>サイトトップへ  >このカテゴリの一覧へ

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

(1) 

まえがき

この規格は,工業標準化法に基づいて,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日

本工業規格である。

制定に当たっては,日本工業規格と国際規格との対比,国際規格に一致した日本工業規格の作成及び日

本工業規格を基礎にした国際規格原案の提案を容易にするために,ISO 230-3:2001,Test code for machine

tools - Determination of thermal effects を基礎として用いた。

この規格の一部が,技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実

用新案登録出願に抵触する可能性があることに注意を喚起する。主務大臣及び日本工業標準調査会は,こ

のような技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実用新案登録出

願に係る確認について,責任はもたない。

JIS B 6193

には,次に示す附属書がある。

附属書 A(参考)変位計

附属書 B(参考)変位計の必要数

附属書 C(参考)工作機械の熱環境指針


B6193:2003(ISO 230-3:2001)

(2) 

目次

ページ

序文 

1

1.

  適用範囲

1

2.

  引用規格

2

3.

  定義及び記号 

2

4.

  基本事項

4

5.

  環境温度変動誤差(ETVE)試験 

5

6.

  主軸の回転による熱変形 

10

7.

  直進軸の運動による熱変形 

14

附属書 A(参考)変位計

20

附属書 B(参考)変位計の必要数 

23

附属書 C(参考)工作機械の熱環境指針 

28

参考文献

30


     

日本工業規格

JIS

 B

6193

:0000

(ISO 230-3

:2001

)

工作機械−熱変形試験方法通則

Test code for machine tools - Determination of thermal effects

序文  この規格は,2001 年に第 1 版として発行された ISO 230-3:2001,Test code for machine tools -

Determination of thermal effects を翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工

業規格である。

なお,この規格で側線又は点線の下線を施してある“参考”は,原国際規格にはない事項である。

この規格は,様々な熱入力が原因で発生する工作機械構造の熱変形及び位置決めシステムに及ぼす熱影

響を試験する方法について規定する。工作機械の熱変形は,運転条件と密接に関係していることが知られ

ている。この規格では,通常の運転条件を模擬するための条件ではなく,性能評価が容易で,工作機械の

性能に及ぼす環境の影響を評価するための試験条件について規定する。例えば,切削油剤を使用すると工

作機械の熱挙動に大きな影響を及ぼす。したがって,工作機械の性能評価として熱影響を評価する必要が

ある場合には,この試験は,工作機械の実際の熱変形挙動を推定するための予備的な試験と考えるのが望

ましい。この規格は,主要な構造要素の熱膨張又は熱収縮によって工具を保持する要素と工作物を保持す

る要素との間に生じる相対変位の測定方法について規定する。

この規格に規定する試験方法は,種々の工作機械の形式検査及び個々の工作機械の受渡検査に適用でき

る。この試験を受渡検査で使用する場合には,使用者は,製造業者との協定に際して使用者の関心のある

構成要素の特性に関係する検査事項を選択してよい。適用する検査規格及び検査費用に関して協定するこ

となく,受渡検査としてこの試験通則を参照するだけでは,受渡当事者間の拘束条件にはならない。この

規格の主な特徴の一つは,JIS B 6192 及び JIS B 6194 に規定されている変位の測定に関係し,すべての性

能試験に及ぼす環境の熱影響に重点をおいていることである。製造業者は,機械が仕様どおりの精度を出

すと考えられる熱環境仕様を提示するのが望ましい。機械の使用者は,製造業者の熱環境指針に適合する

適切な試験環境を提供することに責任をもつか,又は性能が落ちた状態で受け入れることに責任をもつの

が望ましい。熱環境指針の例を附属書 C に示す。

熱環境が工作機械の性能に過大な不確かさ又は変動を生じさせ,製造業者の熱環境指針に適合しない場

合には,期待している精度を下げる必要がある。機械が仕様どおりの性能を発揮することができない場合

には,合成標準熱不確かさを分析することによって問題点を特定できる。合成標準熱不確かさは,この規

格の 3.6 及び参考文献(1)  に定義する。

1. 

適用範囲  この規格は,次の 3 種類の試験方法について規定する。

−環境温度変動誤差(ETVE)試験

−主軸の回転による熱変形


2

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

−直進軸の運動による熱変形

直進軸の運動による熱変形試験(7.参照)は,数値制御工作機械だけに適用し,位置決めの正確さ及び

繰返し性(JIS B 6192 参照)に及ぼす軸の熱膨張並びに熱収縮の影響を評価するために行う。この規格の

7.に規定する試験方法は,2 000 mm 以下の直進軸をもつ機械に適用する。この試験を直進軸が 2 000 mm

を超える機械に適用する場合には,各軸の通常の作業範囲から代表長さ 2 000 mm を選んで行う。

この規格で規定する試験事項には許容値を設けていないことに注意する。

備考  この規格の対応国際規格を,次に示す。

なお,対応の程度を表す記号は,ISO/IEC Guide 21 に基づき,IDT(一致している)

,MOD(修

正している)

,NEQ(同等でない)とする。

ISO 230-3

:2001,Test code for machine tools  −Part 3:  Determination of thermal effects (IDT)

2. 

引用規格  次に掲げる規格は,この規格に引用されることによってこの規格の規定の一部を構成する。

これらの引用規格は,その最新版(追補を含む。

)を適用する。

JIS B 6191

  工作機械−静的精度試験方法及び工作精度試験方法通則

備考  ISO 230-1:1996  Test code for machine tools−Part 1: Geometric accuracy of machines operating

under no-load or finishing conditions からの引用事項は,この規格の該当事項と同等である。

JIS B 6192

  工作機械−数値制御による位置決め精度試験方法通則

備考  ISO 230-2:1997    Test code for machine tools−Part 2:Determination of accuracy and repeatability

of positioning numerically controlled axes からの引用事項は,この規格の該当事項と同等である。

JIS B 6194

  工作機械−数値制御による円運動精度試験方法通則

備考  ISO 230-4:1996  Test code for machine tools−Part 4: Circular tests for numerically controlled

machine tools が,この規格と一致している。

ISO 1:1975

  Standard reference temperature for industrial length measurements

3. 

定義及び記号  この規格で用いる主な用語の定義及び記号は,次による。

3.1 

機械スケール(machine scale)  工作機械の軸の直進又は回転位置を与える機械に組み込んだ測定シ

ステム。

3.2 

公称熱膨張差, NDEnominal differential thermal expansion)  20  ℃と異なる温度によって発生する

測定対象物の推定膨張と測定装置の推定膨張との差。

3.3 

公称熱膨張差の不確かさ,u

NDE

uncertainty of nominal differential thermal expansion)  測定対象

物及び測定装置の熱膨張係数の不確かさによって生じる合成不確かさ。

備考  測定装置及び測定対象物の公称膨張の不確かさの2乗和の 1/2 乗として得られる。

3.4 

環境温度変動誤差(1) , ETVE(environmental temperature variation error  性能測定を工作機械上で

実行している間のどの時間の間でも環境温度の変動によって単独で起こる可能性のある測定の不確かさの

最大推定値。

(

1

) ISO

では,この定義の中で用語“誤差(error)

”の代わりに用語“偏差(deviation)

”を使用する

ことを要求していることは認識している。しかし,ETVE を長い間利用してきたことから,

ISO/TC39/SC2 は,上で述べた ISO 用語の例外として,“誤差”を使用することで一致した。


3

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

備考  この規格では,表記 ETVE(Z;8℃)は,Z 軸方向に平行に求めた ETVE 値が 8℃の環境温度変動幅

に対応することを表す。

3.5 

環境温度変動誤差による不確かさ,u

ETVE

  (uncertainty due to environmental temperature variation 

error)

  機械上での環境温度変化の影響によって生じた性能測定の標準不確かさ。

備考1.  この不確かさは,ETVE の2乗を 12 で割った値の平方根として求める。

2.

工作機械のこの不確かさの推定の基礎は,5.による環境試験である。

3.6 

合成標準熱不確かさ(2)    u

CT

 (combined standard thermal uncertainty)

  一定で均一な温度 20  ℃以

外の温度環境によって生じた長さ測定の合成不確かさ。

(

2

)

この用語は,参考文献(1)で定義する“熱影響による寸法の合成標準不確かさ”と同じである。

備考1.  この不確かさは,環境温度変動誤差の不確かさ(uETVE),温度測定の不確かさ(uTM)及び公称

熱膨張差の不確かさ(uNDE)の2乗の和を 1/2 乗した値である。

2.

合成標準熱不確かさの推定に関する詳細な説明は,参考文献(1)による。

3.7 d

X1,60

  主軸の回転による熱変形試験の最初の 60 分以内に,位置 P1(主軸端から離れた位置)で測

定された X 方向の変位の範囲。

3.8 d

X1,t

  主軸の回転による熱変形試験の全主軸回転時間 t 内に,位置 P1 で測定された X 方向の変位の

範囲。

3.9 d

X2,60

  主軸の回転による熱変形試験の最初の 60 分以内に,位置 P2(主軸端に近い位置)で測定さ

れた X 方向の変位の範囲。

3.10 d

X2,t

  主軸の回転による熱変形試験の全主軸回転時間 t 内に,位置 P2 で測定された X 方向の変位の

範囲。

3.11 d

Y1,60

  主軸の回転による熱変形試験の最初の 60 分以内に,位置 P1(主軸端から離れた位置)で測

定された Y 方向の変位の範囲。

3.12 d

Y1,t

  主軸の回転による熱変形試験の全主軸回転時間 t 内に,位置 P1 で測定された Y 方向の変位の

範囲。

3.13 d

Y2,60

  主軸の回転による熱変形試験の最初の 60 分以内に,位置 P2(主軸端に近い位置)で測定さ

れた Y 方向の変位の範囲。

3.14 d

Y2,t

  主軸の回転による熱変形試験の全主軸回転時間 t 内に,位置 P2 で測定された Y 方向の変位の

範囲。

3.15 d

Z,60

  主軸の回転による熱変形試験の最初の 60 分以内での Z 方向の変位の範囲。

3.16 d

Z,t

  主軸の回転による熱変形試験の全主軸回転時間 t 内での Z 方向の変位の範囲。

3.17 d

A,60

  主軸の回転による熱変形試験の最初の 60 分以内での X 軸周りの角変位の範囲。

3.18 d

A,t

  主軸の回転による熱変形試験の全主軸回転時間 t 内での X 軸周りの角変位の範囲。

3.19 d

B,60

  主軸の回転による熱変形試験の最初の 60 分以内での Y 軸周りの角変位の範囲。

3.20  d

B,t

  主軸の回転による熱変形試験の全主軸回転時間 t 内での Y 軸周りの角変位の範囲。

3.21 e1

X,

  X 方向の正の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲。

3.22 e1

X,

  X 方向の負の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲。

3.23 e2

X,+

  X 方向の正の向きでの目標位置 2 の温度ドリフトの全範囲。

3.24 e2

X,

  X 方向の負の向きでの目標位置 2 の温度ドリフトの全範囲。

3.25 e1

Y,+

  Y 方向の正の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲。

3.26 e1

Y,

  Y 方向の負の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲。


4

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

3.27 e2

Y,+

  Y 方向の正の向きでの目標位置 2 の温度ドリフトの全範囲。

3.28 e2

Y,

  Y 方向の負の向きでの目標位置 2 の温度ドリフトの全範囲。

3.29 e1

Z,+

  Z 方向の正の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲。

3.30 e1

Z,

  Z 方向の負の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲。

3.31 e2

Z,+

  Z 方向の正の向きでの目標位置 2 の温度ドリフトの全範囲。

3.32 e2

Z,

  Z 方向の負の向きでの目標位置 2 の温度ドリフトの全範囲。

4. 

基本事項  

4.1 

測定単位  この規格では,すべての長さ及びその偏差は,mm で表す。すべての角度は,度(

°)で表

す。角度の偏差は,通常,比で表すが,場合によってはマイクロラジアン(µrad)又は秒  (″)を使っても

よい。これらの間には,次の式が成り立つ。

  0.010/1000=10×10

-6

=10 µrad≒2″

    温度は,

°C(摂氏)で表す。

4.2 

JIS B 6191

の参照  この規格を適用するに当たって,特に試験前の機械の据付け及び測定器の推奨

精度については,JIS B 6191 を参照。

4.3 

推奨する測定器及び測定装置  この規格で推奨する測定器は,例としてだけ示す。同じ物理量が測

定でき,同等以上の精度をもつ他の測定器を使用してもよい。次に示す測定器及び測定装置は,5.7.

試験に使用することを推奨する。

a)

十分な測定範囲,分解能,温度安定性及び精度をもった変位計(例えば,直進軸の運動による熱変位

の測定に用いるレーザ干渉測長器又は環境試験及び主軸の回転による熱変形試験に使用する静電容量

形若しくは渦電流形変位計)

b)

十分な分解能及び精度をもった温度計(例えば,熱電対,抵抗又は半導体温度計)

c)

データ収録装置。例えば,すべてのチャンネルを連続的に記録できる多チャンネルペンレコーダ,又

は少なくとも5分ごと(

3

)にすべてのチャンネルを読み取り,後でデータ解析を行うためにデータを保

存できるコンピュータシステム。

(

3

)

コンピュータを利用できない場合には,手計算で処理してもよい。

備考  コンピュータシステムが利用できない場合には,人手でデータ処理をしてもよい。

d)

テストバー。できれば,機種別規格に規定する鋼製のテストバー又は製造業者と使用者との協定に基

づいて設計したテストバー(JIS B 6191 の A.3“テーパシャンク付きテストバー”参照)

e)

変位計を取り付けるための取付具。できれば機種別規格に規定する鋼製の取付具又は製造業者と使用

者との協定に基づいて設計した取付具。その設計では,取付具に生じた温度こう配による局所的な変

形を最小にするのが望ましい。

必要があり,適用できる場合には,軸方向変位計(

図 1∼図 参照)は,テストバーの熱膨張の影響を

避けるために直接主軸端に向けて取り付けてもよい。

  測定器の長時間精度は,例えば,変位計の温度ドリフト試験によって確かめる(A.5 参照)

  測定器は,試験を開始する前には,熱的に安定化させる。


5

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

4.4 

試験前の機械の状態  機械は,完全に組み立てられたものであって,製造業者の説明書に従って完

全に運転できるものでなければならない。必要なすべての水平出し,静的精度検査及び機能検査は,この

試験を始める前に終了しておく。

  製造業者の指定又は測定器の指示に従って内部熱源の影響を安定化させるに十分な時間,機械に電源を

投入して附属機器を運転し,主軸を回転させないで軸を“ホールド”位置に置く。機械及び測定器は,風

及び頭上にある暖房器又は日光などのような外部ふく(輻)射から保護する。

  すべての試験は,無負荷状態で行わなければならない。機械がそれぞれの回転軸上で工作物及び工具の

両方を回転させることに関係している場合には,5.及び 6.に規定した試験は,機械構造の共通の固定位置

で,各回転軸について行う。空気又は油シャワーのような熱影響を最小化する補正機能若しくは装置によ

るソフトウエア又はハードウエアが工作機械上で利用できる場合には,試験中に使用し,それらを使用し

たことを記録する。

4.5 

試験の順序  5.7.に示すそれぞれの試験は,1 種類だけ又はどれと組み合わせて行ってもよい。組

み合わせて使う場合には,この規格に示す順序で行うのが望ましい。

4.6 

試験環境温度  すべての寸法測定は,ISO 1 に従って,測定器及び測定対象物(例えば,工作機械)

が 20  ℃に保持された環境と平衡状態になったときに行う。環境温度が 20  ℃でない場合には,20  ℃に換

算するために測定器と測定対象物(工作機械)との公称熱膨張差(NDE)の補正を行う。例えば,レーザ干

渉測長器を使った変位測定では,レーザ光軸周りの室温及び機械スケールの温度を測定中に記録するのが

望ましい。レーザ干渉測長器の(室温及び気圧の変化にともなってレーザ波長が変化することによる)予

想される長さ変化及び機械スケールの(その温度への応答による)予想される長さ変化を計算する。これ

ら二つの長さ変化の差は,NDE として計算し,20  ℃で変位偏差を決定するためにレーザ干渉測長器によ

る測定データの補正に使う。しかし,この規格は,変化する可能性のある環境温度条件の下で機械の挙動

を特定することを目的としているので,NDE 補正は必要ではない。NDE 補正は,工作物が通常取り付け

られる機械部分と測定器との間だけに適用できる。NDE 補正は,機械スケールの熱変位補正に使ってはな

らない。

5. 

環境温度変動誤差(ETVE)試験

5.1 

一般  環境温度変動誤差(ETVE)試験は,工作機械に及ぼす環境温度変化の影響を明らかにし,工作

機械の精度試験をしている間に熱が原因で発生する誤差を推定するために行う。この試験は,機械の比較

に使ってはならない。ETVE 値は,この規格の 5.2 に規定した方法を使った温度ドリフト試験から求める

ことができる。室温,気圧などの環境補正を必要とする場合には,測定器を正しく使用するためにそれら

の環境補正を使用する。工作物を通常取り付ける機械の部分に材料温度検出器を取り付けることを前提と

するが,測定器に NDE 補正装置が組み込まれている場合には,その補正装置を使用するのが望ましい。

そのような装置を使用したことは記録する。

製造業者は,機械が仕様どおりの性能を発揮することのできる許容熱環境条件の指針を提示するのが望

ましい。そのような一般的な指針には,例えば,平均室温の仕様,その平均室温からの偏差の最大値及び

単位時間当たりの変動回数の範囲,並びに環境温度こう配がある。工作機械の運転及び性能試験のできる

熱環境を設置場所として提供することは使用者の責任である。ただし,使用者が機械の製造業者の規定し

た指針に従う場合には,その仕様に基づいた機械の性能に対する責任は製造業者にある。

工作機械の性能測定において熱影響によって生じた全不確かさは,合成標準熱不確かさとして求めるこ

とができる。その合成標準熱不確かさ(3.6 参照)は,性能試験中と ETVE 試験中との環境条件が同等の


6

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

とき,この規格に規定した試験方法を使って評価できる。使用者と製造業者とが協定した値を超えてはな

らない。

5.2 

試験方法  図 1~図 は,それぞれ立て形マシニングセンタ,横形マシニングセンタ及びターニング

センタ用の測定装置の代表的な取付状態を示す。変位計を取り付けた取付具は,測定する機械の工作物又

は工具を保持する回転しない部分に確実に固定し,次の事項について測定する。

a)

工具を保持する部品と工作物を保持する部品との間の機械の各送り軸に平行な直交 3 軸と平行な向き

での相対変位。測定装置の正確な位置は,試験結果とともに記録する。

b)

工作機械の X 軸及び Y 軸周りの傾き又は回転

主軸の前軸受にできるだけ近い工作機械構造の温度及び主軸端と同じ高さの機械周囲の室温は,少なく

とも 5 分(

4

)ごとに記録するのが望ましい。室温に及ぼす機械の発熱(例えば,油圧部品)の影響を避ける

ために機械から適切な距離だけ離れた室温を測定することが重要である。測定された温度と変位との間に

確かな相関があるわけではないが,環境及び機械構造の熱的変化の指標になる。

備考  ETVE 試験の結果の連続性を明確にするために,測定中の変化が分かるように ETVE 試験の過

程を監視する必要がある。

(

4

温度補正システムの中には5分未満のサイクル時間のものがある。そのような場合には,検出

する頻度をそれに伴って増やすのが望ましい。

温度ドリフト試験は,いったん測定器を設置したら通常の性能測定条件との違いが最小になるようにし,

できるだけ長く続けるのが望ましい。測定基準に対して試験装置を周期的に再設定するような動作が繰り

返される状況では,試験時間は,大部分の動作を繰り返えす周期よりも長くするか又は製造業者と使用者

との協定によるのが望ましい。

5.3 

結果の説明  測定結果は,図 にその例を示すように時間に対する熱変位及び温度の図として描く。

ただし,図示した曲線は,機械の比較に使ってはならない。このような曲線から求めた ETVE の値は,加

工領域の 3 直交平面内で行う各軸に平行な直進軸の位置決め精度(JIS B 6192  参照)又は円運動精度(JIS B 

6194

参照)のような測定で合成標準不確かさを考慮するために用いる。性能測定に合成標準不確かさを適

用するために,室温は,個々の性能測定を行っている間,連続的に記録するのが望ましい。その記録が ETVE

の値を求めた条件と比べて著しく変化した条件になる場合には,ETVE の結果は,その測定過程に対して

は無効である。このような場合には,ETVE の再評価を行うか又は ETVE が適用できる条件にその条件を

補正するのが望ましい(

5

)。さらに,測定装置は,熱的に安定化させなければならない。

(

5

機械の性能試験を行っている間に測定された室温の最大変動は,ETVE 試験を行っている間に

測定された室温の変化以下になるのが望ましい。


7

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

                                                              1.室温検出器            4.変位計 
                                                              2.主軸軸受温度検出器    5.取付具 
                                                              3.テストバー            6.固定用ボルト

  1  立て形マシニングセンタにおける ETVE 測定装置及び主軸の回転による

構造の熱変形測定装置の取付例

                                                                    1.室温検出器           
                                                                    2.主軸軸受温度検出器

  2  横形マシニングセンタにおける ETVE 測定装置及び主軸の回転による

構造の熱変形測定装置の取付例


8

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

(目的を明確にするために,

座標軸は回転してある。)

                                                              1.室温検出器            5.取付具 
                                                              2.主軸軸受温度検出器    6.タレット 
                                                              3.テストバー            7.チャック 
                                                              4.変位計

  3  スラントベッド形ターニングセンタでの ETVE 測定装置及び主軸の回転による

構造の熱変形測定装置の取付例

向きの異なる測定では,それぞれの向きに対応した ETVE 値を使う。例えば,機械の Z 軸に平行な直進

位置決め精度の測定では,ETVE(Z)値として直進位置決めの測定に要した時間に対する Z 軸方向の熱変形

の最大範囲を使用する。同様に他の軸方向に平行に ETVE(Y)及び ETVE(X)を決定する。XY 平面内での円

運動測定のような 2 軸以上に関係する測定を行う場合には,ETVE 値は,ETVE(X)及び ETVE(Y)の最大値

である。

角度偏差測定については,ETVE 値は,角度偏差測定に費やした時間に対する X 軸及び Y 軸周りの傾き

の最大範囲を計算して,求める。傾き角 A 及び B は,同時に測定した軸に平行な二つの変位計の読みの差

を,同一の向きに取り付けた二つの変位計間の距離 で除した値である。この A 及び B の計算は,次式に

よる。

    A=(Y

1

-Y

2

)/l

    B=(X

1

-X

2

)/l

    ETVE(A)=A の最大範囲

    ETVE(B)=B の最大範囲

工作機械の性能試験(例えば,測定の向き)に対する ETVE 値を決めるためには,その性能試験に費や

した時間と同程度の時間に対して最大の室温変化を示す ETVE 曲線の間隔を探さなければならない。その

時間内に観察された最大の変化は,その試験に対する有効な ETVE 値になる。例えば,位置決め精度試験

に約 60 分かかったとすると,図 に示した例では,ETVE(X)値は,時間軸上の 90∼150 分の間から求める

ことができる。その 60 分間の曲線の最大変位から求めた ETVE 値は,0.0015 mm である。


9

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

環境温度変動誤差(ETVE

一例として,60 分かかる試験に対して,この図から次の ETVE 値を得る。 
ETVE(X;1.1℃)=0.0015 mm(90∼150 分)   ETVE (A;1.1℃)=3″(110∼170 分) 
ETVE(Y;0.6℃)=0.0006 mm(230∼290 分)  ETVE (B;1.1℃)=3″(110∼170 分) 
ETVE(Z;1.2℃)=0.001 mm(100∼160 分) 

a  室温                    c  X 軸周りの回転

b  主軸温度                d  Y 軸周りの回転

  4  ETVE 試験による温度及び変位と時間との関係


10

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

5.4 

結果の表示  測定データは,図 に示すように時間に対する変位及び温度の曲線として描く。各向

きに対する ETVE 値は,観察した時間の範囲における室温変動幅も表示し,記録するのが望ましい。例え

ば,ETVE(Z;1.2℃)=0.001 mm。

次に示す情報は,

図 に示すような試験の結果とともに報告するのが望ましい。

a)

測定位置(位置 P1 の座標,

図 参照)

b)

温度検出器の位置

c)

温度検出器の種類

d)

テストバー及び変位計取付具の形状・寸法並びに材料

e)

使用した熱補正方法/装置

f)

協定に基づく特別な試験手順

g)

試験の日時

h)

試験前の機械の準備手順(試験に先立って行う附属機器の運転時間を含む。

i)

図 1∼図 及び図 に示した座標系と異なる場合には,X,Y,  Z,  A,  B の偏差の負の方向

6. 

主軸の回転による熱変形

6.1 

一般  この試験は,主軸の回転によって生じる内部発熱及びその結果生じる温度こう配が工具−工

作物間に生じる機械構造の変形に及ぼす影響を特定するために行う。この試験は,主軸による熱発生に関

係しているので,主軸だけを回転させて行う。

6.2 

試験方法  図 1~図 は,それぞれ立て形マシニングセンタ,横形マシニングセンタ及びターニング

センタ用の測定装置の代表的な取付状態を示す。変位計を取り付けた取付具は,測定する機械の工作物又

は工具を保持する回転しない部分に確実に固定し,次の事項について測定する。

a)

工具を保持する部品と工作物を保持する部品との間の機械の各送り軸に平行な直交 3 軸と平行な向き

での相対変位。測定装置の正確な位置は,試験結果とともに記録する。

b)

工作機械の X 軸及び Y 軸周りの傾き又は回転

主軸の前軸受にできるだけ近い工作機械構造の温度及び主軸端と同じ高さの機械周囲の室温は,少なく

とも 5 分(

6

)ごとに記録するのが望ましい。室温に及ぼす機械の発熱(例えば,油圧部品)の影響を避ける

ために機械から適切な距離だけ離れた室温を測定することが重要である。測定された温度と変位との間に

確かな相関があるわけではないが,環境及び機械構造の熱的変化の指標になる。

(

6

)

温度補正システムの中には 5 分未満のサイクル時間のものがある。そのような場合には,検出

する頻度をそれに伴って増やすのが望ましい。


11

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

試験日

年/月/日

機械

AAA,立て形マシニングセンタ/ 
X=1000, Y=600, Z=800

温度検出器/位置(室内)

熱電対/主軸端から Y=300(手前),X=200(右)

テストバー

鋼,11  μm/m℃,直径 60 mm,長さ 200 mm,No.40 テーパ

取付具

鋼,11  μm/m℃,200×100×50 mm;テーブル中央に固定

使用した温度補正

主軸温度検出器付き油温調整器

暖機運転

なし

軸の位置

X=500 mm, Y=300 mm, Z=400 mm, C=0

測定位置 P

1

X=500 mm, Y=300 mm, Z=220 mm(テーブル上面からの高さ)

変位計間距離 l(P

1

P

2

) 150

mm

 
−主軸速度変化 
−各主軸速度時のドウエル時間 
−備考

(ETVE 試験) 
− 
− 

(主軸回転試験) 
4000 min

-1

一定

なし 
なし

                                                1.  室温検出器            4.  変位計 
                                                2.  主軸軸受温度検出器    5.  取付具 
                                                3.  テストバー            6.  取付具固定用ボルト

  5  ETVE 試験及び主軸回転による熱変形試験用測定装置取付状態表示例


12

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

試験は,次の主軸速度分布の一つによって行う。

−  変動速度分布。例えば,図 に示すような分布。

−  最高主軸速度の割合で表した一定速度。

0

25

50

75

100

主軸速度(

%)

時間(min)

240

180

120

60

0

  6  熱変形試験における主軸速度分布の例

主軸速度分布又はその割合を使った試験方法の選択は,機種別規格に規定する。必要があれば,製造業

者及び使用者は,固有の条件に対応した特殊な試験手順(例えば,試験の前の暖機運転)について協定し

てもよい。選んだ主軸速度分布は,工作機械の実際の利用状態を反映しているのが望ましい。例えば,マ

シニングセンタでは,代表的な加工状態を表現するために 2∼15 分の間隔で主軸速度を様々に変え,その

間に 1 分から 15 分間周期的に主軸を停止させるように決めるのがよい。

すべての変位計の出力は,主軸を4時間回転させた状態で記録する。60 分間における変位の変化が測定

開始からの最初の 60 分にわたって記録された最大変位の 15%未満の場合,又は使用者と製造業者とが協

定した条件になった場合には,

測定開始から 4 時間未満で主軸を停止してもよい。

主軸を停止させた後に,

少なくとも1時間変位の記録を続ける。主軸が回転している場合には,試験中にテストバーの振れの影響

を取り除く(

7

)のが望ましい。

(

7

)

テストバーの振れの影響は,ローパスフィルタ,平均処理又は主軸の回転位置とデータ収集と

を同期させることによって除去できる。

6.3 

結果の説明  測定結果は,図 に示すように時間に対する熱変位及び温度(室温及び主軸軸受温度)

図として描く。

工具と工作物との相対位置を一定に保つという工作機械の能力に及ぼす工作機械構造の暖機の影響は,

これらの図から評価できる。テストバーの振れの影響によって,主軸の始動及び停止で曲線にずれが発生

する可能性があることに注意するのが望ましい。

このずれの影響は,

熱変位を評価する場合には無視する。

角変位(

図 7)の図は,5.3 に規定したように傾き角 A 及び B を計算し,描く。


13

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

                    a  機械構造温度          d  X 軸周りの回転 
                    b  室温                  e  主軸最高速度=6000 min

-1

                    c  Y 軸周りの回転

X1(mm)

Y1(mm)

Z(mm)

A

(″)

B

(″)

最初の 60 分 0.008

0.048

-0.061 6  22

主軸運転の間(t) 0.020  0.124  -0.108

24

38

距離(l) 150

mm

  7  マシニングセンタの主軸回転によって生じた温度及び変位


14

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

6.4 

結果の表示  最初の 60 分(d

X1,60

d

Y1,60

d

Z,60

d

A,60

d

B,60

)及び全主軸運転時間(d

X1,t

d

Y1,t

d

Z,t

d

A,t

d

B,t

)の間,各機械軸に平行な変位の範囲は,同じ方向を向いた二つの変位計間の距離 とともに記録する(図

1

∼図 参照)

。ここに,は,全主軸運転時間の終わりの時間である。表1に示したこれらの値は,図 7

に示す例のように時間に対する温度及び変位の図とともに表示する。次の項目は,図 に示すように,試

験の結果とともに報告するのが望ましい。

a)

測定位置(位置 P

1

の座標,図 参照)

b)

温度検出器の位置

c)

温度検出器の種類

d)

テストバー及び変位計取付具の形状並びに材料

e)

使用した熱補正方法/装置

f)

主軸速度条件

g)

協定に基づく特別な試験手順

h)

試験の日時

i)

試験前の機械の準備手順(運転時間を含む)

  1  主軸の回転による熱変形の試験結果表示例

X1

Y1

Z A B 

最初の 60 分

X1,60

Y1,60

Z,60

A,60

B,60

主軸運転の間  (t)

X1,t

Y1,t

Z,t

A,t

B,t

距離  l

7. 

直進軸の運動による熱変形

7.1 

一般  この試験は,運動方向について工作物と工具との間で観察される機械構造の変形に及ぼす位

置決め系に発生する熱の影響を調べるために行う。この試験は,2 か所の位置における機械軸のドリフト

量を測定するだけでなく,暖機運転中の機械スケールの伸び量も測定する。この試験は,数値制御(NC)工

作機械だけに適用する。

7.2 

試験方法    変位計は,二つの目標位置間で試験している軸(機械の工具側と工作物側との間の相対

運動に対応する)が移動した距離を測定できるように取り付ける。二つの目標位置は,できれば動きの両

端に近いところを選ぶのが望ましい。両方向測定ができるように反転位置をこの測定範囲の外側に 2 か所

選ぶのが望ましい。測定器の代表的な取付例を

図 及び図 に示す。

反転位置の一つから目標位置 1 まで軸を移動させるようにプログラムする。この目標位置 1 で,実際位

置を測定し,記録するに十分な時間(ドウエル時間)休止させる。同じ向きに目標位置 2 までこの軸を移動

させ,第 2 の読みを取る。次に,向きを反転する第 2 の反転位置まで,そのままの向きで移動させる。そ

の反転位置で運動の向きを反転させて,目標位置 2 及び 1 で読みを取り,記録する。二つの目標位置で両

方向からのデータを記録しながら,測定を繰り返す。使用者と製造業者とが協定すれば,目標位置を追加

してもよい。

送り速度は,早送り速度に対する一定の割合でプログラムする。その割合及びドウエル時間は,機種別

規格で規定する。ドウエル時間と送り速度とが違えば,熱入力も異なり,発生する軸のドリフト量も異な

る。この試験では,ドウエル時間及び送り速度は,使用者と製造業者との協定に基づいて変更できる。室

温は,この試験の間は少なくとも 5 分(

8

)ごとに記録する。


15

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

(

8

)

温度補正システムの中には5分未満のサイクル時間のものがある。そのような場合には,検出

する頻度をそれに伴って増やすのが望ましい。

この試験は,4時間続けなければならない。しかし,場合によっては,最後の 60 分間における変位の変

化がその試験の最初の 1 時間にわたって記録された変位の 15 %未満になったときに測定は終了してもよい。

また,使用者と製造業者とが協定した条件になったときに測定は終了してもよい。決まった動作(例えば,

周期的な工具の設定)が観察される状況では,試験時間は,関係する事象が繰り返される周期以上の時間

又は製造業者と使用者とが協定した時間とする。各試験の後に機械が冷却されるのに十分な時間をとるの

が望ましい。多数の測定点でのデータを測定システムに蓄えることができない場合には,二つの目標位置

における測定間隔を,例えば,5 往復ごとに1回測定し,記録してもよい。両方の測定方法を

図 10 に示す。

正確な測定方法を報告するのが望ましい。

備考  冷却過程のドリフト量を測定することは有益である。これを行うために,試験の終了時に最も

大きくドリフトした目標位置まで移動させて,機械が冷却していくときの目標位置の変位を記

録するのが望ましい。

測定器を正しく使用するために室温及び気圧のような環境因子を補正する場合には,補正装置を使用す

る。測定器に NDE 補正装置が入っていて,工作物を通常取り付ける機械上に測定物の温度検出器を置く

場合には,その補正装置を使用するのが望ましい。

7.3 

結果の説明  試験を終了すると,それぞれの向きの誤差に対応して二つの目標位置のドリフト量と

時間との関係を表す四つの曲線が得られる。さらに,この測定の間に記録された時間に対する環境温度の

曲線も得られる。これらの結果は,位置決めの繰返し性の影響を受けることに注意する。

7.4 

結果の表示  それぞれのデータは,時間に対する位置の偏差で表す。一例を図 11 に示す。ただし,

偏差 e1

X,

は,X 軸の正の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲

偏差 e2

 X,

は,X 軸の正の向きでの目標位置 2 の温度ドリフトの全範囲

偏差 e1

 X,

は,X 軸の負の向きでの目標位置 1 の温度ドリフトの全範囲

偏差 e2

 X,

は,X 軸の負の向きでの目標位置2の温度ドリフトの全範囲

である。

次の事項は,

図 11 に示すように,図と共に報告する。

a)

送り速度

b)

ドウエル時間

c)

始点及び終点の位置

d)

補正機能及び装置

e)

使用した測定器

f)

温度検出器の配置

g)

使用した位置検出器の熱膨張係数

h)

測定線の配置

i)

試験の日時

j)

暖機運転の有無(暖機運転をした場合には,その時間を含む)

k)

試験の開始時及び終了時の測定対象の温度

l)

図 及び図 に示した座標系と異なる場合には,ドリフトの正の向き


16

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

a)  刃物台側にダイヤルゲージを取り付けた場合

1  刃物台
2  ダイヤルゲージ
3  試験用ジグ
4  チャック

b)  テーブル側にダイヤルゲージを取り付けた場合

c)  レーザ干渉測長器を使用する場合

  8  マシニングセンタの X 軸運動によって生じる熱変形の代表的な測定方法


17

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

b)レーザ干渉測長器を使用する場合

a)刃物台側にダイヤルゲージを取り付けた場合

  9  CNC ターニングセンタの Z 軸運動によって生じる熱変形測定用装置の取付例


18

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

a)  目標位置で毎回読みを取る測定方法

開始

○  変位測定点

○  変位測定点

開始

★  X 秒間ドウエルする位置

b)  数回ごとに目標位置で読みを取る測定方法

目標位置2

目標位置2

目標位置1

目標位置1

 10  直進軸の運動によって生じる熱変形測定における測定値の読み取り方法の例


19

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

試験日

年/月/日

機械 
測定器及び製造番号

AAA,立て形マシニングセンタ/X=500, Y=800, Z=800 

試験した軸及びその位置 
位置検出器の種類 
位置検出器の熱膨張係数 
使用した熱補正 
暖機運転

X,Y=250,Z=200 
ボールねじ及びロータリエンコーダ 
11  μm/(m℃) 
なし 
なし

試験していない軸の位置 Y=250

mm;Z=400 mm;C=0

送り速度   
始点及び終点 
各目標位置でのドウエル時間 
データを読み取る間隔

500 mm/min 
X, 20,450 mm 
5 s 
5 回ごと

温度検出器/位置(室温) 
              (機械)

主軸頭から手前;200 mm X, 300 mm Y 
テーブル,X=50 mm

開始時の温度(℃)

終了時の温度(℃)

機械温度 
室温

19.5 
20.0

22.0 
28.5

a 室温

 11  直進軸の運動による熱変形の測定例


20

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

附属書 A(参考)変位計

この附属書(参考)は,本体及び附属書(規定)に関連する事柄を補足するもので,規定の一部ではな

い。

A.1 

一般  この規格の本体に規定する測定に共通して使用できる変位計は,次に示す機械式,電子式及び

光学式の変位計の 3 種類である。

A.2 

機械式変位計(ダイヤルゲージ)

A.2.1 

一般  機械式変位計であるダイヤルゲージは,円板状の目盛板をもった本体と接触式の測定子とか

ら構成されている。測定子は,接触点の動きの量を目盛板上に表示できるように渦巻き又は歯車を介して

本体と接続されている。通常の試験は,目量 0.01 mm のダイヤルゲージで行うが,より精密な試験には目

量 0.001 mm のダイヤルゲージを用いるのが望ましい。

A.2.2 

使用上の注意  ダイヤルゲージの基本的な性能は,次による。

a)

誤差の曲線

b)

行き戻りの最大差

c)

測定子の行程の始点及び終点での測定力の上限値

d)

測定力の最大局所変化(この力は,一般に行程内の全位置でプランジャの出入に対して異なった値と

なる。

e)

ダイヤルゲージを上下逆にしたときの繰返し性

ダイヤルゲージは,行程が短く,特に行き戻りの差が小さくて,測定力の小さいものを推奨する。

ダイヤルゲージを主軸の回転による熱変形の試験に使用する場合には,テストバーの心出しを行うか,

又は常に主軸の同一角度位置で読みを取るのが望ましい。

A.3 

電子式変位計

A.3.1 

一般  電子式変位計は,対象物の動きに比例した連続的な電圧を出力する。多くの場合にこの出力

電圧は,増幅され,指示計又はデジタルで表示される。主な種類は,電気マイクロメータ,渦電流形変位

計及び静電容量形変位計の 3 種類である。

A.3.2 

電気マイクロメータ(LVDT

A.3.2.1 

一般  電気マイクロメータに組み込まれた直動可変作動トランス(LVDT)は,一つの 1 次コイ

ルと二つの 2 次コイルを巻いた円筒の中を軸方向に動くコアの変位に比例した電圧を出力する。コアが中

央位置から動くと,二つの 2 次コイルに誘起された電圧の差動値が変化する。LVDT を組み込んだ変位計

の形式には,プランジャ式とレバー式とがある。

A.3.2.2 

使用上の注意  電気マイクロメータの支持は,不要な誤差が入るのを防ぐために十分な剛性をも

つのが望ましい。プランジャ式電気マイクロメータの測定子は,不正確さを避けるために測定面に垂直に

当てるのが望ましい。

A.3.3 

渦電流形変位計

A.3.3.1 

一般  渦電流形変位計の原理は,電磁誘導現象を利用したものである。変位計内部に組み込まれ

たコイルに高周波電流を流すことによって発生させた高周波磁界中に金属物体を接近させると,電磁誘導

作用によってコイルからの磁束を打ち消すような渦電流が金属物体表面に発生する。


21

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

渦電流の強さは,コイルと金属物体表面との距離及び金属の交流抵抗によって変化する。発生した高周

波電圧の振幅変化を基準電圧と比較し,出力電圧として取り出す。この測定原理では,1 MHz 又は 2 MHz

で作動する絶対的に安定した周波数及び振幅の発振回路が必要になる。変位計コイルから目標物までの距

離とこの出力電圧との関係は線形でないために,一般に線形化回路を用いて線形化する。他の重要な因子

は,渦電流現象の温度依存性である。

A.3.3.2

使用上の注意  出力信号と線形性とは,テストバーの電気的・磁気的特性及び表面状態に依存す

る。

個々に線形化及び校正が必要である。

高周波であるために,変位計接続ケーブルの最大長さは,約 12∼18 m である。

変位計の直径を大きくすると,測定距離は長くなる。

A.3.4 

静電容量形変位計

A.3.4.1 

一般  静電容量形変位計は,二つの電極間の距離が変化すると静電容量が変化することを利用し

た非接触形変位計である。二つの電極は,変位計と対象物とから構成される。変位計側の電極に一定周波

数の交流が印加されると,この交流電流の振幅は変位計電極から目標物までの距離に比例する。

目標物は,この場合には接地電極として機能する。補正電圧が増幅器内で同時に発生される。両方の電

圧が変調された後に,二つの電圧値の差が増幅され,アナログ出力信号として利用できるようになる。こ

の信号は,対象物体の誘電率の影響を受けず,完全に独立している。

特に線形化する必要はなく,リラクタンス Xc と電極間隔との間に厳密な比例関係がある。変位計は二

重円環形のキャパシタとして設計されているので,目標物の誘電率とは無関係に,出力信号の線形性は良

好である。特別な電子制御器を使って誘電係数を一定にすれば,目標物として絶縁材料を使った測定も可

能である。

A.3.4.2

使用上の注意  測定すき間の中にある誘電体の変化に敏感なために,清浄で乾燥した環境だけで

使える。

  最大ケーブル長は,発信回路に及ぼすケーブルの影響によって決まる。

  変位計の直径を大きくすると,測定距離は長くなる。それに伴って測定範囲の直径は大きくなる。

A.4 

光学式変位計

A.4.1 

レーザ光式3角測量形変位計

A.4.1.1 

一般  パルスレーザ光は目標物表面に照射され,その表面から反射したレーザ光をそれと同一の

ケース内にある受光器で受ける。反射光は,拡散するのが望ましい。反射されたレーザ光は,レンズを通

して受光され,

超高感度のアナログ線形検出器又はそれに代わるデジタル CCD 素子上に焦点が結ばれる。

その検出器上で焦点を絞られた反射光の位置は,送光器から目標までの距離に関係する信号を出す。

  高反射面,色違いの面,色変化のある面などの望ましくない表面は,距離の測定精度に影響を及ぼす。

しかし,最新の電子技術によって,例えば,自動光量調節器を使ってこれらの影響を最小化でき,完全に

補正できる。

A.4.1.2 

使用上の注意  試験対象物の表面特性にある程度依存する。

送受光において清浄な環境が要求される。

変位計として寸法が大きい(渦電流形及び静電容量形変位計と比べて)

A.4.2 

レーザ走査マイクロメータ

A.4.2.1 

一般  この測定器は,当初はワイヤ及びチューブの直径を測定するために設計された。このシス


22

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

テムは,レーザ光源,ビーム走査プリズム,回転角度測定システム,時間基準及び光軸の位置を検出する

ための二つの組合せ CCD 素子から構成されている。目標物の直径及びその中心位置は,ビーム位置及び

プリズムの回転速度から求める。テストバーの中心位置と直径とを測定できるシステムは,工作機械主軸

中心線のドリフトを検出することができる。

A.4.2.2 

使用上の注意  正確さ及び繰返し性は,平均数に依存する。1

µm よりも高い精度を必要とする場

合には,100 回以上の測定値を平均する必要がある。レーザ光源は,より精密な測定を必要とするときに

は,予め暖める時間が必要である。

A.5 

温度安定性試験  この試験に使用する変位計の温度安定性は重要である。変位計の中には,異なる材

質で作られているものがある。材料を混合して使用すると変位計に複雑な温度ドリフトを発生させる。こ

の規格に規定した熱変形試験で使用する前に,変位計システム自体の熱挙動を試験するのが望ましい。

この試験の基本的な試験手順(キャップ試験)は,次による。

a)

変位計と目標物とをしっかりと保持できる特別な取付具を準備する。取付具の材料は,2 種類準備す

る。一つの取付具は,鋼製とし,機械及び測定器の取付具に通常使用する鋼製の部品に対する変位計

のドリフトを調べるのに使用する。もう一つは,低熱膨張材料製とし,変位計の絶対ドリフト量を測

定するために使用する。

b)

試験する変位計を取付具に組み込む。固定点の位置及び固定点から目標物表面までの距離は,実際の

試験で使用する取り付けと同じであるのが望ましい(

図 A.1 参照)。この距離は,測定システムの温度

ドリフトに直接影響を及ぼす。

c)

取付具表面にその温度変化を測定するための温度検出器を取り付ける。

d)

測定システムを恒温装置(温度制御のできる装置)又は他の温度可変環境に入れる。

e)

人為的に温度を変えて変位計出力と温度との関係を調べる。温度上昇率は,すべての部品が同じ温度

になるように低くする。変位計の膨張係数,非線形性及び時間遅れを求めるために数回の温度変更サ

イクルを繰り返す。

f)

場合によっては,変位計の増幅器に温度ドリフトがあるかも知れない。したがって,変位計と同様の

試験手順を適用することによって増幅器の性能を検査することは有益である。

1.

目標物(キャップ)

2.

変位計

3.

温度検出器

4.

止めねじ

図 A.1  変位計のドリフト試験


23

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

附属書 B(参考)変位計の必要数

この附属書(参考)は,本体及び附属書(規定)に関連する事柄を補足するもので,規定の一部ではな

い。

この規格では,

X,Y 及び Z 軸に平行な変位並びに X 及び Y 軸周りの角変位を測定するために 5 個の変位

計を使用する。NC 旋盤,平面研削盤などの NC 工作機械は,3 方向すべての変位を測定する必要はない。

この場合には,熱変形を測定するために必要な変位計の数を減らしてもよい。

表 B.1 は,代表的な工作機

械の測定に必要な変位計の数を示す。この表は,変位計の構成を明らかにするための一例である。似た工

作機械構造であれば,変位計の構成も同じでよい。小形の工作機械の場合には変位計を 5 個取り付けるの

が難しいかも知れない。そのような場合には,角度偏差の測定は行わなくてもよい。

変位計の数は,より正確な測定を行うために増やしてもよい。テストバー及び変位計取付具の熱膨張を

補正するために,

図 B.1 に示すように変位計を 9 個使用してもよい。

 B.1  様々な NC 工作機械における変位計の配置

X1 X2 Y1 Y2 Z 合計

横形マシニングセンタ

* 5

立て形マシニングセンタ

* 5

NC 旋盤

* 3

ターニングセンタ

* 5

平面研削盤

(*) 2(3)

プロファイル研削盤

* 5

ボール盤

*    2

中ぐり盤

(*) 4(5)

内面研削盤

* 5

円筒研削盤

* 3

ジグ研削盤

*   4

1.

テストバー

2.

変位計取付具

3.

変位計

4.

 B.1  テストバー及び変位計取付具の熱膨張を補正するために 9 個の変位計を用いる方法


24

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

最近,

図 B.2 に示すような工作機械の熱変形を測定するための新しい測定方法及び測定装置が開発され

ている。この装置は,将来,より高速で回転する主軸をもった工作機械に広く適用でき,より精度の高い

測定ができる。この装置では,基準工具の円周上に三つの変位計を配置し,また,テーブルに対する主軸

の軸方向変位及び傾き角を測定するために,基準工具の端面に向けて三つの変位計を取り付けている。こ

の装置は,基準工具の主軸端からの突き出し長さをかなり短くできるので,高速回転に適している。さら

に,3点法によって基準工具及び変位計取付具の熱膨張と基準工具の遠心膨張とを分離し,熱変位成分だ

けを取り出すことができる。

変位計

Sa

Sb

Sc

の出力の平均値

Da, Db, Dc

は,次の式による。

( )

å

=

=

N

j

j

Sa

N

Da

1

1

θ

( )

å

=

=

N

j

j

Sb

N

Db

1

1

θ

(B.1)

( )

å

=

=

N

j

j

Sc

N

Dc

1

1

θ

1.  変位計取付具
2.  取付具固定用ボルト穴
3.  室温検出器
4.  テストバー
5.  変位計
6.  主軸軸受温度検出器

 B.2  立て形マシニングセンタの ETVE 試験及び主軸の回転による熱変形試験の代替測定装置

変位 Äx,Äy  及び膨張 Äの計算は,次による(

図 B.3 参照)。

ú

ú

ú

û

ù

ê

ê

ê

ë

é

=

ú

ú

ú

û

ù

ê

ê

ê

ë

é

ú

ú

ú

û

ù

ê

ê

ê

ë

é

Dc

Db

Da

x

y

R

Δ

Δ

Δ

τ

τ

φ

φ

sin

cos

1

sin

cos

1

0

1

1

(B.2)


25

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

変位計の出力

Sd, Se, Sf

から平均値

Dd, De, Df

は,次式で算出する。

( )

å

=

=

N

j

j

Sd

N

Dd

1

1

θ

( )

å

=

=

N

j

j

Se

N

De

1

1

θ

(B.3)

( )

å

=

=

N

j

j

Sf

N

Df

1

1

θ

角変位

Δ

θx,

Δ

θy 及び軸の伸び

Δ

z は,次の式から算出する(図 B.4 参照)。

ú

ú

ú

û

ù

ê

ê

ê

ë

é

=

ú

ú

ú

û

ù

ê

ê

ê

ë

é

ú

ú

ú

û

ù

ê

ê

ê

ë

é

Df

De

Dd

x

y

R

Rg

Rg

Rg

θ

θ

β

β

α

α

Δ

Δ

Δ

sin

cos

1

sin

cos

1

0

1

(B.4)

 B.3

Δ

x

Δ

y

及び

Δ

R

の測定原理


26

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

 B.4

Δθ

x

Δθ

y

及び

Δ

z

の測定原理


27

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

渦電流形変位計又はファイバ光学式変位計のような幾つかの種類の変位計は,材料の不均質さの影響を

受ける。そのような場合には,適切なデータ収集/解析ソフトウエアと一緒に角度位置検出器又はトリガ

を使えば,その影響を避けることができる。

図 B.5 に,光学式トリガを取り付けた例を示す。

1.

トリガマーク

2.

光学式回転検出器

3.

取付具

4.

テストバー

5.

変位計

6.

タレット刃物台

7.

チャック

 B.5  主軸の回転角度位置検出用光学式トリガ


28

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

附属書 C(参考)工作機械の熱環境指針

この附属書(参考)は,本体及び附属書(規定)に関連する事柄を補足するもので,規定の一部ではな

い。

工作機械には,構造に不均一な温度分布を生じる熱源が数多くある。その熱源には,主軸,主軸モータ,

送りモータ,油空圧アクチュエータなどがある。機械構造に温度こう配を生じると変形を生じ,その結果

として機械の性能に影響が表れる。工作機械の性能は,環境の熱特性の影響も強く受ける(最近の工作機

械には,熱的に制御された筐体とともに提供されるものがある。この場合には,環境の影響はそれほど重

要ではない。

。環境は,内部熱源で発生した熱を取り除くが,逆に機械構造に温度分布を生じさせ,対流

及びふく射の影響で機械構造の温度も上昇する。さらに,切削油剤及び圧縮空気の温度は,工作機械のあ

らゆる性能に大きく影響を及ぼす。

工作機械を設置する環境の熱特性は,仕様どおりの性能を発揮できるように製造業者が指定しなければ

ならない。この熱特性を指定する主要項目に,室内の空気流速,室温変動の単位時間当たりの周期及び振

幅,平均室温,並びに環境内の水平及び垂直方向の温度こう配がある。

流量及び流速  室内の空気流量及び流速は,機械部品の温度変動及び温度こう配の管理にとって最も重要

な因子である。工作機械部品の表面から熱を取り去るためには,より多くの流量,より速い流速で,温度

差の小さな空気を使う必要がある。これは,その部品が,内部発熱(例えば,機械構造内にあるモータ)

又はふく射熱(例えば,照明から)を受けていながら,平均室温にほぼ等しい温度になることを意味して

いる。一方で,空気の流速が速いと作業者に不快感を与える。

温度変動の周期及び振幅  室温変動に対する物体寸法の熱応答は,その大きさ,膨張係数及び熱容量に依

存する。物体の時定数は,その表面積,境膜係数及び熱容量から推定できる。例えば,自然対流中にある

断面 25 mm×25 mm,長さ 250 mm の鋼製ブロックゲージの時定数は,0.5 時間である。この時定数は,ブ

ロックゲージが環境温度をステップ状に変えた後に,その全変化の 63.2%に達するまでの時間である。応

答の遅さ又は熱慣性は,環境の仕様にとって重要である。熱慣性が高ければ,室内で周期の短い温度変動

があってもよい。

異なる機械部品は,異なる時定数をもっているが,一般に,大部分の工作機械は,大きな時定数をもっ

ている。1 時間に 15∼60 回程度の温度変動周期,振幅 0.5℃の環境で良好な結果が得られることが多い。

平均温度  環境の平均温度を何度にするかは,冷却及び加熱装置,断熱材,並びに空気の流れの制御にか

かる費用と関係してくる。標準基準温度 20℃以外の温度での運転は,加工された部品の誤差と同様に機械

性能の結果に潜在的に誤差を含んだ形になる。長さ測定に関する 20℃以外の温度での結果は,機械スケー

ルの推定熱膨張と部品又は試験装置の推定熱膨張との差を計算することによって得られる。しかし,温度

測定に関係する不確かさ及び関係する材料の実際の熱膨張係数は,この評価での不確かさの原因になる。

さらに,この方法は,長さ測定以外の場合に直接関係するわけではない。例えば機械の鋳鉄ベッドの場合

を考えると,その鋳鉄ベッドは,厚肉断面と薄肉断面との両方をもっているので,その材料の物理的組成

は,均質でなく,不均一な熱膨張係数になる。そのような膨張係数の変化の大きさは,5%程度である。不

均一さが垂直方向のこう配として分布している場合には,平均温度を上げたり,下げたりすることは,垂


29

B6193:2003(ISO 230-3:2001)

     

直方向の温度こう配によって生じるのと同様の曲げを生じる。これは,20℃の厳密な温度制御によってだ

け避けることができるが,そのような温度制御は,一般的な機械工場の環境で実現することは非常に難し

い。

温度こう配  20℃以外の平均温度の結果は一つの部屋の中で異なるので,温度こう配が存在すると,その

環境の各場所の温度は,平均温度と等しくならないことを意味している。この温度こう配が時間によって

変化するときは,更に複雑になる。機械の部品又は工作物を一つの場所から別の場所へ移すと,幾何学的

にひずんだ形状になる。

工作機械は,様々な方向に存在する温度こう配に影響される。例えば,高い立て形のコラム(Z 運動)を

もった機械では,垂直方向に温度こう配があると運動の単位ごとに Z 軸に累積位置偏差を生じることにな

る。さらに,立て軸の案内面上に片持ちのクイルがある場合には,そのクイルが,上昇又は下降するとき

に長さが徐々に変化することになる。また,垂直方向のこう配は,水平案内面に曲げを発生させ,その結

果として運動に角度偏差及び真直度偏差が生じることになる。

温度こう配は,環境の各境界に依存する様々な熱源が原因で発生する。主な熱源は,太陽,電気照明装

置,送り及び主軸の駆動モータ,電気・電子装置並びに作業者である。電気照明装置だけがあって照明だ

けが点灯されている部屋では,どの向きにも 1 m について 0.2℃未満のこう配をもっている。しかし,機

械が据え付けられている部屋では,機械表面,電気装置の筐体などの近くで 10∼20 倍高い温度こう配をも

つ。冷却媒体の流量を増せば,その温度こう配が下がる。

工作機械の使用者は,機械を検査し,使用するときに環境の影響を考慮するのが望ましい。機械が規定

された許容値内で動作することを保証するために,工作機械の製造業者は,機械の性能が十分に発揮され

ると期待される推奨環境特性値を提供するのが望ましい。そのような環境熱仕様の例を

表 C.1 に示す。

 C.1  環境熱条件の例

仕様どおりの精度を達成できる温度範囲 15∼30℃

安全に運転できる温度範囲

0∼50℃

1 時間当たりの温度変動

1℃

24 時間周期の温度変動

5℃

機械空間における温度変動 0.5℃/m

冷却油剤の温度範囲 18∼22℃

空気の温度範囲 18∼25℃


30

B 6193

:0000(ISO 230-3:2001)  解説

参考文献

1)  ISO 16015

,Geometrical product specifications(GPS)  −  Guide to the handling of temperature influences on

measurements.