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K 0137

:2010

(1) 

目  次

ページ

1

  適用範囲

1

2

  引用規格

1

3

  用語及び定義 

1

4

  概要

2

4.1

  ラマン散乱 

2

4.2

  ラマンスペクトル

3

4.3

  ラマンイメージ

3

4.4

  ラマン分光分析の特徴 

4

5

  装置

4

5.1

  装置の構成 

4

5.2

  附属装置 

12

6

  操作方法

14

6.1

  装置の設置条件

14

6.2

  装置の校正及び性能確認の方法

14

6.3

  試料の準備 

14

6.4

  装置操作条件の設定

14

6.5

  測定

15

6.6

  定性分析 

15

6.7

  定量分析 

16

7

  安全・保守 

17

7.1

  安全

17

7.2

  保守

17

8

  測定結果の記録 

17

9

  個別規格に記載すべき事項 

17


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(2) 

まえがき

この規格は,工業標準化法第 12 条第 1 項の規定に基づき,社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)及

び財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規格を制定すべきとの申出があり,

日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が制定した日本工業規格である。

この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。

この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実用新案登録出願に

抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許

権,出願公開後の特許出願,実用新案権及び出願公開後の実用新案登録出願にかかわる確認について,責

任はもたない。


   

日本工業規格

JIS

 K

0137

:2010

ラマン分光分析通則

General rules for Raman spectrometry

適用範囲 

この規格は,ラマン分光光度計を用いて,紫外・可視から近赤外領域の励起光によって,物質のラマン

散乱スペクトルを測定し,

これによって物質の定性分析及び定量分析を行う場合の通則について規定する。

引用規格 

次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの

引用規格は,その最新版(追補を含む。

)を適用する。

JIS C 6802

  レーザ製品の安全基準

JIS K 0050

  化学分析方法通則

JIS K 0211

  分析化学用語(基礎部門)

JIS K 0212

  分析化学用語(光学部門)

JIS K 0215

  分析化学用語(分析機器部門)

用語及び定義 

この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS K 0050JIS K 0211JIS K 0212 及び JIS K 0215 によるほ

か,次による。

3.1 

ラマンシフト(Raman shift) 

励起光とラマン散乱光との波数差。分子振動に対応した周波数・振動数差及びエネルギー差で表す。 

3.2 

線形ラマン散乱,自発ラマン散乱(linear Raman scattering,spontaneous Raman scattering) 

入射光強度に比例する強度をもつラマン散乱。高次の非線形光学効果による非線形ラマン散乱と区別す

るために用いる。

3.3 

ストークスラマン散乱(Stokes Raman scattering)

入射する励起光の波長,波数,振動数若しくは周波数又はエネルギーから,長波長,低波数,低振動数

若しくは低周波数又は低エネルギー側にシフトするラマン散乱。

3.4 

アンチストークスラマン散乱(anti-Stokes Raman scattering) 

入射する励起光の波長,波数,振動数若しくは周波数又はエネルギーから,短波長,高波数,高振動数

若しくは高周波数又は高エネルギー側にシフトするラマン散乱。


2

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3.5 

振動ラマン散乱(vibrational Raman scattering)

分子の振動遷移によって生じるラマン散乱。

3.6 

回転ラマン散乱(rotational Raman scattering)

分子の回転遷移によって生じるラマン散乱。

3.7 

電子ラマン散乱(electronic Raman scattering)

分子の電子遷移によって生じるラマン散乱。

3.8 

共鳴ラマン散乱(resonance Raman scattering)

試料分子の電子吸収の近傍の波長で励起することによって,ラマン散乱強度が増大する現象。

3.9 

ラマン円偏光二色性(Raman scattering circular dichroism,Raman optical activity)

ラマン散乱強度が,左円偏光と右円偏光とで異なる現象。

3.10 

偏光解消度(depolarization ratio)

入射レーザー光の偏光面に対して垂直なラマン散乱の偏光成分の,平行なラマン散乱の偏光成分に対す

る強度比。

3.11 

非線形ラマン散乱(nonlinear Raman scattering) 

入射光の強度の 2 次以上に比例する強度をもつラマン散乱。線形(自発)ラマン散乱と区別するために

用いる。

3.12 

表面増強ラマン散乱(surface enhanced Raman scattering) 

金属表面又は金属コロイド上に吸着された分子について観測される著しく増強されたラマン散乱。

3.13 

1/2

波長板(half-wave plate)

互いに垂直な方向に振動する偏光の光路差を 1/2 波長変化させる位相板。

概要 

4.1 

ラマン散乱 

異なるエネルギーをもつ複数の光子間のエネルギー差が,物質のエネルギー準位間のエネルギー差に等

しいときに生ずる光の非弾性散乱で,C. V. Raman が発見した線形ラマン散乱だけでなく,非線形ラマン散

乱を含む。狭義のラマン散乱は線形ラマン散乱を意味する。この規格では,ラマン散乱を線形ラマン散乱

の意味で用いる。ラマン散乱は,ストークスラマン散乱及びアンチストークスラマン散乱の二つの成分を

もち,通常,振動ラマン散乱を意味するが,回転ラマン散乱及び電子ラマン散乱をも含む。通常,ラマン

シフトはストークス側に正の値を,アンチストークス側に負の値をとる。


3

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4.2 

ラマンスペクトル 

縦軸をラマン散乱強度,横軸をラマンシフトとしたグラフをラマン散乱スペクトル(略称,ラマンスペ

クトル)と呼び,通常,ストークスラマン散乱だけを表示する。ラマンスペクトルは,縦軸にラマン散乱

強度を任意スケールで表示し,横軸をラマンシフト(cm

1

)で目盛ることを標準とするが,ラマンシフト

(Hz)

,ラマンシフト(eV)

,波数シフト(cm

1

,振動数又は周波数シフト(Hz)

,エネルギーシフト(eV)

波数(cm

1

,振動数又は周波数(Hz)

,エネルギー(eV)を用いる場合もある。インデンのラマンスペク

トルを

図 に示す。

注記  エネルギー(cm

1

)などのように,表示する物理量と単位とが対応しない表示を使用しないよ

うに注意する。

図 1−インデンのラマンスペクトル

4.3 

ラマンイメージ 

ラマン散乱強度を,測定位置に対して 2 次元又は 3 次元にプロットした画像をラマンイメージと呼ぶ。

ラマンイメージは,試料の各点から個別にラマンスペクトルを測定してイメージを作成するマッピング測

定,又は試料全体に励起光を照射し,ラマン散乱光をフィルターで選別して直接イメージを得る直接ラマ

ンイメージング測定によって得られる(

図 参照)。

図 2−分裂酵母単一生細胞の顕微鏡画像(左上),緑色蛍光画像(右上),

ラマンイメージ(ラマンシフト 1 446 cm

1

)及びラマンイメージ(ラマンシフト 1 602 cm

1

 

ラマン散乱強度

1 2

05.

3

1 0

19.

0

730

.7

534

.4

1 200         1 000          800           600          400          200

ラマンシフト(cm

1


4

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4.4 

ラマン分光分析の特徴 

ラマン分光分析の特徴は,次のとおりである。

a)

ラマンスペクトルは,

“分子の指紋”と呼ばれるように,物質中の分子種の構造,ダイナミクス又は環

境に敏感であるので,分子種の定性分析,定量分析又は状態分析に適している。

b)

気体,液体,固体などの物質相,結晶,繊維,フィルムなどの試料形態,及び温度,圧力などの環境

に関係なく,あるがままの状態で測定することができる。

c)

温度,応力,密度,結晶化度,配向度などを“その場”

in situ)で測定することができる。

d)

高い時間分解能(ピコ秒)をもつ。高速に変化する系の動的分析が可能である。

e)

高い空間分解能(サブマイクロメートル)をもつ。サブマイクロメートルの空間分解での局所分析,

マッピング又は直接イメージング法によるイメージング分析が可能である。

f)

偏光を用いた状態分析が可能である。単結晶の偏光測定,液体又は溶液の偏光解消度測定による分子

対称の分析,ラマン円偏光二色性測定による光学活性の分析が可能である。

g)

共鳴ラマン散乱による高感度,かつ,分子種選択的分析が可能である。

h)

表面増強ラマン散乱による表面吸着種の高感度分析が可能である。

i)

試料自身又はきょう(夾)雑物から発せられる蛍光によって強い妨害を受ける場合がある。

j)

励起に用いるレーザー光によって試料が損傷を受ける可能性がある。

k)

微量成分分析には適さない(共鳴ラマン散乱及び表面増強ラマン散乱を除く。

装置 

5.1 

装置の構成 

ラマン分光光度計の構成の例を

図 に示す。ラマン分光光度計は,光源部,試料部,分光部,検出部,

データ処理部及び表示・記録・出力部で構成する。

図 にラマン分光光度計の概念図を示す。

図 3−ラマン分光光度計の構成の例

試料部

信号処理器

データ処理部

表示・記録・出力部

分光器

(分散形分光器又は干渉計)

励起光除去器

(光学フィルター又は前置分光器)

分光部

検出部

検出器

光源部


5

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1

  光源部

2

試料部

3

分光器

4

検出部

5

データ処理部,表示・記録・出力部

図 4−ラマン分光光度計の概念図 

5.1.1 

光源部 

励起光には単色光を安定に放射するレーザーを用いる。レーザーにはさまざまな種類があるので,目的

に応じ,必要な波長及び出力を選択して使用する。

5.1.2 

試料部 

試料部は,試料光学系及び試料セルからなり,次による。

a) 

試料光学系  試料光学系は,励起光照射系と散乱光集光系とからなる。前者は,励起光の光路及び収

束度を調節するための鏡,レンズなどの光学素子で構成し,後者は,試料から放射される散乱光を集

めて分光器に導くためのレンズ又は鏡で構成する。その試料光学系を一つの箱に納め試料室の形態を

取るものと,

“その場”

in situ)測定を主な目的とする光ファイバープローブとがある。代表的な試料

室として,顕微試料室及びマクロ試料室がある。両者では,用いる試料光学系の構成要素が異なる。

顕微試料室,マクロ試料室及び光ファイバープローブの詳細は,次のとおりである。

1) 

顕微試料室  顕微試料室は,光学顕微鏡を応用した試料室で,サブマイクロメートルの局所分析を

行う。顕微試料室の試料光学系では,顕微鏡用対物レンズが励起光収束用レンズ及びラマン散乱光

集光レンズを兼ねる。そのため,顕微試料室の散乱配置は後方散乱配置(180 度散乱配置)とする

2

3

4

5

1


6

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図 参照)。

顕微試料室は,試料光学系に加え,試料上の測定位置を把握するための観察系をもつ。観察系は

安全上の理由から,レーザー光照射下の試料を直接目視せず,カメラを用いて観察する。

1

試料

2

対物レンズ

3

励起光

4

ビームスプリッター

5

結像レンズ

6

励起光

図 5−顕微試料室における試料光学系の例 

2)

マクロ試料室  マクロ試料室は,試料光学系の励起光照射系及び散乱光集光系が独立した光学系で

構成されているため,それらの光学系を対物レンズで兼用する顕微試料室とは異なり散乱配置の高

い自由度をもつ。それによって,固体,液体,気体,大きさ及び形状を問わず,試料を測定するこ

とができる。大形試料セルの設置が必要な,低温,高温及び高圧下でのラマン測定にも対応できる。 

通常,マクロ試料室は,90 度散乱配置又は後方散乱配置を選択できる。前方散乱配置(0 度散乱

配置)及び任意の散乱角でも測定できる高性能マクロ試料室もある。90 度散乱配置は,液体,気体

をはじめ,透明な固体試料に用いる。また,後方散乱配置は,通常,固体に用いる。結晶測定にお

いては,任意の散乱配置を用いることができることで,より多くの情報を得ることができる(

図 6

参照)

4

1

2

5

分光器

3

6


7

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1

励起光

2

照射レンズ

3

試料

4

散乱光集光レンズ

5

励起光

a) 90

度散乱光配置

1

励起光

2

照射レンズ

3

試料

4

散乱光集光レンズ

5

散乱光

b) 

後方散乱配置(180 度散乱配置)

図 6−マクロ試料室における試料光学系の例

3) 

光ファイバープローブ  光ファイバープローブとは,光ファイバーを用いることで試料部がラマン

装置本体から分離独立している構造の装置の総称で,

“その場”

in situ)の測定が主な用途である。

構造は目的に応じて異なり,光ファイバー先端に集光レンズをもたない単純なもの,光ファイバー

プローブ内部に顕微試料室のような試料観察系をもち,測定位置の確認ができるものなど,種々の

ものがある。

注記  代表的な利用例としては,考古学調査,試料を破壊できない美術品など,試料室に持ち込

めない試料の測定,生産ラインに直結した測定,放射線などの影響で装置の設置にふさわ

しくない場所での測定,血管中のコレステロール測定など光ファイバーを用いないと困難

な測定などがあり,多岐にわたる。

b) 

試料セル  試料セルは,試料を試料部に設置するためのもので,励起光及び散乱光をよく透過する光

学ガラス,石英などの光学材料からなる。気体試料,液体試料,固体試料の試料セルは,次による。

2

3

1

4

分光器

5

1

2

3

4

分光器

5


8

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1) 

気体セル  気体のラマン測定に用いるマクロ試料室用試料セルで,90 度散乱配置で測定を行う。気

体は分子密度が低いため,液体及び固体に比べてラマン散乱強度が弱い。そのため,通常,多重反

射アタッチメント又はブースターミラーを併用する。

2) 

液体セル  液体のラマン測定に用いるマクロ試料室用試料セルで,通常,90 度散乱配置で測定を行

い,4 面又は 5 面透過形の無蛍光石英角形セルを用いる。試料が,照射光の影響を受ける場合は,

フローセル又はマグネチックスターラーを用いるとよい。液体試料が少量の場合,キャピラリーセ

ルを用いる。ただし,分光器の入射スリットにおける高さ方向を有効に利用することができないた

め,角形セルに比べると強度が落ちる。

3)

固体セル  マクロ試料室用固体セルは,通常,3 軸ステージ上に載せて使用する。顕微試料室及び

一部の水平置きが可能なマクロ試料室では,スライドガラスを用いる。また,倒立形顕微試料室で

は,ボトムディッシュを用いる。結晶の場合には,試料の平行移動に加え,回転ステージ及びゴニ

オメトリックステージを組み合わせることができる。粉体測定は,マクロ試料室では粉体セル,顕

微試料室ではスライドガラスなどを用いて行う。また,錠剤成形によって試料の密度を高めて測定

する場合もある。

5.1.3 

分光部 

分光部は,励起光除去器及び分光器からなる。励起光除去器は,試料から放射される散乱光の中から励

起光と同じ波長の光を取り除き,分光器に導く。分光器には,次のものがある。

a) 

分散形分光器 

1)

光学フィルター付き分光器  励起光除去器に光学フィルターを用いるもので,シングル分光器と多

素子(マルチチャンネル)検出器との組合せで用いる。光学フィルター付き分光器は,透過率が高

いため高感度であること,他の方式と比べ安価であることが特長で,現在,市販されている多くの

ラマン分光光度計は,分光部に光学フィルター付き分光器を採用している。主に用いられる光学フ

ィルターの種類には,励起光近傍波長の光を除去するノッチフィルターと,励起光を含めた短波長

側の光を除去するエッジフィルターとがある。励起光に複数の波長を使用する場合には,使用する

すべての波長のフィルターを用意する。

図 に光学フィルター付き分光器の例を示す。

注記  励起波長によってはフィルターの入手が困難な場合がある。


9

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1

試料部

2

光学フィルター

3

分光器

4

多素子検出部

図 7−光学フィルター付き分光器の例 

2) 

前置分光器付分光器  前置分光器付分光器は,多素子検出器による測定及び低振動数領域での測定

の両立を可能にするために開発された分光系で,1)  の光学フィルター付き分光器における光学フィ

ルターの代わりに,差分散ダブル分光器を配置する。差分散ダブル分光器は,選択された波長範囲

以外のスペクトルを除去できる分光器で,そのため,励起光を選択範囲から外すことで励起光除去

器の機能をもつ。差分散ダブル分光器は,光学フィルターより優れた透過率の立ち上がり特性をも

つため,低振動数領域の測定が可能である。

図 に前置分光器付分光器の例を示す。

4

2

1

3


10

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1

試料部

2

前置分光器

3

分光器

4

多素子検出部

図 8−前置分光器付分光器の例

3) 

加分散分光器  加分散分光器は,励起光除去性能を高める目的で,分散形分光器を 2 段以上重ねた

分光器のうち,各段の分散方向をそろえたものである。通常,励起除去器を用いない。一般的な加

分散分光器は,分光器を 2 段重ねたダブル加分散分光器で,光電子増倍管に代表される単素子検出

器を用いたときの分光部として用いる。

図 に加分散分光器の例を示す。

注記  加分散分光器と単素子検出器との組合せは,励起光に近接した低振動数領域において,最

4

1

3

2


11

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も優れた迷光除去の性能をもつ。しかし,単素子検出器は分光した光の利用率が低いため

測定時間が長い。また,CCD 検出器に代表される多素子検出器との組合せにおいては,低

振動数領域での迷光除去の性能が原理的に低下する。

1

試料部

2

分光器

3

単素子検出部

図 9−加分散分光器の例 

b) 

干渉計  干渉計は,干渉波形をフーリエ変換して,スペクトルを得る装置である。一般的なマイケル

ソン形干渉計は,1 枚のビームスプリッター及び 2 枚の反射鏡(固定鏡及び移動鏡)で構成する。レ

ーザーの干渉パターンを用いたデータ取得のタイミングと可動鏡の制御とで行うため波数精度が極め

て高い。干渉計は,CCD 検出器を使用することができない近赤外励起ラマン測定装置に用いる。

10

に干渉計の例を示す。

3

1

2


12

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1

試料部

2

光学フィルター

3

ビームスプリッター

4

固定鏡

5

移動鏡

6

検出部

図 10−干渉計の例 

5.1.4 

検出部 

検出部は,検出器及び信号処理器からなり,次による。

a) 

検出器  検出器は,光の強度を電気信号に変換する。検出器には,CCD 検出器又はフォトダイオード

アレイ検出器に代表される多素子検出器と,光電子増倍管(PMT)又はフォトダイオードのような単

素子検出器とがある。分散形分光器の場合,単素子検出器は,分光した光の有効率が低いため測定に

時間が掛かり,特殊な用途を除いて使用しない。一般的な可視光励起ラマン分光光度計では,CCD 検

出器を用いる。CCD 検出器は,信号雑音比を高めるために電子冷却又は液体窒素で冷却を行う。

b) 

信号処理器  信号処理器は,電気信号の増幅及び信号処理を行う。

5.1.5 

データ処理部 

データ処理部は,ラマンスペクトルの縦軸(ラマン散乱強度)及び横軸(ラマンシフト)の校正,微分

スペクトルの解析,差スペクトルの計算,スペクトルデータ検索などの機能を含む。

5.1.6 

表示・記録・出力部 

表示・記録・出力部は,ラマンスペクトルをコンピューター画面上に表示し,記憶装置に記録し,プリ

ンターに出力する。

5.2 

附属装置 

5.2.1 

偏光ラマン測定装置 

試料部

2

6

1

3

4

5


13

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照射光学系に 1/2 波長板などの偏光制御素子,散乱光集光系に検光子と偏光解消板とを挿入して,ラマ

ン散乱光の偏光成分の強度を個別に測定する。

検光子は,

散乱光の偏光成分を選択するための光学素子で,

偏光板を用いる。偏光解消板は,分光部及び検出部の偏光特性を平均化するもので,検光子と分光器との

間に挿入する。測定は,検光子の偏光方向を励起光の偏光と並行な方向に設置した場合(

図 11 参照)及び

直交する方向に設置した場合の各々で行う。

1

励起光

2

レーザーの偏光方法

3 1/2

波長板

4

照射レンズ

5

試料

6

散乱光集光レンズ

7

検光子

8

偏光解消板

9

散乱光

図 11−偏光ラマン測定装置の例(90 度散乱配置の場合) 

5.2.2 

気体セル用多重反射アタッチメント 

多重反射光学系を用いて,励起レーザー光を気体セル中に多数回往復させ,測定効率を高めるための装

置。観測方向と反対方向に散乱されるラマン散乱光を集光するためのブースターミラーを併用することが

多い。

5.2.3 

温度可変アタッチメント 

高温下又は低温下での試料をラマン測定する場合に用いる装置で,マクロ試料室専用のものと,顕微試

料室でも使用できるものがある。低温測定では光学窓の曇り及び励起光による昇温,高温測定では試料の

黒体ふく(輻)射による影響を考慮する必要がある。

5.2.4 

高圧セル 

高圧下での試料をラマン測定するときに用いるセルで,ダイヤモンドアンビルセルが多く用いられる。

マクロ試料室又は長作動距離対物レンズを用いた顕微試料室を使用する。 

2

4

5

1

7

6

分光器

9

3

8


14

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操作方法 

6.1 

装置の設置条件 

装置の設置条件は,次の a)h)による。

なお,製造業者などによって装置の設置条件が定められている場合はその条件に従う。試料の励起に用

いるレーザーは,その出力によって JIS C 6802 に規定する使用上の安全基準に準拠して使用しなければな

らない。

a)

強力な磁場,電場,高周波などを発生する装置が近くにない。

b)

振動が少ない。

c)

ほこりが少なく,腐食性ガスがない。

d)

日光が直接当たらない。

e)

供給電源の変動を最小限に抑える。

f)

地震対策として,装置を固定する。

g)

電気的災害を防ぐため,絶縁及び接地を十分に行う。

h)

室温の変動が少なく,結露しない。空調機などの風が直接当たらない。

6.2 

装置の校正及び性能確認の方法 

分光光度計の設置時及び環境変化・経時変化が認められた場合に装置の校正及び性能確認を行う。校正

及び性能確認は,取扱説明書などに記載された時間の暖機運転の後に行う。

a)

波数精度  測定波数の基準波数からの偏差で確認する。確認は,1)又は 2)の方法で行う。

1)

低圧水銀ランプ,ネオンランプなどの標準光源の輝線スペクトルを測定し,波数の測定値の基準波

数からの偏差によって確認する。

2)

インデンなど標準試料のラマンスペクトルを測定し,ラマンシフトの測定値の基準値からの偏差に

よって確認する。

b)

波数繰返し性  低圧水銀ランプ,ネオンランプなどの標準光源の輝線スペクトルを繰返し測定したと

きの測定波数値のばらつきによって確認する。

c)

波数分解  低圧水銀ランプ,ネオンランプなどの標準光源のスペクトルを測定し,孤立した輝線の半

値全幅で確認する。

d)

感度校正  タングステンランプなどの標準白色光源によって分光光度計の感度校正を行う。

注記  日常点検は,点検用標準試料(Si チップ,PET 小片など)を用いて,そのラマンスペクト

ルから波数精度,波数繰返し性,波数分解,感度校正を行うことができる

6.3 

試料の準備 

試料(気体,液体又は固体)を測定に供する形状に準備する。検量線用標準試料は,あらかじめ濃度の

確認したものを準備しておく。その場合,媒質に蛍光を発する物質が含まれていないか,分析種のスペク

トルに重なる物質が含まれていないかを確認する。

6.4 

装置操作条件の設定   

6.4.1 

共通事項 

共通事項は,次による。

a)

励起レーザー波長及び出力の設定  励起レーザーが複数備わっている場合は,目的に応じた励起レー

ザーを選択し,波長及びその出力を設定する。試料によってはレーザーのエネルギーによって,損傷

することがあるので,注意を要する。


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b)

検出器の選択  検出器が複数備わっている場合は,目的に応じ,適正な検出器を選択する。

c)

測定領域の設定  測定するラマンシフト領域を設定する。

d)

励起光除去光学系の設定  使用するレーザーの波長に応じ,励起光を除去するフィルターなどを設定

する。

e)

回折格子の選択  回折格子が複数備わっている場合は,目的に応じ,適正な回折格子を選択する。

f)

スリット(幅及び高さ)の設定  分光器のスリットの幅及び高さを設定する。

6.4.2 

測定試料のセット 

6.4.2.1 

マクロ測定の場合 

マクロ測定の場合には,次による。

a)

照射光学系の選択(90 度散乱又は 180 度散乱)  90 度散乱測定又は 180 度散乱測定(後方散乱測定)

を行うかによって,光学系を選択する。

b)

照射光学系及び集光光学系の調整  試料に対し,照射光学系及び集光光学系の調整を行う。

c)

測定部位の選択  試料の測定する部位を設定する。

6.4.2.2 

顕微測定の場合 

顕微測定の場合には,次による。

a)

対物レンズの選択  倍率に応じて対物レンズを選択する。

b)

焦点位置の調整  焦点の合う位置を調整する。

c)

測定部位の選択  試料の測定する部位を設定する。

6.5 

測定 

積算回数,露光時間などを設定後,スペクトル測定を行う。

6.6 

定性分析 

定性分析では,得られたラマンスペクトルから試料に含まれる物質を判定することができる。ラマン分

光法による基本的な定性分析は,スペクトルに現れたバンドの位置(ラマンシフト:波数差)の解析によ

って行う。バンド位置の解析は,既報のスペクトルとの比較,同位体置換又は溶媒効果によるバンド位置

の変化の追跡,理論化学計算との比較などによって行う。

例として,

図 12 にポリスチレンのラマンスペクトルを示す。

ポリスチレン(Polystyrene)の構造式は,

であり,官能基としてフェニル基と,エチレン基

をもつ。スペクトル上にそれらの官能基に対応する特性振動数をもつ振動バンドが観測されており,測定

された物質がポリスチレンであることが示唆される。


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ラマンシフト(cm

1

図 12−ポリスチレンのラマンスペクトル

6.7 

定量分析 

定量分析は,次による。

a)  6.3

で用意した検量線用標準試料で検量線を作成する。

b)

得られたラマンスペクトルのベースライン補正を必要に応じて行い,分析に用いるバンドの正しい強

度を得る。

kC

I

norm

=

ここに,

I

norm

ラマン強度(決定した分析種のバンド強度)

C

濃度

k

比例定数

c)

未知試料のラマンスペクトルを検量線用標準試料の手順と同様に測定し,得られたラマンバンドの強

度から検量線を用いて分析種の濃度を求める。

図 13 に検量線法の例を示す。

図 13−検量線法の例

0

1 000

2 000

3 000

4 000

5 000

6 000

7 000

500

1 000

1 500

2 000

2 500

3 000

3 500

4 000

ラマン散乱強度

ベンゼン環

CH

伸縮振動

CH

2

伸縮振動

ベンゼン環伸縮振動

ベンゼン環呼吸振動

検量線用試料中の分析種の濃度

ラマン強度

分析種の濃度

測定試料のラマン強度


17

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安全・保守 

7.1 

安全 

使用上の安全確保のために,製造業者の取扱説明書を熟読し,関連する法令,規則などに関する知識の

習得,化学物質の特性の把握,作業者の教育訓練などの対策を施さなければならない。

特に,次の事項については,十分に注意する必要がある。

a) 

電気  通電状態で高電圧部分及び通電部には手を触れない。また,絶縁及び接地を十分に行わなけれ

ばならない。

b) 

レーザー  レーザー光が目に入る可能性がある場合は,保護めがねを着用する(JIS C 6802 参照)。

c) 

液化窒素  必ず保護具を着用して取り扱う。また,密閉された部屋での酸素欠乏に注意する。

d) 

有害物質  測定試料及び各種ハロゲン化物,二硫化炭素などの有機溶媒の取扱いについては十分注意

する。また,これらの廃棄に際しては,適切な処理を行う。

7.2 

保守 

装置の保守に関しては,6.1 を満たす場所であることを確認し,点検・保守の項目,内容,期間などに関

する基準を設けて装置の点検を行う。

測定結果の記録 

測定結果は,必要に応じ,次の事項を記録する。

a)

測定年月日

b)

測定者名

c)

試料名

d)

データファイル名

e)

測定方法

f)

励起波長,励起光出力,露光時間,積算回数などの測定条件

g)

スペクトル補正の有無などのデータ処理条件

h)

分析装置の名称及び形式

個別規格に記載すべき事項   

ラマン分光分析法を用いる個別規格では,少なくとも,次の事項を記載しなければならない。

a)

分析種及びその濃度範囲

b)

試料の採取方法及び保存方法

c)

定量方法の種類

d)

分析装置の構成及び試料部の種類

e)

励起波長

f)

分析結果の表示方法