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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

(1)

目  次

ページ

序文  

1

1

  適用範囲  

1

2

  用語及び定義  

1

3

  リスクマネジメントの一般要求事項  

5

3.1

  リスクマネジメントプロセス  

5

3.2

  経営者の責任  

6

3.3

  要員の資格認定  

6

3.4

  リスクマネジメント計画  

6

3.5

  リスクマネジメントファイル  

7

4

  リスク分析  

8

4.1

  リスク分析プロセス  

8

4.2

  意図する使用及び医療機器の安全に関する特質の明確化  

9

4.3

  ハザードの特定  

9

4.4

  個々の危険状態に対するリスクの推定 

9

5

  リスク評価  

10

6

  リスクコントロール  

10

6.1

  リスクの低減  

10

6.2

  リスクコントロール手段の選択  

10

6.3

  リスクコントロール手段の実施  

11

6.4

  残留リスクの評価  

11

6.5

  リスク/効用  分析  

11

6.6

  リスクコントロール手段によって発生したリスク  

12

6.7

  リスクコントロールの完了  

12

7

  残留リスクの全体的な受容可能性の評価  

12

8

  リスクマネジメント報告書  

12

9

  製造及び製造後情報  

13

附属書 A(参考)指針及び根拠  

14

附属書 B(参考)医療機器についてのリスクマネジメントプロセスの概要  

23

附属書 C(参考)安全に影響する医療機器の特質を明確化するために使用できる質問事項  

25

附属書 D(参考)医療機器に適用するリスクの概念  

30

附属書 E(参考)ハザード,予見可能な一連の事象及び危険状態の例  

45

附属書 F(参考)リスクマネジメント計画  

50

附属書 G(参考)リスクマネジメント手法に関する情報  

52

附属書 H(参考)体外診断用医療機器に関するリスクマネジメントの指針  

56

附属書 I(参考)生物学的なハザードに関するリスク分析プロセスの指針  

70


T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)  目次

(2)

ページ

附属書 J(参考)安全に関する情報及び残留リスクについての情報  

72

参考文献  

74


T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

(3)

まえがき

この規格は,工業標準化法第 14 条によって準用する第 12 条第 1 項の規定に基づき,日本医療機器産業

連合会(JFMDA)から工業標準原案を具して日本工業規格を改正すべきとの申出があり,日本工業標準調

査会の審議を経て,厚生労働大臣及び経済産業大臣が改正した日本工業規格である。

これによって,JIS T 14971:2003 は改正され,この規格に置き換えられた。

この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。

この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意

を喚起する。厚生労働大臣,経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の

特許出願及び実用新案権に関わる確認について,責任はもたない。


日本工業規格

JIS

 T

14971

:2012

(ISO 14971

:2007

)

医療機器−リスクマネジメントの医療機器への適用

Medical devices-Application of risk management to medical devices

序文 

この規格は,2007 年に第 2 版として発行された ISO 14971 を基に,技術的内容及び構成を変更すること

なく作成した日本工業規格である。

なお,この規格で点線の下線を施してある参考事項は,対応国際規格にはない事項である。

適用範囲 

この規格は,製造業者が体外診断用医療機器を含む医療機器に関連するハザードを特定し,リスクの推

定及び評価を行い,これらのリスクをコントロールし,そのコントロールの有効性を監視する手順につい

て規定する。

この規格の要求事項は,医療機器のライフサイクルのいずれの段階にも適用することができる。

この規格は,臨床的判断には適用しない。

この規格は,受容可能なリスクレベルを規定しない。

この規格は,製造業者に正式な品質マネジメントシステムをもつことを要求しない。しかし,リスクマ

ネジメントは,品質マネジメントシステムの不可欠な一部となる。

注記  この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。

ISO 14971:2007

,Medical devices−Application of risk management to medical devices(IDT)

なお,対応の程度を表す記号“IDT”は,ISO/IEC Guide 21-1 に基づき,

“一致している”こ

とを示す。

なお,平成 27 年 2 月 28 日まで JIS T 14971:2003 は適用することができる。

用語及び定義 

この規格で用いる主な用語及び定義は,次による。

2.1

附属文書(accompanying document)

医療機器に附属し,かつ,医療機器の設置,使用及び保守に責任をもつ者,使用者又は操作者に対する

情報で,特に安全に関する情報を記載した文書。

注記  IEC 60601-1:2005  定義 3.4 に基づく。

2.2

危害(harm)

人の受ける身体的傷害若しくは健康障害,又は財産若しくは環境の受ける害。

ISO/IEC Guide 51:1999  定義 3.3

2.3


2

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

ハザード(hazard)

危害の潜在的な源。

ISO/IEC Guide 51:1999  定義 3.5

2.4

危険状態(hazardous situation)

人,財産又は環境が,一つ又は複数のハザードにさらされる状況。

ISO/IEC Guide 51:1999  定義 3.6

注記  ハザードと危険状態の関係については,附属書 を参照する。

2.5

意図する使用(意図する目的)(intended use/intended purpose)

製造業者が供給する仕様,説明及び情報に従った製品,プロセス又はサービスの使用。

2.6

体外診断用医療機器(in vitro diagnostic medical device/IVD medical device)

診断,監視又は生体適合性の目的で情報を提供するため,人体から採取した検体の検査に使用すること

を製造業者が意図した医療機器。

例  試薬,キャリブレータ(標準物質),検体採取及び保存機器,対照物質及び関連する器具・器械又

は品目。

注記 1  単独使用か,又は附属品若しくはその他の医療機器との組合せ使用かは問わない。

注記 2  ISO 18113-1  定義 3.27 に基づく。

注記 3  例に示すように体外診断用医療機器には薬と機器の両方を含む。

2.7

ライフサイクル(life-cycle)

医療機器の初期構想から最終的な使用停止及び廃棄に至るまでの全ての段階。

2.8

製造業者(manufacturer)

医療機器の市場出荷又は使用開始の前に,医療機器の設計,製造,こん(梱)包若しくはラベリング又

はシステムの組合せ若しくは変更に責任を負う個人又は法人。その業務をその個人若しくは法人又は代理

を受けた第三者が行うか否かを問わない。

注記 1  国又は地域の法規制で製造業者を定義している場合があることに注意する。

注記 2  ラベリングの定義は,JIS Q 13485:2005  定義 3.6 を参照する。

2.9

医療機器(medical device)

あらゆる計器,器械,用具,機械,器具,植込み用具,体外診断薬,キャリブレータ,ソフトウェア,

材料又はその他の同類のもの若しくは関連する物質であって,単独使用か組合せ使用かを問わず,製造業

者が人体への使用を意図し,その使用目的が次の一つ以上であり,

−  疾病の診断,予防,監視,治療又は緩和

−  負傷の診断,監視,治療,緩和又は補助

−  解剖学的又は生理学的なプロセスの検査,代替又は修復

−  生命支援又は維持

−  受胎調整


3

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  医療機器の殺菌

−  人体から採取した検体の体外試験法による医療目的のための情報提供

薬学,免疫学,又は新陳代謝の手段によって体内又は体表において意図したその主機能を達成すること

はないが,それらの手段によって機能の実現を補助するものである。

JIS Q 13485:2005  定義 3.7

注記 1  医療機器規制国際整合化会議[Global Harmonization Task Force (GHTF)]によって定義された。

参考文献[38]を参照する。

注記 2  国又は地域によって医療機器とみなされる場合もあるが,整合した取組みがまだ存在しない

製品として次がある。

−  身体障害又は障害者のための補助器具

−  動物の疾病及び傷害の治療又は診断のための機器

−  医療機器の附属品(

注記 参照)

−  消毒剤

−  動物及び人の組織に由来する機器で,上記の定義を満たす場合もあるが,異なる法規制

の対象となる機器

注記 3  医療機器の意図する目的を達成するために,その医療機器と組み合わせて使用することを,

製造業者が指定した附属品は,この規格の対象とする。

2.10

客観的証拠(objective evidence)

あるものの存在又は真実を裏付けるデータ。

JIS Q 9000:2006  定義 3.8.1

2.11

製造後(post-production)

医療機器のライフサイクルのうち,設計を完了し,製造した後の段階。

例  輸送,保管,据付,製品使用,保守,修理,製品変更,使用停止及び廃棄

2.12

手順(procedure)

活動又はプロセスを実行するために規定された方法。

JIS Q 9000:2006  定義 3.4.5

2.13

プロセス(process)

インプットをアウトプットに変換する,相互に関連する又は相互に作用する一連の活動。

JIS Q 9000:2006  定義 3.4.1

2.14

記録(record)

達成した結果を記述した,又は実施した活動の証拠を提供する文書。

JIS Q 9000:2006  定義 3.7.6

2.15

残留リスク(residual risk)

リスクコントロール手段を講じた後にも残るリスク。


4

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

注記 1  ISO/IEC Guide 51:1999,定義 3.9 に基づく。

注記 2  ISO/IEC Guide 51:1999,定義 3.9 は,“リスクコントロール手段”ではなく“防護手段”とい

う用語を用いている。しかしこの規格では,6.2 に規定するとおり,

“防護手段”はリスクを

コントロールするための選択肢の一つである。

2.16

リスク(risk)

危害の発生確率とその危害の重大さとの組合せ。

ISO/IEC Guide 51:1999  定義 3.2

2.17

リスク分析(risk analysis)

利用可能な情報を体系的に用いてハザードを特定し,リスクを推定すること。

ISO/IEC Guide 51:1999  定義 3.10

注記  リスク分析は,危険状態及び危害を生じる可能性のある様々な一連の事象の検討を含む。附属

書 を参照する。

2.18

リスクアセスメント(risk assessment)

リスク分析及びリスク評価からなる全てのプロセス。

ISO/IEC Guide 51:1999  定義 3.12

2.19

リスクコントロール(risk control)

規定したレベルまでリスクを低減するか又はそのレベルでリスクを維持するという決定に到達し,かつ,

そのための手段を実施するプロセス。

2.20

リスク推定(risk estimation)

危害の発生確率とその危害の重大さに対して重み付けをするために用いるプロセス。

2.21

リスク評価(risk evaluation)

判断基準に照らして推定したリスクが受容できるかを判断するプロセス。

2.22

リスクマネジメント(risk management)

リスクの分析,評価,コントロール及び監視に対して,管理方針,手順及び実施を体系的に適用するこ

と。

2.23

リスクマネジメントファイル(risk management file)

リスクマネジメントによって作成した記録及び他の文書のまとまり。

2.24

安全(safety)

受容できないリスクがないこと。

ISO/IEC Guide 51:1999  定義 3.1

2.25


5

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

重大さ(severity)

ハザードから生じる可能性がある結果(危害)に対する尺度。

2.26

トップマネジメント(top management)

最高位で製造業者(組織)を指揮し,管理する個人又はグループ。

注記  JIS Q 9000:2006  定義 3.2.7 に基づく。

2.27

誤使用(use error)

製造業者が意図する又は使用者が予期する医療機器の動き(反応など)と異なる結果を招く行為又は行

為の省略。

注記 1  誤使用には,うっかりミス(slips,不注意による間違い),過失(lapses,記憶に起因する間

違い)

,誤り(mistakes,手順の無視,間違った知識,無知などに基づく間違い)を含む。

注記 2  IEC 62366:2007  Annex B 及び D.1.3 を参照する。

注記 3  予期しない患者の物理的な反応は,誤使用とはみなさない。

IEC 62366:2007  定義 3.21

2.28

検証(verification)

規定した要求事項を満たしたことを客観的証拠の提供によって確認すること。

注記 1  “検証された”という用語は,対応する状態を示す場合に用いる。

注記 2  確認作業の例には次がある。

−  別の方法での計算の実施

−  新たな設計仕様と実証済みの類似設計仕様との比較

−  試験及び実証

−  発行前の文書のレビュー

JIS Q 9000:2006  定義 3.8.4

リスクマネジメントの一般要求事項 

3.1 

リスクマネジメントプロセス 

製造業者は,ライフサイクルを通して医療機器の関連するハザードを特定し,関連するリスクの推定及

び評価を行い,これらのリスクをコントロールし,そのコントロールの有効性を監視する一連のプロセス

を確立し,維持する。このプロセスは,次の全ての要素を含め文書化する。

−  リスク分析

−  リスク評価

−  リスクコントロール

−  製造及び製造後の情報

文書化した製品の設計・開発のプロセスがある場合には,JIS Q 13485:2005 [8]の 7.に記載されたように,

リスクマネジメントプロセスの該当する部分を取り入れる。

注記 1  複雑な医療機器及びシステムにおいて,特に早い段階でのハザード及び危険状態の特定を可

能にするために文書化した品質マネジメントシステムプロセスは,安全性を確保するために

体系的に使用してもよい。


6

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

注記 2  リスクマネジメントプロセスの図表の例を図 に示す。定義したライフサイクル段階によっ

てリスクマネジメントの各要素の重要度は変化する。リスクマネジメント活動は,医療機器

によって必要な場合繰返し又は分割した複数段階で実施してもよい。

附属書 に,リスクマ

ネジメントプロセスの各段階の更に詳細な概要を示す。

適合性は,適切な文書の調査によって確認する。

3.2 

経営者の責任 

トップマネジメントがリスクマネジメントプロセスを遂行する責任として,次を確保する。

−  十分な経営資源

−  リスクマネジメントの資格をもつ要員(3.3 参照)

トップマネジメントは,次を実施する。

−  リスクの受容可能性についての判断基準を決定するための方針を明確化し,文書化する。判断基準が

適用できる国又は地域の規制及び関連のある国際規格に基づいており,かつ,一般的に受け入れられ

ている最新の状況及び既知である利害関係者の懸念など,利用可能な情報を考慮に入れていることを,

この方針によって確実にする。

−  リスクマネジメントプロセスの継続的な有効性を保証するため,あらかじめ計画した間隔で,リスク

マネジメントプロセスの適切性をレビューし,あらゆる決定及び講じた措置を文書化する。製造業者

が正式な品質マネジメントシステムをもつ場合には,このレビューを品質マネジメントシステムのレ

ビューの一環としてもよい。

注記  上記による文書は,製造業者の品質マネジメントシステムによって作成した文書の中に含めて

もよい。また,これらの文書は,リスクマネジメントファイルにおいて参照することができる。

適合性は,適切な文書の調査によって確認する。

3.3 

要員の資格認定 

リスクマネジメント作業を実施する人は,割り当てられた作業に適切な知識及び経験をもたなければな

らない。その知識及び経験には,必要に応じて,特定の医療機器(又は類似の医療機器)及びその使用,

関連技術又はリスクマネジメント技術についての知識及び経験を含める。適切な資格認定についての記録

を維持する。

注記  リスクマネジメント作業は,幾つかの部門の代表がそれぞれ専門知識を提供することによって

実施することができる。

適合性は,適切な記録の調査によって確認する。

3.4 

リスクマネジメント計画 

リスクマネジメント活動を計画する。検討対象となる特定の医療機器について,製造業者は,リスクマ

ネジメントプロセスに従ってリスクマネジメント計画を確立し,

文書化する。

リスクマネジメント計画は,

リスクマネジメントファイルの一部とする。

この計画には,少なくとも次を含めなければならない。

a)

計画したリスクマネジメント活動の範囲,医療機器の特定及び説明,並びにライフサイクルの各段階

で適用する計画の要素

b)

責任及び権限の割当て

c)

リスクマネジメント活動のレビューについての要求事項


7

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

d)

リスクの受容可能性についての判断基準(受容できるリスクを判断するための製造業者の方針に基づ

くもので,危害の発生確率が推定不可能な場合にはリスクを受容するための判断基準も含む。

e)

検証の活動

f)

関連のある製造及び製造後情報の収集並びにレビューに関連する活動

注記 1  リスクマネジメント計画を策定するときの指針については,附属書 を参照する。

注記 2  必ずしも全ての部分の計画を同時に作成する必要はない。計画又はその一部を継続して策定

することができる。

注記 3  リスクの受容可能性についての判断基準は,リスクマネジメントプロセスを本質的に有効に

するために極めて重要である。製造業者は,各々のリスクマネジメント計画に対して,適切

なリスクの受容可能性判断基準を選択することが望ましい。

リスクの受容可能性についての判断基準として,次を含めてもよい。

図 D.4 及び図 D.5 の危害の発生確率と危害の重大さとのマトリクスに示すように,どの組合せが受容

できるか,又は受容できないかを示す。

−  さらにマトリクスを細分化(例えば,

“無視できる”

“リスクの最小化によって受容できる”

)して,

リスクを現実的にできるだけ低くしてから受容できるかできないかを決定する(D.8 参照)

上記のいずれを選択しても,リスクの受容可能性についての判断基準を決定するための製造業者の方針

によって決定し,その結果,適切な国家又は地方の規制及び関連国際規格に基づいていて,一般に受け入

れられた最先端で,かつ,知られている利害関係者に関係のある入手可能な情報を考慮に入れることが望

ましい(3.2 参照)

。そのような判断基準を確立するときの指針として D.4 が参考になる。

医療機器のライフサイクルにおいて計画を変更した場合は,リスクマネジメントファイルにその変更を

記録する。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

3.5 

リスクマネジメントファイル 

対象とする特定の医療機器について,製造業者はリスクマネジメントファイルを作成し,維持する。こ

の規格に含む他の箇条の要求事項に加え,

リスクマネジメントファイルは,

特定した各ハザードについて,

次の活動に対してのトレーサビリティをもたなければならない。

−  リスク分析

−  リスク評価

−  リスクコントロール手段の実施及び検証

−  あらゆる残留リスクの受容可能性の評価

注記 1  リスクマネジメントファイルを構成する記録及び他の文書は,例えば,製造業者の品質マネ

ジメントシステムが要求する他の文書及びファイルの一部とすることができる。リスクマネ

ジメントファイルには,必ずしも全ての記録及び他の文書を含める必要はない。ただし,少

なくとも,要求する全ての文書に対する参照又は指定先を含めることが望ましい。製造業者

は,リスクマネジメントファイルで参照した情報を適時集めて整理できるようにしておくこ

とが望ましい。


8

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

注記 2  リスクマネジメントファイルは,あらゆる形式又はあらゆる種類の媒体で作成することがで

きる。

図 1−リスクマネジメントプロセスの流れ

リスク分析 

4.1 

リスク分析プロセス 

4.2

4.4 に規定したリスク分析を医療機器に対し実施する。計画したリスク分析の実施及びその分析結

果は,リスクマネジメントファイルに記録する。

注記 1  類似の医療機器についてのリスク分析又はその他の関連する情報を用いることができる場合

リスク分析

−  意図する使用及び医療機器の安全に関する特質

の明確化

−  ハザードの特定 
−  個々の危険状態に対するリスク推定

リスク評価

リスクコントロール

−  リスクコントロール手段の選択

−  リスクコントロール手段の実施 
−  残留リスクの評価 
−  リスク/効用  分析

−  リスクコントロール手段から生じるリスク 
−  リスクコントロールの完了

残留リスクの全体的な受容可能性の評価

リスクマネジメント報告書

製造及び製造後の情報

リスクマネジメント

リスクアセスメント


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

は,そのリスク分析又は情報を新規の分析の出発点として使用してもよい。関連の程度は,

医療機器間の差異及びそれらが新しいハザードを生じるか,又は出力,特性,性能若しくは

効果に対して大きな違いをもたらすかどうかに依存する。既存の分析をどの程度使用するか

は,危険状態を発生させるような変更の影響を体系的に評価することが望ましい。

注記 2  リスク分析手法の例を附属書 に示す。

注記 3  体外診断用医療機器のリスク分析手法についての追加指針を附属書 に示す。

注記 4  毒性学的なハザードのためのリスク分析手法についての追加指針を附属書 に示す。

リスク分析の実施及びその結果の文書には,4.24.4 で要求した記録に加え,少なくとも次を含めなけ

ればならない。

a)

リスク分析を行った医療機器の説明及び特定

b)

リスク分析を行った人及び組織の特定

c)

リスク分析の適用範囲及び行った日付

注記 5  リスク分析の適用範囲は,例えば,製造業者が全くか又はほとんど経験がない新しい医療機

器の開発においては非常に広くなる。製造業者が既存の医療機器に関する変更の影響の分析

情報を多くもつ場合は,限定することができる。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

4.2 

意図する使用及び医療機器の安全に関する特質の明確化 

分析対象とする個別の医療機器について,製造業者は,意図する使用及び合理的に予見できる誤った使

用を文書化する。製造業者は,医療機器の安全に影響する定性的及び定量的特質,並びに該当する場合に

は,それらを決めた限度値を特定し,文書化する。この文書は,リスクマネジメントファイルとして維持

する。

注記 1  ここで誤った使用とは,正しくない又は不適切な医療機器の使用を意味している。

注記 2  附属書 は,使用に関連する事項など,医療機器の安全に影響する特質を特定するときの有

効な指針として役立つ質問事項を含む。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

4.3 

ハザードの特定 

製造業者は,正常状態及び故障状態の両方における医療機器についての既知及び予見可能なハザードを

まとめる。

この文書は,リスクマネジメントファイルの一部として維持する。

注記  E.2 及び H.2.4 に記載しているハザードの例は,製造業者がハザードの特定を開始するための指

針として利用できる。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

4.4 

個々の危険状態に対するリスクの推定 

危険状態を起こすような合理的に予見できる一連の事象又は事象の組合せを検討し,その結果起こる危

険状態を記録する。

注記 1  過去に認識されなかった危険状態を特定するため,その状況を扱う体系的な手法を用いるこ

とができる(

附属書 参照)。

注記 2  危険状態の例を E.4 及び H.2.4.5 に示す。


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T 14971

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注記 3  うっかりミス(slips),過失(lapses)及び誤り(mistakes)によっても危険状態は引き起こさ

れる。

各々の危険状態に対して,利用可能な情報又はデータを用いて関連するリスクを推定する。危害の発生

確率が推定できない危険状態に対しては,リスク評価及びリスクコントロールに用いるために,起こる可

能性のある結果をリストする。これらの活動の結果は,リスクマネジメントファイルに記録する。

危害の発生確率又は危害の重大さの定量的又は定性的な分類に用いた手法は,リスクマネジメントファ

イルに記録する。

注記 4  リスク推定には,発生確率及びその結果の分析を含む。適用分野によっては,リスク推定プ

ロセスのある特定の要素だけを考慮すればよい。例えば,ある場合にはハザード特定及びそ

の結果の初期分析だけでよいであろう。D.3 も参照する。

注記 5  リスク推定は,定量的又は定性的に行ってもよい。系統的な故障の結果生じるリスクも含め,

リスク推定の方法を

附属書 に示す。体外診断用医療機器のためのリスク推定に有益な情報

附属書 に示す。

注記 6  リスク推定のための情報又はデータは,例えば,次によって得ることができる。

a)

発行済みの規格

b)

科学的データ

c)

公表された事故報告を含め,既に使用している類似の医療機器の市場データ

d)

標準的な使用者によるユーザビリティの評価

e)

臨床での情報(使用方法,評価の結果,経験など)

f)

適切な調査結果

g)

専門家の意見

h)

外部機関による品質調査

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

リスク評価 

製造業者は,特定した各危険状態について,リスクマネジメント計画で定義した判断基準を用い,リス

ク低減が必要かどうかを決定する。リスク低減が必要でない場合は,この危険状態には,6.26.6 は適用

しない(すなわち,6.7 に進む。

。このリスク評価の結果は,リスクマネジメントファイルに記録する。

注記 1  リスクの受容可能性を判断するための指針を D.4 に示す。

注記 2  医療機器の設計基準の一部として関連のある規格を適用することは,リスクコントロール活

動の一環となり,6.36.6 に適合する場合もある。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

リスクコントロール 

6.1 

リスクの低減 

リスクの低減が必要な場合には,6.26.7 に規定したリスクコントロール活動を行う。

6.2 

リスクコントロール手段の選択 

製造業者は,

リスクを受容可能なレベルまで低減するための適切なリスクコントロール手段を特定する。

製造業者は,次の優先順位に従って,一つ以上のリスクコントロール手段を用いる。


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T 14971

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a)

設計による本質的な安全

b)

医療機器自体又は製造工程における防護手段

c)

安全に関する情報

注記 1  手段 b)又は c)を実施する場合は,リスクは受容可能なレベルにあると判断する前に,合理的

に実施可能なリスクコントロール手段であり,かつ,リスク低減を最大にする手段を選択す

るというプロセスを適用することができる。

注記 2  リスクコントロール手段は,危害の重大さ若しくは危害の発生確率又はその両者を減少させ

ることができる。

注記 3  医療機器についての規格には,医療機器の本質的な安全,防護手段及び安全に関する情報を

規定した(安全)規格に加えて,リスクマネジメントプロセスの要素を取り込んだ規格(例

えば,電磁両立性,ユーザビリティ,生体適合性など)がある。リスクコントロール手段の

選択の一部として,関連のある規格を適用することが望ましい。

注記 4  危害の発生確率が推定できないリスクについては,D.3.2.3 を参照する。

注記 5  安全に関する情報の指針を附属書 に示す。

選択したリスクコントロール手段は,リスクマネジメントファイルに記録する。

リスクコントロール手段を選択するときに,必要とするリスク低減が現実的でないと判断した場合は,

製造業者は,残留リスクについてリスク/効用  分析を実施する(6.5 に進む)

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

6.3 

リスクコントロール手段の実施 

製造業者は,6.2 で選択したリスクコントロール手段を実施する。

各リスクコントロール手段の実施を検証し,その結果をリスクマネジメントファイルに記録する。

リスクコントロール手段の有効性を検証し,その結果をリスクマネジメントファイルに記録する。

注記  有効性の検証に,妥当性の確認活動を含めることができる。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

6.4 

残留リスクの評価 

リスクコントロール手段の実施後に残る全ての残留リスクは,リスクマネジメント計画で定義した判断

基準を用いて評価する。この評価の結果は,リスクマネジメントファイルに記録する。

残留リスクがこれらの判断基準に適合しない場合は,

更にリスクコントロール手段を適用する

6.2 参照)

残留リスクを受容できると判断した場合,開示する残留リスク,及び附属文書に記載する必要がある情

報を製造業者は決定する。

注記  残留リスクをどのように開示するかの指針を附属書 に示す。

適合性は,リスクマネジメントファイル及び附属文書の調査によって確認する。

6.5 

リスク/効用  分析 

リスクマネジメント計画で確立した判断基準に照らし残留リスクが受容できないと判断し,かつ,それ

以上のリスクコントロールも現実的ではない場合,製造業者は,意図する使用の医学的効用が残留リスク

を上回るか否かを判断するためにデータ及び文献を収集し,レビューしてもよい。この証拠から,医学的

効用が残留リスクを上回るという結論が裏付けられない場合は,そのリスクは依然として受容できない。

医学的効用が残留リスクを上回る場合は,6.6 に進む。


12

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

医学的効用が上回ることが実証されたリスクについて,製造業者は,残留リスクを開示するために必要

な安全性に関する情報はどれかを決定する。

この評価の結果は,リスクマネジメントファイルに記録する。

注記  D.6 も参照する。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

6.6 

リスクコントロール手段によって発生したリスク 

採用したリスクコントロール手段の結果として,次の点についてレビューする。

a)

新たなハザード又は危険状態が発生しないか

b)

既に特定した危険状態について推定したリスクが,変わらないかどうか

新たに発生,又は増加した全てのリスクには,4.46.5 を適用する。

このレビューの結果は,リスクマネジメントファイルに記録する。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

6.7 

リスクコントロールの完了 

製造業者は,特定した全ての危険状態から発生するリスクを検討したことを確認する。この活動の結果

は,リスクマネジメントファイルに記録する。

適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。

残留リスクの全体的な受容可能性の評価 

全てのリスクコントロール手段が完了し,かつ,検証した後,製造業者は,医療機器の残留リスクを全

体的に見渡して受容できるかどうかをリスクマネジメント計画で確立した判断基準を用いて判定する。

注記 1  全体的な残留リスク評価の指針については,D.7 を参照。

リスクマネジメント計画で確立した判断基準を用いて全体的な残留リスクを受容できないと判断した場

合は,製造業者は,意図する使用の医学的効用が全体的な残留リスクを上回るかどうかを判断するために

データ及び文献を収集し,レビューしてもよい。

この証拠から,医学的効用が全体的な残留リスクを上回るという結論が裏付けられる場合は,その全体

的な残留リスクは受容可能と判断できる。そうでない場合は,全体的な残留リスクは受容できないものと

して残る。

全体的な残留リスクを受容できると判断した場合,製造業者は,全体的な残留リスクを開示するために

附属文書に記載する必要のある情報を決定する。

注記 2  残留リスクをどのように開示するかの指針を,附属書 に示す。

全体的な残留リスクの評価結果は,リスクマネジメントファイルに記録する。

適合性は,リスクマネジメントファイル及び附属文書の調査によって確認する。

リスクマネジメント報告書 

製造業者は,医療機器の市場への出荷に先立ってリスクマネジメントプロセスをレビューする。このレ

ビューでは少なくとも次を確認する。

−  リスクマネジメント計画が適切に実施されている。

−  全体的な残留リスクが受容可能である。

−  関連する製造及び製造後情報を入手する適切な方法が定められている。

このレビューの結果は,リスクマネジメント報告書に記録し,リスクマネジメントファイルに含めなけ


13

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

ればならない。

リスクマネジメント計画でレビューの責任者に適切な権限をもつ者を選ぶことが望ましい[3.4 b)参照]

適合性は,リスクマネジメントファイルを調査して確認する。

製造及び製造後情報 

製造業者は,製造及び製造後の段階において,該当医療機器又は類似機器についての情報を収集し,レ

ビューする体系的手順を確立し,文書化し,維持する。

製造業者が医療機器の情報を収集し,レビューする手順を構築する場合には,特に次のいずれかを考慮

することが望ましい。

a)

医療機器の操作者,使用者,又は据付,使用及び保守の責任者からの情報を収集し,処理する仕組み

b)

新規又は改正された規格

市販されている類似の医療機器についての利用可能な情報についても,収集し,レビューすることが望

ましい。

この情報について,安全との関連の有無を評価する。特に次について評価する。

−  以前に認識されていなかったハザード又は危険状態はないか,

−  危険状態によって発生すると推定されるリスクが,もはや受容できないかどうか。

上の条件のいずれかに該当する場合には,次を行う。

1)

既に実施したリスクマネジメント活動への影響を評価し,リスクマネジメントプロセスのインプッ

トとしてフィードバックする。

2)

該当する医療機器のリスクマネジメントファイルをレビューする。残留リスク又はその受容可能性

が変わった場合には,以前に実施したリスクコントロール手段への影響を評価する。

評価結果をリスクマネジメントファイルに記録する。

注記 1  製造後監視の幾つかの事項は,国の規制対象となる場合があり,追加措置,例えば,製造後

の今後の評価について要求されることもある。

注記 2  JIS Q 13485:2005 [8],8.2 を参照。

適合性は,リスクマネジメントファイル及び適切な文書を調査して確認する。


14

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 A

(参考)

指針及び根拠

A.1 

一般 

この JIS T 14971 の基となった ISO 14971:2007 の作成では次のような経緯があった。

ISO/TC 210-IEC/SC 

62A JWG1

(Joint Working Group 1)

,Application of risk management to medical devices は,この規格の第 1 版

に盛り込んだ要求事項を解説するために,この附属書を作成した。第 2 版の作成に伴う変更事項を説明す

るためにこの解説を改正した。この規格の使用経験を基に今後改正するに当たって,製造業者,規制機関

及び医療従事者にとってより有用な規格とするためにこの附属書を使用することができる。

規制機関において医療機器にリスクマネジメントを適用することが望ましいとの認識が高まってきたの

で,リスクマネジメントの医療機器への適用のための規格は,製造業者にとって更に重要になってきた。

医療機器のためのリスクマネジメント規格は存在していなかったので,この需要とのギャップを埋めるた

めに,ISO/TC 210 WG4(Working Group 4)が編成され,ISO 14971 の規格の作成に着手した。ほぼ同時期

の IEC 60601-1 [23]第 3 版の改正に当たり,リスクマネジメントを取り入れることを計画していた。リス

クマネジメントには,独立した活動が必要であると認識し,IEC/SC 62A に WG15 を編成した。IEC 及び

ISO

は,これらの二つの WG の作業が重複していることを認識し,双方の WG のメンバーを統合し,リス

クマネジメントの JWG1 を編成した。

この共同作業の結果,ISO 及び IEC の両方のロゴが併記された ISO 14971 が発行された。単独ロゴ入り

の規格は,ISO 又は IEC が各自の対象とする国際規格であることを示す。この両方のロゴは,ISO 及び IEC

の各国委員会によって共同で作成された規格であることを示す。

リスクマネジメントの国際規格の作成開始に当たって,医療機器のリスクと効用のバランスを取ること

はもちろん,リスク評価のプロセスなどをリスクマネジメントの不可欠な特徴と位置付けることにした。

製造業者,規制機関及び医療従事者は,医療機器の“絶対安全”の達成は不可能であるということを認識

してきた。さらに製品の安全規格において,医療機器及びそれらの臨床的適用の多様化に起因するリスク

を全て明らかにすることはできない。これら事実の認識,及び医療機器のライフサイクルにおけるリスク

を管理する必要から ISO 14971 を作成することに至った。

当初の計画は,規格を幾つかの部分に分けて作成し,各部分がリスクマネジメントの特定の要素を取り

扱うというものであった。リスク分析を対象とする ISO 14971-1 は,全体的なリスクマネジメント規格の

第一部として意図された。その後,リスクマネジメントの全てを含んだ一つの規格を作成する方が望まし

いと判断された。この主な理由は,世界中の多くの規制制度によってリスクマネジメントの全てが義務付

けられるのは明らかであったからである。そのために,リスク分析(ISO 14971-1)の規格を維持すること

は,もはや必要でも有益でもなかった。幾つかの規格に分割するよりも,一つのリスクマネジメント規格

を作成することで,リスクマネジメントの各要素に一貫性をもたせることができる。

リスクマネジメント適用のための指針を追加する必要性も考慮して,

ISO 14971

の第 2 版が作成された。

本文での変更は,製造後の監視をリスクマネジメント計画に含める要求事項の追加,トレーサビリティ

要求をリスクマネジメント報告書から削除するなど,軽微なものである。ハザードと危険状態との関係に

ついて,新しい解説が

附属書 E(以前の附属書 D)として作られた。この解説での考え方を基に,この規

格でのハザード及び危険状態の用語の使い方を見直した。次の文書は,ISO 14971 の箇条及び細分箇条に


15

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

関する追加の情報である。

A.2 

個別の箇条及び細分箇条の要求事項の解説 

A.2.1 

適用範囲 

この JIS の基である ISO 14971 の序文に記載しているように,全ての医療機器の設計及び製造に適用で

きるリスクマネジメント規格が必要とされている。

体外診断用医療機器については異なる規制があるため,

この規格から除外されるという誤解を生じないように適用範囲において言及している。

製品のライフサイクルのあらゆる場面でリスクは発生する可能性がある。ライフサイクルのある時点で

明らかになるリスクは,それとは異なるライフサイクルの時点での活動によってリスクの対策が可能であ

る。この理由から,この規格は全てのライフサイクルをカバーする必要がある。この規格は,医療機器の

初期構想から最終的な使用停止及び廃棄に至るまで,リスクマネジメントの原則をどのように適用するか

を製造業者に示している。

この規格の適用範囲には,医療機器の使用に関する判断は含まない。個別の臨床手技の状況における医

療機器の使用の決定は,期待される医学的効用が残留リスクを上回るか,又は他の手技に伴うリスクと期

待される効用との収支(つりあい)を上回る必要がある。このような決定には,臨床手技又は使用状況に

伴うリスク及び医学的効用と同様に,意図する使用,性能及び医療機器に伴うリスクを考慮することが望

ましい。このような判断は,個々の患者の健康状態及び患者自らの意見を知ることのできる資格をもった

医療専門家によってだけ行うことができるであろう。

リスクの受容可能なレベルをどう決めるかについて重要な議論がなされたが,この規格は受容レベルを

規定していない。受容可能なリスクの普遍的なレベルを規定することは適切でない。この判断は,次に基

づいている。

−  この規格の対象となる医療機器及び状況(使用される状態,ライフサイクルなど)は広範囲にわたっ

ており,一つのレベルでは対応できない。

−  地域の法律,慣習,価値観及びリスクの認識は,世界各国の独自の文化又は地域性に適したリスクの

受容性を決定するのに適切である。

医療機器の製造業者に対する品質マネジメントシステムは,全ての国において要求されているわけでは

ないので,この規格は品質マネジメントシステムを要求していない。しかし,品質マネジメントシステム

はリスクマネジメントを適格に行うのに極めて有益である。そのため,ほとんどの医療機器の製造業者が

品質マネジメントシステムを導入しているので,製造業者が採用している品質マネジメントシステムに容

易に組込むことができるようこの規格は構成している。

A.2.2 

用語及び定義 

多数の新しいなじみのない用語を作ることを避けるために,既存の規格及び文献におけるリスクマネジ

メント情報を基にして,この規格を作成した。可能な限り既存の定義を用いた。定義の主な情報源は,次

に基づいている。

−  ISO/IEC Guide 51:1999,Safety aspects−Guidelines for their inclusion in standards

−  JIS Q 9000:2006  品質マネジメントシステム−基本及び用語

−  JIS Q 13485:2005  医療機器−品質マネジメントシステム−規制目的のための要求事項

これらの定義の中には,この規格とは意味が若干異なるものがある。例えば,JWG1 は,

“危害(harm)

2.2)の定義に過度の心理的ストレス又は予想外の妊娠を“人の受ける健康障害”の一部として含めると

の意見もあったが,次の理由から定義の変更はしなかった。世界中の多くの国々及び地域において,明示


16

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

的か暗示的かにかかわらず,リスクマネジメントを規制に使うと予想されていた。そのために,規制の観

点から広く受け入れられる定義を用いるようにした。例えば,

“製造業者(manufacturer)

2.8)という用

語は,EU の医療機器指令に基づくものであるが,米国で使用されている定義と整合が取れている。

“医療

機器(medical device)

2.9)という用語は,Global Harmonization Task Force (GHTF)で規定した定義を採用

している。参考文献の[38]を参照する。

米国で使用されている“意図する使用(intended use)

2.5)は,欧州連合の用語“意図する目的(intended

purpose

”と整合が取れるような定義にした。これらの用語の定義は,本質的に同一である。この定義は,

製造業者が医療機器の意図する使用を検討する上で,

意図する使用者を考慮に入れることを示唆している。

次の七つの用語は,他の規格の定義に基づくものではない。これらは“ライフサイクル(life-cycle)

2.7

“製造後(post-production)”(2.11),“リスクコントロール(risk control)”(2.19),“リスク評価(risk

evaluation

2.21)“リスク推定(risk estimation)

2.20

“リスクマネジメント(risk management)

2.22

及び“リスクマネジメントファイル(risk management file)

2.23)である。この規格において使用する“ラ

イフサイクル(life-cycle)

”の用語は,医療機器のあらゆる側面を含んでいることを明らかにするように定

義した。

“製造後(post-production)

”の定義は,医療機器のライフサイクル全体にわたってリスクマネジメ

ントが重要であることを強調するために追加された。“リスクコントロール(risk control)”の定義は,

ISO/IEC Guide 51 [2]

に記載されている“リスク分析(risk analysis)

”の定義と矛盾しないように規定した。

第 1 版では,リスク評価の定義に“社会の現在の価値観(current values of society)”という表現を使用した。

しかしこの版では,二つの理由からこの表現を削除した。その一つは用語の定義に要求事項を含めないよ

うにするためで,二つ目は,

“社会の現在の価値観(current values of society)

”が曖昧な表現だからである。

この表現を定義から削除しても支障はない。この概念が既に ISO 14971 の序文に記載されていること,リ

スクの受容可能性に関する判断基準を決定するための方針に対して要求事項を追加したこと(3.2),及び

リスクの受容可能性に関する指針(D.4)があるからである。

“リスクマネジメント”の定義は,体系的手

法の適用及びその運営の監視の必要性を強調するためである。

“リスクマネジメントファイル”の概念は,

もともと IEC 60601-1-4 [24]が定義したものであるが,それは品質記録を示すものであって ISO 14971 への

適合として必要とはいえないのでその定義を変更した。

“トップマネジメント(top management)

2.26)の定義は,JIS Q 9000:2006 [4]から引用した。この定

義は,ある組織において最高レベルに位置する個人又はグループに対して適用する。

A.2.3 

リスクマネジメントの一般要求事項 

A.2.3.1 

リスクマネジメントプロセス 

3.1

は,

製造業者に医療機器の設計の一部としてリスクマネジメントプロセスを確立することを要求して

いる。これは,製造業者がプロセスに必要な要素を体系的に取り入れることを確実にするために要求して

いる。リスク分析,リスク評価及びリスクコントロールは,リスクマネジメントの重要な要素であること

は広く認識されている。これらの要素に加えてこの規格は,リスクマネジメントプロセスが医療機器の設

計及び製造(該当する滅菌,包装及びラベリングを含む)で終わりではなく,製造後の段階まで継続する

ことを強調している。したがって,製造後の情報の収集は,リスクマネジメントプロセスの一部として要

求される。さらに製造業者が品質マネジメントシステムを採用する場合は,リスクマネジメントプロセス

は,品質マネジメントシステムに完全に統合されることが望ましい。

リスクマネジメント活動は,適用する医療機器ごとに大きく異なるが,リスクマネジメントプロセスに

は基本的な要素があり,この細分箇条では,これらの要素について言及している。また,医療機器へのリ

スクマネジメントの規制適用において,幾つかの差異があることが分かっている。


17

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

3.2

及び 3.3 は,品質マネジメントシステム規格の要求事項に密接に関連している。医療機器を上市する

場合に品質マネジメントシステムが要求される国もある(医療機器が特に除外されていない場合)

。製造業

者が,品質マネジメントシステムを適用するか否かを選択することができる国もある。しかし,3.2 及び

3.3

の要求事項は,製造業者が品質マネジメントシステムの他の要素を適用するか否かにかかわらず,効果

的なリスクマネジメントプロセスにおいて常に必要とされる。

A.2.3.2 

経営者の責任 

トップマネジメントによる遂行責任が効果的なリスクマネジメントプロセスには重要である。各トップ

マネジメントは,リスクマネジメントプロセスの全体的指針に対して責任を負うことが望ましく,この細

分箇条では,彼らの役割,特に次について強調している。

a)

十分な経営資源を確保しなければ,この規格の他の要求事項に適合してもリスクマネジメント活動の

効果は低い。

b)

リスクマネジメントは,専門的な分野であるので,リスクマネジメント手法の訓練を受けた個人の参

加が必要である(A.2.3.3 参照)

c)

この規格は,受容可能なリスクレベルを規定していないため,トップマネジメントは,受容できるリ

スクをどのように決定するかの方針を確立することが必要である。

d)

リスクマネジメントは絶えず進化していくプロセスであるため,それが適切に実施されているかどう

かを確認し,あらゆる課題点を修正し,改善を行い,そして,変化に適応するためには,リスクマネ

ジメント活動についての定期的なレビューを行う必要がある。

A.2.3.3 

要員の資格 

リスクマネジメント活動の実施に必要な専門的知識をもつ人を確保することは最も重要である。リスク

マネジメントプロセスには,次のような領域の専門知識をもつ人が要求されている。

−  医療機器は,どう構成されているか。

−  医療機器は,どのように作動するか。

−  医療機器は,どのように製造されるか。

−  医療機器は,実際どのように使用されるか。

−  どのようにリスクマネジメントプロセスを適用するか。

一般には,様々な職務,又は専門分野の多くの代表者が,それぞれの専門知識を活かしてこれにあたる

ことになる。リスクマネジメント活動を実施する相互間のバランス及び関係を考慮することが望ましい。

客観的証拠を示すためには,適切な資格認定の記録が要求される。重複を避けるため,また,機密性及

びデータ保護を理由として,この規格は,適切な資格認定の記録をリスクマネジメントファイルで管理す

ることを要求していない。

A.2.3.4 

リスクマネジメント計画 

リスクマネジメント計画は,次の理由から要求されている。

a)

適切なリスクマネジメントには,組織的な取組みが不可欠である。

b)

リスクマネジメントのためのロードマップ(工程表)を計画に含める。

c)

計画を立てることで,客観性が増し,基本的要素の見落としを防ぐのに役立つ。

要素 3.4 の a)f)は,次の理由から必要である。

計画の適用範囲には,二つの異なる要素がある。第一に対象とする医療機器を特定することであり,第

二に計画の各要素(計画に含める活動・項目など)をライフサイクルのどの段階(初期構想,設計,製造,

出荷,輸送,保管,据付,製品使用など)に適用するかを特定することである。適用範囲を明確にするこ


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

とで,製造業者は,リスクマネジメント活動を具現化していく上での基礎ができるようになる。

−  責任及び権限の割当ては,責任の所在が不明確になるのを防ぐために必要である。

−  リスクマネジメントの活動のレビューは,マネジメントの責任に含まれる。

−  リスクの受容可能性についての判断基準は,リスクマネジメントの基本となるので,リスク分析を開

始する前に決定することが望ましい。箇条 5(リスク評価)を客観的に行うのに役立つ。

−  検証は重要な活動であり,6.3(リスクコントロール手段の実施)によって規定している。この活動を

計画することによって,必要に応じて基本的な経営資源を確実に利用することが可能となる。検証が

計画されない場合は,検証の重要部分が欠落する可能性がある。

−  対象とする医療機器に特有の製造及び製造後情報を得るための方法を確立することで,製造及び製造

後情報をリスクマネジメントプロセスにフィードバックするための正式な,及び適切な方法が確保で

きる。

変更の記録を維持するための要求事項は,医療機器についてのリスクマネジメントプロセスの調査及び

レビューを容易にする。

A.2.3.5 

リスクマネジメントファイル 

この規格では,リスクマネジメントに適用する全ての記録及び他の文書を製造業者がファイルする,又

はこれらが何処にあるかの場所を特定するために,リスクマネジメントファイルという用語を用いる。こ

れは,リスクマネジメントプロセスの実践を容易にし,また,この規格に対してより効率的な監査を可能

にする。トレーサビリティは,特定した各ハザードにリスクマネジメントプロセスが適用されたことを明

らかにするために必要である。

確実に完了することは,リスクマネジメントにおいて非常に重要である。不十分な活動は,特定したハ

ザードがコントロールされず,誰かに危害が及ぶ結果になりかねないことを意味する場合がある。このよ

うな問題は,

リスクマネジメントのあらゆる段階における不十分な活動の結果として生じる可能性がある。

不十分な活動として,次がある。ハザードが特定しきれていない,正しく評価していないリスクがある,

リスクコントロール手段を特定しきれていない,リスクコントロール手段が未実施又はリスクコントロー

ル手段を十分に効果確認していない。トレーサビリティは,リスクマネジメントプロセスを確実に完了す

るために必要とされる。

A.2.4 

リスク分析 

A.2.4.1 

リスク分析プロセス 

要求事項の第二段落は,類似の医療機器についてのリスク分析が利用可能な場合に,どのように扱うか

を示した。注記は,この規格の利用者に対し,既に十分な情報が存在する場合は,時間,労力及びその他

の経営資源を節約するために,その情報を適用することが可能であり,かつ,望ましいことを示している。

しかし,この規格の利用者は,過去のリスク分析の結果が現在のリスク分析に適用できるかを体系的に評

価するよう留意する必要がある。

4.1

の a)c)で要求する事項は,トレーサビリティを保証するための基本的な最小限のデータであり,マ

ネジメントレビュー及び後の監査に重要である。4.1 の a)の要求事項は,分析の適用範囲の内容を明確に

し,確実に完了したことを検証するためにも役立つ。

A.2.4.2 

意図した使用及び医療機器の安全に関する特性特質の明確化 

この段階において,製造業者は医療機器の安全に影響する可能性のある全ての特性を考慮する必要があ

る。製造業者は,医療機器の意図した使用者を考慮に入れることが望ましい。例えば,専門家でない人が

医療機器を使うのか,訓練を受けた医療従事者が使用することになるかなどである。この分析は,医療機


19

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

器の製造業者が意図した状況以外での使用,及び初期構想時に予見した状況以外での使用も考慮すること

が望ましい。医療機器の製造業者が意図した状況以外,及び初期構想時に予見していなかった状況でも,

しばしば使用されることもある。その医療機器の潜在的な使用に起因するハザードが将来起こりえること

を,製造業者が予見することが重要である。

附属書 は,医療機器の特質及び医療機器が使用される環境を記述するときに役立つよう意図している。

このリストは,網羅的なものではないということに留意する。製造業者は,対象とする医療機器の安全に

関する適切な特質を想像的に決めることが望ましい。

附属書 のリストは,ISO 14971-1 を基にしたもの

であり,これにこの規格原案に対する意見を盛り込んで,若干の追加を行った。このリストは,

“安全に関

してどんなことが起こりえるか”という考えを喚起するに違いない。体外診断用医療機器に関する

附属書

H

は,

この規格における使用の目的で ISO/TC 212

Clinical laboratory testing and in vitro diagnostic test systems

(臨床検査及びインビトロ診断検査システム)によって策定された。毒性学的なハザードに関する

附属書

I

は,ISO 14971-1 

附属書 から抜粋し,僅かな変更だけを加えた。

A.2.4.3 

ハザードの特定 

この段階において,製造業者は正常状態及び故障状態において予見されるハザードを体系的に特定する

必要がある。この特定は,4.2 で明確化した安全に関する特性に基づいて行うことが望ましい。

A.2.4.4 

各危険状態についてのリスクの推定 

リスクの評価及びマネジメントは,危険状態を特定してはじめて可能となる。ハザードを危険状態に変

えうる事象について,合理的に予見できる一連の事象を文書化することによって,リスクの推定を体系的

に実施できる。

附属書 は,典型的なハザードを列挙し,ハザード,予見できる一連の事象,危険状態,及びそれに伴

う可能性がある危害の間の関連性を説明する例を示すことによって,製造業者がハザード及び危険状態を

特定する手助けとなる。特に,危険状態に導き,最終的に危害に至る可能性がある一連の事象が存在する

場合に重要である。リスクを適切に取り扱うためには,製造業者がこれらの一連の事象を認識し,特定す

ることが望ましい(

図 E.1 参照)。

附属書 に示すリストは,網羅的なものではない。このリストは,チェックリストとしてではなく,想

像的な思考を促すように意図した。

これは,リスク分析の最終段階である。個々の医療機器についてと同様に,個々の危険状態に対するリ

スクの推定は異なるという難しさのため,この細分箇条は,一般的に記載している。医療機器が正常に機

能している場合にも,また,不具合を生じている場合にも,ハザードは発生しうるため,どちらの状況も

厳密に調査することが望ましい。実際には,リスクの構成要素である確率及び重大さの両方について個別

に分析することが望ましい。製造業者が重大さレベル又は危害の発生確率レベルを体系的な方法で分類す

る場合は,その分類表を定義し,リスクマネジメントファイルに記録することが望ましい。これは製造業

者が,同じレベルをもつリスクを整合的に扱うことを可能とし,製造業者がそのように実施したという証

拠になる。

体系的な故障又は一連の事象が原因となって発生する危険状態もある。体系的な故障の確率を計算する

ための広く認められた方法はない。危害の発生確率が計算できない場合でも,ハザードには対処する必要

があり,製造業者は,危険状態のリストを個別に作成することによって,これら危険状態によるリスクの

低減が図れるであろう。

十分な定量的データが利用できない場合も多い。したがって,リスク推定は必ず定量的に行うことが望

ましいという表現は避けた。


20

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 は,リスク分析についての有用な指針である。その情報は,IEC 60300-3-9 [21]を含む複数の情

報源からなる。IEC 60300-3-9 [21]の有用性の認識から,この規格では,全ての医療機器及び全てのリスク

マネジメントプロセス段階に適用できるように拡大した。

附属書 では,リスクチャート及びリスクマト

リクスを,例として多用している。しかし,この規格は,リスクチャート及びリスクマトリクスの使用を

要求していない。

A.2.5 

リスク評価 

リスクの受容可能性について決定することが必要である。製造業者は,リスクマネジメント計画で定義

したリスクの受容可能性についての判断基準によって,推定したリスクを評価する。製造業者は,どのリ

スクを低減する必要があるかを判断できる。箇条 は,この規格の読者が不必要なプロセスを行わなくて

よいよう規定した。

A.2.6 

リスクコントロール 

A.2.6.1 

リスクの低減 

ステップ 6.26.7 は,一連の段階を論理的に構成しており,この体系的な手法を用いれば,関連のある

情報が必要に応じて確実に利用できるようになるため,この手法は重要である。

A.2.6.2 

リスクコントロール手段の選択 

リスクを低減する方法には,多くの場合複数ある。三つの手段を列挙する。

a)

設計による本質的な安全

b)

医療機器自体又は製造工程における防護手段

c)

安全に関する情報

これらは,いずれも標準的なリスク低減手段であり,ISO/IEC Guide 51 [2]から抜粋した。列挙した優先

順位は重要である。この原則は,IEC/TR 60513 [22],各国又は各地域の規制[例えば,欧州医療機器指令

(European Medical Device Directive)[34]]などでも採用されている。実施可能である場合,医療機器は,

本質的に安全であるように設計されることが望ましい。実施可能でない場合には,防壁(バリア)又はア

ラームのような防護手段が適切である。最も低い優先順位の防護的な手段は,文書による警告又は禁忌で

ある。

リスクコントロール手段の選択の結果の一つとして,事前に決めた判断基準に従った受容可能なレベル

までリスクを低減するための実施可能な方法がない場合がある。例えば,全ての残留リスクが受容可能で

あるような生命維持医療機器の設計は,現実的ではない。この場合は,患者に対する医療機器の効用が残

留リスクを上回るかどうかを判断するため,リスク/効用  分析を実施してもよい。このリスク/効用  分

析を,6.5 の段階にもってきたのは,事前に決めた受容可能なレベルまでリスク低減するため最初にあらゆ

る手段を施すことを確実にするためである。

A.2.6.3 

リスクコントロール手段の実施 

二つの異なる検証がある。第一の検証は,最終設計においてリスクコントロール手段が実施されたこと

を確認するためである。第二の検証は,実施した手段が実際にリスクを低減していることを確実にするた

めである。妥当性の確認を,リスクコントロール手段の効果を検証するために用いてもよい。

A.2.6.4 

残留リスクの評価 

残留リスクの評価は,実施したリスクコントロール手段によって受容できるリスクになったかどうかを

判断するためである。リスクマネジメント計画で確立した判断基準に照らして,リスクが受容できないと

判断した場合には,製造業者は,他のリスクコントロール手段を考慮する。リスクマネジメント計画で確

立した受容可能なレベル内にリスクが低減されるまで,繰り返し行うことが望ましい。


21

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

残留リスクに関連のある情報を提供し,使用者が情報に基づいて適切な判断ができるようにすることが

望ましい。ただし,どの残留リスクに関連する情報を,どれくらい提供するかについては,製造業者が決

定する。

残留リスクに関連のある情報提供の要求は,

既に多くの国及び地域において取り入れられている。

A.2.6.5 

リスク/効用  分析 

製造業者が受容できると決定したリスクの判断基準を上回るリスクが残る場合もある。

この細分箇条は,

製造業者が慎重な評価を実施し,かつ,医療機器の効用が残留リスクを上回ることが示せた場合には,判

断基準を上回る高い残留リスクがあっても医療機器を提供できるようにするものである。使用者にとって

重要なのは,情報に基づいて適切な判断をすることができるように,高い残留リスク及び医療機器の使用

によって得られる効用を開示することである。

附属書 を参照。

A.2.6.6 

リスクコントロール手段によって発生したリスク 

リスクコントロール手段を単独で用いるか,又は組み合わせることによって,新たな全く異なるハザー

ド又は危険状態が発生する可能性があること,更に,あるリスクを低減するために導入した手段が別のリ

スクを増加させる可能性があるため,この細分箇条を設けた。

A.2.6.7 

リスクコントロールの完了 

この段階では,特定した全ての危険状態についてのリスク評価が終了していることが望ましい。複雑な

リスク分析において,全ての危険状態に関係したリスクを検討したかを確認するようにするためである。

A.2.7 

残留リスクの全体的な受容可能性の評価 

箇条 4∼箇条 で規定したプロセスに従い,製造業者は,ハザードを特定し,リスクを評価し,設計に

おいて個々のリスクコントロール手段を実施する。製造業者は,この時点で振り返り,個々の残留リスク

の組合せによる影響を検討し,医療機器の開発を続けるか否かの決定を行う。個々の残留リスクは受容可

能であっても,全体的な残留リスクが製造業者の受容できるリスクの判断基準を上回る可能性がある。こ

れは,特に複雑なシステム及び多数のリスクを伴う医療機器の場合に当てはまる。全体的な残留リスクが

リスクマネジメント計画の判断基準を上回る場合でも,製造業者は,全体的なリスク/効用の評価を実施

し,リスクは高いが極めて有益な医療機器を商品化してもよいかどうかを判断してもよい。使用者にとっ

て重要なのは,重大な全体的残留リスクが知らされることである。したがって,製造業者は,関連情報を

附属文書に含める必要がある。

A.2.8 

リスクマネジメント報告書 

リスクマネジメント報告書は,リスクマネジメントファイルの重要な部分である。この報告書は,リス

クマネジメントプロセスの結果を最終的に見直して要約することを意図している。この報告書は,リスク

マネジメント計画が適切に実行され,製造業者が,要求された目的を達成したことを確認した証拠となる

重要な文書である。第 1 版では,リスクマネジメント報告書に,特定した各ハザードについてのリスクマ

ネジメントプロセス結果のトレーサビリティをもつことを要求した。複雑な機器及び複雑なリスク分析の

場合にトレーサビリティを含めると,JWG1 の当初の想像をはるかに超えて,膨大なリスクマネジメント

報告書になること,及びリスクマネジメント報告書を最終的なレビューの要約との位置づけに変更したこ

とから,この要求事項は削除した。ただし,特定した各ハザードについてのトレーサビリティをもつこと

は依然として必要であり,3.5 を修正し,リスクマネジメントファイルにトレーサビリティの要求を追加し

た。

A.2.9 

製造及び製造後情報 

医療機器が製造段階に入ってもリスクマネジメント活動は継続することが必要である。リスクマネジメ

ントは,医療機器の試作品がない構想の段階で開始することがしばしばある。設計プロセスを実施してい


22

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

るなかでリスクの推定が具体的になり,実際に機能する試作品ができると,更に正確になっていく。リス

クマネジメントにおける使用についての情報は,製造記録又は品質記録を含む全ての情報源から得ること

ができる。しかし,実際の使用者がどう医療機器を使うかは推定しきれない。したがって,製造業者は製

造及び製造後情報を監視することが望ましい。それらのデータ及び情報は,その後のリスク推定及びその

結果となるリスクマネジメントに関連する決定に影響する。製造業者は,最新の状況(リスクの受容判断

基準,リスクコントール手段の選択などリスクマネジメントに関連する決定において考慮しなければなら

ない事項)

,及びその適用が現実的であるかを同時に考慮することが望ましい。リスクマネジメントプロセ

スを改善するためにも,これらの情報を用いることが望ましい。製造後の情報をフィードバックすること

で,リスクマネジメントを反復的なプロセスとすることができる。

この規格の第 2 版では,重要なリスクマネジメント情報が医療機器の製造開始と共に収集できることを

認識して,この箇条の表題を“製造後の情報(Post-production information)”から“製造及び製造後情報

(Production and post production information)

”へと変更した。製造業者が果たすべき一連のプロセスを強調

するために,この箇条の要求事項も変更した。


23

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 B

(参考)

医療機器についてのリスクマネジメントプロセスの概要

図 B.1 は,この規格の使用者に対し,リスクマネジメントプロセスの概要を示すための図である。図 B.1

に示すとおり,個々のリスクについてプロセスは反復的であり,かつ,リスクコントロール手段が新たな

ハザードを発生した場合,又は新たな情報が得られた場合に初期のステップに戻ることを示している。


24

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

図 B.1−医療機器に適用するリスクマネジメント活動の概要

開始

意図する使用

特質の明確化(4.2

リスク

分析

リスク

評価

リスクコントロール

残留

リスクの

全体的な評価

製造


製造後情報

既知又は予見できる

ハザードの特定(4.3

各ハザードについての

リスクの推定(4.4

リスク低減は

必要か

(箇条 5

適切なリスクコントロール手段
を特定し,リスクコントロールの
要求事項を記載する(6.2

リスク低減は

可能か(6.2

適切な手段を実行し,記録し,

かつ,検証する(6.3

残留リスクは受

容できるか(6.4

新たなハザード

又は危険状態が発生しないか,
又は既に特定したリスクの評価

に影響しないか

6.6

全ての特定

したハザードが検討されたか

6.7

全体として

の残留リスクは受容できるか

(箇条 7

医学的効用は

残留リスクを上回るか

(箇条 7

医学的効用は

残留リスクを上回るか

(箇条 7

リスクマネジメント報告書を

作成する(箇条 8

製造及び製造後情報を

レビューする(箇条 9

受容不可

リスクの

再評価が必要か

(箇条 9

はい

いいえ

はい

いいえ

はい

いいえ

はい

いいえ

はい

いいえ

はい

いいえ

いいえ

はい

いいえ

はい

いいえ

はい


25

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 C

(参考)

安全に影響する医療機器の特質を明確化するために使用できる質問事項

C.1 

一般 

4.2

は,製造業者に対し,安全に影響する医療機器の特質を特定することを要求している。これらの特質

の検討は,4.3 で要求する医療機器におけるハザードを特定するための重要なステップである。これを行う

一つの方法は,製造業者,意図する使用者,意図する使用,合理的に予見できる誤使用,及び最終廃棄に

関する一連の質問を行うことである。全ての関係者(例えば,使用者,保守担当者,患者など)の観点か

らこれらの質問をすることによって,ハザードがどこに存在するか一層明確にすることができる。C.2 

質問は,安全に影響する医療機器の全ての特質を読者が特定するための助けとなる。対外診断用医療機器

による患者に対するリスクを推定するための検討しなければならない項目は,H.2.5.4 に示してある。

このリストは網羅的なものではなく,また,全ての医療機器を代表したものでもない。そのため,個別

の医療機器に適用される質問事項を追加,及び関連しない質問事項を省くことが,読者に推奨される。ま

た,各質問事項を単独で検討するだけではなく,互いに関連づけて検討するとよい。

C.2 

質問 

C.2.1 

意図する使用は何か,及び医療機器はどのように使用されるか 

考慮することが望ましい要因としては,次がある。

−  次のいずれかにおいて医療機器はどのような役割を果たすか

−  疾病の診断,予防,監視,治療又は緩和

−  損傷又は身体障害に対する補償

−  解剖学的構造の代替,又は修復若しくは受胎調節

−  適用範囲は何か(例えば,患者の母集団)

−  医療機器は,生命を維持するためのものか又は支援するためのものか

−  医療機器が故障した場合,医療的に特別な措置を必要とするか

C.2.2 

医療機器は埋込みを意図しているか 

考慮することが望ましい要因には,埋め込む場所,患者母集団の特性,年齢,体重,身体的能力,埋込

み機器の性能の経時変化,埋込み機器の予測寿命,埋込んだ後の取り外し可能性などがある。

C.2.3 

医療機器は,患者又はその他の人に接触することを意図しているか 

考慮することが望ましい要因には,意図した接触の状態,すなわち,体表面接触,侵襲的接触又は埋込

み及びそれぞれについて接触の期間,頻度などがある。

C.2.4 

どのような物質若しくは部品が医療機器に組み込まれているか,又は医療機器と共に使われるか,

若しくは接触するか 

考慮することが望ましい要因としては,次がある。

−  関連する物質の適合性

−  細胞又は体液との適合性

−  安全に関係する特性が既知であるかどうか

−  動物由来物質を使って製造された部品か


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

注記  附属書 及び ISO 22442 シリーズ規格[19]を参照する。

C.2.5 

患者にエネルギーを与えるか,又は患者からエネルギーを取り出すか 

考慮することが望ましい要因としては次がある。

−  伝達されるエネルギーの種類

−  エネルギーの制御,質,量,強度及び期間

−  現在使われている類似機器より高いレベルのエネルギーを与えるかどうか。

C.2.6 

患者に投与又は患者から採取する物質はあるか 

考慮することが望ましい要因としては,次がある。

−  物質が投与されるか又は採取されるか。

−  その物質は単一物質なのか又は一連の物質群か。

−  最大及び最小投与・採取速度並びにその制御方法

C.2.7 

医療機器は,生体物質を処理して再利用,注入又は移植するためのものか 

考慮することが望ましい要因には,処理方法及び処理される物質の種類などがある(例えば,自動輸液

装置,透析装置,血液成分処理装置又は細胞療法処理装置など)

C.2.8 

医療機器は,滅菌されて供給されるのか若しくは使用者が滅菌することを意図するのか,又は他の

微生物制御法が適用できるのか 

考慮することが望ましい要因としては,次がある。

−  医療機器は,単回使用又は再利用を意図した包装であるかどうか。

−  使用期限

−  再利用回数の制限

−  滅菌方式

−  製造業者が意図しないその他の滅菌方式の影響

C.2.9 

医療機器は,使用者が定期的に洗浄及び消毒することを意図しているか 

考慮することが望ましい要因には,使用する洗浄剤又は消毒剤の種類及び洗浄回数の制限などがある。

医療機器の設計は,定期的な洗浄及び消毒の効果に影響を与える可能性がある。さらに,洗浄剤及び消毒

剤が医療機器の安全又は性能に与える影響を考慮することが望ましい。

C.2.10 

医療機器は,患者の環境を変えることを意図しているか 

考慮することが望ましい要因としては,次がある。

−  温度

−  湿度

−  雰囲気ガスの組成

−  圧力

−  照明

C.2.11 

測定をするか 

考慮することが望ましい要因には,測定するパラメータ,測定確度,測定精度などがある。

C.2.12 

医療機器は,解釈機能をもっているか 

考慮することが望ましい要因には,入力したデータ又は収集したデータから医療機器が結果を表示する

かどうか,使われるアルゴリズム,信頼性の限界などがある。意図せずにデータ又はアルゴリズムを使用

しないか,特に注意をすることが望ましい。

C.2.13 

医療機器は,他の医療機器,薬剤又はその他の医療技術との併用を意図するか 


27

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

考慮することが望ましい要因には,一緒に使用する他の医療機器,薬剤又は他の医療技術の特定と,そ

れらとの相互作用に関連して引き起こされる潜在的な問題の特定,及び患者がその治療に適しているかの

特定などがある。

C.2.14 

好ましくないエネルギー又は物質を排出するか 

エネルギーに関連して考慮することが望ましい要因には,騒音及び振動,熱,放射線(電離放射線,非

電離放射線,及び紫外線,可視光線又は赤外線)

,接触温度,漏れ電流,電磁場などがある。

製品の中に残留した場合に好ましくない生理的影響を及ぼすような物質として,製造工程に使われる物

質,清掃のために使われる物質,検査のために使われる物質などを考慮することが望ましい。

その他の物質に関連するものは,化学的排出物,廃棄物,及び体液などがある。

C.2.15 

医療機器は,環境的影響を受けやすいか 

考慮することが望ましい要因には,使用・輸送・保管などの環境がある。これらには,照明,温度,湿

度,振動,こぼれ,電力及び冷却の供給変化の受けやすさ並びに電磁干渉などがある。

C.2.16 

医療機器は,環境に影響を及ぼすか 

考慮することが望ましい要因には,次がある。

−  電源及び冷却の供給への影響

−  有害物質の排出

−  電磁妨害の発生

C.2.17 

医療機器に関連する必須の消耗品及び附属品が存在するか 

考慮することが望ましい要因には,消耗品及び附属品についての仕様,使用者がそれらを選ぶときの制

限条件などがある。

C.2.18 

保守又は校正を必要とするか 

考慮することが望ましい要因としては,次がある。

−  保守又は校正は,操作者,使用者又は専門家によって実施されるのかどうか。

−  保守又は校正を適切に実施するには,特別な物質又は装置が必要か

C.2.19 

医療機器は,ソフトウェアを含んでいるか 

考慮することが望ましい要因には,操作者若しくは使用者又は専門家によるソフトウェアのインストー

ル,確認,修正又は交換を意図するかどうかなどがある。

C.2.20 

医療機器には,使用期限に関する制約があるか 

考慮することが望ましい要因には,期限が切れた場合のその医療機器の廃棄についてのラベリング,表

示器などがある。

注記  ラベリングの定義は,JIS Q 13485 を参照する。

C.2.21 

長期間使用した場合又は使用しなかった場合の影響はどうか 

考慮することが望ましい要因には,人間工学的影響及び蓄積効果などがある。例えば,生理食塩水用の

ポンプの長期的な腐食,機械的疲労,締付けベルト又は取付け具の緩み,振動の影響,ラベルの摩耗又は

脱落,材料の長期的劣化などがある。

C.2.22 

医療機器は,どのような機械的力を受けるか 

考慮することが望ましい要因には,医療機器が受ける力は使用者によって制御されるか,又は使用者以

外の人との相互作用によって制御されるものであるかなどがある。

C.2.23 

何が医療機器の寿命を決めるか 

考慮することが望ましい要因には,老朽化,電池の消耗などがある。


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

C.2.24 

医療機器は,単回使用を意図するか 

考慮することが望ましい要因には,次がある。

−  医療機器は,使用後に再使用不能となるか

−  既に使われたことが明確に分かるか

C.2.25 

医療機器は,安全に使用期間を終了させるか又は廃棄することが必要か 

考慮することが望ましい要因には,医療機器の処分中に発生する廃棄物などがある。例えば,有害物質

又は危険物質を含むか,リサイクルが可能な物質があるかを考慮する。

C.2.26 

医療機器の据付け又は使用は,特別な訓練又は特別な技能を必要とするか 

考慮することが望ましい要因には,医療機器を据え付ける要員に対する適切な技能又は訓練,使用者に

対する医療機器の新規性などを含む。

C.2.27 

安全な使用に関する情報がどのように供給されるのか 

考慮することが望ましい要因には,次がある。

−  製造業者が,情報を最終使用者に直接供給するのか,又は据付者,介護者,医療専門家若しくは薬剤

師といった第三者の介在を含むか,及び訓練に密接に関係するかどうか。

−  最終使用者へ委託して引き渡すか,及び必要な技術をもたない人が据え付けることができるかどうか。

−  医療機器の予測寿命を基に,操作者若しくは保守担当者の再教育又は再認定を必要とするかどうか。

C.2.28 

新たな製造工程を構築又は導入する必要があるか 

考慮することが望ましい要因には,新技術又は新たな生産規模などがある。

C.2.29 

医療機器の適切な適用は,ユーザーインタフェイスのようなヒューマンファクタに強く依存するか 

C.2.29.1 

使用者とのインタフェイス設計の特性は誤使用に影響するか 

考慮することが望ましい要因には,誤使用の原因となる使用者とのインタフェイス設計の特性がある。

インタフェイス設計の特性の例としては,制御器及び表示器,用いられている図記号,人間工学的特性,

物理的設計及び配置,操作の階層構造,医療機器を動作させているソフトウェアのメニュー,警告表示の

視認性,アラームの可聴性,標準化した色分けなどがある。ユーザビリティについては,IEC 60601-1-6 [25],

及びアラームについては,IEC 60601-1-8 [26]が参考になる。

C.2.29.2 

誤使用を起こすような外乱が入る環境のもとで医療機器を使うか 

考慮することが望ましい要因には,次がある。

−  誤使用の影響

−  外乱が頻繁に生じる環境か。

−  めったにしか生じない外乱によって,使用者が混乱することがあるかどうか。

C.2.29.3 

医療機器は,接続部又は附属品があるか 

考慮することが望ましい要因には,誤接続の可能性,他の製品と類似した接続部の使用,接続に要する

力,接続が正しく完了したことの確認,過度の締付け及び締付け不足などがある。

C.2.29.4 

医療機器は,制御インタフェイスをもっているか 

考慮することが望ましい要因には,間隔,記号化,分類,配置,フィードバックのモード,不注意によ

る失敗,うっかりミス,制御の区別,視認性,起動又は変更の方向,制御は連続的か又は分散的か,設定

又は動作の可逆性などがある。

C.2.29.5 

医療機器は,情報を表示するか 

考慮することが望ましい要因には,様々な環境での見やすさ,見る方向,使用者の視力,見る人数及び表

示までの距離,表示された情報の明瞭性,単位及び色分け,重要情報へのアクセスのしやすさなどがある。


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

C.2.29.6 

医療機器は,メニューで制御するか 

考慮することが望ましい要因には,階層の複雑さ及びその数,状態の認識,設定の配置,誘導方法,一

動作当たりのステップ数,一連の順序の明瞭性及び覚えやすいかどうかという問題,制御機能へのアクセ

スしやすさの重要性,指定された操作手順からの逸脱の影響などがある。

C.2.29.7 

医療機器は特別な制約がある人によって使用されるか 

考慮することが望ましい要因には,使用者は誰か,使用者の知的能力及び身体的能力,技能及び訓練,

人間工学的観点,使用環境,設置条件,医療機器を制御するか又は医療機器の使用に影響を与える患者の

能力などがある。身体障害者,老人及び子供のように特別の制約がある使用者の場合には,十分に注意を

することが望ましい。特別の制約には,医療機器の使用を可能にするために使用者以外の他の人による介

助の必要などがある場合がある。その医療機器は,様々な技術水準及び文化的背景をもつ人が使用するこ

とを意図しているか

C.2.29.8 

使用者の行動を促すためにユーザーインタフェイスが使われるか 

考慮することが望ましい要因には,患者に対するリスクが増大するが,使用者がその状況を認識できる

ある制御操作モードへの切替えを,使用者が慎重に行えるかどうかなどがある。

C.2.30 

医療機器はアラームシステムを使うか 

考慮することが望ましい要因には,誤ったアラーム,アラームに気がつかない,アラームシステムを取

り外す,信頼性の低い遠隔アラームシステムを利用する,アラームシステムの動作についての医療従事者

の理解度が不足する可能性といったリスクがある。アラームシステムについては,IEC 60601-1-8 [26]が参

考になる。

C.2.31 

どのようにして故意に医療機器が誤使用されるのか 

考慮することが望ましい要因には,接続器の正しくない使用,安全機能又はアラームを無効にする,製

造業者が推奨する保守の不履行がある。

C.2.32 

医療機器は患者看護に対して重要なデータを保持するか 

考慮することが望ましい要因には,データが修正又は破壊されたことによる影響などがある。

C.2.33 

医療機器は,移動式又は携帯式を意図しているか 

考慮することが望ましい要因には,必要なグリップ,ハンドル,車輪,ブレーキ,機械的安定性及び耐

久性がある。

C.2.34 

医療機器の使用は基本性能に関係するか 

考慮することが望ましい要因には,例えば,生命維持装置の出力又はアラーム動作の特性がある。

医用電気機器及び医用電気システムの基本性能については,IEC 60601-1 [23]が参考になる。


30

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 D

(参考)

医療機器に適用するリスクの概念

D.1 

一般 

この附属書は,医療機器のリスクをマネジメントするために重要な,次のリスクの概念についての指針

となる。

−  ハザード及び危険状態

−  リスク推定

−  リスクの受容可能性

−  リスクコントロール

−  リスク/効用  分析

−  全体的なリスク評価

リスクとは,危害の発生確率とその危害の重大さとの組合せであると 2.16 で定義している。これは,二

つの要素を単純に掛け合わせればリスクの大きさになるという意味ではない。リスクの定義の意味を視覚

化し記述する一つの方法として,二次元リスクチャートを使用することができる。

図 D.1 のようなリスクチャートは,危害の重大さを X 軸上,危害の発生確率を Y 軸上に視覚化できる。

各ハザード又は各危険状態から予想される危害の重大さ及び発生確率の推定が単一の点としてリスクチャ

ート上の座標で示せる。この例示の中で,推定されたリスク(R

1

,R

2

,R

3

)は,チャートに示される。

X

危害の重大さの増加

Y

危害の発生確率の増加

図 D.1−リスクチャートの例

D.2 

ハザード及び危険状態 

D.2.1 

一般 

医療機器が危害を引き起こすのは,一連の事象が危険状態を生じ,その後危害の原因となるか,又は危

害に至る場合に限られる。一連の事象には,単一事象及び複合事象の両方が含まれる。人,財産又は環境

R

1

R

2

R

4

R

3

R

5

R

6

Y

X


31

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

がハザードにさらされる場合に,危険状態が発生したことになる。

附属書 は,医療機器の特質についての質問事項という形式の指針で,ハザードの特定に役立つ。附属

書 は,ハザード及び危険状態に至る可能性のある一連の事象を特定するときの指針である。附属書 は,

体外診断用医療機器について,ハザードの特定,並びに危険状態及び危害に至る可能性のある一連の事象

の特定における指針である。例えば,故障がない正常状態の場合でも,医療機器には危険状態が発生する

ことを強調しておく必要がある。

D.2.2 

故障から発生した危険状態 

D.2.2.1 

一般 

危険状態が一つの故障だけによって発生したとしても,

故障の確率と危害の発生確率とは同じではない。

故障が必ずしも危険状態に至るとは限らず,また,危険状態が必ずしも危害を生ずるとは限らない。

医療機器の故障から発生する危険状態に対しては,特別な注意が必要である。危険状態に至る可能性の

ある故障には,一般的には偶発的な故障及び系統的な故障の二つの種類がある。

D.2.2.2 

偶発的な故障から発生した危険状態 

多くの事象について,故障が発生する確率を数値で示すことができる。次に偶発的な故障の例を示す。

−  電子組立品における集積回路などの部品の故障

−  経時的な劣化に起因する不正確な結果をもたらす体外診断用医療機器の試薬の汚染

−  医療機器の内部又は表面における感染性物質又は有毒物質の存在。滅菌の保証レベルの利用など,危

険状態の発生確率に影響する使用状況及びハザードについての十分な情報がある場合には,生物学的

なリスクについての定量的な推定が可能である。この状況は,ハードウェアの偶発的な故障と同様に

扱われることになる。その他の多くの場合,感染性物質又は有毒物質の存在は,系統的な故障として

扱われることになる(D.2.2.3 参照)

。材料の有毒物質の存在で引き起こされるリスクは,ISO 10993-17

[7]

によって推定してもよい。これによって,医療機器の使用によって予測される有害物質へのばく

(曝)露程度を健康への危害とならない程度まで低くすることが担保できる。

D.2.2.3 

系統的な故障から発生した危険状態 

何らかの活動・作業における不具合が原因となって系統的な故障が引き起こされる。入力又は環境条件

の特定の組合せのもとで,この不具合が原因となって系統的に故障が発生するか,又は潜在化し続ける。

系統的な故障を引き起こす不具合は,ハードウェアでもソフトウェアでも発生し,医療機器の開発,製

造又は保守のいかなるときでも発生する。次に,系統的な故障の例を示す。

−  定格ヒューズの間違いは,危険状態の発生を未然に防げないことがある。製造中にヒューズの定格を

間違って指定,若しくは取り付けたり,又は修理中に間違って交換することがある。

−  ソフトウェアがデータベースの満杯状態を考慮していない。このデータベースが満杯になった場合に,

ソフトウェアはどう処理をするか明確になっていない。その結果,システムは,新しい記録用の場所

を空けるために,既存の記録を削除する可能性がある。

−  医療機器の製造時に使用される液体の沸点は,体温よりも低い。この液体の残留物は,ある特定の状

況で血液中に入り込み,塞栓症を招く可能性がある。

−  肝炎の分析試薬の抗体は,

(新しい)ウイルス変異株の一部を検出しない。

−  不適切な環境管理又は環境管理システムの故障は,毒性物質又は感染性の媒体による汚染となる。

系統的な故障率を正確に推定することは困難である。これは,主に次の二つの理由による。

−  系統的な故障率は,測定が面倒で費用がかかる。リスクコントロールについての故障率又はパラメー

タを全て網羅するデータなしでは,適切な信頼レベルの結果を得ることは難しい。


32

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  系統的な故障率を定量的に推定する認知された方法,がない。

これらの状況下でのリスク推定は困難であるため,系統的な故障によって危険状態に至らないような頑

強なシステムを組み上げることが望ましい。

D.3 

リスクの推定 

D.3.1 

一般 

リスクの推定には,様々な方法を使用することができる。この規格は,特定の方法の使用を要求しない

が,リスクの推定を行うことを要求している(4.4 参照)

。適切なデータが利用できれば,定量的なリスク

の推定が望ましい。しかし,適切なデータがなければ,定性的なリスクの推定方法で十分である。

リスクの概念は,次の二つの構成要素の組合せである。

−  危害の発生確率

−  危害の結果,すなわち,それがどのくらい重大であるか。

リスク推定では,例えば,次を調査することが望ましい。

−  引き金となる事象又は周囲の状況(E.3 参照)

−  危険状態の発生につながる一連の事象

−  そのような状態が発生する可能性

−  危険状態が危害に至る可能性

−  結果的に生じる危害の性質

適用分野によっては,リスク推定プロセスのある特定の要素だけを考慮すればよい場合がある。

例えば,

危害が極めて軽微な場合,確率が推定できない場合など,ハザード及びその結果の初期分析以上のことを

する必要はない(D.3.2.3 を参照)

リスクは,リスクコントロールを行うかの意思決定を容易にするよう明確に表現することが望ましい。

例えば,実際の使用状況を反映した危害及び発生確率の尺度及び単位を用いる。リスクを分析するには,

その要素,すなわち発生確率及び重大さを個別に分析することが望ましい。

図 D.1 のようなリスクチャートによって,推定したリスクを視覚化することができる。また,このチャ

ートは,その後の意思決定に役立つ。推定したリスクをチャート上にプロットする。この附属書の例では,

図 D.1 から作成したリスクマトリクスを使用する。このことは,この方法が医療機器に一般的に適用でき

るということを意味しない。しかし,この方法は,多くの場合に有用である。リスクチャート又はリスク

マトリクスを,リスクの順位付けに用いる場合には,用いた特定のリスクチャート又はリスクマトリクス

の適用が適切であることを正当化しておくことが望ましい。

D.3.2 

確率 

D.3.2.1 

一般 

十分なデータが利用できるような状況では,確率レベルを定量的に分類することが望ましい。これがで

きない場合,製造業者は,定性的な記述をする。適切な定性的記述は,不正確な定量的記述よりも望まし

い。確率レベルの定性的分類について,製造業者は,医療機器に適した記述(表現方法)を使うことがで

きる。

D.3.2.2 

確率の推定 

確率は,本質的には連続的であるが,実際には幾つかに区分したレベルを用いてもよい。この場合,製

造業者は,どの程度推定の確からしさが必要かに基づき,幾つの確率レベルが必要であるかを決定する。


33

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

必要とする信頼性が高いほど,多数の確率レベルを用いてもよい。意思決定を容易にするため,少なくと

も三つのレベルを用いることが望ましい。レベルは,記述的(例えば,医療機器の寿命内では発生しない,

数回発生する,頻繁に発生するなど)

,又は記号(P

1

,P

2

など)とすることができる。製造業者は,各確率

レベル(カテゴリ)を明確に定義し,何を意味するのかについて混乱を招かぬようにすることが望ましい。

特に有効な方法は,区分したレベルに数値を割り当てる方法である。

確率の推定は,周囲の状況及び初期の原因の発生から危害の発生に至るまでの一連の事象全体を網羅す

る。危害の確率を考慮することは暗に“さらされる(曝される)

”という概念を含んでいる。例えば,ハザ

ードへさらされることがなければ,危害は存在しない。したがって,危害の確率には,さらされる程度又

は範囲を考慮に入れることが望ましい。これには,次の質問への回答を含む。

−  危険状態は,故障が存在しなくても発生するか

−  危険状態は,一つの故障状態で発生するか

−  危険状態は,多重故障状態でだけで発生するか

−  危険状態が危害に至る可能性は,どのくらいか

危険状態が危害に至る可能性は,医療機器のライフサイクル及び市場の推定台数に左右される。

確率推定には,一般的に次の七つの手段のいずれかを用いる。

−  関連する過去のデータの使用

−  分析的手法又はシミュレーション手法を用いた確率の予測

−  実験データの使用

−  信頼性の推定

−  製造データ

−  製造後の情報

−  専門家の判断の採用

これらの全ての手段は,単独又は組合せで使用してもよい。最初の三つの方法は補完的であって,それ

ぞれに長所及び短所がある。可能な場合は,複数の方法を使用することが望ましい。そうしたとき,これ

らは互いに独立した確認項目となり,結果の信頼性を高めるのに役立つ。これらの方法が使用できない場

合,又は不十分である場合には,専門家の判断を仰ぐ必要が生じることもある。

D.3.2.3 

確率が推定できないリスク 

正確で信頼性の高いデータに基づいて発生確率を定量的に推定できる場合,又は定性的な推定が合理的

にできる場合には,あるリスク推定値の信頼性が高くなる。しかし,常にこのような状況であるとは限ら

ない。例えば,D.2.2.3 で記載したような,系統的な故障の確率を推定することは極めて困難である。確率

推定値の確度が疑わしい場合は,より広い範囲の確率の推定を行うか,又はその確率がある特定の値と比

較して悪くないと判断することがしばしば必要となる。次に,確率推定が極めて困難な例を示す。

−  ソフトウェアの故障

−  医療機器での手順の省略又は不正行為

−  十分解明されていない新たなハザード。例えば,ウシ海綿状脳症(BSE)における病原因子の感染性

についての不十分な知識は,感染リスクの定量的な推定の妨げとなる。

−  遺伝子毒性をもつ発がん(癌)物質,感作物質などの毒性学的なハザード。この場合,毒性作用を起

こさないばく(曝)露のしきい(閾)値を決めるのは不可能かもしれない。

危害の発生確率についてのデータが存在しなければ,

いかなるリスクの推定も不可能であり,

その場合,

危害の特質だけに基づいてリスクを評価することが通常必要となる。


34

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

ハザードが現実的にはほとんど危害を引き起こさないと結論付けられる場合,リスクは受容可能である

と判断することができるので,リスクコントロール手段は不要である。

しかし,重大なハザード,すなわち,上記の例に示すような,重大な危害に至る可能性のあるハザード

については,対処する必要がないほどに低いリスクと特定できるハザードのばく(曝)露のレベルは特定

できない。そのような場合には,確率の推定として合理的に最悪である値を基にして,リスクを推定する

のが望ましい。ある場合には,この発生確率を 1(100 %)とみなすとともに,ハザードが危険状態になる

ことがないようにするか,危害が発生する確率を受容可能なレベルまで低減するか,又は危害の重大さを

低減できるリスクコントロール手段を用いるのがよい(D.4 参照)

複雑なシステムの設計・開発に使用したプロセスの厳格さと,意図しないで作り込まれるか又は検知さ

れないまま残る系統的故障の確率との間には,通常関連性がある。系統的故障によって生じる結果の重大

さ及びリスクコントロール手段の効果を考慮することによって,開発プロセスに必要とされる厳格さを決

めることは一般に適切である。結果が悪いほど,かつ,外部のリスクコントロール手段の効果が少ないほ

ど,開発プロセスの要求品質は更に高くなる。

D.3.3 

重大さ 

潜在的な危害の重大さを分類するに当たって,製造業者は,個々の医療機器に適した記述方法を使用す

ることが望ましい。重大さは,本質的には連続的であるが,実際には幾つかに区分したレベルを用いるこ

とによって,その分析が容易になる。この場合,製造業者は,幾つのカテゴリが必要か,及びそれらをど

のように定義するかを決定する。レベルは,記述的(医学的介入を必要としない,医学的介入を必要とす

る,入院を必要とする,死亡に至るなど)に表すことができる。記号(S

1

,S

2

など)とすることができる

が,この場合には,各記号を明確に定義することが望ましい。いずれの場合も,重大さのレベルには,確

率の要素を含まないほうがよい。D.3.4 の例を参照。

製造業者は,使用する条件を明確にした個々の医療機器について,重大さのレベルを選択し,正当化す

る必要がある。

D.3.4 

 

D.3.4.1 

定性的分析 

定性的分析については,幾つかの手法を用いることができる。代表的な手法では,N×M のマトリクス

を用いて,各危険状態に対応したリスクの確率及び重大さを記述する。N 段階の確率レベル及び M 段階の

重大さレベルを定義する。マトリクスの各セルは,可能な全リスクレベルの集合のうちの一つのレベル範

囲を表す。起こりえる確率の範囲,及び起こりえる重大さの範囲を分割することによって,セルを作成す

る。単純な例は,

表 D.1 及び表 D.2 に示す定義に基づく 3×3 のマトリクスである。製造業者は,該当する

機器に固有であるよう定義を明確にし,かつ,繰り返し使えるよう明瞭に記述することが望ましい。

表 D.1−定性的な重大さレベルの例

一般的な用語

想定する危害の程度

重大な

死亡若しくは機能又は構造の損失

中程度の

回復可能又は軽微な傷害

無視できる

傷害を生じない又は僅かな傷害


35

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

表 D.2−簡略化した定性的な確率レベルの例

一般的な用語

想定する確率の記述

発生の可能性が高い,しばしば,頻繁に

発生するが,頻繁ではない

発生しそうにない,まれに,僅かに

確率を行の欄に,危害の重大さを列の欄にとり,3×3 のリスクマトリクスを作成する。推定したリスク

(R

1

,R

2

,R

3

)は,適切なセルにあてはまる。結果を

図 D.2 に示す。

定性的な確率

レベル

定性的な重大さレベル

無視できる

中程度の

重大な

R

1

R

2

R

4

R

5

,R

6

R

3

図 D.23×の定性的リスク評価マトリクスの例

D.3.4.2 

準定量的分析 

ここでは,準定量的分析の例を示す。この尺度が準定量的であるというのは,確率の値を一意には決め

ないで,ある推定した範囲内(大きさの順序など)にあるとしているためである。重大さのレベルについ

ては,相対的な判断によっており,数値的な尺度を当てはめる試みはなされていない。実際には,重大さ

が定量化されることはほとんどない。これは,死亡に至る重大さと,永続的な身体障害又は外科的介入を

必要とする傷害の重大さとの数値的な比較が困難であるためである。

この例では,5×5 のリスクマトリクスを用いる。確率レベル及び重大さのレベルの定義をそれぞれ,

D.3

及び

表 D.4 に示す。

表 D.3段階の定性的な重大さレベルの例

一般的な用語

想定する危害の程度

破局的

患者の死亡

重大な

永続的な障害又は生命を脅かす傷害

きわどい

専門家による医学的介入を必要とする傷害又は障害

軽微な

専門家による医学的介入を必要としない一時的な傷害又は障害

無視できる

不都合又は一時的な不快

表 D.4−準定量的な確率レベルの例

一般的な用語

確率の範囲の例

頻繁 10

3

以上

可能性が高い 10

4

以上 10

3

未満

時々 10

5

以上 10

4

未満

僅かに 10

6

以上 10

5

未満

起こりそうにない 10

6

未満

確率の定義は,種々の製品群ごとに異なっていてもよい。例えば,製造業者は,X 線機器に対して適用

した一連の定義とは異なる別の一連の定義を,使い捨て滅菌包帯に対して選択してもよい。適切な確率の

範囲は,適用分野によって異なる。確率の尺度には,

“使用 1 回当たりの危害の確率”

“機器 1 台当たりの

危害の確率”

“使用 1 時間当たりの危害の確率”などを含めることができる。


36

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

発生確率を分析するときに重要となる重大な要因及び統計量が幾つか存在する。これらの統計量には次

を含むが,これらに限るものではない。

−  ある特定の医療機器の使用頻度はどの程度か

−  その医療機器の寿命は,どのくらいか

−  使用者及び患者集団はどのような構成員か

−  使用者及び患者の数は

−  使用者及び患者は,どのくらいの期間にわたって,どのような状況下にさらされるか

推定されたリスク(R

1

,R

2

,R

3

,…)は,適切なセルに当てはめる。

記入後の 5×5 マトリクスの例を,

図 D.3 に示す。

準定量的な確率

レベル

定性的な重大さレベル

無視できる

軽微な

きわどい

重大な

破局的

頻繁

可能性が高い

R

1

R

2

時々

R

4

R

5

R

6

僅かに

起こりそうにない

R

3

図 D.3−準定量的リスク評価マトリクスの例

3

×3 又は 5×5 以外のマトリクスを利用することができる。ただし,マトリクスのレベルが 5 段階を超

える場合には,それぞれのレベル間で意味のある区別を行うために著しく大量のデータが必要となる。マ

トリクスを決めた根拠,及びそれらを評価した結果を文書化しておくことが望ましい。マトリクスのレベ

ルが 3 段階では,適切な意思決定を行えるだけの十分な確度が得られるとは限らない。上記の例は 3×3

及び 5×5 であったが,正方マトリクスにする必要はない。例えば,4×5 のマトリクスが適用に適してい

ることもある。

D.4 

リスク評価及びリスクの受容可能性 

この規格は受容可能なリスクを規定するものではない。その決定は,製造業者に委ねる。受容可能なリ

スクの決定方法には次を含むが,これに限るものではない。

−  特定の種類の医療機器又は特定のリスクに関して,受容可能性の達成を示した要求事項が実施されて

いれば,それを規定した適用できる規格を使用する。

−  既に使用している医療機器で明らかになっているリスクレベルを比較する。

−  特に新技術又は意図する使用については,臨床試験データを評価する。

設計の時点で存在している技術,実施例などの最新の状況及び利用可能な情報を考慮に入れる。

ここで“最新技術(state of the art)

”とは,実施例として現在一般的に受け入れられているもの,という

意味で用いる。特定の機器について“最新技術”を明らかにするには,様々な方法を用いることができる。

その例を次に示す。

−  同一又は類似の機器に用いられる規格

−  同一又は類似の他の機器での望ましい実施例

−  受け入れられている科学的研究の結果

最新の状況は,必ずしも技術的に最先端の解決策を意味するものではない。

経験によるリスクの推定は,そのリスクに対する認識としばしば異なることがある。よって,リスクの


37

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

受容性を決める場合には,広範囲にわたる利害関係者によるリスクへの認識を考慮するのが望ましい。世

論の動向に合うようにするため,より重み付けをする必要があるリスクがある場合もあるであろう。製造

業者が上記に記載した受容可能なリスクの決定方法を採用するときに,ある特定した利害関係者の関心事

項が社会の価値を反映していて,これらの関心事項を考慮に入れることが,受容可能なリスクの決定の唯

一の選択肢となる場合もある。

受容可能性についての判断基準を適用する一つの方法は,

図 D.4 及び図 D.5 のようなマトリクスにおい

て,どの危害の発生確率と危害の重大さとの組合せなら受容できるか,又は受容できないかを示すことに

よる。このようなチャートは,ある製品及びその個別の意図する使用に,通常は固有なものであるが,必

ずしもそうではない。

定性的な確率

レベル

定性的な重大さレベル

無視できる

中程度の

重大な

R

1

R

2

R

4

R

5

,R

6

R

3

記号(網掛けの部分) 
  受容できないリスク 
□受容できるリスク

図 D.43×の定性的リスク評価マトリクスの例

半定量的な確率

レベル

定性的な重大さレベル

無視できる

軽微な

きわどい

重大な

破局的

頻繁

可能性が高い

R

1

R

2

時々

R

4

R

5

R

6

僅かに

起こりそうにない

R

3

記号(網掛けの部分) 
  受容できないリスク 
□受容できるリスク

図 D.5−準定量的リスク評価マトリクスの例

製造業者の方針によって,マトリクスの受容可能な領域を更に細分する(ほとんど重要でない,更なる

リスク低減の調査など)ことがある(D.8.5 参照)

D.5 

リスクコントロール 

D.5.1 

リスクコントロール手段の選択 

リスクを低減するための手法は幾つか存在し,それらを単独で,又は組み合わせて使用することができ

る。したがって設計者又は技術者は,合理的に実施可能な範囲でどのようにして受容可能なレベルまでリ

スクを低減するか,種種の選択肢について調査することになる。網羅的なリストではないが,一般的に用

いられているリスクコントロール手法には次がある。

a)

本質的に安全な設計を行う。例えば,次がある。

−  ある特定のハザードの排除

−  危害の発生確率の低減


38

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  危害の重大さの低減

b)

防護手段を追加する。例えば,次がある。

−  自動遮断器又は安全弁の使用

−  操作者に危険な状況を知らせる警告表示又はアラームの使用

c)

安全に関する情報を提供する。例えば,次がある。

−  医療機器及び取扱説明書などに警告を表示・記載

−  医療機器の使用又は使用環境の制限

−  不適切な使用,発生の可能性のある危険状態,又はリスク低減に役立つその他の情報についての伝

−  有毒物質又は危険物質を取り扱う場合の,手袋,眼鏡など個人用防護用具の使用の推奨

−  危害を低減する手段についての情報

−  操作する技能,又は誤った操作に気づく能力を高めるための操作者への訓練の提供

−  必要な保守及び保守間隔,予想する最長耐用期間,又は適切な医療機器の廃棄方法の指定

a)

c)の手法は,リスクの低減において,一般によって有効であると認識した順に記載した。設計者又

は技術者は,この順位及びその他の要因を考慮に入れて,どのような手段の組合せを用いるかを決めるこ

とが望ましい。

D.5.2 JIS 

14971

を使用せずに設計した部品及び機器 

医療機器の製造業者にとってブラックボックスの部品,非医療機器区分のサブシステム,この規格の発

行前に設計した医療機器などを,医療機器の構成品として使用する場合は,製造業者は,この規格で規定

した全てのプロセスは適用できない場合がある。この場合には,製造業者は,追加のリスクコントロール

手段の必要性を特別に考慮することが望ましい。

D.5.3 

リスクコントロールの例 

図 D.6 に,一般的に用いられているリスクコントロール手段の例を記載する。これらの手段のどれを用

いるかという決定は,製品に固有及びプロセスに固有なものである。

製品/

プロセス

機器の例

ハザード

本質的な 
安全設計

防護手段

安全に関する情報

単 回 使 用
医療機器

カテーテル

生物(交差)汚

再使用の不能化

初 回 使 用 し た こ と
が 明 白 に 分 か る 表

再使用,及び再使用から
生じる可能性のある有害
事象についての警告

能 動 的 埋
込み機器

ペ ー ス メ ー
カー

電場

非 能 動 的 な 駆 動 及
び制御手段の使用

差 動 増 幅 器 及 び 追
加 フ ィ ル タ ー ア ル

ゴリズムの使用

一般的に発生しそうな危
険状態についての警告

体 外 診 断

用 医 療 機

血液分析器

バ イ ア ス 方 法

に 起 因 し た 不
正確な結果

ト レ ー サ ビ リ テ ィ

の あ る 校 正 物 質 を
使用した設計

ト レ ー ス 可 能 で 信

頼 性 の あ る 管 理 手
段の提供

妥当な数値から結果が逸

脱した場合の使用者への
情報提供

ソ フ ト ウ
ェア

患 者 デ ー タ
管理

間 違 い の 多 い
データ

整 合 性 の 高 い ソ フ
トウェア

チ ェ ッ ク サ ム の 採

表示画面での使用者への
警告

蒸 気 滅 菌

生検機器,手

術用鉗子

高温(材料の劣

化)

高 温 に 対 す る 適 合

性 の あ る 材 料 の 使

圧 力 及 び 温 度 の 監

視及び記録

滅菌時の包装及び滅菌機

器への入れ方に関する指

図 D.6−リスクコントロール手段の例


39

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

D.5.4 

製造プロセス及びリスクコントロール 

製造プロセスのコントロールが不十分な場合は,医療機器の安全に関する要求事項が満たされないこと

もある。例えば,次がある。

−  残留物又は不要な微粒子物の混入

−  表面コーティング,抗張力,耐老朽性,均質性など重要な物理的及び化学的特性への影響

−  重要な公差の逸脱

−  部品の溶接,接着,接合の完全性の低下

このようなリスクをコントロールする製造プロセスの要素を特定することは重要である。

これらのリスクの中には,製造プロセスへの十分な配慮によって最も効果的にコントロールできるもの

もある。このような場合には,ハザード解析重要管理点(HACCP)などの手法が有用である(G.6 参照)

D.5.5 

規格及びリスクコントロール 

製造業者は,ある規格を適用することで,残留リスクの分析作業を簡略できる場合もある。しかし,あ

る医療機器に関連する全てのリスクに対応した規格があるわけではない。

医療機器の本質的な安全設計,防護手段及び安全に関する情報について取り扱っている多くの規格があ

る。ある特定の医療機器について関連のある安全規格が存在する場合には,それらの安全規格を用いるこ

とで,対処する必要があるリスクの一部又は全部を判断できる場合がある。否定する客観的証拠が存在し

ない場合,関連規格の要求事項を満たせば,該当するリスクは受容可能なレベルまで低減できるものとみ

なせるが,製造業者がその機器に適用できるかを検証する必要がある。

D.6 

リスク/効用  分析 

D.6.1 

一般 

この規格では,あらゆるリスクに対してリスク/効用  分析を要求しているのではない。リスクを低減す

るための合理的に実施可能な全ての手段を適用した後に残るリスクを正当化するために,

リスク/効用  分

析を使う。これらの手段を用いた後でも,まだリスクが受容できないと判断した場合,医療機器がその危

害を上回る効用をもたらすか否かの判断を確立するために,リスク/効用  分析は必要となる。

実現可能な全てのリスクコントロール手段がリスクマネジメント計画で決めたリスクの受容可能性につ

いての判断基準を満たさない場合は,一般的には設計を断念することになる。しかし,機器の使用に期待

される効用がそのリスクを上回る場合は,

比較的大きなリスクを正当化できることもある。

この規格では,

製造業者は効用に照らしてリスクを受容できるかどうかを判断するリスク/効用  分析を実施する機会を

もつことができる。

効用がリスクを上回るか否かについての決定は,

本来,

知識及び経験をもつ個人が判断する問題である。

そのリスクにさらされることを防止若しくは低減できる治療法の採用によって,又は代替設計の採用によ

って,期待する臨床的効用を得ることができるかを考察することは,残留リスクが受容できるかの判断に

重要である。効用について考慮する前に,更なるリスク低減が実現できるかを検討するのが望ましい(D.8.4

参照)

。この規格では,リスクを確実に推定するためのプロセスを規定している。残念ながら,効用を推定

するための標準化された手法は存在しない。

D.6.2 

効用の推定 

医療機器による効用は,その使用から期待される健康改善の可能性及びその範囲に関連する。次のよう

な事項に関する知識から効用を推定することができる。

−  臨床使用時に期待される医療機器の性能


40

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  その性能から期待される臨床的結果

−  他の治療の選択肢におけるリスク及び効用に関連する要因

上記の要因に対する証拠がどの程度信頼できるかによって,効用の推定の確からしさが決まる。想定さ

れる結果及び要因はある範囲にわたることが認識されており,次のようなことを考慮する必要がある。

−  異なる結果を比較するのは難しい。例えば,とう(疼)痛が緩和されるが,運動性の喪失が伴う場合

では,どちらの方が好ましくないかを比較するのは難しい。初期には問題とならなかった副作用によ

って,異なった結果になる場合がある。

−  不確定な効用の結果を推定するのは難しい。不確定な結果には,回復期間に現れるものもあれば,長

期的な影響として生じるものもある。

厳格な手法には困難が伴うことから,一般的には簡略化した推定を行う必要がある。よって,通常,各

選択肢について,最も起こりやすい結果,及び最も好ましい又は最も好ましくない結果を考慮している。

臨床的効用の推定は,設計サイクルの各段階に大きく依存する。一貫した製品の性能及び有効性を示す

信頼性の高い臨床データが利用できれば,確信をもって臨床的効用を推定できる。臨床データが量的又は

質的に限定されている場合は,利用可能な関連情報をもとに効用を推定することになるが,より不確実に

なる。例えば,設計サイクルの初期段階であれば,設計意図から期待される健康改善度の推定が必要とな

る場合がある。この場合には関連のある臨床データが存在しないので,品質保証に関わる手法及び体外又

は生体内(in vitro 又は in vivo)での性能特性を考慮し,意図する性能及び期待する臨床的効果が達成され

る可能性を予測することが必要になるであろう。

重大なリスクが存在し,かつ,効用の確実な推定が難しい場合は,代用できる研究又は臨床研究を通し

て,期待される性能又は効能を速やかに検証する必要があるであろう。これは,リスク/効用のバランス

が予想どおりであることを確認し,大きな残留リスクに患者を不当にさらすことがないようにするために

不可欠である。ISO 14155-1 [10]及び ISO 14155-2 [11]は,医療機器の臨床研究の実施及び成果達成につい

ての手順を規定している。

D.6.3 

リスク/効用の判定のための判断基準 

リスク/効用の判定を実施する者は,リスクマネジメントの決定についての専門的,臨床的,規制的,

経済的及び社会的状況を理解し,これらを考慮する責任がある。この責任には,想定する使用状況におい

て当該製品に適用できる規制又は規格に定められた基本的要求事項の解釈も含まれる。このような分析は

製品に特化したものであることから,一般的な側面についてのより詳細な指針はない。現行の規制体系に

よって認知されている規格が存在する場合は,ある製品又はあるリスクを取り扱う規格で規定された安全

に関する要求事項に適合していれば,受容可能なリスクレベルにあると推定することができる。臨床研究

では,規制で決められた手順に従って,医学的効用と残留リスクとのバランスが受け入れられることを検

証する必要がある場合がある。

D.6.4 

リスク/効用の比較 

リスクと効用を直接比較することが妥当であるのは,共通の尺度が使える場合に限られる。共通の尺度

を用いる場合は,リスク/効用の比較を定量的に評価してもよい。リスクと効用を間接的に比較する場合

は,共通の尺度を使用するのでなく,定性的に評価する。定量的又は定性的かを問わず,リスク/効用の

比較には,次を考慮に入れることが望ましい。

−  最初に,該当するハザード及び製品のクラス分類について文献を検索することは,効用対リスクにつ

いて意味のある比較が得られる可能性がある。

−  高効用/高リスクの機器は,通常,最良の技術が使われており,ある医学的効用をもたらすものの,


41

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

損傷又は疾病のリスクを完全には取り除くことはできない。したがって,正確なリスク/効用  分析に

は,

実際の医療に関連した最新の技術を理解することが必要となる。

他の市販製品と比較することで,

リスク/効用を比較してもよい。

−  ある機器が受容可能なリスク/効用の判断基準を満たしていることの妥当性を示すために,臨床試験

がしばしば必要となる。臨床試験で効用及びリスクを定量化する場合もある。また,臨床試験では,

患者だけでなく,使用者及び医療従事者を含めて社会的に受け入れられるかを評価することもできる。

−  高リスク/高効用の機器では,使用を開始する前に,リスク/効用に関する適切な判断を下せるよう

に,使用者,患者及び医療従事者に十分な情報を提供することが望ましい。

−  高リスク/高効用の機器については,通常,規制における追加要求事項があり,市販前にこれを満た

す必要がある。

−  リスク/効用  分析を必要とする新規製品又は改良製品を市場に出すに当たり,製造業者は,リスク/

効用の推定に関連する利用可能な情報を要約し,適用できる根拠とともにリスク/効用  分析を実施し

た結論を文書化することが望ましい。臨床データの検索についてのガイダンスは,ISO 14155-1:2003

[10]

附属書 にある。

D.6.5 

リスク/効用についての決定の例 

例 1  電気手術器(電気メス)の対極板が患者に適切に取り付けられていない場合には,熱傷が発生

する可能性がある。関連する製品規格に適合することによって,そのような熱傷の確率は最小

限に抑えられるが,熱傷は依然として発生する。しかし,他の外科的術式と比較した場合には,

電気手術器を使用する効用は,熱傷の残留リスクを上回る。

例 2  X 線を患者に照射する場合,何かしらの危害を生じることは知られているが,通常の画像診断

の臨床有効性によって,その使用を正当化している。しかし,放射線が患者に及ぼす不要な影

響は完全には無視できないため,患者への不必要な放射線被ばくを最小限に抑え,リスク/効

用の判定を具体的に行うための規格が幾つかある。現行の規格の適用範囲を外れる電離放射線

の画像診断法への新規適用の場合には,製造業者は,リスク/効用  分析の結果が代替製品及び

代替治療と同等以上に好ましいものであることを検証するのが望ましい。

例 3  電極配列をもつ埋め込み形受信刺激装置など,内耳のか(蝸)牛用インプラント部品の一部は,

一旦埋め込まれると容易に交換できない。これらの部品は,生涯にわたって埋め込まれた状態

であり続けることを意図しており,数年∼数十年間にわたって信頼性を維持することが要求さ

れている(これは,特に若年成人又は小児の場合に重要な考慮事項である)

。特定の故障メカニ

ズムについて,これらの部品の加速信頼性試験を実施することができる。しかし,数十年間に

渡り持続する必要のある部品の信頼性が妥当であることを確認することは現実的ではない。し

たがって,機器の故障の可能性を含む全体的な残留リスクと,聴覚改善の可能性によってもた

らされる効用とを比較することになる。全体的な残留リスクを決めるのは,部品の信頼性推定

及び妥当性の確認ができない部品の信頼性推定値に対する確度である。残留リスクが効用を上

回る場合もあれば,効用がリスクを上回る場合もある。

D.7 

全体的な残留リスクの評価 

D.7.1 

一般 

全体的な残留リスクの評価は,残留リスクを広い視野から見直すことである。製造業者は,受容可能性

の判断基準の観点から,残留リスクをどのように評価するかを考慮する。


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

全体的な残留リスクの評価についての知識,経験及び権限をもつ者が評価を実施する。該当する医療機

器についての知識及び使用経験をもつ臨床専門家が参加することが望ましい場合が多い(3.3 参照)

。全体

的な残留リスクの評価に決定的な方法はなく,製造業者は適切な方法を決定する責任がある。選択すると

きに考慮しなければならない事項とともに,幾つか考えられる手法を示す。

D.7.2 

事象の木解析 

ある一連の事象は,

幾つかの異なるリスクをもたらし,

その個々のリスクが全体的な残留リスクとなる。

例えば,単回使用機器の再使用では,再感染,有毒物質の浸出,経時変化による機械的な故障,及び生体

に不適合な消毒剤の残留が生じる可能性がある。事象の木は,これらのリスクを解析するのに適した方法

といえる。全体的な残留リスクが受容できるかどうかの判定では,個々の残留リスクを共に考慮する必要

がある。

D.7.3 

相反する要求のレビュー 

個々のリスクに適したリスクコントロール手段は,お互いに相反する要求となる場合がある。例えば,

意識不明の患者が診察台から落下によって生じるリスクに対処するための警告は,“意識不明の患者を付

き添いなしで放置してはならない”ということになるが,これは,操作者の X 線照射からの防護を目的と

した“患者から離れて X 線照射を行う”という警告と相反する。

D.7.4 

故障の木解析 

患者又は使用者への危害は,様々な危険状態から生じる(

附属書 参照)。そのような場合,全体的な

残留リスクの推定に用いる危害の確率は,個々の確率の組合せによって決まる。故障の木解析は,組み合

わせた危害の確率を引き出すのに適した方法といえる。

D.7.5 

警告のレビュー 

警告は,それ自体では十分なリスク低減となる可能性があるが,警告の数が多過ぎれば個々の警告の効

果は薄れる。警告を頼りにし過ぎていないかどうか,更にそのような過度の依存がリスク低減及び全体的

な残留リスクに影響しないかを評価することが必要な場合がある。

D.7.6 

操作手順のレビュー 

機器の全ての操作手順を考慮することによって,情報に整合性が取れていない,難し過ぎて手順が守れ

ないなどが明らかになることもある。

D.7.7 

リスクの比較 

もう一つの方法は,該当する医療機器による個々の残留リスクを既存の類似機器に伴うリスクと照合し

ながら比較することである。例えば,異なった使用状況を考慮に入れてリスク対リスクの比較を行う。そ

のような比較では,注意して既存の医療機器の有害事象についての最新情報を用いることが望ましい。

D.7.8 

臨床専門家によるレビュー 

最終的に医療機器を使用してよいかの判断は,機器の使用に伴う患者への効用を評価することが必要と

なる可能性がある。一つの手法は,当該医療機器の開発に直接は関与しなかった臨床専門家から,全体的

な残留リスクを新鮮な見方で評価してもらうことである。代表的な臨床環境下で機器を使用した場合のユ

ーザビリティなどの側面を考慮しながら,臨床専門家は残留リスクの全体的な受容可能性を評価し,確認

することになる。

D.8 

合理的に実施可能なできるだけ低い領域にする手法(As-low-as-reasonably-practicable approach: 

ALARP

 

D.8.1 

一般 


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

リスクの受容可能性についての方針を確立するときに,製造業者は,合理的に達成可能な範囲でできる

だけリスクを低減する方法を用いるのが妥当なことに気づく場合もある。リスクコントロール手段を選択

し適用した結果として,次のいずれかがある。

a)

製造業者のリスクの受容可能性に関する判断基準を残留リスクが上回る。

b)

無視できるほど残留リスクが低く受容可能なリスクである。

c)

残留リスクは,a)及び b)で示した二つの状態の中間にある。これらのリスクについては,そのリスク

を受容することによる効用の推定及びリスクをそれ以上低減するためにかかるコストを考慮に入れ,

残留リスクを実施可能な最も低いレベルまで低減することによって,受容可能となる。

“合理的に実施可能なできるだけ低い領域にする手法”は,リスクコントール手段の一部として使

用できる場合もある(6.2 参照)

。通常発生確率が推定できないリスクについては,この手法を用いる

可能性がある。

D.8.2 

リスクレベル 

誰もが経験し,受け入れている日常的なリスクと同等であるとみなされるリスクレベルよりも小さな残

留リスクは無視できるといえる。

無視できるほどに小さい残留リスクと,そのリスクレベルよりも大きいが,関連する効用があり,かつ,

これ以上のリスク低減が実施不可能であることから受け入れられる残留リスクとは,区別することが重要

である。

リスクを推定した場合は,最初にそのリスクが既に無視できるほど小さく,リスクの低減手段の選択を

検討する必要がないかどうかを決定する。各々のリスクについて一度はこの決定をする。

D.8.3 

リスクコントロール手段の選択 

無視できないと決定したリスクについてリスクを低減する手段の選択を検討する。リスクの低減は実現

可能な場合もあれば,できない場合もあるので,検討するのが望ましい。考えられる検討結果には,次の

いずれかがある。

−  一つ又は複数のリスクコントロール手段が,無視できるレベルまでリスクを低減しており,更に検討

する必要はない。

−  リスク低減ができるかどうかにかかわらず,無視できるレベルまでリスクを低減することは現実的で

はない。

リスクコントロール手段を適用した後の残留リスクは,リスクマネジメント計画で定義した判断基準を

用いて評価することが望ましい。残留リスクが製造業者のリスクの受容可能性についての判断基準を上回

らず,かつ,実施可能なできるだけ低い領域にする手法を用いた場合には,それ以上のリスク低減は必要

ない。

D.8.4 

実施可能性についての留意事項 

患者の症状が改善されるならば,医療機器の使用によって生じるどのようなリスクも受容可能であると

の考えを,避けられるリスクを低減することなしに受け入れる根拠に用いることはできない。最新技術,

リスクを受容することによってもたらされる効用,

及び更なるリスク低減の実施可能性の三つを考慮して,

実施可能な最も低いレベルまで全てのリスクを低減することが望ましい。

そのリスク低減の実施可能性は,製造業者がどこまでリスクを低減できるかによる。実施可能性は,次

の二つの要因がある。

−  技術的な実施可能性

−  経済的な実施可能性


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

技術的な実施可能性とは,コストにかかわらずリスクを低減できることである。次の例は,技術的な実

施可能性があるといえるかどうか疑わしい。

−  警告又は注意ラベルがあまりに多く,使用者が医療機器を操作する場合の妨げとなる。

−  過剰なアラームによって混乱を生じる。

−  附属文書に記載する残留リスクの情報があまりに多くて,本当に重要な残留リスクはどれかを操作者

が把握しにくい。

−  リスクコントロール手段の結果,医療機器の使用手順が複雑になり過ぎて,意図する使用が損なわれ

る。

−  リスクコントロール手段の適用によって意図する使用が損なわれる(例えば,電気手術器の出力を有

効レベルより下げる)

経済的な実施可能性とは,

医療機器の価格を不当に押し上げることなくリスクを低減できることをいう。

これらの決定には,リスクの受容と,治療又は診断の効用とのトレードオフの判断が必要になる。人の健

康の維持,促進又は向上に影響する範囲で,どこまでリスクを低減できるかを決定する場合に,コストと

有用性との兼ね合いを考慮する。しかし,経済的な実施可能性を避けられるリスクを受け入れる根拠に用

いてはならない。次の例は,経済的な実施可能性があるといえるかどうか疑わしい。

−  除細動器の重要コンポーネントを全て二重化にする。

製造業者が決めたリスクの受容可能性についての判断基準を少しでも上回りそうなリスクは,通常,相

当のコストを払ってでも低減することが望ましい。無視できる領域に近い場合は,容易に実施可能でない

限り,それ以上のリスク低減は必要ないといえる。

合理的に達成可能な範囲でできるだけリスク低減する手法(as-low-as-reasonably-achievable approach)を

用いる場合もある(放射線防護など)

。この場合,実施可能性ではなく達成可能性を考慮に入れる。これは,

技術的な達成可能性だけを考慮に入れ,経済的な実施可能性を無視することを意味する。

D.8.5 

事例 

図 D.7 は,マトリクスのリスクが受容できる領域を,無視できるリスク領域(Insignificant risk)と更な

るリスクの低減検討が必要な領域(Investigate further risk reduction)に分けたリスクチャートの事例である。

推定リスク R

1

,R

2

,R

3

を適切な欄に割り当てている。

半定量的な確率

レベル

定性的な重大さレベル

無視できる

軽微な

きわどい

重大な

破局的

頻繁

可能性が高い

R

1

R

2

時々

R

4

R

5

R

6

僅かに

起こりそうにない

R

3

記号の説明(網掛けの部分)

  受容できないリスク 
  更なるリスク低減検討が必要なリスク 
□無視できるリスク

図 D.7−三つの領域評価マトリクスの例


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 E

(参考)

ハザード,予見可能な一連の事象及び危険状態の例

E.1 

一般 

4.3

は,製造業者に対して,医療機器の正常状態,故障状態の両方について,医療機器に関連する既知及

び予見可能なハザードのリストを作成することを要求している。4.4 は,製造業者に対して,危険状態及び

危害の原因になると予見できる一連の事象の検討を要求している。定義によれば,一連の事象又はその他

周囲の状況(正常使用を含む)によって危険状態が生じない限り,ハザードが危害に至ることはない。危

険状態の発生の段階では,発生に至る危害の重大さと発生確率を推定することによってリスクを評価でき

る(

図 E.1 を参照)。

注記  P

1

は,危険状態の発生確率を示す。

P

2

は,危険状態が危害に至る確率を示す。

図 E.1−ハザード,一連の事象,危険状態及び危害の関係の図式

ハザードのリスト作成は,同じか又は類似の医療機器に関連する経験を見直すことから始めるのが適切

である。この見直しでは,自社の経験のみならず,有害事象データベース,刊行物その他利用可能な情報

源で報告されている他社の経験も考慮することが望ましい。機器に典型的な危険状態及びそれに起因して

発生しうる危害を特定しリストを作成する上で,この見直しは特に有用である。次に,作成したリスト及

表 E.1 の事例リストなどの補助ツールは,ハザードを初めて特定する場合に利用してもよい。

ハザードと共に危険状態及び危害の発生に至る一連の事象の幾つかは,この時点で特定を開始できる。

ハザードの多くは危害には至らない可能性があるため,

更なる検討対象から外すことができる場合がある。

従って機器に関連して発生しうる危害の分析から始めて,そこから遡る方法が効果的である。この手法は

上記理由で有効であるが,完全な分析ではないことを認識するのが望ましい。

附属書 に記載されるリス

ク分析手法等を系統立てて使用することによって,一連の事象の多くは特定できるであろう。

表 E.2 に示

(ハザードの顕在)P

1

危害の発生確率

危害

危険状態

危害の重大さ

リスク

P

2

一連の事象

P

1

×P

2

ハザード


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

すように,考慮すべき多くの引き金となる事象(E.3 参照)及び周囲の状況によって,分析及び特定は更

に複雑となる。したがって,包括的な分析を実施するには,二つ以上のリスク分析手法を使用し,場合に

よっては補助的な手法も使用する必要がある。

表 E.3 にハザード,一連の事象,危険状態と危害との関係

の例を示す。

リスクコントロールを容易にするため,設計及び開発プロセスのできるだけ早い段階でハザード,危険

状態,及び一連の事象のリストの作成を完了しておくことが望ましいが,特定及びリストの作成は,実際

の運用では製造後も続く継続的な活動である。

この附属書では,種々の医療機器に関連するハザードのリスト(

表 E.1)を示すが,これは全てを網羅

しているわけではない。また,引き金となる事象及び周囲の状況で,危険状態を生じ結果的に危害に至る

事例のリスト(

表 E.2)を示す。表 E.3 は,一連の事象又は周囲の状況によってハザードがどのようにし

て危険状態となり,危害に至るかの過程の例を示す。

ハザードが危険状態に至る過程を認識するのは,結果的に生じる危害の発生確率及び重大さを推定する

上で不可欠である。このプロセスは,包括的に危険状態を網羅することが目的である。ハザード及び一連

の事象を認識するのはこのための足掛かりとなる。この附属書の各表のリストは,危険状態を特定する手

助けとして使用できる可能性がある。何をハザードとするかについては,個別の分析目的に合うように製

造業者が決定する必要がある。

E.2 

ハザードの例 

表 E.1 のリストは,個別の医療機器に関連して,患者又はその他に最終的に危害を生じさせるハザード

を特定する手助けとして使用できる。


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

表 E.1−ハザードの例

エネルギーに関連する

ハザードの例

生物学的及び化学的な

ハザードの例

操作に関連する

ハザードの例

情報に関連する

ハザードの例

電磁エネルギー 
  商用電圧 
  漏れ電流

−  外装漏れ電流 
−  接地漏れ電流 
−  患者漏れ電流

  電界 
  磁界 
放射線エネルギー

  電離放射線 
  非電離放射線 
熱エネルギー

  高温 
  低温 
機械的エネルギー

  重力

−  落下 
−  懸垂物体

  振動 
蓄積エネルギー 
  可動部分

  ねじれ,ずれ,及び張力 
  患者の移動及び位置決め 
音響エネルギー

−  超音波エネルギー 
−  不可聴音響エネルギ

−  音

高圧液体流入

生物学的なハザード

細菌 
ウイルス

その他の病因(プリオン

など)

再感染又は交差感染

化学的なハザード 
−  気道,組織,環境又は

設備が異物などにさら

される

−  酸又はアルカリ 
−  残留物

−  汚染 
−  添加物又は加工助剤
−  洗浄剤,消毒剤又は

試験薬剤

−  劣化物 
−  医療ガス

−  麻酔物質

生体適合性

化学成分の毒性

例えば

−  アレルギー誘発性/

刺激性

−  発熱性

機能的なハザード

不正確又は不適切な出力

若しくは機能性

不正確な測定 
間違ったデータ転送 
機能の喪失又は劣化

誤使用に関連するハザード

不注意 
物忘れ

規則に基づく失敗 
知識に基づく失敗 
日常的な違反

ラベリング

使用上の注意の不備 
性能特性の説明の不備

意図する使用に関する不

適切な仕様

限界値に関する不適切な

開示

操作指示

医療機器附属品の仕様の

不備

使用前点検に関する不適

切な仕様

複雑すぎる操作指示

警告

副作用に対する警告

単回使用医療機器を再使

用した場合のハザード
に関する警告

サービス及び保守の仕様

E.3 

引き金となる事象及び周囲の状況の例 

予見できる一連の事象を特定するためには,引き金となる事象及び周囲の状況についての検討が有効で

ある場合が多い。

表 E.2 は,引き金になる事象及び周囲の状況の例を一般的な分類にまとめたものである。

このリストは網羅的なものではないが,医療機器に関連して予見可能な一連の事象を特定する場合に,考

慮する必要がある引き金になる事象及び周囲の状況を多岐にわたって示すことを意図している。


48

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

表 E.2−引き金となる事象及び周囲の状況の例

一般的な分類

引き金となる事象及び周囲の状況の例

不完全な要求事項

次に関する不完全な仕様

−  設計のパラメータ 
−  操作のパラメータ 
−  性能の要求事項

−  サービスに関する要求事項(保守,再処理など) 
−  製品寿命

製造プロセス

製造プロセス変更管理が不十分 
材料又は材料の適合性に関する情報の管理が不十分 
製造プロセス管理が不十分

下請負業者の管理が不十分

輸送及び保管

不適切な包装

汚染又は劣化 
不適当な環境条件

環境要因

物理的要因(熱,圧力,時間など) 
化学的要因(腐食,分解,汚染など) 
電磁場(電磁干渉による影響など)

電力の不適切な供給 
冷却材の不適切な供給

洗浄,消毒及び滅菌

洗浄,消毒及び滅菌に関する有効な手順が存在しない,又は不適切な仕様

洗浄,消毒及び滅菌の不適切な実施

廃棄及び解体

情報が提供されない,又は不適切な情報提供

誤使用

組成

生分解性

生体適合性 
情報が提供されない,又は提供された仕様が不適切 
不正確な組成に起因するハザードに関する不適切な警告

誤使用

人的要因

設計上の欠陥に起因する誤使用の可能性,例えば次がある。

−  取扱い説明がない,又は分かりにくい。 
−  制御システムが複雑又は分かりにくい。 
−  医療機器の状態が紛らわしい,又は明確でない。

−  設定,計測値又はその他の情報の表示が紛らわしい,又は明確でない。 
−  結果の誤表示 
−  視認性,可聴性又は感触性が不十分

−  動作に対する制御の割当て,又は実際の状態に対する表示情報の割当てが不適切
−  既存の装置と比べ問題を引き起こしやすいモード又は配置 
−  熟練していない,又は訓練を受けていない者が使用

−  副作用に関する警告が不十分 
−  単回使用医療機器を再使用した場合のハザードに関する警告が不適切 
−  計測及びその他の計量が不正確

−  消耗品,附属品及びその他の医療機器との不適合 
−  うっかりミス,過失及び誤り

故障モード

電気的又は機械的な完全性の予想外の喪失

老化,摩耗及び反復使用による機能の劣化(例えば,液体又はガス流路が徐々に閉塞
する,流動抵抗及び電気伝導度の変化) 
疲労故障


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

E.4 

ハザード,予見可能な一連の事象,危険状態と起こりうる危害との関連の事例 

表 E.3 にハザード,予見可能な一連の事象,危険状態と危害との関係について簡略化した例を示す。さ

らに,間接的なリスクを伴う一連の事象の一般的な例として,体外診断用医療機器の場合を,

図 H.1 に示

す。

一つのハザードから複数の危害が発生することもあり,また,複数の一連の事象が併発することで,危

険状態が引き起こされる場合もあるので留意する。

実施する個別の分析に合わせて,何が危険状態であるかを決定する必要がある。場合によっては高電圧

端子のカバーが開いたままになっているのを危険状態とすることがよい場合もあるし,又は人が高電圧端

子に接触しているのを危険状態とすることがよい場合もある。

表 E.3−ハザード,予見可能な一連の事象,危険状態と起こりうる危害との関連

ハザード

予見可能な一連の事象

危険状態

危害

電磁エネルギー 
(商用電圧)

(1)

電極ケーブルを間違えて商用電源ソケットに接
続する

商用電圧が電極上に生
じる

重篤な熱傷 
心臓の細動

死亡

化学物質

(揮発性溶剤)

(1)

製造工程で使用した揮発性溶剤を完全に洗浄し

きれていない

(2)

溶剤残留物が体温で気化する

透析時に血流中で気泡

が発生する

ガス塞栓症

脳障害 
死亡

生物学的 
(微生物による
汚染)

(1)

再使用麻酔チューブの浄化についての指示が不
適切である

(2)

麻酔時に汚染したチューブを使用する

麻酔時に患者の気道内
に細菌が付着する

細菌感染 
死亡

電磁エネルギー 
(静電気)

(1)

静電気に帯電した患者が注入ポンプに触れる

(2)

静電気が原因となってポンプ及びポンプアラー

ムが故障する

(3)

患者にインスリンが投与されない

患者にインスリンが投
与されていないことに

気付かず,血糖値が上
昇する

軽微な臓器障害
意識低下

こん(昏)睡,
死亡

機能

(出力停止)

(1)

植込み形除細動器のバッテリーが寿命に達する

(2)

臨床的な経過観察受診間隔が不適切に長い

不整脈の発生時に除細

動機能が作動しない

死亡


50

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 F

(参考)

リスクマネジメント計画

F.1 

一般 

リスクマネジメント計画は個別の文書であってもよいし,又は品質マネジメントシステム文書などの他

の文書を構成する一部であってもよい。単独で 3.4 の要求事項を満たす文書であってもよいし,他の文書

を参照してもよい。

計画の構成及び記載レベルは医療機器に関連するリスクのレベルに見合ったものであることが望ましい。

3.4

の要求事項は,リスクマネジメント計画の最低限の要求事項である。製造業者は,工程表,リスク分析

ツール,又は特定のリスク受容基準を選択した理由説明など,その他の項目を加えることができる。

F.2 

計画の範囲 

計画の範囲は,医療機器,及びライフサイクルの各段階で適用する計画の要素を特定し説明する。

製造業者が規定する製品のライフサイクルに,リスクマネジメントプロセスの全ての要素を割り当てる

ことが望ましい。リスクマネジメントプロセスの一部の要素は,設計管理など,製造業者が確立した製品

実現プロセス(ISO 13485:2003 [8]を参照)の段階で適用することになる。残りの要素は,製品の使用停止

に至るまでの他のライフサイクル段階で適用する。各要素の割当ては,個々の製品のリスクマネジメント

計画で明示するか,又は他の文書の参照によって示す。

リスクマネジメント活動は必ず計画する必要があるが,製造業者はライフサイクルのそれぞれの部分を

対象とした複数の計画をもってもよい。計画がどの範囲を対象とするかを明確にすることで,確実にライ

フサイクル全体を対象とすることが可能である。

F.3 

責任及び権限の割当て 

個別のリスクマネジメント活動を実施する責任者をリスクマネジメント計画で特定することが望ましい。

例えば,審査担当者,専門家,独立した検証担当専任者,承認権限をもつ者などである(3.2 参照)

。この

割当ては,製品設計プロジェクトのために規定した人的資源の配分表に含めてもよい。

F.4 

リスクマネジメント活動のレビューについての要求事項 

対象とする医療機器についてマネジメントレビューの方法及び実施時期の詳細をリスクマネジメント計

画で規定することが望ましい。リスクマネジメント活動を見直すという要求事項は,その他の品質システ

ムの見直しについての要求事項の一部とすることもできる(

例  ISO 13485:2003 [8],7.3.4 を参照)。

F.5 

危害の発生確率が推定できない場合を含めたリスクの受容可能性についての判断基準 

リスクの受容可能性に関する判断基準を決定するための製造業者の方針に従い,その基準を決める(D.4

参照)

。同じ分類に属する医療機器に対しては,共通の基準を設けてもよい。リスクの受容可能性の判断基

準は,製造業者が確立した品質マネジメントシステムの一部としてリスクマネジメント計画で参照しても

よい(

例  ISO 13485:2003 [8],7.1 を参照)。


51

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

F.6 

検証活動 

この規格が要求する二つの検証活動の実施方法は,リスクマネジメント計画で規定する(A.2.6.3 も参照)

リスクコントロール手段の効果の検証では,臨床データ,ユーザビリティ調査などの収集を必要とする場

合がある(2.28 も参照)

。リスクマネジメント計画では,検証活動を明確に記載するか,又は他の検証活動

の計画を利用することができる。

F.7 

関連する製造後情報を収集する方法 

製造後情報を収集する方法は,策定された品質マネジメントシステムの手順に含めてもよい(

例  ISO 

13485:2003 [8]

8.2 を参照)

。製造業者は一般的な手順を確立して使用者,サービス要員,訓練要員,事故

報告担当者,及び顧客からのフィードバックなどの種々の情報源から情報を収集することが望ましい。ほ

とんどの場合は品質マネジメントシステム手順に言及すれば十分であるが,製品に固有の要求事項に関し

ては直接リスクマネジメント計画に追加することが望ましい。

対象とする医療機器にはどのような製造後調査が適切であるか,リスク分析に基づく決定事項を文書化

し,これをリスクマネジメント計画に含めることが望ましい。例えば,受身的な収集で十分か,又は積極

的な調査が必要かなどがある。臨床的な評価を必要とする場合には,その詳細を規定するのが望ましい。


52

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 G 
(参考)

リスクマネジメント手法に関する情報

G.1 

一般 

この附属書は,4.3 のリスク分析に利用可能な幾つかの手法についての指針を与える。これらの手法は補

足的なものであって,このうち複数の手法を使用する必要な場合もある。段階を追って一連の事象を分析

することが基本ある。

予備的ハザード解析[Preliminary Hazard Analysis: (PHA)]は,開発初期のプロセスにおいて利用できる

手法であり,医療機器の設計の詳細が決まっていない段階において,予測されるハザード,危険状態,及

び危害を生じうる事象を特定する。

故障の木解析[Fault Tree Analysis: (FTA)]は,開発初期段階での安全工学において,ハザード及び危険

状態を特定し優先順位付けする場合や有害事象を解析する場合に特に有用である。

故障モード影響解析[Failure Mode and Effects Analysis: (FMEA)]及び故障モード影響重大度解析[Failure

Mode, Effects and Criticality Analysis: (FMECA)

]は,個々の構成要素の影響又は結果を体系的に特定するた

めの手法であり,設計の完成度が高い段階で使うのに適している。

ハザード及び操作性解析[Hazard and Operability Study: (HAZOP)]及びハザード解析重要管理点[Hazard

Analysis and Critical Control Point: (HACCP)

]は,通常は開発段階の後期において,設計の概念又は設計変

更を検証し最適化するために使われている。

G.2 

予備的ハザード解析[Preliminary Hazard Analysis: (PHA) 

PHA

は,対象とする活動,施設又はシステムに対して,ハザード,危険状態及び危害を生じうる事象の

特定を目的とした帰納的解析方法である。PHA は,開発初期の,設計及び操作手順の詳細がほとんど決ま

っていない場合に最も一般的に実施されるものであり,しばしば今後の検討の先駆けになる。PHA は,既

存のシステムの解析又は,より詳細な分析手法が使えないような状況において,ハザードを優先付けする

場合にも有用である。

PHA

では,次のような特性を検討することによって,ハザード及び一般的な危険状態のリストを作成す

る。

a)

使用又は生産した材料及びそれらの反応性

b)

採用した機器

c)

作業環境

d)

配置

e)

システム構成要素間のインタフェイスなど

この方法は,事故の発生確率の特定,結果的に生じる可能性のある損傷又は健康への障害の程度の定性

的な評価及び可能な低減手段の特定をする。得られた結果は,表,樹状図など種々の方法で表す。

PHA

の詳細な手順については,IEC 60300-3-9:1995 [21],A.5 を参照する。

G.3 

故障の木解析[Fault Tree Analysis: (FTA) 

FTA

は,主として,他の諸手法で特定されたハザードを分析する手段であり,想定された好ましくない


53

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

結果(トップ事象とも呼ばれる)から出発する。トップ事象から始まる演えき的手法によって,可能性の

ある原因又は好ましくない結果を引き起こす一段ずつ低い機能システムレベルでの故障モードが特定でき

る。好ましくないシステム動作を段階的に順次低いシステムレベルまで特定することによって,コンポー

ネント故障モードか,リスクコントロール手段を適用することが可能な最低限のレベルか,通常はいずれ

かの目的とするシステムレベルまで到達することになる。これによって,想定された結果を導き出す組合

せが明らかとなる。

結果は,図式的に故障モードの木の形で表現する。木の各レベルで,故障モードの組合せを,演算子(AND,

OR

等)で記述する。木の中で特定された故障モードは,ハードウェアの故障及びソフトウェアの間違い,

ヒューマンエラー又は好ましくない事象に導かれるその他の関連事象である。それらは単一故障状態には

限定されない。

FTA

は,体系的アプローチを可能とし,同時に十分に柔軟性があるので人的相互作用を含む様々な要因

の分析ができる。FTA は,リスク分析において,故障の確率を推定するとともに,危険状態に至る単一故

障及び一般的なモード故障を特定するためのツールとして用いられる。図式的表現は,システムの動作と

関連する要因を容易に理解できるが,木が大きくなるとともにその処理はコンピュータシステムが必要に

なる。このようなコンピュータシステムは,容易に入手できる。

FTA

の詳細な手順については,IEC 61025 [28]を参照する。

G.4 

故障モード影響解析[Failure Mode and Effects Analysis: (FMEA) 

FMEA

は,個々の故障モードの結果を体系的に特定し評価する手法である。これは“もし…ならば,何

が起こるか”という問いを用いた帰納的手法である。構成要素は,一度に一つずつ分析され,一般的に単

一故障状態まで検討される。これは,

“ボトムアップ”方式で行われる。つまり,プロセスを進めることで

一段ずつ高い機能システムレベルに上がっていく。

FMEA

は構成要素の設計における故障に限定せず,構成要素の製造及び組み立てにおける故障(プロセ

ス FMEA)

,及び最終使用者による製品の使用又は誤使用における故障(適用 FMEA)を含めることもで

きる。FMEA を拡大し,個々のコンポーネント故障モードの調査結果,それらの発生確率及び検出可能性

(この規格においては検出によって予防手段が可能となる程度に限る)

及び結果の重大さの程度を統合す

ることができるが,この場合には,故障モード影響重大度解析[Failure Mode,Effects and Criticality Analysis

(FMECA)

]ということになる。このような分析を行うには,医療機器の構造をある程度詳細に知ることが

必要である。

FMEA

は,誤使用を取り扱うのにも有用な手法である。この手法の弱点は,冗長性の取扱いが困難なこ

と,修理又は予防的保守活動の取込みが困難なこと及び単一故障状態に限定されることである。

FMEA

の詳細な手順については,IEC 60812 [27]を参照する。

G.5 

ハザード及び操作性解析[Hazard and Operability Study: (HAZOP) 

HAZOP

は,FMEA に類似している。HAZOP は,設計又は操作性の意図するところからの逸脱が原因と

なっている事故を想定する理論に基づいている。ハザード及び運用の諸問題を特定するための体系的手法

である。当初は化学プロセス産業での使用のために開発された。化学産業での HAZOP の使用は,設計意

図からの逸脱に重点が置かれているが,医療機器の開発者にとっては別の応用がある。HAZOP は,医療

機器の操作/機能(

例  設計意図として疾病の診断,処置又は緩和のために使用する既存の諸方法/プロ

セス)又は医療機器の機能に著しく影響する医療機器(

例  滅菌)の製造若しくは保守/サービスで用い


54

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

られるプロセスに適用することができる。HAZOP の二つの特徴を次に示す。

−  医療機器の設計及びその応用にわたる専門知識をもつ人々のチームで使用する。

−  ガイドワード(NONE,PART OF など)は,正常な使用からの逸脱の特定を助けるために使用する。

この手法の目的は,次による。

−  医療機器の完全な記述,及びそれがどのような使用を意図するかを作成する。

−  正常な動作状態及びその意図する設計からの逸脱がどのようにして生じるかを突き止めるために,意

図する使用のあらゆる部分を体系的に審査する。

−  そのような逸脱の結果を特定し,これらの結果がハザード又は操作性の諸問題につながるかどうかを

決定する。

医療機器の製造に使用するプロセスに適用し,更に医療機器の特質が製造工程に依存する場合は,上記

の最後の目的は特に有益である。

HAZOP

の詳細な手順については,IEC 61882 [29]を参照する。

G.6 

ハザード解析重要管理点[Hazard Analysis and Critical Control Point: (HACCP) 

HACCP

は,ハザードを特定,評価及びコントロールするための系統的な方法である。当初は宇宙飛行

士の食中毒を予防するためにアメリカ航空宇宙局[the National Aeronautics and Space Administration

(NASA)

]で開発された。HACCP は,原則及び規定された用語に基づいている。医療機器へ適用する場合

は,HACCP はプロセス,特に製造プロセスから生じる製品ハザードの起因のコントロール及び監視を行

うために用いられる。

HACCP

のコアカリキュラムは,次の七つの原則で成り立っている。

なお,括弧内の箇条はこの規格に対応する箇条を示す。

原則 1

ハザード分析の実施(4.3)及び予防手段の明確化(6.2

原則 2

重要管理点(CCP)の決定(6.2

原則 3

管理基準の設定(4.2 及び箇条 5

原則 4

各 CCP の監視(6.3 及び箇条 9

原則 5

是正措置の設定(箇条 9

原則 6

検証手順の設定(6.3 及び箇条 9

原則 7

記録保管手順及び文書化手順の設定(3.5 及び箇条 8

各製品は,その意図する使用に関連する独自のハザードをもっている。設計,製造,サービス,使用,

廃棄など種々のライフサイクル段階において,事象(原因又は関連する要因)によって危険状態が開始さ

れる可能性がある。ハザードの種類の例については,

附属書 を参照する。

特定したハザードの継続的コントロール及び監視

(HACCP 原則 2,

3

及び 4)

に重点を置くことが,

HACCP

システムを有効にする。製造業者は,プロセスマップ,プロセスハザード分析及び重要管理点の計画

(HACCP 原則 7)を系統的に文書化し確立することによって,設定したコントロール手段(HACCP 原則

5

及び 6)の有効性を実証する。

HACCP

システムでは,記録保管用に文書化された証拠として,次のツールを使用する。

a)

プロセスのフロー図  この図の目的は,プロセスに含まれるステップを明快,かつ,平易に説明する

ことである。この図は,HACCP チームにとっては,その後の作業において必要なものである。また,

この図は,検証活動のためにプロセスを理解しなければならないその他の人々にとっても,詳細な指

針として役立つ。フロー図の適用範囲は,製造業者が直接管理する処理ステップを全て網羅するのが


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

望ましい。

b)

ハザード分析ワークシート  ハザード分析とは,ハザード及びその起因の特定である。分析記録には

次の作業が含まれる。

1)

重大なハザードが発生するプロセスに含まれるステップの特定及びリスト作成

2)

特定した全てのハザード及び各ステップに関連するその重要性のリスト作成

3)

各ハザードをコントロールするための全ての予防手段のリスト作成

4)

全ての CCP の特定及びその監視及びコントロール

c)

HACCP

計画  HACCP 計画は,七つの原則に基づいて,特定の設計,製品,プロセス又は手順のコン

トロールを確実にするために従わなければならない手順を概説する文書である。HACCP 計画には次

の事項が含まれる。

1)

重要管理点の特定及び管理基準の特定

2)

コントロール活動の監視及び継続

3)

是正措置,検証並びに記録保管活動の特定及び監視


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 H

(参考)

体外診断用医療機器に関するリスクマネジメントの指針

H.1 

一般 

この附属書は,体外診断用医療機器に対するリスクマネジメントの適用について追加指針となる。体外

診断検査結果の使用に起因した患者へのリスクをどう管理するかに重点を置いている。

使用している例は,

概念の説明を意図したものであり,体外診断用医療機器についてのリスクマネジメントの出発点となりえ

るが,網羅的というわけではない。この附属書で使用した用語の定義については,ISO 18113-1 [42]を参照

する。

体外診断用医療機器は,人体から試料の採取,前処理及び検査で使用することを意図している。これら

の機器には,試薬,器具,ソフトウェア,試料採取機器・容器,キャリブレータ(標準物質)

,管理物質及

び関連する附属品が含まれている。単独使用か,システムとしての組合せ使用が可能である。

体外診断用医療機器による結果は,疾病の治癒,緩和,治療又は予防を目的として,疾病の診断又は健

康状態などその他の状態の診断に用いることができるほか,治療薬の監視,及び提供された血液又は臓器

の安全性判定に用いることができる。これらの機器は,様々な教育,訓練及び経験レベルにある個人が,

様々な使用環境のもと,異なった設定でこれらの機器を使用する。例えば,専門分析者による医療検査室

での使用を意図した体外診断用医療機器もあれば,医療従事者によるポイントオブケア(POC)での使用

を意図した体外診断用医療機器,更に一般使用者(lay user)による自宅での使用を意図した体外診断用医

療機器もある。

検査室にて実施された検査結果が医師に報告され,その医師がデータを解釈し,患者の診断,治療又は

監視を行うこともあれば,患者が検査を実施し,その結果を用いて患者自身の状態の監視及び薬物療法を

行う場合もある。

体外診断用医療機器及びその意図する使用が多種多様であることから,これらの指針が全ての場合に適

用可能ということではない。自己検査用の体外診断用医療機器については,

“患者”と“専門家でない使用

者”とがたとえ同一人物でなくても(例えば,親が糖尿病小児の血糖測定を実施するなど)

,これらの用語

は置き換え可能な用語として使われている。

“医師”という用語が使われている場合には,他の医療従事者

も体外診断用医療機器による検査結果について,指示し,受領し,解釈し,処置することができるものと

認識すべきである。

体外診断用医療機器は,患者に危害を及ぼす可能性がある。結果が不正確であったり,遅れたりすれば,

医学的な意思決定及び処置が不適切又は遅延することになり,その結果として患者に危害が生じる場合が

ある。輸血又は移植のスクリーニングを意図した体外診断用医療機器の結果が不正確であれば,血液又は

臓器移植希望者(レシピエント)に対して危害を生じる可能性がある。また,感染症の検出を意図した体

外診断用医療機器の結果が不正確であれば,公衆衛生に対してハザードとなる可能性がある。

検査室で使用される体外診断用医療機器のリスクモデルの一例を

図 H.1 に示す。この例では,製造業者

の品質システムに欠陥があると(例えば,設計,開発,製造,包装,ラベリング,販売,付帯サービスな

どの過程で生じる欠陥)

,体外診断用医療機器の欠陥又は機能不全が発端となって,その後の一連の事象を

引き起こす。医療検査室の機器が故障した場合には,検査結果が不正確となり,検査室の管理システムに

よってその不正確な結果が確認されなければ,不正確な結果が医療従事者に報告され,医療従事者がその


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

結果を不正確なものであると認識しなければ,診断に悪影響を及ぼし,患者に対して危険状態を招きかね

ない。

図 H.1−検査室で使用される体外診断用医療機器のリスクモデル

医師は体外診断検査結果をその他の利用可能な医学的情報と組み合わせて使用し,患者の評価を行い,

診断を下したり治療を進めたりする。場合によっては,体外診断検査結果が医学的意思決定の主要な根拠

又は唯一の根拠になり得る。患者が危害を受ける確率とは,

図 H.1 に示した各事象の発生確率の組合せで

ある。製造業者,検査室又は医師がハザード又は危険状態を認識することによって,各事象への介在が可

能であり,危害を回避するなどで,各事象の発生確率は部分的に低減できる。実際の一連の事象は,個々

の体外診断用医療機器及びその適用によって異なるであろう。

図 H.1 には,手順に従えない,保守若しくは校正の予定を遵守できない,又は警告若しくは使用上の注

意を守れないなどの結果として,検査室での行為が不正確な検査結果又は検査結果の遅れになりえること

も示している。さらに,患者への危害に至る事象が検査室で始まることもある。リスクマネジメントによ

り医療検査室での誤りを減らす必要性が認識されるようになった。また,製造業者のリスクマネジメント

プロセスの結果としての安全に関する情報は,検査室におけるリスクマネジメントプロセスへの入力とし

て役立つであろう。

H.2 

リスク分析 

H.2.1 

意図する使用の特定 

H.2.1.1 

一般 

検査室用又はポイントオブケア検査目的の体外診断用医療機器には,2 種類の使用者がある。すなわち,

(1)

検査を実施する操作者,(2)結果を受けて,解釈及び行為決定する医療従事者である。自己検査用の体外

診断用医療機器の場合には,患者が唯一の使用者である。

意図する使用の特定では,(1)検査結果を得るために体外診断用医療機器を使用,(2)患者の診断,治療又

は監視に関する決定のために検査結果を使用,の二つの要素に関して,製造業者の客観的意図を考慮する

ことが望ましい。

この附属書では,次の用語を広義に,次のように解釈する。

製造業者

プロセスの欠陥

(引き金となる事象)

体外診断用医療機器

の不適合

体外診断検査の

欠陥

不正確な又は遅れた

体外診断検査結果 
(ハザード)

検査室

医師

患者

不正確な診断結果

損傷又は死亡 
(危害)

不正確な又は遅れた 
医療措置

(危険状態)


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  “操作者”とは,体外診断検査を実施する者を意味する。検査室作業者,医療従事者,最低限の訓練

又は全く訓練をしていない一般人が該当する。

−  “医療従事者”とは,患者のために,検査結果について指示,受領又は行為をする者を意味する。医

師,看護師,救急隊員,その他体外診断検査の結果に基づいて医学的決定を行う全ての者が該当する。

H.2.1.2 

意図する使用 

体外診断用医療機器の意図する使用には,測定システム,分析物の種類,特性,試料,検査手順(定性

的,半定量的又は定量的)

,操作者の区分,使用場所が含まれる。

例えば,血清,血しょう(漿)又は尿試料について,

β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)濃度の定

量検査を指示することができる。しかし,必ずしも全ての

β-hCG 検査手順が,3 種類全ての試料に適した

性能特性をもっているとは限らない。

H.2.1.3 

使用用途 

体外診断用医療機器の適用用途には,医学的適用及び対象とする患者集団が含まれる。

例えば,

β-hCG 検査結果は,妊娠の検出,妊婦を対象とした胎児のダウン症候群のスクリーニング,あ

る種の癌の監視に使用することができる。それぞれの医学的適用によって,感度,特異性,精度及び正確

度についての要求事項は異なるであろう。

H.2.2 

可能性のある誤使用の特定 

H.2.2.1 

誤使用 

誤使用には,取扱説明書に規定した事項などの製造業者が意図した手順に従わないほかに,

手順の簡略,

最適にしようとする試み,行き当たりばったりの動作なども含む。

H.2.2.2 

検査室要員による可能性のある誤使用の例 

検査室で可能性のある誤使用の例として,次がある。これらは,基本的な考えを示すためのものであり,

網羅的なチェックリストではない。

−  不適切なキャリブレータ,試薬,器具又は試料との組合せで体外診断用医療機器を使用

−  性能特性の改善を意図した検査手順の最適化

−  検査手順の省略(

“手抜き”をすること)

−  機器・試薬保守の未実施

−  安全機能の作動を停止する,又は適用をしそこなう。

−  悪環境条件での操作

H.2.2.3 

医療従事者による可能性のある誤使用の例 

医療従事者による誤使用の例として次がある。これらは基本的な考えを示すためのものであり,網羅的

なチェックリストではない。

−  検査手順がある疾病の診断を意図したものであるのに,体外診断検査結果をその疾病の分布を得るた

めのスクリーニングのために使用する(性能特性が集団スクリーニングに適していないこともある)。

−  検査手順がある状態の監視を意図したものであるのに,体外診断検査結果をある疾病の診断のために

使用する(性能特性が診断に適していないこともある)

−  製造業者が確認していない新しい臨床適用のために体外診断検査結果を使用する(性能特性が新規適

用に適していないこともある)

H.2.2.4 

自己検査で可能性のある患者による誤使用の例 

自己検査での患者による誤使用の例として次がある。これらは基本的な考えを示すためのものであり,

網羅的なチェックリストではない。


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  不十分な量の試料の使用

−  試薬モジュールを適切に挿入することに失敗

−  試薬ストリップの不適切な分割(コストを削減するなどの目的のために)

−  安全機能の作動を停止する,又は適用しそこなう。

−  不適切な条件下での試薬の保管

H.2.3 

安全に関連する特質の明確化 

H.2.3.1 

一般 

体外診断用医療機器は,その他の医療機器と同様に化学的,機械的,電気的及び生物学的特性をもつが,

それ以外にも,検査結果の確度を決定する性能特性をもっている。特定の医学的使用に要求される性能特

性を満たすことができなければ,患者へのリスクについて評価する必要がある危険状態に至る可能性があ

る。

H.2.3.2 

定量的検査手順の性能特性 

定量的検査手順は,分析物の量又は濃度を決定することを意図している。定められた単位で結果を報告

する。定量的検査手順の主要な分析性能特性は,精密さ(不精密さ)

,真度(偏り)

,特異性,定量限界で

ある。性能の要求事項は,医学的適用によって異なる。誤って高い値となった結果又は誤って低い値とな

った結果は,不正確な診断又は治療の遅れになるが,結果的に生じる患者への危害は,分析物の濃度及び

真値とのかい(乖)離の程度によって異なる。

H.2.3.3 

定性的検査手順の性能特性 

定性的検査手順は,分析物の有無の検出だけを意図したものである。陽性,陰性又は不確定として結果

を報告する。定性的検査手順の性能は,一般に感度及び特異性で表される。偽陽性(分析物が存在しない

場合の陽性結果)

,又は偽陰性(分析物が存在している場合の陰性結果)は,不正確な診断又は治療の遅れ

になり,患者への危害を生じることがある。

H.2.3.4 

依存度特性 

集中重症管理など緊急を要する医学的な意思決定を行う場合に,医師が体外診断検査結果に頼るなら,

精度の高い結果を得るのと同様に適時に結果を得ることが重要である。結果が必要な時点で得られなけれ

ば,危険状態に至ることもある。

H.2.3.5 

患者付随情報 

適切な解釈を行うために,試料又は検査についての適切な情報とともに,患者の人口統計学的情報が検

査結果に必要な場合がある。患者の識別情報,試料の識別情報,試料種別,試料性状,測定単位,検査間

隔,年齢,性別,遺伝的要因がそのような情報の例であり,これらは検査分析の実施者による手入力,又

は検査システムによる自動入力による。体外診断用医療機器が検査結果に付随情報を出力するよう設計さ

れている場合,正確な情報を検査結果に関連づけられないと,結果の妥当な解釈に影響を及ぼし,危険状

態を引き起こす。

H.2.4 

既知及び予見できるハザードの特定 

H.2.4.1 

患者へのハザード 

体外診断検査結果によって,(1)損傷又は死亡につながる不適切な医学的措置に至る,又は(2)損傷又は死

亡の回避を可能とする適切な医学的措置を取りそこなうという状況になる可能性がある場合,患者の視点

からすれば,体外診断検査結果はハザードである。体外診断検査結果の不正確さ又は遅れは,体外医療機

器の欠陥によって引き起こされることがあり,この欠陥は,危険状態に至る一連の予見できる事象の引き

金になるハザードである。ハザード及び一連の事象の特定は,製造業者が危険状態を漏れなく記載するの


60

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

に役立てるためである。製造業者は,リスク分析において何がハザードであるかを決定する。

図 H.1 に示すように,医療従事者に誤った結果が報告され,それに従った行為をとることによって危険

状態が発生する可能性がある。

必要な時点で結果が得られない場合にも危険状態が発生する可能性がある。

自己検査用機器の場合には,患者によって間違った結果が出た場合,又は必要なときに結果が得られない

ことによって危険状態が発生する可能性がある。

定量的な検査では,真値との差が臨床的有用性に基づく限界を超えていれば,結果は間違っているとみ

なされるであろう。間違った結果がもつ臨床的意義は,患者の生理的状態(低血糖状態,高血糖状態など)

と同様に,測定値と正しい値との差の大きさによって決まる。

結果が陽性か陰性かだけで提供される定性的検査手順(HIV 検査,妊娠検査など)については,結果が

正確なこともあれば不正確なこともある。

次のハザードは誤診の原因又は引き金となりうるもので,結果として有害な医学的介入となるか又は医

学的介入が遅れる可能性がある。

−  不正確な結果(H.2.3.2 及び H.2.3.3 参照)

−  結果の遅れ(H.2.3.4 参照)

−  結果に付随する不正確な情報(H.2.3.5 参照)

H.2.4.2 

性能特性との関連 

安全に関連する性能特性の仕様が満たされない場合には(H.2.3 参照)

,危険状態を生じることになるか

否かを決めるための評価をするのが望ましい。

ハザードを分析するためのツールである予備的ハザード解析(PHA),故障の木解析(FTA),故障モー

ド影響解析(FMEA)

,ハザード解析重要管理点(HACCP)については,

附属書 で説明する。

H.2.4.3 

故障状態におけるハザードの特定 

体外診断用医療機器の故障状態におけるハザードを特定する場合には,臨床的な使用に要求される性能

特性(真度,精密さ,特異性など)を満たさない故障モードとして,次を考慮することが望ましい。

−  バッチ内の不均等(バッチ内差)

−  バッチ処理間での不一致(バッチ間差)

−  トレーサビリティが不能なキャリブレーションの値

−  互換性がないキャリブレータ

−  非特異性(干渉因子など)

−  試料又は試薬のキャリオーバ

−  測定の精度の低さ(器具に関連するもの)

−  安定性の問題(保管,輸送,使用時)

体外診断用医療機器の故障状態におけるハザードを特定する場合には,緊急の治療が必要とされる状況

において結果を遅らせることになる故障モードを考慮することが望ましい。この故障モードには,次があ

る。

−  不安定な試薬

−  ハードウェア又はソフトウェアの故障

−  包装における欠陥

体外診断用医療機器の故障状態におけるハザードを特定する場合には,結果として不正確な患者付随情

報となる故障モードを考慮することが望ましい。次がある。

−  患者の氏名又は識別番号の間違い


61

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  生年月日又は年齢の間違い

−  性別の間違い

H.2.4.4 

正常使用におけるハザードの特定 

製造業者が指定する性能特性を体外診断用医療機器が満たしている場合でも,正常使用時に不正確な結

果が発生する場合はある。検査結果の不確かさ,患者試料の生物学的ばらつき,カットオフ値の選定,そ

の他の要因が考えられる。正常使用時における不正確な結果は,個々の患者に対して危険状態を生じる可

能性がある。例えば,次がある。

−  陽性試料と陰性試料の不完全な識別。定性的検査手順では,適切なカットオフ値を決めるのに関連し

た不確かさが起因して本質的に偽陰性率及び偽陽性率が示されるのが通常である。

−  測定の不確かさ。ISO 15197 [13]に記載がある血糖モニターシステム(自己検査用グルコース測定器)

など,定量的測定を行う体外診断用医療機器の精度が最新の技術によって制限される場合もある。結

果の 95 %が,医学的有用性を基にしたある限界値を満たすことでよいと,性能基準で要求しているよ

うな場合,限界値から外れる可能性が個々の結果の 5 %にもなる。

−  試料マトリクス中の他の構成物質(干渉因子)による予想外の影響。新薬,代謝物質,異好性抗体及

び試料準備物質は,体外診断検査手順の性能特性に影響を与える。

−  分析物の自然な不均質性。血液試料中の抗体及びその他の蛋白は種々のアイソフォームの混合物であ

る。体外診断検査手順の公表されている性能特性が,この混合物の全ての構成要素に適用できるとは

限らない。

H.2.4.5 

危険状態の特定 

体外診断用医療機器によって発生する危険状態の例には,次がある。

−  血液銀行での輸血用血液のスクリーニング時に偽陰性の HIV 又は HBsAg(B 型肝炎表面抗原)の検査

結果となってしまう。

−  ビリルビン干渉の影響を受けた肝機能検査結果に基づいて,医師が肝疾患の診断を下してしまう。

−  低血糖状態の糖尿病患者が,自己検査用測定機器を用いて,誤って高値の血中ブドウ糖濃度測定値と

なってしまう。

H.2.5 

患者へのリスクの推定 

H.2.5.1 

一般 

リスク推定は,体外診断用医療機器に関して正常状態及び故障状態の両方において特定した個々の危険

状態での危害の発生確率及びその重大さに基づいて行うものである。

体外診断検査結果が不正確となる場合に重要となる二つの決定因子とは,(a)不正確な結果であると認識

される確率,及び(b)有害な医学的措置となってしまう確率である。

医学的介入を実施すべきではないと誤って示唆してしまう結果(例えば,偽陰性結果又は偽の“正常”

結果)については,(1)その状態を未治療のまま放置した場合の予後,(2)その状態を他の方法によって診断

する可能性,及び(3)患者以外の人々に対する影響[感染因子又は遺伝性疾患の伝ぱ(播)性,胎児の危険

物質へのばく(曝)露など]を,リスク評価において考慮することが望ましい。

医学的介入を実施することが望ましいと誤って示唆してしまう結果(例えば,偽陽性結果又は偽の“異

常”結果)については,(1)不適切な治療によって生じる可能性のある危害,(2)その状態が他の方法によっ

て除外される可能性,及び(3)他の人々に対する影響[感染因子へのばく(曝)露についての検査又は治療,

遺伝性疾患についてのカウンセリング又は治療など]を,リスク評価において考慮することが望ましい。


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

H.2.5.2 

危害の重大さの推定 

不適切な結果によって患者に対して生じる可能性がある危害は,体外診断検査結果を医学的にどう使用

するかで決まる。H.2.1 及び H.2.2 において論じた,意図する使用及び可能性のある誤使用を考慮すること

が望ましい。

危害の重大さを推定するには,体外診断検査結果の医学的な使用,各適用の要求する分析性能,及び体

外診断検査結果を根拠とする医学的な意思決定の程度を把握していることが必要である。このため,信頼

がおける医学的な入力がリスクの推定プロセスには不可欠である。

H.2.5.3 

発生確率の推定 

附属書 に例示したように,体外診断用医療機器の使用が危害を生じる確率は,一連の事象に関する確

率の累積による。

検査室で使用される体外診断用医療機器の場合には,

図 H.1 に概説したように,次の確率が関わってく

る。

−  体外診断用医療機器が不正確な結果を生じる確率

−  結果が不正確であることを検査室で検出できず,不正確な結果を報告する確率

−  結果が不正確であることを医師が見逃し,結果的に措置を講じる(又は講じない)確率

−  医師が措置を講じる(又は講じない)ことによって危害が引き起こされる確率

検査室では,次のような理由によって,結果を不正確なものと認識する可能性がある。

−  品質管理システムで検査手順の性能の変化を検出した。

−  測定した特性値が年齢(寿命)と合わない。

−  結果が管理基準を超えており,検査結果の検証が必要となる。

−  同患者の前回の結果と比較した差異が,予想又は妥当な量を超えている。

不正確な結果を有効に検出し,報告されるのを防ぐような体制を,全ての検査室がもっているとは限ら

ないということを,発生確率を推定する場合に考慮に入れる。

次のような理由によって,医師が結果を不正確なものと認識することがある。

−  結果が生理学的にありえない。

−  結果が患者の臨床状態と矛盾する。

−  結果が他のデータと矛盾する。

検査室以外の場所で体外診断用医療機器が使用される場合には,十分又は有効な検出のシステムが往々

にして存在しない。一般使用者は,ある結果が起こり得ないものであることに気付かないこともある。検

査室で使用されない体外診断機器の場合には,あてはまらない事象及び確率を除くことによってこの箇条

の事例を変更するのが望ましい。

上記に記載した確率を定量的に推定して見積もるだけの十分なデータが得られることはまれである。

H.2.5.4

の質問事項は,確率を定性的又は半定量的に推定していくのに有益な場合もある。これらの質問事

項は,主として検査室における体外診断用医療機器に関連するものであるが,類似の質問事項を他の種類

の体外診断用医療機器について作成してもよい。

H.2.5.4 

患者へのリスク推定の場合の考慮事項 

H.2.5.4.1 

体外診断用医療機器によって不正確な結果が得られる可能性はどのくらいか 

−  よくある故障モードで得られた結果か

−  正常な使用時で得られた結果か

−  合理的に予見できる誤使用時に得られた結果か


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

H.2.5.4.2 

不正確な体外診断検査結果が使用者又は検査室によって検出される可能性はどのくらいか 

−  管理物質は体外診断用医療機器とともに供給されているか

−  故障状態を検出するための制御機構が機器に備わっているか

−  制御機構がどの程度効果的に故障状態を検出できるか

−  不正確な結果を検出することができる品質管理的な手段があるか(例えば,臨界値の検出,もっとも

らしさの確認)

−  エラーメッセージによって,使用者が問題を是正し,再検査時に妥当な検査結果を得ることができる

か例えば,自己検査用の器具に表示される“血液不十分”というメッセージは,使用者に検査のやり

直しを促すように意図したものである。

−  検査室での使用を意図した機器の場合,検査室には不正確な結果を検出する有効なシステムがあるか

H.2.5.4.3 

不正確な体外診断検査結果をどの程度医師が検出できるか 

−  現診療基準では,分析物について確認検査を必要とするか

−  スクリーニング検査結果が陽性の場合,検査室で自動的に確認検査が実施されるか

−  他の結果,徴候,症状及び患者の既往歴において,この種の不正確な結果が認識できるか

−  医師は,この分析の結果を日常的に他の方法で検証するか,臨床的な所見に見合わない結果に疑問を

抱くか

−  医師が分析結果の誤りに気付づくような,もっともらしさの確認の方法があるか

−  検査は重要な医学的意思決定の唯一の根拠であるか  診断は,どの程度まで検査結果に基づいている

か(検査がどのように医学的意思決定に寄与しているか,など)

−  状況が切迫しているため,確認のデータ又は確証的情報を得る機会がなくて即座の意思決定が必要か

検査結果が直接,医学的意思決定又は治療につながるか

−  ポイントオブケア(POC)での使用を意図した機器が故障の場合には,中央検査室などでの代替検査

が利用可能であるか

H.2.5.4.4 

医師が結果に基づいて医療行為を行う,又は行為を起こせない可能性はどのくらいか 

−  体外診断用医療機器は,悪性腫瘍,生命を脅かす感染など重篤な状態に対する治療方法の主な決定要

因となるか

−  体外診断用医療機器は,輸血,移植,又はその他臓器移植希望者(レシピエント)への疾病伝ぱ(播)

の原因となる可能性のある医学的使用を意図したものか

−  体外診断用医療機器は,重要な身体機能の監視を意図したものであり,診断の間違い又は遅れが患者

の死亡又は永続的な障害に至る可能性があるか

H.2.5.4.5 

医師が措置を行う又は行わないことが患者への危害の原因又は寄与因子となる可能性はどのく

らいか 

−  外科的切除,中絶など,措置は不可逆的なものか

−  措置はどの程度まで可逆的か

−  措置はどの程度患者に損傷を与えるか

−  措置をし損なうことによる,死亡又は損傷になる可能性はどの程度か

−  どのような生理学的な状態が危害に至るのか

H.2.5.4.6 

危害の重大さはどの程度か 

−  死亡

−  生命を脅かす損傷


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  余命の短縮

−  健康状態の回復不能な悪化

−  永続的な障害

−  永続的な身体機能又は構造の損傷

−  重篤な危害に至るのを防ぐために医学的介入を必要とする損傷

−  健康状態の回復可能な悪化

−  軽微な身体的損傷

−  医学的介入を必要としない一時的な障害

−  一時的な不快

H.2.5.5 

体外診断用医療機器についてのリスク情報 

H.2.5.5.1 

有害事象のデータベース 

医療機器安全監視システム(medical device vigilance program)では,製造業者及び最終使用者から,不

正確な又は遅延した体外診断検査結果による有害事象を含むデータを収集する。類似の体外診断用医療機

器に関する報告に対する自社機器との関連性を評価し,過去に認識されていなかったハザード又は関連し

た傾向を,製造業者は特定できる。有害事象データベースの情報は未検証のものであり,個別報告には不

完全,不正確な情報又は誤解を招く可能性がある情報も含まれているため,個別報告から結論を導き出す

場合には注意が必要である。

H.2.5.5.2 

統一的な見解に基づく調査 

不正確な血糖値が糖尿病患者の自己監視に及ぼす影響を分類するには,多数の医療専門家の統一的な見

解が用いられてきた。Parkes ら[41]は,患者へのリスクに関する医学的なインプットを得るための体系的

な調査方法を報告している。彼らは,Clarke ら[36]が用いた図式法に倣って,

“エラーグリッド(error grid)

を構築した。Parkes らの統一見解モデルは,他の測定対象物質にも適用できる。

H.2.5.5.3 

医師への面接調査 

患者へのリスクに関する医学的な情報を得る一般的な方法は,医師と面接をもつことで,(1)体外診断検

査結果をどのように使用しているか,(2)不正確な結果を認識することができるかどうか,(3)特定の結果が

得られた場合にどのような措置を行うか,(4)不適切な医学的措置を取った場合にどのような結果が生じう

るか,ということを明らかにする。面接法は,Parkes の調査法よりも主観的ではあるが,患者をリスクに

さらすおそれのある偏りの程度又は不精密さの程度を明らかにする上で役立つ。

H.3 

リスク評価 

リスク評価の深さは,潜在的な危害の重大さに比例することが望ましい。危険であると特定された不正

確な結果については,それぞれのリスクを D.3 及び D.4 に記述した方法で評価することが望ましい。

H.4 

リスクコントロール 

H.4.1 

一般 

患者への危害の重大さは,体外診断検査の結果によって実施される又は実施されない医学的介入から判

断する。危害の重大さに製造業者が及ぼす影響の程度は,体外診断検査によって異なる。

血糖値,電解質,治療薬及びある種の酵素といった検査の値の大きさによって医学的介入が決まる場合

には,偏りの程度,不精密さ又は干渉の程度を制限するリスクコントロール手段を用いることで,危害の

重大さを低減できる可能性がある。結果が陽性か陰性かしかない場合,製造業者が患者への危害の重大さ


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

を低減することは難しい。

不正確な体外診断検査結果から生じる患者へのリスクは,一般に,発生確率を低下させることで低減で

きる。不正確な結果から生じるリスクを低減するための手段は,6.2 に示した優先順位に従い,不正確な結

果から生じるリスクを低減するための手段を優先付けることが望ましい。

体外診断用医療機器では,例えば次がある。

a)

設計による本質的な安全としては,不正確な結果が生じる確率を低減することである。結果が医学的

な要求を満たすことを確実にするには,関連する機能特性(例えば,分析特異度又は診断特異度,真

度又は精密さなど)の改善が必要であろう。

b)

本質的な安全設計手段が実行可能でなければ,医師又は患者に不正確な結果が報告される確率を,で

きれば機器自体による検出,又は機器と共に供給される品質管理な手順による検出といった防護手段

を用いて低減する。

c)

防護手段が実行可能でなければ,使用者に対し,危険状態を避けるために必要とする特定の指示,警

告,その他の情報など安全に関する情報を提供する。

注記 1  検査室に対する品質管理の勧告,医師の指示による確認検査などといった機器とは別に実

施されることを意図した検出方法は,防護手段ではなく,安全に関する情報とみなす。

注記 2  体外診断用医療機器と共に製造業者が供給すべき最低限の情報は,規制及び国際規格にお

いて規定されている(H.4.2.4 参照)

H.4.2 

手段の選択 

H.4.2.1 

設計による本質的な安全 

医学的な要求が必ずしも満たされているとは限らない場合には,おそらく体外診断用医療機器の設計の

部分的な変更,例えば,次の項目を適切に改善することなどによって,臨床的に不正確な結果の発生を回

避できる。

−  測定システムの精密さ

−  キャリブレータ値の真度

−  体外診断試薬の分析特異性(よりよい抗体など)

−  検査手順の検出限界又は定量限界

−  器具の信頼性(偽の結果となるのを防ぐなど)

−  陽性試料と陰性試料との識別

−  間違いやすい手順ステップの自動化

−  試料の確実な識別(バーコードなど)

−  使いやすさ(検討によるヒューマンファクタの特定など)

これと同様に,製造プロセスを改善することで,臨床的に不正確な結果(すなわち,医学的な要求を満

たすことができない)を生じることになる体外診断用医療機器の製造を回避できる可能性がある。ハザー

ド分析及びハザード解析重要管理点(HACCP,G.6 参照)は,次のような不適合製品を防ぐための製造プ

ロセスのステップを特定するのに役立つ。

−  ロット間のばらつきが著しい試薬

−  偽の結果の原因となる器具の構成部品

−  仕様範囲を超えるキャリブレータの値

−  使用期限を過ぎた管理物質,キャリブレータ又は試薬


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

H.4.2.2 

防護手段 

体外診断用医療機器の設計を改善することが現実的でない場合には,不正確な結果を生じる状態を検出

するために,次に示すような追加的な制御機構を機器に組み入れてもよい。

−  許容できない試料(溶血など)を検出するための,試料の完全性の確認

−  試料中の気泡(試料採取機器に液量センサーが搭載されている場合)又はフィブリンロックの除去

−  有害なシステム状態(例えば,不正確な温度,分光光度計の変動,分注器の閉塞)を検出するための

センサーの内蔵及びソフトウェアによるチェック

−  キャリブレータ,試薬又は器具の不具合を検出するための組み込み制御

−  不正確な結果となるのを低減するアラーム,エラーメッセージ又はアルゴリズム

−  ありそうもない結果を特定するアルゴリズム

製造プロセスを改善するのが現実的でない場合には,不適合製品の出荷を防止するために,次のような

プロセス制御の追加又はより厳しい仕様が必要になる場合もある。

−  適切な品質仕様に照らしての受入材料の検査

−  不適合部品を検出するための工程内の性能検査

−  キャリブレータの計量学的トレーサビリティを保証するための標準物質(ISO 17511 [15]及び ISO 

18153 [17]

参照)

−  使用者の要求事項に関連する性能特性

−  最終出荷検査

H.4.2.3 

安全に関する情報 

H.4.2.3.1 

性能特性 

検査室責任者及び医療従事者は,体外診断用医療機器が使用目的に適しているかどうかを判断するため

に,関連のある性能特性を理解している必要がある。製造業者がこの情報を供給する。医学的意思決定の

時点において,性能特性の信頼できる推定は,残留リスクを明らかにし,検査結果の妥当な解釈を可能と

する。次がある。

−  分析特異性(干渉物質又は交差反応物質の影響など)

−  真度(すなわち,許容できるバイアス)

−  精密さ

−  検出限界又は定量限界

−  正確さ(精密さと真度の組合せ)

−  診断の感度(疾病をもつ患者に占める真の陽性結果の割合)

−  診断の特異性(疾病をもたない患者に占める真の陰性結果の割合)

H.4.2.3.2 

不正確な結果の発生を防ぐための情報 

使用に関する指示,手順の制限及び環境仕様は,例えば次に示す不正確な(危険な)結果を使用者が防

ぐのを助けるために必要である。

−  試料採取,保管及び前処理に関する要求事項

−  既知の干渉物質

−  検証済みの測定範囲

−  不正確な結果の寄与因子となりうる不適切な使用についての警告

−  特定の患者集団に関する制限

−  不適切な臨床的な状態又は不適切な試料の種類についての警告


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  適切な洗浄方法

−  予防的な保守手順及び保守間隔

−  試薬の保管に関する要求事項及び使用期限

H.4.2.3.3 

不正確な結果を検出するための情報 

例えば次に示す追加指示及び勧告は,不正確な(危険な)結果が報告される確率を低減するのに役立つ。

−  不正確な結果に至る状態を検出するための管理手順(ISO 15198 [14]参照)

−  許容する性能を検証するための据付手順

− HPLC 又は GC カラムの不良を特定するシステムの適切性に関する指針

−  異なる測定原理に基づく確認検査手順

H.4.2.3.4 

訓練及び使用者の資格認定 

製造業者による訓練の提供は,誤使用を防ぐために役立つことがある。

継続的な教育プログラムに適した訓練資料を体外診断用医療機器の使用者に供給してもよい。自宅での

使用を意図した経口抗凝固薬療法監視システムなどの重要な体外診断用医療機器では,製造業者が主催す

る正式な使用者資格認定プログラムが適している場合がある(ISO 17593 [16]参照)

H.4.2.4 

安全についての規定情報 

製造業者が提供する情報についての要求事項を規制している多くの国がある。これらは,体外診断用医

療機器に共通して想定される誤使用及びその他の潜在的ハザードに対処するリスクコントロールを規定し

たものである。適用可能な規制及び規格への適合性は,その有効性を示す検証は必要ではあるが,ある誤

使用に関連したリスクを管理している証拠となるであろう(H.4.3 参照)

表 H.1 は,起こりえる誤使用の例,及び使用者がそれらを回避できるようにするために一般的に製造業

者が提供する情報を示している。

表 H.1−可能性のある誤使用及びラベリングを用いたリスクコントロールの例

誤使用の例

対応するリスクコントロール

未校正の器具

校正間隔の指定

反応性がなくなった試薬

試薬包装上の使用期限

不十分な器具の保守

保守の指示

不適合な試薬ロットの混合

ロットの識別及び指示

代替不能な体液の検査

適切な試料の種類に関する仕様

不正確な試料の用意

試料準備の指示

不正確な試薬の保管

重要な要素を含む保管に関する要求事項(温度,
照明,湿度など)

報告に用いる単位の混乱 
(mmol/L か mg/dL かなど)

結果ごとの単位の表示又は印刷

不適切な器具の据付

据付の指示,指定した手順

不正確な器具の操作

重要なステップの特定を含む操作指示

不正確な試料の希釈

許容できる希釈剤を含む希釈に関する要求事項

H.4.2.5 

警告,使用上の注意及び制限 

専門家が体外診断用医療機器を使用する場合には,遵守を怠った場合の結果が適切に開示されているか

又は明白である限り,明確な警告,指示及び禁忌は,効果的なリスクコントロールになるであろう。指示

を無視した場合にどのような危険な結果が生じるかを示していない文章は,有効なリスクコントロールに

ならないであろう。


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

例えば,血しょう(漿)又は血清試料中の分析物の検査は意図しているが,尿検査は対象としていない

体外診断用医療機器が事例となる。最新の体外診断用医療機器が尿試料の検査が可能であるような場合に

は,尿試料に関する使用に関する指示の記載がなければ,その機器を尿試料に使ってみようと試みる検査

機関がある可能性がある。尿試料に対する十分な測定能がないという表示がなければ,このような試料検

査は予見しうる誤使用となるであろう。

検査結果についても同様に,製造業者が意図しておらず,また,体外診断用医療機器に適していない医

学的適用に使われる可能性がある。類似機器による経験,他の機器についての類似の使用状況,そのよう

な使用の可能性を考慮して,製造業者はそのような適用から生じるリスクを評価することが望ましい。リ

スクを低減するために製造業者は,適切な警告,使用上の注意そして制限をして供給する必要がある場合

もある。

H.4.2.6 

体外診断用医療機器の規格 

国際規格,国家規格,規制及び指針がある種類の体外診断用医療機器について利用可能である。本質的

な安全,防護手段及び安全に関する情報を取り扱う,認知された製品規格,規制要求事項及び指針への遵

守は,設計及び検査に対する要求事項を規定するために使えるであろう。また,適合性をリスクコントロ

ールの証拠としても引用できるであろう。このような規格の例としては,ISO 15197 [13],ISO 17593 [16],

ISO 19001 [18]

及び ISO 18113-1 [42]がある。

H.4.3 

リスクコントロールの有効性の検証 

安全に関する情報を含めリスクコントロールの実施及び有効性については,検証が必要である。どの程

度の検証を行うかは,リスクコントロールするリスクによって異なる。

重大さ又は危害発生の確率が低いリスクについては,

苦情を監視すれば検証として十分な可能性がある。

同様なリスクコントロールをもつ体外診断用医療機器に利用可能な情報を事前にレビューすることを含む

のが適切な場合がある。重大さ又は危害発生の確率が高いリスクについては,リスクコントロールの有効

性を検証するために事前の調査が必要な場合がある。例えば,ヒューマンファクタ調査は,使用者による

理解程度,及び警告及び使用上の指示に対する順守の査定,安全に関する情報の有効性の検証に使える可

能性がある。これには,活字の大きさ,読みやすさのレベル,警告情報が適切に強調されているなどのヒ

ューマンファクタが含まれる。

安全に関する情報の有効性は注意して推定することが望ましい。製造業者から提供される情報でもって

リスクを低減する場合の見積もりでは,次の限界点があることを考慮するのが望ましい。

−  検査室の認定に関する要求事項,規制及び運用の世界的な統一はなく,品質管理及び品質保証の実践

はまちまちである。

−  専門家が使用する体外診断用医療機器に添付される使用方法は,臨床検査室に提供されることを意図

している。相反する意図した使用,薬剤干渉についての情報,及び体外診断用医療機器の検査結果の

使用に付随するその他の情報は,検査を指示する医師には届かない可能性がある。

H.5 

製造及び製造後の監視 

H.5.1 

外部性能監視 

体外診断用医療機器の製造業者は,体外診断用医療機器のある性能に関する監視に利用できる外部デー

タの入手が一般的に可能である。外部データには次がある。

−  有害事象報告

−  不正確な結果,誤って識別された試料,器具の信頼度などに関する苦情


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

−  検査室内の品質管理データ

−  技能調査という外部品質評価制度

−  たびたび科学文献に発表される独立した検査室による性能評価

H.5.2 

内部性能監視 

製造業者は,管理された状態での性能特性の監視に利用できるデータを定期的に得ている。これらの情

報源には次がある。

−  プロセスの監視

−  安定性の監視

−  キャリブレータ値の指定

−  受入試験

−  機器の信頼性試験

−  妥当性の確認活動


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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 I

(参考)

生物学的なハザードに関するリスク分析プロセスの指針

I.1 

一般 

この附属書は,生物学的なハザードに関するリスク分析適用の指針を記載する。

潜在的な生物学的ハザードの影響範囲は広く,短期的な影響には,急性毒性,皮膚・目・粘膜表面の炎

症,溶血及び血栓形成などがあり,長期的又は特定の毒作用の影響には,亜慢性,慢性毒作用,感化,遺

伝毒性,発がん(癌)性(腫瘍形成性)及び催奇形性などの生殖に対する影響がある。

ISO 10993-1 [5]

は,材料及び医療機器の生物学的評価の一般的な原則を規定している。

I.2 

生物学的リスクの推定 

I.2.1 

考慮する要素 

生物学的なリスク分析は,次の点を考慮することが望ましい。

−  材料の様々な理化学的な特性

−  臨床使用の履歴又は人体ばく(曝)露に関するデータ

−  製品及び構成部材の既存の毒物学的データ並びに他の生物学的安全性のデータ

−  試験手順

データの量及び評価の度合いは,意図する使用によって異なり,患者との接触の状態及び期間に左右さ

れる。

包装材料及び健常皮膚に接する医療機器並びに身体組織,注入液,粘膜又は負傷した皮膚と直接接触し

ない医療機器の構成部品は,通常それほど厳しくはデータを要求されない。

追加データが必要か否かを決定するために,科学文献から得られる材料及び医療機器の現在の知識,過

去の臨床経験,その他関連するデータを検討することが望ましい。ある場合には,成分データ,残留物の

データ(例えば,滅菌プロセス,モノマー)

,生物学的試験データなどを得ることが必要になることがある。

I.2.2 

材料の化学的性質 

材料の化学的特性及び生物学的反応の特質を明確にした情報は,その意図する使用に関した医療機器の

評価に有用である。材料の生物学的適合性に影響を与える因子には,次がある。

−  全ての成分(例えば,添加物,処理助材,モノマー,触媒,反応生成物など)の識別,濃度,生体移

行性,毒性

−  材料に対する生体内分解性及び腐食の影響

反応性又は有害性のある成分の使用又は生成が,材料の製造,処理,保管又は分解において起こる場合

には,それらの残留物に対する生体ばく(曝)露の可能性を考慮することが望ましい。残留物の濃度又は

溶出に関する情報を得ることが必要である。これは,実験データ又は当該材料の化学に関する情報によっ

て形成される。

必要なデータ(例えば,完全な成分組成)が秘密性のために製造業者が利用できない場合には,提案さ

れた用途に材料を使用するための適切性の評価が実施されていることを検証することが望ましい。

I.2.3 

使用前歴 

各材料又は意図的に添加されたものの使用前歴及び経験した有害な作用に関して利用できる情報を調べ


71

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

ることが望ましい。しかし,ある成分又はある材料が以前に使われたからといって類似の用途に使われる

場合に,適切性を保証できるとは限らない。意図する使用,成分の濃度及び最新の毒性学的情報を考慮す

ることが望ましい。

I.2.4 

生物学的安全試験データ 

JIS T 0993-1 [5]

は,ISO 10993 シリーズにおけるどの試験をどの用途に対して適用するのがよいかの指

針を示す。試験の必要性は,存在するデータに照らしてその都度検討することが望ましい。その結果とし

て,不必要な試験は,省略することができる。


72

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

附属書 J

(参考)

安全に関する情報及び残留リスクについての情報

J.1 

一般 

この附属書の目的は,リスクをコントロールし,リスクへの認識を高めるために,次の方法について指

針を与えることである。

−  リスクコントロール手段として実施する“安全に関する情報”

6.2 c)及び D.5.1 c)参照]

−  残留リスクの開示(6.4 及び箇条 参照)

“安全に関する情報”によるリスクコントロールは,他のリスクコントロール手段を講じた後の最終手

段として使用すべきものである。

“安全に関する情報”は,リスク回避のために必要な行為又は禁止行為に

ついての指示を与える。

個々の残留リスク及び全体的な残留リスクの開示は,残留リスクの説明に必要な背景及び関連する情報

を示すことであり,これによって,残留リスクへのばく(曝)露を最小限に抑えるための積極的で適切な

措置を使用者が講じることができる可能性がある。

措置を講じる方法だけでなく,情報の構成及び内容も考慮に入れる必要がある場合もあることを認識し

ておくのが望ましい。

“安全に関する情報”は,医療機器のライフサイクルのどの段階で情報を伝えるべきかによって提供方

法を変える必要がある場合があることを特に認識しておくのが望ましい。例えば,附属文書又は通知書に

注意書きを記載する,メニュー方式のユーザーインタフェイス機器を介して注意を促すなどである。

J.2 

安全に関する情報 

“安全に関する情報”を作成する場合,重要なことは,この情報は誰にどのような方法で提供すべきか

を明確にすることである。製造業者は,リスクの説明,ばく(曝)露の結果及び危害防止に有効な行為又

は避けることが望ましい行為は何かを提供するのが望ましい。

製造業者は,情報を作成するに当たって次のことを考慮するのが望ましい。

−  措置を分類するのに適した優先順位のレベル(危険,警告,注意,注記など)

−  必要な情報のレベル又は詳しさ

−  安全に関する情報の配置(例えば,警告ラベル)

−  明瞭,かつ,理解しやすい言葉づかい又は表示

−  直接的な情報の受け手(例えば,使用者,サービス要員,据付業者,患者)

−  情報を提供する適切な媒体(例えば,使用説明書,ラベル,アラーム,ユーザーインタフェイスでの

警告)

−  規制要求事項

など。

J.3 

残留リスクの開示 

個々の残留リスク又は全体的な残留リスクを開示する場合に重要なのは,情報を使用者に提供し,使用

者を喚起し,使用者が機器を安全,かつ,有効に使用できるようにするために,何を伝え,誰に指示する


73

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

かを明確にすることである。製造業者は,6.4 及び箇条 において特定した残留リスクについて調査し,

どれを開示すべきかを決定することが望ましい。

情報を使用者に提供し,使用者を喚起して機器を安全,かつ,有効に使用できるようにするために,製

造業者は,次を考慮することが望ましい。

−  必要なレベル又は詳しさ

−  明瞭,かつ,理解しやすい表現

−  直接的な情報の受け手(使用者,サービス要員,据付者,患者など)

−  使用する手段及び媒体


74

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

参考文献

[1]

JIS Z 8002:2006

  標準化及び関連活動−一般的な用語

注記  対 応 国 際 規 格 : ISO/IEC Guide 2:1996 , Standardization and related activities− General

vocabulary

(IDT)

[2]

JIS Z 8051:2004

  安全側面−規格への導入指針

注記  対応国際規格:ISO/IEC Guide 51:1999,Safety aspects−Guidelines for their inclusion in

standards

(IDT)

[3]

ISO 9000-3:1997

,Quality management and quality assurance standards−Part 3: Guidelines for the

application of ISO 9001:1994 to the development, supply, installation and maintenance of computer

software

注記  現在,この規格は廃止され,ISO/IEC 90003 として 2004 年に発行された。

[4]

ISO 9000:2005

,Quality management systems−Fundamentals and vocabulary

注記  対応日本工業規格:JIS Q 9000:2006  品質マネジメントシステム−基本及び用語(IDT)

[5]

JIS T 0993-1:2012

  医療機器の生物学的評価−第 1 部:リスクマネジメントプロセスにおける評価

及び試験

注記  対応国際規格:ISO 10993-1,Biological evaluation of medical devices−Part 1: Evaluation and

testing within a risk management process

(MOD)

[6] ISO 

10993-2

,Biological evaluation of medical devices−Part 2: Animal welfare requirements

[7] ISO 

10993-17

,Biological evaluation of medical devices−Part 17: Establishment of allowable limits for

leachable substances

[8] 

JIS Q 13485:2005

  医療機器−品質マネジメントシステム−規制目的のための要求事項

注記  対 応 国 際 規 格 : ISO 13485:2003 , Medical devices − Quality management systems −

Requirements for regulatory purposes

(IDT)

[9]

TR Q 14969:2007

,医療機器−品質マネジメントシステム−JIS Q 13485:2005 の適用のための指針

注記  対応国際標準報告書:ISO/TR 14969,Medical devices−Quality management systems−

Guidance on the application of ISO 13485:2003

(IDT)

[10]  ISO 14155-1

,Clinical investigation of medical devices for human subjects−Part 1: General requirements

注記  この規格は,2011 年に Part 1 及び Part 2 が統合されて,ISO 14155 として発行された。

[11]  ISO 14155-2

,Clinical investigation of medical devices for human subjects−Part 2: Clinical investigation

plans

注記  この規格は,2011 年に Part 1 及び Part 2 が統合されて,ISO 14155 として発行された。

[12]  ISO 15189

,Medical laboratories−Particular requirements for quality and competence

[13]  ISO 15197

,In vitro diagnostic test systems−Requirements for blood-glucose monitoring systems for

self-testing in managing diabetes mellitus

[14]  ISO 15198

,Clinical laboratory medicine−In vitro diagnostic medical devices−Validation of user quality

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[15]  ISO 17511

,In vitro diagnostic medical devices−Measurement of quantities in biological samples−

Metrological traceability of values assigned to calibrators and control materials


75

T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

[16]  ISO 17593

,Clinical laboratory testing and in vitro diagnostic test systems−Requirements for in vitro

monitoring systems for self-testing of oral-anticoagulant therapy

[17]  ISO 18153

,In vitro diagnostic medical devices−Measurement of quantities in biological samples−

Metrological traceability of values for catalytic concentration of enzymes assigned calibrators and control

materials

[18]  ISO 19001

,In vitro diagnostic medical devices−Information supplied by the manufacturer with in vitro

diagnostic reagents for staining in biology

[19]  ISO 22442 (all parts)

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[20]  IEC 60050-191

,International Electrotechnical Vocabulary. Chapter 191: Dependability and quality of

service

[21]  IEC 60300-3-9:1995

,Dependability management−Part 3: Application guide−Section 9: Risk analysis of

technological systems

[22]  IEC/TR 60513

,Fundamental aspects of safety standards for medical electrical equipment

[23]  IEC 60601-1:2005

,Medical electrical equipment−Part 1: General requirements for basic safety and

essential performance

[24]  IEC 60601-1-4

,Medical electrical equipment−Part 1-4: General requirements for safety−Collateral

standard: Programmable electrical medical systems

[25]  IEC 60601-1-6

,Medical electrical equipment−Part 1-6: General requirements for safety−Collateral

standard: Usability

[26]  IEC 60601-1-8

,Medical electrical equipment−Part 1-8: General requirements for basic safety and essential

performance

−Collateral standard: General requirements, tests and guidance for alarm systems in medical

electrical equipment and medical electrical systems

[27]  IEC 60812

,Analysis techniques for system reliability−Procedure for failure mode and effects analysis

(FMEA)

[28]  IEC 61025

,Fault tree analysis (FTA)

[29]  IEC 61882

,Hazard and operability studies (HAZOP studies)−Application guide

[30]  IEC 62366

,Medical devices−Application of usability engineering to medical devices

[31]  EN 1441:1997

,Medical devices−Risk analysis(ISO 14971 に置き換えられた。

[32]  EN 12442-1

,Animal tissues and their derivatives utilized in the manufacture of medical devices−Part 1:

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[33]  90/285/EEC

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[34]  93/42/EEC

,Council Directive 93/42/EEC of 14 June 1993 concerning medical devices as amended by

Directive 98/79/EC of the European Parliament and of the Council of 27 October 1998 on in vitro

diagnostic medical devices

[35]  98/79/EC

,Directive 98/79/EC of the European Parliament and of the Council of 27 October 1998 on in

vitro diagnostic medical devices

[36] CLARKE

,W.L. et al., Evaluating Clinical Accuracy of Systems for Self-Monitoring of Blood Glucose,

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T 14971

:2012 (ISO 14971:2007)

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e-mail codex@fao.org

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[40]  Hazard Analysis and Critical Control Points Principles and Application Guidelines, Adopted, August 14,

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[41]  PARKES, J.L. et al. A new consensus error grid to evaluate the clinical significance of inaccuracies in the

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[42]  ISO 18113-1

    In vitro diagnostic medical devices−Information supplied by the manufacturer (labelling)

−Part 1: Terms, definitions and general requirements