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K 0136

:2015

(1)

目  次

ページ

1

  適用範囲  

1

2

  引用規格  

1

3

  用語及び定義  

1

4

  概説 

6

5

  装置 

6

5.1

  装置の構成  

6

5.2

  高速液体クロマトグラフ(LC  

7

5.3

  質量分析計(MS  

8

6

  水,試薬,溶媒及びガス  

12

7

  装置の設置,使用条件及び安全  

12

7.1

  装置の設置及び使用条件  

12

7.2

  安全  

12

8

  装置の運転  

13

8.1

  一般  

13

8.2

  高速液体クロマトグラフの準備  

14

8.3

  質量分析計の準備  

14

8.4

  待機  

15

9

  測定 

15

9.1

  測定条件の設定  

15

9.2

  測定操作  

16

10

  定性分析  

17

10.1

  測定試料の調製及び測定  

17

10.2

  定性又は同定  

18

11

  定量分析  

19

11.1

  試料の前処理  

19

11.2

  定量法  

20

11.3

  定量操作  

21

12

  データの質の保証  

22

12.1

  分析方法の妥当性確認の実施  

22

12.2

  検出下限の求め方  

23

12.3

  品質管理用試料の測定  

24

12.4

  空試験の測定  

24

12.5

  測定値の信頼性の評価  

24

12.6

  定期的な装置性能の点検  

25

12.7

  作業手順書の作成  

25


K 0136

:2015  目次

(2)

ページ

13

  分析結果に記載すべき事項  

25

14

  個別規格に記載すべき事項  

25


K 0136

:2015

(3)

まえがき

この規格は,工業標準化法第 14 条によって準用する第 12 条第 1 項の規定に基づき,一般社団法人日本

分析機器工業会(JAIMA)及び一般財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業

規格を改正すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工業

規格である。

これによって,JIS K 0136:2004 は改正され,この規格に置き換えられた。

この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。

この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願又は実用新案権に抵触する可能性があることに注意

を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許権,出願公開後の特許出願及び実

用新案権に関わる確認について,責任はもたない。


   

日本工業規格

JIS

 K

0136

:2015

高速液体クロマトグラフィー質量分析通則

General rules for high performance liquid chromatography / mass

spectrometry

適用範囲 

この規格は,高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いて,分析種の定性分析及び定量分析を行う場合

の通則について規定する。

引用規格 

次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの

引用規格は,その最新版(追補を含む。

)を適用する。

JIS K 0050

  化学分析方法通則

JIS K 0123

  ガスクロマトグラフィー質量分析通則

JIS K 0124

  高速液体クロマトグラフィー通則

JIS K 0211

  分析化学用語(基礎部門)

JIS K 0214

  分析化学用語(クロマトグラフィー部門)

JIS K 0215

  分析化学用語(分析機器部門)

JIS K 0557

  用水・排水の試験に用いる水

JIS Z 8000-1

  量及び単位−第 1 部:一般

JIS Z 8202-8

  量及び単位−第 8 部:物理化学及び分子物理学

JIS Z 8202-9

  量及び単位−第 9 部:原子物理学及び核物理学

用語及び定義 

この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS K 0050JIS K 0123JIS K 0124JIS K 0211JIS K 0214

JIS K 0215

及び JIS K 0557 によるほか,次による。

なお,括弧内の対応英語は,参考のために示す。

3.1 

イオンサイクロトロン共鳴質量分析計,ICR-MS(ion cyclotron resonance mass spectrometer)

一様の高磁場中で回転運動するイオンに高周波電場を印加すると,その周波数に一致する回転周波数を

もつ特定の m/のイオンだけが共鳴的にエネルギーを吸収し,回転半径を増大させて,検出電極に誘導電

流を生じさせる現象を利用する方式の質量分離部をもつ質量分析計。

注記  この分析計は,記録された波形をフーリエ変換してマススペクトルを得る,フーリエ変換質量

分析計の一つである。


2

K 0136

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3.2 

イオントラップ質量分析計(ion trap mass spectrometer)

三次元的双曲面のドーナツ状のリング電極と上下に配した一対のエンドキャップ電極との間に高周波電

圧を印加してイオンをトラップする方式,又は四重極の両端にイオンをトラップするための電極を配置し

て四重極内にトラップする方式(リニアイオントラップ)の質量分離部をもつ質量分析計。

注記  高周波電圧を上げていくと,m/の小さなイオンから順に振幅が大きくなり,イオンは,一方

のエンドキャップ電極にある孔を通って検出器に到達する。

3.3 

インフュージョン法(infusion method)

試料溶液を,シリンジポンプを用いてカラムを通さずに直接イオン源に導入する方法。

3.4 

m/

イオンの質量を統一原子質量単位で割り,更にイオンの電荷数で除して得られる無次元量。

注記  “質量電荷比(mass to charge ratio)”という用語は,推奨しない。マススペクトルの横軸の量は,

イオンの質量をイオンの電荷で除した商ではないので,質量電荷比ではなく,m/z(エム  オー

バー  ジーと読む。

)を推奨する。m/の数値を示す場合は,m/z=100 のように等号を用いるよ

りも,m/z 100 のような表記を推奨する。表記は,必ず小文字の斜体(イタリック体)で,空白

を挿入しないで記述する。マススペクトルの横軸に用いられる。

3.5 

MS/MS

機能(MS/MS function)

ある特定のイオン又はイオン群に対する衝突誘起解離(CID)を利用した二段階以上の質量分離を行う

機能。

3.6 

化学イオン化,CI(chemical ionization)

試薬ガスから生成された反応イオンと試料分子との反応,試薬ガスが関与する電子捕獲反応などによっ

て試料分子をイオン化させること。

3.7 

感度(sensitivity)

一定量(単位量)の試料を導入したときのイオン信号強度。

3.8 

キャリーオーバー(carry over)

装置の配管内壁などに付着した試料の一部が残り,

試料間の相互汚染など次の測定に影響を与える現象。

3.9 

キングドントラップ,Kingdon Trap 

棒状の中心電極及びそれを覆う二つのわん(碗)状電極からなり,この電極間の高電場中に一定のエネ

ルギーでイオンを入射したとき,イオンが中心電極の周りを回転及び振動運動し,わん(碗)状電極に誘

導電流を生じることを特長とする構成要素。

注記  m/に応じた周波数の電流が記録され,記録された波形をフーリエ変換し,マススペクトルを

得る。フーリエ変換質量分析計の一つである。


3

K 0136

:2015

3.10 

計量計測トレーサビリティ(metrological traceability)

個々の校正が測定不確かさに寄与する,文書化された切れ目のない校正の連鎖を通して,測定結果を計

量参照に関連付けることができる測定結果の性質(ISO/IEC Guide 99:2007 の 2.41 参照)

3.11 

コロナ放電(corona discharge)

針状の電極に数 kV の電圧を与えると,火花放電の前に表面の電場の高いところに部分的絶縁破壊が生

じ,放電する現象。気体中放電の一形式。

3.12 

四重極質量分析計(quadrupole mass spectrometer)

直流電圧及び高周波電圧を,双曲線又は円形の断面をもつ平行な 4 本の電極柱(互いに向き合う電極の

極性を同一とする。

)に印加し,生じる四重極電場によってイオンをその m/に応じて分離する方式の質量

分離部をもつ質量分析計。

注記  電場中のイオンは振動しながら移動し,特定の周波数に対応したイオンだけが発散せずに通過

して検出器に到達する。

3.13 

質量校正(mass calibration)

理論的又は実験的に得られる関係式に基づいて,検出された信号から m/値を決定すること。

3.14 

質量範囲(mass range)

マススペクトルを取得又は表示するための m/の範囲。

3.15 

衝突誘起解離,CID(collision induced dissociation)

運動エネルギーをもつイオンがコリジョンガスと衝突し,衝突エネルギーの一部が内部エネルギーに変

換され,励起されることでイオンの解離が起こる現象。

3.16 

スキマー(skimmer)

頂点に微細な孔をあけ,孔の周辺部が薄く作られた円すい(錐)状の部品。低真空部と高真空部との隔

壁として用いられ,電圧を印加して荷電粒子を効率的に質量分離部へ輸送する機能部品。

3.17 

全イオン電流クロマトグラム,TICC(total ion current chromatogram)

ある範囲の m/のイオン電流の総和を連続的に検出し,記録した図。

3.18 

選択イオンモニタリング,SIM(selected ion monitoring)

特定の質量のイオンを連続的に検出する方法。

3.19 

選択反応モニタリング,SRM(selected reaction monitoring)

プリカーサーイオンから生じる特定のプロダクトイオンの質量を連続的に検出する方法。測定対象化合

物と同一保持時間で,かつ,プリカーサーイオンと同一質量をもつ妨害物質が存在しても,妨害物質が測

定対象化合物と同一質量のフラグメントイオンを生じない限り,その影響を排除できる。


4

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3.20 

走査速度(scan speed)

四重極質量分析計,イオントラップ質量分析計など,電圧を走査することによってマススペクトルを取

得するタイプの質量分析計において,一定の m/範囲のイオン強度を測定する速度。

注記  飛行時間質量分析計などに対して用いることは推奨されない。

3.21 

脱プロトン分子(deprotonated molecule)

分子がプロトンを失って生成した負イオン。

注記  分子を M,プロトンを H

としたとき,[M−H]

で表記する。

3.22 

チャンネルトロン(channeltron)

表面に電子放出層をもつ半導体セラミック製の管状ダイノードで構成される,イオンを電子に変換する

検出器。

注記  検出器の内面にイオンが衝突して発生する二次電子(secondary electron)が,検出器内面に衝突

を繰り返すことで,更に多くの二次電子を発生させる電子なだれ効果によって,最終的には増

大した電流信号を得る。連続ダイノード増倍管又はチャンネル電子増倍管とも呼ばれる。

3.23 

抽出イオンクロマトグラム(extracted ion chromatogram)

一定の時間間隔でマススペクトルを測定し,コンピューターに記憶させた後,特定の m/のイオン強度

を取り出して表示した図。再構成イオンクロマトグラム又はマスクロマトグラムともいう。

3.24 

定量下限(limit of quantification)

分析種の定量が可能な最小量又は最小濃度。

3.25 

デコンボリューション法(deconvolution method)

たんぱく質などの ESI スペクトルから得られる一連の多価イオンの m/と価数との関係式から,元の化

合物の分子量を計算する方法。プログラムとして,装置に組み込んで用いられる。

3.26 

統一原子質量単位(unified atomic mass unit)

静止基底状態における

12

C の中性原子の 12 分の 1 の質量を表すための単位。単位記号:u(又は Da)。

3.27 

ネブライザーガス(nebulizer gas)

溶出液の噴霧及び蒸発を促進するために添加するガス。通常,窒素が用いられる。

3.28 

飛行時間質量分析計(time of flight mass spectrometer: TOF-MS)

イオンを真空にした管中を飛行させ,m/の違いによって検出器に到達する時間が異なることを利用す

る方式の質量分離部をもつ質量分析計。

注記  質量分析計における質量分離部の 1 形式である。

3.29 

標準物質(reference material:RM)


5

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指定された性質に関して十分に均質,かつ,安定であり,測定又は名義的性質

1)

の検査において,意図

する用途に適していることが立証されている物質。

注記  標準物質とは,総称的な用語である。

1)

  名義的性質とは,大きさをもたない,現象,物体又は物質の性質をいう(分析種の組成など)。

3.30 

フーリエ変換質量分析計,FTMS(Fourier transform mass spectrometer)

イオンの周期運動を周波数として記録し,その周波数成分をフーリエ変換して,対応する m/を求める

質量分析計。

3.31 

付加イオン(adduct ion)

一つのイオン種に,一つ以上の原子,分子又はそれらの一部分が付加して生成したイオン。

3.32 

フラグメンテーション(fragmentation)

イオンを構成する一つ又は複数の結合が開裂することによって,そのイオンより小さい質量のイオン及

び中性の原子団を生じる反応。

3.33 

フラグメントイオン(fragment ion)

フラグメンテーションによって生じたイオン。

3.34 

プリカーサーイオン(precursor ion)

あるイオンから別のイオンが CID などによって生成するときの元のイオン。前駆イオンともいう。

3.35 

プロダクトイオン(product ion)

あるイオンから CID などによって生成する全てのイオン。生成イオンともいう。

3.36 

プロトン付加分子(protonated molecule)

分子にプロトンが付加して生成したイオン。

注記  分子を M,プロトンを H

としたとき,[M+H]

で表記する。

“プロトン化分子”という用語は

推奨しない。

3.37 

質量分解能(resolution)

質量分析計が近接した 2 本のピーク(m/z)を分離できる能力。

質量分析計で,m/の任意の値を M とし,M と(M+ΔM)の 2 本のピークは区別できるが,m/の差が ΔM

より小さい 2 本のピークは区別できないとき,M/ΔM をこの装置の質量分解能という。

3.38 

分子イオン(molecular ion)

分子から 1 個又は複数個の電子を取り去ることによって生成する正イオン,若しくは分子に 1 個又は複

数個の電子を付加することによって生成する負イオン。

3.39 

分析種(analyte)


6

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試料又は試料溶液中の被検成分。

3.40 

分離モード(separation mode)

クロマトグラフィーにおいて,分離機構に基づいて分類した様式。

3.41 

マイクロチャンネルプレート(micro channel plate)

微小な光電子増倍管を束ねた構造の荷電粒子を増幅する機能をもつもの。

3.42 

マトリックス(matrix)

試料化合物がイオン化するときに,プロトン及び電子の授受に関与しイオン化を促進する物質。

概説 

高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)は,混合試料の分離に優れている高速液体クロマト

グラフ(超高速液体クロマトグラフ又はナノ液体クロマトグラフを含む。

)と極微量試料の高感度検出及び

構造解析に優れている質量分析計とを直結した装置を使って,それぞれの能力を相乗的に活用して試料の

高度な物質情報を正確に得るための分析方法である。

液体クロマトグラフィーは,液体を移動相とするクロマトグラフィーで,固定相及び移動相のそれぞれ

に対する各分析種の相互作用の違いを利用した溶出時間の差によって混合物の分離を行う。

質量分析法は,

イオン化した各分析種の電場及び/又は磁場中の運動の違いを利用した m/の差によって分離及び検出を

行う。高速液体クロマトグラフィー質量分析法は,分析種の溶出時間及びマススペクトル情報から定性分

析を,

質量情報を基にしたクロマトグラムのピーク面積又はピーク高さから定量分析を行うことができる。

測定用試料溶液を液体クロマトグラフに導入すると,分離された各成分が連続的に質量分析計のイオン

化部に導かれ,多くの場合,大気圧イオン化法と呼ばれるソフトな方法でイオン化される。正又は負の電

荷をもつイオンは,スキマーを通して質量分離部に入り,m/に応じて分離される。検出部でイオン量に

応じた電気信号に変換され,コンピューターによって順次マススペクトルとして記録される。

注記  近年では,100 MPa 付近の吐出圧力に対応した送液ポンプ,スイッチングバルブ,及びカラム

充塡剤を備えた超高速液体クロマトグラフ(Ultra High Performance Liquid Chromatograph,

UHPLC)が開発され,より高速,かつ,高分離能での分析を可能としている。また,内径の細

いカラムへの関心が高まり,10∼100 nL/min 程度の流量範囲を安定的に送液できるシステムも

市販されている。

装置 

5.1 

装置の構成 

装置は,高速液体クロマトグラフ及び質量分析計で構成する。

図 に LC-MS 装置の基本構成,及び図 2

に LC-MS 装置の概念図例を示す。


7

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図 1LC-MS 装置の基本構成 

図 2LC-MS 装置の概念図例 

5.2 

高速液体クロマトグラフ(LC 

5.2.1 

一般事項 

高速液体クロマトグラフは,混合物の試料を各成分に分離する装置である。溶離液送液部,試料導入部,

分離部などで構成する。従来の液体クロマトグラフと比べて,装置全体の耐圧を高め,移動相溶媒を高い

流速でカラムに通すことによって分析成分が固定相に滞留する時間を短縮し,充塡剤の粒子径を微細化す

ることで分離能向上に寄与する。

5.2.2 

溶離液送液部 

溶離液をカラムに送液するために構成された装置部で,主に次のもので構成する。

a) 

溶離液  溶離液には,水,水溶液(揮発性の酸,塩基又は塩を含む。),有機溶媒又はそれらの混合溶

液を用いる。揮発性の酸としては,ぎ酸,酢酸,トリフルオロ酢酸などがある。揮発性の塩基として

は,アンモニア,ジブチルアミン,トリエチルアミンなどがある。また,揮発性の塩としては,ぎ酸

アンモニウム,酢酸アンモニウムなどがある。


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b) 

溶離液槽  溶離液槽は,溶離液の化学的な組成を変化させない適切な材質からなる。使用中に環境か

らの汚染,溶離液の蒸散,溶離液の腐敗などが生じないようにする。

c) 

脱気装置  溶離液に溶解している空気を連続的に取り除き,装置内で温度変化及び圧力変化に伴い,

発生する気泡に起因する障害を未然に防ぎ,安定した流量及びバックグラウンドが得られるようにす

る。

d) 

送液ポンプ  溶離液を正確,かつ,精密な流量でカラムに送液するためのもので,更に次の項目を満

足する必要がある。

・  広範囲な流量が設定できる。

・  高精度に流量が設定できる。

・  低脈流である。

・  幅広い送液圧力に対して安定な吐出量が得られる。

・  送液部の材質は,耐薬品性に優れている。

・  移動相の交換が容易にできる。

e) 

ミキサー  複数の溶離液を混合するために用いる。

5.2.3 

試料導入部 

測定用試料溶液の一定量を再現性よく系内に導入するため,導入した試料の残留が少ない構造及び/又

は吸着などが生じない材質が望ましい。多数の測定用試料溶液を自動で導入するための自動試料導入装置

を用いる場合には,その仕様として導入量の再現精度,正確さ,残留量の少なさ及び試料必要量が少ない

という基本性能を備える。また,試料成分の分解,揮散の防止に冷却機能を付加した装置,及び前処理又

は誘導体化の機能を付加した装置を用いてもよい。

5.2.4 

分離部 

分離部は次による。

a) 

カラム  分析目的に応じて適切なカラムを用いる。試料導入部から入口流路及びインターフェイス・

イオン化部への出口流路の配管は,試料バンドの拡散を防ぐため,デッドボリュームをできるだけ少

なくするようする。

なお,分析カラムの性能劣化を防ぐため,ガードカラムを使用することがある。分離機構の分類及

び特徴,代表的なカラム充塡剤並びにそれらの用途は JIS K 0124 

表 1(高速液体クロマトグラフィ

ーの分離モード,特徴,代表的カラム充塡剤及び用途)を参照する。

b) 

カラム槽  試料中の分析種の分離能を一定に保ち,定量精度を確保するためには,温度制御機能をも

つカラム槽を使用する。カラム性能の最適化及び分離選択性を高め,環境の温度変化などに影響され

ることがないような温度を設定する。

5.3 

質量分析計(MS 

5.3.1 

一般事項 

質量分析計は,高速液体クロマトグラフによって分離された成分をイオン化し,m/に応じて分離した

後,これを検出記録し,更にデータ処理を行う部分である。インターフェイス・イオン化部,質量分離部,

検出部及び真空排気部で構成する。システム制御・データ処理部として別途設置した PC を利用すること

が多い。

5.3.2 

インターフェイス・イオン化部 

インターフェイス・イオン化部は,カラムからの溶出液の気化,溶出液中の分析種のイオン化及び生成

した分析種イオンの脱溶媒化を行い,

分析種イオンを高真空の質量分離部に導く部分である。

イオン化は,


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大気圧イオン化(API)法によって大気圧下で行い,次のいずれかの方法とする。

a) 

エレクトロスプレーイオン化(ESI)法  エレクトロスプレー(electrospray)の技術を使ったイオン化

法。カラムからの溶出液などを,数 kV の高電圧が印加されたキャピラリーチューブに通し,噴霧す

るとキャピラリー先端に円すい(錐)状の液体コーン(テイラーコーン)が形成される。テイラーコ

ーン内の高電界のために正・負イオンの分離が起こり,テイラーコーン先端より高度に帯電した液滴

が生成することによって,試料溶液は荷電した霧状の液滴となる。試料溶液は,溶出液の蒸発を促進

する目的でネブライザーガス(通常,窒素)とともに噴霧される。溶媒の気化に起因する液滴の体積

収縮に伴って液滴の電荷密度が増大し,

電荷密度がレイリー極限を超えると液滴が自発的に分裂する。

液滴が更に小さくなると,ついには帯電液滴からイオンの蒸発が起こり,気相イオンが大気圧下で生

成する。生成したイオンを,イオン輸送部を経由して質量分離部へ導く。

図 に,ESI インターフェ

イス部の一例を示す。ESI 法は,たんぱく質,糖質,核酸など生体高分子化合物にも適用可能であり,

ソフトなイオン化法である。また,多価イオンを生成しやすい特徴をもっている。近年では,100 nL/min

よりも低い移動相流量におけるエレクトロスプレーイオン化の技法として,ナノ液体クロマトグラフ

を用いる LC(ナノ LC)対応の技術が開発され,主にたんぱく質同定におけるペプチド分析に用いら

れている。

注記 1  液滴中の電荷による静電反発力が表面張力よりも大きくなると,帯電液滴がより小さなサ

イズの液滴に分裂する。この現象が起こる点をレイリー(Rayleigh)極限という。

図 3ESI インターフェイス部の一例 

b) 

大気圧化学イオン化(APCI)法  APCI 法とは,コロナ放電によって大気圧で行われるイオン化法で

あり,化学イオン化法の一種である。まず,イオン化部に導入された溶液がヒーター及び乾燥ガスの

加熱によって気化された後,コロナ放電によって生じる溶媒イオンと試料分子とがイオン分子反応を

起こして試料分子がイオン化される。この方法は,気化した移動相溶媒を試薬ガスとする化学イオン

化(CI)法で,プロトン及び電子の移動によるソフトなイオン化が行われる。APCI 法では,ESI 法と

比較して分子量が小さく(通常,2 000 以下)

,移動相溶液中において電離し難い低極性成分がイオン

LC から→

ネブライザーガス

印加電圧

(数 kV)

スキマー

質量分離部

イオン輸送部

真空ポンプ


10

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化されやすい。APCI 法は,気相での化学イオン化反応によるイオン生成法であるので,イオン化に

関しては移動相の種類による影響は ESI 法に比べて小さく,きょう(夾)雑成分による分析種のイオ

ン化抑制及びイオン化促進(以下,両者を併せて,マトリックス効果という。

)が起こりにくい。一般

的に用いられる移動相は,メタノール,アセトニトリル,水などである。有機溶媒 100 %,又は水 100 %

を移動相として使用することも可能である。

図 に APCI インターフェイス部の一例を示す。

注記 2  コロナ放電の代わりに,光のエネルギーを用いてイオン化する大気圧光イオン化(APPI)

法も実用化されている。APCI 法よりも更に低極性化合物の分析に適している。

注記 3 ESI 法,APCI 法などの大気圧イオン化法では,大気圧下に噴霧したミストから差動排気及

び熱によって脱溶媒した後,イオン輸送部を経て真空の質量分離部にイオンを導く。

図 4APCI インターフェイス部の一例 

5.3.3 

質量分離部 

インターフェイス・イオン化部で生成し,キャピラリー,スキマー,多重極レンズなどによって形成さ

れた電場を利用して導かれた正又は負のイオンを m/に応じて分離する部分で,四重極(Q)

,イオントラ

ップ(IT)

,飛行時間(TOF)

,フーリエ変換(FT)などを利用する方式がある。イオンの気体分子への衝

突を避けるため,質量分離部は高真空に保つ。

5.3.4 

検出部 

イオンを検出する部分で,イオン電流を 10

5

∼10

7

倍に増幅することのできる多段式又は連続ダイノード

をもつチャンネルトロン形の二次電子増倍管(SEM)

,蛍光板を前置した光電子増倍管(PMT)

,マイクロ

チャンネルプレート(MCP)などを用いる。SEM 及び PMT を用いる場合,通常,高質量域の検出感度を

高めるため,増倍管の前に±(5∼20)kV 程度の高電圧を印加した変換ダイノードを置く。また,MCP は

広い面積でイオンを検出できるため,イオン収束能のない飛行時間質量分析計によく用いられる。フーリ

エ変換質量分析計はイオンの運動によって電極に生じる誘導電流を検出するため,イオン電流を増幅する

装置は設置されていない(3.30 を参照)

注記  イオンを周期運動させるための手法として,磁場を用いるイオンサイクロトロン共鳴質量分析

計(ion cyclotron resonance mass spectrometer:ICR-MS)と,電場を用いるキングドントラップ

コロナ放電針電極

真空ポンプ

質量分離部

スキマー

気化

ヒーター

ネブライザーガス

イオン輸送部

ヒーター

印加電圧

(数 kV)

LC から→


11

K 0136

:2015

[Kingdon(Orbitrap

TM

]質量分析計とがある。

5.3.5 

真空排気部 

インターフェイス・イオン化部,質量分離部及び検出部を真空に保つためのもので,前段に油回転ポン

プ,後段にターボ分子ポンプが用いられることが多い。インターフェイス・イオン化部は大気圧下のイオ

ン化部から生成したイオンを質量分離部まで段階的に真空度を高めていくために,スキマーなどで区切っ

た領域ごとに排気量の異なるポンプで排気(差動排気)することが多い。イオン化部が大気圧(1 013 hPa)

であるのに対し,質量分離部は 0.01∼1 mPa の圧力に保たれている。

5.3.6 

システム制御・データ処理部 

装置の制御(各部の診断機能も含む。

,マススペクトル・クロマトグラムの採取記録,処理,表示など

を主に行う部分で,中央演算ユニット(CPU)

,記憶媒体などから構成され,各種ソフトウェアが組み込ま

れたコンピューター本体,キーボード,ディスプレイなどからなる。マススペクトルをスペクトルライブ

ラリー,化合物データベース,たんぱく質・核酸の配列データベースなどと照合し同定を支援する機能を

もつ装置もある。

5.3.7 LC-MS/MS

装置 

MS/MS 法は原理的に幾つかの方式があるが,通常,特定のプリカーサーイオンだけを第一の質量分離部

(MS1)で選択し,そのイオンを不活性ガスと衝突させて活性化し,フラグメンテーションを起こさせた

[衝突誘起解離(CID)又は衝突活性化解離(CAD)という。

]後,生じたプロダクトイオンを第二の質量

分離部(MS2)で分離検出する。装置の形式としては,複数の質量分離部を空間的に分離した空間形(

5

)と,同一の質量分離部の内部で時間経過とともに連続的に行われる時間形(

図 6)とがある。また,種

類の異なる質量分離部を組み合わせた装置もあり,ハイブリット形とも呼ばれる。

図 5−空間形の LC-MS / MS 装置の構成例 

図 6−時間形の LC-MS / MS 装置の構成例 

LC-MS/MS として使用される装置としては,空間形の装置として三連四重極(QqQ)(中央の q は,CID

を行う場所である。近年の装置は四重極とは異なる電極構成を用いるものもあり,名称のとおりに四重極

が三連となっていない装置がある。

)が代表的である。時間形 LC-MS/MS としてはイオントラップ質量分


12

K 0136

:2015

   

析計(IT-MS)が代表的であり,2 回以上の MS/MS が可能なため,LC-MS

n

とも表記される。また,ハイ

ブリット形として,Qq-TOF,IT-TOF,Qq-FTMS などもある。

水,試薬,溶媒及びガス 

水,試薬,溶媒及びガスは,次による。

a) 

水  この規格で用いる水は,逆浸透法,蒸留法,イオン交換法,紫外線照射,ろ過などの方法のいず

れか,又は組合せによって精製した水で,分析に影響しない水質のものとする。水質は,抵抗率,TOC

(有機体炭素)

,吸光度などを指標とし,評価する。調製直後から,容器・環境からの汚染を受けるの

で,分析に影響を与えない材質の容器を選定し,適切な方法で洗浄後使用する。

b) 

試薬及び溶媒  試薬及び溶媒は,本来の性質以外で分析に影響を与えない品質のものとする。多くの

等級が存在する場合があるので,目的にあったものを選択する。開封後は,環境から汚染を受け劣化

するので,できるだけ早く使用する。また,未開封の試薬及び溶媒でも,製造後時間が経過すると品

質が変化する場合があるので,極力新しいものを使用する。調製した溶離液は,必要に応じてろ過し,

できるだけ早く使用する。

c) 

ガス  ガスの純度は,本来の性質以外で分析に影響を与えない品質のものとする。ガスの種類及び流

量は,各装置で指定されたものを使用する。空気を使用する場合及び窒素ガス精製装置から供給する

場合は,湿度にも留意する。

装置の設置,使用条件及び安全 

7.1 

装置の設置及び使用条件 

装置の設置及び使用条件は,次による。

a)

結露せず,温度及び湿度が装置に定められた仕様の範囲内にあり,急激な変化を生じない。

b)

振動がなく,直射日光及び風が直接当たらない。

c)

腐食性ガス及びほこりが少なく,換気がよい。

d)

強い磁気及び電場の影響がない。

e)

供給電源は,装置の仕様に指定された電圧,電気容量及び周波数のもとで,電圧変動は±10 %以内で

周波数の変動がない。

f)

指定された接地抵抗を満足する接地端子をもつ。

g)

実験台及び床は水平であり,装置の総質量に十分耐えられる。

h)

装置の放熱及びメンテナンスを考慮した設置スペースを確保できる。

i)

使用する有機溶媒,有害物質及び真空ポンプからの排気ガスなどを安全に排出できるように,室内換

気設備又は強制排気設備を必要に応じて設ける。

j)

油拡散ポンプなどに冷却水を使用する場合は,指定された水圧,水量及び水温で,ごみ及び異物を含

まず,スケールが生成しない水を供給する。

k)

装置は地震に備え,壁,床などに固定する。車輪付きのキャスターなどを利用する場合,移動時以外

はストッパーを使用し,振動などで移動しないようにする。

7.2 

安全 

安全のために,次の事項に十分に注意しなければならない。

a)

試料及び分析に用いる薬品の取扱いは,爆発性,引火性,毒性及び有害性に十分に注意して行う

2)

それらの廃棄に当たっては,安全化及び無害化の配慮を行い,環境汚染防止の諸規定に従う。危険物


13

K 0136

:2015

の取扱いについては,

“消防法”

“危険物の規制に関する政令”など,毒物,劇物の取扱いについては,

“毒物及び劇物取締法”の諸規定に従う。

2)

  毒性,有害性のある薬品の取扱いに当たっては,必要に応じて保護具(保護めがね,ゴム手

袋,防毒マスクなど)を着用する。

b)

装置を接地点に接地する。

c)

高圧容器詰のガスを利用するときは,高圧ガス保安の諸規定に従う。

なお,規定する圧力以下の容器を装置の近くで用いるときにも,容器が転倒しないように,架台,

壁,実験台などに固定しなければならない。

d)

装置の運転に先立ち,配管の接続部,流路などからの液漏れ及びガス漏れがないことを確認する。

e)

電源が入っている状態で,装置の内部に直接触れると感電するおそれがあるので,装置の点検及び修

理は,通常電源を切って取扱説明書に従って行う

3)

。また,電源が切れていても高温になっている部

位もあるので,電源が切れても十分注意して冷却後に取り扱う。

3)

  装置にリチウム電池が内蔵されている場合は,取扱方法を誤ると破裂する危険があるため注

意する。

f)

装置が他の機器,ペースメーカーなどに電磁波障害を与えたり,他の機器から電磁波妨害を受ける場

合があるので注意する。

g)

生体試料(血清,血しょう,組織,尿など)は,ウイルス,細菌などの感染のおそれがあるため,素

手で取り扱ってはならない。生体試料の取扱いにおいては,皮膚への直接接触,ピペット操作による

誤飲,針刺しなどに注意し,保護具(保護めがね,ゴム手袋,マスクなど)を着用する。

なお,生体試料は,必要に応じて所定の場所で取り扱う。

注記  関連する法令及び政令は,

“廃棄物の処理及び清掃に関する法律”

“水質汚濁防止法”

“大気

汚染防止法”

“消防法”

“危険物の規制に関する政令”

“毒物及び劇物取締法”

“高圧ガス

保安法”などがある。

h)

可燃性有機溶媒による発火を防ぐため,

必要に応じて廃液チューブ及び廃液容器の静電気対策を行う。

また,可燃性物質を取り扱う周囲では直火を用いない。

i)

本体及び部品には重い物があるので,移設及び保守時の取扱いは注意して行う。

装置の運転 

8.1 

一般 

装置の運転に当たっては,取扱説明書に従って始動した後,調整を行う。

図 に装置の始動から測定ま

での手順を示す。


14

K 0136

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図 7−装置の始動から測定までの手順の一例 

8.2 

高速液体クロマトグラフの準備 

高速液体クロマトグラフの準備は,次による。

a) 

カラム  分析目的に適したカラムを用いる。あらかじめカラム性能を確認し,必要に応じてカラム交

換,洗浄などを行う。

b) 

移動相  移動相の準備は,次による。

1)

試料に対して適切な溶解性を示し,化学的反応性が低く,化学的安定性が高く,混和性が高く,か

つ,分析対象成分のイオン化を阻害しないものを使用する。

2)

移動相に使用する溶媒中の微粒子及びごみは,

あらかじめ,

メンブレンフィルターなどで除去する。

3)

脱気装置が組み込まれていない高速液体クロマトグラフを使用する場合は,あらかじめ脱気してお

く。

c) 

イオン化促進剤  カラムで分離した後,イオン化促進のために溶媒を添加する場合は,別途準備する。

8.3 

質量分析計の準備 

質量分析計の準備は,次による。

a) 

インターフェイス・イオン化部  分析種に適したインターフェイス・イオン化部を装着する。また,

インターフェイス・イオン化部の清掃は,適宜行う。

b) 

始動  真空ポンプを作動させてイオン化部及び質量分離部を所定の圧力(真空度)にし,その後高速

液体クロマトグラフを稼動させる

4)

4)

  あらかじめ,前段油回転ポンプを作動し,所定の圧力に達してから,油拡散ポンプ又はター

ボ分子ポンプを作動する。

c) 

調整  調整は,装置の据付時,一時停止後の始動時のほか,特に必要な場合に行う。また,装置が作

動している状態では,必要な項目の条件設定を行った後,主として次の項目について実施する。

1) 

質量校正  必要に応じて,各装置で指定された質量校正用標準物質を用いて,所定の正確さが得ら

れるように,取扱説明書に従って調整する。

2) 

質量分解能  分析目的に応じて,必要な質量分解能が得られるように,取扱説明書に従って調整す

る。

3) 

感度  必要に応じて,各装置で指定された試料を用いて所定の感度が得られるように,取扱説明書

に従って調整する。

装置

試料

始動

調整

測定

測定条件の検討

待機

測定用 
試料導入

前処理

定性

定量

測定条件の設定


15

K 0136

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8.4 

待機 

装置の調整後又は測定終了後,必要な箇所の電源を入れて,次の設定条件で待機状態とする。

a) 

圧力(真空度)  質量分離部の圧力が所定値に達している。

b) 

温度  質量分離部,インターフェイス・イオン化部,カラム槽などの温度は,常温とする。ただし,

次の試料測定までの待機時間が短いと予想される場合には,必要な加熱部は,測定時の設定温度のま

までもよい。

測定 

9.1 

測定条件の設定 

9.1.1 

一般 

測定条件の設定は,個別規格の規定などによる各分析方法によって異なるが,次に示す項目のうち必要

なものについて,システム制御部で又は手動で行う。装置によって設定が必要な項目が異なるので,各装

置の取扱説明書を参照する。長時間使用しなかった装置は,必要に応じて調整を行い,性能を確認する。

9.1.2 

液体クロマトグラフ 

液体クロマトグラフの測定条件の設定は,次による。

・  移動相の種類及び流量(グラジエント溶離を行う場合は,移動相の初期組成,組成変化率,最終組成,

平衡化時間などのプログラム設定)

・  カラムの種類(内径,長さ並びに充塡剤の種類及び粒子径)

・  カラムの温度

・  検出器の種類,感度及び測定範囲(MS の前段に UV など他の検出器を組み込む場合)

9.1.3 

質量分析計 

質量分析計の測定条件の設定は,次による。

a) 

インターフェイス部・イオン化部  分析種に応じて適切なイオン源を選択する。設定はイオン源及び

装置によって異なるので,各装置の取扱説明書を参照する。ここでは,ESI イオン源及び APCI イオ

ン源を例として,主要な項目を示す。

1) ESI

イオン源の場合の主な設定項目

・  ヒーター温度(脱溶媒部,対向流ガスなど)

・  ネブライザーガス流量

・  キャピラリーの電圧

・  スキマーの電圧

・  対向流ガス流量(イオン源の構造によって有無がある。

2) APCI

イオン源の場合の主な設定項目

・  ヒーター温度(脱溶媒部,対向流ガスなど)

・  ネブライザーガス流量

・  コロナ放電針電極の電圧

・  スキマーの電圧

・  対向流ガス流量(イオン源の構造によって有無がある。

b) 

質量分離部,検出部及びシステム制御・データ処理部  質量分析計の種類によって異なるが,次の項

目又はそれに関連した設定を行う。ここでは四重極質量分析計を例として,主要な項目を示す。

・  検出イオンの種別(正イオン又は負イオン)


16

K 0136

:2015

   

・  特定イオンの質量及びサンプリング間隔(選択イオン検出の場合)

・  走査速度及び走査質量範囲(マススペクトル測定の場合)

・  衝突セルへの印加電圧(MS/MS 法の場合)

・  検出器への印加電圧(必要な場合)

・  データ処理装置へのデータ取込条件

9.2 

測定操作 

測定操作は,次による。

a) 

試料導入  試料導入量に応じて適切な体積の計量器具(主にマイクロシリンジ)を使用し,試料導入

装置(サンプルインジェクター)から導入する。自動試料導入装置(オートサンプラー)の場合は,

適切な条件に設定して用いる。

b) 

測定(イオンの検出)  分析種に応じて最適なイオン化法を選択し,LC 及び MS ともに適切な測定条

件を設定して用いる。

1) 

全イオンモニタリング  設定した走査速度で,設定した質量範囲の走査を繰り返し,走査ごとにイ

オンの m/及び強度をマススペクトルとして記録して保存する。全イオン電流クロマトグラム

(TICC)は,各走査で記録されたイオン強度(電流値)を積算した液体クロマトグラフィーの保持

時間に対してプロットしたクロマトグラムとして得られる。各走査ごとにそれぞれ特定の m/を抽

出し,そのイオン強度を保持時間に対してプロットしたものが抽出イオンクロマトグラムである。

マススペクトルと抽出イオンクロマトグラムとの関係(例)を

図 に示す。

図 8−マススペクトルと抽出イオンクロマトグラムとの関係(例) 

2) 

選択イオンモニタリング(SIM)  分析種に応じて特定の m/を設定して,特定のイオンだけを検

出する方法である。SIM 法では,不連続走査(ステップ走査)を繰り返し,設定した複数の特定イ

オン(選択イオン)を検出し,イオン強度の時間経過を測定する。さらに,MS/MS 機能を活用した

選択反応検出(SRM)もある。

注記 1 MS/MS 法で得られるイオンは,その開裂の元となるイオンをプリカーサー(前駆)イオ

ン,生成したイオンをプロダクトイオンと呼ぶ。


17

K 0136

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3) 

分子量に関連したイオン及びプロダクトイオンの検出  LC/MS で用いられるイオン化法は,比較的

ソフトな方法が用いられるため,[M+H]

,[M−H]

のような分子量情報の獲得に役立つイオンが

検出されることが多い。構造情報を与えるプロダクトイオンを積極的に得るためには,インソース

CID 又は MS/MS 法を用いる。また,高分解能の測定が可能な装置の場合,高分解能条件下で未知

化合物と同時に,又は時間をおいて内標準物質を導入して測定することによって,未知化合物の精

密質量を測定することができる。

注記 2  インソース CID は,ESI,APCI などで,スキマーの電圧を高く設定してプロダクトイオ

ンの情報を得る方法。

注記 3  分子量に関連したイオンとして,M

+・

,M

−・

,[M+H]

,[M−H]

,[M+Na]

,[M+

Cl]

,[M+NH

4

]

,多価イオンの[M+nH]

n

,[M−nH]

n

などがある。

なお,M

+・

及び M

−・

は奇数電子イオンであり,その他は偶数電子イオンである。

c) 

データ処理  全イオンモニタリングによって測定されたイオンは,データ処理の方法によってマスス

ペクトルとして表したり,抽出イオンクロマトグラムとして表したりすることができる。マススペク

トルは化合物の定性に,抽出イオンクロマトグラムは定性及び定量に用いられる。高分解能条件下で

求められた精密質量から,未知化合物の組成式を推定することができる。選択イオンモニタリングに

よって測定されたデータは,一般的には標準物質を用いて検量線を作成し,未知濃度試料の高感度定

量処理を行う。この選択イオンモニタリングの方法を,高感度定性分析に利用することもある。

10 

定性分析 

10.1 

測定試料の調製及び測定 

測定試料の調製及び測定は,次のとおり行う。

a)

必要に応じて,試料の溶解,精製,濃縮,希釈,誘導体化などの前処理を行う。

b)  8.2

及び 8.3 によって目的に適したカラム,移動相及びイオン化(インターフェイス部)モード

5)

を選

び,測定準備を行った後,9.1 によって測定条件を設定する。

移動相中に存在する不純物などから生じるバックグラウンドが,試料のマススペクトル及び各種ク

ロマトグラムに影響を与えないようにする。また,キャリーオーバーによる前測定の影響が残ってい

ないように注意する。

マススペクトルの測定は,クロマトグラム上の一つのピークについて 5 回以上の走査が行われるよ

うにカラムの種類,長さ,溶離条件の選定及び走査速度の設定を行い,スペクトルパターンの濃度依

存性が少ないマススペクトルを得るようにする。

また,

TOF など走査形ではない質量分析計の場合は,

極めて短時間に 1 回のマススペクトル測定(採取)を行うが,通常,それを多数回積算してノイズを

減らし,スペクトルの質を保つようにする。TOF の場合,積算したスペクトルとしての測定を,通常,

毎秒 1∼5 スペクトルに設定する。

5)

  イオン化モードは,測定に用いるイオン化法の種類及び検出するイオンの極性(正又は負)

を特定するためのもので,例えば,

“正の ESI”のように表記する。

c)

9.2

によって,次に示した項目について,必要な測定及びデータ処理を行う。

1) 

マススペクトル  バックグラウンドを差し引き,クロマトグラム上のピークの頂上付近における数

回の走査の平均スペクトル又はそれに準じるものを求めておく

6)

6)

  通常,横軸を m/z,縦軸をイオンの相対強度の図として表すことが多いが,m/及びイオン

の相対強度を並記した表の形(マステーブル)で示すこともある。また,必要に応じ,時


18

K 0136

:2015

   

間軸を入れた三次元の表示を行うこともある。

2) 

衝突誘起解離(CID)スペクトル  MS/MS における CID から得られるものと,定性情報を得るため

にインターフェイス部でスキマーなどに一定以上の電圧を印加し,解離反応を促進させて(窒素な

どの乾燥ガスによる衝突も含む。

)得られるスペクトルとがある

7)

7)

 MS/MS の CID スペクトルには,プロダクトイオンスペクトル,プリカーサーイオンスペク

トル及びコンスタントニュートラルロススペクトルの 3 種類があるが,通常,プロダクト

イオンスペクトルが用いられる。

なお,コンスタントニュートラルロススペクトルは,CID によって生じる特定の中性化

学種を脱離する全てのプリカーサーイオンを検出したスペクトルをいう。

3) 

デコンボリューション法によるスペクトル  マススペクトル上に複数の多価イオンが生じる場合に

は,デコンボリューション法によるスペクトル(横軸は分子量)が得られる。

4) 

全イオン電流クロマトグラム(TICC)  各クロマトグラム上のピークについて保持時間の表示を行

うことが多い。

なお,ピークごとの保持時間は,表の形で表すことがある。

5) 

抽出イオンクロマトグラム(EIC)  TICC とともに表示することが多い。

6) 

選択イオンモニタリング(SIM)のクロマトグラム

7) 

選択反応モニタリング(SRM)のクロマトグラム

10.2 

定性又は同定 

定性又は同定は,次のいずれかの方法,又はこれらの組合せによって得られた情報を総合して行う

8)

8)

  LC/MS

では,マススペクトルなどから得られる定性情報が,必ずしも同定に直接結び付くもの

ではないため,核磁気共鳴スペクトルなどの分析方法によるデータとの併用も重要である。

a) 

マススペクトルの解析による方法 

1) 

分子量及び式量  プロトン付加分子([M+H]

,脱プロトン分子([M−H]

,付加イオン,分子

イオンなどを利用して分子量を推定する

9)

。また,イオン性化合物の場合は,解離後に検出された

イオンなどを利用して式量を推定する。

なお,ESI スペクトルで多価イオンを複数生じるペプチド,たんぱく質などはデコンボリューシ

ョン法によって分子量を推定する。

9)

 LC/MS で用いられるイオン化は,ほとんどの場合,正イオン及び負イオンのモードでの測

定が可能である。特定のイオン化モードで強度が小さいなどの理由で,マススペクトル中

の分子量に関連するイオンの特定が難しい場合は,イオン化モードの極性を変えて測定す

ると,相補的な情報が得られ(例えば,正イオンでは[M+H]

,負イオンでは[M−H]

分子量の推定に役立つ。

2) 

分子式及びイオンの組成式  高分解能測定が可能な場合,分子イオン又は各種のイオンについて精

密質量を求め,計算された元素組成(理論計算との比較データ)から,分子式又はイオンの組成式

を推定する。

3) 

特定元素の種類及び原子数  炭素,塩素,臭素,硫黄,各種金属元素などの同位体が存在する特定

元素について,それらの同位体イオンを確認し,化合物中における特定元素の存在を推定する。ま

た,その同位体存在比(相対強度比)から含まれる原子数を推定する。

4) 

官能基の種類及び部分構造  分子量に関連したイオンとフラグメントイオンとの質量差,フラグメ

ントイオン間の質量差などから官能基の種類及び部分構造を推定する。


19

K 0136

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なお,MS/MS における CID スペクトル(主にプロダクトイオンスペクトル)は,フラグメンテ

ーションの過程をより明らかにできるため,構造の推定に有用である。

b) 

ライブラリー検索による方法 

1) 

システム内のライブラリーを利用  使用する装置において,特定のイオン化モード及び測定条件で

標準物質のマススペクトルをあらかじめ測定し,データシステム内のライブラリーに登録しておき,

測定した未知の化合物のマススペクトルを,そのライブラリー中の標準スペクトルと比較し,定性

又は同定に利用する

10)

10)

 LC/MS の場合,イオン化モード,測定条件などによってマススペクトルは大きく変わるた

め,市販のライブラリーはほとんどないが,同様の条件で測定したライブラリーが第三者

から提供されることもある。

2) 

外部データベースの利用  たんぱく質の場合,消化で生じたペプチドの[M+H]

などをプリカーサ

ーイオンとしたプロダクトイオンスペクトル及びその精密な質量を定性などに用いる。たんぱく質

の情報が,多数登録してある外部のデータベースを利用して検索を行い,情報を総合してその一次

構造を推定する

11)

11)

 LC/MS の測定で得られたスペクトル情報を用いる場合と,インフュージョン法などの試料

導入による測定で得られたスペクトル情報を用いる場合との両者がある。また,検索は,

通常,消化酵素の種類,修飾情報などのパラメーターも入れて行う。検索には,ペプチド

ではなく,たんぱく質そのものの[M+H]

を用いることもある。

c) 

クロマトグラフィーによる方法  分離などが不十分なため TICC 上で特定成分の存在が確認できない

場合,目的成分に特有のイオンの m/を用いて EIC を表示させ,標準試料を用いた測定との比較を行

い,ピークの保持時間が一致すれば,その成分の特定が可能となる

12)

。また,吸光光度検出器(UV/VIS

検出器)などの LC の検出器を用いたクロマトグラム情報を加味すると定性に役立つ。

12)

  通常,低分解能で測定する。選択性を高めるためには,高分解能の EIC などを,また,感度

が足りない場合には,SIM のクロマトグラムを用いることがある。

11 

定量分析 

11.1 

試料の前処理 

前処理は,試料の中の分析種の溶解・分離・濃縮,妨害成分の除去,安定性の向上などのために行う。

高感度化のために誘導体化などを行う場合もある。分析種が,微量の場合には,前処理操作中における損

失及び汚染に注意しなければならない。特に,ESI 法を用いた LC/MS では,マトリックス効果が起こりや

すいことも考慮して,前処理を行うことが望ましい。主な前処理操作は,次による。

a) 

除たん白  試料に酸又は有機溶媒などのたん白質変性剤を添加し,たん白質を変性させて沈殿除去す

る沈殿法がある。また,ゲルろ過法などがある。

b) 

抽出  次のいずれかの方法,又は同等の効果をもつ方法による。

1) 

有機溶媒抽出(液液抽出)  疎水性成分の分析に適用する方法で,試料水溶液と二層を形成するジ

クロロメタン,酢酸エチルなどの有機溶媒とを用いて,分析種を有機溶媒層に抽出する。分析種が

親水性の場合,pH 調整によって非解離状態にしたり,イオン対を形成させたりして疎水性を増して

溶媒抽出を行うこともできる。

2) 

固相抽出  試料溶液を選択性のある充塡剤を詰めたカラムに通し,分析種を充塡剤に捕集し,溶離

液を通して溶出する。一般に,カラムの平衡化・試料添加・洗浄・分析種の溶出という手順で行う。


20

K 0136

:2015

   

充塡剤の基材としては,シリカゲルなどの無機系が一般的であるが,スチレンジビニルベンゼン共

重合体などのポリマー系もある。ODS などの修飾基を化学結合した固相を使用する場合が多い。分

離モードについては逆相分配が一般的であるが,逆相分配とイオン交換とのミックスモードなども

ある。カラムスイッチングを用いて LC/MS でのオンライン化が可能である。

3) 

除たん白・固相抽出  試料溶液を選択性のある充塡剤を詰めたカラムに通し,たん白質を流出させ,

分析種をカラムに一時的に捕集して抽出する。カラムスイッチングを用いて LC/MS でのオンライン

化が可能である。

c) 

脱塩  試料中に多量の塩類が存在する場合,インターフェイス・イオン化部によっては,汚れ及び詰

まりの原因になるため,あらかじめ脱塩処理を行う。透析法,限外ろ過法,ゲルろ過法,イオン交換

膜法などが用いられる。逆相クロマトグラフィーの場合は,脱塩処理を行わずにそのまま試料を導入

し,塩類が溶出してから,切替えバルブを用いて溶離液をインターフェイスに導入する方法も用いら

れる。

d) 

濃縮  測定方法の感度に対して分析種の濃度が低い場合には,試料の濃縮を行う。減圧濃縮,窒素な

どを吹き付ける気流濃縮,凍結乾燥による方法,固相抽出を用いる方法,分析種を沈殿させその後沈

殿を少量の液に溶解する方法,少量の液相に抽出する方法などによる。

e) 

希釈  測定方法の感度に比較して,分析種の濃度が高い場合には,適切な溶媒で希釈する。

11.2 

定量法 

定量は,クロマトグラムのピーク面積又はピーク高さを求めて行う。定量法は,次の内標準法,絶対検

量線法又は標準添加法のいずれかによる。この場合の検量線及び関係線の作成に使用する試薬及び標準液

は,可能であれば,計量計測トレーサビリティの確保されたものを使用する。

a) 

内標準法

13),14),15)

  一定濃度の内標準物質を含む数段階の濃度の分析種標準液を調製し,検量線作成用

溶液とする。各濃度の一定量を導入し,クロマトグラムを記録してピーク面積又はピーク高さを測定

する。導入された検量線作成用試料中の分析種と内標準物質との量又は濃度の比を横軸,分析種と内

標準物質とのピーク面積又はピーク高さの比を縦軸として,検量線を作成する。次に,検量線作成用

試料と同じ濃度の内標準物質を添加した測定試料溶液を調製し,同一条件下で分析して,クロマトグ

ラムを記録する。クロマトグラムから,分析種と内標準物質とのピーク面積又はピーク高さの比を求

め,検量線から分析種と内標準物質との量又は濃度の比を求めて,導入された分析種の量又は濃度を

算出する。

13)

  内部標準物質を添加する時期は,その目的によって異なり,次の方法がある。

−  サンプリングスパイク:試料採取時に添加して分析種の試料採取から分析までの回収率

を補正する方法

−  クリーンアップスパイク:試料処理直前に添加して試料前処理工程の回収率を補正する

方法

−  シリンジスパイク:LC-MS に注入する直前に添加して注入量の変動を補正する方法

前処理における回収率の変動及び測定における各種の変動の影響を避け,正確な定量

値を得るためには,サンプリングスパイクが行われる。特に,分析種がごく微量の場合

には,この方法によることが必要である。内標準物質には,前処理,高速液体クロマト

グラフィー及び質量分析における挙動が,分析種と類似している物質を選択する。分析

種の類縁体及び同位体標識化合物(D,

13

C など)を使用することが望ましい。LC/MS

のイオン化は,多くの場合ソフトなイオン化であるため,内標準を含め共存物質による


21

K 0136

:2015

イオン化の抑制又は促進を受けやすい。同位体標識化合物を用いた内標準法は,イオン

源汚染などによって常に存在するきょう(夾)雑物質,カラムで分析種と共溶出するき

ょう(夾)雑物質などによって受けたマトリックス効果の影響を補正する効果がある。

一般に,共存物質によるイオン化の影響及びクロマトグラフィーにおける分離挙動は,

分析対象物質とその同位体標識化合物とで異なる。したがって,内標準物質を使用する

場合は,共存物質に起因するイオン化への影響に配慮する。

14)

  分析種を含まない試料が入手可能な場合には,ブランク及び分析種を数段階の濃度となるよう

に添加して検量線作成用溶液とすると,試料由来のきょう(夾)雑物による影響が補正できる。

15)

分析種標準液を保存する場合,分解,吸着などによって濃度が減少する可能性に留意し,保存

法及び保存期間に注意が必要である。

b) 

絶対検量線法

14),15)

  分析種標準液は,数段階の濃度に調製し,検量線作成用溶液とする。各濃度のも

のを一定量導入し,クロマトグラムを記録し,ピーク面積又はピーク高さを測定する。導入された検

量線作成用試料中の分析種の量又は濃度を横軸,ピーク面積又はピーク高さを縦軸として,検量線を

作成する。同一条件下で試料を導入してクロマトグラムを記録し,ピーク面積又はピーク高さから,

検量線によって分析種の量又は濃度を算出する。この方法は,全測定操作を一定条件にして行う。

c) 

標準添加法

15)

  試料溶液から一定量の溶液を複数採取する。これらの採取した溶液のそれぞれに分析

種(標準液)の濃度が段階的に異なるように添加する。その場合,1 個は,分析種を無添加とする。

これらの溶液をそのまま又はそれぞれ一定量に薄めて,測定用試料溶液とする。各測定用試料溶液の

一定量を導入し,クロマトグラムを記録し,分析種のピーク面積又はピーク高さを測定する。それぞ

れに加えた分析種の濃度を算出し,標準液の添加による分析種の濃度を横軸,ピーク面積又はピーク

高さを縦軸として,関係線を作成する。分析種を添加しない試料溶液から得られるピーク面積又はピ

ーク高さに相当する分析種の濃度は,関係線と横軸との交点から求める。この方法は,関係線が直線

の場合にだけ適用する。

11.3 

定量操作 

定量操作は次による。

a) 

測定条件の選定  箇条 によって装置条件を設定した後,次の測定条件を選定し,データを記録する。

1) 

イオン化の方式及びイオンの検出方法  目的に応じた感度,選択性,測定の精度などを考慮して,

イオン化の方式,正・負イオンの別,及び検出方法を選択する。検出方法は,選択イオンモニタリ

ング(SIM)又は選択反応モニタリング(SRM)が一般的であるが,全イオンモニタリングで測定

し,抽出イオンクロマトグラムを用いて定量することがある。

2) 

分離モード及びカラム  分析種の望ましい分離が行われるように選択する。特に,イオン化を阻害

又は促進するきょう(夾)雑成分との分離が重要である。

3) 

選択イオン  分析種検出のために選択するイオンは,その成分に特徴的で相対イオン強度が大きく,

共存成分,

カラム,

質量分析計などに起因するバックグラウンドなどの影響がないものを選択する。

場合によっては,1 成分について二つ以上の m/値で,選択イオンモニタリングを行うことがある。

4) 

選択反応  分析種検出のために選択するプリカーサーイオンからプロダクトイオンを生成する開裂

反応は,その成分に特徴的でプロダクトイオンの相対強度が大きいものを選択する。プロダクトイ

オンの相対強度よりも成分特異的な反応を選択することによって,より高い選択性が得られること

がある。場合によっては,1 成分について二つ以上の反応で,選択反応検出を行うことがある。

5) 

選択イオンモニタリング及び選択反応モニタリングのサンプリング時間  クロマトグラム上の 1 ピ


22

K 0136

:2015

   

ークに対して,1 チャンネル 10∼20 点の測定点が,得られるように設定する。ピークの幅及びチャ

ンネル数からサンプリング時間を決定する。通常,1 チャンネル当たり数ミリ秒間∼1 秒間とする。

なお,サンプリング時間を必要以上に短くすると,シグナル とノイズ との比が低下する。

6) 

分解能  通常,低分解能でよい。分析種イオンと整数質量が同じで精密質量が異なるイオンを与え

る共存成分が,前処理操作で十分に除けない場合,又はバックグラウンドの影響を除けない場合に

は,二重収束方式の磁場形の装置を用いて,高分解能(約 5 000∼10 000 以上)で測定すると効果的

である。また,分解能が高い飛行時間質量分析計,フーリエ変換質量分析計などを用いて,全イオ

ンモニタリングで測定し,狭い m/範囲で作成した抽出イオンクロマトグラムを用いた定量も,選

択性を向上させる上で効果的である。

b) 

測定  実試料測定は,次のとおり行う。

1)  11.1

によって,試料に応じた適切な前処理を行った後,必要に応じて一定体積の溶液にして測定試

料とする。

2)  11.3 a)

の測定条件下で,一定量を装置に導入する。

3)

選択イオンモニタリング又は選択反応モニタリングによって得られた分析種(内標準法の場合には,

分析種及び内標準物質)のクロマトグラムについて,ピーク面積又はピーク高さ(内標準法の場合

には,ピーク面積比又はピーク高さの比)を求め,検量線又はその回帰式から定量値を求める。標

準添加法の場合は,11.2 c)による。

4)

必要に応じて,同一測定試料について 2 回以上,又は別に処理した測定試料について測定を繰り返

す。測定値の平均値を算出する。

12 

データの質の保証 

12.1 

分析方法の妥当性確認の実施 

新たに開発した分析方法

(分析条件を変更した場合を含む。

を試験に用いる場合には,

その分析方法が,

試験の目的に合致していることを立証するために,分析方法の妥当性を確認する

16)

。分析方法の妥当性確

認では,選択性及び特異性,範囲,直線性,検出下限,定量下限,堅ろう性(頑健性)

,精度(併行精度,

室内再現精度,室間再現精度)

,真度などの項目(分析能パラメーター)について評価を行う。公定法を採

用する場合でも,その試験室で要求される項目について,分析方法の妥当性確認を実施することが望まし

い。

なお,評価結果は文書に記録し,保管する。

16)

  日米 EU 医薬品規制調和会議(ICH)の品質に関するガイドライン Q2,日本薬局方参考情報で

は,医薬品の試験法に用いる分析方法の妥当性評価基準として,分析法バリデーションを提唱

している。また,トキシコキネティクス試験及び臨床試験における薬物又はその代謝物の生体

試料中の薬物濃度を定量するときに用いる分析法バリデーション並びに当該分析方法を用いた

実試料分析に適用する分析法バリデーションとして,

“医薬品開発における生体試料中薬物濃

度分析法のバリデーションに関するガイドライン(厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知,

薬食審査発 0711 第 1 号  平成 25 年 7 月 11 日)

”及び“医薬品開発における生体試料中薬物濃

度分析法のバリデーションに関するガイドライン質疑応答集(Q&A)

(厚生労働省医薬食品局

審査管理課事務連絡)

”が発出されている。


23

K 0136

:2015

12.2 

検出下限の求め方 

検出下限は,

誤りの確率を説明できる統計的方法で求める。

次の方法のいずれかによって求めるとよい。

a)

ブランク試料及び想定される検出下限付近の既知濃度の分析種を添加した試料を,各々繰返し測定し,

正味の測定値(空試験値を差し引いた測定値)の標準偏差 σ に,

表 の測定回数に対応した 値を乗

じ,更に濃度(量)に換算した値を検出下限とする。検出下限をより精密に推定するためには,測定

の繰返し回数を 20 回以上とすることが望ましい。この場合には,標準偏差 σ に 3.3

17)

を乗じ,更に濃

度(量)に換算した値を検出下限とする。

表 1−測定回数 及び  

測定回数 

3  4  5  6  7  8  9  10 11 12 13 14 15

値 5.84

4.71

4.26

4.03

3.89

3.79

3.72

3.67

3.62

3.59 3.56 3.54 3.52

測定回数 n 16  17  18  19  ∞

値 3.51

3.49

3.48

3.47

3.29

     

17)

  測定の繰返し回数が無限大のときの 値は 3.29 であるが,ICH[International Conference on

Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use(日米

EU 医薬品規制調和国際会議)]及び日本薬局方では 3.3 を採用しており,この規格でも 3.3

を採用した。

b)

想定される検出下限付近の既知濃度の分析種を含む試料を測定し,得られたシグナル とノイズ 

の比(SN 比)が 3 となる場合の分析種の濃度(量)を検出下限とする

18)

。その場合,SN 比及び記録

計の応答時間又はデータ処理装置のパラメーター(積分時間など)を併記する。シグナル 及びノイ

ズ は,分析によって得られたクロマトグラムを

図 に示すようにノイズレベルが十分に測定できる

ように描き,次のように求める。

1) 

シグナル  検出器出力の平均値を線で結び,ノイズを含まないクロマトグラム(図 の太線)を得

て,ベースラインからピーク頂点までのピーク高さを,シグナル とする。

2) 

ノイズ  ピークの前後におけるベースラインの,ピーク半値幅の 20 倍の間における出力信号の最大

値と最小値との差のふれ幅(h

N

)の 1/2 を,ノイズ とする。

18)

  SN 比が 3 を検出下限として定めるのは,SN 比が 2 では理論的に誤りの確率が 0.1 %であるが,

ドリフト,ふらつき,汚染などの影響で,経験的には 2∼3 にするのが妥当であると判断され

ているからである。


24

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図 9−分析対象成分が検出下限付近における濃度のクロマトグラム概念図 

12.3 

品質管理用試料の測定 

品質管理用試料(QC 試料)

19)

を準備し,定期的に分析することによってデータの質を管理する。

19)

  品質管理用試料は,十分な量及び安定性が確保され,かつ,分析する試料の代表となり得る試

料を使用する。

ルーチン分析の場合,試料 20 個当たり品質管理用試料 1 個以上を並行して分析することが望

ましい。

12.4 

空試験の測定 

空試験用試料(

例  分析種を含まないことが明らかな試料を分析種と並行して処理した測定用試料溶液

又は純溶媒)を用いて空試験のクロマトグラムを得る。

得られたクロマトグラムにゴーストピークが出現したときは,

その汚染の原因について,

使用する試薬,

溶媒,器具,試料導入系などを特定し,原因に見合った対処を行い,ゴーストピークを定量値に影響しな

い程度まで低減する。

注記  分析種を含まないことが明らかな試料を,分析種を含む試料と並行して処理した測定用試料溶

液を測定すると,試料由来のきょう(夾)雑物の影響及び全分析操作にわたる影響を明らかに

できる。一方,純溶媒を測定すれば,溶媒の空試験及び試料導入時の汚染,相互汚染などの装

置からの影響を分離して明らかにできる。

12.5 

測定値の信頼性の評価 

試験によって得られた測定値の信頼性を評価する場合には,その分析方法における測定値の不確かさを

用いる。この規格では,拡張不確かさ を用いて測定値の不確かさを表記することとする。その場合,包

含係数 の値(2∼3 の値)を明記する。

注記  化学分析においては,k=2 とする場合が一般的である。k=2 とした場合,拡張不確かさ 

信頼の水準は,約 95 %に相当すると考えられている。

N

S


25

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12.6 

定期的な装置性能の点検 

装置構成部の点検は,各装置の取扱説明書に従い,定められた頻度で実施する。点検の記録は保管する。

12.7 

作業手順書の作成 

分析操作の手順,機器の操作方法及び点検方法を記載した作業手順書(標準操作手順書)を作成し,こ

れを遵守する。

13 

分析結果に記載すべき事項 

分析結果には,次のうち必要な項目について記載する。また,品質管理用試料の分析結果は,分析種の

分析結果の信頼性を示しており,試料の分析結果とともに報告することが望ましい。

a)

分析結果  溶液試料に対しては質量濃度で,

固体試料に対しては質量分率で,

適切な単位で表示する。

分析結果の単位は,JIS Z 8000-1JIS Z 8202-8 及び JIS Z 8202-9 による。

b)

品質管理用試料の種類及び分析結果(分析年月日)

c)

測定用試料の分析年月日

d)

試料名

e)

試料の調製方法

f)

分析方法(定性分析,定量分析)

g)

定量方法

h)

測定条件

i)

装置の製造会社名及び形式名

14 

個別規格に記載すべき事項 

高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いる個別規格では,次のうち必要な項目につい

て記載する。

a)

適用範囲,測定対象,定量範囲など

b)

試料採取方法

c)

分析用試料又は試料溶液の調製方法

d)

検量線作成用試料又は検量線作成用溶液の調製方法

e)

測定条件

f)

結果の整理及び表示方法

g)

データの質の保証

20)

20)

  箇条 12 に規定する方法に準じた方法又は個別規格に規定する方法による。

参考文献  

[1]  JIS K 0114:2012  ガスクロマトグラフィー通則 
[2]  ISO/IEC Guide 99:2007,International vocabulary of metrology−Basic and general concepts and associated

terms (VIM)