B 7922:2017
(1)
目 次
ページ
1 適用範囲························································································································· 1
2 引用規格························································································································· 1
3 用語及び定義 ··················································································································· 1
4 種類······························································································································· 2
5 測定原理························································································································· 2
6 測定範囲························································································································· 3
7 性能······························································································································· 3
7.1 精度 ···························································································································· 3
7.2 再現性 ························································································································· 3
7.3 安定性 ························································································································· 3
7.4 商用電源使用指数計の機器性能 ························································································ 3
8 構造······························································································································· 4
9 性能試験························································································································· 4
9.1 試験状態 ······················································································································ 4
9.2 試験に用いる設備及び器具 ······························································································ 4
9.3 試験方法 ······················································································································ 4
10 試験報告書 ···················································································································· 5
11 表示 ····························································································································· 5
12 取扱説明書 ···················································································································· 6
附属書A(参考)自然湿球温度への近似換算の例 ······································································· 7
附属書B(参考)直径150 mm黒球温度への近似換算の例 ···························································· 8
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(2)
まえがき
この規格は,工業標準化法第12条第1項の規定に基づき,一般社団法人日本電気計測器工業会(JEMIMA)
及び一般財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規格を制定すべきとの申出
があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日本工業規格である。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意
を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実
用新案権に関わる確認について,責任はもたない。
日本工業規格 JIS
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電子式湿球黒球温度(WBGT)指数計
Electronic Wet-bulb globe temperature (WBGT) index meter
1
適用範囲
この規格は,湿球黒球温度(WBGT)指数を測定する電子式指数計(以下,指数計という。)について規
定する。
さらに,指数計は,作業者,スポーツ行事の参加者,日常生活者などが暑熱環境に暴露されることによ
る熱中症の発症リスクを把握するために用いることができる。
2
引用規格
次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの
引用規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。
JIS C 1302 絶縁抵抗計
JIS Z 8504 人間工学−WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価−暑熱環境
3
用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,次による。
3.1
湿球黒球温度,WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature)
湿球温度,黒球温度及び気温で演算される温度。
3.2
WBGT指数
個人が暴露される熱ストレスを表す指数。WBGT基準値と照合し熱中症の発症リスクを判断するために
用いる。
3.3
WBGT基準値
作業者について代謝率区分に対応した,最高直腸温度38 ℃を許容限度とするWBGTの値。代謝率区分
は,JIS Z 8504に規定されている。
注記 日常生活,スポーツなど,各々にWBGT基準値を定めている。
3.4
自然湿球温度
人体周辺の環境に置かれた自然な対流中で,濡れたガーゼで覆った温度センサによって示す値。
2
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3.5
相対湿度
人体周辺の環境における,ある温度の空気の飽和水蒸気圧に対する水蒸気分圧の率又は百分率(%)で
表す値。
3.6
黒球温度
人体周辺の環境における,平均放射率0.95の黒球の中空の中心部の温度。
3.7
平均放射温度
人体に与える周辺からの電磁波を媒体とした熱放射の全方向に平均したものと等価な放射熱量をもつ黒
体の温度。
3.8
気温
人体周辺の空気温度。
3.9
相対湿度センサ
相対湿度を測定するセンサ。自然湿球温度に近似換算するのに用いる。
3.10
黒球温度センサ
直径24 mm〜150 mmの球状又は半球以上の表面積をもつ黒球温度を示すセンサ。直径150 mm黒球温度
に近似換算して用いる。
3.11
気温センサ
気温を測定するセンサ。白金測温抵抗体,サーミスタ測温体,熱電対などがある。
4
種類
指数計の種類は,精度区分によってクラス1,クラス1.5及びクラス2に区分し,更に用途に応じて次の
とおり区分する。
a) 設置形指数計 固定設置又は一時的に固定設置して計測する指数計。対象とする人の存在する代表的
な場所に設置し,掲示板表示及び連続データを取得する目的で使われる。
b) 携帯形指数計 作業者など個人が持ち歩き計測する指数計。自己又はその周辺の人のごく近い場所で
計測する目的で使われる。
5
測定原理
指数計は,JIS Z 8504に規定されている自然湿球温度センサ,直径150 mm黒球温度センサ及び気温セ
ンサから計算されるWBGT指数になるように,相対湿度センサ,黒球温度センサ及び気温センサによる測
定値を用いて近似換算を行い,次によって求めたWBGT指数を表示する。
a) 太陽照射がない場合。次の式から算出する。
(
)
0.15
g
nw
3.0
7.0
T
T
WBGT
+
=
3
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b) 太陽照射がある場合。次の式から算出する。
(
)
a
0.15
g
nw
1.0
2.0
7.0
T
T
T
WBGT
+
+
=
ここに,
Tnw: 近似換算された自然湿球温度(℃)
Tg(0.15): 直径150 mm黒球温度に近似換算された黒球温度(℃)
Ta: 気温(℃)
なお,相対湿度センサの値から自然湿球温度に近似換算する方法の一例を,附属書A示す。また,直径
の異なる黒球温度から直径150 mm黒球温度に近似換算する方法の一例を,附属書Bに示す
6
測定範囲
指数計の測定範囲は,少なくとも次の範囲を含まなければならない。
a) WBGT指数
15 ℃〜40 ℃
b) 相対湿度
30 %〜90 %
c) 黒球温度(直径150 mmの場合) 20 ℃〜60 ℃
d) 気温
20 ℃〜50 ℃
7
性能
7.1
精度
相対湿度センサの許容誤差と,黒球温度センサ及び気温センサの各々の許容誤差との組合せで決まる
WBGT指数の誤差の限界によるクラスは,風速0.3〜3 m/sの範囲において9.3 a) の試験を行ったとき,表
1の性能を満足しなければならない。
表1−指数計センサの許容誤差
精度区分
温度センサ
相対湿度センサ
試験方法
クラスa)
WBGT指数の誤差の限界
±2 %
±3 %
±5 %
1
±1 ℃
黒球温度
気温
±0.2 ℃
±0.2 ℃
−
−
9.3 a)
1.5
±1.5 ℃
黒球温度
気温
±0.9 ℃
±0.9 ℃
±0.6 ℃
±0.6 ℃
−
2
±2 ℃
黒球温度
気温
±1.5 ℃
±1.5 ℃
±1.2 ℃
±1.2 ℃
±0.6 ℃
±0.6 ℃
注a) 相対湿度センサの誤差と,黒球温度センサ及び気温センサの各々の誤差との組合せが,測定範囲の中で最も
大きく表れる環境において“WBGT指数に現れる誤差の限界”としている。クラスは,WBGT指数の誤差の
限界で区分し,±1 ℃,±1.5 ℃及び±2 ℃の3種類とする。
7.2
再現性
指数計は,9.3 b) によって試験を行ったとき,各センサの許容誤差の1/2を満足しなければならない。
7.3
安定性
指数計は,9.3 c) によって試験を行ったとき,各センサの許容誤差の1/2を満足しなければならない。
7.4
商用電源使用指数計の機器性能
商用電源(AC100 Vなど)を使う指数計の場合には,更に9.3のd)〜f) によって試験を行ったとき,表
2の性能を満足しなければならない。
4
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表2−電源電圧変動,耐電圧及び絶縁抵抗の性能
項目
性能
試験方法
電圧変動に対する安定性
各センサの変動幅と各センサの誤
差の合計が,指数計のクラスの誤差
の許容差を超えてはならない。
9.3 d)
耐電圧
絶縁破壊が生じてはならない。
9.3 e)
絶縁抵抗
50 MΩ以上
9.3 f)
8
構造
指数計の構造は,次の各項目に適合していなければならない。
a) 相対湿度測定部 相対湿度センサは,周囲の放射熱の影響を受けないように覆われ,かつ,通風をよ
くして熱がこもらない構造とする。
b) 黒球温度測定部 黒球温度計の黒球は,直径24 mm〜150 mmのもので平均放射率0.95のつや消し黒
色のできるだけ薄い肉厚の中空球を用い,次による。
− 黒球の支柱の径が大きく又は本体が近い指向性のある黒球温度測定部は,本体を気温に近い地表面
側に配置し,放射源である天空を上半球で測定しなければならない。
− 球の下半球が気温と同じ放射温度を受けていると仮定して平均放射温度を計算した半球形黒球は,
主に室内及び地表(地面)の温度が気温と同程度の環境で使わなければならない。
なお,平均放射率0.95の黒球が困難な場合は,演算によって補正しなければならない。
c) 気温測定部 気温センサは,周囲の放射熱の影響を受けないように検出部を極力小さくし,かつ,通
風をよくして熱がこもらない構造とする。
d) 表示/出力 WBGT指数を表示する又はデジタルデータを伝送する機能をもたなければならない。そ
のほか,相対湿度,黒球温度,気温,演算された自然湿球温度及び直径150 mm黒球温度を表示する
又は伝送する機能をもつことが望ましい。この場合,WBGT指数と単位が同じものは,区別がつく表
示にしなければならない。
9
性能試験
9.1
試験状態
気圧の影響を受ける器具を用いる場合の試験は,気圧が86 kPa〜106 kPaで行うこととする。
その他の条件は,9.3による。
9.2
試験に用いる設備及び器具
試験に用いる設備及び器具は,必要な性能及び安定性を備えなければならない。試験に用いる標準器は,
国家標準又は国際標準にトレーサビリティが確保されたものを用いる。必要な場合,試験を行う有効空間
内の分布を事前に測定し,評価しておく。
9.3
試験方法
指数計の性能試験は,次による。
a) 精度 精度は,次による。
1) 相対湿度 恒温恒湿槽などの湿度発生空間内に指数計の相対湿度センサ及び標準とする湿度計を設
置し,標準湿度計の指示値(又は出力)と指数計の指示値(又は出力)との差を求める。
この試験は,試験温度を20 ℃,23 ℃及び25 ℃から1点を決め,相対湿度30 %〜90 %の範囲の
低湿度,中湿度及び高湿度の3点について実施する。
5
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2) 黒球温度 恒温恒湿槽などの恒温空間内に指数計の黒球温度センサ及び標準とする温度計を設置
し,標準温度計の指示値(又は出力)と指数計の指示値(又は出力)との差を求める。
この試験は,周囲の放射熱の影響を受けないように,気温と周囲の壁面の温度とが均一な状態で
実施するか,又は黒球を取り外した状態で行ってもよい。試験温度は,20 ℃〜60 ℃の範囲の低温
度,中温度及び高温度の3点について実施する。
3) 気温 恒温恒湿槽などの恒温空間内に指数計の気温センサ及び標準とする温度計を設置し,標準温
度計の指示値(又は出力)と指数計の指示値(又は出力)との差を求める。
試験温度は,20 ℃〜50 ℃の範囲の低温度,中温度及び高温度の3点について実施する。
b) 再現性 日時を変えてa) の精度試験を2回実施し,その差を求める。
c) 安定性 指数計の電源を入れ,所定の安定時間経過後にa) の精度試験を行う。そのままの状態で携
帯形指数計では1時間以上,設置形指数計では8時間以上経過後に再度a) の精度試験を実施し,そ
の差を求める。
d) 電圧変動に対する安定性 電源電圧を定格電圧にして指示が安定したときの値をAとする。次に,電
源電圧を定格電圧の+10 %に変化させ,指示が安定したときの値をBとする。さらに,電源電圧を定
格電圧の−10 %に変化させ,指示が安定したときの値をCとする。B−A及びC−Aの値の最大値を求
める。
e) 耐電圧 指数計電源スイッチ“入り”の状態で,電源端子一括と外箱(接地端子)との間に,定格周
波数の交流1 000 V(直流電源製品は,交流500 V)を一分間加えて,絶縁破壊が生じるか否かを調べ
る。
f)
絶縁抵抗 指数計電源スイッチ“入り”の状態で,電源端子一括と外箱(接地端子)との間の絶縁抵
抗を,JIS C 1302に規定する直流500 V絶縁抵抗計で測定する。
10 試験報告書
作成する試験報告書は,次の項目を含まなければならない。
a) 9.1〜9.3のうち必要な事項
b) 試験結果
c) 特記事項
11 表示
指数計には,見やすい場所に容易に消えない方法で次の事項を表示しなければならない。携帯形指数計
で本体に表示できない場合は,取扱説明書に記載する。
a) 指数計の名称及び製造業者が指定する形名
b) 測定範囲
c) 精度区分(クラス)
d) 電源仕様
e) 製造業者名又はその略号
f)
製造年月又は製造番号
なお,これらの表示は,c) を除き1か所にまとめて表示しなくてもよい。
6
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12 取扱説明書
取扱説明書には,少なくとも次の事項を記載しなければならない。
a) 測定範囲(相対湿度,黒球温度,気温,風速,その他必要事項)
b) 精度区分(クラス)
c) 使用範囲(温度範囲,相対湿度範囲及び風速範囲)
d) 保存環境
e) 使用上の制限及び注意事項
f)
使用方法
7
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附属書A
(参考)
自然湿球温度への近似換算の例
相対湿度センサの値から自然湿球温度への近似換算において,自然湿球温度センサの熱収支は,式(A.1)
で表すことができる(参考文献[10])。
(
)
(
)
(
)
[
]
4
nw
4
r
8
nw
a
444
.0
273
273
10
18
.4
+
−
+
+
−
−
T
T
T
T
v
(
)0
1.
77
a)
as(
nw)
as(
421
.0
=
−
−
T
T
p
RH
p
v
················································ (A.1)
ここに,
Tnw: 自然湿球温度(℃)
Ta: 気温(℃)
Tr: 平均放射温度(℃)
v: 風速(m/s)
RH: 相対湿度
pas(Ta): 気温Taにおける飽和水蒸気圧(kPa)
pas(Tnw): 温度Tnwでの飽和水蒸気圧(kPa)
さらに,平均放射温度Trは,黒球を用いた平均放射温度Trを求める式(A.2)で算出できる(参考文献[10])。
(
)
(
)
273
10
1.1
273
4
1
a
g
4.0
g
6.0
8
4
g
r
−
−
×
×
+
+
=
T
T
d
v
T
T
ε
······························ (A.2)
ここに,
Tr: 平均放射温度(℃)
Tg: 黒球温度(℃)
d: 黒球の直径(m)
v: 風速(m/s)
Ta: 気温(℃)
εg: 黒球の放射率
この式(A.1)及び式(A.2)の適用範囲は,次のとおりである。また,この範囲を超える場合は,適切に補正
する。
− Tnw :15 ℃〜25 ℃
− Tg :18 ℃〜66 ℃(20 ℃〜60 ℃)
− Ta :18 ℃〜30 ℃(20 ℃〜50 ℃)
− v
:0.15 m/s〜3 m/s(0.3 m/s〜3 m/s)
( )内は,この規格の測定範囲である。
風速を計測していない指数計は,仮定した風速で自然湿球温度に近似換算する。
仮定した風速以外の風速を受けている自然湿球温度との間に差が生じる。この誤差が,測定範囲で小さ
くなる仮定の風速を決める。
なお,相対湿度から自然湿球温度に変換する演算は,計測に適した他の式又は実験による方法から求め
てもよい。
8
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附属書B
(参考)
直径150 mm黒球温度への近似換算の例
直径dの黒球温度から直径150 mmの黒球温度への近似換算方法において,同一暑熱環境(気温,平均
放射温度及び風速)にある直径dの黒球温度から直径150 mmの黒球温度への近似換算は,放射熱を受け
てそれぞれの上昇する温度(
)
a
gT
T−
の比の式(B.1) によって求められる(参考文献[10])。
(
)
()
6.0
4.0
6.0
4.0
a
g
a
0.15
g
15
.0
13
.1
1
13
.1
1
v
v
d
T
T
T
T
d
−
−
×
+
+
=
−
−
················································· (B.1)
したがって,黒球温度は,式(B.2)によって求められる。
(
)
()
(
)
a
g
6.0
6.0
4.0
a
0.15
g
41
.2
1
13
.1
1
T
T
v
v
d
T
T
d−
×
+
+
+
=
−
········································ (B.2)
ここに,
Ta: 気温(℃)
d: 黒球の直径(m)
v: 風速(m/s)
Tg(d): 直径d mの黒球温度(℃)
Tg(0.15): 直径0.15 mの黒球温度(℃)
式(B.2)からTg(0.15)の値を求めれば,直径150 mmの黒球温度に変換することができる。
風速を計測していない指数計は,Tg(d)からTg(0.15)の温度に変換するのには,式(B.2)の黒球の直径dと仮定
の風速vを入力して求めた固定の係数で補正することになる。
仮定の風速以外では風速に応じた誤差が生じるので,仮定する風速は測定範囲内で誤差が最も小さくな
る風速を定めて係数を求め,その変換精度は,直径150 mmの黒球温度との比較実験によって確認する。
近似換算による精度は,Tg(0.15)±2 ℃が望ましい。
直径が小さい黒球から直径150 mmの黒球温度に近似換算する演算は,計測に適した他の式又は実験に
よる方法から求めてもよい。
参考文献
[1] JIS B 7920 湿度計−試験方法
[2] JIS C 1611 サーミスタ測温体
[3] JIS Z 8103 計測用語
[4] JIS Z 8000-5 量及び単位−第5部:熱力学
[5] JIS Z 8703 試験場所の標準状態
[6] JIS Z 8704 温度測定方法−電気的方法
[7] JIS Z 8710 温度測定方法通則
[8] JIS Z 8806 湿度−測定方法
[9] ISO 7726,Ergonomics of the thermal environment−Instruments for measuring physical quantities
[10] “WBGT Index Revisited After 60 Years of Use”Ann. Occup. Hyg., 2014, Vol. 58, No. 8, 955-970