日本工業規格
JIS
B
8006
-1986
往復動内燃機関の性能に関する
圧力計測方法
Pressure Measurements of Performance for
Reciprocating Internal Combustion Engines
1.
適用範囲 この規格は,往復動内燃機関の性能に関する受渡し試験及び形式試験において圧力を計測
する場合の一般的方法について規定する。
備考 この規格の中で{ }を付けて示してある単位及び数値は従来単位によるものであって,参考
として併記したものである。
参考 圧力の単位は,国際単位系 (SI) では,パスカル (Pa) であって,1 Pa=1 N/m
2
である。
なお,参考のため従来単位系も含めた圧力単位換算表を
表 1 に示す。
表 1 圧力単位換算表
Pa (N/m
2
) kgf/cm
2
mmHg
mmH
2
O (Aq)
atm
bar
1
1.019 72
×10
-5
7.500 6
×10
-3
0.101 972
9.869 23
×10
-6
1
×10
-5
98 067
1
735.56
10 000
0.967 84
0.980 67
133.322
0.001 359 5
1
13.595
1.315 79
×10
-3
1.333
22
×10
-3
9.806 7
0.000 1
0.073 556
1
9.678 39
×10
-5
9.806
7
×10
-5
101 325
1.033 23
760
10 332.3
1
1.013 25
100 000
1.019 72
750.06
10 197.2
0.986 92
1
引用規格:
JIS B 7505
ブルドン管圧力計
JIS B 8002
往復動内燃機関の性能試験方法通則
2.
用語の意味 この規格で用いる主な用語の意味は,次による。
(1)
差圧 関連ある二点の圧力差。
(2)
変動圧力 短時間に変化する圧力。
3.
測定項目 及び 使用測定器 往復動内燃機関の性能を確かめる試験において圧力計測の対象となる項
目 及び 使用測定器は
表 2 による。
なお,その項目は,JIS B 8002(往復動内燃機関の性能試験方法通則)の
表 8 に規定する測定項目であ
る。
2
B 8006-1986
表 2 測定項目 及び 使用測定器
番号
測定項目
測定器
アネロイド形気圧計
1
大気圧力
水銀柱マノメータ
指圧計
2
シリンダ内の圧縮圧力
ブルドン管圧縮圧力計
指圧計
3
シリンダ内の燃焼最高圧力
ブルドン管最高圧力計
水柱マノメータ
4
機関又は過給機入口における圧力低下
水銀柱マノメータ
水柱マノメータ
5
機関又は過給機入口における絶対空気圧力
水銀柱マノメータ
水銀柱マノメータ
6
過給機後の給気圧力
ブルドン管圧力計
水銀柱マノメータ
7
給気冷却器後の給気圧力
ブルドン管圧力計
8
給気冷却器内の圧力低下
水柱マノメータ
水銀柱マノメータ
9
過給機入口における排気ガス圧力(静圧過給方式)
ブルドン管圧力計
水柱マノメータ
水銀柱マノメータ
10
排気管内の排気ガス圧力
ブルドン管圧力計
11
冷却液の圧力
ブルドン管圧力計
ブルドン管圧力計
12
潤滑油の圧力
隔膜式圧力計
ブルドン管圧力計
13
燃料圧力
隔膜式圧力計
備考 表 2 に示す測定器以外に電気式圧力変換器を使用することがある。
4.
使用計測器の種類と原理 圧力の計測方法として,圧力の測定に用いる計測器の種類は,原理によっ
て次の 5 種類に分類できる。
(1)
液柱形圧力計(マノメータ) 測定する圧力によって生じる力と,液柱によって生じる力とを釣り合
わせる方式で,液面の高さの差から圧力を求めるものである。
(2)
アネロイド形気圧計 内部を真空にした容器の受圧部の変位を内機によって拡大し,指針の回転に変
えて指度を読む方式のものである。
(3)
ブルドン管圧力計 ブルドン管の内外の圧力差によって,その自由端が圧力に比例した弾性変位をす
る。この変位を内機によって拡大し,指針の回転にかえて指度を読むものである。
なお,被測定流体を直接ブルドン管の中に入れる場合と,ダイヤフラムによって被測定流体と封入
液とを分離する場合(隔膜式圧力計)の二つの方式がある。
一般にはブルドン管圧力計が使用され,粘度の高い被測定流体の場合には隔膜式が使用される。
(4)
ピストン式指圧計 ばねによって支えられたピストンの圧力による変位をリンクで拡大記録する形式
のものである。
(5)
圧力変換器 圧力の変化を,圧電変化,電気抵抗変化,磁わい(歪),固有振動数の変化,静電容量,
電磁誘導の変化などを介して電気信号に変換するもので,圧力を電気出力に変える変換器だけを対象
とするが,電気的出力を表示するものが必要である。
3
B 8006-1986
なお,圧力変換器には次の種類がある。
(a)
ストレインゲージ式 圧力によってひずみを生じる物体に電気抵抗体を接着し,その抵抗値を電気
信号に変換する方式のものである。
(b)
半導体ストレインゲージ式 半導体に力が加わると,結晶エネルギーの状態が変わり,電気抵抗の
変化が生じるピエゾ抵抗効果を利用したものである。
(c)
差動トランス式 受圧部に高透磁率材のコアを取り付け,圧力変化によるコアの変位を差動トラン
スで電気信号に変換するものである。
(d)
静電容量式 圧力によるダイヤフラムの変位を二つの電極の間の静電容量の変化として検知し,電
気信号に変換するものである。
(e)
圧電素子式 強誘電体に圧力を加えると,その強さに比例した電気量を発生するピエゾ発電効果を
利用した方式である。
(f)
その他 リラクタンス式,振動式,力平衡式などがある。
5.
計測器の特徴と使用上の注意事項 圧力測定において考慮する要件としてそれぞれの圧力計測器には,
圧力範囲,精度,感度,直線性,応答性などにそれぞれの特徴があり,計測器としては,測定対象に適し
たものを選ぶ必要がある。
次に,各圧力計の特徴 及び 使用上の注意を示す。
(1)
液柱形圧力計(マノメータ)
(1.1)
特徴 液柱形圧力計は,一次計器として使用されるとともに,校正器としても使用される。
(1.2)
使用上の注意
(a)
使用液体は化学的に安定で,気化しにくく,空気中から水分や汚染物質を吸収せず,また,粘度,
表面張力 及び 体積膨張係数が小さいことが要求される。
一般に,蒸留水,水銀が使用される。
(b)
毛細管現象 及び メニスカスによる誤差を避けるため,管内径は 6∼12 mm が望ましい。
(c)
温度による補正は,通常行わなくてよい。
(2)
ブルドン管圧力計
(2.1)
特徴 測定が容易で直読でき,もれの心配もない。
(2.2)
使用上の注意事項
(a)
脈動対策 ブルドン管圧力計は,脈動(変動圧力)が加わると読取り困難となり,これが繰り返し
加わると疲労し,ついには破損してしまうので,脈動を直接圧力計に導入しない方法を講ずる必要
がある。
そのため,入口に固定又は現場で調整のできる可変の絞り装置を設ける。この場合,若干指針の
振れが残る程度に絞りを止めることが大切である。圧力媒体が液体の場合は,気体に比べ脈動を伝
達しやすいので絞り装置を必要とする場合が多い。
(b)
振動対策 ブルドン管は,片持ばり構造のばねであり,更に拡大機構は精度を確保するため,精密
に作られている。したがって,振動の影響を避けるため,可能な限り機関本体に取り付けないで別
置のパネル上に装備することが望ましい。
また,機関から圧力計までの圧力導管はたわみ性をもたせることが望ましい。
(c)
粘度対策 被測定流体の粘度が非常に高い場合は,これを直接圧力計の中に導入すると,計測が不
可能になるので,被測定流体を直接導入しない方法を講ずる必要がある。この場合オイルセパレー
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B 8006-1986
ターを使用し,これにエチレングリコールを導入するようにする。ただし,この場合は時間ととも
にエチレングリコールが減少するので注意する必要がある。エチレングリコールの減少を防ぐ方法
として隔膜式がある。
(d)
温度対策 隔膜部を含む圧力計内の被測定流体の温度は,80℃以下に保たなければならない。その
ため必要な場合は,リードパイプを用いて,放熱冷却する。
(e)
圧力計取出し口と圧力計との位置と距離 被測定流体が液体の場合には,圧力測定点と圧力計の高
さの差によるヘッドは補正が必要である。
また,被測定流体が管中を流れる場合は,動圧の影響を避けるため,取出し口は直管部に設ける
ことが望ましい。
(3)
ピストン式指圧計(マイハック)
(a)
特徴 原理,構造が簡単であり,シリンダ内圧を直接測定できるが,構造上,固有振動数が低いの
で使用回転数に制限がある。
(b)
使用上の注意 測定時は機関のシリンダヘッドの所定の位置にバルブを介して取り付けるが,この
際,機関とインジケータとの間に屈曲部や距離,そして圧縮比に影響を与えるような容積部を設け
ないことが大切である。
(4)
ブルドン管最高圧力計
(a)
特徴 原理,構造が簡単であり,シリンダ内の最高圧力を簡単に直接測定し,直読できる。
(b)
使用上の注意 測定時は機関のシリンダヘッドの所定の位置にバルブを介して取り付けるが,この
際機関とインジケータとの間に屈曲部や距離,そして圧縮比に影響を与えるような容積部を設けな
いことが大切である。
(5)
圧力変換器
(5.1)
特徴 マノメータ,ブルドン管式に比較し次の特徴がある。
(a)
周波数応答を速くすることができる(最大 100 kHz 程度)
。
(b)
小型軽量にすることができる。
(c)
計測処理装置に信号を伝送しやすい。
(d)
許容温度範囲の広いものができる。
(e)
高い過大圧力に耐えるものができる。
(f)
耐振性の高いものができる。
ただし,二次計器であるので校正が必要である。
(5.2)
使用上の注意事項
(a)
脈動対策 周期的な変動圧力の下で平均圧力を測定する場合,オイルダンパを内臓した変換器を用
いる場合と,圧力の変動に応答する変換器の電気信号をフィルタで平滑して用いる場合とがある。
オイルダンパ内臓のものは,絞り効果を調節できるものもあるので,この場合,変動の大きさに応
じて正確な読取りが可能なところまで絞りこんで用いるが,正常な動作を妨げるまで絞りこむこと
は避けるべきである。
一般に,変換器の受圧部は,圧力によって変位する量が小さく,変動の最大値が許容範囲を超え
ない限り,脈動によって機器が破損することは少ないが,電気信号を平滑して平均圧力を測定する
時,変動圧力の最大値が変換器の測定範囲を超えていると,読み取られる平均値に誤差を生じる。
したがって,この場合 変換器の測定範囲は,変動圧力の最大値をカバーするものでなければなら
ない。
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(b)
過大圧力対策 過大圧力に対する保護機構を内蔵した変換器を除いて,一般に許容最大圧力は測定
最大圧力の 1.5 倍から 2 倍であるので,いかなる場合もこれを超えないようにする。差圧変換器の
場合は,許容最大差圧と別に許容最大管内圧があるのでこれも超えないようにする。
(c)
振動対策 変換器の仕様によって決まっている許容最大加速度を超えない範囲で使用すべきである。
許容最大加速度が明らかでない場合は,できるだけ振動のない所に設置する。振動によって信号出
力が変化するものは測定誤差を招くので,できるだけ振動のない所に設置するとともに,圧力導管
を通して振動が伝わらないよう導管にたわみ性をもたせる。
(d)
温度対策 被測定流体の温度 及び 環境温度はともに変換器の許容温度内でなければならない。被
測定流体の温度が高い場合,必要に応じてリードパイプを用いて放熱冷却させる。この時,被測定
流体が固化したり,非常に粘度が高くなる場合は,オイルセパレータを用いて低温部の流体をエチ
レングリコールなどに置換する。
また,冷却により気体中の水分が凝縮すると,この水頭によって測定誤差を生じる場合があるの
で水分離器を用いる。
環境温度が変換器の使用温度範囲を超える場合は,水冷ジャケットなどによって変換器本体を冷
却する。
(e)
圧力取出しと圧力計との位置 被測定流体が液体の場合は,圧力測定点と圧力計の高さの差による
ヘッドは補正すべきである。
また,シリンダ内の圧縮圧力 及び シリンダ内の燃焼最高圧力を測定する場合は,燃焼室にでき
るだけ接近して取り付けなければならない。
(f)
ノイズに対する対策 変換器の電気出力信号を長距離伝送する場合,シールド線を用いるなどして
電気的ノイズに対する対策をするか,変換器に電流信号出力のものを用いる。
(g)
気泡対策,ドレン対策 変換器への圧力導管は,被測定流体が気体の場合,ドレンが変換器及び圧
力導管にたまらないよう,また液体の場合気泡がたまらないよう導管に
10
1
以上の傾斜をもたせる。
(h)
圧電素子式の変換機の注意点 発生電気量を正確に取り出すためにセンサ部ケーブルコネクタにお
ける電気絶縁性を 10
12
Ω以上に保つ必要がある。
また,原理的に圧力の定常分を測定することはできないので,シリンダ内圧縮圧力,シリンダ内
の燃焼最高圧力を測定する時は,ピストンの特定位置におけるシリンダ内圧力を給気管圧力と比較
するか,検出端を大気に通気するバルブ機構を用いて適宜圧力の基準を校正する必要がある。
6.
測定器の測定範囲及び精度 内燃機関の圧力測定に使われる各測定器の測定範囲 及び 精度を表 3 に
示す。
表 3 測定器の測定範囲及び精度
測定器
測定範囲
精度
水柱マノメータ
0
∼±20kPa {0∼±2039mmAq}
±10Pa {±1mmAq}
水銀柱マノメータ
0
∼±260kPa {0∼±1950mmHg}
±130Pa {±1mmHg}
備考1. ブルドン管圧力計に関しては,JIS B 7505(ブルドン管圧力計)の精度
の1.5級を用いる。
2.
圧力変換器の場合は,個別の計器の仕様によって使用範囲,精度が異な
る。
6
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原案作成委員会 構成表
氏名
所属
吉 田 正 一
芝浦工業大学
斎 藤 孟
早稲田大学
手代木 尚 久
千葉大学
五 味 努
上智大学
平 野 隆 之
通商産業省工業技術院標準部
黒 田 直 樹
通商産業省機械情報産業局
辻 充
社団法人陸用内燃機関協会
古 川 洋
社団法人自動車技術会
大 橋 秀 夫
社団法人日本建設機械化協会
中 島 元 夫
社団法人日本農業機械工業会
長 島 孝 一
社団法人日本舶用工業会
小 郷 一 郎
財団法人日本船舶標準協会
小 島 克 巳
社団法人日本自動車部品工業会
岡 山 透
社団法人日本海事協会機関部
由 川 透
日本国有鉄道車両設計事務所
秋 田 宏
三菱重工業株式会社相模原製作所
高 橋 貞 信
三井造船株式会社機械事業本部機械技術部
李 上 宗 弟
石川島播磨重工業株式会社ディーゼル事業部
古 林 誠
いすゞ自動車株式会社製品企画部
村 松 綏 啓
株式会社新潟鉄工所内燃機事業部
鍵 山 保 男
ダイハツディーゼル株式会社
森 光 良
ヤンマーディーゼル株式会社技術研究所
中 村 正 夫
株式会社小松製作所小山工場エンジン開発センター
原 田 謹 爾
横河北辰電機株式会社研究開発一部
上 原 光 信
長野計器株式会社上田工場技術部
高 村 昭 生
小野測機株式会社技術センター
武 田 勝
日本内燃機関連合会