A 5571:2019
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目 次
ページ
1 適用範囲························································································································· 1
2 引用規格························································································································· 1
3 用語及び定義··················································································································· 1
4 種類······························································································································· 2
5 性能······························································································································· 3
5.1 破断力 ························································································································· 3
5.2 引張弾性率 ··················································································································· 3
6 外観······························································································································· 3
7 構造・寸法······················································································································ 3
7.1 構造 ···························································································································· 3
7.2 寸法 ···························································································································· 4
8 材料······························································································································· 4
8.1 炭素繊維 ······················································································································ 4
8.2 複合材料用樹脂 ············································································································· 4
9 試験方法························································································································· 5
9.1 試験環境 ······················································································································ 5
9.2 供試体 ························································································································· 5
9.3 寸法及び機械特性試験 ···································································································· 5
10 検査方法 ······················································································································· 8
11 表示 ····························································································································· 8
附属書A(参考)より線の供試体作製 ······················································································ 9
附属書B(参考)より線の取付方法 ························································································ 10
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まえがき
この規格は,産業標準化法に基づき,日本産業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日本
産業規格である。
この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。
この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意
を喚起する。経済産業大臣及び日本産業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実
用新案権に関わる確認について,責任はもたない。
注記 工業標準化法に基づき行われた日本工業標準調査会の審議等の手続は,不正競争防止法等の一
部を改正する法律附則第9条により,日本産業標準調査会の審議等の手続を経たものとみなさ
れる。
日本産業規格 JIS
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耐震補強用引張材−炭素繊維複合材料より線
Tension member for seismic reinforcement-
Carbon fibre composite strand wires
1
適用範囲
この規格は,主に木造建築物の耐震補強に用いる炭素繊維と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とによる炭
素繊維複合材料より線(以下,より線という。)について規定する。
注記 より線を建築物に取り付ける場合の例を,附属書Bに示す。
2
引用規格
次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの
引用規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。
JIS B 7507 ノギス
JIS B 7721 引張試験機・圧縮試験機−力計測系の校正方法及び検証方法
JIS K 7010 繊維強化プラスチック用語
JIS R 7608 炭素繊維−樹脂含浸ヤーン試料を用いた引張特性試験方法
3
用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS K 7010によるほか,次による。
3.1
素線
より線の応力を主に負担する炭素繊維及び樹脂その他からなる複合材料であって,より線を構成する単
線(図1参照)。
3.2
炭素繊維複合材料より線,より線
複数の素線を束ね,より合わせた線。この規格では,より合わせる素線は同一の構造である。
3.3
よりピッチ
より線の外層の素線が作るら旋のピッチであって,1より分の長さ(図4参照)。
3.4
熱可塑性
加熱すると塑性変形を起こし,冷却すると可逆的に硬化する性質。
2
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3.5
熱硬化性
加熱すると硬化反応が進行し,不溶・不融となる性質。
3.6
有効断面積,Ae
より線を構成する炭素繊維及び複合材料用樹脂の総断面積。
より線の断面を図1に示す。より線の素線は,炭素繊維及び複合材料用樹脂が一体化した複合材料とな
っており,全ての素線によるより線の炭素繊維の総断面積をAcf,より線の複合材料用樹脂の総断面積を
Arとすると有効断面積Aeは,AcfとArとを加えた面積であり,式(1)で求められる。
Ae=Acf+Ar ··············································································· (1)
ここに,
Ae: より線の有効断面積
Acf: より線の炭素繊維の総面積
Ar: より線の複合材料用樹脂の総面積
図1−より線の有効断面積
3.7
炭素繊維体積含有率,Vf
より線における炭素繊維体積含有率を百分率(%)で示すもの。Vfは,式(2)で求められる。
100
r
cf
cf
f
×
+
=
A
A
A
V
····································································· (2)
3.8
試料
試験を行うために,より線の中からサンプリングし,必要長さ分を切り出したもの。
3.9
供試体
試料を引張試験機に固定するため,試料の両端に定着部(つかみ部)を取り付けたもの。
3.10
破断力
より線が破断に至る力。
4
種類
より線は,呼び径,より本数及びよりピッチによって表1のとおり区分する。
3
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表1−種類
種類の記号
呼び径
より本数
よりピッチ
CS-7
7
7本より
実際径の
12〜30倍
CS-8
8
CS-9
9
CS-10
10
CS-12
12
CS-15
15
CS-17
17
CS-19
19
注記 種類の記号は,より線の記号(CS)及び呼び径で構成する。呼
び径は,より線の太さを表すための呼び寸法をいい,使用上の
便宜のために丸めてあり実際径とは正確に一致しない。
5
性能
5.1
破断力
より線の破断力は,9.3によって試験したとき,表2による。
5.2
引張弾性率
より線の引張弾性率は,9.3によって試験したとき,表2による。
表2−破断力及び引張弾性率
種類の記号
破断力
(kN)
引張弾性率
(kN/mm2)
CS-7
35以上
140〜170
CS-8
55以上
CS-9
80以上
CS-10
120以上
CS-12
184以上
CS-15
270以上
CS-17
385以上
CS-19
445以上
6
外観
より線は,きず,折れなどの使用上支障となる欠陥があってはならない。
なお,外観は,目視などによって確認する。
7
構造・寸法
7.1
構造
より線は,熱可塑性又は熱硬化性のエポキシ樹脂を複合した複数の素線を7本束ねてより合わせたもの
とする。より線の構造の例を図2に,断面の例を図3に示す。また,よりピッチは,実際径の12〜30倍
とし,例を図4に示す。
4
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図2−より線の構造(7本より)
図3−より線の断面(7本より)
括弧内の数字:素線の番号
図4−よりピッチ(7本より)
7.2
寸法
より線の実際径の寸法は,9.3.1によって試験したとき,表3による。
表3−実際径の寸法及び許容差
単位 mm
種類の記号
CS-7
CS-8
CS-9
CS-10
CS-12
CS-15
CS-17
CS-19
実際径の寸法
及び許容差
7±0.7
8±0.7
9±1.0
10±1.0
12±1.0
15±1.0
17±1.5
19±2.0
8
材料
8.1
炭素繊維
炭素繊維は,有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られる,質量比で90 %以上を炭素で構成
する繊維で,引張弾性率はJIS R 7608によって試験したとき,200 kN/mm2以上のものを用いる。
8.2
複合材料用樹脂
複合材料用樹脂は,熱可塑性又は熱硬化性のエポキシ樹脂とする。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(1)
よりピッチ
5
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9
試験方法
9.1
試験環境
供試体の作製及び全ての試験において,周囲温度は,5 ℃〜35 ℃の範囲とする。
9.2
供試体
より線の中からサンプリングし,必要長さ分を切り出したものを試料とし,その両端に定着部(つかみ
部)を取り付けたものを供試体とする。供試体は,定着部(つかみ部)に鋼管を用い,接着剤,モルタル
などを充塡し,試料と一体となるように作製する。供試体の作製方法の例を附属書Aに示す。
供試体の形状及び寸法を,図5に示す。試験部の長さlは,200 mm以上とする。
図5−供試体の形状及び寸法
9.3
寸法及び機械特性試験
9.3.1
実際径の測定
より線の実際径の測定箇所は,全長の中央部付近とする。
実際径は,より線の中心を通り,かつ,より線を構成する複数の素線同士が外接する交点間を結んでで
きる直線のうち,最大値となる任意の2か所以上を,JIS B 7507に規定するノギスで図6のように測定し,
その平均値を四捨五入によって丸め,丸めの幅は0.1 mmとする。
図6−実際径の測り方(例)
9.3.2
破断力及び引張弾性率の試験の準備
9.3.2.1
引張試験機
引張試験機は,JIS B 7721の等級1級以上とする。
6
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9.3.2.2
定着部(つかみ部)
供試体の定着部(つかみ部)は,引張試験機のつかみ装置に適合した形状で,かつ,確実につかむこと
ができるもので,供試体の軸方向の引張力を試験部に伝達させる構造でなければならない。また,引張試
験中に,供試体の定着部(つかみ部)は,破断する以前につかみ装置から抜けない構造とする。
9.3.2.3
伸び計
伸び計は,供試体のひずみを10×10−6以上の精度で測定できるものとする。伸び計の標点距離は,50 mm
以上とする。ひずみゲージなどを用いる場合は,伸び計の測定値と同程度のひずみが測定できることを事
前に確認しなければならない。
9.3.3
供試体の取付け
供試体は,図7のように軸方向の引張力を試験部に伝達させるように定着部(つかみ部)(9.3.2.2)を引
張試験機(9.3.2.1)に取り付ける。
1
定着部(つかみ部)
2
供試体
3
伸び計
図7−引張試験方法(例)
9.3.4
伸び計の取付け
伸び計(9.3.2.3)は,図7のように供試体の試験部の中央に軸方向に取り付ける。
9.3.5
載荷
載荷は,供試体に衝撃を与えないように一様な速度で行うものとし,載荷の速度は,ひずみ速度で1分
間当たり1 %〜3 %とする。
9.3.6
試験手順及び試験結果の取扱い
9.3.6.1
一般事項
破断力の試験は,9.3.5に規定する載荷の速度で,供試体が完全に破断するまで行う。供試体の数は,5
体とする。供試体のひずみは,少なくとも9.3.6.2で試験する破断力の2/3程度まで測定する。
9.3.6.2
破断力
より線の破断力は,次のa)〜d)による。
7
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a) 破断力は,供試体の破断位置によらず,全ての試験結果を採用する。ただし,定着部(つかみ部)か
らの抜けによってより線が破断しなかった場合,試験結果の総数が5体となるよう追加の供試体を用
意し,試験する。
b) 5体の試験結果の平均値をより線の破断力とし,四捨五入によって丸め,丸めの幅は1 kNとする。
c) 5体の試験結果のうち一つの結果が平均値より±10 %以上偏った場合は,偏った一つの結果を破棄し,
残りの四つの結果を採用する。
d) c)において,更に一つの結果が四つの平均値より±10 %以上偏った場合は,結果の全体を破棄する。
9.3.6.3
引張弾性率
引張弾性率は,次のa)及びb)によって求める。
a) 引張弾性率の算出 9.3.6.2で採用された各供試体における引張力−ひずみ曲線(図8)のうち,破断
力の20 %と50 %とのひずみ値を用い,式(3)によって各供試体の引張弾性率を算出する。より線の引
張弾性率は,各供試体の算出結果の平均値とし,四捨五入によって丸め,丸めの幅は1 kN/mm2とす
る。
eA
Δε
ΔF
E
×
=
·············································································· (3)
ここに,
E: 引張弾性率(kN/mm2)
ΔF: 破断力の20 %と50 %との2点間の差(kN)
Δε: 破断力の20 %時と50 %時との2点間のひずみの差
Ae: 有効断面積(mm2)
F
Fu
ε
ΔF
Δε
引張力(kN)
破断力(kN)
ひずみ
破断力の20 %と50 %との2点間の差(kN)
破断力の20 %時(ε1)と50 %時(ε2)との2点間のひずみの差
図8−引張力−ひずみ曲線
b) 有効断面積の求め方 より線の有効断面積は,式(4)によって算出する。算出結果は,四捨五入によっ
て丸め,丸めの幅は0.1 mm2とする。
ΔF
Δε
0.2Fu
ε
0.5Fu
Fu
ε2
ε1
F
8
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f
e
1.0
V
ρ
n
T
A
×
×
×
=
········································································· (4)
ここに,
Ae: 有効断面積(mm2)
T: 炭素繊維の束の繊度(tex)
(なお,1 texは1 g/kmである。)
ρ: 炭素繊維の束の密度(g/cm3)
n: より線を構成する炭素繊維の束の本数(本)
Vf: 炭素繊維体積含有率(%)
注記 計算例を示す。パラメータは次のとおりとした。
T:800 tex,ρ:1.8 g/cm3,n:42本,Vf:60 %
有効断面積は,式(4)から次の値となる。
Ae=0.1×
60
8.1
42
800
×
×
=31.1(mm2)
10 検査方法
検査は,形式検査と受渡検査とに区分し,形式検査は箇条9などによって試験したとき,箇条5〜箇条8
の規定を満足したものを合格とする。
受渡検査は,合理的な抜取検査方式とし,検査項目は受渡当事者間の協定による。
11 表示
この規格の全ての要求事項に適合したより線には,結束ごとに次の項目を表示する。
a) 規格番号
b) 種類の記号
c) 製造業者名又はその略号
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附属書A
(参考)
より線の供試体作製
A.1 供試体の作製
供試体の作製方法を次に示す。
a) より線の中からサンプリングし,必要長さ分を切り出して試料とする。
b) 定着部(つかみ部)の鋼管は,引張試験時の引張力に耐えられるものとする。
c) 鋼管に接着剤,モルタルなどを充塡し,試料を挿入する。その際,鋼管と試料との中心軸がずれない
ようにする。
なお,接着剤,モルタルなどの充塡は,試料を鋼管に挿入した後でもよい。
d) 供試体は,接着剤,モルタルなどが硬化し,強度が発現するまで適切な温度環境下で養生する。
10
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附属書B
(参考)
より線の取付方法
B.1
より線の取付方法
より線を建築物に取り付ける場合の例を,次に示す。
a) より線は,設計上必要な破断力及び引張弾性率をもつ種類のものを使用する。
b) より線は,両端に鋼製ボルト及び鋼管による接合部を取り付ける。鋼製ボルトとより線との接合は,
鋼管を介して接続を行う。接合は,必要な強度を満たすように接着剤,モルタルなどを用いて接続さ
せる。図B.1に接合部を取り付けたより線の例を示す。
図B.1−接合部を取り付けたより線(例)
c) 使用する鋼管及び鋼製ボルトは,設計上必要な強度及びじん(靭)性をもつものとする。
d) 目的とする耐震補強に応じて,両端に鋼製ボルトによる接合部を取り付けたより線を,接合金物など
を介してブレースとして建築物に取り付ける。
e) 図B.2に取付けの事例を示す。
11
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図B.2−ブレース(例)
参考文献 JIS A 1192 コンクリート用連続繊維補強材の引張試験方法
JIS K 7097 一方向炭素繊維強化プラスチック帯板材
友井正男,熱硬化性樹脂の基礎,エレクトロニクス実装学会誌,4巻,6号,pp.537-542,(2001)
岩波 理化学辞典 第4版
より線
より線
接合部拡大図