G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
(1)
まえがき
この規格は,工業標準化法に基づいて,日本工業標準調査会の審議を経て,通商産業大臣が制定した日
本工業規格である。
この規格は,1994 年に第 2 版として発行された ISO 6931-1, Stainless steels for springs−Part 1 : Wire を翻
訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
JIS G 7602
には,次に示す附属書がある。
附属書 A(参考) 追加情報
日本工業規格
JIS
G
7602
: 2000
(ISO
6931-1
: 1994
)
ばね用ステンレス鋼−第 1 部:線(ISO 仕様)
Stainless steels for springs
−Part 1 : Wire
序文 この規格は,1994 年に第 2 版として発行された ISO 6931-1, Stainless steels for springs−Part1 : Wire
を翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
1.
適用範囲
1.1
この規格は,
表 1 に規定されているステンレス鋼の鋼種に適用する。これら鋼種は,線径約 10mm
以下の線の形で,加工硬化状態で,腐食環境及び時には少し高い温度環境(
附属書 A の A.1 参照)に暴露
されるばね及びばね部品の製造に適用する。
1.2
表 1 に記載されている鋼種以外に,ISO 683-13 によって取り扱われる幾つかの鋼種が,ばねに使用
されていることがある。これらの場合に,物理的性質(引張強さなど)は,受渡当事者間の協定による。
1.3
この規格のこの部以外に,ISO 404 の一般受渡要求事項も適用する。
備考 この規格の対応国際規格を,次に示す。
なお,対応の程度を表す記号は,ISO/IEC Guide 21 に基づき,IDT(一致している)
,MOD
(修正している)
,NEQ(同等でない)とする。
ISO 6931-1 : 1994, Stainless steels for springs
−Part 1 : Wire (IDT)
2.
引用規格 次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成す
る。これらの引用規格は,記載の年の版だけがこの規格の規定を構成するものであって,その後の改正版・
追補には適用しない。
ISO 377-1 : 1989
Selection and preparation of samples and test pieces of wrought steels−Part 1 : Samples
and test pieces for mechanical test
ISO 377-2 : 1989
Selection and preparation of samples and test pieces of wrought steels−Part 2 : Samples
for the determination of the chemical composition
ISO 404 : 1992
Steel and steel products−General technical delivery requirements
ISO 683-13 : 1986
Heat-treatable steels, alloy steels and free-cutting steels−Part 13 : Wrought stainless steels
(その後廃止)
ISO 6892 : 1984
Metallic materials−Tensile testing
ISO 7802 : 1983
Metallic materials−Wire−Wrapping test
ISO/TR 9769 : 1991
Steel and iron−Review of available methods of analysis
ISO 10474 : 1991
Steel and steel products−Inspection documents
3.
注文 注文者は,引合い及び注文時に次の事項を明示する。
2
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
a)
要求数量
b)
線径
c)
この規格の番号 (JIS G 7602)
d)
鋼種
e)
納入状態(4.2.2.1 と 4.2.2.2 参照)
f)
表面状態(4.2.2.3 参照)
g)
納入形態(4.2.1 参照)
h)
必要書類の種類(5.1.1 参照)
例
− JIS G 7602 に基づくばね用ステンレス鋼線 2 トン,線径 2.00mm,鋼種 No.1,ばね用硬引状
態 (C) ,標準引張強さ (NS) ,被覆処理,コイル巻き,ISO 10474 の 3.1.B に基づく検査証
明書。
− ばね用ステンレス鋼線 2 トン,線径 2.00mm,JIS G 7602,鋼種 No.1,ばね用硬引状態 C,強
さ NS,被覆処理,コイル巻き,ISO 10474 の 3.1.B に基づく検査証明書。
4.
要求事項
4.1
鋼及び製品の製造 注文書の中で協定されない限り,鋼及び製品の製造工程は,製造業者が判断す
る。
4.2
納入
4.2.1
納入形態 線はスプール巻き,コイル巻き又は直線で供給される。数コイルを集めて,キャリアに
載せてもよい。
4.2.2
納入状態
4.2.2.1
線の納入状態は,常に注文者が指定する。可能な納入状態は,
表 2 による。鋼種 No.3 の熱処理
した状態 (T) は,標準の納入状態でなく,引合い及び注文時に協定される。熱処理は,変色の原因となる
可能性がある(A.5.2.2 参照)
。
4.2.2.2
各コイルは,1 本の線からなり,キンクがないように巻かれていなければならない。スプール巻
き又はキャリア巻きの線は,引合い及び注文時の協定があれば,最大 2 本の線で構成されてもよい。
スプールから取り出した線は,スプールの胴径より小さくなく,胴径の 2.5 倍未満の円形のキャストに
ならなければならない。
コイル巻きの線は,元のコイル径より小さくなく,元のコイル径の 1.5 倍未満の円形キャストにならな
ければならない。
任意のキャストの径を,引合い及び注文時に協定してもよい。
3
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
表 1 鋼の化学成分(溶鋼分析)
鋼種
JIS
相当
鋼種
4)
化学成分
1)
% (m/m)
No.
記号
記号 C
max
Si
max
Mn
max
Al Cr Mo Ni
1 X9
CrNi18-8
SUS302 0.12
1.5 2.0
− 16.0∼19.0
− 6.5∼9.5
2 X5
CrNiMo17-12-2
SUS316 0.07
1.0 2.0
− 16.5∼18.5
2.0
∼2.5
2)
10.5
∼13.5
3 X7
CrNiAl17-7
SUS631 0.09
1.0 1.0 0.75
∼1.50
16.0
∼18.0
− 6.5∼7.5
3)
注1) すべての鋼種に対し P≦0.045%,S≦0.030%
2)
耐食性が特に重要な場合,この規格の鋼種 No.2 に ISO 683-13 の 20a の納入協定を適用することが
できる。
(ISO 683-13 は廃止)
3)
特別の協定によって,この鋼は,冷間加工用として,7.00∼8.25% Ni で注文することができる。
4)
参考として示した。
表 2 ばね用硬引状態 (C) の引張強さ及び鋼種 No.3 の熱処理状態 (T) の引張強さ
引張強さ,N/mm
2 1)2)3)4)5)6)
1
種
2
種
3
種
状態,C
状態,C
状態,C
状態,T
通常強度
高強度
呼び径
(NS)
(HS)
mm
min min min min min
0.20
以下
2 200
2 350
1 725
1 975
2 275
0.20
を超え 0.30 以下
2 150
2 300
1 700
1 950
2 250
0.30
を超え 0.40 以下
2 100
2 250
1 675
1 925
2 225
0.40
を超え 0.50 以下
2 050
2 200
1 650
1 900
2 200
0.50
を超え 0.65 以下
2 000
2 150
1 625
1 850
2 150
0.65
を超え 0.80 以下
1 950
2 100
1 600
1 825
2 125
0.80
を超え 1.00 以下
1 900
2 050
1 575
1 800
2 100
1.00
を超え 1.25 以下
1 850
2 000
1 550
1 750
2 050
1.25
を超え 1.50 以下
1 800
1 950
1 500
1 700
2 000
1.50
を超え 1.75 以下
1 750
1 900
1 450
1 650
1 950
1.75
を超え 2.00 以下
1 700
1 850
1 400
1 600
1 900
2.00
を超え 2.50 以下
1 650
1 750
1 350
1 550
1 850
2.50
を超え 3.00 以下
1 600
1 700
1 300
1 500
1 800
3.00
を超え 3.50 以下
1 550
1 650
1 250
1 450
1 750
3.50
を超え 4.25 以下
1 500
1 600
1 225
1 400
1 700
4.25
を超え 5.00 以下
1 450
1 550
1 200
1 350
1 650
5.00
を超え 6.00 以下
1 400
1 500
1 150
1 300
1 550
6.00
を超え 7.00 以下
1 350
1 450
1 125
1 250
1 500
7.00
を超え 8.50 以下
1 300
1 400
1 075
1 200
1 450
8.50
を超え
10.00
以下
1 250
1 350
1 050
1 150
1 400
注1) 引張強さは実径で測る。
2)
直線加工後,引張強さは,約 7%低下する。熱処理によって,引
張強さの低下は,ほとんど回復される。熱処理は,直線からの
ずれ,反り及び変色の原因となる(A.5.2.2 参照)
。
3)
強加工した線は,引張強さの下限値を協定してもよい。
4) 4.4.2
参照。
5)
引張強さの許容差:下限値の+15%
6) 1N/mm
2
=1MPa
ばね用線は,らせんキャストのないように伸線されていなければならない。
4
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
線径 5mm 以下の線について,リング (Wap) の先端と終端のリングの軸方向の変位 (l) が次の 1 次の方
程式で与えられる値を超えないならば,この要求事項は満たされているとみなされる。
4
2
.
0
d
D
l
⋅
=
ここに,
D
:
個々のリング
(Wap)
の平均径
d
:
線径
円形キャストとらせんキャストは,5.4.2.4 に従って試験される。
4.2.2.3
ばね用ステンレス鋼線の表面状態は,受渡当事者間の協定による。
4.3
化学成分
4.3.1
溶鋼分析によって得られる化学成分は,
表 1 による。
4.3.2
表 1 に規定する値と製品分析との間の許容変動値は,表 3 による。
表 3 製品分析値と表 1 の溶鋼分析に対する限界値との許容変動値
成分
溶鋼分析における許容最大値
% (m/m)
許容誤差
1)
% (m/m)
C
0.12
以下
+0.01
Si
1.0
を超え
1.0
以下
1.5
以下
+0.05
+0.10
Mn
1.0
を超え
1.0
以下
2.0
以下
+0.03
+0.04
P
0.045
以下
+0.005
S
0.030
以下
+0.005
Al
0.75
以上 1.50
以下
±0.10
Cr
16.0
以上 19.0
以下
±0.20
Mo
2.0
以上 2.5 以下
±0.10
Ni
6.0
以上
10.0
を超え
10.0
以下
13.5
以下
±0.10
±0.15
注1) 同一溶鋼に対し,溶鋼分析に対する製品分析値
が規定した上又は下限値を超えてもよい変動範
囲を示す。ただし,上又は下限値を同時に超え
てはならない。
4.4
機械的性質
4.4.1
ばね用硬引状態
(C)
の引張強さ及び鋼種
No.3
の,熱処理状態
(T)
での引張強さは,
表 2 による。
熱処理によって鋼種
No.3
より少ないが,鋼種
No.1
と
No.2
の引張強さも増加する(A.2 及び
図 A.1 参照)。
4.4.2
線のコイル巻き又はスプール巻きの両端の引張強さの最大差は,
表 4 による(5.2 参照)。同一溶鋼
から成るバッチ内の引張強さの差は,最小引張強さの
9%
以内でなければならない。
表 4 同一スプール又は同一コイル内での引張強さの差
線径 d
mm
最大引張強さの差
N/mm
2
1.5
以下
1.5
を超え 10.0 以下
100
70
4.5
性能試験,表面状態及び内部の健全性
4.5.1
性能試験及び表面状態
5
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
4.5.1.1
コイリングの均一性と表面状態を調査するため,線径が
0.5
∼
1.5mm
の場合,5.4.2.2 によるコイ
リング試験が適用される。コイルに巻かれたばねは,欠陥のない表面状態と均一な巻きピッチを示さなけ
ればならない。
4.5.1.2
じん性と表面状態を調査するため,次の試験が適用される。
−
巻付試験:線径
0.3mm
以上
4.0mm
以下
−
曲げ試験:線径
4.0mm
を超え
10.0mm
以下
これらの試験の規定と要求事項は,5.4.2.3 に示す。
4.5.1.3
線の表面は,その使用性をひどく損なうような筋,ピット,その他の表面欠陥があってはならな
い。
4.5.1.4
もし,高機能ばねを意図し,4.5.1.1
∼4.5.1.3 の要求事項が十分でない場合には,受渡当事者間の
協定による。
4.5.2
内部の健全性 線は,使用に重大な影響を与える可能性のある内部欠陥があってはならない。内部
状態の評価に適切な試験,例えば,巻付試験を注文時に協定してもよい。
4.6
寸法及び寸法許容差
4.6.1
線径の許容差を,
表 5 に示す。
表 5 線径の許容差
単位
mm
線径許容差
呼び径
スプール
又はコイル
直線
0.20
以下
±0.005
±0.009
0.20
を超え
0.40
以下
±0.008
±0.013
0.40
を超え
0.80
以下
±0.010
±0.016
0.80
を超え
1.60
以下
±0.015
±0.025
1.60
を超え
3.20
以下
±0.020
±0.035
3.20
を超え
6.00
以下
±0.025
±0.045
6.00
を超え 10.00 以下
±0.035
±0.060
4.6.2
真円度の許容差,すなわち,線の同一断面における最大径と最小径との差は,線径の許容差の
50%
を超えてはならない。
4.6.3
直線の長さの許容差:
0.60mm
以下の線径:±
20mm
0.60mm
を超える線径:±
10mm
他の許容差は,引合い及び注文時に協定してもよい。
5.
試験
5.1
試験に関する協定及び検査文書
5.1.1
各納入時に ISO 10474 に従って,文書を発行することを引合い及び注文時に協定しなければならな
い。
5.1.2
受入検査を行う場合は,5.2
∼5.4 の規定を遵守しなければならない。
6
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
5.2
試験の回数 表 6 に試験回数を,試験単位の構成及び試験単位ごと示す。ただし,引張強さの均一
性の試験を(4.4.2 に従って)注文時に協定している場合には,試験片を各コイル,又は各スプールの両端
から採らなければならない。また,一つの線材から幾つかのコイル巻き及びスプール巻きの線が連続製造
され,製造順に番号が付けられている場合には,各コイル,又は各スプールの巻き始め部分から一つずつ
の試験片を採るだけでよい。
表 6 合否試験における試験単位及び試験回数
品質要求事項
1)
2)
試験単位
抽出
試験単位ごとの
抽出製品数
製品ごとの
サンプル数
サンプルごとの
試験数
製品分析
3)
○
溶鋼
4)
1 1
引張強さの均一性を
チェックしない引張試験
m
溶鋼及び
生産バッチ
5)
10
スプール又は
10
コイルごと
1 1
引張強さの均一性を
チェックする引張試験
○
溶鋼及び
生産バッチ
5)
6)
6)
6)
均一性と表面状態を
チェックするコイリング試験
d
=0.3∼1.5mm
○
溶鋼及び
生産バッチ
5)
注文時に協定を必要とする。
じん性及び表面状態を
チェックする試験
巻付試験
d
=0.3∼4.0mm
U
−曲げ試験
d
>4.0∼10.0mm
○
○
溶鋼及び
生産バッチ
5)
注文時に協定を必要とする。
注1) もし,その他の試験が必要な場合,例えば,弾性係数の測定,これは注文時に協定しなければな
らない。
2) m
=試験は各場合に実施する。
○=試験は注文時に協定されている場合にだけ実施する。
3)
もし,製品分析が要求されていない場合は,溶鋼分析による化学成分は
表 1 に記載する元素につ
いて製造業者が提示する。
4)
注文時に他に協定されていない限り,試験片は溶鋼ごとに一つ採らなくてはならない。
5)
生産バッチとは同一熱処理条件,同一減面率の製品量として定義する。
6) 5.2
参照
5.3
選択及び製作
5.3.1
一般 サンプル及び試験片の採取及び製作は,ISO 377-1 及び ISO 377-2 による一般条件を適用す
る。
5.3.2
製品分析 製品分析用サンプルの採取及び製作は,ISO 377-2 の要求事項による。
5.3.3
引張試験及び性能試験
5.3.3.1
引張試験及び巻付試験用試験片は,コイル又はスプールの端から十分離れた場所から採取する。
この件について係争がある場合で,線径が
6.0mm
以下の場合にはコイル又はスプールの端から最小長さを
5m
とする。
5.3.3.2
引張試験用の試験片はできるだけまっすぐで,表面欠陥やキンクのないものとする。必要な場合
には,試験片を次の方法で矯正する。
a)
道具を使用せずに手で行う。
b)
木,プラスチック又は銅製のハンマーと平板を用いて行う。
矯正中は表面にきずがつかないように,また,試験片の性質と断面の両方ができるだけ変化しないように
7
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
十分に注意を払わなくてはならない。特に,試験片をねじることは絶対に行ってはならない。
5.4
試験方法
5.4.1
化学分析 何らかの係争がある場合には,化学分析に使用される方法は関連する国際規格(ISO/TR
9769
参照)によって確立された試験方法を使用する。もし,国際規格がない場合には,試験方法は引合い
及び注文時に協定しなくてはならない。
5.4.2
引張試験及び性能試験
5.4.2.1
引張試験は,ISO 6892 による。引張強さは,実線径で計算する。
5.4.2.2
均一性を調べるためのコイリング試験 約
500mm
長さの試験片を,
直径が線の公称径の
3
倍で,
少なくとも
1mm
以上あるしん金に,しっかりと巻き付ける。それから試験片を解いて延ばす。除荷され
たスプリングの長さが巻付け長さの最小
2
倍,最大
4
倍になるようにする。この処置後,試験片コイルは
割れや破断のない均一なピッチを示さなくてはならない。
この種の巻付試験は,一般的に認められていないが,これが内部応力を検知できる唯一の方法である。
疑わしい試験結果で線を不合格としてはならない。利害関係者はその原因を明らかにする努力が必要であ
る。
5.4.2.3
じん性及び表面状態に関する試験
a)
線径が 0.3∼4.0mm の線に対する巻付試験 線径に等しい直径のしんがねの周りに,線を
8
回完全に
巻き付けたときに,線は破断の兆候を示してはならない。さらに ISO 7802 の一般規定を適用する。
b)
線径が 4.0mm を超え 10.0mm までの線に対する曲げ試験 しんがねの周りで
180
度曲げたとき,線は
表面割れの兆候を示してはならない。線径が
4.0mm
を超え
6.0mm
までのものについては,しんがね
の寸法は,線径の
2
倍以下であることが望ましい。それより大きな線径のものについては,しんがね
の寸法は線径の
3
倍以下であることが望ましい。
試験を実施する際には,線は試験装置の中で縦方向に自由に動けなくてはならない。
5.4.2.4
円形キャスト及び,らせんキャストを試験するために,十分な線をコイル又はスプールから切り
取り,完全に自由な個別リング(線の渦巻き一つ)を作らなければならない。このリングに曲がりや損傷
がないことを確かめる(
図 1 参照)。
個別リングの内径である円形キャストを計測するには,個別リングを水平平面上に置きその平均直径を
計測しなければならない。
図 2 及び図 3 参照。これらには,閉及び開円形キャストの定義も示す。
らせんキャストの変位の測定(リング両端の変位)は,次のいずれかを行う。
a)
個別リングを
1
本の棒又は鉛筆などからぶら下げ,切断端が最下部にくるようにし,個別リング両端
の変位を計測する[
図 4a)参照]。
b)
個別リングを水平平面上に置き,個別リング端間の垂直距離を計測し,記録する[
図 4b)参照]。
この試験方法は,線径と円形キャストの組合せが,この方法の計測によって,せんキャストを減少又
は消失させる条件とならない場合にだけ用いられる。
試験報告書には,試験方法を明示する。
6.
苦情 苦情処理については,ISO 404 に規定されている条件が適用される。
8
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
図 1 線のサンプリング
図 2 閉円形キャスト
図 3 開円形キャスト
図 4 らせんキャスト
9
G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
附属書 A(参考) 追加情報
序文 この附属書(参考)は,
1994
年に第
2
版として発行された ISO 6931-1
, Stainless steels for springs
−
Part
1 : Wire
を翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した,日本工業規格 JIS G 7602
の附属書(参考)である。
この附属書(参考)は,規定の一部ではない。
A.1
鋼種分類に対する指示 表 1 の鋼種
No.1
の最高使用温度は,応力面から
120
∼
250
℃である。もし,
この規格で適用する鋼の一つに対し最高の耐食性を要求する場合には,オーステナイト系の鋼種
No.2
を使
用することができるが,これも最高使用温度は,応力面から
120
∼
250
℃である。析出硬化系のオーステナ
イト−マルテンサイト系の鋼種
No.3
の最高使用温度は,応力面から
250
∼
300
℃である。この鋼種は高い
疲労強度をもち,高温で強度を増加させるが,耐食性は低い。
三つの鋼種は,縦形試験片で測定されるヤング率,及び剛性率が少しずつ異なっている(
表 A.1 参照)。
温度が上昇するとヤング率と剛性率の値が減少するということを考慮しなくてはならない。
表 A.1 ヤング率及び剛性率の参考データ(平均値)
ばね完成品については,より低い値を確かめてもよい。したがって,ばね計算の基準は,線の測定を基に
してここに記載されている,これらの値と異なったものを指定することもできる。
ヤング率
1)
剛性率
2)
鋼種
JIS
相当
4)
鋼種
納入状態
C
状態
C
+T
3)
納入状態
C
状態
C
+T
3)
No.
記号
記号 kN/mm
2
kN/mm
2
1
X9 CrNi 18-8
SUS302
180
185
70
73
2
X5 CrNiMo 17-12-2
SUS316
175
180
68
71
3
X7 CrNiAl 17-7
SUS631
190
200
73
78
注1) ヤング率 (E) の参考データは,G
=
E/2 (1
+v) ここで v(ポアソン定数)を0.3とす
る式によって剛性率 (G) から計算されたものである。データは,1 800N/mm
2
の平
均引張強さのものに適用され,1 300N/mm
2
の平均引張強さの場合は,その値は,
6kN/mm
2
低くなる。中間値は,内挿で求めることもできる。
2)
剛性率の参考データは,平均引張強さ 1 800N/mm
2
のものに対して 2.8mm 以下の線
を,ねじり振子の方法で測定した場合にあてはまる。1 300N/mm
2
平均引張強さの
場合,その値は,2kN/mm
2
低くなる。中間値は,内挿で求める。エラストマットを
用いて確認される値は,ねじり振子を用いて確認される値と常に比較できるわけで
はない。
3)
表 A.2,図 A.1 及び表 2
4)
参考のために JIS を掲載した。
A.2
熱処理による引張強さの変化 熱処理は,ばね用硬引状態と比較して,引張強さを増加させる。この
種の処理も,ばね成形によって生成された加工応力を除去する。
析出硬化系鋼,鋼種
No.3
は,この規格の鋼種の中で熱処理による引張強さの増加が最も大きい。
ばね完成品の最終熱処理又は,人工時効後,得られる引張強さの増加に関する参考データを
図 A.1 に記
載する。
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G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
A.3
物理的性質 ヤング率及び剛性率に関する参考データは,表 A.1 に示す。
A.4
磁気的性質 化学成分及び処理条件によって,この規格に規定された鋼は,ある程度の透磁率をもつ。
A.5
加工及び熱処理に対する指針
A.5.1
加工 成形は冷間加工によって行われる。したがって,ばね用に冷間加工した線の変形能には限界
があるという事実を考慮しなければならない。成形の要求事項によって,これより低い引張強さを注文時
に協定してもよい[
表 2 の注 3)参照]。
A.5.2
熱処理
A.5.2.1
表 A.2 は,適切な強度と弾性を得るために,ばね完成品に実施される熱処理に関する参考データを
示す。特別な要求事項を満足させるためには,実用的な試験によって確認された熱処理条件に修正する必
要がある。
A.5.2.2
ばねは,熱処理前に完全に清浄にされなければならない。もし,熱処理によって生成される色が外
観上の理由や耐食性の観点から許されない場合は,熱処理を保護雰囲気中で実施するか,又はばねの性質
を損なわない適切な清浄作業を行うこともできる。
A.5.3
球状研磨剤によるピーニング ばねにピーニングを行う場合は,例えば,ステンレスグリットを用
いるなど,ピーニングされた表面に悪影響を及ぼさないように注意しなくてはならない。
表 A.2 線ばねの熱処理に関する参考データ(A.5.2 参照)
鋼種
JIS
相当鋼種
No.
記号
記号
温度
℃
時間
冷却方法
1 X9 CrNi18-8
SUS302
2 X5
CrNiMo17-12-2
SUS316
250
∼425
30
分∼4 時間
空冷
3 X7
CrNiAl17-7
SUS631 450
∼480
30
分∼1 時間
空冷
備考1. 表2及び図 A.1の引張強さデータの分類を参照。
2.
望ましい熱処理条件は,大きく異なっている。ばね製造業者は,目的に
応じた熱処理条件を選ばなくてはならない(A.5.2.1 も参照)
。
3.
熱処理データは,初期張力をかけない圧縮ばねと引張ばねに当てはま
る。
一般的に,初期張力をもつ引張ばねは,この表にあるような高い温度で処理されるべ
きではない。もし,初期張力の適度の損失が受け入れられるならば,熱処理温度は,
鋼種 No.1 と No.2 に対し,最高 200℃,鋼種 No.3 に対し,最高 300℃が推奨される。
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G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
図 A.1 熱処理(表 A.2)による冷間引抜線の引張強さの増加に関する参考データ
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G 7602 : 2000 (ISO 6931-1 : 1994)
ステンレス協会規格専門委員会 構成表
氏名
所属
(委員会)
中 野 恒 男
住友金属工業株式会社ステンレス・チタン技術部
(委員)
増 田 正 純
工業技術院標準部
三 宮 好 史
社団法人日本鉄鋼連盟標準部
伊 藤 修
川崎製鉄株式会社千葉製鉄所
吉 田 英 雄
日本冶金工業株式会社技術部
橋 本 政 哲
新日本製鉄株式会社ステンレス商品技術室
小 林 芳 夫
日新製鋼株式会社商品技術部
大 谷 俊 司
日本金属工業株式会社衣浦製造所品質保証部
成 田 基
愛知製鋼株式会社品質保証部
武 藤 伸 久
株式会社神戸製鋼所生産技術部
重 住 忠 義
山陽特殊製鋼株式会社技術企画部
白 谷 勝 典
大同特殊鋼株式会社技術企画部
山 崎 博 昭
日本金属株式会社技術本部技術部
柴 田 正 宣
日本鋼管株式会社鉄鋼技術総括部
吉 野 正 実
日本精線株式会社枚方工場品質保証部
喜代永 明
日新製鋼株式会社商品技術部
(事務局)
池 原 康 允
ステンレス協会