B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
(1)
まえがき
この規格は,工業標準化法第 12 条第 1 項の規定に基づき,財団法人日本規格協会 (JSA) から工業標準
原案を具して日本工業規格を制定すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経て,経済産業大
臣が制定した日本工業規格である。
JIS B 0632
には,次に示す附属書がある。
附属書 A(参考) 位相補償フィルタを採用した事由
附属書 B(参考) GPS マトリックス
附属書 C(参考) 参考文献
日本工業規格
JIS
B
0632
: 2001
(ISO 11562 :
1996)
製品の幾何特性仕様 (GPS) −
表面性状:輪郭曲線方式−
位相補償フィルタの特性
Geometrical Product Specification (GPS)
−Surface texture : Profile method
−Metrological characteristics of phase correct filters
序文 この規格は,1996 年に発行された ISO 11562, Geometrical Product Specifications (GPS) −Surface
texture : Profile method
−Metrological characteristics of phase correct filters を翻訳し,技術的内容及び規格票の
様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
この規格は,製品の幾何特性仕様 (GPS) の一つで,GPS 基本規格に属し(TR B 0007 参照)
,粗さ曲線及
びうねり曲線の規格チェーンのリンク番号 2 及び 3 に,
断面曲線の規格チェーンのリンク番号 2 に関係し,
粗さ及び他の形状特性に適用することを意図している。
この規格と他の GPS 規格との関連についての詳細は,
附属書 B を参照する。
ディジタル測定機では,輪郭曲線のためのフィルタは,位相補償フィルタである。位相補償フィルタの重
み関数は,カットオフ値で 50%の振幅伝達率となる正規(ガウス)分布である。このフィルタは,比較的
鋭い遮断特性をもつ。
輪郭曲線の短波長成分と長波長成分とが分離され,さらに,
輪郭曲線が変形することなく再現できるので,
カットオフ値において振幅伝達率が 50%であることは重要である。
なお,この規格の中で点線の下線を施してある“参考”は,原国際規格にはない事項である。
備考 TR B 0007 は,ISO/TR 14638 : 1995 [Geometrical Product Specifications (GPS) −Master plan] と一
致している。
1.
適用範囲 この規格は,輪郭曲線測定のための位相補償フィルタの特性について規定する。特に,輪
郭曲線に含まれる長波長成分及び短波長成分を分離する方法について規定する。
備考 この規格の対応国際規格を,次に示す。
なお,対応の程度を表す記号は,ISO/IEC Guide 21 に基づき,IDT(一致している)
,MOD
(修正している)
,NEQ(同等でない)とする。
ISO 11562 : 1996 Geometrical Product Specifications (GPS)
−Surface texture : Profile method−
Metrological characteristics of phase correct filters (IDT)
2.
定義 この規格で用いる主な用語の定義は,次による。
2.1
輪郭曲線フィルタ (profile filter) 輪郭曲線を長波長成分と短波長成分とに分離するフィルタ。
2
B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
2.1.1
位相補償フィルタ (phase correct profile filter) 位相遅れ(輪郭曲線が波長に依存してひずむ原
因)のない輪郭曲線フィルタ。
2.2
位相補償フィルタによる平均線 [phase correct filter mean line (mean line)] ディジタルデータの重
み付き移動平均によって決定される長波長成分の曲線。以下,これを平均線という。
2.3
フィルタの振幅伝達特性 (transmission characteristic of a filter) 正弦波信号の減衰した振幅を波
長の関数として表した特性。
2.4
重み関数 (weighting function) 平均線を求めるために,関連する周囲の各データに付ける重みを表
す関数。
備考 フィルタの振幅伝達率は,重み関数のフーリエ変換によって与えられる。
2.5
位相補償フィルタのカットオフ値 (cutt-off wavelength of the phase correct filter) 輪郭曲線フィル
タによって,振幅の 50%が伝達される正弦波信号の波長。
備考 輪郭曲線フィルタは,カットオフ値によってすべて決定される。
2.6
輪郭曲線の通過帯域 (transmission band for profile) 2 種類の異なったカットオフ値の位相補償フ
ィルタ(高域フィルタ及び低域フィルタ)を輪郭曲線に適用したときに,振幅が 50%以上伝達される正弦
波信号の波長帯域。
備考 小さいカットオフ値の低域(ローパス)フィルタは,短波長成分を遮断し,大きいカットオフ
値の高域(ハイパス)フィルタは,長波長成分を遮断する。
2.7
カットオフ比 (cutt-off ratio) 与えられた通過帯域の低域(ローパス)フィルタのカットオフ値に
対する高域(ハイパス)フィルタのカットオフ値の比。
3.
位相補償フィルタの特性
3.1
位相補償フィルタの重み関数 位相補償フィルタの重み関数は,正規(ガウス)分布の式に一致す
る(
図 1 参照)。
λco(ここに,co=カットオフの意味)のカットオフ値をもつ重み関数は,次による。
2
)
1
)
(
co
a
x
e
co
a
x
s
λ
λ
π(
−
=
(1)
ここに,
x
:
重み関数の中央からの位置
λco: 輪郭曲線フィルタのカットオフ値
7
469
.
0
2 =
=
π
n
l
α
(2)
参考 重み関数が正規(ガウス)分布の位相補償フィルタを、ガウシアンフィルタ (Gaussian filter) と
もいう。
3.2
振幅伝達特性
3.2.1
長波長成分(平均線)の振幅伝達特性[低域(ローパス)フィルタの振幅伝達特性] フィルタの
振幅伝達特性は,正弦波信号の波長と振幅伝達率の関係によって表され,振幅伝達率は重み関数のフーリ
エ変換によって与えられる(
図 2 参照)。平均線のためのフィルタ(低域フィルタ)の振幅伝達率は,次の
式による。
2
)
(
0
1
λ
λco
a
x
e
a
a
−
=
(3)
ここに,
a
0
:
フィルタを適用する前の正弦波(低域フィルタヘの入力)
3
B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
信号の振幅
a
1
:
平均線となる正弦波(低域フィルタの出力)信号の振幅
λco: 輪郭曲線フィルタのカットオフ値
λ: 正弦波信号の波長
図 1 輪郭曲線フィルタの重み関数
図 2 低域フィルタの振幅伝達特性
4
B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
3.2.2
短波長成分の振幅伝達特性[高域(バイパス)フィルタの振幅伝達特性] 短波長成分のためのフ
ィルタの振幅伝達特性は,長波長成分のためのフィルタの振幅伝達特性と補完の関係[式(4)の関係]にあ
る(
図 3 参照)。
短波長成分は,輪郭曲線と長波長成分との差になる。この式は,カットオフ値
λco の関数として,次に
よる。
0
1
0
2
1
a
a
a
a
−
=
2
)
(
1
λ
λco
a
e
π
−
−
=
(4)
ここに,
a
2
:
フィルタを適用した後の正弦波信号の振幅
図 3 高域フィルタの振幅伝達特性
4.
位相補償フィルタの許容誤差 位相補償フィルタには,誤差の許容値は与えられない。
許容値の代わりに,位相補償フィルタの理想特性に対する実際に用いる位相補償フィルタの振幅伝達率
の誤差を,
0.01
λco
から
100
λco
までの波長範囲で,パーセント値によって図示する。誤差曲線の例を
図 4
に示す。
5
B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
図 4 使用したフィルタの誤差曲線の例
6
B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
附属書 A(参考) 位相補償フィルタを採用した事由
この規格を発行するに当たり,次に掲げる事項が考慮された。
a)
空間特性及び周波数特性とも重要である。
過去の議論では,
振幅伝達率の変動する誤差曲線の影響は,
無視されていた。この影響は,二つ以上の加工プロセスのこん(痕)跡が残っている表面(例えば,
プラトー面)が使用されるようになってますます重要になり,新しい測定機ではこの影響に対応しな
ければならなくなってきた。
b)
フィルタによって得られる短波長成分が元の輪郭曲線の短波長成分と同じになることから,カットオ
フ値近傍でも,フィルタを適用した輪郭曲線は,位相遅れによってひずむことがない。
c)
負荷長さ比及びカットオフ値近傍の山高さのようなパラメータは,
より真実に近い測定が可能になる。
d)
短波長成分と長波長成分の振幅伝達特性は,補完の関係にある。したがって,両特性は,
−
位相補償特性
−
カットオフ値で
50%
の伝達率
を備えていなければならない。
e)
ディジタル測定機では,実用上,ガウス分布の重み関数を近似した位相補償フィルタが実行されると
考えられる。
f)
振幅伝達率の誤差の許容値が与えられた場合には,校正の観点及び実用上の観点から,誤差の許容値
に意味がなければならない。しかし,論理的に許容値を与えることは不可能である。そのために,測
定機の製造業者は,この規格の 4.のように,実現されたフィルタの誤差曲線を提供しなければならな
い。
g)
従来と同等の結果を得るために,
新しいフィルタと,
国家規格及び国際規格で規定された現存する
2RC
フィルタとは,併存しなければならない。
7
B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
附属書 B(参考) GPS マトリックス
GPS
マトリックスの詳細は,TR B 0007 製品の幾何特性仕様
(GPS)
−マスタープランを参照。
B.1
規格及びその利用についての情報 この規格は,輪郭曲線のための位相補償フィルタの特性について
規定する。特に,輪郭曲線の長波長成分と短波長成分とを分離する方法について規定している。
B.2
GPS
マトリックスにおける位置付け この規格は,附属書 B 図 1 に示す粗さ曲線及びうねり曲線の規
格チェーンのリンク番号
2
及び
3
並びに断面曲線の規格チェーンのリンク番号
2
に関係し,基本規格の真
円度など形状特性にも適用することを意図した基本規格である。
B.3
関連国際規格 関連国際規格は,附属書 B 図 1 に示す規格チェーンに含まれる規格である。
附属書 B 図 1
8
B 0632 : 2001 (ISO 11562 : 1996)
附属書 C(参考) 参考文献
1.
TR B 0007
製品の幾何特性仕様
(GPS)
−マスタープラン
備考
TR B 0007
は,ISO/TR 14638
: 1995 [Geometrical Product Specification (GPS)
−
Master plan]
と一
致している。
2.
VIM-International vocabulary and general terms in metrology, BIPM, IEC, IFCC, ISO, IUPAC, IUPAP, OIML,
2nd edition, 1993.
粗さ関係
JIS
原案作成委員会 構成表
氏名
所属
(委員長)
◎
塚 田 忠 夫
明治大学理工学部
(幹事)
*
谷 村 吉 久
通商産業省工業技術院計量研究所
(委員)
*
荒 井 正 敏
株式会社東京精密
*
加 納 孝 文
株式会社ミツトヨ
*
桑 田 浩 志
トヨタ自動車株式会社
*
坂 野 憲 幾
通商産業省工業技術院計量研究所
*
笹 島 和 幸
東京工業大学情報理工学研究科
佐 藤 隆
株式会社東芝
野 口 昭 治
日本精工株式会社
橋 本 進
財団法人日本規格協会技術部
八 田 勲
通商産業省工業技術院標準部
太 箸 孝 善
石川島播磨重工業株式会社
*
宮 下 勤
テーラーホブソン株式会社
*
宮 本 紘 三
株式会社小坂研究所
*
柳 和 久
長岡技術科学大学
(事務局)
杉 田 光 弘
財団法人日本規格協会技術部
増 森 かおる
財団法人日本規格協会技術部
備考
◎印は
WG
主査,*印は
WG
委員兼務を示す。