日本工業規格
JIS
B
8433
-1993
(I
10218
: 1992
)
産業用マニピュレーティング
ロボット−安全性
Manipulating industrial robots
−Safety
日本工業規格としてのまえがき
この規格は,
1992
年に第 1 版として発行された ISO 10218 (Manipulating industrial robots−Safety) を翻訳し,
技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
序文 この規格の原国際規格である ISO 10218 は,産業用マニピュレーティングロボットを組み込んだ自
動生産システムに特有な危険を認識して作成された。
危険があることはよく認識されているが,多くの場合,危険の源泉はそれぞれのロボットシステムにおい
て固有のものである。危険の件数及びタイプは,自動プロセスの特性及び据付けの複雑さに直接関連して
いる。
これらの危険に関連するリスクは,使われているロボットのタイプ及びその用途,並びにロボットの据付
け,プログラム,運転及び保守の方法によって異なる。
ロボットを適用する際のいろいろな危険の特性を認識することによって,原国際規格はロボットの設計及
び製作における安全を確保するための指針を与えている。
また,産業用ロボットを適用する際には,安全は個々のロボットシステムの設計や適用方法に依存するた
め,補助的ではあるが重要な目的として,ロボット及びロボットシステムの据付け,機能試験,プログラ
ミング,運転,保守及び修理の際の要員に対する安全防護対策に関する指針も与えている。
1.
適用範囲 この規格は,3.で定義されている産業用マニピュレーティングロボット及びロボットシス
テムについての設計,製作,プログラミング,運転,使用,保守及び修理に対して,安全上考慮すべき点
についての指針である。この規格において確立された安全上の原則は,ほかのタイプのロボットにも適用
できる可能性があるが,適用しない。
備考 この規格では,ロボットという用語は産業用マニピュレーティングロボットを意味する。
複数ロボットからなるシステム,関連マテリアルハンドリング装置をもつシステム,これら両方からな
るシステム及び移動ロボットを組み合わせたシステムに対しては,この規格はそれらのシステムのロボッ
ト部分に適用してもよい。
2.
引用規格 次に示す規格は,この規格への引用によってこの規格の規定の一部をなす。この規格の発
行時点ではここに示す版の規格が有効である。すべての規格は改正されることがあるので,この規格を使
う当事者は,引用規格の最新版を適用できるかどうか検討するのが望ましい。
IEC 204-1 : 1992
Electrical equipment of industrial machines−Part 1 : General requirements
2
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
ISO 6385: 1981
Ergonomic principles in the design of work systems
ISO/TR 8373 : 1988
Manipulating industrial robots−Vocabulary
ISO 9946: 1991
Manipulating industrial robots−Presentation of characteristics
備考 JIS B 8431-1993(産業用マニピュレーティングロボット−特性の表し方)が,この国際規格
と一致している。
3.
定義 この規格で用いる主な用語の定義は,次による。
3.1
一般用語
3.1.1
人 (person) 要員を含むすべての人間。
3.1.2
要員 (personnel) ロボットシステムの使用及び保全のために特別に雇用され訓練を受けている人
の総称。
3.2
専門用語
備考 ISO/TR 8373 を引用している用語については,その定義の日本語訳を記載してある。
3.2.1
腕(一次軸) エンドエフェクタの位置決めを目的としたリンクとジョイントとの相互結合体。
3.2.2
自動モード(ISO/TR 8373 : 1988, 5.3.8.1 参照) 設定されたタスクプログラムに従って,ロボット
制御装置を作動させる運転モード。
3.2.3
イネーブル装置 あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り,ロボットの作動を可
能にするための手動操作装置。
3.2.4
ガード 人を保護するために,特に用いられる機械構造物。
備考 ガードは,設置状況などによって,キャスティング,カバースクリーン,フェンス,ドア,囲
い,バリアなどと呼ばれる。
3.2.5
危険 人に傷害を与えたり健康を害したりするおそれがある要因。
3.2.6
危険な状況/動作 人に傷害を引き起こすおそれがあるあらゆる状況/動作。
3.2.7
ホールドトゥランつまみ 人手で操作したときだけ動作し,離すと動作が停止する機能をもったつ
まみ。
3.2.8
インタロック(安全防護のための) ロボット又は周辺装置のコントロールシステム及び動力シス
テムと,ガード又は安全装置とが相互に結合している仕組み。
3.2.9
ローカル制御 ロボットシステムに設置された制御パネル又はペンダントだけからロボットを運
転できるロボットの状態。
3.2.10
ロックアウト/タグアウト エネルギー遮断装置の“開”又は“閉”の位置に固定具又は表示札を
付けること。
備考 ロックアウト/タグアウトを外すまで,エネルギー遮断装置又はその制御下にある周辺装置を操
作してはならない。
3.2.11
産業用マニピュレーティングロボット(ISO/TR 8373 : 1988,3.3 参照) 3 以上の軸を持ち,自動
制御によって動作し,再プログラム可能で多目的なマニピュレーション機能をもった機械。産業オートメ
ーションの分野では,移動機能をもつものともたないものとがある。
備考 上述の定義に用いられている用語の意味は,次のとおりである。
再プログラム可能 :物理的変更なしにプログラムした動き又は補助機能を変更できること。
多目的
:物理的変更によって異なる用途に使用できること。
3
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
物理的変更とは機械的構成品又は制御ユニットを変更することであり,プログラムされているカ
セット,ROM などの変更は除外する。
3.2.12
手動モード 他のモードに優先して,オペレータによってロボットを作動させる運転モード。
3.2.13
最大領域 ロボットの可動部分によって掃引することができる,製造業者によって定められた領域
に,エンドエフェクタ及びワークによって掃引することができる領域を加えたもの(
図 1 参照)。
図 1 制限領域及び安全防護領域の例
3.2.14
(教示)ペンダント(ISO/TR 8373 : 1988, 6.8 参照) 制御装置に接続して,ロボットにプログラ
ムを教示,又はロボットを作動させることのできる携帯用ユニット。
3.2.15
存在検知装置 定められた平面又は空間への人の侵入を検知するための装置。
備考 存在検知装置には,ライトスクリーン,電磁フィールド,圧力検知装置及び超音波検知装置,
赤外線検知装置並びに画像処理装置などがある。
3.2.16
プログラマ(ISO/TR 8373 : 1988, 3.9 参照) タスクプログラムを作成することができる者として
認定された人。
3.2.17
安全運転速度 ロボット供給者によって用意される唯一の選択速度であって,人がロボットの危険
な動きから回避したり又はその動作を停止させたりするために,あらかじめ制限された速度。
3.2.18
制限領域(ISO/TR 8373 : 1988, 5.5.3 参照) 最大領域の一部で,ロボットシステムにどんな故障・
誤動作が生じても超えることがない限界を設定するリミット装置によって制限された領域。
備考 リミット装置が作動した後に,ロボットが動き得る最大距離も含まれる。
3.2.19
リスク 傷害が起きる確率と傷害の度合いとの組合せ。
3.2.20
ロボットシステム(ISO/TR 8373 : 1988, 3.6 参照) 次のものから構成されるシステム。
(a)
機械構造部(移動機能があればこれを含む。
)
(b)
動力源及び制御装置
(c)
エンドエフェクタ
(d)
ロボットの作業遂行に必要な装置,機器及びセンサ。
(e)
ロボット・装置・センサなどを運転し監視するための通信インタフェース。ただし,これらの周辺装
置はロボット制御装置によって管理されるものに限定される。
4
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
3.2.21
安全作業手順 作業中に起こり得る傷害の可能性を減少させるために定められた作業手順。
3.2.22
安全防護装置 人を危険から守るために設けたガード又は装置。
3.2.23
安全防護領域 安全防護装置によって囲まれた領域(図 1 参照)。
備考 安全防護領域は,制限領域を含む。
3.2.24
安全防護対策 ガード,装置及び安全作業手順を用いて人を保護するための対策。
3.2.25
トラブルシューティング ロボットシステムにおいて意図したように作業が行われないか,又は機
能しなかった原因を系統的に見付け出す行為。
4.
一般的事項
4.1
一般 ロボットの作動特性は,他の機械又は機器と大きく異なる。ロボットは,ロボットのペース
から離れた広い範囲を,大きなエネルギーで動き回ることができる。ロボットの腕がどのようなパターン
で動くのか,またいつ始動するのかということは前もって予測し難く,生産条件又は環境条件が変化する
ことによって,これらは変わる可能性がある。
保守要員又はプログラマは,アクチェエータへ動力が加えられる状態でも制限領域に入ることが必要と
なる場合がある。ロボットの制限領域は,他のロボットの制限領域又は他の産業機器・関連機械の作業領
域と重なっている可能性がある。このため,衝突・挟込み・把持部から離れて飛び出した物体などによっ
て危険が引き起こされる可能性がある。
安全防護対策の設計及び選択は,ロボットのタイプ,ロボットの用途及び,他の産業機械又は関連機器
との関係によって影響を受ける。安全防護対策は,行われる作業に適していなければならず,必要であれ
ば安全防護対策によって教示,準備,保守,プログラムの確認及びトラブルシューティングを安全に遂行
しなければならない。多くの設置状況においては,このような作業ではロボットに近寄ることが必要とな
る。
使用される安全防護対策は,ロボット設置状況によって決まる危険に対して適切なものが望ましい。適
切な安全防護対策を設計選択する前に,危険を識別し,それから生じるリスクを査定する必要がある。
事故防止の技術的手段は,次の二つの原則に基づいている。
(1)
自動運転中には安全防護領域に人がいないこと。
(2)
教示プログラミング,プログラムの確認作業などのために安全防護領域の中に入るときは,危険を完
全に取り除くか,少なくとも危険を減少させること。
これらの原則を遵守するために,次の処置を講じること。
(3)
安全防護領域及び制限領域を定める。
(4)
安全防護領域の外部からほとんどの作業ができるようにロボットシステムを設計する。
(5)
安全防護領域に入る場合には,安全を確保するための手段を準備する。
4.2
安全性分析 安全性の分析に当たっては,次の手順に従わなければならない。
(1)
予測される用途に対して,制限領域への進入又はロボットへの接近の必要性の評価などの,必要な作
業を明示する。
(2)
各作業に関連した過失又は故障を含めた危険の源泉を識別する(4.2.1 参照)
。
(3)
リスクを評価し,査定する(4.2.2 参照)
。
(4)
リスクを許容レベルまで小さくする安全対策を検討する(4.2.3 参照)
。
(5)
必要な作業又は許容できるリスクのレベルに適合する安全防護対策を選択する(7.3, 7.4, 7.5 参照)
。
(6)
安全機能の達成レベルを査定し,そのレベルが許容できることを確認する(4.2.3 参照)
。
5
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
4.2.1
危険の源泉 危険は,ロボットシステム自体,ロボットシステムと他の装置との関連,又はロボッ
トシステムと人との相互作用から生じる。
危険の源泉の例を,
次に示す
(しかし,
これだけに限定しない。
)
。
(a)
次のものの故障又は障害(機能が遂行されなくなること。
)
(1)
保護手段(装置,回路,部品など)
。除去又は分解も含む。
(2)
動力及び動力分配手段
(3)
制御用の回路,装置及び部品
(b)
挟込み又は衝突を引き起こす可動部。
(1)
可動部自身
(2)
ロボットシステムの他の部分又は作業領域内の他の機器と関連したもの。
(c)
蓄積されたエネルギー
(1)
可動部分
(2)
電気又は油空圧機器動力要素
(d)
動力源
(1)
電気
(2)
油圧
(3)
空気圧
(e)
危険な雰囲気,材料又は状態。
(1)
爆発性又は可燃性
(2)
腐食性又は侵食性
(3)
放射性
(4)
極度な高温又は低温
(f)
騒音
(g)
妨害
(1)
電磁,静電及び無線周波数
(2)
振動及び衝撃
(h)
人為的誤り
(1)
設計,開発及び製作(人間工学的配慮を含む。
)
(2)
据付け及び立上げ(接近,照明及び騒音を含む。
)
(3)
機能試験
(4)
アプリケーション及び使用
(5)
プログラムの作成及び検証
(6)
ワークの取付け,保持,及び工具の取付けなどのセットアップ
(7)
トラブルシューティング及び保守
(8)
安全作業手順
(i)
ロボットシステム又は関連機器の移設,取扱い及び交換
4.2.2
リスクアセスメント ロボットの大きさ,能力及び速度は非常に多様である。さらに,ロボットは
多くの異なる用途に適用できる可能性をもっている。したがって,各種の危険及びいろいろなレベルのリ
スクが存在する。ロボットシステムの据付け,プログラミング,運転,使用,トラブルシューティング及
び保守作業中に起きるリスクを十分に査定しなければならない。
ロボットのアクチュエータに動力が供給できる状態で,ロボットに近づかないとできない作業に対して
6
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
は特に注意することが望ましい。もし,例外的に接近作業が必要であると認められた場合には,適切な安
全防護装置を設計し適用しなければならない。非常停止後,最終的にどこでロボットが停止するかは,ロ
ボットのもっている運動エネルギーによって決まるので,必ずしも適切に決定できるとは限らない事実に
注目することが望ましい。
4.2.3
安全手段を選択するときの考え方 安全手段は,設計段階で組み込まれる手段と使用者によって組
み込まれる手段との組合せからなり立っている。
ロボットシステムの設計開発に当たり,まず性能を許容できるレベルに保ちながら安全対策を考慮する
こと。この段階で実現できない場合は,ロボットシステムの用途の柔軟性を保ちながら,安全防護対策を
考慮すること。安全防護対策には,安全防護装置,注意喚起手段及び安全作業手順が含まれる(7.3, 7.4, 7.5
参照)
。
5.
一般的設計要求事項
5.1
フェールセーフ すべての構成要素(電気,電子,機械,空気圧及び油圧)の中でいずれか 1 個の
部品が予測可能な範囲で故障しても,安全機能は影響を受けず,また,影響を受けた場合でもロボットシ
ステムは安全な状態に保たれるように,ロボットシステムを設計,製作及び据付けすること。安全機能に
は少なくとも次に示すものが含まれる。
1)
可動範囲の制限
2)
非常停止及び安全停止(6.4.2, 6.4.3 参照)
3)
安全運転速度
4)
安全防護装置のインタロック
故障時の制御機能の要求については IEC 204-1 を適用しなければならない。
5.2
電気装置 ロボット及びロボットシステムの電気装置は,IEC 204-1 によらなければならない。
5.3
動力の供給 動力源及び接地(保護アース)の要求については,製造業者の仕様によらなければな
らない。
5.4
動力源の遮断 それぞれのロボットシステムには,その動力源を遮断する手段を設けること。この
手段は,誰も危険にさらされないように配置され,ロックアウト・タグアウトできること(電源遮断装置
に対する要求については,IEC 204-1 を参照。
)
。
6.
ロボットの設計及び製作
6.1
一般 ロボット製造業者は,この項及び 5.に述べる原則に従ってロボットを設計し製作しなければ
ならない。
6.2
人間工学的側面 人間工学的な手段及びデータを適用することによって,作業の達成が容易になり,
かつ,人間の介在中(例:修理,保守,点検,プログラミング,運転)の人為的な誤りが減り,その結果,
安全レベルが向上する。次の事項が要求される。
(1)
人間の介在が必要なロボット要素の設計においては,体格,姿勢,筋力及び身体の動きなどの人間の
特性を考慮すること(ISO 6385 参照)
。
(2)
ヒューマンインタフェース(運転及びプログラミング装置,可搬式制御装置などの入出力装置,制御
パネル,コンピュータ端末及び応用プログラムからのソフトウェアによって行う動作を含む。
)
は,
個々
の使用者にとって使いやすいように設計し,設置すること。
(3)
ロボットの作業モードを明確に示したり,プログラムされていないのに停止した理由を表示するなど
7
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
の適切な情報を提供すること。
6.3
機械的側面
6.3.1
一般 ロボットの可動部分で起きる危険は,できるだけ初期設計の段階で除去しなければならない。
除去できないときには,適切な安全防護装置を設計の一部として組み込まなければならない。もし,設計
上で組込みができないならば,後の段階で安全防護装置を組み込むことができるように考慮しなければな
らない。
6.3.2
可動範囲の制限 ロボットを設計する際には,腕の可動範囲を制限する手段を準備しておかなけれ
ばならない。設計された使用方法において,その手段は次の事項のいずれかを満たさなければならない。
(1)
メカニカルストッパを使用する。ストッパは,調節可能であることが望ましい。
また,最大速度で定格負荷を搬送しているロボットをどの調節位置でも停止できるようにしておく
こと。
(2)
メカニカルストッパと同程度に安全に設計,製作及び据え付けられている場合に限り,他の方法を使
用してもよい。この方法には,IEC 204-1 による制御装置又はリミットスイッチの使用などがある。
6.3.3
カバー及びエンクロージャ 危険を引き起こす電気機器,油圧機器などには,固定式のカバー又は
エンクロージャによって,ロボットの運転中に操作できないように設計しなければならない。固定式のカ
バー又はエンクロージャは,工具がないと取り外しできないようにしなければならない。
6.3.4
運搬 運搬のためには,フック・アイボルトなどを必要に応じて用意し,運搬中に意図しない動き
が起きないように取り付けなければならない。出荷重量をロボットに表示するのが望ましい。
6.3.5
取付け手段 所定のすべての運転状態において,安定した運転ができるように,ロボットを確実に
固定する方法を講じなければならない。
6.4
制御的側面
6.4.1
パネル配置 操作ボタン又はスイッチ類を IEC 204-1 に従って配置し,識別し,不用意な操作から
保護しなければならない。
6.4.2
非常停止 手動の非常停止スイッチは,IEC 204-1 によらなければならない。個々のロボットは,
外部非常停止装置,安全防護装置又はインタロックを非常停止回路に接続できるようにしておかなければ
ならない。
非常停止回路を手動でリセットすることなしに,ロボットのいかなる動作も開始しないように設計しな
ければならない。非常停止回路のリセットでロボットのいかなる動作も開始してはならない。非常停止又
は電源異常によって重要なロジック又は記憶状態が失われる場合には,このロジック又はメモリのリセッ
トすることなしに運転が再開されないこと。
6.4.3
安全停止 安全停止回路が用意されているときには,個々のロボットにおいて安全防護装置及びイ
ンタロックをこの回路に接続できるようにしておかなければならない。すべてのロボットの動作を始動す
る前に,アクチュエータへの動力のリセットが必要であること。アクチュエータへの動力のリセットによ
っていかなる運転も始動してはならない(IEC 204-1 9.2.2 のカテゴリー1 参照)
。
6.4.4
電気コネクタ 正しく結合しないと危険な動作を引き起こす可能性がある,ロボットに使われてい
る電気コネクタには,すべてキー溝を設けるか又はラベルをはらなければならない。外れたり壊れたりす
ると危険な動作を引き起こす可能性がある電気コネクタは,意図せずに外れないように設計し製作しなけ
ればならない。
6.4.5
ペンダント ペンダントは,次の設計要求事項を満たさなければならない。
(a)
ペンダントを手にもっている間は信頼して使用できるように,人間工学の原則(6.2 参照)に従って設
8
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
計すること。
(b)
ペンダントを安全防護装置内で使用している間は,ロボットが自動運転に切り替わらないようにする
こと。
(c)
ペンダントには非常停止装置を設けること。
(d)
安全防護装置内の要員によってロボット動作を始動することのできるペンダントには,ホールドトゥ
ランつまみをもった装置を備えること。
(e)
ロボットをペンダントで制御する場合,ロボットのすべての動作は,ペンダントだけから始動できる
ようにすること。
(f)
ペンダントで始動するロボットの動作は,すべて安全運転速度以内であること。許容される安全運転
速度は,ロボットの出し得る力及びロボットの使い方(例えば,据付けの形態)によって定まる。安
全運転速度は,メカニカルインタフェース部で測定して 250mm/s を超えないことが望ましい。
(f)
の除外項目 安全運転速度より速い速度が必要とされるとき(例えば,プログラムの検証の際)に
は,例えば,キースイッチを用いるような確実な方法で,適切な運転方法を慎重に選ぶこと。安全防
護装置の中に要員がいる間は,ホールドトゥランつまみをもった装置及びイネーブル装置の使用によ
ってだけロボット動作が始動されるようになっていること。
6.4.6
イネーブル装置 ロボットシステムにイネーブル装置を設ける場合は,イネーブル装置が所定の動
作位置にあるときだけロボット動作又はその他の機能が有効となるように設計し,それ以外の動作位置で
は,危険な動作を停止しなければならない。このイネーブル装置の操作が危険な動作又は機能を引き起こ
してはならない。
イネーブル装置が必要な場合(例えば,安全運転速度より速くロボットを動作させる場合)には,イネ
ーブル装置は,安全停止回路又は同等レベルの安全性のある停止回路に接続しなければならない。
次のいずれかの場合には,イネーブル装置を働かないように設計してもよい。
(1)
安全防護装置内に誰もいない場合。
(2)
ロボットの動作が安全運転速度以下である場合。
イネーブル装置は,ペンダントの一部であってもよいし,別の装置であってもよい。
6.5
直接教示を行うロボットに対する手段 人がその腕を直接動かして教示するロボットについては,
必要に応じてカウンタバランスを効かせてプログラムを作成している間には,安全に動力を遮断する手段
を講じておかなければならない。
6.6
非常時の動作に対する手段 非常時の対策のために,ロボットの軸を動かす手段を講じておかなけ
ればならない。これらの手段の例として次のものがある。
(a)
動力遮断の場合
(1)
システムの圧力を下げるリリーフ弁
(2)
動力駆動ブレーキの手動解除(カウンタバランスがある場合)
(b)
動力復帰の場合
(1)
パイロット操作弁/駆動装置の手動制御機構
(2)
逆動作を始動する制御機構
6.7
動力源 動力源の停止,復帰又は変動がロボットの危険な動作を起こさないように,ロボットを設
計し製作しなければならない。
9
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
6.8
蓄積エネルギー 蓄積エネルギーを徐々に解除する手段を講じなければならない。このエネルギー
は,流体圧力アキュムレータ,コンデンサ,ばね,カウンタバランス,はずみ車などの形態で蓄えられて
いる。個々の蓄積エネルギー源には適切なラベルを付けなければならない。
6.9
妨害 ロボットの設計及び製作に当たっては,安全性に影響を与える妨害を最小に抑えるために適
切な工学的手段を組み込まなければならない。妨害には,電磁妨害 (EMI),静電気放電 (ESD),無線周波
妨害 (RFI),熱,光,振動などがある。
備考 妨害に対する要求事項及び試験については IEC 204-1 に規定されている。
6.10
運転モードの選択 運転モードを確実に選択することができる装置を用意しなければならない。さ
らに,この装置は選択された運転モードを表示しなければならない。種々の運転モードの選択それ自身が
ロボットを動作させたり,その他の機能を働かせてはならない。
運転モード(例えば,調整,教示又はプログラムの検証)の選択で安全防護装置による保護の解除は,
運転条件がキースイッチなどによって確実に選択されているときに限り可能にすることが望ましい。安全
防護装置を解除しているときには,自動運転(通常運転)ができないようにしなければならない。
また,ロボット動作は,安全運転速度以内で行わなければならない(除外項目については,6.4.5(f)参照)
。
6.11
取扱説明書への要求事項 ロボット製造業者が提供する取扱説明書に対する要求事項については,
10.1
を参照すること。
7.
ロボットシステムの設計及び安全防護対策
7.1
一般 ロボットシステムの製造業者/供給者は,この項及び 5.に記載された原則に従って,ロボッ
トシステムの設計及び製作を行わなければならない。
7.2
設計
7.2.1
はじめに ロボットシステムは,運転,プログラム及び保守する要員を適切に安全防護するために,
ロボット製造業者の仕様に従って設計しなければならない。ロボット及びロボットシステムが予期される
運転状態に適合していることを確認するために,すべての環境状態を評価しなければならない。環境状態
には爆発性の混合気,腐食性環境,湿度,じんあい,温度,電磁妨害 (EMI),無線周波妨害 (RFI),振動
などがある。
7.2.2
安全防護領域 安全防護領域を定める際には,制限領域の更に外側に必要な付加的領域に対してリ
スクアセスメントを行うこと(
図 1 参照)。
7.2.3
ロボットシステムの配置
7.2.3.1
制御装置は,安全防護領域の外側に据え付けるのが望ましい。制御装置を安全防護領域内に据え
付ける場合には,領域内にいる要員の安全に関してこの規格に適合する方法で,設置し固定しなければな
らない(7.6 及び 8.参照)
。
7.2.3.2
ロボットシステムは,ロボットの可動部と他の固定部・可動部との間での挟込み又は衝突が起き
ないように設計しなければならない。
そのレイアウトの設計においては,ロボットの可動部分とその周辺の物(例えば,構造物の柱,天井の
横木,さく,動力線など)との間に十分な間隔を設けなければならない。この規定は,作業に必要な関連
装置(例えば,工作機械のフランジ,割出しテーブル,運搬装置,自動旋盤,プロセスセンタ,プレス,
射出成形機など)に対しては適用しない。
10
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
7.2.3.3
計画段階で,腕の可動範囲を制限することによって制限領域を狭くする必要が生じたときには,
リミット装置を 6.3.2 に基づいて設けなければならない。リミット装置を正確に調整し,確実に固定しなけ
ればならない。
7.2.3.4
エンドエフェクタは,次のように設計製作し安全防護しなければならない。
(1)
動力が遮断しても負荷を解放したり,又は危険な状態を引き起こしたりしないこと。
(2)
負荷及びエンドエフェクタによる静的及び動的な力は,それぞれロボットの許容負荷範囲内及び動的
応答の範囲内であること。
7.2.3.5
オペレータが,ロボットと協同で,部品を取り付けたり取り外したりするような手動作業を行う
場合には,オペレータが危険な領域に入らなくてもすむように,給材装置を設置するか又は手動操作に対
する安全防護装置を備えることを,ロボットシステムの計画に織り込まなければならない。
7.2.4
動力源の遮断 ロボットシステムや関連装置の動力源の遮断が危険な状態を引き起こしてはなら
ない。
7.2.5
非常停止 ロボットシステムのオペレータがいる場所には,容易に操作できる非常停止装置を備え
なければならない。非常停止後にロボットシステムを再始動させるための手動操作又はリセット操作は,
制限領域の外で行わなければならない。
7.2.6
遠隔操作 遠隔操作が可能なすべてのロボットに対しては,他のすべての地点からロボットが始動
されることによる危険な状態を防止する手段を講じなければならない。
遠隔操作(例えば,通信ネットワーク)が可能なロボットシステムに対して,ローカル制御の際に,遠
隔指令によって危険な状態を引き起こさないような手段(例えば,キースイッチ)を講じなければならな
い。
7.3
安全防護装置
7.3.1
ガード
7.3.1.1
固定ガード 固定ガードは,次の事項を満たさなければならない。
(a)
予測可能な運転中に受ける力及び周囲から受ける力に耐え得るように製作されていること。
(b)
インタロック装置又は存在検知装置が付いている入口以外からの安全防護領域への侵入を防止するも
のであること。
(c)
固定されており,工具を使用しない限り取外しできないこと。
(d)
鋭利な角や突起がなく,それ自体が危険な物であってはならない。
7.3.1.2
インタロックガード
(a)
インタロック及びインタロックが付いたガードは,次の(1)及び(2)のように設計,据付け,調整するこ
とが望ましい。
(1)
ガードが閉じるまでインタロックによってロボットシステムの自動運転ができないようにしておく
こと。ガードを閉じることだけで自動運転が再始動しないこと。自動運転の再始動は,制御ステー
ションにおける慎重な操作によること(7.6 参照)
。
(2)
ロック付きのインタロックガードでは,危険がもたらす傷害のリスクがなくなるまでガードは開け
られないこと。インタロックガードを開けたとき,動作中のロボットシステムが停止又は非常停止
すること。
インタロックが作動して停止したとき,再始動しても別な危険が発生しないならば,停止した位置から
再始動できること。
ガード内に入る前に危険を除去するには,動力源を遮断すれば十分である。動力を遮断しても,直ちに
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B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
危険が除去できない場合には,ガードのロック及び/又はブレーキシステムを含むインタロックシステム
が必要である。
インタロック付きドアから全身が安全防護領域に入ることができる場合には,意図せずにドアが閉じな
いような装置を取り付けることが望ましい。
ある危険から守られるように据え付けられたインタロックの動作(例えば,ロボットシステムの危険な
動作の停止)が,別の危険(例えば,作業領域への危険な物の放出)をもたらさないように注意を払うこ
とが望ましい。
(b)
特殊な用途に対して,適切なインタロックシステムを選択する際には,リスクアセスメントを考慮す
ること(4.2.2 参照)
。
(c)
インタロックシステムの設計及び製作は,5.1 に従うこと。
7.3.2
存在検知装置 安全のために存在検知装置を用いるときは,次の事項を満たさなければならない。
(a)
存在検知装置は,人がその装置を作動させることなくしては危険区域に入れないように,又は危険な
状態がなくならないうちには制限領域に入れないように据付け及び配置されること。存在検知装置と
一緒に用いられるバリアは,存在検知装置をう回して通ることができないように設置すること。
(b)
存在検知装置の作動は,システムに想定される周囲のいかなる環境からも悪影響を受けないこと。
(c)
存在検知装置が作動して停止したときには,再始動しても別の危険が発生しないならば,停止した位
置からロボットシステムを再始動させてもよい。
(d)
検知領域から人がいなくなってからロボットを再始動すること。人の退去だけで自動運転を再始動し
ないこと(7.6 参照)
。
7.4
注意喚起手段 次の注意喚起手段は,安全防護装置に追加して使用してもよい。しかし,安全防護
装置の代替として使用してはならない。
7.4.1
注意喚起バリア 注意喚起バリアは,人が不注意にロボットシステムの制限領域内に入ることがな
いように製作し据え付けること。
7.4.2
注意喚起信号 注意喚起信号は,危険への接近又は危険の存在を耳に聞こえる音又は目に見える信
号によって,人に知らせるように製作し配置すること。光による注意喚起装置を制限領域内の危険の警告
のために用いる場合には,その領域の近くにいるすべての人にその光がはっきりと見えるような装置を使
用し配置すること。
音による注意喚起装置は,暗騒音レベルより大きく,聞いてすぐ分かる音を発生すること。
7.5
安全作業手順 ロボットシステムの運用の幾つかの段階(例えば,立上げ,工程の切換え,清掃,
保守など)では,
すべての危険から防護するように完璧な安全防護装置を設計することができない場合や,
安全防護装置の機能を抑制させる場合もある。この場合には適切な安全作業手順を決めて用いること。
7.6
安全防護装置のリセット インタロックゲート又は存在検知装置のリセットがロボットの自動運転
を再始動させないこと。安全防護領域の外部において慎重に操作することによってだけ,システムの再始
動ができること。再始動装置は,安全防護領域内から手が届くことなく,安全防護領域内に誰もいないこ
とを容易に確認できる場所に置くこと。
7.7
取扱説明書への要求 ロボットシステム製造業者が提供する取扱説明書に対する要求事項について
は 10.2 を参照のこと。
8.
使用及び点検
12
B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
8.1
一般 この項では,教示プログラミング,プログラムの検証,自動運転,トラブルシューティング
及び保守の際の安全に対する要求事項を規定する。使用者は,ロボットシステムに関する各々の運転にお
いて,ペンダント又はイネーブル装置を使っていない要員に対しても,安全防護対策が用意され,使用さ
れ,維持されていることを保証しなければならない。
使用者は,
ロボット制御装置に接続されていないペンダントが使用できないようにしなければならない。
8.2
自動(通常)運転 自動運転は,次の場合にだけ許可されなければならない。
(a)
意図した安全防護装置が設置され機能している。
(b)
安全防護領域に誰もいない。
(c)
適切な安全作業手順が守られている。
8.3
教示プログラミング 教示プログラミングは,可能な限り安全防護領域内に人がいない状態で行わ
なければならない。安全防護領域内で教示プログラミングを行う必要があるときには,次に記されている
ような追加の安全防護対策を用い 6.10 に従って運転条件を選択する場合に限り,安全防護装置(例えば,
ドアのインタロック又は存在検知装置)の防護効果を無効にしてもよい(8.3.1∼8.3.3 は,教示プログラミ
ングに適用される。
)
。
8.3.1
教示プログラミングの前に プログラマは,そのロボットシステムに用いているのと同じ種類のロ
ボットに関して訓練を受け,推奨する教示手順(すべての安全防護対策を含む。
)に精通していなければな
らない。
プログラマは,ロボットシステム及び安全防護領域を目視で調べて,危険を引き起こす可能性がある外
因が存在しないことを確かめなければならない。ペンダントを試験して,適正に動くことを確認しなけれ
ばならない。教示を始める前に,すべての損傷又は故障を修理しなければならない。教示プログラミング
のためにアクチュエータの動力源が必要でないときは,これを切っておかなければならない(カウンタバ
ランスが必要な場合は,それを有効にしておくこと。
)
。
プログラマは,安全防護領域に入る前に,すべての必要な安全防護対策が備えられ機能していることを
確認しなければならない。プログラマは,安全防護領域に入る前に教示モードにし,自動運転を禁止しな
ければならない。
8.3.2
教示プログラミング中 教示プログラミング中には,プログラマだけが安全防護領域に入ることが
できるとともに,次の条件が満たされていなければならない。
(a)
ロボットシステムは,安全防護領域内のプログラマだけが制御できること。
(b)
ペンダントのつまみが意図したとおりに使われること(6.4.5 参照)
。
(c)
ロボットの危険な動作を引き起こす可能性があるすべての遠隔コマンド又は条件に対して,ロボット
が応答しないこと。
(d)
安全防護領域内の危険を引き起こす可能性がある他の装置の動作は,抑制されるか,又はプログラマ
だけが制御できること。プログラマだけが制御できる場合には,ロボットの始動と切り離して他の装
置を慎重に操作すること。
(e)
ロボットシステムのすべての非常停止装置が機能していること。
8.3.3
自動運転への復帰 自動運転に入る前に,プログラマは一時的に無効にした安全防護装置の本来の
機能をもとに復帰させなければならない。
8.4
プログラミングデータ タスクプログラムの記録は,すべての変更内容とともに保管しておくこと
が望ましい。
持ち運びができるメディア(例えば,紙テープ又は磁性体)に記録したプログラムデータは,使用しな
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B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
いときは適切に管理している環境のもとで保管しなければならない。
8.5
プログラムの検証 タスクプログラムによって動くロボットシステムの目視確認が検証手順の一部
として必要な場合には,すべての人を安全防護領域から退去させて行うことが望ましい。安全防護領域内
で要員がプログラムの検証を行う必要がある場合には,次の事項を遵守しなければならない。
(a)
プログラムの検証は,最初は安全運転速度で行うこと。動作制御にホールドトゥランつまみ又はイネ
ーブル装置を必要とする場合を除き,8.3 の要求事項に従うこと。
(b)
ロボットの動作を全速(運転速度)で確認することが必要な場合には,次の事項を遵守すること。
(1)
慎重な操作を必要とする手段(例えば,キースイッチの使用)によって,安全運転速度を無効にす
ること。これは,プログラマだけが行えるようになっていること。
(2)
安全防護領域内にいる要員は,イネーブル装置又はこれと同等レベルの安全性をもつ装置を使用す
ること。
(3)
安全防護領域内にいる要員が危険にさらされることを最小にするための安全作業手順を確立するこ
と。
8.6
トラブルシューティング トラブルシューティングは,安全防護領域の外で行わなければならない。
もし,これが実際的でないとき,また,ロボットシステムの設計段階において安全防護領域内でトラブル
シューティングを行う必要があるように設計されているならば,次の事項を遵守しなければならない。
(1)
トラブルシューティングに責任のある要員は,この作業について資格をもち,かつ,訓練を受けてい
ること。
(2)
安全防護領域に入るすべての要員は,ロボットを作動させるためにイネーブル装置を用いること。
(3)
安全防護領域内にいる要員が危険にさらされることを最小にするための安全作業手順を確立すること。
8.7
保守 ロボット又はロボットシステムには,安全運転の維持を保証するために,検査及び保守の計
画を用意しなければならない。この検査及び保守の計画は,ロボット又はロボットシステムの製造業者の
推奨事項を含まなければならない。
8.7.1
ロボット又はロボットシステムの保守又は修理を行う要員は,作業を安全に行うための必要な手順
について十分に訓練されていなければならない。
8.7.2
ロボットシステムの保守又は修理を行う要員は,危険に対して安全防護されていなければならない。
8.7.3
ロボットアームをあらかじめ定められた位置に置いて安全防護領域の外から保守を行うことが望
ましい。
安全防護領域内で保守を行う必要がある場合には,8.7.3.1 及び 8.7.3.2 の安全防護対策から適当と思われ
るものを,リスクアセスメントを考慮して選択しなければならない。
8.7.3.1
ロックアウト/タグアウトの手段によってロボットシステムの動力源を断たなければならない。
8.7.3.2
ロボットに動力が入っているときに安全防護領域に入る場合には,次の事項を遵守しなければな
らない。
(a)
安全防護領域に入る前に次の手順を行うこと。
(1)
ロボットシステムを目視して,誤作動を引き起こしそうな要因の存在を調べること。
(2)
ペンダントのつまみを使う必要がある場合には,適切な運転を行うためにその使用前に機能の試験
を行うこと。
(3)
損傷又は誤動作が発見されたならば,要員が安全防護領域に入る前に,必要な修理をし再試験を行
うこと。
(b)
安全防護領域内で保守や修理を行う要員には,ロボット又はロボットシステムの全制御権を与えるこ
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と。
(1)
ロボットの制御を自動モードにしないこと。
(2)
ロボットは,いかなる遠隔からの信号にも応答しないこと。
(3)
ロボットシステムのすべての非常停止装置は,有効に機能すること。
(c)
ロボットシステムの自動運転を開始する前に,一時的に無効にした安全防護対策の本来の機能をもと
に復帰させること。
9.
据付け,立上げ及び機能試験
9.1
一般 ここでは,ロボットシステムを正常に運転させる前に,その準備事項及び据付け又は機能試
験に必要な事項について述べる。
9.2
据付け ロボットシステムは,製造業者の要求事項に従って据え付けなければならない。安全防護
対策を危険の分析及びリスクアセスメントによって決定しなければならない。
据付けについての手引書として,JIS B 8431 を参照しなければならない。使用者は,安全性の要求事項
をよく調べて,生産開始に入る前に,安全防護装置が適切に用いられていることを再確認しなければなら
ない。
9.3
立上げ及び機能試験 ここでは,据付け若しくは配置換え後のロボット,又はロボットシステムの
試験の際に行うべき手順を定めている。この手順は,ロボット又はロボットシステムを変更(例えば,ハ
ードウェア又はソフトウェアの変更若しくは部品又は調整の変更)した後又は安全運転に影響を与える可
能性のある保守や修理をした後にも適用すること。
9.3.1
制限領域の指定 立上げ・機能試験をする前に,安全防護対策が準備されていないときには,暫定
的な手段で前もって制限領域を明示しなければならない。
9.3.2
要員の立入制限 立上げや機能試験中,安全防護装置の機能が働くまで,要員は安全防護領域に立
ち入ってはならない。
9.3.3
安全と運転の確認 ロボット又はロボットシステムの立上げ及び試験については,製造業者の指示
に従うこと。最初に始動させる場合の手順は,少なくとも次の事項を含まなければならない。
(a)
動力を入れる前に検査する項目
(1)
ロボットは,機械的に適切,かつ,安定に取り付けられていること。
(2)
電気的な接続は適正で,その容量(電圧,周波数,妨害レベルなど)は仕様範囲内にあること。
(3)
他のユーティリティ(例えば,水,空気,ガス)との接続が適切で,仕様に適合していること。
(4)
周辺装置との接続が適切であること。
(5)
必要に応じて制限領域を制限するリミット装置を備えていること。
(6)
安全防護対策を施してあること。
(7)
物理的環境(例えば,光,騒音レベル,温度,湿度,じんあいなど)が指定内にあること。
(b)
動力を入れた後,確認する項目
(1)
始動,停止やモード選択(キースイッチを含む。
)などの駆動制御装置が意図したとおりに機能する
こと。
(2)
各軸が意図したとおりに動き,かつ,制限されていること。
(3)
非常停止及び安全停止(付いている場合)の回路と装置が正しく機能していること。
(4)
外部動力源の遮断が可能であること。
(5)
教示及び再生の機能が正しく機能していること。
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(6)
安全防護装置及びインタロックが意図したとおりに機能していること。
(7)
その他の安全防護装置(例えば,さく,警告装置)が設置されていること。
(8)
安全運転速度において,ロボットが適正に作動し,製品やワークを扱う能力があること。
(9)
ロボットが自動(正常)運転で適正に作動し,定格速度と定格負荷とで計画された作業を行う能力
をもっていること。
9.3.4
ロボットシステムを再始動させる手順 ハードウェア,ソフトウェア,プログラムの修正,修理又
は保守後のロボットシステムの再始動のための手順は,少なくとも次の事項を含まなければならない。
(a)
動力を入れる前の,ハードウェアシステムの変更や追加事項のチェック。
(b)
ロボットシステムに適切な運転をさせるための機能試験。
10.
取扱説明書
10.1
ロボット製造業者が提供するロボットの取扱説明書 ロボットの取扱説明書には,少なくとも次の
事項を含まなければならない。
(a)
ロボットの形式
(b)
ロボットの特性(JIS B 8431 に準拠)
(c)
物理的環境への要求(JIS B 8431 に準拠)
(d)
据付けの説明(JIS B 8431 に準拠)
(e)
以下の使用方法の説明
(1)
立上げ
(2)
プログラミング
(3)
運転
(4)
再始動の手順
(5)
保守
これらの説明には,ロボットの種々のつまみ及び種々の運転条件に対するロボットの動き,及び危険な
状態を回避するための安全対策について記述しなければならない。
取扱説明書には,ロボットを使用する要員の訓練についても記述しなければならない。
10.2
ロボットシステム製造業者が提供するロボットシステムの取扱説明書 ロボットシステムの取扱説
明書は,そのシステムに含まれているすべての機器(例えば,ロボット,関連装置,安全防護装置など)
の取扱説明書をそれらの形式とともに含んでいなければならない。
少なくとも次の事項を含まなければならない。
(a)
設置又は外部動力源との接続を含むロボットシステム及びその据付けについての分かりやすい記述。
(b)
予測される危険な状態とその回避方法。
(c)
安全防護装置(相互接続図を含む。
)
,相互に関連のある機能,及び相互干渉するように据え付けられ
た危険な状態を伴うガードのインタロックに関する記述。
(d)
そのシステムにおける特別な使い方に対する説明。
11.
訓練 使用者は,ロボット又はロボットシステムのプログラミング,運転,保守,修理を行う要員が,
適切な訓練を受けていること,及びその仕事を安全に行う能力をもっていることを確かめなければならな
い。少なくとも次の事項の訓練を含まなければならない。
(a)
適用可能な標準安全手順並びにロボットの製造業者及びロボットシステムの設計者が推奨する安全に
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関する事項の確認
(b)
与えられた作業の明確な定義
(c)
与えられた作業の遂行に用いるすべての制御装置の識別及びその機能の概要並びに説明
(d)
与えられた作業に関連する危険の識別
(e)
識別された危険に対する安全作業手順を含む安全防護対策の指定された方法
(f)
安全防護装置とインタロックの機能を確認する方法又は正しく機能していることを確認する方法
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附属書 A(参考)
ロボットシステムの主要構成要素を示す概念図
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B 8433-1993 (ISO 10218 : 1992)
JIS B 8433
産業用マニピュレーティングロボット−安全性改正原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(委員長)
高 橋 浩 爾
上智大学
金 子 敏 夫
東京工科大学
伊 藤 潔
上智大学
安 藤 嘉 則
名古屋大学
山 田 陽 滋
豊田工業大学
安 達 俊 雄
通商産業省機械情報産業局
杉 本 旭
労働省産業安全研究所
若 松 茂 三
工業技術院標準部
黒 澤 豊 樹
黒澤 R&D 技術事務所
稲 垣 荘 司
国際電業株式会社
小 杉 辰 夫
株式会社ナチロボットエンジニアリング
井 上 晶
アイダエンジニアリング株式会社
大 津 友 宏
株式会社アマダメトレックス
松 本 郁 雄
川崎重工業株式会社 FA ロボット事業部
大久保 宣 正
株式会社神戸製鋼所 FA ロボット本部
浅 田 和 英
株式会社小松製作所エレクトロニクス事
業本部
松 原 芳 博
セイコーエプソン株式会社
松 浦 民 明
ソニー株式会社 FA 精機事業本部
増 井 望
株式会社東芝メカトロニクスシステム技
術部
岡 田 晃
日揮株式会社技術開発本部
杉 山 謙 吾
株式会社日立製作所習志野工場
針 本 和 夫
株式会社不二越ロボット開発部
山 本 唯 司
ぺんてる株式会社機設事業部
真 田 義 夫
三菱電機株式会社名古屋製作所
久 家 重 允
株式会社安川電機ロボット事業本部