日本工業規格
JIS
E
6002
-1989
通勤用電車の性能通則
General Rules for Performance of Electric Railcars for Commuter Use
1.
適用範囲 この規格は,通勤用電車(以下,電車という。)の力行,制動などについての性能(以下,性能とい
う。)を算出する共通的な条件について規定するものとし,主として直流電車に適用する。
備考1. 電車とは,通勤・通学する乗客のラッシュ時の輸送に対応できて、しかも,日中の乗客に対する
サービスも考慮した電車をいい,路面電車及び特殊鉄道の車両を除く。
2.
この規格の中で{ }を付けて示してある単位及び数値は,従来単位によるものであって,参考
として併記したものである。
引用規格:
JIS E 4001
鉄道車両用語
JIS E 6101
鉄道車両用直流主電動機の試験方法
2.
用語の意味 この規格で用いる主な用語の意味は,次のとおりとする。
(1)
平均加速度 電車を静止状態から加速する場合,電車が動き始めたときから,ある指定した速度に達す
るまでの加速度の平均値。指定した速度を,その速度に達するのに要した時間で割って求める。単位
は,km/(h・s)とし,指定する速度は,30,40,60 及び 80km/h とする。
(2) 0
発進 200m 走行時間 電車を静止状態から加速する場合,電車が動き始めたときから 200m を走行す
るのに要した時間。単位は,秒(s)とする。
(3)
加速度変化率 加速度が変化する率。単位は,km/(h・s
2
)
とする。
(4)
平均減速度 電車をある指定した速度から減速する場合,ブレーキ弁を操作するなど,ブレーキ指令を
与えてから停止するまでの減速度の平均値。ブレーキ指令を与えたときの速度を,停止するまでに要し
た時間で割って求める。単位は,km/(h・s)とし,指定する速度は,最高運転速度,100 及び 75km/h とする。
(5)
減速度変化率 減速度が変化する率。単位は,km/(h・s
2
)
とする。
(6)
最高許容速度 主電動機の最高使用回転速度に相当する電車の速度。
(7)
最高運転速度 電車を実際に運転できる最高速度で,ブレーキ性能を考慮したもの。
(8)
最高均衡速度 電車を力行させたとき,引張力と列車抵抗とが釣り合う最高速度。
(9)
定格速度 主電動機の定格回転速度に相当する電車の速度。
(10)
最大引張力 1 ユニットの電車が安定して出すことができる最大動輪周引張力。
(11)
定格引張力 主電動機のトルクが定格トルクに相当するときの,電車 1 ユニットの動輪周引張力。
(12)
期待粘着係数 レールと車輪との間で,空転・滑走に対して,実用上安定した最大動輪周引張力又は最大
動輪周制動力が発揮できる粘着係数。単位は,%とする。
(13)
定格出力 主電動機の定格出力に相当する電車 1 ユニットの出力。単位は,kW とする。
(14)
慣性係数 電車の回転部分の角速度を変化させるのに要する力を,電車の空車の質量に換算するため
2
E 6002-1989
の換算係数。単位は,%とする。
(15)
こう配起動性能 電車を上りこう配直線路上で,静止状態から始動し,実用上の加速が得られる性能。最
大こう配の値で示し,単位は,‰(
1
)
とする。
注(
1
)
パーミルと読み,線路のこう配の大きさを表す千分率。
3.
性能を算出する条件
3.1
環境条件 環境条件は,次のとおりとする。
(1)
標高は,1200m を超えないものとする。
(2)
気温は,−10〜40℃の間とし,年間の平均は,25℃とする。
3.2
列車抵抗 列車抵抗は,次のとおりとする。
(1)
出発抵抗 単位質量当たりの出発抵抗は,ころ軸受の場合,静止状態で 39.2N/t{4kgf/t}とし,速度 3km/h
で単位質量当たりの走行抵抗と同じとし,静止状態から速度 3km/h の間を直線で結ぶ(
図参照)。
図 出発抵抗から走行抵抗への移行
(2)
走行抵抗 走行抵抗は,ころ軸受の場合,式(1)による。
R
=(1.65+0.024 7V)m
M
+(0.78+0.002 8V)m
T
+9.81[0.028+0.007 8(n−1)]V
2
(1)
ここに,
R:
走行抵抗(N)
V:
電車の速度(km/h)
m
M
:
編成中の電動車の全質量による荷重(kN)
m
T
:
編成中の制御車及び付随車の全質量による荷重(kN)
n:
編成両数
(3)
こう配抵抗 こう配抵抗は,こう配直線路で求めた値で示し,式(2)による。
R
S
=Sm
R
(2)
ここに,
R
S
:
こう配抵抗(N)
S:
こう配(‰)
m
R
:
編成中の電車の全質量による荷重(kN)
(4)
曲線抵抗 曲線抵抗は,軌間 1 067〜1 435mm で,ころ軸受の場合に求めた値で示し,式(3)による。
R
C
m
r
R
600
=
(3)
ここに,
R
C
: 曲線抵抗(N)
r: 曲線半径(m)
m
R
: 編成中の電車の全質量による荷重(kN)
3
E 6002-1989
(5)
慣性係数 慣性係数は,電動車の場合,空車の質量の 10%を示す数値とし,制御車及び付随車の場合,空車
の質量の 5%を示す数値とする。
3.3
性能の算出に用いる乗客質量 性能の算出に用いる乗客質量は,次のとおりとする。
(1)
定員質量 定員質量は,表記定員で求める。乗客 1 人当たりの質量は,55kg とする。
(2)
最大乗客質量 最大乗客質量は,最大乗客人員(
2
)
が乗車するものとした質量とする。
注(
2
)
座席定員と最大立席乗車人員(座席及び座席前縁に沿う幅100mm の床面を除いた客室床面のう
ち,有効幅300mm 以上及び有効高さ1 800mm 以上確保できる床面の面積を0.1m
2
で除した値。)と
の合計。
3.4
期待粘着係数 期待粘着係数は,式(4)による。
1
.
0
×
W
F
=
µ
(4)
ここに,
µ
:
期待粘着係数(%)
F: 電動車 1 ユニット当たりの安定した動輪周引張力又は動輪周制
動力の和 N{kgf}
W: 電動車 1 ユニット当たりの動輪の軸重の和 kN{tf}
3.5
加速度 加速度は,次による。
(1)
加速度を算出する共通的な条件 平均加速度並びに 0 発進 200m 走行時間及び加速度変化率を算出す
る共通的な条件は,
表 1 による。
表 1 加速度を算出する共通的な条件
項目
条件
列車編成
指定の MT 比率(
3
)
による編成状態
電車線電圧
標準電圧
列車抵抗
3.2
の規定こよる。
荷重
定員質量及び最大乗客質量
車輪径
最大直径と最小直径との平均値
線路条件
こう配 0‰の平たん線の直線区間とする。
注(
3
)
電車編成の場合,電動車と制御車及ぴ付随車との比率。ただし,
制御車及び付随車については,JIS E 4001(鉄道車両用語)参照。
(2)
平均加速度の最大値 平均加速度の最大値は,乗客の安全及び乗心地を考慮する。
(3)
加速度変化率 加速度変化率は,始動時,ノッチオフ時などの乗客の乗心地及び安全を考慮する。
3.6
減速度 減速度は,次による。
(1)
減速度を算出する共通的な条件は
表 2 により,常用最大平均減速度を算出する条件は表 3 により,非常ブ
レーキ平均減速度を算出する条件は
表 4 による。
表 2 減速度を算出する共通的な条件
項目
条件
列車編成
指定の MT 比率(
3
)
による編成状態
電車線電圧
標準電圧
列車抵抗
3.2
の規定による。
表 3 常用最大平均減速度を算出する条件
項目
条件
乗客質量
定員質量及び最大乗客質量
車輪径
最大直径と最小直径との平均値
線路条件
こう配 0‰の平たん線の直線区間とする。
4
E 6002-1989
表 4 非常ブレーキ平均減速度を算出する条件
項目
条件
乗客質量
最大乗客質量
車輪径
最大直径
線路条件
こう配−3‰の直線区間とする。
(2)
常用最大平均減速度 常用最大平均減速度は,乗客の安全及び乗心地を考慮する。
(3)
減速度変化率 減速度変化率は,ブレーキの立ち上がり時,電気ブレーキ・空気ブレーキの切替え時,停
止時などの乗客の乗心地及び安全を考慮する。
3.7
最高速度 最高速度は,次による。
(1)
最高許容速度 最高許容速度は,主電動機の最高使用回転速度に相当する最高速度とし,式(5)による。
Gr
N
D
V
a
max
min
max
5
188
.
0
=
(5)
ここに,
V
amax
:
最高許容速度(km/h)
D
min
:
車輪の最小直径(m)
N
max
:
主電動機の最高使用回転速度(
4
)
(rpm)
Gr:
歯数比
注(
4
) JIS E 6101(
鉄道車両用直流主電動機の試験方法)の規定による
(2)
最高運転速度 最高運転速度を算出する条件は,表 5 による
表 5 最高運転速度を算出する条件
項目
条件
列車編成
指定の MT 比率(
3
)
による編成状態
電車線電圧
標準電圧
列車抵抗
3.2
の規定による。
乗客質量
最大乗客質量
車輪径
最大直径
非常制動距離 600m 以下
線路条件
こう配−3‰の直線区間とする。線路の構造は,特
に規定しない。
(3)
最高均衡速度 最高均衡速度を算出する条件は,表 6 による。
表 6 最高均衡速度を算出する条件
項目
条件
列車編成
指定の MT 比率(
3
)
による編成状態
電車線電圧
標準電圧
列車抵抗
3.2
の規定による。
乗客質量
定員質量
車輪径
最大直径
線路条件
こう配 0‰の平たん線の直線区間とする。
3.8
定格速度 定格速度は,主電動機の 1 時間定格回転速度に相当する 1 時間定格速度とし,式(6)による。
Gr
Nr
D
V
C
5
188
.
0
=
γ
(6)
ここに,
Wr:
1
時間定格速度(km/h)
Nr:
主電動機の 1 時間定格回転速度(
γpm)
D
C
:
車輪の最大直径と最小直径との平均値(m)
Gr:
歯数比
5
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3.9
引張力 引張力は,次による。
(1)
最大引張力 最大引張力を算出する条件は,表 7 による。
表 7 最大引張力を算出する条件
項目
条件
列車編成
指定の MT 比率(
3
)
による編成状態
電車線電圧
標準電圧
列車抵抗
3.2
の規定による。
乗客質量
最大乗客質量
車輪径
最小直径
線路条件
こう配 0‰の平たん線の直線区間とする。
期待粘着係数
3.4
の規定による。
(2)
最大動輪周引張力 最大動輪周引張力は,式(7)による。
W
F
µ
10
max
≦
(7)
ここに,
F
max
:
電動車 1 ユニット当たりの最大動輪周引張力の和(N){kgf}
µ
:
,
期待粘着係数(%)
W:
電動車 1 ユニット当たりの動輪の輪重の和(kN){tf}
(3)
定格引張力 定格引張力は,1 時間定格トルクに相当するトルクを出すときの値で示し,式(8)による。
N
D
Gr
T
F
C
M
2
=
γ
(8)
ここに,
Fr:
定格引張力(kN){tf}
T
M
:
主電動機軸トルク(kN・m){tf・m}
Gr:
歯数比
D
C
:
車輪の最大直径と最小直径との平均値(m)
N:
電動車 1 ユニットの主電動機の台数
3.10
定格出力 定格出力は,主電動機の 1 時間定格出力に相当する値で示し,式(9)による。
Pr
=P
M
N (9)
ここに,
Pr:
定格出力(kW)
P
M
:
主電動機の 1 時間定格出力(
5
)
(kW)
N:
電動車 1 ユニットの主電動機の台数
注(
5
) JIS E 6101
の2.(4)1
時間定格に規定する出力とする。
3.11
こう配起動性能 こう配起動性能を算出する条件は,表 8 による。
表 8 こう配起動性能を算出する条件
項目
条件
列車編成
指定の MT 比率(
3
)
による編成の場合,電動車 1 ユニ
ットの主電動機をすべて開放した状態とする。
電車線電圧
標準電圧
列車抵抗
3.2
の規定による。
乗客質量
最大乗客質量
車輪径
最大直径
線路条件
一定したこう配の直線区間とする。
期待粘着係数
3.4
の規定による。
6
E 6002-1989
社団法人 日本鉄道車輌工業会 国内規格対策小委員会 構成表 (順不同)
氏名
所属
(
委員長)
湯 川 靖 司
近畿車輌株式会社車輌事業本部
飛 田 勉
工業技術院標準部
川 口 芳 男
運輸省地域交通局
平 野 禎 雄
東日本旅客鉄道株式会社運輸車両部
石 川 栄
東海旅客鉄道株式会社新幹線事業本部車両部
真 野 辰 哉
西日本旅客鉄道株式会社車両部
成 田 有 三
社団法人日本民営鉄道協会
浅 海 總 一
束京急行電鉄株式会社車両部
操 田 浩
阪急電鉄株式会社車両部
小 林 善一郎
帝都高速度交通営団車両部
鈴 木 常 之
株式会社日立製作所機電事業本部
加 川 正 裕
川崎重工業株式会社車両事業部東京設計部
大 熊 碩
三菱電機株式会社 JR 部
田 辺 勝
株式会杜新潟鉄工所大山工場
近 藤 昭 次
日本エヤーブレーキ株式会社車両事業部
関 谷 守
日本車輌製造株式会社鉄道車両本部技術部
漆 原 昭
住友金属工業株式会社
大 手 靖 之
株式会社東芝府中工場
野 口 善 弘
東急車輌製造株式会社本社車両工場
長 田 緊 一
東洋電機製造株式会社鉄道本部技術部
岡 田 安 弘
近畿車輌株式会社車両事業本部設計部
(
事務局)
浅 田 時 則
杜団法人日本鉄道車輌工業会
鉄道部会 車両基本専門委員会 構成表
氏名
所属
(
委員会長)
三 品 勝 暉
財団法人鉄道総合技術研究所
百 瀬 信
運輸省大臣官房国有鉄道改革推進部
小 杉 昭 夫
運輸省地域交通局陸上技術安全部
飛 田 勉
工業技術院標準部
大 川 浩 平
日本車輌製造株式会社鉄道車両本部
大 熊 碩
三菱電機株式会社交通技術部
岡 田 安 弘
近畿車輌株式会社車両設計部
鈴 木 常 之
株式会社日立製作所機電事業本部
鈴 木 光 雄
住友金属工業株式会社製鋼所
寺 山 厳
三菱重工業株式会社機械事業本部
松 隈 道 雄
株式会社東芝交通事業部
丸 嶋 一 休
川崎重工業株式会社車両営業本部
小笠原 静 夫
社団法人日本鉄道車輌工業会
鶴 賀 仁 史
東海旅客鉄道株式会社新幹線運行本部
沼 野 稔 夫
東日本旅客鉄道株式会社運輸車両部
成 田 有 三
社団法人日本民営鉄道協会
橋 本 光 明
東京急行電鉄株式会社交通事業部
松 井 康 平
名古屋鉄道株式会社技術部
森 下 逸 夫
西日本旅客鉄道株式会社車両部
浅 田 時 則
社団法人日本鉄道車輌工業会
(
事務局)
江 口 信 彦
工業技術院標準部機械規格課
牛 島 宏 育
工業技術院標準部機械規格課