人交通事故総合分析センターが日本国内で発生した交通人身事故全
てを調査項目別にデータ化している統計データと同センター又は大学,研究機関などが個別の
交通事故を調査項目別にデータ化している事故例データがある。
3.8
アンダートリアージ
システムが軽症又は無傷と判定したが,実際は重症又は死亡であったもの。
3.9
アンダートリアージ率
アンダートリアージ(3.8)の件数を,重症又は死亡を重症又は死亡と判定した件数とアンダートリアー
ジ(3.8)の件数の和で除したもの。
3.10
オーバートリアージ
システムが重症又は死亡と判定したが,実際は軽症又は無傷であったもの。
3.11
オーバートリアージ率
オーバートリアージ(3.10)の件数を,軽症又は無傷を軽症又は無傷と判定した件数とオーバートリア
ージ(3.10)の件数の和で除したもの。
4
傷害リスク曲線
4.1
一般
この箇条は,交通事故時の負傷者の傷害リスク曲線の作成方法及び評価方法について規定する。過去の
交通事故データから統計解析手法によって,事前に事故要因xiと負傷者の傷害程度との関係を表す関数P
を導き出す。事故が発生した自動車計測情報と事故要因xiとを対応させ,負傷者の傷害程度を導出する。
4.2
過去の交通事故データの種類
海外では軽自動車がないなど,日本国内と異なる交通環境にあるため,過去の交通事故データは,日本
国内で発生した交通事故データを用いる。また,傷害リスク曲線作成時の最新の衝突安全法規に適合した
自動車を対象とする。
4.3
統計解析手法
統計解析手法は,過去の交通事故データからロジスティック回帰モデル(4.5参照)によって,負傷者の
傷害の程度を表す関数を事故要因の項目及び重み係数βiによって導出する。
なお,事故要因の項目及び重み係数の参考例を,表1に示す。
4
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表1−事故要因の項目及び重み係数の例
事故要因の項目
切片β0及び重み係数βi
切片β0
−4.129
疑似速度変化量
ΔV
30 km/h以下
−
31 km/h〜40 km/h
2.052
41 km/h〜50 km/h
2.858
51 km/h〜60 km/h
3.310
61 km/h以上
3.995
衝突方向
前面衝突
0.163
側面衝突[ニアサイド(Near-side)]
1.446
側面衝突[ファーサイド(Far-side)]
0.984
後面衝突
−
シートベルト
着用
−1.371
非着用
−
多重衝突
あり
0.099
なし
−
乗員年齢
54歳以下
−
55歳〜64歳
0.477
65歳以上
0.812
注記 事故要因の項目及び数値は,四輪車乗員の事故要因の項目から主要なものを
抽出し,ある事故データを統計的に回帰した結果(切片及び重み係数)を一
例として記載したものである。
4.4
自動車計測情報
自動車計測情報は,ロジスティック回帰モデルから求められた事故要因の項目と自動車が計測できる計
測情報とを対応させる。
なお,事故要因の項目に対する,現在の技術での自動車計測情報の対応の参考例を,表2に示す。
表2−事故要因の項目と自動車計測情報との対応の例
事故要因の項目
自動車計測情報との対応
疑似速度変化量ΔV
ほぼ対応する(計測可能なΔVで代用)
衝突方向
前面衝突
対応する
側面衝突[ニアサイド(Near-side)]
対応する
側面衝突[ファーサイド(Far-side)]
対応する
後面衝突
対応する
シートベルト
着用
対応する
非着用
対応する
多重衝突
ほぼ対応する(車種によって異なる)
乗員年齢
54歳以下
対応しない(現在の技術で計測困難)
55歳〜64歳
対応しない(現在の技術で計測困難)
65歳以上
対応しない(現在の技術で計測困難)
注記 現在の技術では,乗員年齢を自動車計測情報として明らかにすることは困難であるが,
年齢は傷害リスクを統計的に解析する上で重要な要因項目である。
4.5
傷害リスク曲線の作成方法
過去の交通事故データを用い,式(1)及び式(2)に示すロジスティック回帰モデルによって,求められた事
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故要因の項目と自動車計測情報とを対応させ,自動車計測情報だけを用いて,ロジスティック回帰モデル
から求められた重み係数を当てはめ,負傷者の傷害程度を表す傷害リスク曲線を求める。
なお,ロジスティック回帰モデルから求められた傷害リスク曲線の参考例を,図1に示す。
z
e
P
−
+
=11
··············································································· (1)
∑
=
+
=
n
i
i
ix
z
1
0
β
β
······································································· (2)
ここに,
P: 死亡又は重症となる確率
z: xiと負傷者の傷害程度との関係を表す関数
xi: 衝突速度,乗員属性などの項目iの事故要因
β0: 切片
βi: 項目iの事故要因の重み係数
e: 自然対数の底(2.718)
死
亡
又
は
重
傷
と
な
る
確
率
(
%
)
0
20
40
60
80
100
速度変化量ΔV(km/h)
注記 ロジスティック回帰の結果イメージを示すために,表1で例示した事故要因
の項目について幾つかの項目を仮定した上で,速度変化量と傷害リスクの関
係を表した曲線を一例として記載したものである。
図1−傷害リスク曲線の例
4.6
傷害リスク曲線の評価方法
傷害リスク曲線を作成したロジスティック回帰モデルに用いた過去の交通事故データとは異なる過去の
交通事故データを,傷害リスク曲線に当てはめ,傷害リスク曲線から得られた傷害程度と実際の傷害程度
とを比較する。比較の際,アンダートリアージ率及びオーバートリアージ率を求め,アンダートリアージ
率が10 %以内,オーバートリアージ率が50 %以内となることを確認する。
注記1 傷害リスク曲線から,あるしきい(閾)値未満を軽症,あるしきい(閾)値以上を重症とし
て傷害程度を得る。
注記2 “ロジスティック回帰モデルに用いた過去の交通事故データとは異なる過去の交通事故デー
タ”とは,過去の交通事故データを無作為に半数ずつに分け,傷害リスク曲線の作成にデー
100
80
60
40
20
0
6
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タの半数を使用し,これに使用しなかった残りの半数のデータ,又は異なる調査方法で取得
した過去の交通事故データのことである。