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D 1070 : 1998

(1) 

まえがき

この規格は,工業標準化法に基づいて,日本工業標準調査会の審議を経て,通商産業大臣が改正した日

本工業規格である。これによって JIS D 1070-1986 は改正され,この規格に置き換えられる。

今回の改正では,日本工業規格と国際規格との整合化を図るため,ISO 4138, Passenger cars−Steady-state

circular driving behaviour

−Open-loop test procedure を基礎として用いた。


日本工業規格

JIS

 D

1070

: 1998

乗用車−定常円旋回試験方法

Passenger cars

−Steady state circular test procedure

序文  この規格は,1996 年に第 2 版として発行された ISO 4138, Passenger cars−Steady-state circular driving

behaviour

−Open-loop test procedure を翻訳し,対応する部分については,技術的内容を変更することなく作

成した日本工業規格であるが,対応国際規格には規定されていない規定項目(定義)を日本工業規格とし

て追加している。

なお,この規格で点線の下線を施した部分は,原国際規格にはない事項である。

1.

適用範囲  この規格は,乗用車の定常円旋回性能を,半径一定の円又は円弧上を一定車速で走行し,

かつ,段階的に車速を上げることによって評価するためのオープンループ試験方法について規定する。

なお,この規格は,JIS D 0101 で定義される乗用車に適用する。

備考  この規格の対応国際規格を,次に示す。

ISO 4138 : 1996, Passenger cars

−Steady-state circular driving behaviour−Open-loop test procedure

2.

引用規格  次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成す

る。これらの引用規格のうちで,発行年を付記してあるものは,記載の年の版だけがこの規格の規定の一

部を構成する。発行年を付記していない引用規格は,その最新版を適用する。

JIS D 0101

  自動車の種類に関する用語

備考 ISO 

3833 

: 1977

  Road vehicles−Types−Terms and definitions からの引用事項は,この

規格の該当事項と同等である。

JIS D 0102

  自動車用語−自動車の寸法,質量,荷重及び性能

備考 ISO 

1176 

: 1990

  Road vehicles−Masses−Vocabulary and codes からの引用事項は,この

規格の該当事項と同等である。

ISO 8855 : 1991

  Road vehicles−Vehicle dynamics and road-holding ability−Vocabulary

3.

試験の基本的な考え方  この規格によって規定される試験方法は,横加速度の関数としてハンドル角

などを測定することによって,左右旋回時のアンダステア・オーバステアなどの自動車の挙動を調べるこ

とを目的とする。

運動は,自動車固定座標系  (intermediate axis system) (

1

)

で表され,その原点は,自動車の縦中心面(

2

)

内の

軸距中央で,高さは空車質量(

2

)

状態の重心高さ(

2

)

に固定され,積載条件によって変化しないこととする。

(

1

)  ISO 8855

を参照。

(

2

)  JIS D 0102

を参照。


2

D 1070 : 1998

4.

定義  この規格で用いる主な用語の定義は,次による。

a)

ハンドル角  (steering-wheel angle)    ステアリングホイールの直進位置からの回転角。

b)

求心加速度  (centripetal acceleration)    座標原点の加速度ベクトルの,水平速度に直角で水平方向の成

分。

c)

横加速度  (lateralacceleration)    座標原点の加速度ベクトルの 成分(

3

)

(

3

)

座標系  (XYZ)  は,自動車固定座標系で,路面固定座標系  (earth-fixed axis system) (

1

)

に対し並

進運動と Z 軸回りの回転運動だけを行う。

d)

横すべり角  (sideslip angle)    軸から水平速度への 軸回りの角度。

e)

ヨー角速度  (yaw velocity)    軸の Z

E

(

4

)

回りの回転角速度。

(

4

)

座標系  (X

E

Y

E

Z

E

)

は,路面固定座標系である。

f)

前進速度  (longitudinal velocity)    座標原点の速度ベクトルの 成分。

g)

車体ロール角  (vehicle roll angle)    Y

v

(

5

)

と X

E

-Y

E

平面とのなす角。

(

5

)

座標系  (X

V

Y

V

Z

V

)

は,ばね上固定座標系で,ばね上と共に並進運動と回転運動を行う。

h)

操だトルク  (steering-wheel torque)    ステアリングホイールの回転軸回りに加えられるトルク。

i)

実だ角 (steer angle)    自動車の X

V

(

5

)

の路面投影と,車輪中心面の路面交線とのなす角度。

j)

ハンドル角(の横加速度影響)係数  (steering-wheel angle gradient)    定常横加速度の変化に対するハン

ドル角の変化の割合。

k)

横すべり角(の横加速度影響)係数 (sideslip angle gradient)    定常横加速度の変化に対する横すべり

角の変化の割合。

l)

車体ロール角(の横加速度影響)係数  (vehicle roll angle gradient)    定常横加速度の変化に対する車体

ロール角の変化の割合。

m)

操だトルク(の横加速度影響)係数  (steering-wheel torque gradient)    定常横加速度の変化に対する操

だトルクの変化の割合。

n)

オーバオールステアリング比  (overall steering ratio)    平均実だ角の単位変化量を得るためのハンドル

角の変化量。ただし,かじ取り装置への負荷はなく,自動車は静止状態の値とする。

o)

走行時基準だ角  (dynamic reference steer angle)    軸距を重心点の旋回半径で除した値をラジアン値と

する角度。

p)

走行時基準だ角(の横加速度影響)係数  (dynamic referece steer angle gradient)    定常横加速度の変化

に対する走行時基準だ角の変化の割合。

旋回半径が一定の場合,その値は零となる。

q)

アンダステア係数  (understeer gradient)    ハンドル角(の横加速度影響)係数をオーバオールステアリ

ングで除した値から走行時基準だ角(の横加速度影響)係数を減じた値。

r)

ハンドル角の横すべり角影響係数  (steering-wheel/sideslip angle gradient)    定常横すべり角の変化に対

するハンドル角の変化の割合。

s)

スタビリティファクタ  (stability factor)    アンダーステア係数を軸距で除した値。

t)

方向係数  (directional coefficient)    スタビリティファクタを横すべり角(の横加速度影響)係数で除し

た値。

5.

測定項目  測定項目は,次による。ただし,c)g)は任意測定項目とする。

a)

ハンドル角  (

δ

H

)


3

D 1070 : 1998

b)

横加速度  (a

Y

(

6

)

(

6

)

厳密な性能比較に対しては求心加速度の方が適切であるが,横加速度は求心加速度に横すべり

角の余弦を乗じた値であって,その差は通常無視できる。

c)

横すべり角  (

β

(

7

)

(

7

)

他の測定量,例えば,前進速度と横速度から算出してもよい。

d)

ヨー角速度  (

ψ

)

e)

前進速度  (

ν

N

)

f)

操だトルク  (M

H

)

g)

車体ロール角  (

φ

V

)

6.

測定機器

6.1

測定器の仕様  5.の測定項目に対応する測定器の代表的な測定範囲と許容差の推奨値を表 に示す。

トランスデューサ及び記録器を組み合わせた測定器のバンド幅は 8Hz 以上とする。

表 1  測定器の代表的な測定範囲と許容差の推奨値

測定量

測定範囲

許容差

ハンドル角

±360° 180°未満に対し±2°

180

°以上に対し±4°

横加速度

±15m/s

2

±0.15m/s

2

横すべり角

±15°

±0.5°

ヨー角速度

±50°/s

±0.5°/s

前進速度

0

∼50m/s

±0.5m/s

操だトルク

±30N・m

±0.3N・m

車体ロール角

±15°

±0.15°

備考1.  許容差は,トランスデューサから記録器までを含

む。

2.

ここに示した許容差を超える場合は,実際の許容差

付表 に記録する。

6.2

トランスデューサの設置  トランスデューサは,製作者の指定,及び 4.の内容に従って設置する。

6.3

データ処理システムの仕様  データ処理は,次のいずれかの方法で行い,その規定内容に従うこと

が望ましい。この試験で必要な周波数範囲は 0Hz から 5Hz (f

max

)

までとする。

6.3.1

アナログデータ処理  測定データを処理するローパスフィルタは,4 次以上の性能をもち,カット

オフ周波数(

8

)

を 8Hz 以上とする。また,5Hz 以下のバンド幅では振幅誤差が±0.5%以下の性能をもち,各

チャネル間で同等の位相特性をもつものとする。

(

8

)

カットオフ周波数は,−3dB における周波数をいう。

6.3.2

ディジタルデータ処理

a)

アナログデータの前処理  エリアシングを防ぐため,ディジタル化の前にローパスフィルタによる前

処理を行う。ローパスフィルタは,4 次以上の性能をもち,カットオフ周波数は,必要な周波数  (f

max

)

の 5 倍以上とする。また,5Hz 以下のバンド幅では振幅誤差±0.5%以下の性能をもち,各チャネル間

で同等の位相特性をもつものとする。

データ取得の過程ではフィルタの追加は行わず,ディジタル処理の過程での振幅誤差の増加分は

0.2%

未満とする。

b)

ディジタル化  サンプリングレートは,使用するフィルタの次数に応じたものとし,カットオフ周波


4

D 1070 : 1998

数の 2 倍未満に設定してはならない。

備考  通常,バタワース型のアンチエリアシングフィルタを使用し,サンプリングレートは,4 次の

フィルタの場合でカットオフ周波数の 5 倍以上,8 次のフィルタの場合でカットオフ周波数の

3.6

倍以上が望ましい。

c)

ディジタルフィルタ処理  サンプリングされたデータのフィルタ処理には,位相遅れのない,次に示

す仕様のディジタルフィルタを使用する。

1)

パスバンド幅は 0Hz から 5Hz であること。

2)

ストップバンドは,10Hz∼15Hz の間で開始すること。

3)

パスバンド幅内のフィルタゲインは,1±0.005 (100%±0.5%)  であること。

4)

ストップバンドのフィルタゲインは,0.01 以下(1%以下)であること。

7.

試験条件  試験の間は,7.1 及び 7.2 で規定されている条件を維持しなければならない。規定条件から

外れる場合は,その内容を

付表 及び付表 に記載する。

備考  環境温度の変化によってタイヤ特性や路面摩擦が変化することがあり,環境温度変化の大きく

ない範囲で試験を行わなければならない。

7.1

試験路  表面は水平・清浄で乾燥し,一様に固く,こう配はいずれの方向でも 2.5%を超えてはなら

ない。標準試験状態としては,アスファルト舗装,コンクリート舗装,又は高摩擦性の試験用路面で平た

んで乾燥した状態が望ましい。

7.2

自然風  自然風の風速は,5m/s を超えてはならない。試験時の風速を付表 に記録する。

7.3

試験自動車の状態

7.3.1

タイヤ  タイヤの標準状態は,仕様書に指定され,90%以上のトレッド溝深さがある新品タイヤで,

かつ,製造後 1 年以内のものとする。過酷な制動や操だなしに 150km 以上の慣らし運転を行った後使用す

る。慣らし運転後,タイヤの装着位置を維持することが望ましい。

試験終了後,トレッド溝深さは,タイヤ全周にわたり,1.6mm 以上なければならない。

タイヤ空気圧(冷間時)は,仕様書に指定されている値に調整し,その許容差は,仕様書の指定空気圧

が 250kPa 以下のとき±5kPa,250kPa を超えるときは指定空気圧の±2%とする。

7.3.2

作動部品の状態  標準状態は,試験結果に影響する作動部品が,製作者の指定する値に調整された

状態とする。製作者の指定値から外れる場合は,

付表 に付記する。

備考  結果に影響する作動部品には,懸架装置,ホイールアライメント及び駆動系部品などが該当す

る。

7.3.3

荷重条件  試験自動車の荷重条件は,空車質量(

2

)

に運転者を加えた状態と自動車総質量(

2

)

との間に

設定し,最大軸荷重(

2

)

を超えてはならない。重心位置及び慣性モーメントは通常の使用状態とする。また,

測定器及び運転者の質量の合計は 150kg 以下とする。

荷重の測定結果を,

付表 に記載する。

8.

試験方法

8.1

試験準備  5.の中から測定項目を選び,表 の特性をもつ測定器を試験自動車に取り付ける。タイヤ

の空気圧はテスト環境下で調整する。タイヤと測定器の暖機のため,車速 100km/h で 10km 以上走行する

か,テストコースの走行半径上を横加速度 3m/s

2

程度で 500m 走行する。暖機後,タイヤ空気圧を測定し,

付表 に記載する。


5

D 1070 : 1998

8.2

試験自動車の走行方法  走行方法は,次による。

a)

試験自動車を選択した半径のコースに沿って一定速度で走行させる。コースは,半径 100m の円又は

円弧を標準とするが,これより大きいか,又は小さい半径を用いることができる。小さい場合の推奨

値は 40m で,最小値は 30m とする。走行軌跡のコースからのずれは,±0.5m 以内とする。一定速度

の選択は,ごく低速度から,コースをはずれることなく安定して走行できる最高速度までとし,段階

的に高める。データの測定中は,ハンドル角及びスロットル位置をできるだけ一定に保つ。

b)

相隣る一定速度の間の横加速度の差は,0.5m/s

2

を超えない範囲とする。

c)

変速機は,試験条件に合致する最上速歯車を原則として用いる。

d)

旋回は,左右両方向を行う。

8.3

測定データの記録  測定データは,各定常横加速度レベルにおいて,3 秒間程度記録する。

9.

測定データの解析

9.1

データの採用  定常円旋回区間のデータを時間平均して,その走行条件におけるデータとする。

9.2

ハンドル角  ハンドル角が平均値から 10°以上変動している場合は,その旨を付表 に記載する。

9.3

横加速度  定常横加速度は次の a)の方法で,求心加速度は次の b)c)d)の方法で求めてもよい。

a)

横向き加速度(加速度計の指示値)のロール角補正値。

b)

ヨー角速度及び前進速度の横すべり角補正値の積。

c)

前進速度の横すべり角補正値の二乗を走行軌跡の半径で除した値。

d)

ヨー角速度の二乗及び走行軌跡の半径の積。

10.

結果の表示及びデータの評価

10.1

結果の表示  試験に関するデータを付表 に記載する。

測定データは,定常横加速度を横軸に取り,

付表 に記載する。平均求心加速度を求める方法によると

きは,

付表 の横軸を定常求心加速度と書き換える。縦軸は,ハンドル角,横すべり角,車体ロール角,

操だトルクとする。

近似曲線を引くときは,荷重条件と旋回方向ごとに,フリーハンド又は数学的な方法によって求めると

よい。

10.2

データの評価  代表的なデータの評価の例を次に示す。他の評価量を用いてもよい。

10.2.1

変化率

a)

ハンドル角係数  近似曲線から,各測定ポイントのこう配を求めるか又は数学的近似式の微分値を求

め,ハンドル角係数とする。求めたハンドル角係数は,定常横加速度を横軸に取りプロットする。

b)

その他の係数  横すべり角,車体ロール角,操だトルクについても同様に,横すべり角係数,操だト

ルク係数,車体ロール角係数を求める。また,ハンドル角の横すべり角影響係数についても求めると

よい。

10.3

基準化による解析  大きさ及びオーバオールステアリング比が大幅に異なる自動車の性能比較を容

易にするために,10.3.1 及び 10.3.2 に示すパラメータについて基準化する。

10.3.1

オーバオールステアリング比に関する基準化

a)

アンダステア係数  ハンドル角係数をオーバオールステアリング比で除して求める。

b)

アンダステア/オーバステア/横すべり角影響係数 (understeer/oversteer/sideslip gradient)   ハンドル

角の横すべり角影響係数をオーバオールステアリング比で除して求める。


6

D 1070 : 1998

備考  一定車速で一定半径の円弧上を走行する試験では,走行時基準だ角係数は零となり,上記 a)

b)

のように表すことができる。軸距の近接した自動車間の比較に用いるとよい。

10.3.2

オーバオールステアリング比及び軸距に関する基準化

a)

スタビリティファクタ  アンダステア係数を軸距で除して求める。

b)

方向係数  スタビリティファクタを横すべり角係数で除して求める。

備考  大きさが大きく異なる自動車間の比較に用いるとよい。

付表 1  乗用車の定常円旋回試験記録

特記事項:


7

D 1070 : 1998

付表 2  乗用車の定常円旋回試験データ


8

D 1070 : 1998

付表 2  乗用車の定常円旋回試験データ(続き)

関連規格  JIS D 0050  乗用車−質量分布

備考  ISO 2416 : 1992, Passenger cars−Mass distribution からの関連事項は,この規格の該当事項と同等

である。


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D 1070 : 1998

JIS D 1070

(乗用車−定常円旋回試験方法)改正原案作成委員会  構成表

氏名

所属

(分科会長)

玉  木  興  彦

マツダ株式会社

(幹事)

笠  原      哲

マツダ株式会社

(委員)

赤  松  大  寿

社団法人日本自動車タイヤ協会

岩  本  義  明

日野自動車工業株式会社

折  田  俊  哉

ダイハツ工業株式会社

川  沢  祥  三

三菱自動車工業株式会社

佐  藤  恭  司

ヤマハ発動機株式会社

佐  藤  康  充

三菱自動車工業株式会社

佐  藤  三  男

運輸省交通安全公害研究所

佐  藤  祐  二

株式会社本田技術研究所

志  田  吉  隆

日産ディーゼル工業株式会社

清  水  健  一

通商産業省工業技術院機械技術研究所

杉  本  篤  義

スズキ株式会社

相  馬      仁

財団法人日本自動車研究所

東  郷  和  英

読売江東理工専門学校

根  岸  喜代春

通商産業省工業技術院標準部

野  口  博  史

日産自動車株式会社

平  井  隆  志

運輸省自動車交通局

広  松  敬  士

いすゞ自動車株式会社

藤  沢  勝  二

いすゞ自動車株式会社

藤  貫  哲  郎

富士重工業株式会社

堀之内  克  年

トヨタ自動車株式会社

前  田  英  一

株式会社ブリヂストン

柳  澤  治  茂

運輸省交通安全公害研究所

(事務局)

石  丸  尋  士

社団法人自動車技術会