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日本工業規格

JIS

 Z

2612

-1977

金属材料の写真測光法による

発光分光分析方法通則

General Rules for Photographic Emission

Spectrochemical Analysis of Metal Materials

1.

適用範囲  この規格は,金属材料の写真測光法による発光分光分析方法に関し,次の一般的事項につ

いて規定する。

(1)

装置

(2)

試料採取・試料調製用用具及び機械

(3)

材料

(4)

試料

(5)

試料の調製方法

(6)

測定操作及び定量方法

(7)

装置の選定と設置

(8)

分析誤差とその管理

(9)

安全衛生

(10)

分析方法の各規格で記載すべき項目

引用規格:

JIS K 7608

  (ネガ用写真感光材料の昼光及び人工光路光指数の表示)

2.

概要  本法は,試料を金属固体のまま又は適当に成形するなどして電極とするか,又は溶液・粉末に

変えたものを試料として補助電極を用いるかして分析目的に応じた発光条件によって放電発光させ,これ

を分光器で分光し,そのスペクトル写真を撮影し,これによって目的元素を分析する。定量には,通常分

析試料と同一条件で撮影した標準試料のスペクトル中の分析線と内標準線との測定強度比を求め,それに

対応する元素含有率との関係から作成した検量線を使って試料中の定量元素の含有率を求める。

3.

装置  この方法の主要装置には,次のものがある。

(1)

励起電源装置

(2)

光源装置

(3)

集光装置

(4)

分光写真器

(5)

現像定着装置

(6)

スペクトル観察装置及びミクロホトメーター


2

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3.1

励起電源装置  この装置には,スパーク電源装置・アーク電源装置・低圧コンデンサー放電電源装

置などがある。これらは試料を放電により蒸発気化し,励起発光させるための電源を光源装置に供給する

装置である。一般に使用されている励起電源装置の例を以下に示す。

3.1.1

スパーク電源装置

(1)

交流高圧スパーク (AC HVS) 電源装置  この装置は,高圧変圧器で電圧を約 5kV 以上に上げ,コ

ンデンサーに充電し,分析間げきと直列又は並列に配列した制御間げき,若しくは直列に配列し

た同期回転断続器を用いて放電を制御する。

この装置の主要回路の例を

図 1,図 に示す。

図 1  ホイスナー式スパーク電源装置回路図

図 2  直列制御間げき形交流高圧スパーク電源装置の主要回路図

(2)

直流高圧スパーク (DC HVS) 電源装置  この装置は,高圧変圧器で電圧を約 10kV 以上に上げ,

整流管又は整流器で整流してコンデンサーに充電し,充電したコンデンサーを同期回転断続器で

順次放電させる。その主要回路の一例を

図 に示す。


3

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図 3  直流高圧スパーク電源装置回路図

3.1.2

アーク電源装置  この種類の装置には,交流アーク電源装置と直流アーク電源装置とがある。

交流アークは,電圧により高圧交流アーク (AC HVA) と低圧交流アーク (AC LVA) とがあり,いずれも

通常高圧スパーク又は高周波放電を用いて点火する。これらの装置には,アークの断続間隔が商用電力周

波数単位のものと秒単位のものとがある。

直流アークでは,蓄電池若しくは整流器から取り出した直流回路に可変抵抗,インダクタンスコイルな

どを直列に配列し,電流値を最大 30A 程度とし,その点火は短絡による場合と交流アーク同様に高周波点

火による場合がある。この種の電源装置で分光分析用に設計されていない場合には,安定な電流が得られ

るように制御する必要がある。

これらの装置の主要回路の例を

図 4,図 5,図 6,図 に示す。

図 4  高周波スパーク点火形高圧交流アーク電源装置の主要回路図


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図 5  高圧スパーク点火形低圧交流アーク電源装置の主要回路図

図 6  高圧スパーク点火形整流アーク電源装置の主要回路図


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図 7  ファイルステッカー式断続アーク電源装置の主要回路図

3.1.3

低圧コンデンサー放電電源装置  この装置は,大容量のコンデンサーを最高 1kV 程度に充電後,

高圧スパーク放電によって点火させる励起電源装置である。放電の制御方式には,同期回転断続器を用い

たもの,電子管回路によって断続する方法を用いたもの,固定制御間げきを用いたものなどがある。

この装置は,回路定数の選択によって,直流低圧スパーク (DC LVS) 的放電から直流低圧アーク (DC

LVA)

的放電まで段階的に変化させることができる。

この装置の主要回路の例を

図 8,図 に示す。


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図 8  ハスラー式低圧コンデンサー放電電源装置の主要回路図

図 9  固定制御間げき形低圧コンデンサー放電電源装置の主要回路図

3.2

光源装置  この装置は,試料を放電により発光させるための電極支持台で,棒状試料用,平面試料

用及び試料補助電極とその対電極とが保持できるようになっている。また,発光ふんい気として,特定の

ガスを用いる構造のもの,試料又は試料補助電極を回転できるもの,電極保持部分を水冷できるものなど

がある。


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3.2.1

棒状試料用電極支持台  この電極支持台は,通常径 20mm 以下の棒状試料が保持できるようになっ

ている。また,電極位置を調整するために電極投影によって光軸を規正できるもの,試料電極保持部分の

過熱防止のために水冷できるものなどがある。棒状試料支持台の一例を

図 10 に示す。

図 10  棒状試料支持台の一例

3.2.2

平面試料用電極支持台  この電極支持台は,通常径 30mm 以上で厚さ 50mm 以下の平面試料が保

持でき,光軸に対して軽い傾斜がつけてある。また,試料と対電極との間げき並びに光軸位置を調整でき

る機構を有するものもある。この一例を

図 11 に示す。

図 11  平面試料用電極支持台の一例

3.2.3

回転電極支持台  この電極支持台は,試料又は試料補助電極を垂直方向に若しくは水平に回転でき

るものがある。その回転速度は,通常 5〜15rpm である。

3.3

集光装置  この装置は,光源からの光を集光して分光系に入射させるために用いられ,集光レンズ

系からなる。集光レンズ系には,コリメーター結像法・中間結像法・円筒レンズ結像法などが用いられる。

(1)

コリメーター結像法  この結像法では,1 個の集光レンズを分光器のスリットの前に置き,光源か

らの光を集光してスリットを均一に照射し,コリメーター上に結像させる。コリメーター結像法の

光学系を

図 12 に示す。


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図 12  コリメーター結像法の光学系

(2)

中間結像法  この結像法では,分光器の前に 3 個の集光レンズを設置して,光源からの光を集光し,

中間レンズに結像させ,スリットを均一に照射する。この結像法は中間絞りによって,光源の適当

な部分を選択することが容易である。中間結像法の光学系を

図 13 に示す。

図 13  中間結像法の光学系

(3)

円筒レンズ結像法  この結像法では,1 個の円筒レンズを用いて,分光器のスリット上に上下に細

長く結像させ,更にスリット上に水平に結像させる。円筒レンズ結像法の光学系を

図 14 に示す。

図 14  円筒レンズ結像法の光学系

3.4

分光写真器  この装置は,スリット系・分光系・受光系からなる。スリット系から入射した光は分

光系で分光され,受光系で写真乾板又は写真フィルム上に受光される。

3.4.1

スリット系  スリット系は,スリット・光学マスクなどからなる。

(1)

スリット  スリット幅が固定のものと可変のものがある。可変スリットには,対称開閉形と片開

き形とがあり,その開閉は 1

µm 程度の精度で変えられるものが望ましい。


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(2)

光学マスク  光学隔板・階段フィルター・回転セクター・シャッターなどがある。

(a)

光学隔板  スリット直前に置いてスリットの長さを調節し,その形状によってハルトマン式隔

板・魚尾形隔板などがある。

(b)

階段フィルター及び回転セクター  階段フィルターは,石英板に金属を適当な厚さに蒸着したも

のであり,その透光率は 4〜100%の範囲で 2 段から数段のものがある。写真のスペクトル線像の

黒さと露光量との対数を直線関係に保つことができ,数元素を同時に定量する場合などに強すぎ

るスペクトル線強度を減ずるために用いる。回転セクターは,スリット直前で同期回転器で板を

回転させ,階段フィルターと同一目的に使用する。

(c)

シャッター  スペクトル写真撮影の際,手動又は自動で開放し,光源からの光を露光時間中,分

光写真器に入射するために使用する。

3.4.2

分光系  分光系には,プリズムによるものと回折格子によるものとが用いられる。試料の種類,目

的元素及びその含有率などに応じ,適切な分散の分光器が選択される。

これらの光学系のうち,プリズムによるものを

図 15,図 16,図 17,平面回折格子によるものを図 18,お

う面回折格子によるものを

図 19,図 20,図 21,図 22 に示す。

図 15  中形(60°プリズム)水晶分光器の光学系

図 16  大形(リトロー形)水晶分光器の光学系


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図 17  四プリズム形分光器の光学系

図 18  エバート形分光器の光学系

図 19  ワズワース形分光器の光学系


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図 20  ツェルニターナー形分光器の光学系

図 21  イーグル形分光器の光学系

図 22  パッシェンルンゲ形分光器の光学系

3.4.3

受光系  受光系には,カメラレンズ系・感光材料のとりわくなどがあり,感光材料の乳剤面の位置

は分光器の焦点面に合わせてある。

3.5

現像定着装置  感光材料の現像定着装置として,恒温そう・乾燥装置又はこれらを組合せた装置な

どがある。

3.5.1

恒温そう  温度は,原則として 20±0.5℃とする。


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3.5.2

乾燥装置  現像したスペクトル写真を乾燥するには,加熱した清浄な気流中で行うか,乾板を回転

して遠心力で水分を除く装置が使用される。

3.5.3

自動現像定着装置  感光材料の現像・現像停止・定着・水洗・乾燥をタイマーで設定し,ロッキン

グ又はかくはん機構により薬液をかき混ぜながら,一連の写真操作を半自動的に行う装置である。

3.6

スペクトル観察装置  及びミクロホトメーター  これらの装置は,スペクトル写真から試料中の目的

元素の分析線を確認し,その黒度を測定するために使用する。

3.6.1

スペクトル観察装置  分光写真投影器・コンパレーターなどの分光分析用具を用いる。また,スペ

クトル観察とスペクトル線像の黒さの測定が兼用できる装置もある。スペクトル観察には,スペクトル線

波長表又は標準スペクトル写真を準備する必要がある。

3.6.2

ミクロホトメーター  スペクトル線像の黒さを測定する装置には,読み取り式と記録式とがある。

ミクロホトメーターの光源を安定にするために容量の大きい蓄電池か,又は出力電圧の変動を 0.1%以下に

安定させた電力を供給する自動電圧調整器が必要である。

ミクロホトメーター光学系には,単光束方式と複光束方式とがある。

単光束読み取り式の一例を

図 23 に示し,複光束記録式の一例を図 24 に示す。

図 23  読取式ミクロホトメーターの光学系


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図 24  複光束記録式ミクロホトメーターの光学系

4.

試料採取・試料調製用用具及び機械  試料の調製及び電極の調製にあたっては,溶湯試料採取用鋳型・

試料切断切削及び研摩用機械・加圧成形機・電極成形機・試料補助具・化学処理用器具などが必要である。

4.1

溶湯試料採取用鋳型  鋳型は,溶湯から分析試料を採取する場合に用いられ,鋼製・鋳鋼製・鋳鉄

製・銅製などの金型,若しくは黒鉛製及び耐火物製鋳型が使用される。その形状には,円すい台形・円柱

形・盤状又は棒状などの試料が得られるものがあり,水冷できる鋳型もある。

また鋳型の材質,形状などは均質な分析試料が得られ,かつ湯流れ・湯離れなどの取り扱いを考慮して

選定される。

4.2

試料切断切削及び研摩用機械  金属固体試料の切断面又は切削面を放電面とする場合は,高速切断

機・金切り盤・旋盤などを使用する。試料の放電面を一定粗さに仕上げる場合は,電気グラインダー・ベ

ルトサンダーなどを使用し,研摩材として,アルミナ質及び炭化けい素質のものがある。

4.3

小形溶解炉  この炉は半製品及び製品から採取した試料で,偏析を小さくする場合・や金履歴の差

を少なくする場合の再溶融に用いる。


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4.4

試料加圧成形機  粉末試料・切削試料などを加圧成形して分析試料とするか,又は小形溶解炉に投

入する場合の予備成形に用いる。金属切削試料の成形には,加圧機の容量の大きいものを使用する必要が

ある。

4.5

電極成形機  対電極・補助電極成形には,時計旋盤・小形旋盤などが使用されるが,専用の電極成

形機もある。また,タングステン電極の成形には,バルブフェースグラインダーなどを使用してもよい。

4.6

試料補助具  試料補助具は,小形試料・薄板試料などのように,電極支持台に直接取り付けること

が困難な場合にそれらの試料を保持し,電極支持台に容易に取り付ける目的で使用する。

4.7

化学処理用器具  この器具は,試料溶液の調製・試料溶液から粉末試料の調製・補助電極上の試料

溶液の乾燥などに用い,一般に化学分析用器具を使用する。

5.

材料

5.1

感光材料  写真乾板及び写真フィルムが使用される。分光分析用感光材料としては,全面的に均質

であり,波長の相違による特性の差異が少なく,相反則の不成立が少なく,特性曲線の直線部が長く,適

当なコントラストがあり,また微粒子であることが望ましい。

感光材料の種類の選定及びその保存については次の事項に注意する。

5.1.1

感光材料は,感色波長領域によって使用方法が異なる。一般に感色波長約 240.0nm 以上で,約

500.0nm

以下のオルソプロセス型と約 680.0nm 以下のパンクロプロセス型とが使用される。また,特殊な

波長範囲の分析には,赤外又は遠紫外用のものを用いる。測定する波長領域によって,感光材料の種類を

選定する必要がある。

5.1.2

感光材料の感度は,一般に JIS K 7608 の露光指数 1〜12 相当のものが使用されている。微量成分

の分析には感度の高い感光材料の使用が望ましい。

5.1.3

感光材料のコントラスト  (

γ)  は,入射光の性質・保存状態・現像操作条件などによって変化するの

で,所定の現像条件で,特性曲線(H−D 曲線)を作成して調べておくことが望ましい。微量成分の分析

には

γが大きく,H−D 曲線の足の短い感光材料が適当である。また,検量線の直線域を拡大するためには,

γが比較的小さいものが適当である。

5.1.4

感光材料は,解像力の良いスペクトル写真を作成するため微粒子のものであることが望ましい。

5.1.5

感光材料の保存には,次のことに注意する。

(1)

高温・多湿な所では,乾板の特性が変化し,またかぶりを生じやすいので,低湿・冷暗所に保存

する。また感光材料は,保証されている有効期間内で使用する。

(2)

感光材料は,乳剤面に圧力を加えるとかぶりを生じることがあるため,写真乾板は積み重ねずに

立てて保存する。

(3)

感光材料は,石炭ガス・硫化水素・ホルムアルデヒド・水銀化合物などによって,性質を低下さ

せることがあるから注意する。

(4)

X

線・

γ線などがでている所には置かないようにする。でている所では感光材料は鉛張りの容器に

入れて保存する。

5.2

対電極  対電極は,通常径 3〜8mm で長さ 30〜150mm の黒鉛・銀・タングステン・銅などの棒又は

平板が使用され,その一端若しくは一面を安定な放電が得られる形状に成形して使用する。これらの電極

の材質及び純度は,一般に分析目的に応じて選択される。

棒状の場合は分析試料そのものを対電極にも使用することがある。

対電極の形状の例を

図 25 に示す。


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図 25  対電極の形状の例

5.3

補助電極  黒鉛材の補助電極には,分析目的によって次のような形状のものがある。

5.3.1

溶液試料用として回転形・ネック形・ポーラスカップ形・アノードキャップ形・バキュームカップ

形などがある。

5.3.2

粉末試料用としてネック形・カップ形・ボイラーキャップ形・シフター形などがある。

これらの補助電極の例を

図 26 に示す。


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図 26  補助電極の例

5.4

ふんい気ガス  分析間げきのふんい気調整用ガスとしてアルゴン・窒素・酸素及びそれらの混合ガ

スなどを用いることもある。

5.5

化学処理用試薬  化学処理に使用する試薬は,日本工業規格の化学分析方法で規定されたものを使

用する。


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6.

試料  試料には,分析試料と標準試料とがある。

6.1

分析試料  分析試料には,金属の塊状・棒状・板状・線状及び粉状のものがある。試料は,適当に

成形して金属固体の平面試料若しくは棒状試料とするか,溶解して溶液試料とするか,その溶液を蒸発乾

固又は金属試料を直接酸化して粉末試料とするか,若しくは粉末試料又は金属粉末をブリケットして,発

光分光分析試料とする。

6.2

標準試料  標準試料は,検量線を作成するためのもので,分析試料との物理的及び化学的諸性質が

近似したものを使用する。検量線の外そうによる定量は誤差を大きくすることがあるので,標準試料は,

定量元素含有率を十分に内そうする濃度範囲において,適当な間隔を保つことが必要である。その定量元

素の含有率は,

日本工業規格の化学分析方法又はこれに準じる化学分析方法によって正確に決定する。

標準試料は,その形態によって,次の条件に適合するものを使用する。

6.2.1

金属固体の標準試料  この試料は,金属固体を直接電極とする場合に使用される。検量線の作成に

は,通常適当に定量元素を含有する数個の試料を一系列の標準試料群として用いるが,試料の化学組成・

や金的履歴・形状・大きさなどが分析試料と近似し,各試料の内標準元素含有率がほぼ等しいことが望ま

しい。標準試料系列が適当でない場合には分析値に偏差を生ずるので,その選択には十分に注意する必要

がある。

標準試料には,市販標準試料と自家製標準試料とがある。市販標準試料は,分析試料とのや金的履歴の

相違による影響をうけることがある。自家製標準試料には,溶湯や製品から作製したものと小形溶解炉で

溶製したものがあり,一般に前者は広い濃度範囲のものが得られにくく,後者はや金的履歴の影響をうけ

ることがある。

6.2.2

溶液試料・粉末試料・ブリケット試料の標準試料  これらの標準試料としては,最終形態の化学組

成が,分析試料と近似することが必要である。

溶液試料の標準試料は,よく振り混ぜて均質な状態で使用する。また粉末試料又はブリケット試料の標

準試料は,比重差・粒径などによる化学組成の偏析が起こらないように注意して混合し使用する。

高純度金属又は高純度試薬を適当量添加した混合標準試料を用いる場合は,これらの金属及び試薬を分

析目的に応じて純粋であることを確かめ,混合しなければならない。市販の十分に信頼できる分光分析用

又は化学分析用標準試料を用いる場合には,添付された分析値を用いてもよいが,その場合には試料の化

学組成の相違による影響がないことを十分に確かめてから使用する。

また溶液及び粉末の標準試料の定量元素含有率を決定する際,適当な化学分析方法がない場合には添加

法などによってもよい。

7.

試料の調製方法  分析試料は,分析目的に応じて,関係する日本工業規格の検査通則若しくは材料規

格に定められた方法に準じ,平均化学成分を代表するような位置又は時期に採取したものでなければなら

ない。

分析試料と標準試料との試料調製方法は,同一操作条件で行わなければならない。その試料形態は,分

析目的によって,金属固体試料による金属電極・溶液試料による充てん電極・浸透電極・回転電極及び被

膜電極・粉末試料による充てん電極及びブリケット電極などがある。

これらの試料採取及び調製方法について,次の各項を適用する。


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7.1

金属固体試料の調製方法  金属固体試料の形状には平面試料と棒状試料とがある。溶湯から試料を

採取する場合は鋳型を用いて鋳込み,製品から試料を採取する場合は切断又は切削によって採取する。そ

の調製にあたっては,切削及び研摩による電極の汚染に十分に注意し,特に研摩材は分析目的に応じて適

当な材質のものを選ぶ。

7.1.1

棒状試料の調製  棒状試料は,溶湯試料又は製品試料から鋳造又は切削によって径 3〜12mm で長

さ 30mm 以上の棒状とする。その先端の形状は金属の種類・分析目的・発光条件により適宜に成形する。

その成形面は切削若しくは研摩により一定の粗さに仕上げる。

7.1.2

平面試料の調製  平面試料は,溶湯試料又は製品試料から鋳造,切断又は切削により成形し,平面

部の径 12〜70mm で厚さ約 5mm 以上とする。その面は一定の粗さに切削又は研摩する。溶湯試料の場合

に,分析目的によって急冷底面を直接一定粗さに研摩して放電面とする方法がある。

7.1.3

試料調製上の注意  金属固体試料の調製は,所定の方法によって行う。

試料電極の汚染防止及び分析精度管理を良くするため,次の事項に注意する。

(1)

鋳込み用鋳型は,所定の形状及び材質のものとし,その内壁からの汚染を防止するため,十分に

清浄なものを使用する。

(2)

金属試料を再溶融して鋳込む場合は,成分元素の含有率が変化することがあるから注意する。

(3)

切削工具は,さびたものを使用しないように注意し,切削後工具刃の刃こぼれのないことを確か

める。

(4)

研摩材の材質は,例えばアルミニウム定量時にはアルミナ質研摩材,けい素定量時には炭化けい

素質研摩材を使わないように注意する。また,試料材質が軟質の場合は,研摩材の食いこみによ

る汚染に注意する。

(5)

試料に付着した油脂類は,純良な溶媒で十分に洗浄する。

(6)

対電極を用いる方法では,電極材質の物理的性質の不ぞろいや先端の加工精度が分析精度に影響

を与えるので注意する。

(7)

棒状試料電極及びその対電極の放電面の成形には,平滑度・偏心などの加工精度が分析精度を悪

くするので注意する。特に棒材のわん曲は,放電面成形前に真直ぐにしておく。

7.2

溶液試料・粉末試料・ブリケット試料の調製  金属固体試料では標準試料の使用が困難な場合・偏

析により十分に平均組成を知ることができない場合・化学組成の相違による影響が大きい場合・定量元素

の分析感度が十分でない場合には,分析目的に応じて試料を溶液又は粉末試料に調製する。試料の取り扱

いは,関係する

日本工業規格の試料の取り方若しくは取り扱い方法に準じて行う。これらの試料形態では,

一般に補助電極が使用され,また内標準物質の添加が容易である。

7.2.1

溶液試料の調製  溶液試料の調製にあたっては,試料の主成分は,もちろん定量元素の全部が溶解

するようにしなければならない。分析試料中の定量元素の分光分析感度が不足の場合及び主成分元素が妨

害をあたえる場合には,主成分元素の大部分を除去して定量元素を濃縮する方法が用いられる。

7.2.2

粉末試料の調製  試料を溶液とした後蒸発乾固するか,又は金属を直接酸化などして粉末試料とす

る。粉末試料では,粉末の不均一な混合・粒子の大きさなどが分析精度に影響を与える。粉末試料の発光

分光分析では,化学組成の相違による影響や分別蒸発の抑制・放電発光の安定などのための分光バッファ

ー又は試料量の少ない場合の増量剤などを加えることがある。

7.2.3

ブリケット試料の調製  金属試料の切削粉又は粉末試料を加圧成形して電極とする。ブリケット試

料では,試料粒子は細粒で均一なことが望ましく,成形における加圧圧・加圧保持時間も分析精度に影響

する。


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7.2.4

試料調製上の注意  溶液試料・粉末試料・ブリケット試料の調製にあたっては,次の事項に注意す

る。

(1)

溶剤の純度は,分析目的に応じて選択するが,一般には特級試薬を使用する。しかし試料溶解後

濃縮操作を行うような場合は,再蒸留した溶剤を使用することがある。

(2)

溶液試料用分解剤には一般に塩酸又は硝酸などの無機酸を用いる。

(3)

試料分解時に激しい反応や強い加熱をすることは特定元素が揮散することがあるからさける。

(4)

塩粉末試料の分解には,主成分元素の潮解性の塩若しくはその塩が水加物とならないような酸を

用いる。これらの塩は,試料発光時に水分含有率の差又はガス発生によって,光源が不安定とな

ることが多いので注意する。

(5)

酸化物粉末試料の調製時には,分解酸の種類・強熱するときの温度によって揮散する元素がある

ので注意する。

(6)

粉末試料を調製する場合には,使用する機具による汚染防止のために十分に清浄なものを使用す

る。

また調製用具の摩耗や溶け込みに注意し,適切な調製方法を選ぶ。

(7)

ブリケット用金属切削試料の調製時には,予想される偏析の程度に応じてできるだけ細かくし,

十分に混合する。また酸化物・塩などの粉末試料をブリケットする場合には,試料をよく混合し,

均質な状態にしてから行う。

(8)

溶液試料又は粉末試料に用いる補助電極及び対電極の成形には,電極成形機などを用いてもよい。

それらの電極の放電部分の加工精度及び電極材質の物理的性質のふぞろいは,分析精度に影響を

与えるので注意する。

8.

測定操作及び定量方法  測定のための装置の調整並びに定量方法については,次の各項による。

8.1

装置の調整  装置は,常に正常な運転ができるように,十分整備しておく必要がある。

8.1.1

発光装置の調整  励起電源装置の回路の諸元及び光源装置のふんい気ガス流量などは,試料の種

類・定量元素及びその定量範囲などによりあらかじめ適当な条件を決定しておく。その調整は,次の事項

による。

(1)

予備通電  励起電源装置の電気的作動が安定するまで,あらかじめ適当な時間通電しておく。必

要があれば,励起電源装置の高圧変圧器の一次電圧を電圧調整器によって所定の電圧に設定する。

この一次電圧は,十分安定でなければならない。

(2)

制御間げきの調整  励起電源装置の制御間げきは,電極の放電面及び間げきが規定状態にあるよ

うにそれぞれ定期的に成形し,スペーサー又は放電電圧で所定の間げきに調整する。空気ジェッ

トを用いた装置では規定の送風圧力に調整し,また,水銀燈で制御間げきの電極を照射する装置

ではその水銀燈を点燈する。

(3)

ふんい気ガス流量の調整  ふんい気ガス流量は,試料の発光に影響を与える。発光中・休止中の

流量は,所定の値になるように流量計で調整する。

8.1.2

光学系の調整  集光装置及び分光器の光学系は,あらかじめ点検し調整する。光学系の点検及び調

整は,次の事項による。

(1)

集光レンズ系  レンズが汚染されているときは清浄にする。特にスリット結像の分光器では,ス

リット直前のレンズは一点のほこりがあっても測定操作の妨害となる。また電極位置及び光源位

置を調整し,合わせて集光レンズ系の調整状態も確認しておく。


20

Z 2612-1977

(2)

測定波長領域  分析目的によって適当な波長領域を決定し,撮影できるように調整する。

(3)

分光器のスリット  一般に 10〜50

µm の範囲内で所定の一定値に調整し,分光器の明るさ及び分

析線とその妨害線との波長差を考慮して重複しないようにする。また測定のスペクトル写真に白

い横線が認められるときは,スリットを清掃にする。

(4)

中間絞り  分析目的に応じて絞りは適切に規制する。

(5)

光学隔板  分析目的に応じて適切なスリット位置に設置する。

(6)

階段フィルター又は回転セクター  分析目的・分光写真器に応じて階段フィルター又は回転セク

ターをスリット直前に取り付けることがある。階段フィルターは常に清浄にしておく。

8.2

撮影操作  撮影操作について,一般的な事項を次に規定する。

8.2.1

感光材料の取り付け  感光材料を取りわくに装てんする際,感光膜面をきずつけたり,指先で触れ

て脂肪を付けたり,表裏を誤らないように注意する。また感光材料は,保証されている期間内のものであ

ることを確かめた後取り付ける。

8.2.2

試料の取り付け  試料の取り付けにあたっては,分析目的に応じて分析間げきを所定の一定値に調

整する。

これには投影ランプ又はスペーサーを用いればよい。

なお極性に注意する必要のある場合がある。

棒状電極の場合は上下極にずれやゆがみがあれば発光が均一に行われないので,正確に対持させる。電極

支持台及び試料を取り扱う機具類は,試料の汚染の原因となるため常に清浄にしておく。

8.2.3

予備放電  放電開始直後,スペクトル線強度又は分析線対の強度比が著しく変化する場合があるの

で,露光前に適切な時間の予備放電を行う。予備放電時間は定量元素の種類・励起条件・電極の形状・分

析線対などによって異なるので,あらかじめ実験的に定める。

8.2.4

露光  露光時間は,分析線対の各々のスペクトル線黒度が,いずれもその感光材料のその波長に対

する H−D 曲線の直線域にあるようにあらかじめ実験的に定める。スペクトル線の黒度が大で H−D 曲線

の直線部からはずれる場合には,階段フィルターを用いて減光すればよい。露光時間は,タイマー・時計

などで±1 秒程度に管理することが望ましい。

8.3

写真処理  感光材料の処理は現像・定着・水洗・乾燥からなる。原則として,使用する感光材料に

指定する処理方法に従うが,次に一般的な事項について規定する。

8.3.1

現像  現像は,現像液の処方及び調製・保存条件・処理温度・かくはん条件・現像時間などが,感

光材料の H−D 曲線に影響する。特に写真処理中の現像操作は重要なものである。次に,その注意事項に

ついて規定する。

(1)

現像室内で感光材料を取り扱う場合は,指定された照明下で操作する。一般に 20W の着色電球を

使用し,1m 以上離れた位置で操作する。オルソプロセス型では濃赤色,パンクロプロセス型では

濃緑色の着色電球を使用する。

(2)

現像液は試薬を溶解後 3 時間以上放置し,試薬の熟成を待ち使用する。また保存中又は現像中の

pH

及び現像能力の変化が小さいことが望ましい。現像液の更新は,写真乾板 1 枚に対して約 100ml

を基準とする。

(3)

現像温度及び現像時間は,一定としなければならない。現像温度は,18〜20℃で±0.5℃の一定温

度とする。現像時間は,暗室時計などで実験的に定め正確に管理する。現像温度が一定でない場

合には,写真操作が一定であっても H−D 曲線に影響し,分析結果にも影響を与える。特に現像

液の温度が 17℃以下では現像能力が低下し,高温では写真の銀粒子が巨大化するので注意する。

(4)

薬液層は感光材料の乳剤膜面上 1cm 以上あるようにし,液が停滞しないようにロッキング現像な

どを行う。現像中に膜面をきずつけないように注意する。


21

Z 2612-1977

(5)

感光材料を現像液に入れる際には,気ほうが膜面に付着しないようにする。特に写真乾板をバッ

ト現像する場合には注意する。

8.3.2

現像停止  現像を終わった感光材料は,なるべく速やかに現像停止浴中に入れ,15〜30 秒間浸す。

8.3.3

定着  現像停止浴中に入れた感光材料は,酸性硬膜定着液に移し,ロッキングなどにより薬液を動

かしながら定着する。定着温度は原則として 20℃とし,定着時間は乳剤膜面が透明になった後,これに要

した時間の 2 倍を基準とする。

8.3.4

水洗  定着後の感光材料は,流水中で水洗し,感光材料に付着したチオ硫酸ナトリウムを完全に除

去洗浄する。

8.3.5

乾燥  水洗を終わった感光材料は,清浄な写真用スポンジなどで軽くたたき水滴を除去するか,写

真用界面活性剤の希薄水溶液に浸した後,水を振り切るかして乾燥する。乾燥は,ほこり及び湿気の少な

い所で行い,乾燥むらのないようにする。このために乾燥装置を利用すれば便利である。ほこりの付着や

不均一に乾燥したスペクトル写真は,スペクトル線測定時の妨害となり,分析値に影響を与えるから注意

する。

8.4

測定操作  スペクトル線像の黒度測定は,ミクロホトメーターを用いて行う。測定するスペクトル

写真及びミクロホトメーターの光学系は,ほこりやきずがつかないように注意し取り扱う。

測定操作について,次の事項を規定する。

8.4.1

分析線対  分析線対はあらかじめ実験的に選定し,測定するスペクトル写真によって測定位置を確

かめておく。

測定に用いる分析線及び内標準線のスペクトル線の組合せを選ぶ際には,次の条件を考慮しなければな

らない。

(1)

分析線及び内標準線の選定には,信頼できる波長表を使用し,あらかじめ分光器の分散から調査

し,他元素のスペクトル線の影響のないものを確かめるなどして選ぶ。また,強いバンドスペク

トル内のスペクトル線は使用しない方がよい。

(2)

分析線と内標準線との相互の波長差はあまり大きくないものを選ぶ。波長差が大きくなると測定

上不便であり,また感光材料の H−D 曲線が相違するため,コントラストが異なる場合がある。

(3)

分析線と内標準線との選定には,一般に中性線・イオン線の同種のもので,励起エネルギー差の

小さい線対を組合せる。

(4)

分析線は,定量元素含有率変化に対してスペクトル線強度差の大きいものを選ぶ。感度の良いス

ペクトル線の使用は,高含有率元素の分析には好ましくないが,微量成分の分析には適している。

微量元素の限度分析などに用いる分析線は,所定の分析条件で,あらかじめ限界濃度を求めて選

定する。

8.4.2

ミクロホトメーターの光源  光源は測定中,安定していなければならない。自動電圧調整器を使用

する光源では 15〜30 分間,また蓄電池の場合では少なくとも 5 分間通電後測定操作を始める。

8.4.3

ミクロホトメーターのスリット幅  測定するスペクトル線像幅の 1/3〜2/3 程度の一定値にスリッ

ト幅を設定する。

8.4.4

電気計器の調整  記録計及び電流計の指針の基準位置及び応答速度などについて規制する。

8.4.5

測定  スペクトル写真をわずかに移動させ,指示計の最大移動位置を読みとる。スペクトル写真の

自動移動できる装置では,あらかじめ読み取り精度の良い移動速度を実験的に求め,測定前に設定する。


22

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8.5

定量方法  分析試料の測定値から検量線を用いて,試料中の定量元素含有率を求める。検量線は,

標準試料を分析試料と同一条件で発光した同一スペクトル写真から得られた測定値を用いて,その測定強

度と定量元素含有率との関係を方眼紙上にプロットして作成する。標準試料と分析試料との内標準元素含

有率の差や共存する妨害元素が分析値に偏差を与える場合は,それらの元素含有率の変化に対する定量元

素の分析値の偏差をあらかじめ求めておき,検量線から得られた分析値を補正する。

ミクロホトメーターで測定した測定値の取り扱い方法には,次の各種の方法がある。

8.5.1

写真の黒さ比較法  スペクトル写真の未露光部及びスペクトル線像のミクロホトメーターの振れ

を J

0

と、とすれば,JJ

0

がスペクトル線の黒さとなる。分析線及び内標準線の黒さを d

A

と d

B

とする。

黒さ比較法による検量線は,d

A

/d

B

と定量元素含有率 C

A

/C

B

との関係を両対数方眼紙上にプロットする。

8.5.2

黒度比較法  ミクロホトメーターは,あらかじめ光源からの光をしゃへいしたとき,スペクトル写

真の未露光部を透過させたときの光量によって,0 と 100 とに調整する。スペクトル写真の未露光部及び

スペクトル線像のミクロホトメーターの振れを J

0

と J

A

とし,特に透光率で示す場合は J

0

=100%とし,J

A

T

A

%

とすれば,黒度は次の式で示される。

D

A

=log (J

0

/J

A

 )

=log (100/T

A

)

=2−logT

A

したがって,D

A

は黒度換算表を作成すれば,透光率から直接換算できて便利である。スペクトル線黒度

が元素含有率に比例するとすれば,その黒度は次のように表される。

D

A

γlogC

A

R

1

ここに C

A

は試料中の定量元素含有率,R

1

は定数である。内標準元素 についても同様の式が成立する。

D

B

γlogC

B

R

2

両式の差をとると,次の式が成立する。

DD

A

D

B

γlogC

A

/C

B

R

3

黒度比較法の検量線は,片対数方眼紙を用いて,⊿と元素含有率(対数軸)C

A

/C

B

との関係をプロッ

トして作成する。又は両対数方眼紙を用い,C

A

/C

B

に対して J

B

/J

A

をプロットして検量線を作成してもよい。

ただし J

B

は内標準線のミクロホトメーターの振れを示す。

8.5.3

ザイデル黒度比較法  スペクトル線像の黒さが,感光材料の H−D 曲線の直線部をはずれる場合は,

作成する検量線の直線性が失われる。このような場合には,ザイデル黒度を用いることによって,検量線

の低濃度部分を直線化することができる。

ミクロホトメーターの調整は,あらかじめ黒度比較法に準じて行っておく。スペクトル写真の未露光部

及びスペクトル線像のミクロホトメーターの振れを J

0

と J

A

とし,透光率で示す場合は J

0

=100%とし,J

A

T

A

%

とすれば,ザイデル黒度は次の式で求められる。

D

=log  〔(J

0

/J

A

)

−1〕=log〔(100/T

A

)

−1〕

したがって D

はザイデル黒度換算表を作成すれば,透光率から直接換算でき便利である。内標準元素

スペクトル線との差をとると,次のようになる。

D

=log  〔{(J

0

J

A

) /J

A

}

・ {J

B

/ (J

0

−J

B

)}

ザイデル黒度比較法による検量線は,片対数方眼紙を用いて,⊿D

と元素含有率(対数軸)C

A

/C

B

との

関係をプロットして作成する。また両対数方眼紙を用いて,C

A

/C

B

に対する {(J

0

/J

A

)

−1}  × {(J

0

/J

B

)

−1}

の関係を求めて,検量線を作成してもよい。


23

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8.5.4

強度比較法  この方法は,比較的広い濃度範囲の分析を行う場合やスペクトル線のバックグラウン

ドの補正を要する微量域の分析,若しくは少数試料のために迅速性や経済性を考慮して数個の標準試料を

省略したい場合に用いる。黒さ比較法や黒度比較法では,感光材料の特性  (

γ)  が直接検量線作成に影響す

るが,この方法では,黒度をあらかじめ得られた感光材料の特性曲線(H−D 曲線)によって相対強度に

変換するので,乾板特性の影響を最小限にとどめることができる。

代表的な H−D 曲線の作成方法には,多段階段フィルター法・多段回転セクター法・2 段法 2 線法・線

群法などがある。

強度比較法では,あらかじめスペクトル写真から作成した H−D 曲線を用い,同一写真中の標準試料の

スペクトルの分析線対の測定強度比を相対的強度に変換する。変換した分析線対の強度 I

A

/I

B

と元素含有率

C

A

/C

B

との関係を方眼紙上にプロットして検量線を作成する。方眼紙は両対数方眼紙を用いてもよい。

8.6

分析結果の報告  発光分光分析結果には,次の諸事項を記載しなければならない。

(1)

試料採取位置及び時期

(2)

試料調製(分析試料の形状,研摩材質,溶液試料・粉末試料・ブリケット試料などの処理方法など)

(3)

使用した装置の名称と形式

(4)

発光条件(励起法の種類・励起電源装置の回路諸定数・対電極若しくは補助電極材料の種類とその

形状・分析間げき・ふんい気ガスの種類及び流量など)

(5)

撮影条件(感光材料の種類・予備放電時間及び露光時間・スリット幅及び高さ・減光方法の種類・

測定波長範囲・分光器の分散など)

(6)

現像条件(現像定着液の種類・温度・処理時間など)

(7)

測定条件(分析線及び内標準線の波長・ミクロホトメーターのスペクトル写真の移動速度及び記録

計の応答速度など)

(8)

その他の必要事項

9.

装置の選定と設置

9.1

装置の選定  装置は,主な分析対象物によって,励起電源装置と分光器とが選ばれる。その選定に

あたっては次の事項を考慮する。

9.1.1

励起電源装置  この装置は,次の事項によって選定する。

(1)

スパーク電源装置は,比較的多量元素の定量に都合がよい。例えば金属の合金成分や比較的多量

の不純元素の定量などに用いられる。

(2)

アーク電源装置は,試料中の微量成分の定量に都合がよい。直流アーク法は,試料の消耗が大で

あるが,分析感度は最も良好である。交流アーク法は,一般に直流アーク法と比較して,試料の

消耗が小さく再現精度は良好であるが,分析感度は若干劣る。

(3)

低圧コンデンサー放電装置は,回路定数を変化させればアーク的からスパーク的励起発光まで段

階的に変化でき,多目的な分析に利用できる。

9.1.2

分光器  分光器は,次の事項によって選定する。

(1)

高分散分光器は,多線性の元素スペクトルを励起する試料の分析に適す。例えば鉄・チタン・タ

ンタル・ウラン・ジルコニウムなどの金属及びそれらの合金などの試料の分析に使用される。

(2)

中形石英分光器などの比較的分散の小さい分光器は,少線性の元素のスペクトルを励起する試料

の分析に適す。例えば銀・亜鉛・アルミニウム・鉛・カドミウム・銅などの試料の分析に使用さ

れる。


24

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(3)

分光写真器は,光電測光法による分光計と比較して,少数の試料中の多数元素を同時に定量する

場合,また特に定性分光分析を多く行う必要のある場合に適す。

9.2

装置の設置  装置及び分光分析室の設置にあたっては,機種に応じた設置条件を満たす必要がある

が,一般に次の事項に注意する。

9.2.1

装置の振動は,できるだけ少なくする。励起電源装置の振動や外部からの振動が,分光器及びミク

ロホトメーターに伝わらないようにする。特に指示計は除振を行うことが望ましい。

9.2.2

分光写真器は,直射日光の当らないところに置くが,電燈光については光線がコリメーターに直接

入射しなければよい。

9.2.3

分光写真器は,温度変化の少ない所に設置する。特に高分散分光器では温度変化によって,スペク

トル線位置のずれを生ずる。

9.2.4

励起電源装置の供給電源は,電圧変動を±1%以内に保持するために定電圧装置を介して与えられ

るが,できるだけ周波数変動の少ないものであることが望ましい。

9.2.5

発光装置を安定に作動させ,他の機器への妨害雑音を軽減するために接地抵抗 20

Ω以下の専用の接

地設備を設けなければならない。

9.2.6

装置は,ほこりが少なく腐食性ガスがはいらず湿度の低いところに設置する。室内のほこりは,レ

ンズや分光器のスリットなどに付着し,写真測光操作上の妨害となる。したがって床張りや壁の材質には

特に留意する。また腐食性ガス及び湿気は,分光器のスリット・回折格子・反射鏡などの表面の蒸着金属

膜などの腐食の原因となる。

9.2.7

光源装置の排気ガスを,直接室外に放出できる設備を備えることが望ましい。

9.2.8

光源部にガスを供給する装置の場合は,ガス配管は内面を清浄にしたステンレス鋼又は銅管などを

用い,接合部分ができるだけ少ないことが望ましい。

10.

分析誤差とその管理  分析誤差は,通常測定精度及び化学分析値に対する偏差によって知ることがで

きる。したがって,これらの特性値を管理して一定の水準を維持することが望ましい。

10.1

測定精度の管理  測定精度は,繰り返し精度及び再現精度に分類して表す。

10.1.1

繰り返し精度  繰り返し精度は,同一試料を同一装置で特定の同一人が同一発光分光分析方法で,

同一時期に連続して多数回分析した結果から求めた標準偏差であり,使用する装置・分析条件・操作方法

が適正なものであれば極めて小さい値をとる。この目的に使用する試料は,均質で欠かんのないものであ

ることが必要である。また測定する元素含有率は,使用する検量線の定量範囲内にあり,分析値個数は 10

個以上であることが望ましい。また,連続して撮影したスペクトル写真数枚から分析値を求めて集計する

こともある。

繰り返し精度が不良の場合の要因として,測定条件の短時間内の変動が考えられるので,特に次の事項

について,必要な対策を講ずる。

(1)

電源の変動(電圧・周波数など)

(2)

発光条件の変化(電極位置・分析間げき・研摩の粗さ・黒鉛電極の材質及び仕上げ精度などの不

均一)

(3)

感光材料の不均一。

(4)

ミクロホトメーターの調整不良及び光源の変動。

(5)

分析試料の不均一。

(6)

検量線作成操作の誤り(数枚のスペクトル写真から分析値を求めた場合)


25

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10.1.2

再現精度  作成した検量線を用いて,その作成に用いた各標準試料の分析値を求め,その値と標準

値との偏差から検量線の偏り 及び平均誤差| |を求める。このとき標準試料は,実験的に均質で使用す

る分析線に対して共存元素の影響のない試料を用いる。 が正又は負で大きな値となる場合は,検量線を

再作成し,できるだけ小さな値になるようにする。等目盛方眼紙を用いる場合は,最小自乗法によって検

量線の回帰式を求めてもよい。両対数方眼紙を用いる場合は,できるだけ大形のものを用いれば読み取り

精度は向上する。このようにして が満足した結果となった場合に| |を求める。この精度が不良の場合

は,特に次の事項について必要な対策を講ずる。

(1)

試料調製時の汚染(試料調製器具などから)

(2)

電極の成形及び仕上げの不十分。

(3)

突発的な電源変動。

(4)

感光材料の不均一又は処理の不良。

(5)

不適当な標準試料の使用。

10.2

偏差の管理  分光分析値に偏差が生じているか否かの判断は,通常 10 個以上の試料について,分光

分析した試料を化学分析し,対応する両分析値の差を統計的に検定することにより行われる。検定した結

果,偏差が認められる場合には,化学分析値の管理状態を検討すると同時に,分光分析方法では標準試料

の適否・分析試料の良否・定量方法の良否などを,次により検討する。

10.2.1

標準試料が不適当な場合には,標準試料系と分析試料系の成分組成が著しく異なるための影響・標

準試料系のや金的履歴や非金属介在物の差による影響・標準値に偏りがあるための影響などがある。この

場合には,標準試料系を再選定するか,若しくはその試料の妨害線の影響などを検討する。

10.2.2

分析試料が不良の場合には,試料採取方法の不適・調製による汚染などがある。採取方法が不適の

場合には成分的の偏析・欠かんの存在などが推定されるので採取方法を再検討する。調製による汚染につ

いては,研摩材・切削工具や調製方法を再検討し,その原因を明らかにする。

10.2.3

定量方法の誤差の要因には,検量線作成の誤りや共存元素の影響の見落としなどがある。この対策

としては,検量線を再検討するか,試料数を増加して影響の程度をスペクトル写真から明確にする方法な

どがある。

11.

安全衛生  分光分析を行う場合の安全衛生については,次の事項に注意する。

(1)

電気配線はすべて規格に適合するものを使用し,装置の絶縁及び接地は,十分に行わなければならな

い。

(2)

全部の電気回路を切断できる 1 個の主開閉器を備えなければならない。

(3)

装置の点検・修理は,やむをえない場合を除き,主開閉器を切ってから行う。主開閉器の開閉は,呼

唱しながら行うなどの方法によって,十分に注意して操作する。また,特に回路にコンデンサーを含

む励起電源装置においては,開閉器を切った後少時間帯電していることがあるので,放電させてから

行う。通電中の点検は 2 名以上で行い,感電時の応急処置法をおぼえておくことが望ましい。

(4)

装置を設置する室内は,試料発光時に発生する有害ガス及びほこり,更にふんい気として供給するガ

スなどの室内充満をさける処理をする。

(5)

発光源からの紫外線放射や低圧水銀燈を使用した装置では,それらの光を直接見ないように注意する。

必要があれば,紫外線防止の保護具を使用する。

(6)

発火性金属の分析においては,その切削及び放電時の発火に注意する。また切削研摩くずの処理をお

ろそかにしてはならない。更に電気火災に備えて消火器具を室内に備えておくことが望ましい。


26

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(7)

騒音を発生する装置を使用する場合は,できるだけ吸音構造にすることが望ましい。

(8)

試料調製用機械の操作方法は,十分習得してから行う。高速度切断機・ベルトサンダー・グラインダ

ーなどは,安全カバー及び集じん装置などを備える。切削用の旋盤・ボール盤の操作には,手袋を使

用しない。また目に切りくずのはいる恐れのある場合には保護具を用いる。

(9)

溶液試料を調製する場合の化学薬品の取り扱いには,爆発性・引火性・有毒性又は有害性などに十分

注意する。

12.

分析方法の各規格で記載すべき項目  金属材料の写真測光法による発光分光分析方法の各規格では,

原則として次に示す各項目を定めておく。

(1)

適用範囲

(2)

試料採取方法

(3)

試料調製方法

(4)

分析方法の概要(金属固体・溶液・粉末・ブリケット法別など)

(5)

発光条件(励起条件,分析間げき,予備放電時間及び露光時間,試料・補助電極及び対電極の形状な

ど)

(6)

測定条件(分光器の分散・測定波長範囲・分析線対・感光材料の種類及び現像定着条件など)

(7)

定量方法(標準試料の種類・補正方法・検量線の維持方法など)

(8)

結果の整理(分析精度・誤差要因など)

発光分光分析方法日本工業規格原案作成委員会

科学技術庁金属材料技術研究所

俣  野  宣  久

新日本製鉄株式会社

河  島  磯  志

川崎製鉄株式会社

杉  山      昇

三菱金属鉱業株式会社

斎      加実彦

住友軽金属工業株式会社

沢  田  敏  男

昭和アルミニウム株式会社

井  上  重  雄

日本軽金属株式会社

山  田  不二彦

昭和電工株式会社

鈴  木  省  三

住友化学工業株式会社

吉  田  徹  郎

三菱化成工業株式会社

中  村  正  直

軽金属製錬会

片  山  英太郎


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Z 2612-1977

鉄鋼部会  発光分光分析方法通則専門委員会  構成表(昭和 46 年 5 月 1 日制定のとき)

氏名

所属

(委員会長)

武  藤  義  一

東京大学生産技術研究所

須  藤  恵美子

科学技術庁金属材料技術研究所

神  森  大  彦

日本化学会

服  部  只  雄

日本分析化学研究所

河  島  磯  志

新日本製鉄株式会社

杉  山      昇

川崎製鉄株式会社

沢  田  敏  男

住友軽金属工業株式会社

高  久  通  夫

古河電気工業株式会社

阿  部  和  男

日本軽金属株式会社

阿  部  方  明

住友化学工業株式会社

斎      加実彦

三菱金属鉱業株式会社

上  原  博  義

三井金属鉱業株式会社

阿  部      弘

日本国有鉄道鉄道技術研究所

上  村  勝  二

久保田鉄工株式会社

小  野  準  一

株式会社島津製作所

村  上  喜八郎

日本ジャーレルアッシュ株式会社

片  山  英太郎

軽金属製錬会

(事務局)

石  井  清  次

工業技術院標準部材料規格課

神  長  直  之

工業技術院標準部材料規格課

(事務局)

石  井  清  次

工業技術院標準部材料規格課(昭和 52 年 3 月 1 日改正のとき)

土  居  修  身

工業技術院標準部材料規格課(昭和 52 年 3 月 1 日改正のとき)