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H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

(1)

目  次

ページ

序文 

1

1

  適用範囲

1

2

  引用規格

2

3

  用語及び定義 

2

4

  原理

3

5

  試験条件

3

6

  装置

4

7

  試料の準備 

4

7.1

  試料

4

7.2

  試料の固定 

4

7.3

  試料の取付け 

5

8

  試験手順

5

9

  試験方法の不確かさ

6

9.1

  I

c

6

9.2

  温度

6

9.3

  磁界

7

9.4

  試料及びマンドレルの支持構造

7

9.5

  試料の保護 

7

10

  試験結果の計算方法

7

10.1

  I

c

基準 

7

10.2

  値(参考値)

8

11

  報告事項

9

11.1

  試料に関する報告

9

11.2

  I

c

値に関する報告

9

11.3

  試験条件の報告 

9

附属書 A(参考)注意すべき事項 

11

附属書 B(参考)自己磁界効果 

18

附属書 C(規定)三層構造超電導線の試験方法

20

附属書 D(参考)巻線張力計算の指針

21


H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

(2)

まえがき

この規格は,工業標準化法第 14 条によって準用する第 12 条第 1 項の規定に基づき,財団法人国際超電

導産業技術研究センター(ISTEC)及び財団法人日本規格協会(JSA)から,工業標準原案を具して日本工業規

格を改正すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大臣が改正した日本工業規

格である。

これによって,JIS H 7301:1997 は改正され,この規格に置き換えられた。

この規格は,著作権法で保護対象となっている著作物である。

この規格の一部が,特許権,出願公開後の特許出願,実用新案権又は出願公開後の実用新案登録出願に

抵触する可能性があることに注意を喚起する。経済産業大臣及び日本工業標準調査会は,このような特許

権,出願公開後の特許出願,実用新案権及び出願公開後の実用新案登録出願にかかわる確認について,責

任はもたない。


日本工業規格

JIS

 H

7301

:2009

(IEC 61788-1

:2006

)

超電導−第 1 部:臨界電流の試験方法−

ニオブ・チタン合金複合超電導線

Superconductivity-Part 1:Critical current measurement-

DC critical current of Nb-Ti composite superconductors

序文 

この規格は,2006 年に第 2 版として発行された IEC 61788-1 を基に,技術的内容及び対応国際規格の構

成を変更することなく作成した日本工業規格である。

なお,この規格で点線の下線を施してある箇所は,対応国際規格にはない事項である。

複合超電導線の臨界電流は,超電導線の使用目的に応じた設計限界を決めるために用いる。超電導線の

使用条件は,材料特性によって決定する。この規格によって得た試験結果は,対象とする超電導線の適用

の可能性を判断するための重要な情報となる。

この試験方法から得た結果は,製造条件,取扱い方法,経時変化,用途変更,使用環境などによる複合

超電導線の超電導特性の変化を検出するためにも適用できる。また,この規格に規定する注意事項を守れ

ば,この方法は,品質管理,受入試験又は研究目的の試験に適用できる。

複合超電導線の臨界電流は,多くの変動因子に左右される。複合超電導線を試験し,使用するときは,

これらの変動因子を考慮しなければならない。磁界,温度,試料・電流・磁界の相対的方向などの試験条

件は,使用目的,対象とする試料,試験に要求される精度によって決定する。試験結果に異常があれば,

複数の試料について測定することが望ましい。

適用範囲 

この規格は,銅と超電導体との体積比が 1 以上の Cu/Nb-Ti 複合超電導線,又は銅と超電導体との体積比

が 0.9 以上,かつ,銅合金(Cu-Ni)と超電導体との体積比が 0.2 以上の Cu/Cu-Ni/Nb-Ti 線(以下,三層構造

超電導線という。

)の臨界電流(以下,I

c

という。

)試験方法について規定する。

なお,含まれる Nb-Ti 超電導フィラメントの直径は,1 μm 以上とする。三層構造超電導線に適用する場

合は,一部を変更して,

附属書 に規定する。

この試験方法は,上部臨界磁界の 0.7 倍以下の磁界において,I

c

が 1 000 A 未満,値が 12 以上の超電導

線に適用する。I

c

が 1 000 A 以上か,又は断面積が 2 mm

2

以上の大きな試験試料は,この試験方法では測定

可能であるが,不確かさが増加し,自己磁界の影響(

附属書 参照)がより顕著に現れ,精度を保つため

には,別の特別な試験方法の配置が必要であり,この規格では適用しない。

この試験方法は,適切な変更を施せば,他の複合超電導線に準用してもよい。

注記  この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。

IEC 61788-1:2006

,Superconductivity−Part 1:Critical current measurement−DC critical current of

Nb-Ti composite superconductors (IDT)


2

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

なお,対応の程度を表す記号(IDT)は,ISO/IEC Guide 21 に基づき,一致していることを示す。

引用規格 

次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。この引用

規格は,その最新版(追補を含む。

)を適用する。

JIS H 7005

  超電導関連用語

注記  対 応 国 際 規 格 : IEC 60050-815:2000 , International Electrotechnical Vocabulary − Part 815:

Superconductivity (MOD)

用語及び定義 

この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS H 7005 によるほか,次による。

3.1  

臨界電流  (I

c

抵抗なしで流れるとみなせる最大直流電流値。

注記  I

c

は,磁界強度と温度との関数。

3.2  

臨界電流基準(I

c

基準) 

電界強度 又は比抵抗 ρ を基に I

c

を決める基準。

注記  電界基準としては E=10

μV/m 又は E=100 μV/m が,比抵抗基準としては ρ= 10

13

Ω・m 又は

ρ

 =10

14

Ω・m

  がよく用いられる。

3.3  

(超電導体の) 

電界強度又は比抵抗の特定の範囲で電圧(U)と電流(I)との関係が,近似的に UI

 

n

の式で表されるときの

べき数。

3.4  

クエンチ 

超電導体又は超電導機器における超電導状態から常電導状態への制御不能,

かつ,

不可逆な転移

(現象)

注記  通常,超電導マグネットに対して用いられる用語。

3.5  

三層構造超電導線 

1 種類の超電導材料と 2 種類の常電導材料とからなる複合超電導線。

注記  通常,Cu/Cu-Ni/Nb-Ti 線に使われる。

3.6  

(フラクソンに作用する)ローレンツ力 

電流によってフラクソンに働く力。

注記 1  電流密度を J,磁束密度を として,単位体積当たりの力は J×となる。

注記 2  “ローレンツ力”は,IEV 121-11-20

[1]

  に定義されている。

3.7  

(複合超電導線の)カレント・トランスファー 

複合超電導線中において,直流電流が超電導フィラメントから超電導フィラメントへ常電導の母材を介


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して移ることによって,線の長手方向に電圧が生じる現象。

注記  I

c

測定のとき,電流端子付近で電流が周囲から内部に流入し,超電導フィラメント間で電流分

布が不均一になるため,この現象が電流端子付近で起こる。

3.8  

定速掃引法 

ゼロから I

c

直上まで一定速度で試料電流を増加させながら,U-特性データを収集する方法。

3.9  

ステップ掃引法 

試料電流を,ある時間間隔をおいて段階的に逐次増加又は減少させながら,U-特性データを収集する

方法。

原理 

複合超電導線の I

c

は,

決められた一定の印加磁界及び一定圧力の液体冷媒に浸した特定の温度のもとで,

U-特性データを測定して決定する。U-特性データを得るには,試験試料に流す直流電流をゼロから増加

させ,生じた U-特性データを記録する。I

c

は,特定の電界基準値(E

c

)又は比抵抗基準値(ρ

c

)に達したとき

の電流値とする。E

c

又は ρ

c

のいずれに対しても,各試料の長さに対応する基準電圧値(U

c

)が存在する。

試験条件 

超電導線の I

c

は,超電導線試料に電流(I)を流し,試料の一定の長さに沿って発生する電圧(U)を測定する

手順で測定する。電流は,ゼロから増加させ,発生した U-特性データを記録するものとする。

試料は,十分な張力を加えるか又は低温接着剤を用いて試験用マンドレルに固定するものとする。

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.1 による。

この試験方法の不確かさを決めるには,研究機関間の相互比較における変動係数(標準偏差を平均値で

除した値の 100 倍)が 3  %未満であることを目標とする。

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.2 による。

この試験方法では,一般的なカレント・トランスファーの補正は行わないこととする。また,測定時に

想定電圧を超えるような著しいカレント・トランスファーがある場合は,その測定を無効とみなす。

なお,この規格の使用に先立って,適切な安全,かつ,衛生的な作業を調査して確立し,規定制限値の

適用性を決定することは使用者の責任である。特に注意すべき事項を次に示す。

a)

この種の測定には危険のおそれがある。非常に低い電圧であれば,極めて大きい直流電流でも必ずし

も直接人体に危険をもたらすものではないが,偶然,電流リードが工具及びトランスファーチューブ

などの別の導体を介して短絡した場合,極めて大量のエネルギーを放出してアークが発生し,やけど

することがある。このため,電流リードを他の導体から離し,短絡から保護しなければならない。

b)

磁界発生用の超電導マグネットの貯蔵エネルギーが放出された場合,同じような大電流及び/又は電

圧パルスが発生したり,極低温装置内に大量の熱エネルギーを放出して液体ヘリウムの急激な沸騰又

は爆発の原因となり得る。

c)

さらに,液体ヘリウムが急激に沸騰した場合,その近くでは酸素が不足した状況となり,新たな換気

が必要となる。液体ヘリウムは,超電導体を冷却し,超電導状態への転移を起こさせるのに必要であ

るが,

極低温にあるトランスファーチューブ,

液体貯蔵デュワー及び装置の部分に直接肌が触れると,

こぼれた極低温液体に直接触れた場合と同様に直ちに凍り付いてしまう。


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d)

液体ヘリウム貯蔵デュワーを不適切に使用した場合,

加圧チューブ内の空気及び水が凍り,その結果,

デュワーが過圧状態となって,通常の安全機器であっても,壊れる可能性がある。液体水素はこのよ

うな測定には用いない。極低温液体を取り扱うための安全の心得は,遵守しなければならない。

装置 

6.1 

マンドレルの材質  マンドレルの材質は,次による。

a)

測定用マンドレルは,絶縁材料若しくは絶縁層で覆われたものか,又は覆われていない導電性の強磁

性でない材料とする。

b)

試料と測定用マンドレルとの熱収縮の差によって生じる測定温度での引張りひずみは,0.2  %を超え

てはならない。また,適用するマンドレル材料は,A.3.1 に推奨する材料のうち,いずれかを用いても

よい。

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.3 による。

c)

絶縁層で覆われていない電導性材料をマンドレルに用いる場合は,

試料電流が I

c

と同等となったとき,

マンドレルを介しての漏れ電流が,外部から印加した電流の 0.2  %未満でなければならない(9.5 及び

A.3.1

参照)

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.4 による。

6.2 

マンドレルの構造  マンドレルの構造は,次による。

a)

マンドレルは,直径が 24 mm を超え,試料取り付け時に生じる曲げひずみが限度以内となる構造とす

る(7.2 参照)

b)

マンドレルは,試料を巻き付けるらせん溝があるものを用いるのが望ましい。その場合は,溝のピッ

チ角は,7 度未満とする。

c)

試料を巻き付けるらせん溝がないマンドレルを用いる場合は,巻線のピッチ角を 7 度未満とする。

なお,らせん溝がない場合は,試料の保持不良及びピッチ角の大きな変動を起こす可能性がある(7.2

参照)

d)

試料軸(電圧端子間部分)と磁界とのなす角度は(90±7)  度の範囲とし,この角度の合成標準不確か

さは,1 度を超えないようにする。

注記  合成標準不確かさとは,幾つかの他の量の値から求められる測定結果の標準不確かさをいう。

e)

測定用マンドレルと電流端子との移行域(わたり部分)における試料への応力集中を避けるため,電

流端子は,マンドレルに確実に固定できる構造とする。

試料の準備 

7.1 

試料 

試験試料は,断面が円形又はく(矩)形で,断面積が 2 mm

2

未満で,形状がコイル状のものとして液体

ヘリウム槽に浸し,試験中のヘリウム温度が把握されているものとする。

7.2 

試料の固定 

試料の固定は,次による。

a)

試料は,巻線張力及び/又は低温接着剤(シリコーン真空グリース,エポキシ樹脂など)を用いてマ

ンドレルにしっかり固定する。低温接着剤を用いる場合は,必要最少量を塗布するにとどめ,試料取

付け後,試料の外面から余分の接着剤を取り除く。

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.5 による。


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b)  I

c

値の繰返し性を十分確保するために,試料はきちんと固定しなければならない。

c)

はんだは,電流端子の内側で試料をマンドレルに固定するのに用いてはならない。

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.6 による。

7.3 

試料の取付け 

試料の取付けは,次による。

a)

試料は,継ぎ目,添え継ぎなどがあってはならない。

b)

試料の断面積(S)は,試料軸に垂直な断面とし,2.5  %を超えない相対合成標準不確かさで決定する。

注記  相対合成標準不確かさとは,幾つかの他の相対値(%)で示す量の値から求められる測定結果

の標準不確かさをいう。

c)

線材は,小コイル形状に,一方向(誘導的)に巻き付け,試料に余分なねじれが加わるような巻き方

をしてはならない。

d)

長方形の断面形状をもつ線材は,加えられる磁界が,試料の幅の広い面に平行になるようにコイル状

に巻き付ける。

e)

試料を巻く過程では,試料をマンドレルの溝に確実に納めるため,張力を加えて巻く。この張力は,

試料に 0.1  %を超える引張りひずみを与えるものであってはならない(

附属書 参照)。

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.7 による。

f)

試料取り付け時(巻き付け時)に引き起こされる最大曲げひずみは,3  %を超えてはならない。

注記  曲げひずみは線材の直径が d,曲げられた線材の曲率半径が のとき 100 d/ (2R)  %として概

算で評価する。また,く(矩)形断面線材では厚さを t,幅を としたとき(wt),試験条件

から曲げひずみは 100 t/ (2R)  %で評価する。

g)

試料線材の両端は,電流端子にはんだ付けする。電流端子のはんだ付け部分の最低長さは 40 mm,線

材直径の 30 倍,またく(矩)形断面線材においては線材厚さ の 30 倍の中で最大のものとする。

h)

試料のはんだ付け箇所の最大長さは,各電流端子で,3 回巻きまでとする。

i) 

電流端子から電圧端子までの試料に沿った最短距離は,40 mm を超えるものとする。

j) 

電圧端子は,試料にはんだ付けする。試料電流と試料及び電圧端子引き出し線によって囲まれる面と

の相互インダクタンスを最小にするため,

図 A.1 に示すように,電圧端子引き出し線をよ(撚)って

いない部分について,引き出し線を試料に沿って戻す。

k)

試料に沿った電圧端子間距離(L)は,2.5  %を超えない相対合成標準不確かさで測定する。電圧端子間

距離は,50 mm を超えるものとする。

l) 

試験を行う場合,試料を取り付けたマンドレルは,液体ヘリウム容器,マグネット及びその支持具か

ら構成する試験用クライオスタットに装着する。

試験手順 

試験手順は,次による。

a)

データ収集段階では,試料を液体ヘリウム中に浸す。液体ヘリウム槽の温度は,I

c

を測定する前後に

必ず測定する。

b)

クエンチ保護回路又はシャント抵抗を用いて試料を保護しない場合は,常電導状態になった試料が損

傷を受けないように,試料電流を流し過ぎないようにする。

c)

定速掃引法を用いる場合は,ゼロから I

c

までの電流掃引時間は,10 秒間を超えるようにする。また,

ステップ掃引法を用いる場合は,設定電流値間の掃引速度は,ゼロから I

c

まで 3 秒間で掃引するのと


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同等より低くする。

d)

直流磁界は,マンドレルの軸方向に加える。磁界の強さとマグネットの通電電流との関係は,あらか

じめ測定しておく。また,マグネット通電電流は,印加磁界ごとに I

c

を測定する前に測定する。長方

形の試料の場合は,加える磁界の方向を線材の広い面に平行,かつ,線材の軸に直角にする。

e)

電流及び印加磁界の方向は,電圧端子間で試料にローレンツ力が内向きに働くように設定する。

なお,三層構造超電導線試料の場合には,C.2.8 による。

f)

試験条件下で単調に電流を増加させ,U-特性を記録する。

g)

適正な U-特性データに基づき,

繰り返し測定した I

c

値の相対合成標準不確かさは 0.5  %を超えない。

この U-特性データは,I

c

を決める基準電圧値,又はそれ以下の電圧に対して,通電時間にかかわら

ず安定していなければならない。

h)  U-I

特性データにおける基線は,ステップ掃引法を用いた場合には,ゼロ電流で記録した電圧とし,

定速掃引法を用いた場合には,I

c

の約 0.1 倍における電流での電圧とする。

試験方法の不確かさ 

9.1 

I

c

I

c

は,次による。

a)  I

c

は,4 端子法を用いて測定した U-特性データから求める。

b)

電源は,10 Hz から 10 MHz までの帯域幅で,最大の変動幅が I

c

の±2  %未満で直流電流が供給できる

ものとする。

c)

試料電流の測定には,0.25  %以下の相対合成標準不確かさをもつ 4 端子標準抵抗を用いる。

d)

記録計,プリアンプ,フィルタ,電圧計,直流電源又はそれらを一つに組み込んだ装置で U-特性デ

ータを記録し,これによって得られる記録は,5  %以下の相対合成標準不確かさで基準電圧値(U

c

)を,

0.5  %以下の相対合成標準不確かさでその電圧に相当する電流を決定できるものでなければならない。

9.2 

温度 

温度は,次による。

a)

試験用クライオスタットは,I

c

測定に必要な環境を提供するもので,液体ヘリウムに試料を浸して測

定する。液体ヘリウム槽は,冷媒温度が試験現場の大気圧に対して,通常の沸点温度に近付くように

操作されなければならない。試料温度は,液体と同じ温度と仮定する。液体温度は,圧力センサ又は

適切な温度センサを用いて測定し,0.01 K 以下の合成標準不確かさで記録する。

b)

試料温度と液体ヘリウム槽温度との差は,極力小さくする。

c)

クライオスタット内で測定されるヘリウム圧力を温度に変換する場合は,ヘリウム温度と蒸気圧との

関係(

注記 参照)から求める。温度測定で要求される不確かさを保つために,圧力は十分な精度で

測定する。1 m を超える液体ヘリウム深さについては,ヘリウム圧力に対する深さ補正(

注記 参照)

が必要となる。

注記 1  ヘリウム温度と蒸気圧との関係は,次の文献に示される。

1) H.Preston

−Thomas: “The International Temperature Scale of 1990 (ITS-90)”, Metrologia,27

(1990) P.3; 27 (1990) P.107 (Erratum)

2)

低温工学ハンドブック,低温工学協会編,(1993) P.113

注記 2  液体ヘリウム深さを h,比重量を μ

He

(T)とすれば,液体ヘリウム圧力の変化は,Δp=μ

He

(T)h

で与えられる。


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9.3 

磁界 

磁界は,次による。

a)

マグネットシステムの設定磁界は,0.5  %の相対合成標準不確かさ又は 0.01 T のいずれか大きい値以

下の不確かさで磁界を印加できるものとする。

b)

設定磁界の均一性は,電圧端子間の試料部分で,0.5  %の相対合成標準不確かさ又は 0.02 T のいずれ

か大きい値以下とする。

c)

設定磁界の最大変動は,±1  %又は±0.02 T のいずれか大きい値以下とする。

9.4 

試料及びマンドレルの支持構造 

試料及びマンドレルの支持構造は,次による。

a)

試料及びマンドレルの支持構造は,

外部磁界の方向に対して試料の方向を適切に保持するものとする。

試料支持具は,箇条 に規定するように繰り返し測定をして,I

c

の他の決定方法にも対応できるよう

な適切な構造とする。

b)

試験試料の形状は,一方向らせん状の誘導コイルとする。

9.5 

試料の保護 

試料と並列にシャント又はクエンチ保護回路を用いる場合,シャント又はクエンチ保護回路を通る電流

が,I

c

とみなせる測定回路全体に流れる全電流の 0.2  %未満とする。

10 

試験結果の計算方法 

10.1  I

c

基準 

I

c

は,電界基準又は比抵抗基準を用いて,次のように決定する。ここで,比抵抗は,複合超電導線の全

横断面を用いて算出する(

図 及び図 参照)。

a)

電界基準を用いる場合  電界基準値(E

c

)を 10 μV/m 及び 100 μV/m として,I

c

値を決定する。

100  μV/m の電界基準値での I

c

値を正しく測定するのが困難な場合は,100  μV/m 未満の電界基準で

代用するか又は比抵抗基準を用いた測定を行う。

I

c

は,基線に対する電圧が基準電圧値(U

c

)に相当する U-特性曲線上の点に対応する電流として決定

する(

図 参照)。

c

c

LE

 (1)

ここに,

U

c

基準電圧値  (μV)

L: 電圧端子間距離 (m)

E

c

電界基準値  (μV/m)

b) 

比抵抗基準を用いた場合  比抵抗基準値(ρ

c

)を 10

14

  Ω・m 及び 10

13

  Ω・m として,I

c

値を決定する。

I

c

は,式(2)による。

I

c

は,基線に対する電圧が比抵抗基準値に対応する基準電圧値(U

c

)に相当する U-特性曲線上の点に

対応する電流として決定する(

図 参照)。

S

L

ρ

I

U

/

c

c

c

 (2)

ここに,

U

c

図 に示す U-特性曲線と基準線との交点での電圧  (μV)

I

c

図 に示す U-特性曲線と基準線との交点での電流 (A)

ρ

c

比抵抗基準値  (Ω・m)


8

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L: 電圧端子間距離 (m)

S: 試料の断面積 (m

2

)

注記 1  基線とは,電圧ゼロの線

注記 2  基準線とは,電界基準又は比抵抗基準に対応する線

c) 

カレント・トランスファーのある場合  カレント・トランスファー線は,基線から I

c

の 0.7 倍の電流

に相当する U-特性曲線上の平均電圧に対して直線を引く(

図 参照)。この直線にこう(勾)配があ

る場合,それはカレント・トランスファーしたものと考えられる。I

c

が有効であるためには,そのこ

う配は,0.3 U

c

 /I

c

未満とする。

ここで,U

c

及び I

c

は,10 μV/m 又は 10

14

 Ω・m の基準で決定した値とする。

10.2  n

値(参考値) 

値は,I

c

が決定される領域近傍で log U  対 log I  をプロットしたこう配とするか,又は 10.1 で決定した

二つの異なる基準値から求めた 2 個の I

c

値を用いて計算する。

値を決定するために用いた領域の範囲は,報告事項とする。

注記  A.7.2 参照。

注記 1  I

c

を決定する電界基準と比抵抗基準との適用方法を示す。

注記 2  縦軸の 1 は電界基準における基準電圧値(U

c

),横軸の 1 は電界基準における I

c

にそれぞれ対応する。

図 1−正常な U-特性 


9

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

注記 1  低電流域で直流領域として示されるカレント・トランスファー成分を伴う U-特性曲線上で,I

c

を決定する場

合の電界基準と比抵抗基準との適用方法を示す。

注記 2  縦軸の 1 は電界基準における基準電圧値(U

c

),横軸の 1 は電界基準における I

c

にそれぞれ対応する。

図 2−カレント・トランスファーを伴う U-特性 

11 

報告事項 

11.1 

試料に関する報告 

試験に用いた試料について,可能な限り次の事項を報告する。

a)

試料の製造業者名

b)

種類及び/又は記号

c)

ロット番号

d)

原材料及びその化学組成

e)

線材の形状,線材の断面積,超電導フィラメント数,超電導フィラメント直径,ツイストピッチ及び

銅と超電導体との体積比

11.2  I

c

値に関する報告 

I

c

値及び I

c

値を求めるために用いた基準値を報告する。

11.3 

試験条件の報告 

次の試験条件を報告する。

a)

試験磁界及び磁界の均一度

b)

試験温度

c)

試験コイルの巻数

d)

コイルの巻線方法

e)

電圧端子間距離及び試料の全長

f)

電流端子から電圧端子までの最短距離

g)

電流端子間の最短距離

h)

電流端子のはんだ付け部分の長さ

i)

試料固定法及び固定に用いた材料の名称


10

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

j)

マンドレルの材質

k)

マンドレルの直径

l)

溝の深さ,形状,ピッチ及び角度


11

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

附属書 A

(参考)

注意すべき事項

A.1 

序文 

この附属書は,I

c

の測定値に重大な影響を及ぼす変動因子及び規格利用に当たっての注意すべき事項の

幾つかについて参考として記載する。

銅/超電導体比(Cu 対 Nb-Ti の体積比)が 1 以下の線材の場合,低い磁界における U-特性が安定しな

い場合があるため,適用しない。

この試験方法に規定した試験条件に従えば,実際に利用される長い導体の品質評価に対しても,必要と

される精度を得ることができる。

この規格は,試験現場の大気圧を操作して,通常の液体ヘリウム沸点温度に近付けた液体ヘリウムに試

料を浸して試験されることを要求している。通常の液体ヘリウム沸点温度以外の温度の液体ヘリウム中で

の試験,ガス中での試験又は真空中での試験は,この規格の範囲外である。

A.2 

試験方法 

試験方法は,次の項目を参考にする。

a)

この試験方法で決定しようとする I

c

は,ある温度及び磁界において,それ以下では超電導体が抵抗ゼ

ロの状態にあると実用上みなされる最大の直流電流値である。

b)

例えば,試験磁界の上限(上部臨界磁界の 0.7 倍)は,温度 4.2 K 付近で 8 T となる。

c)

試料の最小全長は 210 mm で,これは次の要素の合計である。

−  電流端子のはんだ付け長さ(各々40 mm)

−  電流端子と電圧端子との間の距離(各々40 mm)

−  電圧端子間の最小距離  (50 mm)

d)

このような試験条件を守ることができない簡略化した試験(簡略試験)では,その不確かさが増大す

ることは明らかであるが,この規格を一般的な試験手順の指針として用いることもできる。

e)

簡略試験では,やむを得ずこの規格に規定する範囲を外れた試験条件のもとで試験をすることがある

が,本来の相互比較及び性能検証では,試験の容易さと目標とする不確かさの兼ね合いを考えたうえ

で厳密な試験条件を設定することが必要である。

f)

試料の断面積が長さに対して十分小さいか,短い直線状試料の測定は,簡略試験では許容されるが,

厳密な試験条件を設定するのが難しいため,直線形状の試料はこの規格から除外する。

g)

この試験方法において,マンドレルに無誘導的に巻き付け(電流の向きが対抗するような巻き方)

,エ

ポキシ樹脂で固定した試料では,目標に近い不確かさが得られるが,シリコーン真空グリースを用い

るか又は張力によってマンドレルに取り付けた場合には,試料の長さのある部分に,測定用マンドレ

ルから離れる方向にローレンツ力が働き,固定しておけるほど強くないため,目標とする不確かさに

近い測定値を得るのが困難になる場合があるので,無誘導巻き試料は除外する。

h)

非強磁性のステンレス鋼マンドレルに,はんだを接着剤として用いて測定する方法は,簡略試験では

許容できるが,マンドレルに分流する電流の量を推定するのは難しく,特に,超電導性はんだを接着

剤として用いて,低い磁界で測定する場合は,定量が更に困難になる。


12

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

i) 

く(矩)形断面の試料について,磁界方向依存性の試験が必要な場合に,二つの試験方法がある。一

つは,マグネットの中でそのコイル軸に直角になるような直線形状の試料を測定する方法で,すべて

の磁界角度で測定が可能である。もう一つには,ソレノイドマグネットの軸方向に挿入したヘアピン

形状の試料及びコイル形状の試料を測定することで,二つの磁界角度(0 度及び 90 度)での測定が可

能となる。しかし,これらの中でコイル形状の試料以外は,この規格では適用しない。

j) 

この規格の目標とする不確かさは,試験機関相互の共通試験結果に基づいて設定したもので,過去の

共通試験結果を用いて,I

c

測定の不確かさに影響を及ぼす多くの変数の公差を定式化し,試験機関相

互の比較のための目標とする不確かさを決めるに当たり,変動係数(標準偏差を I

c

測定値の平均値で

除した値の 100 倍)を 3  %未満とした。

k)

多くの測定値から得られる結果がどのように分布するかについても変動係数によって分かる。

しかし,

重大な系統誤差がある場合には,二つの試験機関での測定値は,変動係数が 2 倍以上も異なる場合も

ある。

l) 

上部臨界磁界の 0.8 倍付近の磁界(4.2 K で約 9 T)における I

c

測定が可能であっても,許容される不

確かさについては,磁界,温度,ひずみ及び要求される電圧感度に対して I

c

が敏感に変化するので,

変動係数が高くなるものと予想される。

m)

この試験方法による I

c

測定を総合的な不確かさに寄与している唯一,かつ,最大の要因は,磁界の不

確かさであるが,このパラメータを校正するのは困難であり,公差を更に厳しくするのは,現実的で

ない。

n)

今回,この規格で規定しなかった事項及び適用しなかった事項については,今後,検討することとし

た。

A.3 

装置 

A.3.1 

マンドレルの材質  測定用マンドレルは, 6.1 を満足する材料とするが,次の材料が望ましい。

a)

絶縁材料:

−  ガラス繊維織物面が試料に沿うような配置のガラス繊維エポキシ樹脂複合材料

−  織物の面が管の軸に垂直となるように板状の材料から作ったガラス繊維エポキシ樹脂複合管

−  繊維の面を管の軸にらせん状に巻き付けた構造の薄肉ガラス繊維エポキシ樹脂複合管

b)

絶縁層で覆われた導電性の非強磁性材料:

−  非強磁性銅合金,例えば,黄銅

−  非強磁性ステンレス鋼

c)

絶縁層で覆われていない導電性の非強磁性材料:

−  非強磁性ステンレス鋼

− Ti-5

質量  %  Al-2.5 質量  %    Sn 合金(ゼロ磁界で臨界温度は,約 3.7 K である。

−  銅合金,例えば,黄銅(Cu-Zn),銅ニッケル(Cu-Ni)

d)

絶縁層で覆われていない導電性マンドレルを用いたときの漏れ電流は,適正な試験条件の下でマンド

レルに試料を付けたときと,付けないときとの電圧測定から推定することができる。試料を付けない

ときの電流端子間の電圧降下を測定することによって,端子抵抗を含む漏れ電流の流れる経路抵抗が

求められる。次に,試料を取り付けたときの電流端子間の電圧降下を,先に求めた経路抵抗で除する

ことによって漏れ電流を求めることができる。


13

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

e)

熱的に不安定な超電導体を導電性マンドレルで測定した場合,大きな漏れ電流が流れる可能性がある

[2]

。電圧端子の外側で常電導転移が起きると大きな漏れ電流が発生し,試料に流れる正味の電流が減

少して誤った結果を導いてしまう。

このような現象は,

電流端子間の電圧を診断用の電圧端子で監視,

記録することによって容易に検出できる。

A.3.2 

マンドレルの構造 

マンドレルの構造は,次のものを推奨する。

a)

らせん溝のあるマンドレルの場合,溝深さは,丸線では線径の半分以上,角線では厚さの半分以上で

あることが望ましい。

b)

溝の形状は,丸線では,V 字形で,角線では,角形が望ましい。

c)

限界となるピッチ角 7 度は,マンドレル直径 24 mm では 9 mm のピッチに相当する。

d)

図 A.1 に示すように,電流端子は,円筒形の銅リングから作ることが望ましく,このリングの外径は,

試料のコイル内径とほぼ同じにして,曲げひずみを最小に抑える。

e)

また,電流端子へ電流を供給する電流リード線は,試料両端部付近の熱発生を抑えるため,電流容量

の更に大きい超電導リード線を用いてもよい。

f)

超電導リード線は,銅リングに一部巻き付け,有効接触抵抗を小さくする。超電導リードの I

c

が試料

の I

c

を大幅に上回っている場合は,

リード線を銅リング円周の 90  %を超えて巻き付けてはならない。

A.4 

試料 

A.4.1 

試料の固定 

試料の固定は,次を推奨する。

a)

試料が動くと,早期のクエンチ(不可逆熱暴走)及び,電圧ノイズを引き起こし,ついには I

c

の繰返

し性を悪くする。

b)

巻付け張力は,試料と測定用マンドレルとの間の熱収縮の差に依存するが,試料をマンドレルに保持

するのに効果的である。

c)

低温接着剤は,クエンチの可能性を減らすが,接着剤の量が多過ぎると,試料から液体ヘリウム槽へ

の熱の流れが妨げられ,クエンチを起こす場合がある。

d)

試料をしっかりと固定するためには,測定用マンドレルの表面は粗面仕上げし,清浄にし,試料表面

をきれいにしておく。

e)

試料及び測定用マンドレルにはいろいろな種類があるので,ある決まった試料固定法だけを指定する

ことは実際的でなく,状況に応じて工夫する。

f)

測定用マンドレルの電流端子の内側で試料をはんだ付けすることは,漏れ電流の推定を困難にし,か

つ,クエンチのような不安定性が見掛け上抑えられ,試料にかかる熱収縮の効果を増大させるなどの

理由から,適用しない。

g)

どのような固定方法を用いる場合でも,試料の過度の温度上昇には注意する。

A.4.2 

試料の取付け 

試料の取付けは,次を推奨する。

a)

比抵抗基準を用いる場合は,試料を取り付ける前に,試料の断面積を測定し,その値を使って I

c

を決

定する。I

c

と ρ

c

との決定には,断面積測定の合成標準不確かさは 2.5  %で十分であるが,臨界電流密

度(J

c

)の決定が必要な場合には,0.5  %の合成標準不確かさが望ましい。

b)

供給時にコイル状に巻き付けられていたため生じた曲がりに逆らわないように,同じ方向に線材試料


14

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

をマンドレルに巻き付け,線材の一端を固定し,巻付け張力を試料に加え,もう一端を固定した後,

電流端子をはんだ付けする。

c)

電流端子に巻線が何重にも巻かれてはんだ付けされていると,

ゆっくりと変化する磁界が誘導される。

これは,外部磁界を次の設定値に変化させるため,電流を増減するとき誘導される磁界である。

d)

試料は,液体ヘリウム容器中のマグネットの中央に保持し,電流及び電圧リード線を室温から液体ヘ

リウム温度の部分まで配線するため,試料を支持するジグを用いる。

e)

試料の電圧リードは,発生する熱起電力を減らすために,液体ヘリウム槽から室温まで継ぎ目がない

銅線を用いる。また,室温部分のすべての接続箇所は,等温環境に保つ。液体ヘリウムに浸されてい

る接続箇所は,一定温度になっているか注意を要する。

A.5 

測定手順 

測定手順は,次を推奨する。

a)

試料が常電導状態に転移するとき試料電流によって生じる損傷を避けるために,クエンチ保護回路又

はシャント抵抗を用いるとよい。

b)

定速掃引法と呼ばれる U-特性データ収集法は,電流をゼロから I

c

をわずかに超える電流まで一定速

度で掃引する方法で,箇条 に規定する電流掃引速度の制限は,誘導電圧の発生及び試料の加熱を考

慮したものである。

c)

電流掃引時の誘導電圧は,電流ではなく,掃引速度,電圧感度,試料のクエンチ履歴及び経験磁界に

依存する

[3]

。これらの可変誘導電圧が生じると,マンドレルへのカレント・トランスファーによる電

圧のように現れ,9.1 に規定する I

c

測定の有効性の制約を受けることになる。また,この効果は外部

磁界を変化させた後,又は試料をクエンチさせた後,最初に電流を I

c

まで増加させ,ゼロに戻すサイ

クル中で測定することで減少させられる。

d)

ステップ掃引法と呼ばれる第二の U-特性データ収集法は,予想される U-特性曲線に沿って,任意

にプログラムされた多数の点に沿って電流を立ち上げ,各点で電流を一定に保ち電圧及び電流値を収

集する方法で,各電流設定点間で最初急速に電流を立ち上げた後,ある一定の静置時間をもつことが

望ましい。

e)

誘導電圧が掃引速度,電圧感度,試料のクエンチ履歴及び経験磁界に依存するため,3 秒間程度の静

置時間が必要である

[3]

。また,誘導電圧は,外部磁界を変化させた後,又は試料をクエンチさせた後,

最初に電流を I

c

まで増加させ,ゼロに戻すサイクル中で測定することで減少させられる。

f)

予想される基準電圧に比較してシステムノイズが大きい場合は,データが平均化するように電流をゼ

ロから I

c

まで掃引する時間を,150 秒間以上とすることが望ましい。この場合,電流端子の熱容量及

び/又は冷却面積を増やし,長時間の測定による熱の発生を抑えるような配慮が必要となる。ステッ

プ掃引法では,U-特性データについては離散的であるが,各電流値に平均化されたデータであると

いう特徴がある。

g)

試料電流が時間とともに変化すると電圧端子に正又は負の電圧が誘導される。この望ましくない電圧

の発生原因は,電流掃引速度にその電圧が比例することから確認できる。この電圧が U

c

と比較して顕

著であれば,電流掃引速度を低くするか,電圧端子と試料とによって形成されるループ面積を減らす

ようにするか,又はステップ掃引法を利用する。

h)

電流が増加中は,時間とともにローレンツ力が増加するので間欠的な滑り,又は連続した試料の動き

が生じることに注意する。これを原因として発生する電圧が U

c

と比較して顕著であれば,ローレンツ


15

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

力の方向が内向きであるかを確認するか,試料支持方法を改善するか,又はステップ掃引法を利用す

る。

i)

有効な U-特性データが得られない場合は,試料のクエンチ保護の方法を改善することによって正し

く I

c

値の繰返し性が得られるようにする。改善方法は,試料支持方法又は熱的安定性(電流端子を長

くするか,試料表面の接着剤を少なくするなどによって)を改善することが望ましい。

j)

試料電圧ゼロに対応する基線電圧には,熱起電力電圧,オフセット電圧,接地ループ電圧,コモンモ

ード電圧などが寄与している。これらの電圧は,個々の U-特性データを記録している間,比較的安

定している。熱起電力電圧及びオフセット電圧のわずかの変化は,U-特性データの測定の前後に基

線電圧を測り,また,直線的経時変化を仮定することによって,大体取り除くことができる。基線電

圧の変化が U

c

に比べて顕著であれば,試験装置の構成を変更する。

k)

接地ループ電圧及びコモンモード電圧の変化は,試料電流とは明確な相関関係はもたず,この電圧が

大きければ,変化を抑える手立てを行う。これらの電圧が大きく,かつ,重畳した場合,カレント・

トランスファーによる電圧との区別がつきにくくなるため,分流の程度によっては測定の有効性が制

限される。コモンモード電圧の問題の有無をチェックするには,試料電流の関数としてゼロ電圧用端

子対(

図 A.1 参照)による電圧を測定する。この対で測定される電圧は,試料電流には依存せず,電

流掃引速度の関数となるもので,

試料電流の関数として測定されれば,

別の要因があると考えられる。

注記  コモンモード電圧とは,接地に起因するコモンモード電流が回路インピーダンスを通ること

によって発生するノーマル雑音電圧をいう。

A.6 

試験方法の不確かさ 

試験機関での I

c

測定システムの総合的な不確かさを評価する任意試験方法として,標準試料(SRM-1457)

を入手し検討する方法がある。

標準試料(SRM-1457)の検定書の注意事項を考慮して,この試験方法で標準試料を測定すればよい。

自己磁界効果の大きさと試料電流,コイル直径,ピッチなどに対する複雑な依存性は,検出可能な系統

的効果を及ぼしているが,ほぼ同一の試料に関する試験機関同士間で定めた目標不確かさに自己磁界効果

はそれほど影響するとは考えられない。必要であれば,試験報告に記載されたデータをもとに I

c

に対する

自己磁界効果を見積もることは可能である。自己磁界効果に関するこれ以上の検討は,

附属書 を参照す

るとよい。

試料の溶断などを避けるため,試料電圧があらかじめ設定された値を超えたときに,試料電流をゼロに

リセットするクエンチ保護回路が,I

c

測定には必要になることがある。

A.7 

試験結果の計算方法 

A.7.1 

I

c

基準 

用途によっては,Nb-Ti 断面積が比抵抗基準に用いられる。この面積は,通常,重量法を用いて Cu 対

Nb-Ti の体積比を測定して決定する。対応する標準試験方法としては,JIS H 7304 がある。

JIS H 7304

  超電導−超電導体のマトリックス比試験方法−銅安定化ニオブ・チタン複合超電導導体

の銅比

注記  対応国際規格:IEC 61788-5,Superconductivity−Part 5: Matrix to superconductor volume ratio

measurement−Copper to superconductor volume ratio of Cu/Nb-Ti composite superconductors

(IDT)


16

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

10

14

Ω・m の比抵抗基準を採用する場合は,信号対雑音比を大きくするため,電圧端子間の距離をよ

り長くし,例えば,500 mm 以上にする必要性が生じる場合もある。

もし,判定基準に比べて大きな分流による電圧が発生する場合は,電流端子と電圧端子との間の距離を

大きくする。

A.7.2 

n

値(参考値) 

値は,次による。

a)  I

c

近傍の超電導体の U-特性データは,通常,経験的にべき乗則で近似できる。

n

I

I

U

U

)

(

0

0

(A.1)

ここに,

U: 試料電圧  (μV)

U

0

基準電圧  (μV)

I: 試料電流 (A)

I

0

基準電流 (A)

値: 曲線の一般的形状を示す。

b) log

対 log の関係は,I

c

決定のための電界基準 E=10 μV/m 近くの電流領域においても必ずしも直線

的でなく,従って 値を決定するための判定基準範囲を報告する必要がある。この範囲は,10  μV/m

から 100 μV/m 又は 10

14

  Ω・m から 10

13

  Ω・m とする。

c)

決定された 値の変動係数は,

20  %という大きな値になる場合があるので,値を決める試験方法は,

任意事項とする。

d)  n

値の変動に影響する因子として,次のものがある。

−  電圧ノイズ

−  電流リップル

−  試料の冷却(使用する接着剤の量又は絶縁されていない導電マンドレルへのカレント・トランスフ

ァー効果などによる見掛けの安定性)

−  磁界のリップル及び均一度

−  試料電流の自己磁界

−  試料に対する熱こう配


17

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

注記  ゼロ電圧用端子対は,接地ループ又はコモンモード電圧の検出に使用される。電圧測定用端子対(ここでは,

説明を明確にするため,端子間距離は短く示してある。

)とは別に,一組の端子対が図に示すように試料に取り

付けられ,その一方が試料に,他方がゼロ電圧用端子対に接続されている。ゼロ電圧用端子対は,電圧測定用
端子対の寄生誘導電圧をシミュレートするために,小さな線材ループで構成されている。この対で測定される
電圧は,試料電流には依存せず,電流掃引速度の関数となるもので,もし,試料電流の関数として測定された

場合は,別の要因があると考えられる。

図 A.1−ゼロ電圧用端子対を付けた試料マンドレルの構成 


18

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

附属書 B

(参考)

自己磁界効果

a)

コイル形状の試料において通電電流が大きいときは,試料自身が発生する磁界のため I

c

の測定値に自

己磁界の効果が含まれるようになる。この自己磁界は,印加された磁界とは別に発生するため,試料

が経験する合計の磁界は,導体の断面部位によっては,印加磁界よりも大きくなる。試験機関によっ

ては,この付加された自己磁界に対して,近似的に補正を行っている。

b)

試験機関間で I

c

測定値を比較する場合は,それぞれの試験機関で試料が同程度の自己磁界を受けるの

で,I

c

データに対する自己磁界補正は,実際上不必要である。自己磁界効果の違いは,測定用マンド

レルの直径及びピッチ(これは,試験機関間の比較では管理されている。

)と印加磁界の均一度の違い

とによって生じる。試験機関間の比較では,この試料はほとんど同一形状であるので,自己磁界効果

の補正をする必要はない。自己磁界効果の補正を行った機関の I

c

データと行わない機関のデータとは

比較不能である。したがって,試験機関間の比較においては,I

c

の自己磁界補正はしない方がよい。

c)

このことは,異なる直径をもつ線材の臨界電流密度(J

c

)を比較する場合の自己磁界の補正の必要性及び

有用性を否定するものではない。異なる直径の線材の J

c

を比較する場合には,導体によって経験する

自己磁界が異なるため補正すべきである。自己磁界補正によって,異なる直径をもつ線材の J

c

が比較

可能なデータとなる。近似的な補正は,長い直線状の線材の発生磁界を基準として次の式(B.1)で表さ

れる。

)

π

2

(

μ

0

SF

r

I

B

×

(B.1)

ここに,

B

SF

近似的な自己磁界 (T)

μ

0

真空の透磁率 (4π×10

7

 H/m)

I: 電流 (A)

r: 線材の半径 (m)

この式は,次の式(B.2)のようにも表すことができる。

d

I

B

×

×

)

10

4

(

4

SF

(B.2)

ここに,

B

SF

近似的な自己磁界 (T)

I: 電流 (A)

d: 線材の直径 (mm)

d)

  通電電流から決めた J

c

の測定値と直流磁化測定から計算によって求めた J

c

との差異を説明したり,ま

た,J

c

の最適化の研究において,直径の異なる線材の J

c

測定値を補正したりするため,上記の近似的

な補正を用いる。さらに,この補正方法は簡単で,応用範囲が広く,また,有効性が実証されている

ことから,線材及び線材を複数本集合したケーブルの I

c

測定値と磁気特性との相関を立証する目的に

も用いられる。式(B.1)による近似式は,銅/超電導体体積比,マトリックスの比抵抗,フィラメント

のツイストピッチ,フィラメントの配列,フィラメント間の電流再配分,測定用マンドレルの直径,

らせんピッチなどの影響は考慮していない。

e)

  この近似的な補正は,測定パラメータが自己磁界効果を強めない限り,それが意図している目的のた

めには十分正確である。しかしながら,試験機関間の比較では,正確であるとはいえない。試験機関

間で異なる幾つかのパラメータについて補正しようとしても,その補正は極めて複雑で,その複雑な


19

H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

補正をしてもなおかつ十分な精度は得られない。この近似的自己磁界補正は,測定用マンドレルの直

径及びらせんのピッチによる影響を考慮していないので,これらのパラメータが,J

c

の比較に用いる

I

c

測定値に与える影響を減らす手段を講じなければならない。このことは,I

c

が大きい(300 A を超え

る)試料又は I

c

の磁界依存が大きくなる低磁界(3 T 未満)の測定では,7 度に近いピッチ角で径の大

きな(30 mm を超える)測定用マンドレルを用いるべきであることを示している。この指針をよりは

っきりさせるためには,これらの影響について更に研究が必要である。自己磁界効果の研究が難しい

理由は,通電による I

c

は自己磁界なしでは測定不可能な上に,曲げひずみの I

c

に及ぼす影響も自己磁

界効果と関係することが多くの実験で確認されているためである。

f)

  試験機関間の比較で自己磁界の影響を減らす簡便な方法としては,測定用マンドレルの直径及びピッ

チを標準化することである。しかし標準化しようとすると,パラメータの選択として最小直径に偏り

がちで,このことは機関相互の比較にはふさわしいが,簡略試験においては実際的でない。また,こ

の規格の適用対象となる各種導体群に適する測定マンドレルを一つだけ決めることも現実的ではない。

その理由は,最も大きい導体に適するマンドレルの直径は,多くの試験機関で使われているマグネッ

トの有効内径(測定空間)より大きくなるためである。

g)

  自己磁界効果をある程度規格化するのに用いられるもう一つの方法は,双方向に電流を流して測定し

た I

c

を平均化することである。これによって,測定用マンドレルの直径と巻ピッチとの影響を減らす

ことができる。しかし,この規格では逆方向(ローレンツ力がマンドレルから離れる方向)に電流を

流すことを許容していないので,この方法は適用しない。


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H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

附属書 C 
(規定)

三層構造超電導線の試験方法

C.1 

序文 

この規格が,Cu/Nb-Ti と三層構造超電導線の両方に適用されているのに対して,この附属書は,三層構

造超電導線に関する固有な箇条の補足である。したがって,

C.2

以降の条項は,三層構造超電導線に固有

のものである。

C.2 

三層構造超電導線に固有な事項 

C.2.1  

マンドレルへ固定するときの張力は,線のひずみ特性でひずみが 0.1  %以上,0.2  %未満に相当する応

力で固定するものとする。接着剤の使用は,

C.2.5

で示したエポキシ樹脂以外は避ける。

C.2.2  

この方法における目標とする不確かさは,変動係数(COV:標準偏差を I

c

の平均値で除した値の 100 倍)

として定義され,3  %を超えないものとする。COV 2  %を得るために,ローレンツ力の方向は,コイル状

サンプルの半径方向に対して外方向にかかる条件とする。

C.2.3  

適切なマンドレルの材質は,

附属書 A

で推奨しており,これらのいずれを採用してもよいが,ガラス繊

維強化プラスチック (GFRP)を使用する場合は,ガラス繊維の積層方向が円筒状マンドレルにおいて高さ

(長さ)方向であることが望ましい。

C.2.4  

通電性のマンドレル材質を絶縁層なしで使用し,特に超電導線をはんだ固定する場合には,マンドレル

材に流れる漏れ電流の値が,最も低い定義基準(10 μV/m 又は 10

14

Ω・m)で求めた I

c

値の 0.2  %未満と

する(

9.5

及び

A.3.1

参照)

C.2.5  

超電導線試料は,張力だけでマンドレルに固定する。低温接着剤の使用は避ける。特に,真空容器用シ

リコーングリースはクエンチを起こしやすいので,使用しない。エポキシ樹脂のような低温で熱伝導のよ

い接着剤はクエンチの可能性を低減できるが,その使用量は必要最小限にとどめることとする。

C.2.6  

測定用マンドレルへのはんだ固定は,許容される。ただし,I

c

の定義が 10  μV/m 又は 10

14

Ω・m の場

合は,はんだ接続が認められるが,一けた高い定義値である 100 μV/m 又は 10

13

Ω・m の場合は認めない。

C.2.7  

超電導線試料がマンドレルの溝によく収まることを確認するため及びクエンチの可能性を低減するため

に,張力をかけた状態でマンドレルに巻線するものとする。張力は,総ひずみの 0.2  %を超えないように

する。張力は,総ひずみの 0.1  %∼0.2  %の範囲内になるようにする(

附属書 D

C.2.8  

電圧端子間の超電導線試料が,外側のローレンツ力を受けるように通電電流及び外部磁界の方向を決め

ておく。


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H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

附属書 D 
(参考)

巻線張力計算の指針

この

附属書

は,試料に作用するひずみを許容値内に収めるために,必要な巻線張力の計算に関する指針

及び例を示す。試料には,試験中の動きを抑えるのに十分な強さの引張りひずみが必要であるが,それに

よって I

c

が劣化してはならない。ひずみの許容値は,Cu/Nb-Ti(

7.3

参照)と三層構造超電導線とでそれぞ

れ異なる。ただし,この附属書は,試料の引張ひずみを正確に計算するものではない。

弾性限界内(おおよそ 0.2  %未満のひずみ領域)における応力(σ)とひずみ(ε)との関係は,おおむね次の

式(D.1)で求められる。

E

σ

ε

(D.1)

ここに,

σ: 応力 (Pa)又は (N/m

2

)

ε: ひずみ[長さの変化を元の長さで除した値(無次元)]

E: ヤング率 (Pa)又は (N/m

2

)

種々の材料のヤング率(E)の典型的な値を,

表 D.1

に示す。複合超電導線のヤング率(E

comp

)は,複合則を

用いることで推定できる。  

( )

m

sc

comp

1

E

f

fE

E

(D.2)

ここに,

E

comp

複合超電導線のヤング率 (Pa)又は (N/m

2

)

f: 超電導体の体積分率(無次元)

E

sc

超電導体のヤング率 (Pa)又は (N/m

2

)

E

m

マトリックスのヤング率 (Pa)又は (N/m

2

)

複合則は,3 種類の材料で構成される超電導線にも適用できる。

次に,直径 1 mm の超電導線に 0.1  %のひずみを与えるために必要な張力の計算例を示す。ここで,超

電導体(Nb-Ti)の体積分率(f)を 0.4 と仮定する(銅マトリックスの体積率は,0.6)

。この体積分率(f)と

表 D.1

で示される超電導体及び銅のヤング率の値を式(D.2)に代入すると,複合超電導線のヤング率(E

comp

)は,99.6

GPa となる。このヤング率及びひずみ(ε)0.001 (0.1  %)を式(D.1)に代入すると応力(σ)99.6 MPa になる。張力

(F)は,次の式(D.3)で求める。

S

σ

F

(D.3)

ここに,

F: 張力 (N)

σ: 応力 (Pa)又は (N/m

2

)

S: 複合超電導線の断面積 (m

2

)

応力(99.6 MPa)と複合超電導線の断面積(0.785×10

6

 m

2

)とを式(D.3)に代入すると,その張力は約 78 N と

なる。

表 D.1−常温における種々の材料のヤング率の例

材料

ヤング率

GPa

Nb-48 Ti

a)

 60

Cu 126

Cu-10 Ni

a)

 122

a)

  数字は,Ti 又は Ni の含有率  [%(質量分率)]  を示す。


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H 7301

:2009 (IEC 61788-1:2006)

参考文献

[1]  IEC 60050-121, International Electrotechnical Vocabulary

−Part 121: Electromagnetism

[2]  GOODRICH, Loren F., WIEJACZKA, Julie A. and SRIVASTAVA, Ashok N. IEEE Trans.

On Appl. Supercond., 1995, Vol.5 (3), pp. 3442-3444

[3]  GOODRICH, LF. and STAUFFER, TC. Advances in Cryogenic Enginnering, 2002, Vol. 48B,

pp. 1142-1149