C 2501:2019
(1)
目 次
ページ
序文 ··································································································································· 1
1 適用範囲························································································································· 1
2 引用規格························································································································· 1
3 用語及び定義 ··················································································································· 1
4 電磁石及び磁化条件 ·········································································································· 2
4.1 概要 ···························································································································· 2
4.2 幾何学的条件 ················································································································ 4
4.3 電磁石の条件 ················································································································ 4
5 試験片···························································································································· 5
6 磁束密度の測定 ················································································································ 6
7 磁気分極の測定 ················································································································ 6
8 磁界強度の測定 ················································································································ 7
9 減磁曲線の測定 ················································································································ 7
9.1 概要 ···························································································································· 7
9.2 減磁曲線の測定原理(電磁石で磁化された試験片の場合。) ··················································· 7
9.3 減磁曲線の測定原理(超電導コイル又はパルス磁化器で磁化された試験片の場合。) ·················· 8
10 主な特性の測定 ·············································································································· 9
10.1 残留磁束密度 ··············································································································· 9
10.2 最大エネルギー積 ········································································································· 9
10.3 保磁力HcB及び固有保磁力HcJ ························································································ 9
10.4 リコイル線及びリコイル比透磁率の測定 ··········································································· 9
11 再現性 ························································································································· 10
12 試験報告 ······················································································································ 10
附属書A(規定)試験片と磁極との空隙の影響 ········································································· 12
附属書B(参考)測定結果に及ぼす周辺温度の影響 ···································································· 13
附属書JA(参考)Niの飽和磁気分極並びに相互誘導器及び電圧の時間積によるJ積分器の校正方法 ··· 14
附属書JB(参考)昇温時の磁気測定に用いる補助磁極 ······························································· 17
附属書JC(参考)JISと対応国際規格との対比表 ······································································ 19
C 2501:2019
(2)
まえがき
この規格は,工業標準化法第14条によって準用する第12条第1項の規定に基づき,一般社団法人電気
学会(IEEJ)及び一般財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規格を改正す
べきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工業規格である。
これによって,JIS C 2501:1998は改正され,この規格に置き換えられた。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意
を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実
用新案権に関わる確認について,責任はもたない。
日本工業規格 JIS
C 2501:2019
永久磁石試験方法
Methods of test for permanent magnet
序文
この規格は,2015年に第3版として発行されたIEC 60404-5を基とし,必要な規定項目を追加するため,
構成を変更して作成した日本工業規格である。
なお,この規格で点線の下線を施してある箇所は,対応国際規格を変更している事項である。変更の一
覧表にその説明を付けて,附属書JCに示す。また,附属書JA及び附属書JBは,対応国際規格にはない
事項である。
この規格では,2 MA/mを超える保磁力をもつ永久磁石材料の保磁力測定にはIEC TR 62331[1]に規定す
る方法を用いることを規定している。また,測定環境温度は23 ℃±5 ℃を既に推奨しているが,磁気特性
の温度係数の大きい永久磁石材料については,±1 ℃の測定環境温度の設定を強く推奨している。
1
適用範囲
この規格は, 磁束密度,磁気分極及び磁界強度の測定方法,並びに体積全体にわたって均質とみなすこ
とができる磁性材料の減磁曲線及びリコイル線を定義する方法について規定する。
磁気測定装置の性能は,永久磁石の磁気特性に依存するだけではなく,装置の寸法,空隙及び磁気回路
の他の寸法にも依存する。この規格で規定する方法は,閉磁気回路における磁気特性の測定である。
注記 この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。
IEC 60404-5:2015,Magnetic materials−Part 5: Permanent magnet (magnetically hard) materials−
Methods of measurement of magnetic properties(MOD)
なお,対応の程度を表す記号“MOD”は,ISO/IEC Guide 21-1に基づき,“修正している”
ことを示す。
2
引用規格
次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの
引用規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。
IEC 60050-121,International Electrotechnical Vocabulary−Part 121: Electromagnetism
IEC 60050-151,International Electrotechnical Vocabulary−Part 151: Electrical and magnetic devices
IEC 60050-221,International Electrotechnical Vocabulary−Part 221: Magnetic materials and components
3
用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,IEC 60050-121,IEC 60050-151及びIEC 60050-221によるほか,
次による。
2
C 2501:2019
3.1
減磁曲線
飽和磁束密度又は飽和磁気分極の状態から磁界を変化させて得られる履歴曲線のうち,第2象限の部分。
減磁曲線には,次の2種類がある。
a) 磁束密度で表現するもの(以下,B-H減磁曲線という。)
b) 磁気分極で表現するもの(以下,J-H減磁曲線という。)
3.2
残留磁束密度
B-H減磁曲線における磁束密度のうち,磁界強度がゼロのときの値。量記号はBrで表し,単位はテスラ
(T)で表す。
3.3
残留磁気分極
J-H減磁曲線における磁気分極のうち,磁界強度がゼロのときの値。量記号はJrで表し,単位はテスラ
(T)で表す。したがって,残留磁化状態ではJrとBrとは同じとなる。
3.4
保磁力
減磁曲線における磁界強度で,B-H減磁曲線で磁束密度がゼロのときの値。J-H減磁曲線で磁気分極が
ゼロのときの値は,固有保磁力という。量記号はそれぞれ保磁力(HcB)及び固有保磁力(HcJ)で表し,
単位はアンペア毎メートル(A/m)で表す。
3.5
最大エネルギー積
B-H減磁曲線上の磁束密度とそれに対応する磁界強度との積(エネルギー積)の最大値。量記号は (BH)max
で表し,単位はジュール毎立方メートル(J/m3)で表す。
4
電磁石及び磁化条件
4.1
概要
この規格では,永久磁石に対して,保磁力(HcB)及び固有保磁力(HcJ)を取り扱う。
この規格における測定は,磁界強度Hの関数として磁束密度B及び磁気分極Jの双方を対象にしている。
これらの量は,次の式(1)によって求める。
J
H
μ
B
+
=
0
············································································· (1)
ここに,
B: 磁束密度(T)
μ0: 真空の透磁率=4π×10−7(H/m)
H: 磁界強度(A/m)
J: 磁気分極(T)
この式(1)を用いると,保磁力の値はB(H) 曲線から得られ,固有保磁力の値はJ(H) 曲線から得られる。
Ha及びBaで示されるポイントは,BH積の大きさが最大値を示す点で,(BH)maxに対する動作点という(図
1参照)。
J(H) 曲線において,残留磁束密度Brと固有保磁力HcJとの間の減磁曲線の形状を概略表すものを,減磁
曲線の角形性という。
3
C 2501:2019
図1−(BH)max点を示す減磁曲線
測定は,軟磁性材料からなる電磁石及び試験片で閉磁気回路を構成して行う。ヨーク構造は,対称形で
少なくとも片側の磁極は,試験片と磁極との空隙を最小にするために可動できるものとする(図2参照)。
注記 渦電流を減少させて測定精度を上げるためにヨーク及び磁極は,積層形とする。ヨーク及び磁
極の材料の固有保磁力は,通常,100 A/mを超えない。
試験片の占めるスペース内で,十分に均一な磁界を得るために,4.2及び4.3に示す条件を同時に満足す
る必要がある。
4
C 2501:2019
図2−電磁石及び磁化システム構成
4.2
幾何学的条件
図2に関して,円形磁極の直径又は長方形磁極の最も小さい側の寸法(d1)は,次の関係式を満足する
必要がある。
l
d
d
′
+2.1
2
1≧
··········································································· (2)
l
d
′
0.2
1≧
················································································ (3)
ここに,
d1: 円形磁極の直径又は長方形磁極の最も小さい側の寸法
(mm)
l': 磁極間距離(mm)
d2: 均一磁界部分の円柱体積の最大直径(mm)
空隙の中心における磁界強度に関して,式(2)で半径方向(d2/2)における最大磁界の減少は1 %以内と
し,式(3)で磁極面における軸に沿う最大磁界の増大は1 %以内とする。
4.3
電磁石の条件
減磁曲線の測定において,磁極の磁束密度は,磁極面が極力等磁位を保つように実質的に飽和磁気分極
よりも低くする。磁束密度は,鉄の場合1 T以下で,コバルト含有率が35 %〜50 %の鉄合金の場合は1.2 T
以下とする。
ヨークは,試験片にできるだけ近く対称的に配置された磁化コイルによって励磁する(図2参照)。試験
5
C 2501:2019
片の軸は,磁化コイルの軸と一致させる。
測定に先立ち,試験片は,試験片を飽和状態に近づけることのできる最大磁界Hmaxで磁化する。減磁曲
線の測定は,初期磁化に用いた磁界と逆方向の磁界で行う。
ヨーク内で試験片を飽和させるほどに磁化できない場合[例えば,式(4)及び式(5)のいずれも満たされな
い場合],試験片は,電磁石外部で超電導コイル,パルス磁化器などで磁化する。
各種永久磁石に推奨されるHmaxは,IEC TR 62517[2]に示す。
製品規格が最大磁界強度Hmaxを規定しない場合,又は製造業者が宣言しない場合,減磁曲線の測定前に,
試験片を飽和磁化させることを推奨する。試験片は,磁界強度H1及びH2の関係が次の式(4)及び式(5)を満
たすとき,飽和磁化したとみなす。
(
)
24
025
.0
1
2
1
2
/H
H
P
P ≦
································································· (4)
及び
1
2
2.1H
H≧
·············································································· (5)
ここに,
P2: 最大到達可能 (BH)max値(J/m3),又は最大到達可能HcB
値(A/m)
P1: 低い方の (BH)max値(J/m3),又は低い方のHcB値(A/m)
H2: P2に対応する磁界強度(A/m)
H1: P1に対応する磁界強度(A/m)
H2/H1が1.5の特別なケースでは,式(4)はP2<1.01 P1になる。
いかなる場合も,磁化プロセスが試験片を過度に加熱する原因となってはならない。
5
試験片
試験片は,単純な形状(円柱又は直方体)とする。試験片の長さlは,5 mm以上で,その他の寸法も5
mm以上とし,試験片及び検出部は,4.2で定義する直径d2内に配置する。
注記 希土類永久磁石材料のように高い (BH)maxをもつ試料の場合,磁化方向の長さlが5 mm未満に
なることがある。そのような長さの試験片を測定する場合は,電磁石の磁極間の磁場の均一性
が悪化する。磁極間距離が磁場の均一性に与える影響はChenら[3]によって報告されている。
測定結果を評価するときにはその寄与を考慮し,必要な場合,その寄与を測定の不確かさに含
める。これらの試験片の厚さにおいては,試験片と磁極との間の空隙の影響も増大する。した
がって,空隙は慎重に最小化する必要がある。REFeB焼結磁石の機械加工された表面は,磁気
特性が劣化している。厚さが5 mm未満及び/又は高いS/V比率(ここに,Sは試験片の表面積
で,Vは体積を指す。)をもつ試験片の磁気特性評価は,慎重に行う必要がある。この場合,減
磁曲線の角形性の劣化が,通常,観察される。
空隙を小さくするために試験片の端部はできるだけ互いに平行かつ試験片軸方向と直角にする(附属書
A参照)。
試験片の断面積は,試験片の長さ方向に対してできるだけ均一にし,その変動は最小断面積の1 %未満
とする。平均断面積は,1 %以内の精度で決定する。
試験片は,磁化方向に印を付ける。
6
C 2501:2019
6
磁束密度の測定
試験片における磁束密度の変化は,サーチコイル中に誘導される電圧Uを積分して測定する。
サーチコイルは,できるだけ試験片に密着し,磁極面に対して対称に巻き付ける。リード線はきつくね
じり,リード線中のループ内に誘導される電圧によって発生する誤差を避ける。
磁束密度測定の総合測定誤差は,±2 %とする。
二つの瞬間t1とt2との間における空隙磁束を補正しない見掛けの磁束密度の変化量ΔBapは,次の式(6)
によって求める。
t
U
AN
B
B
B
t
t
d
1
2
1
1
2
ap
∫
=
−
=
∆
························································· (6)
ここに,
B2: t2における磁束密度(T)
B1: t1における磁束密度(T)
A: 試験片の断面積(m2)
N: サーチコイルの巻数
t
U
t
t
d
2
1∫
: (t2−t1)の時間間隔(秒)におけるサーチコイルに誘導
される電圧の積分値(Wb)
見掛けの磁束密度の変化量ΔBapにおけるこの変化は,サーチコイルに含まれる空隙磁束を考慮して補正
する。したがって,試験片中における磁束密度変化ΔBは,次の式(7)によって求める。
(
)
A
A
A
H
B
B
−
∆
−
∆
=
∆
t
0
apμ
···························································· (7)
ここに,
μ0: 真空の透磁率=4π×10−7(H/m)
ΔH: 磁界強度測定値の変化(A/m)
At: サーチコイルの平均断面積(m2)
7
磁気分極の測定
試験片における磁気分極の変化は,二つのコイルCOIL 1及びCOIL 2で構成されるサーチコイルデバイ
スの端子における誘導電圧を積分することによって測定する。ここで,試験片はCOIL 2の中に置かれ
COIL 1は空とする。個々のコイルの断面積と巻数の積が同じで,電気的に互いに打ち消し合うように接続
する場合,COIL 1の出力によってCOIL 2の試験片の磁気分極J以外の出力が打ち消される。試験片の磁
気分極の変化ΔJは,次の式(8)によって求める。
t
U
AN
J
J
J
t
t
d
1
2
1
1
2
∫
=
−
=
∆
···························································· (8)
ここに,
J2: t2における磁気分極(T)
J1: t1における磁気分極(T)
A: 試験片の断面積(m2)
N: サーチコイルの巻数
t
U
t
t
d
2
1∫
: (t2−t1)の時間間隔(秒)におけるサーチコイルに誘導
される電圧の積分値(Wb)
したがって,COIL 2の試験片による磁気分極J以外の出力は,COIL 1の出力によって打ち消される。
同一の二つのサーチコイルを用いることで,ある範囲の断面積をもつ試験片は,個々の空隙の磁束を補正
する必要なく測定できる。二つのサーチコイルは,式(2)及び式(3)で定義される均一磁界内の直径d2で限
定される範囲内に設置する。
磁束密度(又は磁気分極)の測定に用いる積分器及びBコイル(又はJコイル)は,トレーサビリティ
7
C 2501:2019
のある磁束源によって校正する(例えば,附属書JAに示す相互誘導器及び電圧の時間積による磁束源を
用いて校正する方法などがある。)。
総合測定誤差は,±2 %でなければならない。
8
磁界強度の測定
試験片の表面及び内部の磁界強度は,磁界強度ベクトルが試験片側面に平行になっている空間部におい
てだけ等しくなる。したがって,磁界強度センサ(以下,Hセンサという。)は,試験片に対してできるだ
け近い均一磁界内に,磁極面に対して対称に置く(図2参照)。
磁界強度を測定するために,フラットサーチコイル,磁気ポテンショメータ又はホールプローブを適切
な計器とともに用いる。Hセンサの寸法及びその位置は,直径がd2で限定される範囲内でなければならな
い[式(2)及び式(3)参照]。
測定誤差を低減するために,試験片と磁極との間の空隙は小さくする。空隙の影響は,附属書Aで規定
する。
磁界強度の測定システムは,校正しておく。フラットサーチコイルにおける実効面積と巻数の積NA(N
は巻数で,Aは実効面積),及び磁気ポテンショメータにおけるポテンショコイルの長さを校正する。ホー
ルプローブは,NMR(核磁気共鳴)などの適切な手段によって校正する。
総合測定誤差は,±2 %でなければならない。
注記 電磁石の磁極面は,通常,等磁位面とする(箇条4参照)。高い残留磁束密度,高い保磁力又は
両方同時にもつ永久磁石材料の場合,1.0 T又は1.2 T以上の磁束密度をもつ場合がある。これ
らは,試験片に近接する磁極面に磁気飽和を生じさせる可能性がある。このようなケースでは,
磁極面がもはや等電位面ではなくなり,誤差が大きくなるおそれがある。
9
減磁曲線の測定
9.1
概要
減磁曲線は,B(H) 又はJ(H) のグラフとして求める。初めに測定されたBシグナルのJシグナルへの変
換及びその逆変換は,式(1)のµ0Hをそれぞれ減算又は加算することによって電気的又は数値的に行うこと
ができる。
B(H) 曲線の測定は,9.2及び9.3による。J(H) 曲線については,磁束密度Bが関連する式及び曲線によ
って磁気分極Jで置き換えられる場合は,同様とする。
測定は,周囲温度が(23±5)℃で行う。温度係数α(HcJ) の大きな永久磁石の測定においては,測定操
作中は試験片の温度が19 ℃〜27 ℃の範囲において±1 ℃に制御して行う(附属書B参照)。試験片の温度
は,電磁石の磁極面に取り付けた非磁性温度センサで測定する。測定計器の温度依存性(例えば,ホール
プローブの出力の温度依存性)についても考慮する。
注記1 HcJが1.6 MA/m以上の測定では,磁極面の飽和の影響によって測定値に誤差が現れる場合が
ある。
注記2 昇温時の測定方法(参考)については,IEC TR 61807[4]及び附属書JBに示されている。
9.2
減磁曲線の測定原理(電磁石で磁化された試験片の場合。)
磁束密度B又は磁気分極Jの測定に用いるBコイル又はJコイルは,ゼロに調整した校正済み磁束積分
器に接続する。試験片は,Bコイル又はJコイルに挿入して電磁石に組み込み,飽和状態まで磁化する。
次に,磁化電流を非常に低いレベルかゼロまで低下させる又は必要な場合,極性を逆転することによって,
8
C 2501:2019
磁界強度をゼロにする。それに対応する磁束密度B又は磁気分極Jの値を,記録する(図3参照)。
逆方向へ磁化するための電流は,磁界強度が保磁力HcB又は固有保磁力HcJを超すレベルまで徐々に増
大する。ある種の材料の場合,磁束密度の変化と磁界強度の変化との間に顕著な遅れがある。この場合,
正確な積分値を確保するためには,高感度,ゼロ点変動(ドリフト)が小さい,及び測定レンジが大きい
という性能が積分器に必要である。
磁極を反転する間の磁界強度の変動速度(dH/dt)は,磁界強度Hに対する磁束密度Bの遅れ又は試験
片における渦電流の発生を避けるために,十分遅くする。
減磁曲線における磁界強度Hと磁束密度B又は磁界強度Hと磁気分極Jとの対応値は,磁界強度の測定
装置及び磁束積分器の出力に接続した記録計で得られる連続減磁曲線,又は磁界強度と磁束密度若しくは
磁気分極との一点一点の測定から得る。
H :H測定器
J :J測定器
自記磁束計
R :X-Y記録計
E :磁化電源装置
S :切換開閉器
図3−測定回路(概要)
9.3
減磁曲線の測定原理(超電導コイル又はパルス磁化器で磁化された試験片の場合。)
箇条4に従って,超電導コイル又はパルス磁化器を使用し,試験片を飽和状態まで磁化する。飽和状態
にするために必要な磁界強度は,永久磁石の磁化過程によって異なる。詳細は,IEC TR 62517[2]に示す。
磁束密度B又は磁気分極Jの測定に使用されるBコイル又はJコイルは,ゼロに調整した校正済み磁束
積分器に接続する。試験片は,サーチコイルの中へ挿入し,電磁石に組み込み,超電導コイル又はパルス
磁化器で着磁した方向と同じ方向に飽和状態まで着磁する。
磁化電流を非常に低いレベルかゼロまで低下させる又は必要な場合,極性を逆転することによって,磁
界強度をゼロにする。それに対応する磁束密度B又は磁気分極Jの値を,記録する。
9.2に従って,逆方向への磁化のための電流は,磁界強度が保磁力HcB又はHcJを超すレベルまで徐々に
増大する。
電磁石を使用して得られた磁界強度では,固有保磁力(HcJ)の高い値を計測するためには不十分な場合
がある。その場合,超電導ソレノイド,パルス磁力計(IEC TR 62331[1]参照)などの装置を用いて測定を
行う。一般的に,2 MA/mよりも高い保磁力をもつ永久磁石の磁気特性を決定するために,この規格で規
定する方法は,Br,HcB及び (BH)maxの測定に用い,超電導ソレノイド又はパルス磁場を用いる磁力計は,
HcJを測定するために用いる。ただし,これらの方法は,規定ではない。
9
C 2501:2019
9.2に従って,減磁曲線上の磁界強度H及び磁束密度B,又は磁界強度H及び磁気分極Jの対応値を求
める。
10
主な特性の測定
10.1
残留磁束密度
残留磁束密度は,減磁曲線のグラフ上のB軸又はJ軸と減磁曲線との切片の長さによって求める。
10.2
最大エネルギー積
最大エネルギー積は,次のいずれかの方法で求める。
a) “B×H”が,一定の曲線群から直接読み取り又は補間によって求める(図1参照)。
b) 減磁曲線の幾つかの点に対するB×H積の計算及び最大値が包含されていることを確認し,読み取る。
c) 電子的にBとHとを乗じ,その積をH又はBの関数としてプロットした結果から読み取る。
10.3
保磁力HcB及び固有保磁力HcJ
保磁力HcBは,“B=0”の直線と減磁曲線との切片の長さによって求める。固有保磁力HcJは,“J=0”
の直線と減磁曲線との切片の長さによって求める。
10.4
リコイル線及びリコイル比透磁率の測定
リコイル線の始点Brec及びHrecについては(図4参照),試験片を最大磁界強度Hmaxによってあらかじめ
磁化しておき,履歴曲線の第2象限で動作させるため,減磁電流をHrecに対応する値まで増大する。次に,
磁界強度をΔHだけ減少させ,磁束密度の変化ΔBを測定する。リコイル比透磁率μrecは,次の式(9)によっ
て求める。
H
B
∆
∆
×
=
0
rec
1
μ
μ
········································································· (9)
ここに,
μrec: リコイル比透磁率
ΔB: 変化ΔHに対応する磁束密度の変化(T)
ΔH: Hrecからの磁界強度変化(A/m)
μ0: 真空の透磁率=4π×10−7(H/m)
リコイル比透磁率は,減磁曲線に沿って常に一定でないため,Hrec,Brec及びΔH値を指定する必要があ
る。
10
C 2501:2019
図4−減磁曲線及びリコイル履歴曲線
11
再現性
測定の再現性は,表1に規定する変動係数[標準偏差/平均値(%)]とみなされる。
表1−永久磁石材料の磁気特性測定の変動係数
単位 %
特性
アルニコ磁石
フェライト磁石,
希土類磁石
Br
HCB
HcJ
(BH)max
1
1
1
1.5
2
2
2
3
12
試験報告
試験報告には,次の該当する項目を記載する。
− 材料の種類及び識別記号
− 試験片の形状及び寸法
− 測定中の試験片の温度
− 周囲温度
− 着磁磁界強度の値
− 減磁曲線
− 残留磁束密度Br又は残留磁気分極Jr
11
C 2501:2019
− 保磁力HcB及び固有保磁力HcJ
− 最大エネルギー積 (BH)max
− (BH)max点に相当するB及びHの値,すなわち,Ba及びHa(図1参照)
− リコイル比透磁率μrec並びにBrec,Hrec及びΔHの値
− 異方性材料において,磁化方向と試料の磁化容易軸との角度がゼロではない場合,材料の磁化容易軸
に対する磁化方向
− 測定の推定不確かさ
− Hセンサ,Bセンサ又はJセンサの種類
− 測定器のトレーサビリティ
12
C 2501:2019
附属書A
(規定)
試験片と磁極との空隙の影響
空隙による磁界強度測定の相対最大誤差ΔH/Hは,次の式(A.1)によって求める。
lH
dB
H
H
0
2
μ
=
∆
·········································································· (A.1)
ここに,
B,H: 減磁曲線上で与えられた点での磁束密度(T)及び磁界
強度(A/m)の値
l: 試験片の長さ(m)(図A.1参照)
d: 試験片と磁極面との間の空隙の長さ(m)
μ0: 真空の透磁率[4π×10−7(H/m)]
例えば,(BH)max点近傍で,表A.1のd/l比に対し,誤差は1 %である。
表A.1−d/l率
材料
d/l
AlNiCo 37/5
0.000 25
Hard Ferrite 25/14
0.003
RECo 180/150
0.005
REFeB 340/130
0.005
図A.1−空隙
13
C 2501:2019
附属書B
(参考)
測定結果に及ぼす周辺温度の影響
表B.1に,永久磁石材料のBr値及びHcJ値の温度係数を示す。
表B.1−Br値及びHcJ値の温度係数
単位 %/℃
材料
α(Br)
α(HcJ)
AlNiCo
−0.02
−0.03〜+0.03
FeCrCo
−0.05〜−0.03
−0.04
FeCoVCr
−0.01
0
RECo
−0.04〜−0.03
−0.3〜−0.25
REFeB
−0.12〜−0.09
−0.7〜−0.45
Hard ferrite
−0.2
+0.06〜+0.40
この規格で推奨する周囲温度は,23 ℃±5 ℃とする。この温度範囲は,AlNiCo,FeCrCo及びFeCoVCr
材料においては十分許容できる。それは,これら材料のHcJの温度係数の絶対値が,0.1 %/℃未満であるこ
とによる。
REFeB,Hard ferriteなど温度に敏感な磁石材料の場合,±5 ℃の温度範囲内において測定結果が著しく
変化する可能性がある。例えば,REFeB 240/200のHcJを2 MA/m及びHcJの温度係数を−0.50 %/℃とした
場合,18 ℃(温度範囲の下限)〜28 ℃(温度範囲の上限)におけるHcJの測定結果の差異は,0.1 MA/m
と推定される。
温度に敏感な磁石材料を測定する場合は,測定時の試験片温度を19 ℃〜27 ℃において,±1 ℃に制御す
ることを強く推奨する。
14
C 2501:2019
附属書JA
(参考)
Niの飽和磁気分極並びに相互誘導器及び電圧の時間積によるJ積分器の
校正方法
JA.1 Niの飽和磁気分極
J軸の校正への適用を目的とし,Niの飽和磁気分極の文献値を表JA.1に示す。Niの飽和磁気分極の文
献値にはばらつきが見られるが,この規格では,表JA.1に示す引用文献[注a)]による値“Js=0.6102T”
を推奨する。
表JA.1−Niの飽和磁気分極の文献値
No.
飽和磁気分極値Js
(T)
測定温度
(℃/K)
引用文献
備考
1
0.610 2
23/296
a)
純度99.995 %
2
0.608 4
20/293
b)
15 ℃/288 Kのデータも0.608 4 T
と記載
3
0.615 9
室温
c)
σs=55.1 emu/g
4
0.609 2
20/293
d)
Is=485 G
注a) IEC 60556:2006 + AMD 1:2016 CSV “Gyromagnetic materials intended for application at microwave
frequencies−Measuring methods for properties”
b) R. M. Bozorth: “Ferromagnetism”, IEEE PRESS (1978) p. 867.
c) J. Crangle and G. M. Goodman: Proceedings of the Royal Society of London, vol. 321, No. 1547 (1971)
p. 477.
d) R. S. Tebble and D. J. Craik: “Magnetic Materials”, Wiley-Interscience, (1969) p. 51.
JA.2 相互誘導器によるJ積分器の校正方法
自記磁束計のJ積分器の校正法の一つに,相互誘導器を用いる方法がある。相互誘導器によるJ積分器
の校正に用いる電気回路を,図JA.1に示す。相互誘導器の1次電流Iによって,2次側に発生する誘起電
圧eは,次の式(JA.1)によって求める。
t
I
M
e
d
d
−
=
··········································································· (JA.1)
ここに,
e: 2次側に発生する誘起電圧(V)
M: 相互誘導器の相互インダクタンス(H)
I: 1次側の電流(A)
一方,磁束の変化によって,さぐりコイルに誘起される電圧eは,電磁誘導の法則から,次の式(JA.2)
によって求める。
t
Φ
e
d
d
−
=
············································································· (JA.2)
ここに,
e: 誘起電圧(V)
Φ: 磁束(Wb)
式(JA.1)及び式(JA.2)から,Φ=M ∫tI
0d=MIが導かれる。具体的には,I=100 mA±0.16 mA及びM=
15
C 2501:2019
100 mH±0.1 mHが用いられ,このときΦ=MI=0.01 Wb±0.26 %が得られる。
相互誘導器によるJ積分器の校正方法は,積分器のドリフト性能が良ければ,時間軸の制約を受けずに
校正が行える。
図JA.1−相互誘導器によるJ積分器の校正に用いる電気回路
JA.3 電圧の時間積によるJ積分器の校正方法
自記磁束計のJ積分器の第2の校正方法では,電圧の時間積による磁束源を用いる。電圧1 Vを1秒(s)
間発生する単掃引波の時間積分1 Vsは,磁束1 Wbに相当することから使用される。一つの回路と鎖交し
ている磁束数が変化しつつある場合は,鎖交磁束数の減少の割合に等しい起電力を生じる。磁束量をΦ(Wb)
とする場合,生じる起電力U(V) は,式(JA.3)から求める。
t
Φ
U
d/
d
)
V
(
−
=
····································································· (JA.3)
鎖交する磁束が1秒間に1 Wbの割合で変化するときに,1 Vの起電力を生じる。すなわち,1 Vの電圧
を1秒間時間積分すると磁束は1 Wbとなる。
1 Vsのような電圧方形波を積分器に与える場合は,積分器の周波数応答性を考慮して,誤差要因を軽減
する必要があり,サイン波形を用いる。穏やかなサイン波形を用いた1 Wb校正用電圧−時間波形を,図
JA.2に示す。
16
C 2501:2019
図JA.2−穏やかなサイン波形を用いた1 Wb校正用電圧−時間波形
17
C 2501:2019
附属書JB
(参考)
昇温時の磁気測定に用いる補助磁極
JB.1 測定装置
一般的には,閉磁路を構成する電磁石,試料及びサーチコイルを電気的絶縁性をもつ絶縁油に浸して測
定する。絶縁油は,必要とする温度に加熱し,熱平衡を向上するためにかき混ぜる。温度制御可能な装置
を小形化するため,加熱システムを電磁石の磁極間に挿入する手法を用いてもよい。この手法の詳細は,
IEC TR 61807[4]に示す。
この附属書では,磁極間に挿入する加熱ヒータ内蔵補助磁極について記載する。典型的な電磁石の磁極
間に挿入された加熱ヒータ内蔵補助磁極の配置図を図JB.1に示す。図JB.1のシステムは,電磁石の磁極
を上下に配置し,上部が可変側磁極である。上下の磁極には,試料加熱用ヒータ内蔵補助磁極(上部①及
び下部②)を取り付ける。磁極と補助磁極との間には,熱絶縁材(上部①a及び①b並びに下部②a及び②
b)が挿入されている。測定時,試料はJコイル内に挿入され,補助磁極(上部①及び下部②)の間にセッ
トする。Jコイル及び磁界測定用のHセンサは,水冷ケース内に装着される。上部可変及び下部固定磁極
に配置される補助磁極に内蔵されるヒータの温度は,上部補助磁極及び下部補助磁極にそれぞれ独立にセ
ットされた試料温度検出用熱電対及び温度制御電源によって個別に制御される。熱電対は,補助磁極内に
孔をあけて挿入され,試料近傍にセットされる。図JB.2に熱電対の試料近傍へのセット方法を示す。試料
近傍の温度測定に用いる熱電対は,非磁性で,可能な限り試料近傍に配置する。
昇温時の磁気測定に用いるヒータ内蔵補助磁極の使用方法で重要な点をまとめると,次の3点となる。
− 補助磁極は上下それぞれ個別に温度制御する。
− 温度制御用の熱電対は非磁性とし試料近傍に配置する。
− Jコイル及びHセンサは水冷し,常温を維持する。
図JB.1−電磁石の磁極間に挿入された加熱ヒータ内臓補助磁極の配置図
18
C 2501:2019
図JB.2−熱電対の試料近傍へのセット方法
参考文献
[1] IEC TR 62331,Pulsed field magnetometry
[2] IEC TR 62517,Magnetizing behavior of permanent magnets
[3] Chen, C.H., et al. Verification by finite element modeling for the origin of the apparent image effect in
closed-circuit magnetic measurements. Journal of Magnetism and Magnetic Materials. 2011, 323(1), 108-114
[4] IEC TR 61807,Magnetic properties of magnetically hard materials at elevated temperatures−Methods of
measurement
19
C 2501:2019
附属書JC
(参考)
JISと対応国際規格との対比表
JIS C 2501:2019 永久磁石試験方法
IEC 60404-5:2015,Magnetic materials−Part 5: Permanent magnet (magnetically hard)
materials−Methods of measurement of magnetic properties
(I)JISの規定
(II)国際
規格番号
(III)国際規格の規定
(IV)JISと国際規格との技術的差異の箇条ごと
の評価及びその内容
(V)JISと国際規格との技術的差
異の理由及び今後の対策
箇条番号
及び題名
内容
箇条
番号
内容
箇条ごと
の評価
技術的差異の内容
3 用語及び
定義
主な用語及び定義
3
IEC 60050-121,IEC
60050-151
及び
IEC
60050-221を記載。
追加
本文中に用いられる5用語を,用語
及び定義に追加した。
規格利用者の理解を容易にするた
め,定義を明確にした。
このため,IECへの提案は行わな
い。
9.2
減磁曲線の測定原
理
9.2
JISとほぼ同じ
変更
“磁束積分器の時定数が十分長く,
ドリフトの小さいことが必要”との
IEC規格の表現が曖昧なため,JIS
では“高感度,ゼロ点変動(ドリフ
ト)が小さい,及び測定レンジが大
きいという性能が積分器に必要”と
変更した。
技術的な内容の変化はないが,JIS
の読者が理解しやすいように変更
した。このため,IECへの提案は
行わない。
10.2
最大エネルギー積
10.2
(BH)max product
変更
本文中の“(BH)max product”の説明
を箇条3の用語の定義とし,題名を
“最大エネルギー積”に変更した。
規格利用者の理解を容易にするた
め,定義を明確にした。
このため,IECへの提案は行わな
い。
JISと国際規格との対応の程度の全体評価:IEC 60404-5:2015,MOD
注記1 箇条ごとの評価欄の用語の意味は,次による。
− 追加 ················ 国際規格にない規定項目又は規定内容を追加している。
− 変更 ················ 国際規格の規定内容を変更している。
注記2 JISと国際規格との対応の程度の全体評価欄の記号の意味は,次による。
− MOD ··············· 国際規格を修正している。
2
C
2
5
0
1
:
2
0
1
9