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Z 7260-117

:2006

(1) 

まえがき

この規格は,工業標準化法に基づいて,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日

本工業規格である。

この規格の一部が,技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権,又は出願公開後の

実用新案登録出願に抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会

は,このような技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権,又は出願公開後の実用新

案登録出願にかかわる確認について,責任をもたない。

JIS Z 7260-117

には,次に示す附属書がある。

附属書(規定)  分配係数(P

ow

)

の計算方法


Z XXXX

:0000

(2) 

目  次

ページ

序文 

1

1.

  適用範囲

1

2.

  定義

2

3.

  測定方法の原理 

2

4.

  被験物質に関する情報 

3

5.

  品質基準

3

6.

  標準物質  

3

7.

  測定方法

6

7.1

  分配係数の予備推定

6

7.2

  装置

6

7.3

  移動相

6

7.4

  溶質

7

7.5

  試験条件 

7

7.6

  デッドタイム t0 の測定 

7

7.7

  回帰式の作成 

7

8.

  被験物質の Pow の測定 

7

9.

  データ及び報告 

7

附属書(規定)分配係数(Pow)の計算方法 

9

参考文献

11


     

日本工業規格

JIS

 Z

7260-117

:2006

分配係数(1-オクタノール/水)の測定−

高速液体クロマトグラフィー

Partition coefficient(1-octanol/water)

High performance liquid chromatography(HPLC) method

序文   この規格は,2004 年に改正された OECD Guideline for the testing of chemicals 117, Partition

Coefficient(n-octanol/water),High Performance Liquid Chromatography(HPLC) method

を翻訳し,技術的内容を

変更することなく作成した日本工業規格である。

1. 

適用範囲  この規格は,高速液体クロマトグラフィー(以下,HPLC 法という。)を利用する化学物質

の 1-オクタノール/水間における分配係数(以下,P

ow

という。

)の測定方法について規定する。

P

ow

の常用対数値 logP

ow

が-2∼4 の範囲  (

1

)

の場合は,

フラスコ振とう法(OECD テストガイドライン 107)

によって実験で求めることができる。この規格の HPLC 法は,logP

ow

が 0∼6 の範囲に適用する(

参考文献

1

2345)。この HPLC 法は,適切な標準物質を選定すること及び試験データから得られた結果を裏

付けることを目的に,被験物質の P

ow

の推定を求めてもよい。P

ow

の推定について,いくつかの計算方法を

附属書に示す。HPLC 法の溶離は,イソクラティック溶離(溶離液の組成を一定にした溶離)とする。

参考  OECD Guideline for the testing of chemicals 107, Partition Coefficient(n-octanol/water): Shake Flask

Method

(1995 年改定)は,技術的内容を変更することなく JIS Z 7260-107:2000[分配係数(1-

オクタノール/水)の測定―フラスコ振とう法]として制定されている。

注(

1

)

上限値は,分配平衡の操作後に,及び分析用サンプルの採取前にどの程度完全に相分離させる

かによって決まる。適切な注意をはらえば,より高い値の log P

ow

まで上限を広げることができ

る。

P

ow

の値は,温度,pH,イオン強度などの試験条件に依存するので,実験を実施するときは,P

ow

のデー

タを正しく解釈するために環境条件を明確にすることが望ましい。解離性物質については,他の適切な方

法(例えば,OECD  ガイドライン 122: pH metric method for Ionised Substances)を代替方法として使用して

もよい(

参考文献 6)。

参考  OECD  ガイドライン 122 は,作成段階でありガイドラインとして採択されていない。

OECD

ガイドライン 122 は,解離性物質の P

ow

の測定に適しているかもしれないが,場合によっては,

実際の環境で見い出される pH では,HPLC 法を使う方が適切である。

逆相 HPLC 法は,logP

ow

が 0∼6 の分配係数に適用できる。しかし,例外的な場合では,logP

ow

 6

∼10 ま

で広げることができる。この場合,移動相を変更しても差し支えない(

参考文献 3)。この方法は,強酸及び

強塩基,金属錯体,並びに溶離液と反応する物質,又は界面活性物質には適用できない。解離性物質につ

いては,遊離酸の場合は pKa 以下の pH の,また,遊離塩基の場合は pKa 以上の pH の適切な緩衝液を用

いるときだけ,非解離状態(遊離酸又は遊離塩基)で測定を行うことができる。一方,解離性物質の試験


2

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方法として pH メトリック法(pH metric method)を用いてもよい(

参考文献 6)。環境ハザードの分類に,又

は環境リスクアセスメントに利用するために log P

ow

の値を求めるのであれば,試験は,自然環境で見い出

される pH 範囲(pH 5∼9)で行うのが望ましい。

P

ow

は,化学物質の環境運命の研究では基本パラメータの一つである。非解離状態の物質の P

ow

とその物

質の魚類に対する生物濃縮との間には,高度に有意の関係があることが知られている。また,P

ow

は,土

壌及び底質への吸着を予測するときの有用なパラメータであり,かつ,広範囲な生物学的作用に関する構

造−活性相関を定量的に確立するための有用なパラメータであることも知られている。

参考  OECD テストガイドライン 117 の最初の提案は,参考文献 を基にしている。テストガイドラ

イン 117 の開発及び OECD での試験所間比較試験は,1986 年にドイツ連邦共和国環境省の調整

の下に実施された(

参考文献 2)。

2.

定義  この規格で用いる主な用語の定義は,次による。

a) 

分配係数(P

ow

)

  ほとんど混合しない二つの溶媒からなる二相に溶解した物質の各相における平衡濃度

の比。二つの濃度比である分配係数は,無名数で,通常,10 を底とする対数で表す。1-オクタノール

及び水の場合は,次の式で表す。

P

ow

=C

1-octanol

/C

water

ここに,C

1-octanol

 

:1-オクタノール相中の物質濃度

            C

water

 

:水相中の物質濃度

3. 

測定方法の原理  逆相 HPLC は,長鎖アルキル基(例えば C

8

,C

18

)を化学的にシリカに結合した市

販の固定相を充てんした分析カラムを用いて実施する。カラムに注入した化学物質は,カラムを移動する

とき移動相(溶媒相)と炭化水素固定相との間に分配される。化学物質は,炭化水素/水分配係数に比例し

て保持され,親水性の化学物質が先に,親油性の化学物質が後に溶出する。保持時間から,次の式によっ

て保持係数(retention factor)を求める。

0

0

R

t

t

t

k

=

ここに,t

R

:被験物質の保持時間

        t

0

:デッドタイム(dead-time)

(溶媒分子がカラムを通過する平均時間)

この測定方法では,定量的な分析が必要ではなく,保持時間を測定するだけでよい。

被験物質の P

ow

は,実験から被験物質の保持係数 を求め,得られた を次の式に代入して求める。

log P

ow

 = a + blog k

ここに,a:  直線回帰式の切片

        b:  直線回帰式の傾き

上の式の a 及び b は,標準物質の P

ow

の対数を,標準物質の保持係数の対数に対して直線回帰分析を行

うことによって得られる。

不純物によってピークの特定が確実にはできない場合がある。混合物で,溶出ピークが分離できない場


3

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合には,logP

ow

の上限及び下限,並びに個々の logP

ow

に対応するピークの面積%を記録するのがよい。同

族体からなる混合物については,単一の log  P

ow

値及びそれに対応する面積%(

参考文献 8)から計算で求め

られる加重平均 logP

ow

(次の式を参照)を記載するのがよい(

参考文献 7)。計算を行うときは,全ピーク面

積に対して,5%以上の面積となるすべてのピークを考慮するのが望ましい(

参考文献 9)。

(

)

(

)

å

å

=

i

i

i

i

owi

ow

P

P

%

%

log

log

面積

面積

荷重平均

加重平均 logP

ow

は,同族体からなる物質(例えば,一連のアルカン)又は混合物(例えば,トール油)

だけに有効である。用いた検出器が,混合物中のすべての物質に対して同じ感度をもち十分な分解能があ

れば,混合物の測定において意味のある結果が得られる。

4. 

被験物質に関する情報    解離定数,構造式及び移動相への溶解度は,測定前に調べておく。さらに,

加水分解に関する情報があるとよい。

5. 

品質基準  測定は,測定の信頼性を高めるために 2 回実施しなければならない。

―  繰返し精度(repeatability)

:同じ条件で,かつ,同じ組合せの標準物質を用いて繰り返し測定して得ら

れた logP

ow

値は,特に異常がない限り,通常 log 単位で±0.1  の範囲に入る。

―  再現精度(reproducibility):異なった組合せの標準物質を用いて行った測定の場合には,結果が異なる

ことがある。一般的に,一組の被験物質に関して log と logP

ow

との相関係数 は,約 0.9 である。こ

れは,log 単位で logP

ow

±0.5 の 1-オクタノール/水分配係数に相当する。

試験所間の比較試験の結果から,HPLC 法については,logP

ow

は,フラスコ振とう法による値の±0.5 の

範囲になることが知られている(

参考文献 2)。その他の比較については,参考文献 451011 及び 12 

ある。構造的に類似した標準物質を使用すると,もっとも正確な相関結果が得られる(

参考文献 13)。

6. 

標準物質  ある物質の保持係数 の測定値とその logP

ow

との相関を求めるためには,検量線は少なく

とも 6 点で作成する(7.7 参照)

。規格利用者の責任で,適切な標準物質を選定する。標準物質は,通常,

被験物質の logP

ow

を包含するもの,すなわち,少なくとも一つの標準物質の P

ow

が被験物質の P

ow

を超え,

かつ,他の標準物質の P

ow

が被験物質の P

ow

以下となる logP

ow

のものがよい。外挿法は,例外的な場合に

だけ用いるのがよい。標準物質は,被験物質と構造的に類似しているものが望ましい。検量線を求めるた

めに用いる標準物質の logP

ow

は,信頼できる実験データに基づくものがよい。しかし,logP

ow

が高い物質

(通常,4 を超えるもの)については,信頼できる実験データがなければ計算値を用いてもよい。外挿値

を用いる場合は,限界値を示すのがよい。

多くの化学物質について,広範囲な logP

ow

の一覧表が利用できる(

参考文献 1415)。構造的に関連のあ

る物質の分配係数のデータがない場合は,

他の標準物質から求めた,

より一般的な検量線を用いてもよい。

推奨する標準物質及びその logP

ow

の値を,

表 に示す。解離性物質については,表の値は非解離状態のも

のに適用する。これらの logP

ow

の値の信頼性は,試験所間比較試験によって確認されている。


4

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表 1  推奨標準物質

CAS

番号(参考)

標準物質

logP

ow

 pKa

1 78-93-3

2-

ブタノン(メチルエチルケトン)

[2-butanone(methylethylketone)]

0.3

2 1122-54-9

4-

アセチルピリジン

(4-acetylpyridine)

0.5

3 62-53-3

アニリン 
(aniline)

0.9

4 103-84-4

アセトアニリド 
(acetanilide)

1.0

5 100-51-6

ベンジルアルコール 
(benzyl alcohol)

1.1

6 150-76-5

4-

メトキシフェノール

(4-methoxyphenol)

1.3 10.26

7 122-59-8

フェノキシ酢酸 
(phenoxyacetic acid)

1.4 3.12

8 108-95-2

フェノール 
(phenol)

1.5 9.92

9 51-28-5

2,4-

ジニトロフェノール

(2,4-dinitrophenol)

1.5 3.96

10 100-47-0

ベンゾニトリル 
(benzonitrile)

1.6

11 140-29-4

フェニルアセトニトリル 
(phenylacetonitrile)

1.6

12 589-18-4

4-

メチルベンジルアルコール

(4-methylbenzyl alcohol)

1.6

13 98-86-2

アセトフェノン 
(acetophenone)

1.7

14 88-75-5

2-

ニトロフェノール

(2-nitrophenol)

1.8 7.17

15 121-92-6

3-

ニトロ安息香酸

(3-nitrobenzoic acid)

1.8 3.47

16 106-47-8

4-

クロロアニリン

(4-chloroaniline

1.8 4.15

17 98-95-3

ニトロベンゼン 
(nitrobenzene)

1.9

18 104-54-1

けい皮アルコール 
[cinnamyl alcohol (cinnamic alcohol)]

1.9

19 65-85-0

安息香酸 
(benzoic acid)

1.9 4.19

20 106-44-5

p-

クレゾール

p-cresol)

1.9 10.17

21 140-10-3

(trans)

けい皮酸 
(cinnamic acid)

2.1 3.89

(cis)

  4.44 (trans)

22 100-66-3

アニソール 
(anisole)

2.1

23 93-58-3

安息香酸メチル 
(methyl benzoate)

2.1

24 71-43-2

ベンゼン 
(benzene)

2.1


5

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表 1  推奨標準物質(続き)

CAS

番号(参考)

標準物質

logP

ow

 pKa

25 99-04-7

3-

メチル安息香酸

(3-methylbenzoic acid)

2.4 4.27

26 106-48-9

4-

クロロフェノール

(4-chlorophenol)

2.4

9.1

27 79-01-6

トリクロロエチレン 
(trichloroethylene)

2.4

28 1912-24-9

アトラジン 
(atrazine)

2.6

29 93-89-0

安息香酸エチル 
(ethyl benzoate)

2.6

30 1194-65-6

2,6-

ジクロロベンゾニトリル

(2,6-dichlorobenzonitrile)

2.6

31 535-80-8

3-

クロロ安息香酸

(3-chlorobenzoic acid)

2.7 3.82

32 108-88-3

トルエン 
(toluene)

2.7

33 90-15-3

1-

ナフトール

(1-naphthol)

2.7 9.34

34 608-27-5

2,3-

ジクロロアニリン

(2,3-dichloroaniline)

2.8

35 108-90-7

クロロベンゼン 
(chlorobenzene)

2.8

36 1746-13-0

アリルフェニルエーテル 
(allyl phenyl ether)

2.9

37 108-86-1

ブロモベンゼン 
(bromobenzene)

3.0

38 100-41-4

エチルベンゼン 
(ethylbenzene)

3.2

39 119-61-9

ベンゾフェノン 
(benzophenone)

3.2

40 92-69-3

4-

フェニルフェノール

(4-phenylphenol)

3.2 9.54

41 89-83-8

チモール 
(thymol)

3.3

42 106-46-7

1,4-

ジクロロベンゼン

(1,4-dichlorobenzene)

3.4

43 122-39-4

ジフェニルアミン 
(diphenylamine)

3.4 0.79

44 91-20-3

ナフタレン 
(naphthalene)

3.6

45 93-99-2

安息香酸フェニル 
(phenyl benzoate)

3.6

46 98-82-8

イソプロピルベンゼン 
(isopropylbenzene)

3.7

47 88-06-2

2,4,6-

トリクロロフェノール

(2,4,6-trichlorophenol)

3.7 6

48 92-52-4

ビフェニル 
(biphenyl)

4.0


6

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表 1  推奨標準物質(続き)

CAS

番号(参考)

標準物質

logP

ow

 pKa

49 120-51-4

安息香酸ベンジル 
(benzyl benzoate)

4.0

50 88-85-7

2,4-

ジニトロ-6-sec-ブチルフェノール

(2,4-dinitro-6-sec-butylphenol)

4.1

51 120-82-1

1,2,4-

トリクロロベンゼン

(1,2,4-trichlorobenzene)

4.2

52 143-07-7

ドデカン酸 
(dodecanoic acid)

4.2 5.3

53 101-84-8

ジフェニルエーテル 
(diphenyl ether)

4.2

54 85-01-8

フェナントレン 
(phenanthrene)

4.5

55 104-51-8

n-

ブチルベンゼン

n-butylbenzene)

4.6

56 103-29-7

ジベンジル 
(dibenzyl)

4.8

57 3558-69-8

2,6-

ジフェニルピリジン

(2,6-diphenylpyridine)

4.9

58 206-44-0

フルオランテン 
(fluoranthene)

5.1

59 603-34-9

トリフェニルアミン 
(triphenylamine)

5.7

60 50-29-3

DDT

6.5

7. 

測定方法

7.1 

分配係数の予備推定  被験物質の分配係数の推定が必要な場合には,望ましくは計算方法によって

附属書参照),又は適切な場合には被験物質の純溶媒中での溶解度の比を用いて推定してもよい。

7.2 

装置  脈流の少ないポンプ及び適切な検出システムを備えた液体クロマトグラフが必要である。波

長 210nm の紫外線(UV)検出器,又は示差屈折率(RI)検出器が広範囲な化学物質に適用できる。固定

相に極性基が存在すると HPLC 用カラムの性能が著しく劣化する恐れがあるので,固定相の極性基を最小

にすることが望ましい(

参考文献 16)。市販のミクロ粒子逆相充てん剤又は充てん済みカラムが利用できる。

試料導入部と分析カラムとの間に,ガードカラムを置いてもよい。

7.3 

移動相  溶離液は,HPLC 用又は同等な品質のメタノール及び蒸留水又はイオン交換水を用いて調製

する。

参考  例えば,蒸留水及びイオン交換水については,JIS K 0124 に規定されている。

溶離液は,使用前に脱気を行う。HPLC の溶離は,イソクラティック溶離とする。メタノール/水の比は,

水の含有量 25%以上が望ましい。典型的な例として,メタノール/水 3:1(体積比)の混合液の場合には,logP

ow

が 6 の物質は,流量 1ml/分で 1 時間以内に十分溶出する。logP

ow

が 6 を超える物質(及びこのような標準

物質)の場合,移動相の極性を減少させるか又はカラムの長さを短くして,溶出時間を短くする必要があ

るかもしれない。

被験物質及び標準物質は移動相に溶解し,その濃度は検出が十分できる程度でなければならない。添加

剤は,カラムの性質を変えることがあるので,例外的な場合にだけ,メタノール/水混合液とともに用いて


7

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もよい。この場合,被験物質及び標準物質の保持時間に影響がないことを確認する。もし,メタノール/

水が不適切であれば,他の有機溶媒/水混合液,例えば,エタノール/水,アセトニトリル/水,又はイソプ

ロピルアルコール(2-プロパノール)/水を用いてもよい。

解離性物質については,溶離液の pH が重要である。溶離液の pH は,カラムが使用できる pH の範囲内

(通常,2∼8 の間)が望ましい。緩衝液の使用を推奨する。いくつかの有機相/緩衝液の混合溶液で生じ

る塩類の析出及びカラムの劣化を避けるように注意しなければならない。アルカリ性の移動相は,カラム

の性能を急速に低下させる場合があるので,通常,シリカを基材とした固定相を用いる場合には,pH が 8

を超える測定は好ましくない。

7.4 

溶質  クロマトグラムのピークを個々の物質に帰属できるように,被験物質及び標準物質の純度は,

十分高くなければならない。試験又は検量線の作成に用いる物質は,可能な限り移動相に溶解させる。被

験物質及び標準物質を移動相以外の溶媒に溶解する場合は,注入前の最終希釈に移動相の溶媒を用いるの

がよい。

7.5 

試験条件

測定中の温度変動は,±1℃以内が望ましい。

7.6 

デッドタイム t

0

の測定  デッドタイム t

0

は,カラムに保持されない不活性な有機化合物(例えば,

チオ尿素又はホルムアミド)を用いて求めることができる。より正確なデッドタイムは,同族列に属する

約7個の化合物(例えば,n-アルキルメチルケトン類)の保持時間の実測値から求められる(

参考文献 17)。

保持時間 t

R

(n

c

+1)を,t

R

(n

c

)

に対してプロットし,次の直線式を得る。

t

R

(n

c

+1) = At

R

(n

c

)+(1

−A)t

0

ここに,  n

c

:炭素原子数

                  A

:定数[k(n

c

+1)/k(n

c

)

から求める。]

                  t

0

:デッドタイム[切片(1−A) t

0

と傾き A とから求める。]

7.7 

回帰式の作成  次に,被験物質の logP

ow

の予測値に近い値をもつ適切な標準物質について,log

logP

ow

をプロットする。実際には,6∼10 種の標準物質を同時に注入する。保持時間は,検出システムに

接続した記録用インテグレータによって求めるのが望ましい。保持係数の対数 logを logP

ow

の関数として

プロットする。少なくとも 1 日 1 回直線回帰分析を行い,カラム性能の変化を説明できるようにする。

8. 

被験物質の P

ow

の測定  検出可能な最小量の被験物質を注入する。2 回繰り返して保持時間を測定す

る。計算で求めた保持係数の値を使って,検量線から被験物質の分配係数を求める。分配係数が非常に小

さい場合又は非常に大きい場合は,外挿して求める。この場合,回帰直線の信頼限界に注意をする。試料

の保持時間が,標準物質の保持時間の範囲外の場合には,限界値を示すのが望ましい。

9. 

データ及び報告  報告書には,次のことを含めなければならない。

―  分配係数の値を予備的に推定した場合は,その推定値及び用いた方法を,また,計算方法を用いた場

合は,データベースの特定及びフラグメント選定の詳細情報を含む計算方法に関するすべての記述

―  被験物質及び標準物質:純度,構造式及び CAS 番号

―  装置及び操作条件:分析カラム,ガードカラム,移動相,検出方法,温度範囲及び pH

―  溶出プロファイル(クロマトグラム)

―  デッドタイム及びその測定方法

―  検量線の作成に用いた標準物質の保持データ及び logP

ow

の文献値


8

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―  得られた回帰直線(log対 logP

ow

)

及び信頼限界を含む回帰直線の相関係数に関する詳細

―  被験物質の平均保持データ及び logP

ow

の内挿値

―  混合物の場合,指定した分画及び溶出プロファイル(クロマトグラム)

―  logP

ow

のピーク面積%に対応する logP

ow

の値

―  回帰直線を用いる計算

―  適切な場合は,加重平均 logP

ow

の計算値


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附属書(規定)  分配係数(P

ow

)

の計算方法

序文  この附属書は,P

ow

の計算について簡潔に紹介する。詳細は,

参考文献 18 及び 19 にある。P

ow

の計

算値は,次の場合に用いる。

―  使用する試験方法の決定:logP

ow

が,-2∼+4 についてはフラスコ振とう法,0∼6 については HPLC 法

―  HPLC 法の測定条件の選定(標準物質,メタノール/水の比)

―  試験方法によって得られた値の信頼性(plausibility)の確認

―  試験方法が適用できない場合の推定値の提供

1. 

計算方法の原理  この附属書に示す計算方法は,分子を,信頼できる logP

ow

増分値がすでに知られて

いる適切な部分構造にフラグメント化する理論に基づいている。logP

ow

は,フラグメント値及び分子内相

互作用の補正項の値を合計して求める。フラグメント定数及び補正項の一覧表は,

参考文献 181920

21

22 及び 23 にある。そのいくつかは,定期的に更新されている(参考文献 20)。

2. 

計算値の信頼性  一般的に,検討対象物質の構造が複雑になるほど,計算方法の信頼性が低下する。

低分子量で,かつ,1個又は2個の官能基をもつ単純な分子の場合は,どのフラグメント化法でも,計算

値と実測値との間には,logP

ow

単位で 0.1∼0.3 の偏差が予想される。誤差の大きさは,用いたフラグメン

ト定数の信頼性,分子内相互作用(例えば,水素結合)の存在を識別できる能力,及び補正項の正しい使

い方に依存する。解離性物質の場合は,電荷及び解離度を考慮しなければならない(

参考文献 27)。

3. 

藤田・ハンシュのπ値法(Fujita-Hansch  π-method)  藤田ら(参考文献 24)によって導入された疎水

性置換基定数πは,次の式で求める。

π

X = logP

ow

 (PhX) - log P

ow

(PhH)

ここに,PhX:芳香族誘導体

        PhH:誘導体の元の物質

π

Cl = logP

ow

 (C

6

H

5

Cl) - logP

ow

 (C

6

H

6

)

       = 2.84 - 2.13

              = 0.71

π値法は,主として芳香族物質に有用である。多くの置換基のπ値は,

参考文献 21 及び 22 に記載され

ている。

4. 

レッカー法(Rekker method)  レッカー法(参考文献 25)では,logP

ow

は,次の式で求める。

)

(

log

相互作用項

å

å

=

j

i

i

ow

af

P

ここに,  a

i

フラグメントが分子中に存在する個数

  f

i

フラグメントの logP

ow

の増分値


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    相互作用項:一つの単定数C

m

(マジック定数)の整数倍

フラグメント定数 f

i

及びC

m

は,825 物質について得られた 1 054 個の P

ow

実験値の一覧表から,多重回

帰分析を用いて求められている(

参考文献 2325)。相互作用項は,一定の法則に従って決定される(参考文

献 232526)。

5. 

ハンシュ・レオ法(Hansch-Leo method)  ハンシュ・レオ法(参考文献 21)では,次の式で logP

ow

求める。

å

å

=

j

j

j

i

i

i

ow

F

b

f

a

P

log

ここに,f

i

:フラグメント定数

        F

j

:補正項(補正係数)

        a

i

b

j

:対応する出現個数

原子及び原子団のフラグメント定数並びに補正項 F

j

の一覧表は,logP

ow

の実験値から試行錯誤によって

導かれた。補正項は,いくつかの異なるクラスに分けられている(

参考文献 1821)。すべての法則及び補

正項を考慮したソフトウエアパッケージが開発されている(

参考文献 20)。

6. 

組合せ法  複雑な分子の logP

ow

の計算は,分子が大きな部分構造に分解でき,かつ,その部分構造に

ついて

参考文献 20 及び 21 の表又は実測値のいずれか信頼できる logP

ow

値が利用できる場合に大幅に改善

される。このようなフラグメント(例えば,複素環化合物類,アンスラキノン,アゾベンゼン)を,ハン

シュπ値と組み合わせるか,レッカーフラグメント定数又はレオフラグメント定数と組み合わせることが

できる。

7. 

注意事項  注意事項は,次による。

a)

計算方法は,必要な補正係数を考慮した場合だけ,部分的に又は完全に解離した物質に適用する。

b)

分子内水素結合の存在が推測できる場合は,対応する補正項(logP

ow

単位で,約+0.6∼+1.0)を加えな

ければならない(

参考文献 18)。水素結合の存在の兆候は,立体模型又は分光分析データから判断でき

る。

c)

フラグメント定数の一覧表を利用する場合は,最新の改定版かどうか注意をする。


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