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K 0121

:2006

(1)

まえがき

この規格は,工業標準化法第 14 条によって準用する第 12 条第 1 項の規定に基づき,社団法人日本分析

機器工業会(JAIMA)/財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規格を改正すべき

との申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工業規格である。

これによって,JIS K 0121:1993 は改正され,この規格に置き換えられる。

この規格の一部が,技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権,又は出願公開後の

実用新案登録出願に抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会

は,このような技術的性質をもつ特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権,又は出願公開後の実用新

案登録出願にかかわる確認について,責任はもたない。

JIS K 0121

には,次に示す附属書がある。

附属書(規定)原子吸光分析装置の使用判定項目


K 0121

:2006

(2)

目  次

ページ

1.

  適用範囲

1

2.

  引用規格

1

3.

  定義

1

4.

  分析方法の種類 

2

5.

  原子吸光分析 

2

5.1

  装置の構成 

2

5.2

  光源部

2

5.3

  試料原子化部 

3

5.4

  光学系

5

5.5

  検出部

6

5.6

  データ処理部 

6

5.7

  バックグラウンド補正 

6

5.8

  附属装置 

10

5.9

  付加機能 

12

6.

  水銀専用原子吸光分析 

12

6.1

  装置の構成 

12

6.2

  附属装置 

14

7.

  水,試薬及びガス類

14

7.1

  水 

14

7.2

  試薬

14

7.3

  ガス

14

8.

  操作方法

14

8.1

  装置の設置条件

14

8.2

  試料の調製 

15

8.3

  装置操作条件の設定

15

8.4

  測定

16

9.

  定量

17

9.1

  定量方法 

17

9.2

  定量値の表し方

18

9.3

  干渉

18

9.4

  干渉の補正 

18

9.5

  データの質の管理

19

9.6

  装置の使用判定項目

19

10.

  安全

20

11.

  測定結果の整理 

21


K 0121

:2006

(3)

12.

  個別規格で記載すべき事項 

22

附属書(規定)原子吸光分析装置の使用判定項目

23

 


日本工業規格

JIS

 K

0121

:2006

原子吸光分析通則

General rules for atomic absorption spectrometry

1. 

適用範囲  この規格は,原子吸光分析装置を用いて,定量分析を行う場合の通則について規定する。

2. 

引用規格  次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成す

る。これらの引用規格は,その最新版(追補を含む。

)を適用する。

JIS K 0050

  化学分析方法通則

JIS K 0083

  排ガス中の金属分析方法

JIS K 0101

  工業用水試験方法

JIS K 0102

  工場排水試験方法

JIS K 0211

  分析化学用語(基礎部門)

JIS K 0212

  分析化学用語(光学部門)

JIS K 0215

  分析化学用語(分析機器部門)

JIS K 0222

  排ガス中の水銀分析方法

JIS K 0557

  用水・排水の試験に用いる水

3. 

定義  この規格で用いる主な用語の定義は,JIS K 0050JIS K 0211JIS K 0212 及び JIS K 0215 

よるほか,次による。

なお,括弧内の対応英語は,参考のために示す。

a) 

原子吸光(分光)分析(atomic absorption spectrometry)  原子吸光分析装置を用い,試料中に含まれ

る分析対象元素を,フレーム(炎)

,電気加熱又は化学反応によって基底状態の原子とし,その原子蒸

気層の吸光度を測定することによって,分析対象元素の濃度を求める方法。

b) 

フレーム原子吸光分析(flame atomic absorption spectrometry)  フレームを用いる原子吸光分析。

c) 

重水素ランプ(deuterium lamp)  重水素を封入した水素放電管で,紫外部全域にわたって強い連続ス

ペクトルを発光するので,バックグラウンド補正用の光源として用いる。

d) 

低圧水銀ランプ(low-pressure mercury lamp)  水銀蒸気の圧力が 133 Pa 以下の水銀放電管で,253.7 nm

の共鳴線を強く発光するので水銀測定用の光源として用いる。

e) 

電気加熱原子吸光分析(electrothermal atomic absorption spectrometry)  黒鉛又は耐熱金属を発熱体と

する炉を電気的に加熱し,試料溶液を乾燥,灰化,原子化し,原子吸光分析をする方法。

f) 

冷蒸気原子吸光分析(cold vapor atomic absorption spectrometry)  試料溶液を還元気化,又は加熱気化

して得られた原子蒸気を原子吸光分析する方法。

g) 

還元気化器(atomic generation device by reduction)  試料中の分析対象成分を還元気化して原子蒸気と

する装置。


2

K 0121

:2006

h) 

加熱気化器(atomic vapor generation device by heating)  試料中の分析対象成分を加熱気化して,原子

蒸気とする装置。

i) 

連続スペクトル光源補正方式(background-correction system using continuous-spectrum sources)  連続ス

ペクトルを発生する光源を,バックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。

j) 

ゼーマン分裂補正方式(background-correction system using Zeeman splitted spectrum)  磁場によってゼ

ーマン分裂したスペクトル線を,バックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。

k) 

非共鳴近接線補正方式(background-correction system using nonresonance spectrum)  中空陰極ランプか

ら発生する分析対象元素の共鳴線に近接するスペクトル線を,バックグラウンド補正に用いる光学系

の一方式。

l) 

自己反転補正方式(background-correction system using self-reversal spectrum)  中空陰極ランプに通常

の電流と高電流とを交互に流し,高電流による放電で生じる自已反転したスペクトル線をバックグラ

ウンド補正に用いる光学系の一方式。

m) 

水銀専用原子吸光分析装置(mercury analyzer)  試料中の水銀を還元気化又は加熱気化して発生する

水銀原子蒸気を,原子吸光分析する水銀専用の測定装置。

n) 

加熱気化−金アマルガムー冷蒸気方式(thermal vaporization-gold amalgamation-cold vapor type)  試料

中の水銀を加熱気化して原子蒸気とし,水銀捕集管で濃縮後,これを加熱し,得られた原子蒸気を原

子吸光分析する方式。

4. 

分析方法の種類  分析方法の種類には,原子吸光分析及び水銀専用原子吸光分析がある。

備考  水銀専用原子吸光分析とは,水銀分析に特化した機能をもつ原子吸光分析のことをいう。

5. 

原子吸光分析

5.1 

装置の構成  原子吸光分析装置は,光源部,試料原子化部,光学系,検出部及びデータ処理部から

構成する。

図 に装置の基本構成の一例を示す。

                                (

1

)

(

1

バックグラウンド補正部は常備の構成要素ではなく,これを備えないこともある

  1  原子吸光分析装置の構成(一例)

5.2 

光源部

5.2.1 

光源  光源部は,光源及びランプ点灯用電源で構成し,その光源は,次による。

a) 

中空陰極ランプ  分析用光源及びバックグラウンド補正用光源で,図 に構造の一例を示す。

試料原子化部

光源部

光学系

検出部

データ処理部

バックグラウンド補正部


3

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  ガラス

   陽極

     

中空陰極

  

石英窓又はガラス窓

希ガス(ネオン又はアルゴン)

  2  中空陰極ランプの構造(一例)

b) 

高輝度ランプ  特定元素の分析用光源

1) 

高輝度中空陰極ランプ

2) 

無電極放電ランプ

c)

低圧水銀ランプ  水銀分析用光源

d) 

キセノンランプ  対象元素の分析用及びバックグラウンド補正用光源

e) 

重水素ランプ  バックグラウンド補正用光源

f) 

タングステンランプ  バックグラウンド補正用光源

5.2.2 

ランプ点灯用電源  光源部の光源ランプ点灯用電源は,光源ランプを点灯させ,その輝度を安定さ

せる機能をもつものとする。

5.3 

試料原子化部

5.3.1 

フレーム方式の原子化部  フレーム方式の原子化部は,バーナー及びガス流量制御部で構成する。

a) 

バーナーは,試料溶液をチャンバー内に吹き込んで,細かい粒子だけをフレームに送り込む予混合バ

ーナー及び霧化された試料溶液の全量をフレームに送り込む全噴霧バーナーとする。予混合バーナー

の一例を

図 に示す。ここでは,二重管で構成されるネブライザーの外側に助燃ガスが流れることに

よって,試料溶液がチャンバー内に霧状で導入される。この霧は更にディスパーサーにぶつかり,よ

り細かい粒子だけが燃料ガス,助燃ガスとともにチャンバー内を進み,バーナーヘッドのスロットか

らフレームに送り込まれる。予混合バーナーに用いるフレームの種類は,アセチレン・空気,アセチ

レン・一酸化二窒素,水素・アルゴンなどとする。ドレントラップは,燃料ガス及び助燃ガスがドレ

ンチューブから流出しないものを用いる。

b) 

ガス流量制御部は,バーナーに供給する燃料ガスの圧力,助燃ガスの圧力及びそれらの流量を一定に

保つためのもので,圧力調節弁,流量調節弁などで構成する。

石英ガラス窓又はガラス窓


4

K 0121

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  3  予混合バーナー(一例)

5.3.2 

電気加熱方式の原子化部  電気加熱方式の原子化部は,電気加熱炉及び電源部で構成する。

a) 

電気加熱炉は,発熱体に電流を流して試料溶液を乾燥,灰化,原子化するもので,その発熱体は,黒

鉛製又は耐熱金属製とする。酸化防止,試料蒸気などの移送のため,アルゴン,窒素,アルゴン及び

水素の混合ガスなどを炉の中に流す構造のものがある。電気加熱炉(黒鉛)の一例を,

図 に示す。

  4  電気加熱炉(黒鉛)(一例)

b) 

電源部は,電気加熱炉の発熱体を段階的又は連続的に必要な温度に加熱する。

5.3.3 

冷蒸気方式の原子化部  冷蒸気方式の原子化部は,水銀蒸気発生部と吸収セルとで構成する。


5

K 0121

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a) 

水銀蒸気発生部は,試料溶液に還元剤を加え,水銀を還元気化させる還元気化器とする。

b) 

吸収セルは両端に石英ガラス窓をもつガス流通構造のものとする。

5.4 

光学系

5.4.1 

測光方式  シングルビーム方式(図 5)とダブルビーム方式(図 6)とがある。シングルビーム方

式は,1 本の光束で測定を行うが,ダブルビーム方式は,光束をハーフミラーなどによって分割し,一方

を原子化部に通過させ,他方は,う(迂)回する。後者を参照光として光強度変化を補正するものである。

光源ランプ

バーナー

分光器

  5  シングルビーム方式の光学系例

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  6  ダブルビーム方式の光学系例

5.4.2 

分光器  光源から放射されたスペクトルの中から必要な分析線だけを選び出すためのもので,回折

格子を用いた分光器を備え,近接線を分離できる十分な分解能を備えたものとする。分光器には,リトロ

ー形分光器(

図 7),ツェルニ・ターナー形分光器(図 8),エバート形分光器(図 8),エシェル形分光器

図 9)などがある。

備考  光源スペクトル分布が単純な元素では,干渉フィルターを用いる場合もある。又は回折格子,

干渉フィルターを用いないで,ある波長だけを選択的に検出できる検出器を用いる場合もある。

  7  リトロー形を用いた分光部

回折格子

集光系

検出器

出口スリッ

入口ス

リット

凹面鏡

出口スリット

入口スリット

光源ランプ

バーナー

分光器

参照光

サンプル光

ハーフミラー

反射ミラー


6

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  *)ツェルニ・ターナー形

**

)エバート形

  8  ツェルニ・ターナー形及びエバート形を用いた分光部

図 9  エシェル形を用いた分光部

5.5 

検出部  検出器への入射光の光強度をその強度に応じた電気信号に変換するもので,光電子増倍管,

光電管又は半導体検出器が用いられる。

5.6 

データ処理部  データ処理(

2

)

を行い,吸光度,濃度,検量線,測定結果などを表示,記録する。ア

ナログ方式及びデジタル方式がある。表示には,ディスプレー,プリンター,記録計などを使用する。

(

2

)

データ処理には,測定値の読み取りの精度向上及び迅速化を図る目的で,信号の積分及び吸収

ピーク値の読み取り機能をもち,検量線の作成及び記憶の機能をもつものがある。

5.7 

バックグラウンド補正部  バックグラウンドを補正するためのものである。バックグラウンド補正

方式には,連続スペクトル光源補正方式,ゼーマン分裂補正方式,非共鳴近接線補正方式及び自己反転補

正方式の 4 種類がある。

プリズム

エシェル回折格子

凹面鏡

凹面鏡

検出器

入口スリット

入口スリット

出口スリット

入口スリット

出口スリット

入口スリット

凹面鏡

凹面鏡

検出器

回折格子

集光系

凹面鏡

*)

**)


7

K 0121

:2006

5.7.1 

連続スペクトル光源補正方式  連続スペクトルを発生する光源(例えば,重水素ランプ,タングス

テンランプなど)をバックグラウンド補正に用いる方式である。連続スペクトル光源ランプ及びその光線

を分析用光源ランプ(中空陰極ランプ)の光軸に一致させる光学系(

3

)

で構成する。連続スペクトル光源方

式の一例を,

図 10 に示す。

(

3

一般には,ハーフミラーを用いる。

     バックグラウンド補正用
     光源ランプ

 分析用光源ランプ    ハーフミラー

    試料原子化部

     光学系

 10  連続スペクトル光源補正方式の構成(一例)

補正用光源としては,180∼350 nm の範囲に分析線をもつ元素に対しては重水素ランプが,また,350

∼800 nm の範囲の元素に対しては,タングステンランプが最もよく用いられる。

図 11 に光源の発光スペ

クトルと試料の吸収スペクトルとの関係を示す。連続スペクトルを光源とした場合,補正線の波長幅は光

学系に依存し,モノクロメーターのスペクトルバンド幅に等しいので,原子吸収線のそれよりはるかに広

い。その結果,原子蒸気による吸収はほとんど認められず,バックグラウンド吸収だけが測定される。一

方,中空陰極ランプを光源とした場合は,光学系によって取り出される分析線の波長幅は,光源ランプ固

有の輝線スペクトルの波長幅と同じであり,極めて狭いため,原子蒸気による吸収とバックグラウンドに

よる吸収との両方が測定される。したがって,両者の吸収の差を電気的又は計算で求めることによって,

バックグラウンド吸収の影響を除くことができる。


8

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      スペクトルバンド幅

 11  連続スペクトル光源補正方式における光源の発光スペクトルと試料の吸収スペクトルとの関係

5.7.2 

ゼーマン分裂補正方式  磁場によってゼーマン分裂したスペクトル線をバックグラウンド補正に

用いる方式である。ゼーマン効果を生じさせるための磁石及び光信号を分別する信号処理部で構成する。

磁石は,永久磁石又は交流磁石を用いる。交流磁石を利用したとき,磁場を光軸に対して平行にかける

方式と垂直にかける方式とがある。また,磁場の強度は,固定と可変の方式とがある。

図 12 に光軸に対し

て垂直に磁場をかける方式を示す。

分析用及びバック 
グラウンド補正用
中空陰極ランプ

偏光子

永久磁石又は交流磁石

試料原子化部

光学系

 12  ゼーマン分裂補正方式の構成(一例)

図 13 に磁場を垂直にかけた場合のスペクトルの分裂を示す。吸収スペクトルに磁場をかけると,磁場と

平行に偏光した光だけを吸収する中央の原子吸収線(π)と垂直に偏光した光だけを吸収する両側の原子

吸収線(σ

,σ

̶

)とに分裂する。バックグラウンド吸収は分裂もせず,偏光特性も生じない。一方,光

源からの光束は,偏光成分(P

//

)

及び偏光成分(P

)

に分けられるが,両方とも原子吸収線と同じ波長である。

したがって,偏光成分(P

//

)によって原子吸収とバックグラウンド吸収とが測定でき,偏光成分(P

)

だけ

吸収スペクトル

発光スペクトル

(中空陰極ランプ)

発光スペクトル

(連続スペクトル光源)

バックグラウンド吸収


9

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を測定するとバックグラウンドが測定できるので,これを差し引きすることで,原子吸収が求められる。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 13  スペクトルのゼーマン分裂例

5.7.3 

非共鳴近接線補正方式  中空陰極ランプから発生する分析対象元素の共鳴線に近接するスペクト

ル線を,バックグラウンド補正に用いる方式である。分析用とは別のバックグラウンド補正用光源ランプ

(中空陰極ランプ)及びその光軸を分析用光源ランプ(中空陰極ランプ)の光軸に一致させる光学系(

4

)

構成する。非共鳴近接線方式の一例を,

図 14 に示す。

(

4

一般的にはハーフミラーを用いる。

バックグラウンド補正用
中空陰極ランプ

  光学系

     ハーフミラー

試料原子化部

     ハーフミラー

分析用

  光学系

中空陰極ランプ

 14  非共鳴近接線補正方式の構成(一例)

分析用,補正用共に輝線スペクトル光線を用いる。光学系によって,分析用光源から目的元素の共鳴線

を取り出し,これを分析線とする。この分析線は,原子吸収スペクトルと同一波長であり,原子吸収とバ

ックグラウンド吸収との合計が測定できる。一方,補正用光源から光学系で,分析線とは異なる近接した

輝線を取り出し,これを補正線とする。この補正線は,原子吸収スペクトルとは異なる波長なので,原子

吸収は起こさず,バックグラウンド吸収だけが測定できる。これによって,分析線の吸収から補正線の吸

収を差し引くことによって,補正ができる。

なお,補正線は分析線に十分近接しており,しかも原子蒸気によって吸収されない輝線(封入ガスであ

るネオン線,アルゴン線なども使用可能)を選ぶ必要がある。

なお,この補正法は,分析線の片すそだけのバックグラウンド吸収を測定しているために,分析線の両

端のバックグラウンド吸収の大きさが異なる場合は適切ではない。

測  定  光

〔P

//

 +P

測  定  光

〔P

//

測  定  光

〔P


10

K 0121

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5.7.4 

自己反転補正方式  中空陰極ランプに高電流を流すと生じる自己反転現象を,バックグラウンド補

正に用いる方式である。すなわち,中空陰極ランプに高電流を流すと共鳴線のスペクトルは,自己吸収を

起こし,本来,原子吸光が起こる中心付近の光が弱く,その周りが強い,やや広がったスペクトルになる。

この状態では,主にバックグラウンド吸収が測定される。一方,通常の電流を流した場合は,通常の原子

吸光とバックグラウンド吸収とが合わさったものが測定される。後者から,前者を差し引くことによって

原子吸光だけが得られる(

図 15)。装置としては,高電流に対応した中空陰極ランプと,これに通常の電

流(分析用,I

L

)と高電流(バックグラウンド補正用,I

H

)とを交互に流す機能をもつランプ電源とで構

成する(

図 16)。

 15  自己反転現象(電流値とスペクトルとの関係)

分析用及びバック

      試料原子化部

光学系

グラウンド補正用
中空陰極ランプ

  分析用

  ランプ電源

 バックグラウンド補正用

 16  自己反転補正方式の構成(一例)

5.8 

附属装置  附属装置は,必要に応じて,次のものを付加してもよい。

a)

自動試料導入装置  試料溶液を交換,採取し,原子化部に自動的に導入するなどの機能をもつ装置で

I

H

のスペクトル

I

L

のスペクトル

I

L

I

H


11

K 0121

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ある。

b)

自動希釈装置  フレーム原子吸光測定において,試料溶液をネブライザーに導入するときに希釈溶液

で自動的に希釈を行う装置である。希釈方法としては,測定条件上で,試料溶液の希釈倍数を設定し,

測定時に全試料溶液を一定の希釈倍数に薄めて自動測定する方法と,試料溶液の測定値(吸光度)が

検量線の濃度範囲の上限を超えた場合には,

その試料溶液を検量線濃度範囲以内に入るように,

適宜,

自動希釈し,再測定を行う方法とがある。

c)

フローインジェクション装置  一定量の試料溶液をキャリヤー溶液に注入し,ネブライザー及び反応

器に導入する装置である。信号は,過渡的であることが多い。フローインジェクション装置の一例を,

図 17 に示す。

サンプルループ

試料溶液

ポンプ

キャリアー
溶液

ネブライザー・
反応器へ

切替バルブ

充填時

ポンプ

廃液

サンプルループ

試料溶液

ポンプ

キャリアー
溶液

ネブライザー・
反応器へ

切替バルブ

注入時

ポンプ

廃液

 17  フローインジェクション装置の一例

d)

水素化物発生装置  試料溶液中の分析対象成分(例えば,ひ素,セレン,アンチモン,ビスマス,テ

ルルなど)を還元して気体状の水素化合物とし,フレーム又は加熱吸収セルに導入する装置で,バッ

チ方式と連続フロー方式とがある。

1)

バッチ方式の発生装置は,反応容器,貯留器(

5

)

,流路切換器及び流量計で構成する。

(

5

反応容器が貯留器を兼ねるものもある。

2)

連続フロー方式の発生装置は,試料溶液,還元剤溶液などを吸い上げるポンプ,反応管,気液分離

管及び流量計で構成する。

3)

加熱吸収セルは,水素化物発生装置で生成した水素化合物を原子化し,吸光度を測定するための機

器である。電気的に加熱する方式及びフレームで加熱する方式がある。

なお,電気加熱方式は,石英ガラス製吸収セル,ヒーター及び温度制御部で構成する。水素化物

発生装置の一例を,

図 18 に示す。

充てん時

キ ャ リ ヤ ー
溶液

キャリヤー
溶液


12

K 0121

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 18  水素化物発生装置の一例

備考  連続フロー方式で,ひ素及びアンチモンの 5 価を 3 価に予備還元できる予備還元機構を附属し

た装置もある。

5.9 

付加機能  付加機能は,次による。

a) 

吸収信号の拡大及び縮小表示

b) 

繰返し測定及び統計処理

c) 

吸収信号の積分,ピーク高さ及びピーク面積

d) 

検量線の作成及び記憶

e) 

ベースライン補正

f) 

感度補正

g) 

データ保存

h) 

ランプの種類の自動設定

i) 

波長の自動設定

j) 

スリット幅の自動設定

k) 

ガス流量の自動設定

6. 

水銀専用原子吸光分析

6.1 

装置の構成  水銀専用原子吸光分析装置は,光源部,測光部,データ処理部及び水銀蒸気発生部か

ら構成する。

図 19 に装置の基本構成を示す。

 19  水銀専用原子吸光分析装置の構成の一例

光源部

測光部

データ 処理部

水銀蒸気発生部


13

K 0121

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6.1.1 

光源部  水銀分析のためのスペクトル(波長  253.7 nm)を発光する光源ランプで,低圧水銀ラン

プを用いる。

6.1.2 

測光部  測光部は、次による。

a) 

吸収セル  両端に石英ガラス窓をもつガス流通構造のものとする。

b)

検出部  検出部は,5.5 による。

6.1.3 

データ処理部  データ処理部は,5.6 による。

6.1.4 

水銀蒸気発生部  試料中の水銀を原子蒸気化する方式は,次による。還元気化方式の一例を図 20,

加熱気化方式の一例を図 21 に示す。

a) 

還元気化方式  試料溶液に還元剤を加え,水銀を還元気化させる。

 20  還元気化方式の一例

備考  測定ガスの流路方式には,発生した水銀が吸収セルを通過した後,測定系から除去される開放

送気方式,又は吸収セルを通った水銀を還元容器に戻し,一定の吸収が得られるまで水銀蒸気

を系内で循環させる密閉循環方式がある。

b) 

加熱気化方式  試料を加熱し,気化した水銀を捕集管に捕集し,捕集管を再度加熱して水銀を気化さ

せる。

空気ポンプ

試料ボート

燃焼管

洗気,除湿ビン

水銀捕集管

吸収セル

水銀除去用活性炭

低圧水銀ランプ

検出器

 21  加熱気化方式の一例

還元容器

除湿瓶

吸収セル

水銀除去用活性炭

低圧水銀ランプ

検出器

除湿瓶


14

K 0121

:2006

備考  水銀を捕集するには,担体に金を皮膜した水銀捕集剤を充てんしてある水銀捕集管を用いる。

6.2 

附属装置  必要に応じて,次のものを付加してもよい。

a) 

還元気化自動試料導入装置  前処理後の試料溶液,又は試料中の水銀を還元気化させ,自動的に測光

部に導入するなどの機能をもつ装置である。

b) 

加熱気化自動試料導入装置  試料ボートを加熱気化部に自動的に導入するなどの機能をもつ装置であ

る。

c) 

自動前処理機能付き試料導入装置  自動で試料を酸又はアルカリで前処理後,水銀蒸気発生部に自動

的に導入するなどの機能をもつ装置である。

7. 

水,試薬及びガス類

7.1 

水  原子吸光分析法に用いる水は,JIS K 0557 に規定する A3 又は A4 を用いる。

7.2 

試薬  試薬は,次による。

a)

試薬は,

該当する日本工業規格がある場合には、その種類の最上級品質又は適切な用途のものを用い,

該当する日本工業規格がない場合には、分析に支障のない品質のものを用いる(

6

)

(

6

試験の目的によって,有害金属測定用試薬を用いてもよい。

b)

検量線作成用標準液には、国家標準にトレーサブルな標準液(計量標準供給制度に基づき供給されて

いる JCSS[Japan Calibration Service System]のロゴ付証明書を付した標準液)、又は、このような

標準液がない場合には、一般的な市販の標準液を用いる。

備考  計量証明事業者が計量証明のために測定する場合には,計量標準供給制度[JCSS(Japan

Calibration Service System

)]の校正証明書を付した標準液を用いることが望ましい。

c)

試薬は,成分の溶出がなく,十分に洗浄した容器に入れ,清浄な場所に保存する。

d)

試薬の調製に用いる水は,7.1 の水とするが,個別規格で規定されている場合には,それに従う。

7.3 

ガス  使用するガスは,特に断らない限り,日本工業規格で規定するものを用いる。ただし,助燃

ガスとしての空気は,粉じんを十分に除去したものを用いる。また,水銀専用の分析装置によってごく微

量の水銀を測定する場合は,空試験で確認した室内空気又は水銀を除去した室内空気を送気ガスとして用

いる(

7

)

(

7

有機溶媒を使用した試験を行っている場合には,その室内空気中の有機溶媒がバックグラウン

ド吸収を与える可能性があるので注意する。

8. 

操作方法

8.1 

装置の設置条件  装置の設置条件は,次による。

a)

強力な磁場,電場,高周波などを発生する装置が近くにない。

b)

試料原子化部の上部に専用の換気ダクトを設け(

8

)

,十分な換気ができる。

(

8

水銀専用原子吸光分析装置においては,自動前処理機能付き装置を除き,ダクトは不要である。

c)

振動が少ない。

d)

ほこりが少なく,腐食性ガスがない。

e)

日光が直接当たらない。

f)

供給電源の変動は,最小限に抑える。

g)

地震対策として,装置の固定を考慮する。

h)

電気的災害を防ぐため,絶縁と接地とを十分に行う。


15

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:2006

i)

部屋の温度 5∼35  ℃,相対湿度 85  %以下で,結露しない。

8.2 

試料の調製  試料の調整は、次による。いずれの場合でも,何らかの前処理を行った後,水に溶か

し,適切な濃度に希釈又は濃縮して分析試料とすることが原則である。

a)

固体試料  一般に,固体又はそれに近い状態の試料は,水に溶かした後に分析する。水に不溶性の試

料は,酸分解,アルカリ分解,有機溶媒による溶解,低温灰化,高温加熱灰化などの分解方法によっ

て可溶性とするとよい。しかし,いずれかの方法によっても試料溶液中に浮遊物及び沈殿物が存在す

るときは,ろ過又は遠心分離によって分離し,得られた不溶性物質は,更に,適切な方法によって個

別に溶解することが望ましい。水銀分析専用原子吸光分析における加熱気化方式では,固体試料の溶

解処理は不要である。

b)

液体試料  液体試料は,水に可溶な試料では水で希釈後又は直接分析することが多いが,浮遊物質及

び懸濁物質が存在する場合には,JIS K 0101JIS K 0102 などの規定の試料の前処理に従って処理す

ることが望ましい。一方,油脂性試料は,有機溶媒を用いて溶解・希釈することもできるが,その場

合には,用いる有機溶媒の表面張力,粘性,密度などの物理的特性,及び燃焼性,増感効果,燃焼時

における有害ガス,分解生成物の発生過程など化学的特性を考慮することが大切である。

c)

気体試料  排ガスなどに含まれる金属成分の定量には,試料ガスをセルロース,ガラス繊維,又は石

英ガラス製繊維の円筒ろ紙上に捕集するのが一般的である。これらの前処理は,JIS K 0083JIS K 0222

などによって行うのが望ましい。

d)

その他の注意事項  試料溶液は,一般に分析対象元素の濃度は必要以上に高くせず,イオン濃度とし

てはむしろ希薄溶液の状態にすれば,精度の高い分析結果が期待できる。試料溶液に含まれて妨害が

予想される元素の一定量を,あらかじめ検量線作成用溶液に添加する方法,目的元素だけを特定な有

機溶媒中に抽出する方法,干渉抑制剤を試料溶液及び検量線作成用溶液に一定量添加する方法などが

広く用いられている。調製した試料溶液は,長時間放置すると加水分解,酸化,還元などの化学変化

によって溶液の性質が変わりやすいので,調製後は早く分析することが重要である。

8.3 

装置操作条件の設定

8.3.1 

共通事項  共通事項は,次による。

a) 

分析線の選択  分光器のダイヤルによって概略の波長を合わせ,指示計を見ながら微調節によって分

析線が最適の波長に設定されていることを確認する。波長の自動設定機能をもつ装置は,これを省略

できる。分析線としては,感度の高いスペクトル線を用いるのが一般的であるが,試料濃度によって

は,比較的感度の低いスペクトル線を用いてもよい(

9

)

(

9

)  a)

b)c)は,水銀分析専用原子吸光装置では省略できる。

b) 

ランプの電流値  光源ランプの輝線スペクトルの強度,分析元素の波長及び検出器の特性などを考慮

し,良好な SN 比を得られる電流値に設定する(

9

)

c) 

分光器のスリット幅  良好な SN 比を得るために,分光器のスリット幅は,目的元素の分析線を分離

できる範囲で,できるだけ広くする(

9

)

d) 

安定性の確認  装置を動作状態にして,十分に暖気した後,波長ずれ,ランプ強度など装置の安定性

を確認する。

e) 

検量線の直線領域  原子吸光分析における検量線は,一般的に低濃度領域では良好な直線性を示すが,

高濃度領域では種々の原因によって直線性を示さない。したがって,定量を行う場合には,直線性の

良好な濃度又は吸光度の領域で使用することが望ましい。

8.3.2 

フレーム原子吸光分析装置  フレーム原子吸光分析装置は,次による。


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a) 

バーナーの種類  分析試料及び目的元素に最も適したバーナー及びフレームを用いる。

b) 

燃料ガス及び助然ガスの種類並びに流量(又は圧力)  分析試料の性質,目的元素の感度,安定性な

どを考慮して設定する。

c) 

フレーム中を通過する光束の位置  フレーム中での原子密度分布は,元素,フレームの状態などによ

ってかなり異なるので,光源ランプからの光束を共存元素及び測定諸条件の影響の少ない最適の位置

に設定する。

8.3.3 

電気加熱原子吸光分析装置  電気加熱原子吸光分析装置は,次による。

a) 

乾燥過程における温度(又は電流値)及び時間  分析試料の溶媒を除去させるのに十分で,かつ,分

析試料の液滴が飛び散らない程度の温度又は電流及び時間とする。分析試料の性状によって,加熱方

式は段階的に加熱するステップ加熱又は連続的に加熱するランプ加熱のいずれかを選択する。

b) 

灰化過程における温度(又は電流値)及び時間  分析試料中に共存する有機物,無機塩類,低温揮発

性共存成分などを除去し,かつ,目的元素を蒸発させない温度又は電流値及び時間とする。分析試料

の性状によって加熱方式は,ステップ加熱又はランプ加熱のいずれかを選択する。

c) 

原子化過程における温度(又は電流値)及び時間  目的元素を十分に検出させるのに必要な温度又は

電流及び時間とする。分析試料の性状によって,加熱方式はステップ加熱又はランプ加熱のいずれか

を選択する。

d) 

シースガス,キャリヤーガスの種類及び流量(又は圧力)  流量(又は圧力)は,発熱体が酸化され

ず,かつ,分析試料の性質,目的元素の感度,安定性などを考慮して最適値に設定する。

e) 

発熱体の形状及び材質  分析試料の化学的性質,目的元素の感度,安定性などを考慮して最適の形状

及び材質とする。

8.3.4 

水銀専用原子吸光装置  水銀専用原子吸光装置は,次による。

a) 

反応試薬の種類  還元気化方式水銀専用原子吸光分析装置においては,前処理後の試料は,硫酸酸性

下で塩化すず(Ⅱ)によって原子状水銀に還元する。前処理時に過マンガン酸カリウムで処理を行っ

た試料においては,装置導入する前に塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液を加え予備還元しておく。

b) 

気化方式  加熱気化法の装置には,妨害成分を除去するための機能が付いているものもある。また,

妨害成分の除去には,添加剤として活性アルミナ,及びアルカリ剤を単独又は混合して用いる。

8.4 

測定

8.4.1 

フレーム原子吸光法  所定の装置操作条件を設定し,試料溶液をフレーム中に導入し,表示値(

10

)

を読み取る。装置によっては,あらかじめ設定した順序に従い,標準溶液及び試料溶液をフレーム中に導

入した状態で,データを取り込む。自動試料導入装置などによる導入の場合は,これらに必要な条件及び

溶液を設定し,測定する。

(

10

)

吸光度又はその比例値

8.4.2 

電気加熱原子吸光法  所定の装置操作条件を設定し,試料溶液の一定量を,発熱体の所定位置に正

確に導入し,加熱終了後の表示値(

10

)

を読み取る。自動試料注入装置などによる導入の場合は,これらに必

要な条件及び溶液を設定し測定する。

8.4.3 

水銀分析専用原子吸光法  水銀分析専用原子吸光法は,次による。

a) 

還元気化方式の場合  所定の装置操作条件を設定し,試料溶液を水銀蒸気発生部に導入し,表示値を

読み取る。

b) 

加熱気化方式の場合  所定の装置操作条件を設定し,試料を試料ボートにとり,加熱気化部に導入し,

表示値を読み取る。


17

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9. 

定量

9.1 

定量方法  データ処理部に示された表示値を用い,次の方法によって試料溶液中の分析対象元素の

濃度を算出する。いずれの方法も検量線の作成は,試料溶液の測定と並行して行わなければならない。

a)

検量線法  濃度の異なる 4 種類以上の検量線作成用溶液を用い,濃度と表示値との関係線を作成して

検量線とする(

11

)(

12

)

。この検量線を用いて,試料溶液中の分析対象元素の濃度を求める(

13

)

図 22 参照)。

(

11

この方法では,試料溶液の組成及び検量線作成用溶液の組成が類似していることが望ましい。

組成を類似させることができない場合には,9.1 b)(標準添加法)を用いるとよい。

(

12

)

検量線作成用溶液の濃度は,試料溶液中の分析対象元素の濃度が内挿値となるように調製する。

(

13

)

検量線は,直線を示す範囲内での使用が望ましい。曲線となる場合には,検量線作成用溶液の

数を増して,検量線作成用溶液の濃度が分析対象元素の濃度とできるだけ近くなるようにする。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 22  検量線(検量線法)

b)

標準添加法  同一試料溶液から 4 個以上の試料を等しく採取し,1 個を除き,他のものには分析対象

元素の濃度が既知である溶液を段階的に加える。分析対象元素を添加しないものを含めて,それぞれ

一定量として検量線作成用溶液とする。この検量線作成用溶液を用い,濃度と表示値との関係線を作

成し,検量線とする(

14

)

図 23 において横軸の切片から試料溶液中の分析対象元素の濃度を求める。

(

14

)

検量線作成用溶液の添加量は,分析対象元素の濃度と近似していることが望ましい。

検量線用溶液の濃度

表示値

分析対象元素の濃度

測定試料の表示値


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分析対象元素の濃度

 

検量線溶液の添加濃度

表示

 23  検量線(標準添加法)

備考  この方法は,バックグラウンド吸収が無視できるか,又はバックグラウンド吸収が補正されて

おり,かつ,検量線が良好な直線性を保つ場合にだけ有効である。

9.2 

定量値の表し方  定量値は,溶液試料に対しては体積に対する質量比(ng/L,µg/L,mg/L など)又

は質量に対する質量比(ng/kg,µg/kg,mg/kg など)で,固体試料に対しては質量に対する質量比(ng/kg,

µg/kg

,mg/kg など)で適切と考えられる単位を用いて濃度を表示する。

9.3 

干渉  分析値に影響を及ぼす干渉は,分光干渉,物理干渉,化学干渉などに分けられる。

a)

分光干渉

1)

分析に使用するスペクトル線が,他の近接線と完全に分離できない場合に起こり,分析感度の低下

及び検量線の直線領域を狭くする。

2)

分析に使用するスペクトル線が,試料原子化部で生成される分子種によって吸収されたり(分子吸

収)

,試料のミスト及び固体粒子によって散乱される(光散乱)場合に起こり,見かけの吸光度を大

きくする。バックグラウンド補正を行うことで,干渉を除去できる。

b) 

物理干渉  試料溶液の粘性,表面張力などの物理的条件の影響によって起こるもので,ネブライザー

の噴霧効率が変化し,吸光度が変化する。検量線作成用溶液と試料溶液との組成をほぼ同じくするこ

とによって,干渉を除去できる。

c)

化学干渉

1)

フレーム及び電気加熱炉中で原子がイオン化することによって,基底状態の原子数が減少し,吸光

度が低下する。イオン化エネルギーの低いアルカリ金属及びアルカリ土類金属元素の場合に多く,

高温ほどその程度が著しい。

2)

フレーム及び電気加熱炉中で分析対象元素が共存成分と作用することによって,解離しにくい化合

物が生成し,吸光度が低下する。また,電気加熱炉中で分析対象元素が共存成分と低沸点の化合物

とを生成し,灰化段階で蒸発することによって吸光度が低下する。

9.4 

干渉の補正  干渉補正は,次による。

a) 

バックグラウンド補正法  5.7 のバックグラウンド補正用光学系のいずれかを用いて補正を行う。

b) 

干渉抑制剤  フレーム原子吸光分析又は電気加熱原子吸光分析において,分析対象元素のイオン化


19

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9.3 c)

 1)]による吸光度の低下の抑制,及び分析対象元素と共存成分との反応による吸光度の低下

の抑制[9.3 c) 2)]などによる吸光度低下の抑制などのために用いられる試薬。解除剤,保護剤などと

も呼ばれる。前者の例としては,ナトリウムの定量において,カリウムを添加するとカリウムの方が

先にイオン化するため,ナトリウムのイオン化が抑制されてナトリウムの吸光度が増加することなど

が挙げられる。後者の例としては,カルシウムの定量におけるりん酸塩の干渉を除去するためにスト

ロンチウムを添加して,りん酸塩と優先的に反応させること,電気加熱原子吸光分析において,硝酸

パラジウム(II),硝酸マグネシウム,アスコルビン酸などを加え,分析対象元素の気化損失を抑制した

り,共存成分の気化による除去を促進したりなどすることが挙げられる。さらに,8.3.4 b)に規定する

活性アルミナなども干渉抑制剤である。また,一般に電気加熱原子吸光分析では,マトリックスモデ

ィファイヤー(Matrix modifier)ともいわれる。これらの試薬は,試料溶液だけでなく,検量線作成用溶

液にも添加する。分析対象元素を不純物として含まず,分析線波長付近にバックグラウンド吸収を示

さないものであることが望ましい。

9.5 

データの質の管理  分析結果の信頼性を確保するためには,使用する装置,測定条件,測定操作な

どを適正に選択することが望ましい。

a) 

空試験値の測定  検量線作成後,検量線作成用空試験用溶液を測定し,装置に対する分析対象元素の

バックグラウンドを確認する。

b) 

検量線の確認  検量線作成後,中間濃度の検量線作成用溶液を測定し,検量線の正当性及び装置性能

を確認する。

c) 

操作空試験値の測定  実験室環境からの汚染並びに試料調製のときに用いる試薬及び器具からの汚染

の程度を確認する。

d) 

検量線用標準液の確認  検量線作成用溶液とは別の機関が調製したものを使用し,検量線用標準液の

有効性を確認する。検量線作成用溶液とほぼ同じマトリックス濃度に調製するのが望ましい。

e) 

標準物質による確認  分析する試料と類似したマトリックスをもつ標準物質を分析し,その分析値を

認証値と比較することによって信頼性を確認する。

f) 

希釈分析  試料溶液を 5 倍程度に希釈して測定し,希釈前の試料溶液の分析値との差を確認する。

g) 

併行試験  試料を 2 個以上に分け,個々の分析値の差を確認する。

h) 

添加回収試験  試料に分析対象元素を既知量添加し,その回収率を確認する。

備考  個別規格に規定されている場合は,その方法による。

9.6 

装置の使用判定項目  次に示す項目について,装置の使用判定の基準となる値をあらかじめ実験に

よって求めておくことが望ましい。実験は,

附属書に従って実施する。

備考  個別規格に規定されている場合は,その方法による。

a)

装置検出下限

b)

方法定量下限

c)

短時間安定性

d)

長時間安定性

e)

検量線の妥当性


20

K 0121

:2006

10. 

安全  原子吸光分析は,常時,高圧ガス,爆発性ガス,有害ガスなどを取り扱う作業であるため,高

圧ガス保安法,一般高圧ガス保安規則及び JIS K 0050 の 14.1(安全・衛生)の規定に従うほか,次の事項

に十分注意しなければならない。

a)

高圧ガス供給設備設置上の注意

1) 

高圧ガス容器は,できるだけ戸外に設置し,配管によってガスを装置に導く。

2) 

高圧ガス容器は,通風のよい場所に設置し,直射日光及び風雨氷雪にさらされないようにするとと

もに 40  ℃以下に保つ。

3) 

高圧ガス容器は,2 か所以上を固定するなど,地震対策なども考慮する。高圧ガス容器の固定と配

管との一例を,

図 24 に示す。

なお,高圧ガス容器の固定にホルダーを使用する場合は,ホルダーも固定する。

 24  高圧ガス容器の固定と配管(一例)

4) 

高圧ガス容器類は,静電気を帯びることがあるので,接地を行う。また,燃料ガス容器は,静電気

の帯電防止のため,ゴム,合成樹脂板などの絶縁物の上に置かない。

5) 

アセチレンの容器は,アセトンの流出防止のため,必ず直立のまま貯蔵又は使用する。

6) 

アセチレン用配管には,鋼又は銅含有率が 62  %以上の合金を使用しない。

7) 

一酸化二窒素用圧力調節器は,凍結防止形のものを使用する。

8) 

配管のガス漏れの点検は,石けん液を塗布するなどの方法によって行う。

b)

高圧ガス及び装置の取扱い上の注意

1) 

高圧ガス供給設備及び装置の円滑な運転と安全な作業を進めるため,点検項目,頻度などを定めて,

全長  約 2.5m

一次圧
ゲージ

二次圧ゲージ
圧力調節器


21

K 0121

:2006

日常点検及び定期点検を行う。

2) 

燃料ガス又は酸素を使用する設備付近では,引火性又は発火性物質を取り扱わない。また,それら

の物質を置かない。

3) 

弁の開閉を粗暴に行わない。

4) 

ガス容器には十分なガスが残っていることを確認のうえ,使用する。

5) 

アセチレンは,0.1 MPa 以上の圧力(ゲージ圧)で使用しない。

6) 

緊急時対策として,アセチレン使用中は,アセチレン容器の開閉用ハンドルを取り付けたままにし

ておく。また,弁は 1.5  回転以上開かない。

7) 

装置の安全機構は,みだりに手を加えたり改造しない。

8) 

試料原子化部,接続部などにガス漏れがないことを確かめるとともに,点火前に,使用するバーナ

ーヘッドに適したガス圧及び流量であることを確認する。

9) 

バーナーに手動で点火するときは,初めに助燃ガスを流し,次に燃料ガスを流して点火する。消火

するときは,初めに燃料ガスを止め,次に助燃ガスを止める。

10) 

アセチレン・一酸化二窒素に点火するときは,初めにアセチレン・空気に点火し,アセチレン流量

を指定流量まで増加する。次に,切替弁などを使用して空気を一酸化二窒素に切り替える。消火は,

以上の操作の逆を行う。

11) 

燃焼中は,ガスの圧力及び流量に注意し,ガスの圧力及び流量に異常が生じた場合は,直ちに消火

する。

12) 

燃焼中は,フレームを直視しないこと。必要な場合は,遮光板,保護めがねなどを使用する。

13) 

燃料ガスにアセチレンを使用する場合は,銅,銀,水銀などを多量に含む溶液の噴霧を避ける。こ

のような溶液を噴霧すると,チャンバー内に爆発性の金属アセチリドが析出するおそれがある。

14) 

過塩素酸及びその塩類を多量に含む溶液を噴霧したときは,分析終了後にチャンバー,バーナーヘ

ッドなどを洗浄する。

15) 

万一に備えて,消火器及び消火砂を準備しておく。

11. 

測定結果の整理  測定結果には,次の事項を整理記載する。

a)

測定年月日及び測定者名

b)

試料名

c)

分析対象元素及び定量法の種類

d)

装置の名称,製造業者名及び形式

e)

分析線の波長

f)

分光器のスリット幅

g)

光源ランプの種類及び電流値

h)

バックグラウンドを補正したときは,その補正方式

i)

原子化の方式及び条件

1)

フレーム方式の場合は,バーナーの種類,燃料ガス,助燃ガスの種類及び流量(又は圧力)

,フレー

ム中の光束の通過位置

2)

電気加熱方式の場合は,電気加熱炉の種類,発熱体の形状及び材質並びに乾燥,灰化,原子化過程

の温度(又は電流値)及び時間,シースガス,キャリヤーガスの種類及び流量(又は圧力)

3)

冷蒸気方式の場合は,気化・導入の方式及び温度,キャリヤーガスの種類及び流量(又は圧力)


22

K 0121

:2006

4)

水素化物発生装置を用いる場合は,気化・導入の方式。フレーム加熱方式の場合は 1)  の諸条件,

電気炉加熱方式による場合は,加熱吸収セルの温度とキャリヤーガスの種類及び流量(又は圧力)

5)

水銀専用原子吸光分析装置を用いる場合は,還元気化,加熱気化・導入の方式

j)

試料の前処理

1)

測定試料の調製(灰化,溶解,分離,濃縮などの概要)

2)

測定試料の組成(溶媒,希釈剤,添加剤,共存塩類,酸・アルカリ濃度など)

k)

その他必要な事項

12. 

個別規格で記載すべき事項  原子吸光分析による定量方法を規定するに当たっては,少なくとも次の

各項目を規定する。

a) 

分析対象元素及び測定濃度範囲

b) 

試料採取方法

c) 

前処理方法

d) 

装置操作条件

e) 

定量法

f) 

分析結果の表示


23

K 0121

:2006

附属書(規定)原子吸光分析装置の使用判定項目

1. 

適用範囲  この附属書は,原子吸光分析における装置の使用判定項目について規定する。

2. 

使用判定項目  原子吸光分析の測定条件を選定する場合には,装置検出下限,方法定量下限,短時間

安定性,長時間安定性及び検量線の妥当性について,装置の使用判定の基準となる値をあらかじめ実験に

よって求めておくことが望ましい。

3. 

使用判定項目の求め方

3.1 

装置検出下限(ILOD)  装置検出下限の求め方は,次による。

a)

準備  次の試験液を調製する。

1)

分析対象元素の検量線用空試験液

2)

分析対象元素の検量線用溶液のうち,直線範囲の中間程度の濃度の溶液

b)

測定  測定は,次による。

1)

装置製造業者から提示された方法を参考にして装置の最適化を行う。

2)

検量線用空試験液 a)1)を 10 回連続測定し,表示値の平均値(

b

)

と標準偏差(s 

b

)

とを算出する。

3)

検量線用溶液 a)2)を 5 回連続測定し,表示値の平均値(X

1

)

を算出する。

c)

計算  次の式によって算出する。

ILOD =3

×s

b

k

ここに,

k

検量線の傾き[(X

1

b

) / C

1

]

1

a) 2)

の溶液濃度

なお,ILOD の単位は,

1

の濃度単位と同じものとする。

3.2 

方法定量下限 (MLOQ)    方法定量下限 (MLOQ)の求め方は,次による。

a)

準備  次の試験液を調製する。

1)

操作用空試験液(

1

)

2)

分析対象元素を,検量線の直線範囲の中間の濃度程度に含んだ溶液

(

1

)

分析対象元素又は干渉物質の,分析室環境,試薬及び器具からの汚染の有無を調べるため,分

析操作中に使用する器具類及び装置との接触,並びに溶媒及び試薬の添加を含めて,試料と全

く同様に処理された水又は分析対象元素を含まないマトリックス液。

b)

測定  測定は,次による。

1)

装置製造業者から提示された方法を参考にして,装置の最適化を行う。

2)

操作用空試験液 a) 1)を 10 回連続測定し,表示値の平均値(

l b

)

と標準偏差(

d

)

とを算出する。

3) a) 

2)

の溶液を 5 回連続測定し,表示値の平均値(X

l1

)

を算出する

c)

計算  次の式によって算出する。

k

S

MLOQ

/

10

2

d

×

×

=

ここに,

k

検量線の傾き [(X

l1

b

) / C

2

]

C

2

a)2)

の溶液濃度


24

K 0121

:2006

なお,MLOQ の単位は,C

2

の濃度単位と同じものとする。

3.3 

短時間安定性  短時間に繰返し測定を行って得られる結果の一致の程度を推定するために,次の方

法によって相対標準偏差を求めて判定の指標とする。

a)

準備  分析対象元素の検量線用溶液のうち,直線範囲の中間程度の濃度の溶液を準備する。

b)

測定  測定は,次による。

1)

装置製造業者から提示された方法を参考にして,装置の最適化を行う。

2) a)

の溶液を 10 回連続測定し,表示値の平均値(X

 i

)

と標準偏差(s 

i

)

とを算出する。

c)

計算  次の式によって算出する。

相対標準偏差(%)=(

i

X

i

)

×100

3.4 

長時間安定性  長時間安定性は,機器の設置環境及び測定条件によって影響される。この試験で求

めた相対標準偏差から機器の校正及び標準化の頻度を決定する。試験方法の一例を,次に示す。

a)

準備  分析対象元素の検量線用溶液のうち,直線範囲の中間程度の濃度の溶液を準備する。

b)

測定  測定は,次による。

1)

装置製造業者から提示された方法を参考にして,装置の最適化を行う。

2)

標準化などの校正を行わずに,30 分間隔で 3 回の繰返し測定を 3 時間にわたり計 7 回行う。

c)

計算  繰返し測定の平均値 7 回分から相対標準偏差を算出する。

3.5 

検量線の妥当性  検量線の妥当性は,分析対象元素の濃度が異なる 4 種類以上の検量線作成用溶液

の吸光度を測定し,作成した検量線の直線性から判断する。高濃度域で直線性が得られない場合は,試料

の希釈処理などによって直線領域で測定することが望ましい。